シナリオ詳細
<グランドウォークライ>戦場を飛べ、駆けろ、僚友を戦場へ!
オープニング
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淡いピンクの水晶が地面からいくつも生えている。
光を反射させてあたりをほの明るくするその様は、なんとも幻想的な眺めだった。まるで甘い女の子の夢の世界のようだ。
事情を知らなければ、良い夢の世界に進行してくる悪夢の軍団。
さにあらず。皇帝を弑し、内乱を扇動し、闇の力で想像した偽物の軍勢を率いている『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュを討伐するため立ちあがったゼシュテリウス軍閥のDARK†首都への進撃が始まったのだ。
ズドゥムッ!
滑空し、着地モーションに入ったエクスギアから爆炎が上がり、NPCのHPステータスバーがあちこちで音を立てて0になり、ドクロマークのアイコンが乱立する。
「キャハハハハ! 棺桶で来るなんて、準備がいいね。花丸!」
明るい声。顔に影が落ちて表情はよくわからない少女兵の哄笑。
城壁から、バズーカが射出される。
あともう一息で着陸可能となったエクスギアが次々と撃ち落とされた。
「――そんな分かりやすい弾道で来るなんて。落としてほしいんだよね。わかるよ」
少年兵はポソポソと呟いた。
「喜んでくれていたらいいんだけど――」
「エクスギアでは落とされる。もっと頑丈な装備を」
ゼシュテリウスの動きは早かった。
虎の子の装備、強襲型エクスギア『ダイダロス』に『黒鉄十字柩』を搭載し、強行突破する作戦を立案した。
「イレギュラーズと『ダイダロス』に任せるしかない」
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「はいはい、R.O.O、新イベ来たんだってさ」
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、ローレットの共通レジュメと首っ引きだ。
「『自分の王国を手に入れるため鋼鉄帝国にシャドーレギオン(DARK†WISHに侵された人々)を作りだし内乱を誘発させていた『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュでしたが、イレギュラーズが次々にDARK†WISHを晴らしていくせいで計画は崩壊。ヴェルス率いるゼシュテリウス軍閥がただ大きくなるだけになってしまいました』――佳境に入ってまいりました」
前回の全体イベントである<Genius Game Next>から<フルメタルバトルロア>に移行。イレギュラーズの頑張りが実を結びつつあるという訳だ。
『この状況にしびれを切らしたディアナはすべての力を振り絞り首都スチール・グラードをシャドーレギオンの都市に変えてしまいました。首都の中心である城はピンク色の水晶で飾られたディアナキャッスルに変貌し、並み居る精鋭戦士たちもシャドーレギオンへと置き換えられています』――まって。何で、そんなファンシーなデザインなの?」
メクレオは、ゲームだから? と、首をかしげている。
『主要人物たちはディアナキャッスルの中に囚われ、闇の力で創造された偽物たちが首都を牛耳り始めています。内乱が仕組まれたものであったとしても、ヴェルスをはじめとする鋼鉄民たちの愛する鋼鉄が穢されることは許されません。これまで仲間にしてきた軍閥たちと力を合わせ、ギアバジリカの全力をもってDARK†首都への進撃が開始されました』――以上が、差し迫ってる全体の流れな。これ以上の詳細はR.O.Oのアーカイブ? というのを見なさい」
「『立ち塞がるのはシャドーレギオン首都防衛部隊』 とか言いつつ、DARK†WISHだけを抽出されて分裂した個体なので、倒せば消えてしまうシンプルな敵だそうな」
つまり、あれだ。再生怪人だ。
「大体のみ込んだか? そんじゃ、個別の説明に行くぞ」
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「みんなには、ディアナキャッスルのバカみたいに分厚い弾幕を黙らせてもらいます。えーとね、豪雨のような高射砲と雹のような榴弾と隕石のようなミサイルがいい感じに飛んでくるって感じかな。友軍は勧めず時間だけが過ぎて行ってる状態。めっちゃまずい」
でも、一応策はあるの。と、メクレオは言う。
「そのために強襲型エクスギア『ダイダロス』を投入するしかないんだわ。 このダイダロスは何人もの味方を格納したまま敵拠点に突入できる強襲特化型兵器だよ。厳しい城からの弾幕を掻い潜り、城にこいつを突っ込ませるんだ。そうすると、味方精鋭が突破口を開き、友軍たちが攻勢に転じられる。みんなはガイドロープになるんだ」
メクレオはにっこり笑った。
「現実でなくてよかったな。これが現実だったら、俺謹製の酔い止め薬を処方しなくちゃならないところだった」
メクレオの酔い止め薬は魔の海域でも船酔いだけを打ち消し、副作用も依存性もない良薬だが、記憶が飛ぶ程度に不味い。R.O.Oでよかった。
「さて。 ダイダロスは飛行機型と装甲車型の二種類がある。どう使うかは面子に任せる。空向きか陸向きかは相談しないとわからないだろ。ダイダロスに登場した時点で、『ダイダロス』はあんたらの味方ユニット。つまり、あんたらが『ダイダロス』を強化すればちゃんと強化される。あ、回復も効くぞ。一度被弾したくらいでサヨナラサヨナラ言い出すなよ。粘れ」
つまり、ヒーラーや補助魔法使い非常に大事ということだ。
「『飛行機型は空を飛べますが防御が弱く、装甲車型は防御が強い代わりに地上のバリケードなどを突破しなければなりません』飛行機なら一直線に飛んでいけるが、一発当たったら戦力激減。当然、弾幕はそっちぬむけて厚くなる。装甲車型は多少ぶっ放されようが屁でもないが、地上のバリケードに地雷に飛び乗って乗降口から手りゅう弾ポイチョしてくるような奴をどうにかしなくちゃならないからな――それと、ついて終わりじゃないからな」
何か、言い出しましたよ、この情報屋。
「突入した時点で、味方の突入部隊は例の棺桶の中だ」
エクスギアだ。万一被弾してもある程度の距離まで来れば、城壁に突入の目はある。
「エクスギアから出撃できるまで若干の時間があります。その間、ダイダロスから出て、敵防衛部隊を倒してもらうぞ。飛行機の方なら城壁上部。戦闘工兵部隊だな。えっと、爆薬使いでザイルとかでの登攀にも長けたレンジャーが主な構成になると思う。装甲車の方は重装甲歩兵部隊だろうな。まあ、ひき潰せばいいんだ。止まるまでにできるだけ」
で、距離を保ちつつ、『ダイダロス』を死守する。
「この作戦は、途中で乗り物を使っているためサクラメントから現場に戻ってくるのが非常に困難。安易に生存率を落とすような立ち回りしないように。お前の肩に搬送してる10人の小隊の命がかかってるからな」
メクレオは、説明が多いと茶をすすった。
「血迷ったお姫様にかっこいい歴戦の兵士をデリバリーだ。なかなかいい仕事だろ? 一つ、いい感じで攻め込んでくれ。あれだ。作戦完了時、『ここは任せて、先に行け!』と叫んでいいぞ」
- <グランドウォークライ>戦場を飛べ、駆けろ、僚友を戦場へ!完了
- GM名田奈アガサ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年09月24日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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ギアバジリカから、次々とエクスギアエクスが飛び立っていく。数多の発着ブースの一つに、強襲型エクスギア『ダイダロス』が用意されていた。
同作戦に参加する飛行機型3機の出陣フェイズは最終行程に入っている。
カタパルトの奥の格納庫に搭載される棺――特別強襲兵器『黒鉄十字柩(エクスギア)』――の中に納まる戦士を『逧 蛻コ蟷サのアバター』ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)を見送った。
「安心してろゲドイトゥ、コンスタンツァ。この戦、既に勝っている」
血でびちゃびちゃにぬかるんだ荒野で刃を交わした間柄だ。生きながらえさせた責任というものがある。隊長を任せるのは、ヴラノスに。というご指名だ。
「理由は単純。君たちと戦った時より、今の私が倍は強いからだ」
「ああ。私と部下の命、お預けしますわ――では、後程」
コンスタンツァからの短い通信。強烈なGやアクロバティック飛行に耐えるため、エクスギア内は色々意識や痛覚がカットされる設定だ。何しろゲームなので、主観的にはカットされる。
ローレット・イレギュラーズはそのカットされる縁の下の力持ちの仕事なのだ。
「良いでしょう、この艦を任されたからには気高き勇士達を敵地まで送り届けてあげます」
ハウメア(p3x001981)の白い4枚の翼がコクピットの中で窮屈に折りたたまれている。
「あぁ、だけど……乗り心地には期待しないでくださいね?」
すでに柩に収まった戦士たちに小声でことわった。もう聞こえていないだろう。射出までもう時間がない。
「全力を以て味方機を送り届けるミッション。良いですね、滾ります」
『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)は、操縦桿を握り込んだ。
「安心してくださいとは言いません。ただ到着した後の事を考えておいてくださいと――」
速攻飛び出してやんよ。と軽口を叩いていた小隊の面々のエクスギアはい真名静かだ。
「発艦許可が下りました。最終シークエンス。自動発艦ののち手動に切り替えられます。シートベルトを締めて、操縦桿を握って下さい。パイロット、アテンション――」
かかるGに視界がゆがむエフェクト。
ギアバジリカから、三機のダイダロスが飛び立った。
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時同じくして、装甲車組もギアバジリカから出撃していた。
「酔い止めもだろうけど、保険も入っときたい奴だね」
現実でなくてよかった。 『R.O.Oの』神様(p3x000808)が入れる保険ってあるのか? それは保険の外交員の信仰心に左右されるのだ。だって神様だから。
「でもコレ現実だったとしても多分やる事になンでスよ分かる」
その場合、シートのクッションとサスペンションは上等なものにするべきだ。物理的に尾てい骨が死ぬ暴れっぷり。現実だったら折れている。
「ディアナキャッスル……! 悪趣味にも程があるでしょう!」
『航空海賊虎』夢見・マリ家(p3x006685)が、視界をキラキラファンシーにしている桃色水晶に怒号を浴びせた。
「ひゃっはー! 夢見軍団参上! 邪魔ですよ! ヴァレ家の道を開けなさい!」
猛虎の魂に呼応した装甲車は、分厚い外皮を手に入れた。とどろくエンジン音は猛獣の咆哮だ。
「勝手知ったるスチールグラードが大変な事になってしまったわね……」
リアルとゲームの違いはさておき。
トリス・ラクトアイス(p3x000883)は嘆いた。無理らしからぬことだ。鋼鉄の重厚かつシックなたたずまいが夢カワイイ。反射光の水色、キレイ。エフェクトグリッティングが止まらない。画面処理が無意味に重くなる奴。五感ダイブ式でなかったら運営にお問い合わせがたくさん届いちゃう仕様だ。
「前の皇帝って、すごいファンシーな趣味だったのですね」
『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)による風評被害。
「ディアナの仕業だよ。ディアナキャッスルって名前だもん」
実際、敵勢力モブがディアナキャッスルと言っているのがテロップに出る。
「成程、ちょっと安心しました」
明らかに地に足がついていないお城だ。ゲームとしてもちょっとない。
「行きましょう、拙者達のスチールグラードを取り戻すために!」
陸戦隊の方なので、虎と忍者要素がメガ盛りということなのだ。航空、海賊が陸にいるとは思うまい。忍んでいます。虎は千里を走るんだよ、どっかの世界では!
「おらおらー、道を開けなさい! ヴァレ家様のお通りですよ!」
幸いにも、外部スピーカーがついている訳ではないのでヴァレ家は十分忍べている。何の問題もない。
瓦礫の中にそびえ立つ水晶の壁がイレギュラーズ達の征く手を遮る。積み重なる両陣営の歩兵の死体。撃墜されたエクスギアの残骸。あちこちで炸裂音。整然とした街並みは崩れあちこちから火の手と煙が上がり、装甲車の振動音に時々空を切り裂く戦闘機の音が混じる。
【敵陣強襲作戦を開始します。当たって砕けろ、go to helldです】
キャタピラにかき消され気味の『□□□□□□□□□□』スクエア(p3x008096)の電子音声が視界ARにテキスト表示される。
操縦用ギミックが操縦桿やペダルではなく得体のしれないチューブ直結である。大丈夫だヨ、単なる演出だからアバターに支障はないヨ、ホントだヨ。
自前の【マップ画面表示】を装甲車に同期させ、敵の薄桃色きらめきクリスタルアイコンをの密集具合にげんなりする。
【縫うように――ってほんとにむちゃさせますね!】
「塹壕戦に戦車を投入するが如しというか、無理を通せば道理が引っ込むの極地みたいな作戦だけど、このダイダロスを信じてやってみるとしましょうか」
トリスの装甲車はごり押しながら戦場をかけ進む。
「どうでもいいけど、イカロスじゃなくてよかったよね、命名」
それは――きっと関連世界出身ウォーカーが止めたんだろう。縁起でもない。臨界を迎える前にさらりと溶けてしまいそうだ。乳脂肪控えめの氷菓のように。
ふっと、音もなく光り輝く神々しい装甲車が戦場を通り過ぎた。
「貴君等の神だ」
保険のことをとりあえず棚に上げた神様は、僚機に通達した。そう、神は常にあなたのための神です。
「我々はコレよりハデに目立ってハデに注意を引きハデに敵性体を殲滅す良いな」
派手なことにおいて、GOダイダロスGOD号陸装走行仕様を越えるのはなかなか難しい。周囲の水晶の反射光を浴びて、神々しいことと言ったらうっかり昇天しかねない荘厳さだ。
「返事はそうかハデに行くぞォ!」
神様だからR.O.Oに生きる者の声が聞こえるのだ。神は聞き給うた。神よ、我ら進軍せり。と。
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能動的能力の同期でブーストされたカノンのダイダロスは、探索技能をいかんなく発揮する。
「上空からの敵軍や敵攻撃手の索敵が優先です」
眼下で五台の装甲車がスラロームしていく。
じっくり見る間もないのは、弾幕が四方八方に展開しているからだ。分厚い弾幕という事前情報に嘘はなかった。
わずかな隙間をこじ開けるように城壁を目指す。
弾道に規則性のある機銃の弾幕に慣れると、ふいに視界に入ってくる迫撃砲弾が機体のすぐ脇で炸裂する。カノンの天啓がぎりぎりで命運をつなぎとめた。
「旧式のバズーカなんて弾幕で撃ち落としちゃいますよ!」
視線の先、城壁の上には『バズーカ射手』ユーリー・テフラニコ。旧式のバズーカ砲で飛行機を落とす非常識な射手のシャドーレギオン。
ただ真っすぐに飛行機を落とす、針の穴を突く射撃。飛行機を狙うのではない。撃った先に飛行機が突っ込んでくるのだと本体は語ったという。
みんなが楽になれればいい。という願いは、苦しくなる前に落とせればいいというDARK†WISHに変容された。
本体は救出され、シャドーレギオンだけがゆがんだ願望のまま引き金を引き続けている。
改造魔力弾による弾幕に阻まれ、バズーカ弾は戦場の空にとける。
カノンの機体はいまだ健在。損傷はあるが飛ぶのにまだ支障はない。エクスギア格納庫は死守だ。
「冒険者たるもの飛行機だって扱えますっ」
世界の流れに従う者は、多才も要求されるのだ!
ハレーションを起こしそうなメインモニターが死んでる間も無駄にはしない。
サブモニターには地上が映っている。後続の僚友のため、ハウメアは直下のバリケードに照準を合わせた。
「到達できる味方は多いに越した事はないですからね?」
それは全てを焼き尽くす業火の雨であり、全てを侵し尽す猛毒の雨。奈落の紫焔で形成された魔矢の雨は、撫子色の水晶によく映えた。最期の破砕の瞬間まで。
砕けた水晶が重装甲歩兵に刺さる。その影を縫うように小さな影が装甲車に向かって走っていく。
(牽制――せめて目印に!)
槍に紛れてグラノス機が機種を下にして堕ちていく。
錐揉みしながら落ちていくのを、シャドーレギオンたちは薄嗤いを浮かべながら見ていた。
彼らは知らなかった。それが舞であることを。無窮にして悠久。主翼は意を風に溶かし、尾翼は真理に舞う。
弾幕をいなし、自由落下とは比べ物にならない速度でそれはいつのまにか彼らの直上にあった。
乱反射する水晶の光は、黄昏の夕映えの如く。風防ガラスの向こうのヴラノスの笑みに気付いた者は次の瞬間、大型戦闘機の衝撃波に飲み込まれた。
悪意を練り上げてくくった生き人形が心を壊されたら、残るのはただの残骸だ。
地面すれすれから機首を上げ、上空への急速上昇。これがゲームでなければ、身体中の毛細血管から出血して洒落にならないところだった。
飛行機型の構造上、これ以上この区域にとどまることはできない。
三機は後を装甲車に託して、城壁へと急いだ。
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神の凱旋である。光輝き、輝きすぎてシルエットしかわからない。光学スコープがみんな役に立たない。
「路無かろうと海面だろうと空も地中も 神が通れば全て道」
神は征く手を遮られてはならないのだ。火柱が立ち、雷が降り注ぎ、神風が吹く。全てほどほど、チート扱いされない程度に。
光の槍が念入りに投下された辺りから飛び散る瓦礫と水晶に紛れるようにして黒い影が飛び出した。
事前の情報から行くと、あれが『悪魔のプレゼント』ジブライル・リュグペシナ――の、シャドーレギオンだ。
DARK†WISHだけを抽出されて分裂した個体。倒せば消えるまやかしだが、戦闘能力だけは侮れない。
装甲車に取りつかれたら、ハッチから物騒なプレゼントを投下される。
いっそ、振り落として轢殺したいが、敵はなかなか身軽で地面に降りないのだ。
【アクティブスキル3の発動を確認しました。レーザーでの面制圧を行うため先行します。選別はついてませんので攻撃範囲から退避願います】
スクエアからのテキストメッセージが『緊急』と警告付きで点滅する。辺り一面まったいらにするから避けてろと言う意味だ。着弾して二秒後に当たりが真っ赤に染まる。黒い影が、スクエアの装甲車とすれ違った。
「ヴァレ家~どこ~!?」
マリ家は、対象限定念話兼GPSをスキルとして発動させた。半べそがスイッチだ。譲れない、この絵面。
「マリ家、気を付けて下さい。そっち行きましたよ!」
くそ重たい装甲車が片輪走行で急速回転。これもヴァレ家の空蜘蛛の術――ホバー装置との同期の賜物である。航空海賊忍者のせいで若干浮いているのだ。この装甲車。
THTB――ツインハイパータイガーバルカン。 普段なら、メカニカルトラ着ぐるみに搭載されているが、今回は装甲車にマウントされている。狂気をまき散らすバルカン砲は、装甲車に向かって駆け寄ってくる重装歩兵に向けて乱射される。
「THTBで敵に狂気を付与し味方損害を軽減すると同時に、同士討ちで敵軍を混乱に陥れます!」
だって、虎と狂気はつきものだから。
「何をやってる!?」
つい先ほどまで、加齢のドライビングテクニックで重装甲歩兵を轢殺しまくっていたマリ家機が急に陣形を離れ、互いのフォロー域の外に向かって驀進しだしたのだ。
「ヴァレ家~!! たすけてくださ~い!」
テキストデータが、ヘルプ! と点滅する。
機銃掃射をかいくぐり、黒い影がマリ家の装甲車の屋根に飛び乗った。頼みのTHTBの死角。打ったらお互いを壊し合う絶妙のポジショニングだ。ハッチのハンドルに手がかかった。
「マリ家!」
念話は確かにマリ家に届いている。ヴァレ家の絶叫はマリ家に届いているはずだった。
がこんとハッチを開ける音の後、ぶおん。と、小さな音がした。
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ハウメア機に搭乗した小隊はエクスギアの中でよかったと感謝するべきだ。
たとえ五感信号が緩和されていても、急旋回や急上昇急降下を繰り返し、逆噴射した挙句に推力を流れるように変化させて、空中で動力切りながら慣性で飛行した結果ブレーキ扱い。視覚情報だけで嘔吐中枢がやられる状況だからだ。ハウメア本人はエクスシア――羽根を持つ天使の上、飛行制御持ちなので、別にどうってことはないのである。
「同乗者には悪いけれど、予め伝えていたでしょう? 『乗り心地は保証しない』と――」
しかし、この成果の前に文句など誰が言えよう。
ディアナキャッスル外郭城壁。数多のエクスギアが刺さる墓地のようななか、ついにダイダロス三機は到達した。
こちらに銃口を向ける高射砲。その陰に隠れるようにうずくまる旧式のバズーカを足元にいくつも転がした少年兵――ユーリ・テフラニコ。
画面が急に赤く染まる。照準をロックされています。狙われている。本来ならバズーカの射程外。
警告音。射線を切るため、急速降下。城壁すれすれ、城壁に機体の腹をこするんじゃないかと思うほどすれすれを飛ぶ。
旧式のバズーカは軽い。城壁の箸すれすれまで飛び出して、城壁の上を走るユーリの照準はエクスギア格納庫から外れない。
墜落を回避するため、ハウメアが機首を上げるのを待っているのだ。
ユーリの口の端が撃墜を確信して吊り上がった瞬間。
電磁加速により雷速にまで高められた串が、ユーリの脇の下を抉り込んで肩を粉砕した。ガローンとちぎれた腕ごとバズーカが下に落ち、地面につく前に爆発した。
「狙撃手が狙撃されるなんて――」
装甲車のコクピットでマリ家は呟いた。
「屈辱により肉体よりも精神にダメージを受ける電磁串以前に、噴飯ものじゃないですか!」
間に合ってよかった。城壁を走っていくユーリを見逃していたらどうなっていたかわからなかった。
「どうなっていたかわからなかったのは、マリ家の方ですよ!」
ヴァレ家の念話には圧がある。装甲車のハッチから逆さのヴァレ家の顔。
「相手がホバー型の装甲車の真骨頂を理解してなかったからこその接近だったんですよ!」
忍者と虎は念話で打ち合わせしつつ。お互いを見失ったように偽装して連携をしていたのだ。
カノンからの支援である魔法弾幕に隠れ、文字通りジブライルの背後に忍び寄り、はっちに手りゅう弾が投下されジブライルが油断した瞬間、アメノウズメでその喉をずっぷり抉っていた。
「フォスです。フォスを信じるのです」
スクエア機から少しだけのぞく箱。ふよふよと投げ落とされたはずの手りゅう弾が念動力で浮いている。それをひっつかみ手早く無力させたヴァレ家とマリ家は微笑み合い――。
「ヴァレ家さん、フォローも限界だよ! さっさと戻って! 回復にも限界ってものがあるんだよ!」
ヴァレ家が乗り捨てた装甲車の同期が切れてバフ消滅。HPゲージがトリスの回復に支えられていても乱高下。癒し系スローナンバーもずっと続くとライブがだれる。
「後は、ラストナンバーまでノンストップだよ! 突っ込め、城壁内!」
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ユーリの反則的バズーカ砲撃がなければ、ダイダロスでの蹂躙はたやすい。
「あの時の最後の約束、守ってくれたようだな」
ヴラノス機の格納庫から、エクスギアのふたが次々開放される。
「感謝いたしますわ、かつて助けてくれた方」
かつてまみえた彼女は、正気ではなかったのだとわかる晴れやかさ。
「貴様に闇と汚れ仕事は似合わん。さぁ、私を踏み台に栄華へ進め。その身に孕んだ夢を掴め。輝いて見せろ、今から咲き誇る私のように!」
ソロプレイがグラノスの真骨頂だ。これから、城壁は狩場となる。
「寝坊だぞ戦争屋、君たちが御相手する主賓はあの先にいるぞ!」
グラノスは言うべきことを言える者だった。
『ここは私に任せて……先に行け!!!!』
「ヴラノス・イグナシオどのに、かしら右! ゲドイトゥ出撃する!」
晴れやかな笑顔を浮かべて、装甲歩兵部隊はディアナキャッスルに侵攻していった。
見回せば、ハウメア機からもカノン機からも欠けなく戦士たちが飛び出していく。
残ったエクスギアは三十基。一基の欠けもなかった。
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「察し通り 貴君等の神は神話の礎として絶対的な道を示す心算だ 何時でも戦闘讃歌の準備をしておけ 共に神話になるぞ」
神様のありがたい言葉に、ただ戦意を鼓舞され、装甲車から戦士たちが城の深部に向かって駆けていく。
「喇叭が足りないのは気にしないでね!! 私、アイドルなので!!」
トリスが、ハッチから身を乗り出して手を振った。アイドルのお手振りは、古今東西戦士を強くする。
きしむ4輪駆動の駆動音がパーカッションだ。
先へ向かう戦士の背中に、とびきりの凱旋行進曲を。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。無傷のエクスギアをディアナキャッスルにデリバリー出来ました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。
GMコメント
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田奈です。
「送ってやるよ。乗りな!」は、ロマンですよね。
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敵:ディアナキャッスル城壁
弾幕厚く、そこに至るまでに桃色の水晶製のバリケードで守られた領域です。
水晶製のバリケードには爆発するものも含まれていますし、屈強な重装甲歩兵がタイヤをパンクさせようと重戦斧を振り回しますし、俊敏な機動歩兵が装甲車の中に手りゅう弾をほおりこむべく手ぐすねを引いています。
そういう障害をどうにかして避けて、城壁に肉薄してください。
敵ユニット:飛行機側・『バズーカ射手』ユーリー・テフラニコ
旧式のバズーカ砲で飛行機を落とす非常識な射手のシャドーレギオン。
本体は、すでにゼシュテリウスに合流している。
飛行機で突入するなら、一直線に自分目掛けね飛んでくる砲弾に愕然としないようにしなくてはならない。
敵ユニット:装甲車側・『悪魔のプレゼント』ジブライル・リュグペシナ
装甲車に張り付き、登場口を卓にに開けて、手榴弾を放り込む毛装甲歩兵のシャドーレギオン。
本体は、すでにゼシュテリウスに合流している。
戦場に似合わぬ小柄な影を見たら、絶対に取りすがられたりしてはいけない。あるいはカウンター攻撃を狙うしかない。
●強襲型エクスギア『ダイダロス』
今回の作戦では『ダイダロス』が複数台与えられます。最大8台のダイダロスで敵の城めがけて突入してください。
この作戦に成功すればするほど、味方の部隊は敵中心部への侵入ができ戦いが有利になります。
ダイダロスは飛行機型と装甲車型の二種類があり、好きな方を選択してください。
飛行機型は空を飛べますが防御が弱く、装甲車型は防御が強い代わりに地上のバリケードなどを突破しなければなりません。
ドライビングテクニックによって弾幕を回避したり、ダイダロスを通してスキルを発動させて防衛戦力を排除しましょう。
搭乗しているPCのパッシヴスキルの効果は『ダイダロス』にも反映します。
今作戦では、各機に十機のエクスギアを搭載します。
●僚友・『狼を放つ』コンスタンツァ+機械化歩兵部隊『ゲドイトゥ』白刃隊
<フルメタルバトルロア>死に急ぐ貴婦人の横っ面を張り飛ばせ!で救出した部隊です。ゼシュテリウスに合流してから再編成されています。
小振りの戦斧を振り回す機械化歩兵です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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