シナリオ詳細
<オンネリネン>幸せに向かう馬車
オープニング
●希望に至る旅路
悲劇などはどこにでも転がっている。親を亡くした子。親に売られた子。攫われた子。帰れなくなった子。
そう言った子供たちは、どこへ行くのだろうか? 運が良ければ、教会などに保護され、孤児院に送られるだろう。そうでないものは?
天義の街道を、一台の馬車が行く。御者台には、大人の男と一人の少女。周囲には15名ほどの少年少女たちがいて、その誰もが武装していた。馬車の中には、みすぼらしい服をきた5名の少年少女たちがいて、その誰もが、不安げな表情を浮かべ、馬車の床を見つめている。
「心配することは無いよ」
と、御者台から馬車内に顔をのぞかせる少女。
「わたしね、ヘルヴィ。オンネリネンでお世話になってるの」
「おんねりねん?」
馬車の少年が尋ねる。ヘルヴィと名乗った少女は、にこやかに笑った。
「アドラステイアにあるお家よ。皆みたいに、元のお家に帰れない子達が集まってるの」
「孤児院……みたいな所?」
「そんなかんじ! そこでね、これから皆きょうだいや、家族として暮らすのよ」
「家族?」
と、馬車の中の少女が尋ねる。
「そう! マザーやティーチャー、そしてわたしたち。皆家族なの。家族のために一生懸命働いて、お金を稼いで、みんなでしあわせにくらすのよ!」
ヘルヴィは優しくそう言うと、少女の頭を撫でた。
「だから、そんなに不安そうな顔をしないで。今度は誰も、皆を捨てたりしない。傷つけたりしない。わたしたちはきょうだいで、家族。これからずっと、ずっと一緒に暮らすのよ」
その言葉に、馬車内の子供達の表情が、些か明るくなる。不安が、家族という言葉によって薄らいで、子供達の心に希望が浮かんでくる。
「あのね、オンネリネン、って、幸せ、って意味の言葉なんだって。マザー・カチヤがつけてくれたの。私たちは、幸せになれるわ! 今度こそ、絶対にね!」
励ますヘルヴィの言葉に、子供たちは頷いた。ヘルヴィは御者台に向き直ると、
「ティーチャー・クルト。わたしも護衛にうつるわ!」
と言う。御者台の男、ティーチャー・クルトは微笑を浮かべて頷いた。
「ええ、よろしくお願いします、ヘルヴィ」
「ええ!」
ヘルヴィが御者台から飛び降りる。とと、とたたらを踏んでから姿勢を取り直して、腰に佩いた剣の柄を撫でた。馬車に随伴して歩くヘルヴィの姿をしり目に、
「幸せな、ね。何も知らないのは幸せだろうよ」
クルトはさげすむような目で、そう呟いた。
●絶望に至る旅路
「悪いが、少しばかり緊急の依頼だ。先日、人目を避けるように天義の南の街から、馬車が出発した。何でも、孤児だの奴隷だのの子供をを引き取って、孤児院に連れて行くというらしい」
天義国、ローレットの出張所。集まったイレギュラーズ達へ、サントノーレ・パンデピス(p3n000100)はそう告げた。
「ご立派な理由だ。それが事実なら、ご苦労さん、頑張ってくれって所だが……当然ながら、こいつ等の言うことは嘘だらけだ。
目撃者によれば、馬車の主の男は、護衛に子供を使っていたらしい。子供を使う奴ら……そう、アドラステイア関連だ。その中でも、こいつ等はオンネリネンに属する連中だ」
オンネリネンとは、ここ最近に活動を開始した、アドラステイアに属する「子供たちだけの傭兵部隊」だ。大人に騙され、家族ときょうだいの絆で繋がれた孤児たちは、他国に傭兵として派遣され、使い潰されている。
「今回のこいつらの目的は、子供達の補充だ。嘆かわしいが、孤児なんてのは探せば見つかる。そういう子供を連れ帰って、アドラステイア本流に洗脳するもよし、オンネリネン用に洗脳するのもよし、ってのが目的だろう」
吐き捨てるように、サントノーレは言う。子供は、アドラステイアにとっては貴重な労働力だ。折を見て、こうして補充しているのだろう。
「今回の作戦の目的は、この『連れて行かれている子供達』の救出だ。イレギュラーズなら、奴らの道程を先回りできるだろう。待ち構えて、馬車を襲撃してほしい」
サントノーレは、天義の地図を取り出した。その上で、街道の一点を指さす。
「襲撃するには、この辺が適してるだろう。街道の左右には森があって待ち構えやすい。道もあまり整備されてないから、馬車も急には速度をあげられない……つまり、逃げられづらいわけだ。
ただ、敵はオンネリネンを護衛につかっている。相手は子供達だ。生死は問わないが……まぁ、出来れば助けてやってほしい。こいつ等も、被害者だからな」
それから、とサントノーレは言う。
「率いているのは、ティーチャー・クルトという大人だ。当然、オンネリネンも使う側の外道だよ。こいつの生死はそれこそ問わない。きついお仕置きをしてやってくれ」
さて、とサントノーレは言って、手を叩いた。
「情報は以上だ。どうする、やるか?」
サントノーレがそう言うのへ、イレギュラーズ達は力強く頷いて返した――。
- <オンネリネン>幸せに向かう馬車完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●行き先は何処へ
かた、かた、かたん。車輪が回る。子供たちを連れて馬車が行く。
舗装の荒れ始めた街道、森を突っ切る形で作られたそこは、当然のように左右にうっそうと茂る森で囲まれた、人気の少ない街道だ。
御者台に座る男=ティーチャー・クルト。アドラステイアに所属する大人の一人。この馬車はアドラステイアの所属であり、向かう先はこの世の地獄の一つ、と言うわけだ。
とはいえ、子供たちはそうは思ってはいない。洗脳された子供達=オンネリネンの護衛の下、馬車の中にはまだアドラステイアの思想に染まっていない子供達の姿がある。オンネリネンたちにとっては、「家族と過ごせる幸せな場所」として刷り込まれており、その心に罪悪感のようなものは無い。いっそのその方が哀しいが、それを正す大人は、彼らの前にはいない。
「ここは見通しが悪い。警戒をしっかりとしてくださいね、ヘルヴィ」
クルトがそう言うのへ、ヘルヴィと呼ばれたオンネリネンの少女は手をあげて頷いた。
「はい! ティーチャー!」
子供達があたりへ視線を送る。そんな馬車を追うように、空には一羽の小鳥が飛んでいた。小鳥は何かを確認するように大地を見つめると、すぐにくるり、と円を描くように飛ぶ。それは、仲間達への合図であった。
――刹那。森の中から何か、光が奔る! 光は魔力の砲撃。鋭く、すべてを貫くそれが、馬車の車輪を撃ち貫き、小さい爆発と共に脱輪させる!
「な、あっ!?」
ぐらり、と揺れる馬車に、御者台のクルトが悲鳴をあげる。それと同時、森の左右から飛び出してきた影が、馬車を囲むように布陣する!
「子供達を返してもらう!」
その影の一人、マルク・シリング(p3p001309)はその手をかざすと、裁きの光を撃ち放った。悪しきを貫く光が、クルトと、護衛の子供たちを打つ。子供達が悲鳴をあげつつ、しかしすぐに、
「敵よ! 構えて!」
と言うヘルヴィの声に、陣形を立て直す。
(まったく、急な奇襲に混乱しないのは、傭兵としては感心するけど、それを子供たちがやるって言うのは……!)
複雑な心境、関心と、大人への嫌悪を、マルクは抱いた。
「なんだ、お前達は!? 子供をさらうつもりか!?」
「堂々とそう言えるとは。面の皮が厚い、とはこのことでしょうかねぇ」
『青き砂彩』チェレンチィ(p3p008318)は呆れたようにそう言うと、手にしたナイフを鋭く振るった。鋭い斬撃が、残された馬車の車輪を切り裂き、再起不能にする。
「よし、Я・E・Dの魔砲と合わせて、これで馬車は無力化しました。もう逃げられませんよ」
チェレンチィが言う。どうやら、先ほど馬車を砲撃したのは、『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)であるようだ。とうのЯ・E・Dはクルトに視線をやりつつ、
「悪いけど貴方を逃すつもりは無いよ。
生きていても死んでいてもどっちでも良いから、死ぬ前に降伏するのをお薦めするかな」
そう言い放つ。クルトは忌々し気にЯ・E・Dを睨みつつ、
「子供達よ、魔女の、ローレットの襲撃です!」
そう言った。
「アドラステアに迎える子供たちを、地獄に連れ戻そうというつもりです! 許しては置けません!」
「わかったわ! ティーチャー・クルト!」
ヘルヴィが言う。
「みんな、悪い大人たち……ローレットよ! 今まで帰ってこなかった家族のかたきでもあるわ! やっつけるわよ!」
『おー!』
ヘルヴィの言葉に、子供達が鬨をあげる。
「情報通り、悪い噂を吹き込まれているようですねぇ」
「悪い噂? 事実でしょ! 家族のかたき、ぜったいにゆるさないんだから!」
ヘルヴィは細剣を抜き放つと、一気に駆けだした――が、その前に一人の剣客が立ちはだかる。剣客の放った刃は、閃光のごとく一筋の光となってヘルヴィに襲い掛かった。ヘルヴィは慌てて細剣を構えると、その一撃を何とか受けて見せみせる。
「突然ごめんなさいね、一身上の都合で襲撃させて貰うわ」
剣客――『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)が静かに声をあげる。
「今のを受け止めるのは、中々筋がいいわね。貴方が、自らの意思で剣を取り、その域まで達したのでしたらよかったのですけれど。
剣を持つことを選んだのではなく、剣を持たされたのであれば。剣を捨てる事を選ぶこともできるわ」
「……むずかしい事はわからない! けど、わたしが戦うのは家族のためよ!」
「そう。経験上、今の貴方達に、言葉は届かないと知っているわ。だから、ごめんなさい。少し痛いわよ」
小夜が刃を抜き去り、ヘルヴィに迫る。切り結ばれる、細剣と白杖――小夜の仕込み刀。腕の差では、はるかに小夜に分があるのを、ヘルヴィは使命感や気迫のようなもので追いすがる。
「りーだーがやられちゃう!」
「たすけなきゃ!」
子供達が手に武器を取り、動き出す――が、その前に立ちはだかる、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)と『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)!
「こっちだ、子供達!」
イズマが叫ぶ。
「悪いけど、しばらく俺と遊んでもらう……俺は加減が苦手なんだ、出来れば降伏してほしいけど……!」
「彼らは降伏はしないだろう」
稔が言った。
「……残念だが、無力化するしかない。酷い脚本だ。脚本家の素質を疑うね」
「手伝ってくれ。俺だって、別に子供の未来を奪いたいわけじゃない」
イズマの言葉に、稔は頷いた。
「分かっている。演者とて、脚本に逆らう権利はある」
稔、イズマ。構える二人に、子供達の雪崩が襲い掛かる――。
一方、クルトは状況に舌打ちを一つ。
「くそ、ガキどもはあっちで手一杯か……こうなったら、連れてきたガキどもを盾に……!」
呟き、荷台に顔を向けようとした刹那、迎えたのは真っ白な骸骨(スケルトン)の顔だった!
「なぁっ!?」
声をあげるクルトに、スケルトン――『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)は、カタカタとあごを震わせた。
「ごきげんよう! そして、吹っ飛びたまえ!」
ヴェルミリオが腕を突き出す。同時、放たれた衝撃術式が、クルトを御者台から突き落とす。うお、と悲鳴をあげたクルトが、無様に地を転がるを視つつ、ヴェルミリオは荷台をのぞきこみ、中の子供たちを見やった。
「え、ええっ!?」
子供達が驚愕の表情をするのへ、ヴェルミリオはにっこりと――骸骨に表情と言うのは奇妙だが、そうとしか言えぬ雰囲気だ――してみせた。
「おおっと、スケさんの顔が怖いと思われてしまっても仕方がありませんな! 言いたいことは一つ、外は少々騒がしい。ので此処で静かにお待ちを! よろしいですかな?」
子供達がこくこくと頷くのへ、ヴェルミリオは再びにっこりとしてみせると、ぴょん、と御者台から飛び降りた。馬車を背に、クルトを近づけぬようにけん制する。
「未来ある子供を地獄へ引き込もうとは、感心いたしませんぞ!」
「ちっ、お前は未来のなさそうな顔をしているが――」
クルトの暴言に、ヴェルミリオは笑う。
「これは一本取られましたぞ! まぁ、こう見えても生きておりますが故、それは失礼と言うもの。我が名、朱色の篝火のごとく、スケさんは未来を照らしましょう」
「詰まる所、子供たちを利用させたりはしないって事だよ」
マルクが言う。
「これ以上、あんな絶望に溢れた世界に、もう誰も連れて行かせはしない」
「ふん……仮初でも幸せと希望がある分ましだと思うがね!」
クルトは腰に佩いていたロッドを取り出す。術式を詠唱するや、猛烈な火炎が、イレギュラーズ達を薙ぎ払うように放たれた。
「くっ……流石に強烈な術式を使うようですね」
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は言いつつ、後方に跳躍。炎を回避。
「一応聞いておきますが、降伏を勧告します。
まぁ、こちらとしては貴男の生死は問題にしていません。
死体に話を聞く方法などは心得ておりますので」
「さっきも言ったけど、本当に、わたしたちはどっちでもいいんだよね」
Я・E・Dが言った。
「まぁ、好き好んで人を殺したいわけでもないから、降伏してくれた方が楽。だから、そっちをお勧めするけど」
「自分の心配をしたらどうだ、魔女どもめ!」
続くクルトの攻撃は、鋭い氷柱を生み出し打ち付ける魔法だ。飛翔するナイフのごとく斬撃がイレギュラーズ達を襲う。
「しょうがないですねぇ。
大人の思惑に、子供が利用され、消費されていく……というのは、ボクにとっても、ええ、まったく気分のいい話ではありません。
悪い大人には痛い目見てもらいますよ、ティーチャー」
チェレンチィの言葉を合図に、イレギュラーズ達は反撃へとうつった!
●分かれ道
剣戟の音が響き、魔術がさく裂する音が響く。そのたびに森は揺れ、木々は揺れ、動物たちが逃げ惑う。
イレギュラーズ達とオンネリネンたちの戦いは激しさを増し、その余波を受けた馬車が揺れる。
「ど、どうしてこんなことになってるの……!?」
荷台の中でうずくまりながら、少女が言った。
「わかんない、けど……!」
少年が言う。もう一人の少年は涙目になりながら、
「幸せな場所へ行くんじゃなかったの? もうわけがわかんないよ……!」
その想いは、連れてこられた子供たち誰もが共有する思いだった。地獄から救い上げると約束された手。それは偽りだったと彼らは言う。彼らはローレットの所属であったはずだから、その言葉は真実なのだろう。
「僕たち、これからどうなるのかな……」
呟く少年の言葉に、子供たちは押し黙った。
そのような葛藤が繰り広げられる中、外での戦闘は続いている。
「魔法隊! いっせいこうげき!」
剣士の少年の言葉に応じて、魔法使いの子供達が一斉に火炎術式を解き放つ。メテオのごとく降り注ぐ火の玉を、イズマは細剣で切り払いつつ、
「わかっているけど、あっちは容赦がないな!」
近くに着弾した炎の爆風から身をかわすべく飛びずさる。斬り込んできた剣士の少年の刃。振り下ろされたそれを紙一重で交わすと、細剣を振るい、その身体を切りつけた。
「……死ぬんじゃないぞ!」
加減は出来なかったが、本心ではあった。物量ではイレギュラーズ達を上回る子供達の攻撃に、イズマ、そしてTricky・Starsは押されていく。
『くそっ、流石に数が多いけど……!』
虚が声を上げた。
『諦めてらんないな! うちの奴と約束したんだ! みんな助けてやるってな!』
虚は終焉の帳を解き放つ。紫の闇が子供たちを包み、その侵蝕する闇で内部に衝撃を与えた。幾人かの子供達がようやく意識を手放す。
一方で、小夜はヘルヴィと切り結ぶ。他の子供達の援護攻撃が小夜の足を引っ張っていて、実力に劣るヘルヴィと五分を演じることとなっていた。
「このまま続けても取り返しのつかないことになるだけよ」
小夜が静かに言う。
「それに今なら倒れてる子達もきっと最悪なことにはならない、だから……」
「うそつき!」
ヘルヴィが言った。
「そうやってごめんなさいした子を、皆殺したって聞いてるわ!」
「……それこそ、嘘吐きの言葉よ。そう言っても、聞いてはくれないのかしらね」
小夜はふぅ、と息を吐き、刃を構える。
「どうか考えて。貴方みたいな子供が、家族を養うために人を斬る。斬られてもそれを良しとする。そんなことを言う大人が、本当に正しいのか」
「……だって、他に、わたしたちが生きる道なんて……!」
「あるわ。貴方には、まだそれが見えていないだけ。それを見ないまま命を失うほど、悲しい事は無いでしょう?」
「う、ううっ!」
ヘルヴィが駄々をこねるように、細剣を振るい、飛び込む。先ほどよりは鈍くなったその刃を、小夜は受け止めた。
「くそっ、ガキどもめ、使えない奴らだ……!」
追い詰められたクルトが、氷の術式を撃ち放つ。ナイフのような氷が飛び交い、ヴェルミリオの身体を貫いた。衝撃が意識を刈り取るとするのを、心の中の篝火が食い止めてくれる。
「それが本音ですな!? 子供達の未来を何だと思っておりますか!」
ヴェルミリオが衝撃術式を撃ち放つ。衝撃に後ずさりしつつ、クルトは吠えた。
「未来だと! あのガキどもに未来などあるか!」
「まったく、おぞけの走るほどに邪悪って奴ですね!」
一息に接敵した、チェレンチィの斬撃が奔る。鋭い一撃が、クルトのカソックを切り裂いて、胸に深い傷を負わせた。
「ひ、ひいっ!」
「子供達に死を強要する癖に、自分の死には敏感と見えますね!
まぁ、そうでしょう。命令する奴らなんてのは、えてして自分たちのことしか考えないものです!」
そのまま蹴りつける。クルトがぐえ、と悲鳴をあげた刹那、間髪入れず瑠璃が接敵。
「先ほども言いましたが、あなたに関しては、加減をしてあげる意味を見出せませんので――」
鋭く斬り払われる刀が、クルトの胸を再び切り裂いた。ぐえ、と痛みに悲鳴をあげたクルトが、そのまま意識を失い、ひっくり返る。瑠璃は嘆息した。
「……外道ほど、命を拾うものですね。ままなりません」
どうやら、命を奪うほどではなかったらしい。
「よし、こっちは片付きましたね?」
チェレンチィが言う。
「すぐにオンネリネンを無力化しましょう。説得を聞いてくれるかは怪しいですけど?」
「それでも、声をかけることに意味はあるでしょう」
瑠璃が言う。
「今ではなく、戦いが終わった後で。言葉は決して、無駄にはならないはずです」
「てぃーちゃーがやられたの!?」
剣士の少女が声をあげるのへ、接敵したЯ・E・Dが衝撃術式を放つ。吹き飛ばされた少女が気に叩きつけられ、そのまま意識を失った。
「……さて、大人はやっつけた。あなた達はどうする?」
Я・E・Dは言う。
「教えてあげる。あなた達が向かう先は地獄。アドラステイアは、オンネリネンは、そんないい所じゃあない。
ここで降伏してくれると嬉しい。その方が、あなた達も幸せだと思うから」
「だまされちゃだめよ!」
ヘルヴィが叫んだ。
「ヘルヴィ。君は本当に、この子供達をアドラステイアに連れて行くことが幸せだと思っているのかい?
子供達が危険な労働を強いられ、異端審問で崖から落とされていくあの街に」
マルクが、諭すように言う。ヘルヴィは、虚を突かれたようなかを刹那、
「そ、そうならないように、わたしたちがお金を稼ぐの!」
「もっと外の世界を見るんだ。君達が手を血に染めなくても、幸せに暮らせる場所がある」
「う、うそよ! この子達も、わたしたちも、外でずっと苦しんできた……!
少なくとも、わたしたちは家族と、きょうだいと一緒にいられる! それは、幸せな事でしょう!?」
「幸せ、か。君達の口からその単語が発せられる度に溜息が出そうになるよ」
稔が残念そうに言う。
「……私達も、あまり余裕がないから。これで最後にするわ……生きて頂戴、
貴方達は互いを家族と言うけれど家族には生きていて欲しいと思うものではないの?
……少なくとも私は家族と共に生きたかった」
「おねえさん、も? なにかつらいことが……?」
ヘルヴィはうつむいた。戦えるオンネリネンの子供達の数も、少ない。ヘルヴィは、ゆっくりと頷くと、
「残ったみんなは、こうさんして。もしかしたら……生きて帰れるかもしれないから」
「信じるの? 魔女を?」
子供達がそう言うのへ、ヘルヴィは頭を振った。
「……わかんない。でも、このおねえさんも、辛そうで……それはうそじゃないって、思う。でも」
ヘルヴィが細剣を構えた。小夜を見据える。
「わたしはリーダーだから、ごめんなさいは出来ないの。おねえさん、ごめんね。ごめんね」
鋭く地を踏み、駆けだす! 小夜は刀を構えた――これよりは修羅。斬らねばならぬ。そう決意した瞬間、
虹のごとく輝く雲が、ヘルヴィ包み込んだ。それがぱちり、と輝いた刹那、ヘルヴィの意識は狩られ、勢いのままつんのめる。それを察した小夜が、ヘルヴィを優しく抱き留めた。
「余計でしたか?」
と、雲を放った主……瑠璃が言うのへ、
「いいえ。有難う」
と、小夜は言った。
「お、俺は……ただの、オンネリネンの下層支部の一つで使いぱっしりをやってただけだよ!」
と、縛り上げられたクルトが言う。Я・E・Dの用意した馬車に子供たちを移送しつつ、その影でクルトへの尋問が行われていた。尋問と言っても、殺しても構わない、と言う事をすでに伝えてある以上、クルトは情報をぺらぺらとしゃべりだしていた。
「あ、アンタらはたぶん、もっと上の方を知りたいんだろうが……上層部は俺にもわかんないんだ! ほんとだ、信じてくれ!」
「嘘を言ってるようには見えないね」
イズマが言う。
「ふーむ、嘘でしたら、スケちゃんの友達になっていただきますぞ?」
と、カタカタと歯を震わせるヴェルミリオ。クルトは悲鳴をあげると、「ほんとだ、信じてくれ!」と繰り返した。
「まぁ、あとは天義の騎士辺りに引き渡して終わりだね」
Я・E・Dの言葉に、皆は頷いた。
「で。貴方達がこれから行く所は……まぁ、悪い所じゃないはずですよ」
と、チェレンチィは、馬車の子供達へと向けて、そう言った。
「今度こそ本当に……幸せになれるかは貴方達次第ですけど? ま、その方が健全ってもんですよ」
チェレンチィの言葉に、子供たちは不思議そうな顔をしつつ、頷いた――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
子供たちは救われ、オンネリネンの子供達も、怪我こそしたものの命を落としたものはいなさそうです。
クルトは天義の騎士に拘束され、子供たちは施設へと預けられました。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
子供たちを、救出しましょう。
●成功条件
『連れて行かれた子供達』の救出。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
孤児となった子供たちを連れて行く馬車。それは、労働力である子供たちを補充するため、アドラステイアのオンネリネンが放った馬車でした。
首尾よく孤児たちを手に入れたオンネリネンたちは、アドラステイアへ向けて街道を移動中です。
みなさんは、この行く手に先回りし、連れて行かれた子供達の救出を行ってください。
皆さんが待ち伏せに使う街道は、左右が森に囲まれた、長い一本道になっています。足元はあまり整備されておらず、馬車も急には速度を出せないでしょう。
作戦の決行タイミングは昼になっています。明かりなど、戦闘ペナルティは発生しません。
●独立都市アドラステイアとは
天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia
●『オンネリネンの子供達』とは
https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1
独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供達で構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。
活動範囲は広く、豊穣(カムイグラ)を除く諸国で活動が目撃されています。
●エネミーデータ
ティーチャー・クルト ×1
オンネリネンを扇動する『大人』の一人です。現場に出張っている以上上層部の所属と言うわけではなさそうですが、それでも子供たちを洗脳し、いいように使う悪人であることだけは確実です。
術士タイプであり、神秘属性を用いた攻撃を得意とします。『火炎系列』『凍結系列』のBSに注意。
ある程度時間がたつと、オンネリネンの子供たちを見捨てて、馬車を走らせ逃げる傾向にあります。
ヘルヴィ ×1
オンネリネン所属の女の子。茶色の髪の、笑顔が素敵な元気な少女。
このチームのリーダーとして、他の傭兵たちを引っ張ります。
細剣を利用した、命中と回避、EXAが特徴。手数の多い攻撃に注意。
オンネリネン傭兵 ×14
少年少女で構成された、子供達の傭兵です。
前衛が9、後衛が5、という構成で動いています。
数が多く、チームワークは抜群です。一気に袋叩きにされると辛いかもしれません。
●救出対象
連れて行かれた子供達 ×5
オンネリネンに連れてこられた孤児たちです。本人たちは、これから新しい孤児院で幸せに暮らすのだと信じています。
戦闘には参加したりしません。オンネリネンの子供達も、彼らを人質にしたりはしないでしょう……クルトはどうだかは解りませんが。
ちなみに内訳は、少年が3人、少女が2人です。馬車の中から出てきません。意図的に狙ったりしない限り、戦闘に巻き込まれることもありません。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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