PandoraPartyProject

シナリオ詳細

P・P・D・ドロップの脱走。或いは、暴食悪食の鉄喰い獣…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鉄喰獣
 鉄帝国のある小山。
 岩肌も剥き出し、草木も生えぬその小山に“ソレ”は住んでいたという。
 時折、地上に降りてくるらしいそれを見た者は、以下のように語る。
 曰く、その生き物は熊のような姿をしていた。
 曰く、その生き物は白と黒の体毛を備える。
 曰く、その生き物は立てば全長4メートルほどと非常に巨躯で、ずんぐりとした手には鋭い爪が生えている。
 曰く、その生き物は数年に1度ほどの頻度で街に降りて来て、鉄を食い漁る。
 曰く、義肢を喰われた者もいる。
 被害にあった街の住人たちが過去には討伐を試みたこともある。
 しかし、険しい自然に阻まれて、討伐は結局失敗に終わった。
 以来、十数年……未だに街では、時折それ……通称“鉄喰い獣”の襲来に怯えながら、いつも通りの日々が続いていた。
 “いた”と過去形で語るのは、つい先日にとうとうソレが捕縛されたからだ。

 檻の中に1人の獣が捕まっていた。
 妙に丸いシルエット。
 頭の上には小さな耳。
 ずんぐりと太い両の手足。
 白と黒のツートンカラー。
 そして、よくよく見れば鋭い瞳。
 彼女の名はP・P・D・ドロップ。
 見ての通り、パンダの獣種であるのだが、その外見は鉄喰い獣に酷似していた。
 サイズとしては二回りほど小さいが、かつて鉄喰い獣に義肢を喰われた男が「あれが俺の腕を喰らった」と言ったため、街人たちは彼女が鉄喰い獣であると認識している。
 その結果、P・P・D・ドロップは街人たちに捕まって、こうして檻に入れられているというわけだ。
「待て。話せばわかる。私は私よりも強い者に逢いに来ただけだ。こうして檻に入れられるようなことは何もしていない」
 そう弁解するドロップだが、街人たちは聞き入れない。
 魔物の言葉に耳を傾け破滅を迎えたなんて話は、古今東西、あらゆる土地で聞き飽きるほど伝わっている。
 本当のところ、ドロップはこの街へ武者修行の途中で立ち寄っただけなのだ。
 つまり、完全な誤解、濡れ衣である。
 しかし、だからといってドロップに一切の責任が無いとも言い切れない。
「あれか? 何人か殴り倒したのが悪かったのか? だとしたら謝……いや、謝らん! あれは真剣勝負であった。その結果、例え大怪我をしようとも、例え命を失おうとも、そこに謝罪や遠慮があってはならんのだ!」
 おまけに彼女、ドロップは、街に付くなり武闘家2人と剣士を2人、病院送りにしてしまっている。
 ドロップが言うには、それは真剣勝負の結果であるそうなのだが、当の男たちは病院に送られ暫く意識は戻りそうにない、となれば真偽のほどを確かめる術はない。
 その気になればドロップは、獣の姿から、人獣姿へ変化できるのであるが、そうすると素っ裸になってしまう。
 武闘家とはいえ若い身空の女であれば、衆人環視の中で諸肌晒すことは流石に躊躇われるらしい。
「だいたい、その鉄喰い獣とやらは【防無】や【ブレイク】【封印】のついた力強い攻撃を行うということだろう? 一方私はどうだ?」
 後ろ手に縛られたまま、ドロップは吠える。
 白と黒に塗り分けられた丸っこい頭をこてんと可愛らしく傾げてみせた。
 しかし、仕草はともかくとしてその眼差しは鋭いものだ。
 檻を囲む街人たちは、思わず1歩後ろに下がる。
「……出来るな。加えて、連続攻撃も得意だ、私は。いかな獣が相手とて遅れは取らん」
「だからお前が鉄喰い獣なんだろうが。しばらくそこで大人しくしてろ! 近いうちに、どう処分するか決まるからな!」
 なんて、それだけ言い残した街人たちはドロップの檻から離れていった。
 男たちがすっかり見えなくなったころ、ふむ、とドロップは吐息を零す。
「逃げるか。本物の鉄喰い獣を捕えれば、私の疑いも晴れるだろう」
 
●P・P・D・ドロップの逃走
「皆さん、大変です。P・P・D・ドロップさんが逃げ出しました」
 困りました、と顔を曇らせ『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はため息を零す。
「さらに件の鉄喰い獣の出現も確認されました。えぇ、と状況は少し複雑なのですが……」
 ドロップの逃走。
 そして、捕縛するための狩人部隊の出動。
 さらに、本物の鉄喰い獣の出現。
 以上3つが、それぞれの思惑でもって行動している。
「街があるのは小山の麓です。山の形に添うように、西から東へ長く伸びているのが特徴ですね」
 街には大小合わせて3つの通りがある。
 1つは中央大通り。そして山側の第二通りと、反対側の第三通りだ。
 そんな中、まず狩人部隊は4人ずつの2班に分かれ、街の中央付近から西方向へ進行中。
 一方、鉄喰い獣は町の東側に現れ、美味そうな鉄を探して歩いているらしい。
 そして、逃亡したP・P・D・ドロップはというと西区のどこかに潜伏していることが確認されている。
 つまり、狩人部隊は鉄喰い獣ではなくP・P・D・ドロップを狩りに向かっているのである。
「狩人部隊の使う弾には【呪縛】や【致命】の効果が付与されているのです。それでドロップさんを狩るつもりですね」
 狩人部隊の目的は、街の平和を守ること。
 1度逃げ出したドロップに対し、もはや何ら遠慮をすることはないだろう。
「ドロップさんはドロップさんで、捕まらないよう必死なのです。抵抗もそれなりに激しいものとなるでしょう」
 加えて、彼女は生来“闘う”ことが大好きだった。
 挑戦されれば快くそれに応じ、そして打ち勝ってきた。
 強そうな者を見かければ、所かまわず勝負を持ちかけることもある。
 実際、逃亡を開始して以降もドロップは数度、ストリートファイトを展開していた。
「現在、鉄喰い獣の出現に気づいている人は少ないのです。それどころか、西区で行われるであろう狩りに巻き込まれないよう、少しずつ東へ避難を開始しているそうです」
 このままでは、街の住人たちが鉄喰い獣と遭遇してしまう。
「鉄喰い獣を討伐、もしくは捕縛すること。P・P・D・ドロップさんを街から無事に逃がすこと。以上は今回の任務の内容ですね」
 好戦的なドロップが、大人しく指示に従ってくれるとは限らない。
 場合によっては、幾らかの戦闘が必要になる場合もあるかもしれない。
 言って分からないのなら、殴って理解らせるしかないのだ。
「それと、街や人に大きな被害を出さないようにお願いするです」
 そう言って、ユリーカは仲間たちを送り出す。

GMコメント

●ミッション
①P・P・D・ドロップを街から脱出させる。
②鉄喰い獣の捕縛、もしくは討伐。


●ターゲット
・鉄喰い獣×1
妙に丸いシルエット。
頭の上には小さな耳。
ずんぐりと太い両の手足。
白と黒のツートンカラー。
そして、よくよく見れば鋭い瞳。
まっすぐに立てば4メートルほどの巨体。
鉄を喰うパンダに似た魔獣。
街の東側に出現。

鉄喰い:物近単に大ダメージ、防無、ブレイク、封印
 力強い殴打。鋭い爪が備わっており、特に鉄は殴打後に喰おうとする。


 P・P・D・ドロップ×1
パンダ・パニッシュ・デス・ドロップ。
もちろん偽名。
一見すると2足歩行のパンダであるが、性別はどうやら女性のようだ。
鉄喰い獣と勘違いされ逃走中。
本物の鉄喰い獣を探している。
また、生粋のバトルマニアであるらしい。
街の西側に潜伏中。
※人獣に変化できるが、衣服を街人に奪われたためパンダ状態のまま行動中。

PPD・ナックルパート:物近単に中ダメージ、連、封印、ブレイク
 的確に急所を打ち抜くパンチのラッシュ。

PPD・ドロップ:物至単に特大ダメージ、必殺
 相手の腰を両腕で抱え、後方へと反り投げる。
 或いは、頭から地面に叩きつける大技。


・狩人部隊×8
街人の中でも腕利きの猟師で編成された部隊。
4人ずつのチームに分かれて、街の西側へ進行中。
【呪縛】や【致命】の付与された弾丸を武器として用いる。


●フィールド
鉄帝国のとある街。
街の北側には岩山。そこが鉄喰い獣の住処らしい。
山の形に添うように、西から東へ伸びた形状をしている。
街には3つの通り。
一番広く見晴らしの良い中央大通り。
山側の第二通り。
反対側の第三通り。
鉄喰い獣は東側に出現。
P・P・D・ドロップは西側に潜伏中。
狩人部隊は西側へ向け進行中。
街の住人たちは、東区へ向け避難中。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • P・P・D・ドロップの脱走。或いは、暴食悪食の鉄喰い獣…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
日車・迅(p3p007500)
挫けぬ軍狼
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
オライオン(p3p009186)
元神父
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート

リプレイ

●獣は東へ、パンダは西へ
 白と黒の体毛に、ずんぐりとした太い手足。
 鋭い爪の生えた腕を『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)の肩へ向けて振り下ろす。
 鋼の拳を顔の前へかざし、エッダは獣の一撃を防いだ。
 ガキン、と重たい音が鳴る。
 瞬間、獣は笑うように口を開けた。並ぶ無数の鋭い牙が、唾液にぬらりと濡れている。
「っ!  フロールリジさん!!」
 パンダに似た魔物……鉄喰い獣の動向を見て『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が声をあげた。
 滑るようにオリーブは鉄喰い獣へと接近。
 その頭部へ向け斬撃を繰り出すが、鉄喰い獣は腕をあげてそれを防いだ。
 鉄喰い獣は、ほんの一瞬、エッダの拳とオリーブの剣の間で視線を彷徨わせ……。
 ばくり。
 エッダの拳へ喰らい付き、鋼の装甲を噛み千切る。
「……喰ったな」
 鉄喰い獣の口から腕を引き抜いて、エッダは腰を低く落とした。
 食いちぎった鋼を咀嚼しているその顎へ向け、叩き込むはアッパーカット。衝撃が顎から脳天へと突き抜け、鉄喰い獣の意識を揺らす。
 巨体が大きく仰け反った。
 瞬間、エッダの頭上を跳び越え赤雷がその頭部へ迫る。
 落雷のごとき衝撃。
その正体は『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の蹴撃である。
「住人は話を聞いてくれたでありますか?」
「どうにかね。先に私達が行って対処するって拝み倒した。でも、そう長くは待ってくれそうにないかも」
「鉄喰い獣から逃れるために移動していたのに、行く先にそれが居るなど聞かされてはな……まぁ、こういう状況をなんとかするのが俺達の仕事だ」
 そういって『元神父』オライオン(p3p009186)はチラと背後を振り返る。大通りの遥か先に松明の光が見えていた。
 住人たちの一部が様子を見に来ているのだろう。
「……もう少し、場所を奥へ移した方がいいか?」
 そういってオライオンはオリーブへと視線を向ける。
 その腕には灰で出来た鼠が1匹乗っていた。彼の喚んだ使い魔だろう。
 一つ大きく頷くと、オリーブは大上段に剣を振り上げ鉄喰い獣へと近づいていく。
「フロールリジさんの存在もありますから、多少は無理が出来ますね」
 一閃。
 オリーブの放った斬撃が、鉄喰い獣の胸に深い傷を刻んだ。

 一方そのころ、街の西側。
 夜の道を、静かに進む男たち。手にはライフル銃を構え、油断なく周囲を見回している。
「ぬぅ……行ったか。いや、参ったな……飛び道具とは相性が悪い」
 物陰から男たちの様子を伺い、そう言ったのはパンダの獣種。今回の騒動の発端である女武闘家、P・P・D・ドロップである。
 彼女はその容姿から、鉄喰い獣と勘違いされ危うく処刑の憂き目にあった。その後、逃亡したドロップだが、街人たちは未だ彼女の処刑を諦めていないのだ。
「疑われたままというのも業腹だ。しかし、本物の鉄喰い獣の居場所が……っ!?」
 独り言を途中で切り上げ、ドロップは自身の背後へ向けて拳を放った。
 気配を頼りに放つ裏拳。
 威力自体は大したことないが、牽制としてなら十二分に過ぎる。
 瞬きの間に顔へ迫るその拳を、ドロップはこれまで外したことはなかった。
 けれど、しかし……。
「なに!?」
「ひぃぃ……!! た、戦いに来たわけじゃないの……話を聞いてほしいの」
「血の匂いを頼りにここまで来ましたが、貴女がドロップさんで間違いないですね」
 ドロップの裏拳を受け止めたのは軍服を纏った青年だった。彼……『挫けぬ軍狼』日車・迅(p3p007500)の立ち姿から、ドロップは即座に彼の実力を知る。
 確かにドロップは手負いだが、それでも迅とは十二分に渡り合えると判断した。けれど、彼の背後に庇われた女の存在が、ドロップには気がかりだ。
 『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)。見たところ、ドロップに怯えているが、彼女からは得体の知れない不気味さを感じる。
「魔術師の類か? いいぞ。私は一向に構わん! 2対1でも問題はないし、矢でも鉄砲でも持ってこい!」
 タン、と地面を蹴って後退したドロップは、拳闘の姿勢を整えながらそう告げた。
 迅とドロップの間に緊張の糸が張り詰める。
 その糸がプツンと切れてしまえば、戦闘は避けられないだろう。
 事実、その瞬間が訪れるのをドロップは今かと待っていた。
 じり、と。
 すり足で1歩、ドロップは前へ踏み出して……。

『おぉい! 鉄喰い獣は東だ! 腕に覚えがある奴は東へ向かえ! ここはお前らの街なんだろ? ならテメェの手で守りたいもんを守ってみせろ!!』

「……何だと?」
 表の通りから響く、誰かの声にドロップは思わず拳を下げる。
 迅と奈々美を警戒しながら、ドロップは大通りへと視線を投げた。そこにいたのは、黒い大剣を担いだ男だ。
 彼……『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は、猟師たちを説得し、東へ向かわせようとしているらしい。
「どういうことだ? 何が起きている?」
「今、私の仲間が本物の鉄喰い獣を探し出してます。私達と戦ってる場合じゃないです。一緒に汚名を濯ぎに行きましょう」
 なんて。
 ドロップの問いに答えを返したのは、路地裏に現れた3人目……『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)その人だ。
 彼女の登場に、ドロップは思わず目を見開いた。
「ドロップさん、お久し振りです。私のこと覚えてますか?」
 微笑みかけるウィズィへ、ドロップは嬉しそうな笑顔を向けた。
 彼女のことは覚えている。
 以前、幻想を訪れた際、全力の喧嘩をした仲だ。
「覚えているとも! 久しぶりじゃないか!! よし、早速あの時の続きと行こう!」
 そう言ってドロップは低く腰を落として拳を顔の前に掲げて見せる。
 ファイティングポーズ。
 滾る戦意は十分だ。
「……私の話、聞いてました?」
 戦うつもりは無いのだと。
 呆れたようにウィズィは言った。

●白黒つけろ
「テメェの手で守りたいもんを守ってみせろ!!」
 突如として目の前に立った見知らぬ青年。
 彼の放った一言に、猟師たちはざわついた。
 テメェの手で守りたいもんを守ってみせろ。
 言われなくとも、端からそのつもりだ。家族を、友を、隣人を守るために8人の猟師隊はライフルを手に取ったのだから。
「言われなくともそのつもりだ。鉄喰い獣は俺たちが撃つ」
「なんのつもりか知らないが、道を開けてくれ。この辺りに鉄喰い獣が潜んでいるのは分かってるんだ」
「見たところ余所者のようだな。お前こそ東へ逃げておけ。この辺りには危険な獣が潜んでるんだ」
 次々と声をあげる猟師たち。
 そんな彼らを前にして、青年は困ったような顔をしていた。
 しかし、その場を退くつもりは無いらしい。何が狙いか分からないが、確固たる意思を持って、彼……ニコラスはこの場に立っているのだ。
 猟師たちとニコラスはにらみ合ったまま動かない。
 そのまま、数十秒ほど沈黙の時間が流れただろうか。
「あ、おい! 鉄喰い獣だ! 見ろ、東へ逃げるぞ!」
「撃て、撃て! 東へ行かせるな!」
 猟師の1人が、東へ向けて逃げる鉄喰い獣を見つけた。別の猟師がライフルを構え引き金を絞る。
「どうどう! おちつけおちつけって、な?」
 瞬間、慌てたようにニコラスが声を張り上げた。
 銃声が鳴る。
 それから、弾丸が何かにぶつかる音。
「あ? な、なんで?」
 困惑した声を零したのは、弾丸を撃った猟師であった。
 彼は、あろうことか鉄喰い獣ではなくニコラスへ向け、弾丸を撃ち込んでいたのだ。
「ありゃ鉄喰い獣じゃねぇよ。本物が東に出たんだ。なぁ、俺らと一緒に本物を討伐しにいかねぇか?」
 身体の前に剣を翳し、ニコラスは告げた。
 剣の腹で弾丸を弾いてのけたのだ。彼はどこまでも朗らかに、けれど確かな闘志の籠った声音でもって、ひと狩り行こうぜ、とそう言った。

 地面より伸びた無数の茨。
 まるで意思を持つかのように、それは鉄喰い獣の手足に巻き付いた。
「恨みがあるわけではないがこれも仕事でな。大人しく捕まってもらう」
 茨を操るオライオンは、手を翳したままそう告げた。
 手足を血に濡らしながら、鉄喰い獣は咆哮をあげる。オライオンの言葉に対する返答として、それ以上のものは無い。
 つまり“お断りだ”と、そう言うことだ。
 ギリ、と手足が膨らんで茨を無理やり引きちぎる。
「怪力だな」
 唸り声と共に鉄喰い獣は駆け出した。
 後退するオライオン。
 回避は間に合いそうにない。
 だが、オライオンは一切の恐怖を感じていない。
「すまない。頼んだ」
「おっけー、おーらい」
 オライオンと入れ替わるように、鉄喰い獣の進路に割り込む影が1つ。
 鋼の拳を腰の位置に構えた姿勢。
 エッダは鉄喰い獣の突進を真正面から受け止めた。
 鉄喰い獣の拳がエッダの頬を抉る。
 エッダの拳が鉄喰い獣の肘を撃ち抜く。
 その威力は、まるで砲弾の一撃だ。空気を震わす鉄喰い獣の雄叫びは、痛みに喘ぐ悲鳴に似ていた。
「ほら、喰いたきゃ喰うでありますよ。便利な自動再生機能付きでありますし! 羨しいだろ鉄騎種がよぉ!!」
 抉れた頬を手の甲で拭い、エッダは1歩、前へ踏み出す。

 鉄喰い獣の振るった腕が、マリアの膝を強く叩いた。
 痺れと痛みが骨を貫き、思わずマリアは姿勢を崩す。よろけたところへ、追い打ちをかける鉄喰い獣。爪による一撃がマリアの額を深く抉った。
「っつ!?」
 一瞬、意識が飛びかける。
 マリアは咄嗟に赤雷を纏い、地面を蹴って後ろへ跳んだ。
 直後、先ほどまでマリアの立っていた位置を鉄喰い獣の拳が砕く。
 一瞬、鉄喰い獣の動きが止まった。
 その隙を突き、正面にエッダが回り込む。地面に突き刺さったままの腕へ一撃拳をお見舞いし、かかってこいと挑発までしてのけた。

「っ……ええい! 厄介な攻撃手段を持っているね!」
「後手に回るのは悪手でしょうね」
 淡い燐光が降り注ぎ、マリアの傷をじくりと癒す。
 オライオンによる支援だ。
 顔を濡らす血を拭い、マリアはオリーブと視線を交わした。
「オリーブ君!」
「えぇ、火力を優先し、フロールリジさんが倒れる前に押し切ります」
 方針は決まった。
 次は行動に移すだけ。
 地面を蹴って、マリアは走る。
 一条、地上を迸る赤雷と化したマリアのすぐ後ろには、剣を構えたオリーブが続く。
まずは一撃。
 鉄喰い獣に肉薄し、その爪へ向け蹴りを打ち込む。
『ぐぅるぅぅぁぁぁ!!』
 砕けた爪が地面を跳ねる。
 マリアを追い払うように、鉄喰い獣が腕を振るった。
 爪を失ったとはいえ、その膂力は健在だ。
 マリアは胴を、エッダは首を打たれて地面を転がった。
「狩らせていただきます!」
 地面を転がるエッダの隣を駆け抜けて、オリーブは鉄喰い獣との距離を詰める。
 迎撃のため振り上げられる右の腕。
 しかし、爪は失われている。
「遅い!」
 オリーブが繰り出したのは、喉、胸、腹を狙った神速の刺突であった。鉄喰い獣が腕を振り下ろすより、剣の先が肉を穿つ方が速い。
 鮮血が噴き出し、白の体毛を赤に染める。
 傷を負いながらも、鉄喰い獣は拳を振るう。叩きつけるような一撃が、オリーブの肩を強打した。
「……もう少しだ。ウィズィたちがすぐそこまで来ている」
 茨を呼び出し、オライオンはそう言った。
 立ち上がったマリアとエッダは、左右から鉄喰い獣へと接近。その太い腕へ向け、鋼の拳と、稲妻を纏った蹴りを同時に叩き込む。

「鉄喰い獣だ!」
「逃げろ逃げろ!」
「狩人たちは何してるのよ!?」
 人の群れが悲鳴を上げた。
 押し合うように、もつれるように住人たちは通りの端へと非難する。
 そうして空いた空間を、鉄喰い獣ことドロップは一目散に駆け抜ける。その左右にはウィズィ、そして迅が並んだ。
「は……はひぃ、き、っつ」
 少し遅れて奈々美が後を追いかける。
「お、おいアンタ! そっち行くと危ないぞ!」
「だ……だいじょうぶぅ」
 住人たちより前に出て、奈々美はピタリと足を止めた。呼吸を整え、手にした杖を顔の高さに持ち上げる。
 杖の先端に紫色の魔力が灯る。
 それは次第に形を変えて、形成されるはハートの魔弾。
「前衛は皆に任せておいても楽勝でしょ……ふひ」
 引き攣ったような笑みを浮かべて、奈々美は魔弾を射出した。

 今まさに、エッダの腕を食いちぎろうとしていた鉄喰い獣の頬を紫の魔弾が撃ち抜いた。
 ハートの魔弾はごく小さなものだ。
 しかし、鉄喰い獣の隙を作るにはそれで充分。魔弾の飛んできた方へ、視線を向けた鉄喰い獣の眼前に、黒い拳が迫り来る。
『がぁっ!?』
「貴様が鉄喰い獣か! よい目つきをしているな!」
 両脚で地面を蹴って、身体を1つの砲弾と化して放つ渾身の殴打である。それを鼻先に打ち込まれては、鉄喰い獣とて無事ではすまない。
 大きく身体が仰け反って、危うく意識を失いかける。
 しかし、鉄喰い獣は耐えた。
 仰け反った状態を無理やりそこに固定して、眼前に着地したドロップへ視線を向ける。
 瞬間、ドロップの背を足場とし1匹の狼が跳んだ。
「誤解を解くにはこうするのが一番手っ取り早いですね!」
 振り抜かれた拳が鉄喰い獣の顎を打つ。
 加速を乗せた迅の拳を顎に受け、鉄喰い獣の身体が浮いた。
 さらに一撃。
 もう一撃。
 腹部に拳を打ち込まれ、鉄喰い獣はたまらず血と胃の中身を吐き出した。
「遅かったでありますな」
 背後をちらとも振り返らずにエッダは告げる。
 姿勢を低くし、エッダは腕を振りかぶる。
 その背を踏んでウィズィは跳んだ。
 エッダはその足裏へ拳を放つ。
 人間1人を弾丸として撃ち出したのだ。
「さあ、Step on it! 私達が来ましたよ!」
 一瞬の間に鉄喰い獣へ肉薄すると、その胴目掛けて大ナイフによる一撃を強かに叩き込んだのだった。

●鉄喰い獣
 鉄喰い獣の拳を受けて、ドロップは数歩後ろへ下がった。
 鼻から溢れた血によって、胸から腹が朱に濡れる。
 ドロップをカバーするように、エッダが前へ。鉄喰い獣の突進を受け止め動きを止めたその隙に、ウィズィとオリーブが左右から斬撃を見舞う。
 怒り狂う鉄喰い獣は、エッダへ向けて手を伸ばした。
 直後、後頭部に走る衝撃。
 マリアと迅の蹴りが叩き込まれたのだ。
 
 近づけばエッダに阻まれる。
 離れれば、オライオンの操る茨や奈々美の魔弾に襲われる。
 マリアと迅は動きが速く捉えられない。
 ウィズィとオリーブの斬撃を防げば、今が好機とばかりにドロップが迫り来る。
 鉄喰い獣は付近に住まう魔物や獣のどれより強い。
 圧倒的な強者であり、いわば“狩る”側の存在だ。
 狩られる側に立ったことなど、これまで1度だってなかった。
 遠巻きにこちらを見つめ騒いでいる人間たち。恐れの色が滲んだ眼差し。
 それが普通の反応だ。
 そう思っていた。
「縛り付ける。一気に攻勢に転じよう」
 オライオンの操る茨が鉄喰い獣の脚へ巻き付く。
 鉄喰い獣は、それを無理やり引きちぎり……。
「え……こっち!?」
 ひぇ、っと小さな悲鳴を上げる奈々美や住人たちの方へと駆け出した。

 鉄喰い獣は逃走を選んだ。
 野生の本能によるものか、逃げ込む先は人の群れのいる方向だ。
 悲鳴をあげ、住人たちが逃げ惑う。
 混乱に乗じれば、山へ逃げ込む隙も生まれるかもしれない。
 だが、しかし……。
「構え!」
 誰かが叫んだ。
「撃ぇ!」
 声の主は、巨大な黒い剣を掲げた男。
 剣を前に振り下ろし、誰かへ向けて号令を放つ。
 直後、鉄喰い獣の鼻は火薬の臭いをかぎ取った。
 住人たちの間を抜けて、横一列に並んだ8人の男たち。同時にライフルの引き金を絞り、迫る鉄喰い獣へ向けて、鉛の弾を浴びせかける。
 弾丸を受け、鉄喰い獣は動きを止めた。
「熊に似てるってんなら弱点も似通ってんだろ。つまり」
 硝煙に紛れるようにして、その懐へニコラスは潜り込む。肩に担ぐようにして、構えた剣を踏み込みと同時に一閃。
 それに合わせ、鉄喰い獣の背後でドロップが跳ねる。
「鼻か!」
「鼻だな!」
 ニコラスの剣、そしてドロップの踵落としが鉄喰い獣の鼻を潰した。

「皆さん、これが本物の鉄喰い獣です!」
「これで……彼女にかかっていた疑いも晴れたでしょ……たぶん」
 息絶えた鉄喰い獣の遺体を前に、迅と奈々美が言葉を紡ぐ。
 遠巻きにそれを囲む住人たちや猟師たちは、遺体とドロップの間で視線を彷徨わせた。
 ドロップの姿は鉄喰い獣とほぼ同一だ。
 しかし、彼女が鉄喰い獣から守ってくれたことも事実。
「正直……何が何やらって感じなんだが」
 なんて。
 猟師の1人がニコラスへと視線を向けた。
「なぁ……俺らは」
 何事かを問いかけようとして、彼はピタリと言葉を止めた。
「いや。いい。まずは周囲の安全確認と、住人たちへの説明だな。ったく、骨が折れそうだ」
 ここから先は、ニコラスたち外部のものに問うべきことではないのだ。
 彼らは彼らの仕事を果たした。
 ならば、自分たちは自分たちの仕事を果たすべきだろう。
「しばらく待ってろ。詳しい説明は後で聞く……事によっちゃ、謝罪もな」
 ドロップへそう言葉を投げて、猟師たちはその場を離れた。
 鉄喰い獣は息絶え、ドロップの疑いも晴れる。
 そうして数日も経てば、いつも通りの日常が街に戻ってくるのだろう。

成否

成功

MVP

エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

状態異常

オリーブ・ローレル(p3p004352)[重傷]
鋼鉄の冒険者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)[重傷]
雷光殲姫

あとがき

お疲れ様です。
鉄喰い獣は、衆人環視の中で討伐されました。
ドロップの疑いは晴れ、無事に依頼は成功です。

この度はご参加ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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