PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あの日の星空を探して

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎
 幼い頃に見た記憶というのは、物によっては直ぐに忘れるし或いは大人になるまで覚えていたりする。
 多くは必ず忘れてしまう。だけど1つか2つは覚えている物だと、彼は思う。
 幼い日に描いた将来の自分は貴族の仲間入りを果たしていたが、残念ながら今の彼はしがない町の仕立て屋である。
 とても人気とは言えない店であり、稼ぎも良い所従業員の女性二人に支払う分と自分の給料を稼ぐのがやっと。
 それでもマシな方かも知れないのはご愛嬌。
「……今日は良い日だったな」
 そんな彼は偶々、売り上げが妙に良い日に巡り会えた。
 従業員共々それを喜び、報酬にその分を上乗せした彼はテーブルの上の銭袋をジャラリと鳴らしてつついた。
 そうして夢の話を思い、数時間。
 誰も居なくなった店内を見回している内に、彼は不意に幼い日の情景の一部を何故か思い出した。
 星空を、彼は誰かと見ていた。
(あれは誰だったか。姉か、それとも兄か。いや……あれは女だった。そして姉よりも年上の様に思える)
 長い瑠璃色の髪をした少女。
 そうだ。彼は、自分は、彼女に手を引かれて星空を見たのだ。
「場所はどこだったか……」
 程なくして彼は金の入った袋を懐に押し込み、店の戸締りを確認してから出て行った。
 彼の近所にある図書館なる施設は既に閉館している。とすれば地図か何か調べる、調べて貰えそうな場所と言えば……
「そうだ! あそこなら深夜も動いている筈、行ってみよう!」

⚫︎そうして訪れるギルドの客
 ギルド・ローレット。幻想に住む者なら特に最近耳にする名。
 稼ぎからしてそれほど世話になる事はないだろうと思っていたが、こうして彼は冒険の匂い漂う組合の建物へ足を踏み入れた。
 中を歩いている多くの……恐らくは異世界の住人や他種族の者。それらを前にして彼は狼狽えながらも、中を歩いて行く。
(色んな人がいるなぁ……みんな強そうだ。凄いなぁ、これがローレットか……お?)
 やがて彼は掲示板に貼られた、手配書の様な紙に視線が行った。近づいて見れば依頼書だったり注意書きだったりするのが分かる。
 その中には現場(ロケーション)の様子や写真もあるわけで、彼はその写真の一枚に目をつけた。
「……これ、これだ。ここを知っている! そうだ……あの星空はこの森で見たんだ。どこだろうここは、ああ……あの辺りか、いいぞ、いいぞ。思い出して来た!」
 彼は依頼書を掲示板から一枚剥がして、ギルドのカウンター目指し駆けて行った。
(確かあの森で、あの子に、そうだ……確か俺がたまたま採取していた薬草で怪我をしていたあの子に手当てした、それから何か……魔法みたいにあの子が消えて星空が見えたんだ……!)

⚫︎星空を探して
「今回はちょっとロマンチックな依頼なのですよ」
 どこか微笑ましそうにニコニコして依頼書を眺めている『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が卓に着く。
「依頼人はローレットの近くで服屋さんをしているクレウェンさん。優先依頼は『森のどこかにある星空が綺麗な場所を探してほしい』との事ですね。元々はイージー難度の盗賊討伐依頼をノーマルに引き上げた上で彼が新たに依頼主となったのです。
 場所は王都郊外の森ですが、これといって地理的特徴も無く、付近で危険な動物や魔物が出たという情報もありません。強いて言えば先にお話しした盗賊で、彼らが旅人を襲っているようなのです。
 追剥ぎに遭った旅人のお話では『瑠璃色の髪をした女の子が捕まっていた』という事もあります。
 ……え? クレウェンさんがそれを知っているか? いえ、これはついさっきボクが調べたばかりの情報なので知らないですけど、どうかしたのです?」

GMコメント

 初めまして皆様、ちくわです。
 今回の依頼は星空を見に行くシナリオとなります、よろしくお願いします。
(冒頭のオープニングでの依頼人が思い出していた事、回想はそんな感じの出来事があったみたいな感じで皆様に伝わっています。メタの心配はありません)

 以下情報

●依頼達成条件
 星空を見つけて場所と星の写真を撮り報告する
 盗賊達の討伐

●盗賊に囚われている少女
 瑠璃色の髪の少女が捕まっているという報告がありますが、救出の依頼は受けていないので基本的には安否についてイレギュラーズの皆さんにお任せします。

●星空
 そもそも今回のロケーションは森の中ですが、殆どが空を仰ぎ見ても木々のせいで空すら見えない鬱蒼とした場所です。
 月明りも届かないそうですので、灯りが無いと少し厳しい場面がありそうです。
 星空が見えるポイントを捜索する際、各種スキルやギフトを用いたり、プレイングによる内容等から加点、判定します。
 最低でも二ヶ所存在し、『そのどれもが依頼人の知る星空でなかったとしても成功判定は出ます』。
 写真を撮るためのカメラは依頼人から各自支給されるので所有している体で構いません。

●盗賊
 武装は棍棒と斧で襲いかかって来る野盗の輩。
 数は全員で10人のようですが、森のどこで何人と遭遇するかは運次第です。
 出会ったら必ず倒しておいてください、生死は問われていません。
 
 依頼人の話ではとても綺麗な星が見れるそうです、何か素敵な事があると良いですね?
 以上になります。
 イレギュラーズの皆様、宜しくお願いします。
 ご参加をお待ちしております。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • あの日の星空を探して完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月16日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
コリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)
エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)
ShadowRecon
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
不動・乱丸(p3p006112)
人斬り

リプレイ

●探し物、探し人、探し空
 鬱蒼とした森の中を彼等は行く。
「盗賊退治さえ無ければ、凄く簡単そうな依頼なんだけど。うん、はりきって倒して探そっか」
 コリーヌ=P=カーペンター(p3p003445)は「よいしょ」と声を漏らすと、手近な樹の様子を観察したり、灯りで照らして付近の植生を見る。
「『想い出の星空が綺麗な場所を探してほしい』ねぇ……何とも浪漫チックな依頼だぎゃあ、まあ、嫌いではなかと」
「思い出に残るほどの星空、楽しみにしておこう」
 『人斬り』不動・乱丸(p3p006112)が首を鳴らして森の中を見回し、『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)はコリーヌの動きを見様見真似で追いながら呟く。
 恐らくは普段の日当たりから変わる成長の仕方で星空の見えそうな位置を探し出そうとしているのだろうと予想していた。
 そんなエイヴに「うんうん!」と一声、二声。
「女の子と出会った思い出の場所を探してほしいなんてロマンチックなのです……」
「想い出の場所を探して欲しいだなんて素敵な依頼だよね。捕まってるっていう子の事も気になるし、やる事は多いけど頑張ろうね!」
 『悪い人を狩る狐』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)と『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の二人が木々の合間を駆けつつ、上を見上げたりしている。
 見る者がいれば、恐らく彼女達の姿に微笑ましさを覚えたかも知れない。
 だが、彼等イレギュラーズは何も遊びに来たわけではなかった。とある服屋の店主によって依頼を受け、捜索ないしは探索に来たのである。
 その内容は『星空を探す事』。確かに鬱蒼としている上にその中で星空が見えるポイントを探すのは至難かもしれないが、果たしてそれなりの難度があるのかと問われれば、否である。
 と、しかしそこに一つ条件が重なり彼等の仕事は相応の難度となる。既に幾つかの目撃情報や被害の出ている『森の盗賊討伐』がそれだ。
「星空、か……綺麗な景色は嫌いじゃないが、おまけは盗賊ときた。しかも少女が囚われてる、と……」
「お仕事をまとめると……星空スポット探しと盗賊退治、そして少女の救出ですね。油断せず行きましょう!」
 松明とギフトで電光を発している自身のコンセント型尻尾を交互に揺らして、『驟猫』ヨハン=レーム(p3p001117)が進む。
 『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)は首から提げた支給されたカメラを手に時折頭上を見上げたりして、星空が見える位置を探している。
 オーダーに含まれているのは空探しに加えて、盗賊退治。
 仲間達が掲げる今回オーダーとは無関係な、『賊に囚われている少女の救出』がどう関係して、どう結果をもたらすのか。
 静かなる夜闇を内包する森の奥へ足を踏み入れながら、ルナールは今後の展開を思う。「仕方ないな」とは胸の内に含むに留めて。

 一同の動きは散開しての捜索よりも安全性を取った慎重な物となっていた。
 森の中で遭遇戦になる事を視野に入れて、各自戦力が分散される事を避け、八人全員で一定の距離を保ちながら行動する事にしていたのである。
 場合によっては一夜で星空の見えるポイントは見つからないかもしれない。そこまで考えた上での作戦だった。
「年輪の偏り、植物の育ち方や分布。それらを見れば、光がより当たっている場所は分かるはずー」
「なるほど! それでこうして僕達に照らすように言ったんですね」
「ボクとヨハン君が照らすとなんか豪華だねー、昼間同然って感じ!」
 コリーヌが当たりを付けて指定した場所の周辺を、青白い電光と温かな炎が照らす。ヨハンと焔のギフトはカンテラや松明よりも使い勝手が良い。
 特に槍の穂先をギフトで炎を付与した彼女は、その分高い所、木々の枝をよく見える様に明るく出来た。
 周囲の草葉を燃やす心配が無いというのもやり易かったのだろう。
「星空が見えるくらいに開けている場所なら、日中の光量は多いだろうし」
 混沌の植生もそんな感じだといいんだけど――そう呟くコリーヌは大凡の推測と共に森を突き進んで行く。一つこれに手助け、加点があったとするならば、それは彼女以外に行動する者が複数居たことかもしれない。
 その証拠に、程なくして彼女達は不意に頭上を冷たい風が撫でて来たのに気付いた。
「ほらね。見つけた」
「……わぁ……綺麗ですねぇ!」
 見上げれば、鬱蒼とした森に突如開く天上のステンドグラス。満天の星、というよりも。切り取られた円形の窓に浮かぶ光の粒子という方が正しい。
 ヨハンが尻尾を揺らしてパチチッと電光を散らして感嘆の声を漏らした。
 パシャリ。
 すかさずその天上の景色をカメラでコリーヌは収めた。
「とりあえず場所を記録しておこう、報告するにしても必要だろうからな。ルルリアの方はどうだ……?」
 ルナールが持ち込んだ手帳や地図に星空が見えた位置を記し、振り返ったその時。
 一同の進行方向とは少し離れた林の手前で、ルルリアがその耳を小刻みに動かして佇んでいた事に彼は気が付いた。
「……どうした?」
「二人、ううん。三人来てます」
「ハハッ、儂の出番かのォ?」
 ルルリアの様子に仲間が次々と自身の武装へ手を伸ばして行く。
 乱丸が前へ出る中、ルナールは後方で事態をまだ把握していないコリーヌ達にハンドサインで報せようとする。運が良かったのか、松明を揺らして近付いて来る賊達は未だイレギュラーズの持つ光源を味方の物だと思っている様だった。
 そこで、ルルリアに『GEED』佐山・勇司(p3p001514)が背後から小さく問いを投げた。
「例の少女は居そうか?」
「儂も聞き耳立ててはいるんじゃが、男が二人って所だぜよ」
「そうですね……今なら先手でやれます」
 ルルリア達が頷く。
 同時、彼女達の提げていた光源がその場に置き去りにされる。森の中へ身を躍らせたその姿を、先手を取られた盗賊達に捉える術は無かった。
 ましてや一気に宙を蹴りつけて距離を詰めて来たルルリアに反応できる筈も無い。
 魔力を編んだ不可視の糸が網の様に飛び、伸ばされ、盗賊の一人を囲む様に張り巡らされる。男はそれに気付く事無く、突然の全身を切り刻み身体を捕える糸に悲鳴を上げた。
「な、なんだぁ!?」
 狼狽える他の仲間が男に駆け寄ろうとする。まだ、それが敵襲とは分かっていなかった。
「おいしっかりしろって、枝でも刺さったんじゃ……」
「ぐああああ!!」
 激痛(ダメージ)に耐えかねた男の悲鳴が風の音すら掻き消す。
 その瞬間。近くの木から飛び出した影が、声をかけていた盗賊を頂点から叩き伏せた。
「……~~!?」
 仲間がいきなりメイドに打ちのめされた瞬間を見てしまった三人目の男が咄嗟に逃げ出そうとするが、もう遅い。彼の視界の端から迫って来た『サムライ』は鯉口を切っていた。
 切り上げ。踏み込み、刃を返す事無く刺突を放つ。
 鮮血を散らして鞠のように地面を転がる盗賊。しかし呻き声から察するに、それが致命的なダメージに繋がっていないのは他ならぬ乱丸自身が分かっていた。
 仲間への義理立て、というには運も味方したか。そう彼は刀を鞘に収めつつ舌打ちする。
「全員ダメージは?」
「僕は大丈夫です!」
「儂もじゃ、それよか今転がした奴が逃げちまうぞ」
「任せて下さい……っとお!」
 立ち上がって逃走しようとする盗賊を背中からヨハンの剣が殴り付け、うつ伏せに押し倒す。
 失神した様だったが、ヨハンは軽く腕を組んで何事か考えてから。自分が今倒した男の頭をぺチぺチして起こす事に決めた。
「起きて下さい、えいえい」
「ぐふっ!? ひ、ひぃぃ! 命だけはお助けをぉお!!」
 しめた、とヨハンは頷く。
 やはり乱丸の気に当てられた盗賊は既に戦意を喪失している。殺気があるかないかでは、殺気を受けた者の方がつけ入る隙はあるだろう。
「この森で追剥ぎをしていた盗賊というのはあなた達ですよね? 僕達はローレットの者です」
「ろ、ローレット!? それじゃまさか『メイド猫のヨハン』かアンタ!」
「それどこで広まってるのか聞いていいですか?」
「ヨハンさんヨハンさん! 脱線してるのです!」

●遭遇戦
「空を埋め尽くす金塊……?」
 突拍子もない話にエイヴが首を傾げた。
「はい。どうやら彼等盗賊がこの森にこだわっていたのはそれを探していたから、だそうです。
 その為に例の……ユリーカさんが言っていた女の子を捕えているとも聞きました。どう関係しているのかは下っ端の彼等は知らないらしいんですが」
 実際に盗賊から聞き出したヨハンは「少なくとも嘘はついてないと思います」とハッキリ言いながら説明した。
 ルナールや焔が木陰で捕縛されている盗賊を見るが、確かに頭が悪そうというより何も考えていなさそうな印象を覚えた。いずれにせよ少女の話が自然と出たからには何か関係しているのは間違いない。
「拠点にしている場所は無いのかな。こんな所で数日滞在してるならキャンプくらいあるよね?」
「それが、あるにはあるみたいですがどうでしょう。夜が明けるまでは彼等は三組に分かれて森を探索していたみたいです。
 キャンプはここから僕達が入って来た街道側とは反対の森の奥にあります、どうせ森を抜けて拠点に向かうなら盗賊を先に見つけに行った方が速いかもしれません」
「道理だな。連中が先に星空を見つけてそれが目的の物だった場合、この森から抜けられる可能性がある」
 地図を見ていたルナールが応じる。焔は「うーん」と悩まし気な声を出す。
 そこで勇司が手を上げた。
「このままでいいんじゃないか」
「そうだよね、理由はともかく向こうも空探ししてるなら私達も一貫してこのまま依頼を遂行すれば、多分解決するよね」
 盗賊は残り七人。下っ端の話が本当ならばそれらは二組に分かれて森を彷徨っているのだ。
 遭遇戦になるのは変わらず、彼等が逃走する事や少女に手を出す事を阻止するならこちらも動いて空が見える――恐らく金塊が埋め尽くす空を指している――地点へ向かう事が最善になる。
 やる事は変わらない。
 コリーヌが頷き、再び森の中へ歩き出す。それに続いて再び一同は捜索に動き出した。
(盗賊に囚われた少女も必ず救い出す……話を聞く限り、少女には少々気になる点もある)
 人知れず肩に担いだAMをエイヴは静かに撫で、頭上を見上げる。
 先ほど見た星空は確かに美しかったが、それは『金塊』とは違う輝きである。盗賊達の口振りから察するに少女と空の関係性を知っているのは頭領の男なのだろう。
 何か、違和感がある。

 程なくして彼等は遭遇(エンカウント)した。
 人数は三人、少女の姿は無し。
「お、お頭ぁぁぁあああッ!!!」
「今行くぞぉぉ!!」
 まさかの盗賊達の頭領の姿アリ。
 頭一つ抜き出た体格の男は背負っていた太刀を振り回して駆け込み、ヨハンと打ち合っていた仲間の所へ向かって行った。
 ボコボコにされている盗賊の涙が宙を舞う。その下を銀光が潜り抜けて滑り抜けるのはルナールの姿。
「あー、うん。遭遇した以上は倒さないといけないんだよなぁ、これ」
 鋭敏な動きとは裏腹に穏やかな口調の彼は腰元から引き抜いた曲刀を回し、数瞬遅れて火花を散らす。
 頭領の振り下ろした太刀が甲高い音を響かせて弾かれ、その手首に尋常ならざるダメージを与えていたのだ。そこに飛び掛かった焔の槍が唸りを上げて男の側面から打ち抜いた。
「ぶるるるぁあああああっっ!!?」
「依頼人のクレウェンくんも盗賊とはいえ思い出の場所で誰かが死んだって聞いたら嬉しくはないだろうし、手加減手加減……」
 と言いつつ錐揉み回転させて吹っ飛ばした焔。
 振り向けばヨハンも既に対峙していた男を打ち倒した所であり、後はコリーヌと勇司に挟まれて「うぐぐぐ」と歯噛みする若い盗賊のみ。
「とりあえずは殺さないよ、うん。めっちゃ思いっきり殴りはするけどっ」
 拳をゴキゴキッ、と鳴らすコリーヌの姿を右に。無言でなんか凄いオーラソードを二刀構える勇司の姿を左に。
 若い盗賊は暫くその体勢で表情を凍らせていたが、直後にじれったくなった焔が飛び込んできて組み付かれ、彼はあえなく瞬殺……ならぬ卒倒させられ落ちたのだった。

 目が覚めた頭領の男は多少頑固に口を閉ざそうとしたが、割と恐ろしい事を言うイレギュラーズの目に怯えてあっさりと白状した。
「あのガキは、あの子ァ、精霊かなんかだ! 俺も詳しくは知らねえ、だが故郷の村にある本で読んだんだよ。そして見たんだ!
 俺がガキだった頃、この森であの子が沢山の金を空に生みだして見せたのを、俺は確かに見たんだ!」
 隣で縛られている盗賊仲間の男が「また言ってるよ」と呟く。どうやら彼等は余程いまの話を聞かされていたらしい、その顔にウンザリの文字が書いてあった。
 しかし、イレギュラーズは互いに顔を見合わせて心当たりに頷いていた。
「依頼主さんの、森の中で出会った女の子と。囚われてる女の子の特徴や盗賊さんの話を考えると、同一人物である可能性が高いですよね! これって!」
「精霊、或いはそれに近い存在なら有り得るかもしれないな。まさかとは思うが」
 見えて来た真相にルルリアがぴょんと跳ねた。
 もしかすると依頼人のクレウェンが探している星空とは、盗賊頭領が語った幼い時に見たという物と同じなのかもしれない。
 だとすれば今回の依頼は少女を救う事で達成できる可能性がある。
「でも、女の子が星をこう……出せるならなんで盗賊さん達は森をぐるぐる歩いてたんだろう。場所なんてどこでもいいんじゃ」
「あ? そりゃ、そうだ。あの子は…………」

●星空の少女
 そう、呼んでくれたのは誰だったろう。
 遠い昔。まだ森が無かった頃。
 『自分』の真下にある丘を越える旅人達を眺めるのが好きだった、あの日々。気紛れに降りた時。
 それを偶然見ていた旅の詩人が連れていた子供。その子が呼んでくれた。
 冷たい夜風が頬をくすぐる、あの夜。
 その子そっくりな男の子を『自分』は見かけた、から。また気紛れに降りた。
 そうして『自分』を見上げているのが好きだとその子は言った。だから、彼女は上に戻り、その子に笑って見せてあげた。
『「また来るね」』
 そう言っていた、から。約束をした。
 いつか思い出した時に再びこの地で会おうと。迎えに来るから、と。
 そうして時は流れて『そろそろだ』と、彼女は降りて来た。

 星空の少女、として。

「~~~!!」
「……! ……!!」
「っっ!? ~~!?」
 先頭を歩いていた男が森の中を突き進んで来た鉛玉に肩を殴り飛ばされ、地を滑り倒れる。
 一気に周りから誰かが駆けて来たと思ったら、今度は少女の背後に居た小太り男が勇司の一刀に火達磨にされ転がり倒れる。
 その背を踏み台に、ヨハンと焔の二人が少女の頭上を飛び越えてもう一人を薙ぎ倒した。
 思わず少女へと手を伸ばした痩せぎすな男は、無数の糸と襤褸を着た男の居合斬りに鮮血を散らして吹き飛んだ。
 僅か数秒の呼吸の間。
 たったそれだけの間に四人の盗賊が無力化されたのだった。
「……無事か?」
 まだ少女に手を伸ばそうとする痩せぎすな男に拳を叩き込んで、勇司が少女と目線を合わせた。
 少女はぼんやりと体を見回して、静かに足裏と手首を示した。
 素足でこの数日何度も繰り返し歩かされたからか、縄が擦れて痣になっていたり、擦り切れて血が出ていた。勇司がその手首にライトヒールを行使しながら焔を手招きで呼んだ。
「やほ、もう大丈夫だからね! 傷口をちょっと見せてね」
「…………」
 勇司の膝に座らせた少女の足の様子を見つつ焔がテキパキと救急箱で手当てを始めた。
 その間に彼等の後方では無力化した盗賊達がエイヴ達に縛られている。
 それらが落ち着いた頃、少女の手当ても終わった所だった。
「さて、怪我が大した事なくて良かったな。菓子でも食うか?」
「あ、ボク一個欲しい」
「なんじゃ」
 横から焔がひょいっと包みを取る。乱丸が差し出したお菓子を少女は不器用に受け取ると、辺りを見回して首を傾げた。
「あの子の匂いがする」
「『あの子』とは」
「もしかしてクレウェンさんの事ですか! あの、どのくらい前か分かりませんが男の子とこの森で星空を見ていませんか?」
 ルルリアが身を乗り出して来たのに少女が驚いて身を引くが、少し何か考えてから向き直った。
「……そんな名前だったかも。あの子は、来ているの?」
「えーと、それはー……」
 彼等は少女に今回の経緯を全て話した。
 少女の事を思い出したクレウェンが思い出の場所をもう一度見ようと思った事。
 そしてその過程で偶々、イレギュラーズは少女の存在を知り。助けに来たこと。
 星空をクレウェンの為に探している事。

「……そう、なんだ」
 穏やかな微笑みを浮かべて、少女は立ち上がった。
「その箱で記録するんだよね? ……私を撮ってくれるかな」
「わかった」
 不意にエイヴに声をかけた少女は一枚、自身を写真に収めさせた。そうして二度、三度と。何度か確認をした彼女はイレギュラーズ達に再び微笑んだ。
 その表情はとても見た目少女の物とは思えない程に優しい、星の様に煌めいた笑顔だった。

「今度こそ、クレウェンを連れて来てくれたら……あなた達にも私の事見せてあげる」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

●~後日~
 星空の少女との約束を守ったあなた達は、今度こそクレウェンを森へ連れて来ました。
 少女はようやく再会できたクレウェンを抱き締めます。
 彼女は長い間、その土地を見守る『星』として生きてきました。
 しかし、他の『星』とは違い人と同じ意識を持った彼女にとって時間の流れはとても緩慢で、永く。寂しかったのです。
 そんな少女はお友達になれたクレウェンともう一度会いたかったのでしょう。再会できてとても嬉しそうです。
 彼女はあなた達と、クレウェンに「見ていてね」と告げました。
 夜空に瞬く星の中へ小さく煌めく『星』が浮かび上がりました。
 それは、とても大きいわけではありません。けれど……他の星々を更に綺麗に彩り、空に浮かぶ輝きを小さな光が点と点を繋ぐようにして先よりずっと素敵な天の川へと作り変えたのです。
 あなた達がそれをどう見たのかは、きっとあなた自身が知っているでしょう。
 そして、依頼人のクレウェンにとっては、とても綺麗だと喜び。一生忘れられない景色となったのは間違いありませんでした。


 お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
 素敵な最後に辿り着けたのは皆様が協力し合ったからこそでしょう、素晴らしい成功を収めました。
 皆様も今後、更なる素敵な出会いがある事を望んでいます。
 それではまた、次の機会をお待ちしております。

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