PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<グランドウォークライ>弾薬と榴弾の雨を裂いて

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ピンク色の水晶に彩られる眩いばかりの鋼鉄の都――スチールグラード、軍用優先道路を行く兵団があった。
 その数、ざっと110。すべてがパワードスーツに身を包んでいる他、統一された紋章を抱いていた。
 中央を行く者達は、パワードスーツの上から流線型を思わせる重装甲の鎧に身を包んでいた。
 その両脇を固めるように、パワードスーツのみに身を包んだ軽装の兵士達が続く。
 さらに続くようにして集団の後ろを騎兵が続いていた。
 一糸乱れぬ動きは、かなりの練度であることを教えている。
 ――だが、その軍勢の真の脅威はそれには無い。
 ソレは軽装歩兵の後ろ、各10の兵士に守られる形でゆっくりと進む威容。
 高さ8m程、長さは20mほど。
 ギチギチと歯車の軋む音を立てながら進む戦車であった。
 特に異質なのは計6門もの主砲と、それが高さの2mを占有していることか。
 砲門の一つ一つの口径も非常に大きく、殺傷能力ばかりはかなりものを思わせる。
 犠牲になった動きは非常に鈍重で、この部隊の進撃速度の遅さの理由ともいえる。
 排熱される蒸気は白く辺りに燻り、骨董品を思わせる威容はゆっくりと進んでいる。
「クラウゼン隊長、射程圏内20mに入りました。良好地点です」
 かちり、男が手元に持っている測量器を止めて顔を上げた。
「そうか……」
 クラウゼンと呼ばれた男は隣に馬を並べる男の言葉に、たっぷりとした髭を撫でるようにして触れてから短く頷いた。
 そのままクラウゼンが手を掲げると、どこからともなく鳥が舞い降りた。
「各部隊の進軍を停止せよ。全軍の停止が確認されてから、対地拡散式榴弾戦車より目標を破壊する」
 目標へ静かに厳めしい双眸を向けたまま、鳥めがけ粛々と告げたクラウゼンの耳に蒸気の音が響く。
 ギチギチと歯車が廻り、何かが固定されるガチャン――と音が鳴る。
『一号機、装填完了』
『二号機、装填完了』
「FIRE!」
『『FIRE!!!!』』
 刹那――けたたましい砲声が十二。
 鼓膜をぶち破らんばかり砲撃音をもたらした骨董品より放たれた銃弾は、疎らなままに放物線を描いて空を舞い、ある地点を以て突如として炸裂する。
 目標――宮殿ないしは教会を思わせる建築物へと榴弾は降り注ぐ。
 炸裂した榴弾は搭載された砲弾のサイズもあって全く間に建築物を破壊し、『建物の方から爆発を起こす』。
「総員、拠点の占拠に入る。我々の任務は侵攻する賊に『弾薬庫を使わせない事である』。
 貴様らが死ぬ代わりに、一つでも弾薬を燃やすがいい。すべては、『聖頌姫』様のために」
 クラウゼンの静かな命令を受けて、周囲の兵士達の呼応が響き渡る。

 制圧された戦場を、少しばかり離れた場所から20人の兵団が見つめていた。
「あらまぁ……進軍するの、ちょっと遅かったかな」
 その中でもやや前めにバイクを付けた女性――イルザが事も無げに言う。
 黒髪を微かに風で躍らせるその表情は、言葉の割には平然としている。
「ふむ、見た限りあの巨大な戦車が一番の厄介な物だろうな」
 その隣に同じように馬を寄せた銀の長髪をした女性――ユリアーナは要所を落とした敵をざっと見渡して、二回り大きなソレに目を向けた。
「あれをぶち壊すとなると面倒くさそうだよ?」
「なに――彼らと手を組むのだ。そう難しいものではないさ」
「そっか。姉さんが言うなら、そうなんだろうけど。
 僕も早く会ってみたいなぁ! イレギュラーズ!」
 イルザが華やぐような笑みを浮かべた。
 そう語り合う2人の女性の背後、複数の足音が聞こえた。
「噂をすれば……来たようだ」
「そうみたいだね……ふふ、楽しみ」
 そう言って、鼻歌交じりに振り返るイルザに少しばかり呆れつつも、ユリアーナも振り返る。
 そこには、君達がいた。
 イレギュラーズ10人とその麾下の兵士が10人ずつの総勢100人。
 これにユリアーナとイルザが率いる20人が加わる計120人――これが、今作戦の総戦力だ。
「よろしく頼む、諸君。我々のことも適当に使ってくれ」
「うんうん。誰かの下で戦うのって久しぶりだから、ワクワクするね」
 そう言ってユリアーナとイルザが握手を求めてきた。
「……とはいえ、このまま立ち話をしていても敵に見つかる可能性の方が高いか。
 一旦、少しばかり兵を下げておこう。作戦についても、諸君らの意見を聞かせてくれ」
 少しばかり考えた様子で言うと、ユリアーナが自分の兵士へ声をかけて下げていく。
 拒否する理由もないと、君達も少しばかり部下と共に後退する。


「さて。早速、状況の整理から入ろうか。
 諸君らも見てきたと思うが、現在、帝都の中枢にある城が眩いばかりのピンク色の水晶で飾られている。
 これはディアナキャッスルというらしい。そして、どうやら主要人物たちは城――ディアナキャッスルの中に囚われているのだという。
 その上、大量の精鋭たちの偽物が溢れ出し、各地で先程の大隊のように要所を抑えている」
 近くにあった建物中へ入り、ユリアーナは直ぐに状況を説明し始めた。
「この内乱が仕組まれた物だとしても――というか、内乱というのは大概仕組まれて起こるものなのだろうが……」
「流石に虫唾が走るよね~自分ち(そこく)を好き勝手に変えて遊ばれるのは」
 ユリアーナの言葉に挟むようにして、頷きながらイルザが言って。
「虫唾が走るかどうかはともかく、自分達の国を穢されるのは気に食わない――という者も多い。
 それに、ヴェンゲルズ卿の仰った思いつきもあって、ここまで来たわけだ」
 ざっと状況の整理を終えて、ユリアーナが大丈夫かどうか問うように視線をこちらに向ける。
「最初はちょっと何言ってるんだこの男と思ったが、『できるのなら話は別』。
 政治、経済、兵站の中枢たる帝都を取るのは道理にも叶っている。
 さて――それでは。次は早速、今回、我々がすべき要所についての話に行こうか」
 そこまで言うと、ユリアーナは壁に羊皮紙を広げた。
 描かれているのは詳細な付近の地図。
 かなり鮮明に記されているが、どうやら『占拠前の姿』のようで、先程ざっと見た感じの光景と少しばかり違う。
「この要所の名はヴィンスティルド旧宮殿。見ての通り、占拠される前はちょっとした宮殿が建っていた。
 この宮殿、実は武器庫の1つでね。しかも、前を通る道路はかなり広い。
 普段であれば、首都迎撃用の緊急弾薬補給地というわけだ」
 外をざっと見た限りの光景では、肝心の宮殿は中ほどから崩れており、『敵』はそこから弾薬を補給しているらしい。
「で、今回一番の問題は、やっぱりあれだね。対地拡散式榴弾戦車。あんな物を2つも装備されてちゃ、密集陣形はいい的だよ」
 そう言って、イルザが取り出したイラストは先程の戦場で見た二台の戦車だ。
「文字通り、ただでさえ炸裂する榴弾を四方八方めがけて拡散するようにばらまく代物なんだよね。だから――」
「真っ当にやれば、我々は『敵の主力と護衛をはぎ取り』『戦車を破壊する』のが第一目標になるだろう。
 面倒くさい戦車を破壊すれば、それ以外の敵兵ぐらい諸君と諸君が指揮する精兵とどうとでもなるはずだ」
 イルザの言葉を繋ぐようにして、ユリアーナはあまりにも淡々と『言うだけなら簡単』レベルの目標を告げた。

GMコメント

 こんばんは、春野紅葉です。
 グランドウォークライでは2本ほど担当させていただきます。

●オーダー
【1】敵軍所有の戦車2台の破壊
【2】敵軍の殲滅

●フィールドデータ
 ヴィンスティルド通りと呼ばれる非常に広く作られた幹線道路です。
 軍の移動用に非常に広く作られており、部隊の展開に余裕があります。
 その一方で地の利は使いにくいでしょう。
 また、周囲にはいくつか建造物が存在しています。
 双方にとって迂回しにくい環境ですが、見つかりにくくもあります。
 プレイングにおいて何らかの指示がない限り、戦闘開始時には彼我の距離が60mほど開いています。
 何もなければ、両軍がぶつかり合うのは実質2T目からになります。

●エネミーデータ
・共通項
 敵軍10人につき1人の指揮官クラスの将校がいます。

・対地拡散式榴弾戦車×2
 優先破壊目標です。下記護衛と共に戦場のやや奥、北東部に宮殿のほど近くに2台配置されています。
 数ターンに1度、イレギュラーズ側の戦力のみが密集している部分に向けて榴弾をぶちまけます。
 戦車とは言いますが、雰囲気的に多少動かしやすい砲台といった方が正確です。
 回避能力はほぼなく機動力もかなり遅め。
 ただし、分厚い装甲から来る桁違いのHPと防技、攻撃力を持ちます。
 弱点は至近および近距離への対抗手段がないこと。近づいて殴りましょう。

・戦車護衛兵×10(1台につき)
 パワードスーツと軍刀、ライフルを手にした戦車護衛用の兵士達です。
 攻撃力が高く、重装歩兵タイプです。
 敵味方問わず、戦線が押し上げられると攻撃チャンスまたは防衛のために戦車から離れてきます。

・重装銃兵×30
 横列に3列で並ぶ重装備の鎧を着た歩兵隊です。
 銃を持っており、こちらに向かって砲撃しながら防衛戦の構築をしています。
 迂回ないしは突破する必要があります。

・重装歩兵×20
 重装銃兵の両脇を固めるように布陣しています。
 パワードスーツの上から流線型の重装甲冑に身を包んだ歩兵隊です。
 武器は斧やハルバード、長槍などの近接武器と、大きな盾です。
 前面に出てきて前線を押し上げてきます。

・軽装歩兵×20
 軽装の歩兵隊です。旧宮殿と戦車の前に布陣しています。
 投槍と両刃の長剣、パワードスーツに身を包んでいます。

・軽装騎兵×20
 重装銃兵の後ろに配置されています。
 敵軍総指揮官の『温かき謀将』クラウゼン、総参謀『機知応変』オールステットがそれぞれの直属部隊を率いています。
 前線を押し上げた後の最後の一押し、または迂回による後方からの突撃を試みるものと思われます。
 両者ともに例にもれず『シャドーレギオン』であり偽物個体です。
 倒しても正気に戻るなどは特になく消滅します。

■戦闘開始時敵布陣図

           旧宮殿

    軽騎    戦車 戦車

 重歩 重銃 重歩 軽歩 軽歩

幅60m

   イレギュラーズ側

●友軍データ
・共通項
 皆さんの作戦行動に素直に従って行動します。
 信頼できる戦力です。存分に使い倒してください。

・『銀閃の乙女』ユリアーナ
 鋼鉄の西部にある村で自警団の団長を務めています。
 イレギュラーズにより『DARK†WISH』から開放されてゼシュテリウスに加入しました。
 恩義と贖罪の意味に加え、そもそも民の為に内乱を早く平定すべきと考えています。

 現実との違いはバトルスタイル。現実では技量で攻めるタイプですが、こちらでは割と脳筋タイプです。
 率いる兵は重装歩兵、防御重視で戦線維持を行なう予定です。
 先陣を切って戦って見せる形で士気向上を狙います。
 もしも戦術的な観点などから別の事をさせたい場合はプレイングへの記載をお願いします。

『アクセスファンタズム:銀閃の乙女』
 イレギュラーズ及び兵を含む参加する全味方ユニットのEXF判定時、判定が若干ながら有利になります。

・『壊穿の黒鎗』イルザ
 前鋼鉄自警団副長の娘、ユリアーナの妹分。青みがかった黒髪をした人間種の女性です。
 普段は流れ者をしていますが『国家への忠誠とか柄じゃないけど、それはそれとして自分の家を使って弄ばれるのは癪』とのこと。
 国家への忠誠心はないが愛着はあるとでもいうべきでしょうか。
 比較的その場のノリで生きており、願望の類が希薄なため、『DARK†WISH』に冒されなかった様子。

 現実との違いはバトルスタイル。現実ではごり押しタイプですが、こちらではテクニックで攻めるタイプです。
 率いる兵は軽装騎兵、機動・攻撃重視で戦線の突破補助、遊撃を行なう予定です。
 先陣を切って戦って見せる形で士気向上を狙います。
 もしも戦術的な観点などから別の事をさせたい場合はプレイングへの記載をお願いします。

『アクセスファンタズム:戦機掴む鷹眼』
 イレギュラーズ含む全味方ユニットのファミリアー、領域俯瞰などに相当する『戦況を把握しうる』非戦スキルの効果を若干ながら強化します。

●小隊指揮について
・このシナリオには小隊指揮ルールが適用されます。
 PCは全員小隊長扱いとなり、十名前後の配下を率いて敵部隊と戦うことができます。
・兵のスキルや装備といった構成内容はおおまかになら決めることができます。
 防御重視、回復重視、機動力重視、遠距離砲撃重視、特定系統の非戦スキル重視……といった感じです。細かいオーダーは避けることをおすすめします。
・使用スキルや戦闘パターンの指定は不要です。
・部下の戦意を向上させるプレイングをかけることで、小隊の戦力が上昇します。
 先陣をきって勇敢に戦って見せたり、笑顔で元気づけたり、料理を振る舞ってみたり、歌って踊ったり、格好いい演説を聴かせたり、効率的な戦術を指示したりとやり方は様々です。キャラにあった隊長プレイをお楽しみください。
・兵のデザインや雰囲気には拘ってOKです。
 自分と同じような服装で統一したり、混沌における自分の領地にいる戦力を選抜したっぽくしたり、楽しいチームを作りましょう。特に指定が無かった場合、以下のデフォルト設定が適用されます。

■デフォルト
・鋼鉄自警団
 軍装を銀と白で統一した部隊です。
 ユリアーナ、イルザ達の自警団から借り受ける形を取ります。
 皆さんに対しては前述2人の信頼もあいまって、素直に忠実に命令に従ってくれます。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <グランドウォークライ>弾薬と榴弾の雨を裂いて完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年09月25日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

グレイシア(p3x000111)
世界の意思の代行者
ファン・ドルド(p3x005073)
仮想ファンドマネージャ
ミドリ(p3x005658)
どこまでも側に
リュカ・ファブニル(p3x007268)
運命砕
ブラワー(p3x007270)
青空へ響く声
ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)
逧 蛻コ蟷サのアバター
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
きうりん(p3x008356)
雑草魂
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ


「まずは一杯……珈琲はリラックスにも向くが、やる気を出すのにも効果的だ」
 仄かなコーヒーの香りが戦場を包む。
 それは『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)が自らの小隊に向けて士気向上を兼ねた一杯のコーヒーから漂う香り。
 グレイシアのそれと似せた装備で揃った10人ほどの小隊員たちが、各々その一杯に口をつける。
 それはデータであることを感じさせぬ芳しさだ。
「テメェらはクズ扱いされてきたよな! 気に食わねえだろうさ。こんな国知ったことじゃねえと思ってるかもなぁ!
 だけどよ、魂まで腐らすんじゃねえ! 誰に何と言われようと! 俺はここにいると! 戦う理由があると剣を掲げろ!」
 鋼鉄の荒くれ者、あぶれ者達で構成され、赤色を随所に配置した『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)の小隊。
 それは赤龍隊と呼ぶにふさわしいだろう。
「派手にぶっ飛ばしてやろうぜ!」
 獰猛に笑って見せれば、小隊の面々の瞳に力が籠る。
 防御重視の重装兵達が戦場を徐々に進んでいく。
 重厚さを思わせながらも、どこか可愛らしささえ感じさせる装備であった。
「自分達の場所が部外者に荒らされて仲間達で戦わせられるとか許せないよね? ――さぁ内戦終わらすよ」
 小隊の中央で『青空へ響く声』ブラワー(p3x007270)はマイクを通して面々に檄を飛ばす。
 そのまま視線を近くに向けて、進んでいく小隊に視線を向ける。
(誘引した小隊と戦って囮になる……難しいことだとは思うけど、でも一緒に戦えば大丈夫)
 視線の先にいるユリアーナ隊、囮となって宣戦を維持してもらう彼女達は優先的に補助する予定だった。
「強敵だけど、一緒なら大丈夫って信じてるから。…………皆! 声を上げて! 絶対に勝つよぉ!!」
 『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)はサンライズソードを空へ掲げた。
 淡い陽光のエフェクトが戦場に輝き小隊の重装兵に加護を齎していく。
 小隊の闘志を煽る鼓舞の輝きに兵士達が奮い立つ。
「いくぞきうり! 私のくそざこ機動力を補ってくれ!」
『KIURYYYYYY!!』
「そうかそうか! 何言ってっかさっぱり分かんねぇや!!」
 嘶きっぽい何かを上げたきうり……っぽいというか、最早きうりっぽくもない何かに『雑草魂』きうりん(p3x008356)がしきりに頷く。
 その周囲には、多数の同族がいる。
「いくぞ! きうり!」
 再び嘶きを上げたきうり。
「だいこん!」
 続けて白色の衣装に薄っすらと緑色の髪をした兵士達が喊声を上げ。
「にんじん!」
 薄っすらとオレンジに近い赤色の衣装を着た兵士達が鬨の声を上げた。
(指揮に兵器にパワードスーツ、こりゃ小規模だが戦争と変わらんな。
 おまけに戦術目標は無理を通して道理を引っ込ませると来て、この情勢じゃ退路はなし……と。やるしかねえってか)
 前線部隊に並走するようにして進む『逧 蛻コ蟷サのアバター』ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)は考えながら薄く笑う。
「……勝てるのかって? 誰に向かって言ってる。
 前世で死ぬほどこんな修羅場を抜けてきた。こんな戦い、ぬるすぎて欠伸が出るぜ」
 兵士からの言葉に答えるように告げれば、粛々と進んでいく。
「戦車とはなかなか厄介そうな相手だね。伝統的に蒸し焼きと水没に弱いそうだけれど」
 仲間達の後ろを追従するように進む『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)は考えつつ進んでいく。
 稀人は世ならざる者の声を聞く。
 人々の霊の声が、戦車の向こう側から聞こえてくる。
 それは襲撃され、逃げる間もなく蹂躙された旧宮殿の人々の声か。
 多くの軍勢が戦場を行く中、『仮想ファンドマネージャ』ファン・ドルド(p3x005073)は建物の陰に隠れ、対戦車兵たちを集めていた。
「よろしいですか、勝利の暁には、秘蔵のファンド写真をお見せします。オススメはテレーゼ・フォン・ブラウベルク嬢の水着グラビアです」
 今回、連れてきたのが幻想からの兵士であったこともあってか、ちらほらとびっくりした様子を見せる者が見える。
 かなり若い者と、少しばかり壮年に差し掛かった助平親父ぐらいの年齢感の兵士達はお色気話に食いついている。
「あはは……この世界でもこんな戦車相手の戦いとかになるなんてなぁ……。
 まぁ、ああいうのをバラすのは得意分野だけどさ」
 腕っぷしの強そうな男達で構成された軽装兵を纏めるのは『どこまでも側に』ミドリ(p3x005658)だ。
(……正直先導は苦手なんだけど、ここは先陣を切って隊長らしく鼓舞しなきゃね)
 物陰に隠れながら、息を殺すように視線で指示を出す。
 建物の上に兵士達と共に登っていく影がある。
 それは『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)とその部下たちである。
 白銀で統一された鋼鉄自警団から借り受けた兵士達も、ルージュ同様に飛行スキル持ち。
 壁を越えて屋上に着地するルージュの動きはどことなく軽いものがある。
 緊張は、もちろん、恐怖すら何処かへ置いてきたのは初めての部下の存在があるからだ。


「ふむ……」
「いかがなさいましたか、クラウゼン隊長?」
「いや……少々、敵軍の数が少なすぎるように見えてな」
「……」
 髭を撫でるようにして触れたクラウゼンの言葉に、オールステットが無言を返す。
「10や20ならともかく、ざっと展開した敵の数を見るに相手の方がかなりの少数だ。
 戦車を持っている我々に対して、少数で攻めかかるとは思い難いが……」
 鋭く敵陣を見るクラウゼンの瞳が真剣さを帯びる。


 一斉に動き出したイレギュラーズ陣営の過半数は、真っすぐに戦車部隊の方へ向かっていく。
「みんなに届け!ボクの歌ー!」
 双方が動きを見せる中、戦場にブラワーの声が響いた。
 高温で艶めかしく、それでいてカワイく。
 それは伝えたい貴方へ向けて紡ぐバラード。
 伝えたい言葉を紡げず、それでも心の中に秘めた想い、楽しい日々を振り返るその歌に軽装歩兵の視線が動く。
 その直後、一斉に軽装歩兵たちが手に持っていた投槍をブラワー隊めがけて投擲。
 放物線を描く槍は熱を持ち、ブラワーを中心として、その小隊へと降り注いでいく。
 対抗するように、ブラワー隊の兵士達が軽装歩兵へと接近し、各々の武器で交戦し始めた。
 そんなブラワー隊の動きを受けて、イズル隊の兵士達はブラワー隊の兵士めがけて治癒スキルを施していく。
 その一方で、イズル自身は敵の軽装歩兵たちの方へ向かって接近すると、小瓶のようなアイテムから粉末を振りまいた。
 それは呪縛をもたらす薬剤の一種。皮膚を焼き、冒す恐るべき呪い。
 その一方で意識を小隊に向ければ、どことなく高揚感のような物こそ感じ取れるもののまだマイナスのイメージはない。
 イレギュラーズの行動に合わせるように、続けて動いたのは敵の重装歩兵と重装銃兵たちだ。
 イレギュラーズによる軽装歩兵への攻撃に合わせるように、重装部隊がせり出していく。
 軽歩兵隊の方へとイレギュラーズを押し込むように動き始めた重装部隊のうち、重装銃兵が一斉に砲撃を開始する。
 重装歩兵たちはまだ銃兵たちの両脇を固めた様子を崩さない。
 ギチギチと軋む歯車の音は、付近の歯車からか、あるいは戦場奥の戦車のものか。
 ヴラノスは誘引役から離れると、戦場を迂回して乱戦を回り込むように横から叩こうと動き出した。
「損害を出さないことが最優先だ。互いに守り、助け合うことを忘れるんじゃないぞ!」
 激励の言葉を一つ。回り込みにくい戦場を駆け抜ける。
「いくぜ野郎共! 蹴散らしやがれェ!! 赤龍隊――突撃!!」
 獰猛なる獅子の如き威風を持ちリュカは走り出した。
 大空より全てを見下ろす竜が如く、リュカの認識は俯瞰的なそれ。
 既に動き始めた軽騎兵の様子も把握しつつ、敵の重装歩兵隊に向けて手を伸ばす。
 大いなる膂力を以って全てをひねりつぶすかのように、齎すは竜の呪い。
 締め上げられた敵兵へ、狂気と混乱を呼ぶ。
 その後ろから、雄叫びを挙げて荒くれ者どもが重装歩兵相手に突撃を仕掛けていく。
「わたし達で戦車への道を作るんだ……行くよぉ、皆!」
 サンライズソードを掲げグレイミラージュを押し立てるようにして進み、淡い輝きを放つその姿に、軽装歩兵たちの視線が向いている。
 戦車を護衛する兵達には、距離の関係もあってまだ射程には無い。
 追いつくようにして接近してきた小隊の兵士達と共に、そのままもう一歩、ホワイティは踏み込んだ。
 ギチギチと音が鳴る。
 戦場の奥からにわかに聞こえ始めたその音が、続けて銃声を放つ。
 爆発の如き砲声の直後、苛烈なる砲撃が戦場を劈いた。
 放物線を描く榴弾が炸裂し、一気に降り注ぐ。
 その動きに合わせるようにして、それまで動きのなかった重装歩兵隊が一気に近づいてくる。
 榴弾を浴びせかけられたきうりん隊は2人ほど当たり所が悪く瀕死になってしまっていた。
 強烈な傷を幾らか回復させながら、きうりんは軽歩兵の方から視線を外さない。
「まずは1番弱そうなとこから叩くのが定石だよー! こっちこい!!」
 それどころか、自らの部隊を晒すようにして堂々と前へ進んでいく。
 グレイシアは自ら小隊の先陣を切り、動き出した重装兵の方へと立ち向かっていく。
 自らの影より放つは無数の刃。一瞬ながら膨張した影から放たれた刃が重装歩兵の身体へ叩きつけられる。
 影は守りを無視し、大いなる隙を生み出していく。
「巻き込まれぬよう、下がって守りを固めろ」
 そう言い聞かせた小隊の面々が守りを固め、挑発するような動きを見せる。


「軽歩兵が挑発に乗ったか……彼らが前に行くなら仕方あるまい。
 重歩兵隊に引き続き敵の後方を押し上げさせるしかないか」
 馬上、敵陣へと軽歩兵が攻めかかっていくのを見つつ、クラウゼンがぽつりとつぶやく。
「……オーステット殿。これより我らは別行動だ。貴方には――」
「はっ!」
 ピシリと背筋を伸ばしたオーステットと言葉を交わし、クラウゼンが動き出す。
 戦局が動くまであと少し。


 戦いの硬直は主力部隊の状況を徐々に悪くしていた。
 包囲を受けたことで当初の狙いだった軽騎兵への派兵は困難と化している。
 それ以上にイレギュラーズ側にとって被害を増大させる理由となってしまったのは、対地榴弾砲だ。
 包囲を受けるような形になったことで、榴弾砲の弾丸はイレギュラーズへ通りやすくなってしまった。
 夜告鳥の告げる囁きが、小隊兵の疲労を告げている。
(このままじゃあ回復が追い付かない……)
 イズルは感じ取れる兵達のメンタルの調子を鑑みつつ、近くにいた者へ癒しの薬液を投擲する。
 淡い輝きを放つ霊薬が強烈にその傷と精神力を癒していく。
 それでも、足りない。大隊戦闘であるがゆえに、攻撃が与える影響は双方ともに広く、若干のリソース不足が否めなかった。
 特に、対地榴弾砲が飛んできた場合は被害が大きい。
 その点、どちらかといえば、範囲回復を持つ他の小隊長に劣ってしまう。
 だが、1人へ与える回復量で言えばイズルのそれは他より多い。
 それが最大限に輝く時がくるまでは、生き残らなくては。
 ヴラノス隊は包囲を受けるような形となった友軍から外れ、軽装歩兵の側面を叩くように走る。
 煌く素粒子状の刃が真っすぐに走る。
 ヴラノスが叩きつけたその刃に続けるように、小隊兵達も突撃を仕掛けていく。
 それは直接的な攻撃ではなく、生命力を喰らう猛威。
 横腹を撃ち抜かれるような形となった軽装歩兵の動きが揺らぐ中、ヴラノスは視界の端で別の小隊がこちらに向かって動き出そうとしているのを見た。
 それは戦車の周囲を囲っていた護衛の兵士達だった。
「深追いしすぎるな、退けるようにしておけ」
 小隊へ指示を出しながら、ヴラノスは向かってくる護衛兵を見た。
 そんなヴラノス小隊の横を突っ切るようにして、イルザの小隊が軽歩兵へ突撃していく。
「みんなー!ボクにメロメロになっちゃえ!」
 ウインク一つ。
 仲間達を、それ以上に自分を奮い立たせるようにブラワーは元気よく飛び跳ね、笑顔で踊りながら声を上げた。
 歌うはBlauer Himmel。
 青い空の向こうまで届くように、聞いたみんなが元気に幸せに暮らせるように。
 そんな思いを込めた万感の歌が、過酷な戦場に疲弊する人々の心に光を灯す。
 その歌声は仲間達のみならず敵さえも魅了する奇跡のような歌。
 炸裂する砲弾に身体が裂かれようと、傷が刻まれようと。
 声がある限り、ブラワーは次を歌う。
 その姿は兵士を、仲間を奮い立たせた。
 リュカの瞳には広域を把握している。
 その視界にて軽騎兵の動きが見えた。
(……どっちかが動き出したな)
 事前情報でどちらがクラウゼンでどちらがオールステットか分からない故に、どちらかまでは分からない。
 だが、片方が動き始めたのだけは見えた。
 それを他のイレギュラーズに念話で伝えながら、その視線を押し上げてくる重装歩兵へ向きなおす。
 圧殺するように竜の闘気を以って叩きつけながら、小隊と共に重装歩兵を押し返さんと向かっていく。
 ホワイティは振り抜かれた両刃の長剣を盾で抑え込んでいく。
 小隊の兵達が同じように圧迫を受ける中、ホワイティは一歩前へ無理矢理踏み込んだ。
 体重を乗せるように重心で押し込むようにして、一歩前へ。
「負けるわけには行かないんだよぉ」
 奮い立たせるように魔力を剣に籠めれば、柔らかな灰色のオーラが辺りを包み込む。
 優しい光は小隊兵の傷を癒し、HPを回復させていく。
「私達と一緒に食卓に並ぼうぜ!!」
 振り抜かれた長剣がきうりんの身体をスライスキュウリに捌いた直後、再生した身体で快活に声を上げれば、驚いた様子を見せた敵兵の注意が自分に集中したのが分かる。
 ほぼ同じ原理で、スライス大根にされたり、スライス人参にされたりした小隊兵達が再生していく。
 絵面はアレだが、それ故に敵兵からの注意は露骨に集まっていた。
 青果をホワイティ隊へとぶん投げながら、きうりんは自分達のか弱さ?をアピールしていく。
 放物線を描いた重装銃兵の弾丸がばらまかれて小隊を貫いていく。
 グレイシアはそれを受けながら、リュカの話を聞いて軽騎兵の方へ動こうと試みていた。
 しかし、目の前にいる重装歩兵が問題だ。
(なにをするつもりか分かりかねるが……まずは押し返さねばどうしようもない……か)
 軽騎兵の方へ行こうにも、目の前で交戦中の敵部隊をどうにかしなければ難しい。
 再び影の刃を敵陣へとけしかければ、続くように動いた小隊兵の攻撃が加わっていく。


 戦いはイレギュラーズの完全な想定通りとまで行かなかった。
 軽歩兵を誘い出す作戦までは上手く行っていた。
 だが、重装部隊への抑えを相手が動いてからにしたことで、重装歩兵隊による包囲を半ば受ける形になりつつある。
 主力は硬直し、流れは停滞し始めていた。
 ファン、ミドリ、ルージュの3人はその様子を見ながらも耐え忍び続けていた。
 そして――その時は遂に訪れた。
 それまで戦車の護衛に回っていた兵士達が動き出した。
 護衛兵は、交戦によって数の減り始めた軽歩兵の援軍とばかりに突撃を開始する。
「さあ! みんな続いて! ぼくよりも勇ましいとこを見せてちょうだいね!」
 その様子を確認するや否や、ミドリは振り返って兵士達へそう告げて、一気に走り出した。
 事前に構築しておいた術式を読み込みながら進み、射程圏内に入った時、ミドリは一気にそれを励起させた。
 その瞬間、戦車の関節部分から微かな火花が散った。
 分厚い装甲の僅かな一部、そこへと引き起こす一種の故障が姿を見せる。
「にーちゃんたちーー!! 行くぜ!! あの戦車を破壊すれば、おれ達の勝ちだ!!」
 建物の上、眼下を見据えたルージュは自分の部隊にそう声をかけて一気に走りだす。
 笑顔での先導し、空を舞いながら戦車の方へ走り出す――が。
「――――まずい!」
 ギチギチと動く戦車の片方、その砲台がルージュたちの方を射抜いている。
 砲声が轟き砲弾がこちらに向かって飛翔する。
 高い回避能力でも処理しきれぬ破片の数。
 炸裂した榴弾が、幾つもの小さな刃と化してルージュの身体を切り刻んでいく。
「裂空虎徹――っと、こんな感じですね」
 ワンアクションで振り抜かれた虎徹の太刀筋が戦車めがけて駆け抜ける。
 タイミングをずらしたファンの斬撃が、ギチギチと音を立てながらこちらを向こうとする戦車の砲門の1つに傷を入れた。
 1本が砕けようとも他は健在。こちらへ向く砲門を見据えながら、レーダーマップを見た。
(……あれは)
 そこには光点が1つ。イレギュラーズを迂回するようにして動くその部隊の速度は、間違いなく騎兵のソレ。
(この動きは……こちらの背後を取ろうとしている?)
 だが同時に、もう一つの光点が動かない。
 ――いや、今動いた。
 その動きは戦車へと突撃してきたこちらへ向くもの。
 視認してその姿を確認し、小隊へ指示を飛ばす。
 同時、ミドリは敵の騎兵が向かってきているのを確認し、戦車へと肉薄する。
 自らをチューニングして効率を高めるや、強く踏み込む。
 視線を真っすぐ――小さな接続部を見つけては、そこ目掛けて細剣を走らせていく。
 ほぼ同時、小隊の面々も同じように戦車へと取り付いていく。
「こういうものほど、小さな部分が壊れると駄目になるんだ! 着いてきて!」
 声を張り上げるように告げれば、兵士達が呼応する。
「にーちゃんたち! 大丈夫か!」
 砲撃を受けて崩れた態勢を立て直して、ルージュが声を上げると、すぐに兵士達の反応が返ってくる。
「よし、じゃあ行くぜ! まだ動けるならあの戦車さえ破壊すればおれ達の勝ちだ!」
 ギチギチと音を立てながらこちらへと砲門を向けようとする戦車を見据え、ルージュは鼓舞すると同時に走り出す。
 笑顔は忘れず、真っすぐに空を走るルージュとその小隊は、片方の戦車の上空へ。
 そのまま小隊諸共に戦車の降下めがけて降下する。
 砲身を思いっきり殴りつけ、可能な限りのダメージを負わせていく。
 可能であればへし折れ――そうでなくても最悪、砲身が曲がりさえすれば、戦車はただのデカいゴミだ。
 殴りつけ、へし折り、曲げて。
 自らの仕事を終えて振り返り――そこへ騎兵が飛び掛かってきた。
「来るのがおせーんだよ。もう、この一撃で最後だぜ!!」
 突撃してきた騎兵に、数人の小隊が切り伏せられる。
 敵の小隊長らしき男へ挑発を告げれば、相手が鋭くこちらを見ていた。
 特徴的な髭をしたその男は、自分を含む5人の騎兵で続けて突撃してくる。
 振り下ろされたサーベルを何とか躱しながら、通り抜けていった敵が集結して戻ってくるのを見た。
 戦車への肉薄を果たしたファンはもう一度抜刀する。
 刹那に放たれる斬撃を切り詰めるように細く、刃を分厚く見せるほどの残像を以って放たれた抜刀は美しき軌跡で戦車を真っすぐに切り開く。
 装甲を無視して放たれる斬撃に戦車が軋みを上げた。
「戦車を斬った事はありませんでしたが、存外なんとかなりそうですね」
 続くように小隊兵達が戦車へと鈍器を叩きつけて破砕していく。
 反撃は無く、攻め立てるだけ攻め立てていく。

 戦車への強襲を為したことで、戦局は中盤に差し掛かろうとしていた。


「ルージュアタック!!」
 握りしめた拳。ルージュは声を張り上げてあらん限りの力を騎兵隊めがけて叩きつけた。
 小隊は限界にまで来ていた。
 突撃してくる騎兵へ相対するように握りしめた拳に魔力が籠り、魅剣へとその輝きを伝達させていく。
 振り抜いた斬撃は騎兵隊の隊長の首目掛けて振り下ろす。斬撃は真っすぐに軌跡を描いて確かに敵将の身体を切り裂いた。
 合わせるように見たその敵将が握る銃が、引き金を弾いて――パン、と乾いた音がした。
 グラフィックが歪み、HPゲージは0を示す。
「ここまでみたいだ」
「見事なり、小娘――」
 確かにそんな声を聞きながら、ルージュはログアウトの文字を見た。
 ミドリは術式を起こすと共に再び戦車へと猛攻を仕掛けていく。
 へしゃげ、折れ曲がった砲身もあって歪な戦車の僅かな隙間へ、針でも通すような丁寧な連撃を撃ち込んでいく。
 ここまで来る間に傷がほとんどないがゆえに、真紅の輝きはあまりにも心もとなく、追撃の歯車は真価を発揮していない。
「これで、終わり。こういうのの弱点を見極めるのは得意なんだ」
 踏み込みと同時、放たれた斬撃が、遂に戦車の動力を貫いた。
 煙を放ち、火花を散らせる戦車が爆発を起こすのを間近で見届けて、浅く息を入れる。
 じじ、じじ、と精密機械からしてはならぬ音がする。
 そこかしこから煙が立ち込め、火花が散る。
 素早く切り裂いた斬撃の軌跡が戦車を半分に両断してから、ファンは一つ息を漏らす。
「あと1基ですね……」
 そう言葉に漏らして、もう一方に視線を向け――そちらから煙が上がっているのを見た。
 その直後――2基の戦車が両方とも爆発を引き起こす。
 けたたましい音と、グラフィックの揺れを引き起こしながら、倒壊した戦車から視線を軽騎兵の方へ向けた。
 こちらへと突っ込んでくる騎兵の姿が確かに見えた。


(軽騎兵――くるぞ!)
 広域を俯瞰してみていたリュカは、思わず念話で声を上げた。
 イレギュラーズの後方へと回り込んだもう一つの騎兵隊が、背後から突撃してくる。
 振り返り、軍刀を掲げるように構えながら突撃してくる敵部隊目掛け、圧殺の呪いを叩きつける。
 それに2人の兵が倒れてなお、騎兵の勢いは止まることなく、一番目立つブラワーめがけて突撃する。
「お前ら、着いてこれるか!」
 声を上げれば、同意の声を張り上げた小隊兵達。
 彼らを引き連れるようにして、リュカは走り出した。
 それに続けてヴラノス隊が動き出していた。
「残虐なる智謀を終わらせる時だ! ヴラノス小隊、発動せよ!!」
 掛け声と同時、迫る軽騎兵目掛けて走り出す。
 ブラワー隊の前で割り込むようにして突撃したヴラノスは、一陣の閃きをもって薙ぎ払った。
 それに続くようにして小隊兵が攻め立てていく。
「ここが踏ん張りどころだよ、ボクもみんなも頑張っていこう!」
 騎兵隊の突撃を何とかしのぎながら、ブラワーは声を上げた。
 再び歌うBlauer Himmelが、サビに差し掛かろうとした時、ブラワーの身体を銃弾が駆け抜けた。
 HPゲージが回復と減少をほぼ同時に開始して――ほんの僅か、現象が上回る。
 それでも、死ぬその直前まで、ブラワーは歌い続けた。
 前線に開いた穴、そこへ雪崩れ込んできた戦車護衛兵達を抑え込むようにして、ホワイティは剣を掲げた。
 軍刀が閃くのに合わせて盾を振るい、何とか弾き飛ばしてから、勢いに乗って剣を振り下ろした。
 今度はそれが軍刀によって防がれる。
「あともう少し……頑張って、皆!」
 それは果たして小隊の者達への言葉なのか、あるいは――自分を奮い立たせるためか。
 護衛兵達の突貫を、小隊と共に押し返すように突き進んだ。
「巻き込んでいいからもう私ごとやれ!!」
 自らを奮い立たせたきうりんは、軽歩兵めがけて突撃し、張り付くと同時に声を上げた。
 馬鹿馬鹿しい戦争へ終止符を打つための一歩。
 その姿は死を恐れていないようにも見えた。
 グレイシア隊は重装歩兵を振り払うや、敵騎兵隊の方へと向かっていた。
 グレイシアは特に最前衛にて突撃してきた男に視線を向ける。
「馬の質が少しばかり良さそうだ。指揮官だね?」
 影をけしかければその男の身体を締め上げた。
 直後、影は男の生命力を収奪し狂気をもたらした。
 イズルは再び前線へと近づくと、薬品を散布する。
 ばらまかれた薬品が精神力を冒し、その身体に呪いをもたらす様を見ながら、小隊兵達に指示を飛ばす。
 指示を受けた小隊兵が仲間へヒールをかけていく。


 戦いは徐々に終盤へと傾こうとしていた。
 2基の戦車を破壊し終えたミドリ隊とファン隊が合流したことで戦線の動きが変わっていきつつあった。
 ファンとミドリを追うようにして突っ込んできた軽騎兵隊へ、割り込むようにして展開したのはグレイシア隊だった。
 最前衛に布陣して、腕章から敵の指揮官を悟るや否やグレイシアは影を放つ。
 狂気をもたらす魔の影が敵将の愛馬を這いずり回り、やがてその敵将の体を飲み込み、縛り上げる。
 リュカはグレイシア隊が締め上げている敵の騎兵へと突撃していた。
 押しに押し上げる部隊の圧、その最前線。
 リュカはその手に赤いオーラを纏いながら、一気に肉薄する。
 狂気に踊る敵将、その首へ。
「お前の戦い方、悪くなかったぜ! でも――悪いな、俺達の勝ちだ!!」
 踏み込みと同時、拳を固めて叩きつけた手刀が男の首を貫いた。
 イズルは軽歩兵の攻撃を何とか受け切って、自らを回復させていく。
 癒しの霊薬は瞬く間に重篤な傷を癒し、穏やかな心持を取り戻させていく。
 体制の立て直しが完了すると、そのまま軽歩兵めがけて劇薬を叩きつける。
 ほぼ同時、それに続く小隊兵達も同じように劇薬を叩きつけ、軽歩兵の動きを封じ込めていく。
 ヴラノスは奇襲気味に襲い掛かってきた軽騎兵との衝突を繰り返していた。
 突撃と後退を繰り返す騎兵隊を断ち割るように、真っすぐに走り抜け――ただ敵将の首のみを目指して刃を払う。
 鮮やかに血の華を咲かせる攻撃は、遂にその首を捉え、グラフィックの輝きを散らせながら敵将の首が空を飛んだ。
 イズルの動きを見逃さず動いたのは意外にもホワイティだった。
 自身へ引きつけた軽歩兵の注意を受けながら、盾を置いて両手に剣を握り、勢いよく回転斬りを叩き込む。
 業火を放つ回転斬りは熱量を帯びて軽歩兵の身体を焼き払い、数人の歩兵がデータとなって消えていく。
 今度こそ、あともう少し。彼女の瞳には未だ闘志があふれていた。
 一転攻勢に出る中、きうりんはホワイティの受け持たなかった重歩兵たちにも対応していた。
 敵からの攻撃を抑えながら、反撃に各々の野菜型の爆弾を叩きつける。
 自分から生えているきゅうりをもぎ取って、バリボリと喰らって体力を振り絞り、既に振り下ろされている敵の刃を見た。
 同時、ミドリと共に護衛兵の後方にたどり着いたファンは肉薄と同時に裂空虎徹を振り払う。
 風を切る斬撃が後方から護衛兵の1人を切り裂くのに続いて、小隊兵達が一気に突撃していく。
 振り返って守りに入った護衛兵に、横槍を入れるようにしてミドリ隊が突撃を仕掛けた所で、護衛兵の動きが乱れていく。

 抵抗続く戦場は、やがてクラウゼンとオーステットの戦死が判明したことで崩れ去っていく。
 それまでの激戦が嘘であったかのように、そこからの動きは速かった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ブラワー(p3x007270)[死亡]
青空へ響く声
きうりん(p3x008356)[死亡]
雑草魂
ルージュ(p3x009532)[死亡]
絶対妹黙示録

あとがき

かなりの激戦になりました。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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