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シナリオ詳細

スーパー魔砲少女大戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫︎はじまりは恋バナから
 その屋敷は霧に包まれた谷に佇んでいる。
 普段は陽の光が届いても薄っすらであり、人が住んでいるのかも怪しい程に静かである。
 実の所、人は暮らしている。住んでいるし、時には明るい声も聞こえて来る。
 ただその屋敷には女しか住んでいない。
 九人のうら若き乙女達。『渓谷の姉妹達』と幻想で密かに噂される、魔女の一族である。
「ねぇ聞いて! 私、彼にキスされちゃった!」
「本当に!? おめでとうグレイシャー! 心から祝福するわ!」
「私もこの間、ロジャーにプロポーズされたの。一生大切にするって……」
「すごい! ハインも!? 今夜はお祝いしなきゃっ」
「良いなぁ〜、あたしも姉さん達みたいに恋とかしてみたい……」
「素敵よ恋って。お母様達は私達に男性を信じるなって言っていたのだけど、彼だけは違ったもの」
「ええっ!? エレナも!?」
「さっきから驚いてるけど、エリーは知ってるんだからね! そうやって他人事みたいにしてるヒルシュお姉様も殿方とお付き合いしてるのを!」
「あら、そうなの? ふふふ、私達に隠し事なんてらしくないわねヒルシュ。白状、しちゃいなさいよ」
 この日の姉妹達は普段静かな谷に響くほどに恋話に花を咲かせていた。
 話題はいずれも魔女である自分を好いてくれた男の話。歳離れた少年に抱かれた恋心をどうしたら良いのか、初老の紳士に口説かれた、などなど。
 姉妹達は先代達の残した魔法を日夜研究する以外に娯楽を知らない。だからだろう、彼女達が出会った人間がくれた新しい事は全て楽しいのだ。
 次第に街へ足を運ぶようになっていったのもそういう事からだったのである。
「……実は、ね?」
 ただ。
 この日はただの恋話では終わらなかった。
 姉妹達の長女であるヒルシュが浮かべた涙をきっかけに、何かが燻り始めたのである。
 長い時を生きる様になった姉妹達は並みの家族愛ではない。固く繋がる絆は果たして千年の恋をも上回るのだ。
 長女ヒルシュが告白した事実に、姉妹達は最初こそ共に涙して慰めあった。しかし、それも一時のもの。
 最後に飛び出した他姉妹達の結論は、こうだった。

「「 その男、浮気相手ごとぶち殺す 」」

⚫︎魔砲乙女、襲来
 その場に集まったイレギュラーズの殆どが呆れた顔と共に去って行った。
「あっ、あのっ! 待って下さい、お願いします! 彼を助けてあげて下さい!」
 なんとか半数くらいが残った。
 頭を下げて困った顔をしている若い女は、ローレットに依頼をしに来た魔女のヒルシュと言った。
「え、えーとですね? ボクも皆さんの気持ちは分かるのですけど堪えてなのです。
 依頼主は見ての通り聞いての通りのヒルシュさん。依頼内容は依頼主の元恋人の身の安全を確保すると共に、彼女の妹さん達を……」
 そこで、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がヒルシュの後ろからひょっこりと出て来て説明を始める。
「ヒルシュさんの妹さん達はいわゆる、『魔女』なのです。得意な魔法は魔力を収束して砲撃を放つ【魔砲】を使います。
 他に使える魔法は無く、それ以外には【ウィッチクラフト】による飛行や猫の使役を可能としているようです」
 ユリーカはそこで一度区切り、イレギュラーズに資料を見せながら今度は写真を取り出す。
 そこに写っていたのは依頼主とダブルピースしている如何にもチャラそうな青年である。
「このプリクラに写っているのが今回皆さんに護衛して頂く元恋人さんでして、このままだとお住まいの宿ごと吹き飛ばされてしまうのです……
 どうでしょうか? ここはヒルシュさんの為にも頑張ってみませんか!」
 一同の表情はなんとも言えないものだが、首を縦に振った。
 と、その時。ユリーカの隣で成り行きを見守っていたヒルシュが目尻に浮かんだ涙を指先で拭って口を開いた。
「悪いのは、私なんです……私は彼みたいに多趣味でもないし、面白い話題もない。魔女だなんて言えませんし、
 きっと彼からすれば一線を引いてる様に見えたから、だから浮気したのかなって……
 だからと言って、酷い目に合うのも可哀想です。妹達も私の為に争うなんて……こんなのおかしい。だからお願いです! 妹達をどうにか止めて下さい!」

 涙をポロポロこぼしながら頭を下げた彼女を見たイレギュラーズ達は真顔で思う。
 恐らく彼女のこういう姿のせいで起きた事件なのだなぁ、と。

GMコメント

 魔砲をバカスカ撃てる乙女達が八人も殺意剥き出しで襲来するノーマル依頼へ、ようこそおいで下さいました!
 ちくブレです。皆様よろしくお願いします。

 以下イレギュラーズに与えられた情報

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

⚫︎依頼成功条件
 依頼人の妹達8人を全員不殺で無力化する
 ……或いは大人しく帰って頂く

⚫︎渓谷の姉妹達
 割と昔から存在する魔女の一族、その末裔である9姉妹。
 使える魔法がウィッチクラフトと魔砲のみ。
 しかし膨大なAPから繰り出される魔砲の連発と、まぁまぁ悪くない命中率は脅威の一言。
 正面から戦えば苦戦は必至。そこで今回の為にボ……ユリーカが素晴らしい作戦を依頼人と考えてくれた。

【1】魔法少女という優しい存在を教える
   だいぶ訳がわかりませんが、ここで言いたいのは姉妹達が未熟な魔女であるという点。世間知らず。
   つまりイレギュラーズの皆さんが魔法少女を演じて説教をすれば上手く丸め込まれてくれるかも?

【2】戦う
   この選択をするならば、姉妹達の攻撃で周りに被害が出ない場所へ誘導する必要があります。
   護衛対象と共に【森】【廃教会】【建設中孤児院】に行く事で誘導出来るでしょう。
   決して依頼人の妹である彼女達を殺めてはいけない事を注意して下さい。

【3】素直に差し出す
   そもそも悪いのはやっぱり浮気した方だと思うのです。
   というわけで謝罪会見ついでに差し出してみんなで話し合うのはどうでしょうかっ!
   何か話術に関するスキルがあると良いですね……

⚫︎敵データ
 八人の姉妹達に大きな差はありません。全員魔砲だけぶっぱしてくる脳筋魔女です。
 しかも威力は高く、長年研鑽されてきた技術。命中率。どれを加味して考えてもイレギュラーズといえど重傷者が出る可能性があります。
 しかし、敢えて上げるならば彼女達は肉体的体力は無いようです。不殺に留める事を条件にダメージを重ねれば比較的直ぐに倒れるでしょう。

 以上。

 尚、姉妹達に大きな性格の差は無く。
 特筆するほど説得における反応の違いは無いため、説得に関する対象は大まかに『姉妹達』と定義して問題ありません。

 この何とも言えぬ問題をどうか見事解決して下さい、イレギュラーズの皆様!
 ご参加をお待ちしております。

  • スーパー魔砲少女大戦完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月14日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
タルト・ティラミー(p3p002298)
あま~いおもてなし
秋嶋 渓(p3p002692)
体育会系魔法少女
無限乃 愛(p3p004443)
魔法少女インフィニティハートC
イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)
魔法少女魂
ゼレディウス=アルマ=エンカルナシオン(p3p005923)
プラネットダンサー

リプレイ

⚫︎その会合はマジカルに
 恐ろしい事に、仲間達の意見は素敵に一致した。
「そろそろ来てもおかしくないな、ガールズ。準備は?」
「勿論オーケーよ♪」
「むー!? ムグー!?」
 『ボクサー崩れ』郷田 貴道(p3p000401)が手元の時計で時刻を確認した後、とある宿から出て行く。
 それに続いて小さな妖精の様に飛び回っている『あま〜いお菓子をプレゼント♡』タルト・ティラミー(p3p002298)は指を鳴らして、ミノムシの様に簀巻きにされた茶髪に紫のメッシュが入った青年をその場に転がした。
 青年がムグムグ言っているのは彼女に口に詰め込まれたお菓子のせいである。
「ハァイ♡ 妖精さんのおでましよ♪ とりあえず問題児を捕まえてきたわ☆」
 妖精の様に飛び回りながらタルトが告げた、その問題児は今回イレギュラーズに依頼したヒルシュという魔女と交際していた青年だった。
「やー、浮気! なかなかに最低ですね!」
「浮気はダメ、絶対」
「浮気は自業自得、さて、責任を取っていただきましょうか」
「オーケー、ガールズ? 分かってるよな、殺しちゃダメだぜ?」
「ぶはァッ!! 何これ!? すげえ辛辣なんだけどコイツ等!? ボッコボコじゃん、何かされる以前に俺のハートボッコボコじゃんこれ!!」
 比較的爽やかに『体育会系魔法少女』秋嶋 渓(p3p002692)が罵り、続いて『プラネットダンサー』ゼレディウス=アルマ=エンカルナシオン(p3p005923)と『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)が立て続けに女子からの苦言を浴びせて行く。
 何となく付け加えられた貴道の一言に遂にビビりまくった青年が叫んだ。叫んだのが自分のハートの心配な辺り、その場の誰かが舌打ちを鳴らしたのは自然であった。
 そう、全てはこの青年が件の依頼人であるヒルシュに浮気を働き破局した事が発端となっていたのだ。
「わたしも恋多き身の上ですので、浮気の彼氏を責める気にはなれませんの。しかし、事態によっては……」
 茶葉の香り漂う『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)が「うーん」と首を傾げる。
 今回の依頼はとてもややこしい事に、この浮気に走ってしまった青年を罰するのではなく『護衛』だったのだが。最優先する様に言われていたのは、これから彼をすんごい威力の魔砲をぶっ放して殺しにくる魔女達が『青年を殺す前に帰って貰う』事に在った。
 それも、殺さずに。
 ただの痴話喧嘩を治めるのと違うのは、そもそも浮気され傷付いた本人が誰にも傷付いて欲しくないという思いが強いという所から来ている。
 元を辿ると何とも事は単純な話し合いで解決出来るとも思えない。そもそもの相手が普通では無いのだから。
 そもそもがLumiliaの言った通り、自業自得なのだと考えると青年を庇う気も失せるというもの。
 よって穏健派すらも青年を差し出す方針に異は無く。そしてイレギュラーズは青年を一時的に捕らえて来たというわけであった。
「ってか、なんなんだよお前ら! ローレットってのはこんなカップルのいざこざにまで首を突っ込むのか!?」
「それはユーに最初言った通りだぜ?」
「ヒルシュの妹ってのが怒ってるって、おかしいだろ! 俺はヒルシュと別れたのであって……」
「なぜ別れたのでしょう?」
 貴道が首を傾げている横からSuviaが転がる青年の前にしゃがみ、顔を覗き込んだ。
「そりゃ、色々と……」
「浮気しちゃったからだよね♪」
「まあそうだな」
「そりゃギルティだろボーイ」
 不意のタルトの声に自白した姿にあちこちから舌打ちや白い視線が注がれ、青年が簀巻き姿でついにシクシクと泣き出す。
 なんという恐ろしい空間だろう、と青年以外の唯一の男性である貴道は背筋を小さく震わせた。
『「見つけたわよ、ゲス野郎!」』
「……!!」
 そんな時、一同の頭上から高らかに響く声。
 彼等が見上げた先には、八人の年齢や外見こそ多少の違いはあれど一様に大剣やランスの上に立って飛行している、『如何にも』な魔女らしき雰囲気を纏った少女達がいた。
 彼女達がヒルシュの言っていた『渓谷の姉妹達』である。
 既に臨戦態勢に入っている状態の彼女達に、貴道や『魔法少女(物理)』イリス・フォン・エーテルライト(p3p005207)が拳を握って構えた。
 魔砲が飛ぶか、拳が飛ぶか。その瞬間。
 彼等の後方から眩いピンクの閃光が迸る……!

────『冥闇を砕く一条の愛の煌めき! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』

 勢いよく両者の間に降り立ったその姿は『魔法少女インフィニティハート』無限乃 愛(p3p004443)である。その姿は宿の屋上から飛び降りる瞬間に白を基調とした可憐な衣装を纏っており、魔女達の視線が一気に釘付けになる。
 煌めく光の残滓と共に舞い上がった粉塵が風に流されて数秒、彼女はゆっくりと面を上げて立ち上がった。
「……さて、行きましょうか」
 何故か真顔。
 しかも当然のように手招きされ、魔女達は無言で何故か愛を追って行くのだった。

●魔法少女とは
「なんで大人しくここまで来ちゃったのよグレイシャー姉さん!」
「え? いや、なんでかしら……」
 わいわいと声が増えて来て、いつの間にやら姦しい事この上ない。
 それもやはり九人姉妹の内の八人ともなると仲の良さや大凡の性格は何となく見えて来そうな物であった。
(これなら上手く説得できそうか?)
 最初はビームを自慢の拳で弾き返す位の気持ちではあった貴道だが、どことなく依頼人のヒルシュに近い匂いを感じて、最悪の道は避けられるかもしれないと思い始める。
 だとするなら。
「できることなら、ヒルシュさんにはすっぱりと、ダメ男のことを忘れて生きていただきたいものですし、穏便に済ませるよう計らいましょう」
 Lumiliaが背後で密かに出した声に、誰かが静かに頷いた。
 そうやって彼等は姉妹達の会話を聞きながら変身した愛の後ろ姿を追っていると、当初の予定していた場所に到着した。
「ここは?」
「空地です」
「ここで私達とやろうってことかしら、そこのゲス男の為に!」
「いいえ、私の愛と正義により、貴方達を正道へと導きましょう」
「は……?」
 ヒュルン、と。愛が後ろ手に取り出したハート型を模した鎌を回転させ、その柄を激しく振り払い先端を天高く掲げる。
 妙な動きの中にある『それっぽいキレッキレな動き』に思わず魅入ったのもまた一つ。妹魔女達はその動作を目で追いかけ、視線は左右から下へ、そして上に。
 直後、彼女達の視界を埋め尽くす桃色の閃光。
 空気を渦巻く魔力がチリチリと周囲に熱を散らす最中、上空へ一直線に伸びた光線が昼天を眩く、そして煌びやかに、鮮やかな蛍光ピンクのハートを描き出したのである。
「これは……『魔砲』っ!」
「凄いわ姉さん! 今の、形状変化の術式も込められていたのかしら!」
「恐ろしく高い精度よ。推定で恐らく命中率は30前後かしら……」
「彼女も魔女なの!?」
 姉妹達から挙がった声の一つに、愛が肩をピクリと反応させた。
「私は魔法少女インフィニティハート。魔女とは違います」
「魔法……少女……!」
 何だか何かが始まりそうな雰囲気になって来た。具体的には朝の新番組か深夜のシリアスが始まりそう。
 そこで、遂に貴道が頃合いとばかりにいつの間にか用意した台の上でマイクに見立てたキノコを握って「リッスン!」と注目させた。
「その通り、彼女は魔法少女だ! ユー達魔女とは違い愛と平和を願う戦士が愛と、そしてそこに居るガールズなのさ! ウェイクアップ!」
 勢いを掴む。
 流れの掴みは上々、貴道は仲間の『魔法少女』達にバトンを渡した。

 こほん、と。白を基調とした魔法少女らしき衣装に身を包んだ渓が前に出た。
「魔法少女というのは簡単に言えば純真な少女の願いとかが具現化したものであって、例えば何かを守りたいとかの願いを叶えるために力となるわけです!」
 サッと手で示すは先ほど魔砲を放った愛と、未だ落ち着いた様子で佇んでいるイリス。なんか簀巻きにされてる浮気男に耳打ちし続けているゼレディウスの、三人。
 なるほど彼女達は根本的な魔術形態や思想が違うのか、などと姉妹達はそれぞれ小声で解釈し合っていた。ちなみに魔女達は低空で武器の上に腰かけて礼儀正しく座って話を聞いている。
 どことなく真面目な雰囲気に語りながら渓は「依頼人のヒルシュさんそっくり……」と胸の内で笑った。
「少女たちのゆめ! 強くてかっこよくて可愛いと憧れますよね!」
 シュバッ。その場でファイティングポーズを取った彼女の姿がどういうわけか、とてもスタイリッシュで格好良いモノに見える。
 話を聞いている姉妹達の内、一番小柄な『エリー』という少女が目を輝かせてその動きと渓の姿に見入った。対して、年長者らしき『エレナ』という姉妹は「自分は……」とため息を吐いていた。
 だがそこで渓が声を挙げた。
「そして! 少女であることに年齢なんて関係ないですよ! 女の子は心がそうであれば少女なのですから!
 若いと確かに暴走したり一直線になったり大変かもですが! それも一途な証拠です!」
「心がそうであれば……!」
 渓の言葉に、姉妹達の年長者が何人か胸元に手を当てて感動する。
 その様子を見ながら(あと守るためには力技も辞さないけど)と、そこは黙っておく事にした。これだけ純粋だと青年をぶっ飛ばす方向になってしまう。間違いなく。
 しかしその配慮した事が功を為したか、姉妹達は少女らしい笑顔を見せている者が出て来た。
「ブラボー! 渓の言う魔法少女は優しさと平和を守るチャーミングなガールだって事が分かったな!」
 貴道が目配せしたのと同時。再び愛が上空へ魔砲を撃ち、螺旋を描いて頭上で花火の様にキラキラとハートが広がった。
 姉妹達の意識を釘付けにして間を空けない。貴道がペースを握ろうとしたのには『未だ険しい表情の姉妹がいる』からだった。
(中々表情を変えないのは、それだけ怒ってるって事か……)
 いつの間にか愛に近付いて魔砲のコツや魔法少女について問いかける若い姉妹を眺めながら、貴道はチラと簀巻き青年を見る。
 なんか目を離してる隙にタルトにめっちゃビンタされていたが貴道は速やかに目を逸らした。
 なんで誰もあっちに気付かないんだ。
「ヒルシュは」
 ゼレディウスが前に出た。
「ヒルシュは姉妹達がコレを害することなど望んでいない。
 姉妹達がコレを害するとヒルシュが更なる悲しみに襲われてしまう。コレのことはどうでも良い、ヒルシュの気持ちを酌んでやって欲しい」
 愛とはまた別の、無表情というより人形然としたゼレディウスは静かにそう告げる。
 何故、今回自分達がこの青年の味方に付いているのかを説明していく。当然その言葉にそれまで納得行かない顔を浮かべていた姉妹が立ち上がりかけるが……
「まぁまぁ。お茶でもいかがですか?」
「えっ……」
 そんな彼女達にそっとティーセットとスイーツを差し出したのはSuviaだった。
 彼女が差し出したお茶は香り良く、善意で向けられた物を振り払えなかった姉妹達はそれぞれ、年少者を筆頭に受け取って落ち着かせていった。
 ギリギリセーフ。まさにファインプレーだったと言える。
「争いは何も生まないなんて言わない。コレに対して怒るなとも言わない。
 ただ、ヒルシュを悲しませるのだけはダメ。絶対にダメ。ヒルシュは優しいから、アナタ達がコレを傷付ければ間違いなく悲しむ」
 指差した方ではタルトに青年が謎のお菓子を口に詰め込まれているシーンだった。サッと目を逸らした。
「その事はヒルシュの姉妹であるアナタ達だって十分理解してるはず」
「……事情は分かったわ。貴方達がその男を守ってる理由もね、だけど。それで引き下がるかどうかは別よ!」
「でもグリンシー姉さん……」
「私達が怒らないで、一体誰があの姉さんの怒りを体現するというの? 私達は姉妹じゃない、だったら私達がこの魔砲で全て消してしまうしか……!」
 握った手を掲げて『グリンシー』と呼ばれた魔女が顔を上げた。
 その怒りを宿した瞳は静かに簀巻きにされてお菓子を口に詰め込まれて苦しんでいる青年へと向かった。
「お前達は本当にそうしたいのか?」
 そこへ遮るように立つ影。
 華麗なる衣装に身を包んだ魔法少女、イリスが首を傾げ、指を差して。魔女達の意を問う。
「争うための魔法ではない、と私は思うが。そもそも殺すような事になって、誰が喜ぶ?」
「う……それ、は……!」
「周りをよく見る事からだ。死ぬのは楽だが、生きる事は苦しいだろう。
 故に憎い相手だからこそ、わざと生かしてやるものだ」
 彼女は再び問いかける。「どうしたいのか」、と。
 その答えを……姉妹達は直ぐに出せなかった。否。出して良いのかどうか分からなくなったのだ。

●愛は想いが生むのではない
 お茶をありがとう。
 そんな感謝の言葉と共に、年少者のエリーが手元のトレイとカップをSuviaに返すと。浮いているランスの上から飛び降りて歩き出した。
 向かうのは簀巻きにされて何故かずっとタルトにビンタされたりしている青年の方向だった。
「む……待て、暴力に訴えるならばまず私の魔法少女魂を見てからにしろ」
「大丈夫。ちょっとお話しするだけ」
 イリスが止めに入ろうとするのに微笑みを返す。
 貴道や渓が一瞬どうするか悩んだが、先程から青年と何か話していたLumiliaが頷いた事で少女を進ませた。
「ねえ」
「……なんだよ」
「驚かないのは、どうして? 私達明らかに普通じゃないのに、全然驚いてないよね」
「話の流れで分かるだろ……すげー女と付き合っちまったもんだぜ」
「お姉ちゃんがいたのに、どうして浮気しちゃったの?」
 核心。それを突かれたと誰もが感じたのは、青年が目に見えて口を閉ざしたからだった。
 Lumiliaとタルトの二人が青年に何か言おうとするが、その前に青年が叫んだ。
「俺には無理だと思ったからだよ!!」
「……なにが?」
「お、お前らにはわかんねえよ……ヒルシュにだってわからねえ! 畜生、いい加減ほどけよこれ!
 数人がかりで『説得』『説得』って、くそっ! 言えばいいんだろ!! 俺が、悪かったよ! あいつを裏切っちまったのは悪いと思ってる。謝るべきだってわかってた!」
 簀巻きにしていなければ掴みかかって来そうな勢いで、タルトのプチ拷問(?)や説得に耐え切れなくなった青年はやけくその様に語り始めた。

 町の小さな酒場で遊んでいた時にヒルシュと出会った事。
 最初は可愛い娘だと思って遊んでいただけだった事。
 何も知らない彼女をよくからかっていた事。
 時々不思議な力が使える人間だと気付いていた事。
 ヘンな奴だけどとても良い奴だと思っていた事。
 純粋な彼女は共に過ごした時間の数だけ染まって行くのを感じた事。
 そのせいで次第に彼女と居る自分が余りにも『相応しくない』と苦悩していた事。
 ある日偶々遊んだ馬鹿な『自分に似た奴』との方が気楽だと気付いた事……

 そして、事の顛末。
 結局は彼が抱いた勝手な自己満足と羞恥、苦悩にヒルシュは振り回されていた。それだけの事。
「────よく話してくれた。やったことが覆るわけじゃないが真っ直ぐ前向いて正直に話したのは、男らしかったと思うぜ」
 貴道が手刀で青年の縄を切断し、解放する。
 そして姉妹達の方へ一緒に歩いて行く。
「ヒルシュが望んでいたのはこんな不器用な男の無事だ。そしてそれはユー達シスターズも同じなんだ、
 ウチの魔法少女達が言っていたろ? 愛と平和を願う少女がどうたらって、きっとユー達の知る姉もそういう人だ。……殺人で得られる物は無いぜ、いいな」
 トン、と。
 軽く背中を押して貴道はついに青年を姉妹達の方へと差し出した。
 これで極太ビームを降らされた時には諦めるしかない。そう心の中で思いながら彼は結末を見守る。
「……正直、理解なんて出来ないわよ。死んじゃえって思う」
「に、煮るなり焼くなり好きにしろ!」
「そうするわ。でも、ね……あの人達の言う事やアンタが言った事。分からないわけでも無いの」
「姉さんはきっとお兄さんの不器用な所が空きだったのかもしれない、そう思ったら……なんだろ。殺したりとかは、出来ない気がする」
「あなたが苦しんでいたっていうのも、わかったしね」
 納得も理解も出来ない、だがそれでも彼女達は『魔法少女』のような優しい姉の気持ちは、その性格は、確かに知っていた。
 だから、そう考えるならば。こうして謝る青年なら許してもいいのではないかと考えられたのだ。
「私達は姉と同じく、あなたを許すわ」
 愛と平和。ちょっと壮大で漠然としていて、わからない事はある。
 だけどイレギュラーズが見せた『魔法少女』という新たな可能性のような物が、『良い事』を指しているのはわかった。
 彼女達は青年を許したのだ。

「これにて一件落着ね♪ おめでとーう☆」
 そして最後に青年の顔をタルトの巨大なパイがドッパァンと襲いかかり、地に倒れ伏せる音と共に騒動は幕を閉じたのだった。
 魔女達は最後まで、最初から最後まで目前で繰り広げられたタルトのお仕置きで溜飲が下がっていたとは誰も言わなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 時には自分がやるより他人がやるお仕置きでスッキリする事がある。

 というわけでお疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
 今回の騒動後、姉妹達はクラスを魔法少女に変えた事でしばらく町ではフリル系の白やピンクの衣装を着た娘達が見られるようになったとか。
 判定としては説得スキル数の合計値だけで失敗は回避、更に戦闘を避けたい内容、依頼人を尊重したい等の記述で成功となります。
 皆様は魔法少女の在り方を聞いて真っ先に思い浮かぶのは誰でしょうか? きっと姉妹達にとって守りたい尊さの様な感覚を自身の姉に覚えたのかもしれません。

 改めてお疲れ様でした。
 またの素敵な出会いをお待ちしております。

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