PandoraPartyProject

シナリオ詳細

紫陽花に赤き雨降る

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 頼りないロウソクの灯がゆらりと光を投げる。
 壁際に取り付けられたその灯りによってようやく、この部屋がかなり広いこと、壁が彫刻で飾られていることが分かるが、それ以外はぼんやりと闇に沈んでいる。
 ぽっ、ともう1つ、今度は入った正面に灯りがともった。
 それでやっと、部屋の奥に誰かがいるらしいのが分かった。
「灯りが少ないのはご容赦くださいな。明るすぎるのは好みませんの」
 柔らかな女性の声にあわせて、正面の影がうごめいた。
 目が慣れてくると、ロウソクの弱弱しい光にわずかに金に輝く長い髪、すんなり伸びた白い腕と小さな顔がぼんやりとわかるようになったが、顔立ちなどはまったく見て取れない。
「依頼を受けてくださるのはあなたたち? ようこそ、歓迎いたしますわ」
 今回の依頼人、ゲルセミウム・エレガンスはそう挨拶すると、喉を鳴らすように笑った。


「お願いしたいのは、ある紫陽花の回収ですの」
 ゲルセミウムによれば、その紫陽花は人里離れた小高い丘の紫陽花畑の中にあるのだという。
 もちろんこうして依頼するのだから、普通の紫陽花の採取ではない。変異し、人を襲う紫陽花だ。
「装飾花の部分が真っ赤な紫陽花ですから、ご覧になればすぐにわかると思いますわ」
 変異した紫陽花は、こんもりと茂っており、何輪もの花をつけている。それが2体、紫陽花畑を歩きまわっているのだという。
 変異した紫陽花は、身を焼く赤い雨と、身をさいなむ黒い雨を広域に降らせる。赤い雨は毒、黒い雨は狂気をもたらし、そうして弱らせた対象にざっくりと葉で切りつける。そして獲物の血をあますところなく吸い上げ、ますます赤く咲き誇るのだ。
 紫陽花は獲物を求めて歩き回っているが、なんらかの方法で互いに仲間の位置を把握しているようだ。そのため、どちらかが獲物を見つけると、もう片方も寄ってくる。1体に集中しすぎていて、もう1体に背後から不意打ちされる、などということもあり得るので注意が必要だ。
「みなさまには、この変異紫陽花を1株分回収してきていただきたいのですわ。そして残りの1株はすべて焼き捨ててこの紫陽花畑に埋めてしまうこと。この2つが依頼の条件ですの」
 倒すときにあまりぼろぼろにしないでいただけるとありがたくはあるのですけれど、とゲルセミウムは喉の奥で笑った。
「雨にまで毒をこめられる紫陽花だなんて、とても期待できますわ。ぜひ手に入れてきてくださいましね」

GMコメント

 Pandora Party Projectをお楽しみ中のみなさま、月舘ゆき乃(つきだて・ゆきの)と申します。どうぞよしなに。

この依頼の成功条件は2つ。紫陽花を1体回収すること。そしてもう1体を焼却し紫陽花畑に埋めること、です。それ以外の事柄につきましては、成功条件に含めません。

 敵であり、かつ回収対象であるのは、変異した紫陽花2体。攻撃は2種類の雨と葉による斬撃です。

 依頼人の情報にはっきりとしていない部分があることから、シナリオの情報精度はBですが、成功条件に影響を及ぼすことはまずないかと思います

 ではでは。みなさまからのプレイングを楽しみにお待ちしております。

  • 紫陽花に赤き雨降る完了
  • GM名月舘ゆき乃
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月12日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)
幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る
宗高・みつき(p3p001078)
不屈の
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
刀根・白盾・灰(p3p001260)
煙草二十本男
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
牙軌 颯人(p3p004994)
黄金の牙
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド

リプレイ


 雨こそ降っていないが、頭上に広がる空はどんよりとした雲に閉ざされていた。
 それは、この依頼に対するどこかすっきりしない皆の気分を表しているようだ。
 紫陽花畑に向かいながら、『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)はついこぼす。
「この依頼主、なに考えてんだか分かんねぇなぁ……」
「とても期待できます、だぁってさ。一体何が期待できるのだろうねえ」
  揶揄する口調で『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)が言った。ゲルセミウムの口真似が特徴を捉えていて妙に上手い。
「期待できる、等と言うからにはおそらく、研究の類なのでしょうけれど……」
 その研究が何を目的としているのか、と『終焉語り』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は依頼を受けたときのことを思い出してみる。
 物憂げな、けれどどこか面白がっているような、歌うようになめらかな声で告げられた依頼は、毒の雨を降らせる紫陽花の回収。
「研究目的ならば話が合いそうですが……」
 己自身、真理への探求を志す研究者である 『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)だが、ゲルセミウムの漂わせる印象は、どこか違うような気がした。。
「それにしても、人を襲う真っ赤な紫陽花とは」
 赤い花は数多くあれど、今回聞いた紫陽花の印象はいかにもまがまがしい。その赤について、獲物の血をあますところなく吸い上げ、ますます赤く咲き誇る、と言われたことを思い起こし、血が苦手な『偽りの攻略者』エリーナ(p3p005250) は不気味なモンスターですねとつけ加えた。
「この世界では、植物も多様な進化を遂げたのですね」
 感心した様子の陰陽 の 朱鷺(p3p001808)を、進化と言っていいものかと、『黄金の牙』牙軌 颯人(p3p004994)が受ける。
「ただの花が随分と厄介な存在になったのは確かだがな」
「もともと紫陽花には、個体によっては毒があるって話も聞くよ」
 ダカタールが言う通り、料理の飾りに添えられた装飾花や葉をうっかり口にして、病院に運ばれるなんて事態が起きたりもする、紫陽花は身近にある危険の1つなのだ。
「もともと毒のある花が、歩き回って毒の雨を降らせるようになったとは……聞いているだけでも恐ろしいのですが。我々……大丈夫ですよね?」
 『屑鉄卿』刀根・白盾・灰(p3p001260)はごそごそと懐を探ると、漢方薬を取り出した。
「事前に飲んでおいたら効いたりしませんかな?」
「胃もたれには効きそうですね」
 灰の手元を確認し、アイリスはあっさりと答えた。
「焼却と回収が目的じゃなきゃ、ちょっと調べてみたいところだけど……オーダーはきっちり果たさないとな」
 片方は燃やして埋め、もう片方は持ち帰る。それが依頼の条件ならば仕方がないと、『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)は変異紫陽花への興味を抑え込む。
「ああ。引き受けたからには全力を尽くさねぇとな」
 ルールは守らねばと、みつきは頷いた。
「どうしたら紫陽花につける傷を減らして倒せるでしょう? 自然知識に詳しい人がいれば意見を聞かせていただきたいです」
 回収が目的であり、あまり傷んだ状態にしてほしくないという依頼主の意向もある。どう攻撃すべきかとエリーゼは問いかけた。
 『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)は、髪をかき上げかけた仕草のままポーズを固めて答える。
「1体目との交戦の中で、傷を抑える方法を探っておきたいですわね。余計な傷をつけずに急所を一突きというのが理想でございましょうし。知識ではなく想像で申し上げますと、やはり繁殖を行う雄しべや雌しべを備えた花の中心部が怪しいのではないかと思いますわ」
「装飾花の中心部とは違うのに注意だね」
 ひらひらした花びらのような部分は萼片で、大きな萼を含めた全体が装飾花。その花に隠れるように、雄しべ、雌しべが露出している目立たぬ小さな花が通常花だとダカタールは教えた。


 到着した場所には、一面紫陽花が咲いていた。ピンクのものがほとんどだが、青紫が固まって咲いている一角もあり、白や緑がかった紫陽花も見られる。
「同時に相手取るのだけは避けたいところですわね」
 2体から雨を受ければ阿鼻叫喚は確実と、エリザベスは紫陽花畑を見渡した。
 真っ平な土地ではないので、起伏や紫陽花の大小によって視界は遮られ、外から眺めている限りでは、赤い紫陽花は視認できなかった。
 眉を寄せた表情で颯人が澄ませた耳に、風が鳴らす葉擦れの音が聞こえる。
 朱鷺は蜜蜂の形をした式神を作り出し命じた。
「君の役目は、赤い紫陽花2体を見つけること。その居場所を私に教えに来ること。そして仲間が1体目の紫陽花を倒したら、2体目へと誘導すること」
 君ならできます、と朱鷺は式神に触れた。
「おそらく君は長く持ちません。命大事に動いてください」
 式神は朱鷺に命じられた通り、まず紫陽花を見つけるために畑へと入って行った。戻ってくるのは2体ともを見つけてからだから、時間がかかりそうだ。
 その間にアイリス、リースリット、エリーナの3人は付近の紫陽花への聞き込みをしてみた。
「赤い紫陽花は今どのあたりにいるのでしょう? おかしくなったのはいつ頃からですか」
 リースリットは問いかけたが、紫陽花は知らないようだった。他の紫陽花の位置や状況を把握する力を、普通の紫陽花は持っていない。
 この辺りの紫陽花からは一様に、変わった紫陽花を見たことがないとの答えが返ってきた。仲間を見失わぬよう気を付けながら少し紫陽花畑に踏み込んで聞いてみると、昨日見かけたという返事があった。それから後、変異紫陽花はどこをどう動いているのだろう。
 どうやって探そうかと思ったそのとき、
「いた」
 ウィリアムが手にしていた杖で前方、やや右よりを示した。
「この先、ずっと行ったところに1体いる」
 ウィリアムは呼び出したカラスの目を借りて探索を行っていた。紫陽花畑に落ちる赤いシミ。間違いない。変異した紫陽花だ。移動はしておらず、ただそこで赤く咲き誇っているだけだ。
「向こうで何か音がしなかったか?」
 今度は颯人が左を指した。ウィリアムのファミリアーがそれを確認しに行くより早く、
「あれか?」
 身を乗り出して目を凝らしたみつきが指をさす。よく見れば他の紫陽花の陰に、赤が見えた。それはぐっと盛り上がって赤い色彩をあらわにし、そしてまた他の紫陽花に隠れて見えなくなった。こちらは移動中らしい。
 作戦通り、攻撃集中班は1体目を目指して右へと向かい、牽制班は2体の合流を阻むため左へと向かった。


 ウィリアムの示した方向へ進めば、緑とピンクの色の中に、くっきりと赤い紫陽花が浮かび上がって見えた。
 鮮やかな赤は紫陽花としては違和感がある。
 距離を取って一旦立ち止まり様子を見たが、紫陽花は近づいては来ない。風の強さに対して、やや揺れ幅が大きいような気がするが、それだけだ。
「2体の距離は十分離れていますから、仕掛けてしまっていいですね?」
 リースリットは仲間に確認すると、紫陽花に駆け寄った。構えた柄にオーラの刃が形作られ、魔力をまといつける。リースリットはそれを思いっきり紫陽花へとふるった。
 その威力に、紫陽花が撃たれたように震動する。
 紫陽花に近づきすぎないよう留意しながら、ウィリアムは星の輝きを宿す杖を高く掲げた。サモン・スターブレード――空の彼方にあるという星界から召喚された大剣は、紫陽花を斬り裂いた。ちぎれ飛ぶ赤い萼片がこんなときにも痛々しく映る。
 紫陽花の赤が揺れた。
 空から大粒の赤い雨が降り注ぐ。
 粘度のある赤はまるで血の雨のごとくぼたぼたと。
 熱い痛みがウィリアムとエリザベスを襲った。触れた個所から深くへと痛みは毒となってしみこんでゆく。
 だがエリザベスは毒の効果をバーンと振り払い、鮮やかに笑った。
「さあ、ガンガン参りましょう」
 エリザベスが召喚した石礫がお返しとばかりに紫陽花に降り注ぐ。
「結構な距離、雨を飛ばしてきますな」
 灰は防御をしっかりと固めると、ドレイクの尻尾を掲げて周囲の士気を高めた。
 ダカタールは指先で灰の身体に密密様の呪印を描いた。不思議と活力がわいてくる印ではあるが、灰はなにかが聞こえたかのように、怪訝顔で首を巡らせている。
 遠くにも降らせることができるようだが、雨の範囲は半径10mほど。それを見て取ったエリーナは、仲間から距離を取って黒の書を開き、紫陽花の能力を封印しようと試みた。が、攻撃は命中はしたが封印の効果は表れなかった。
 長丁場にはしたくないが、簡単に倒れてはくれないようだ。みつきは祝福を囁き、これからの戦いに備えた。

 一方。
 1体目が近づいてくる者たちに気づいたのに合わせて、2体目の紫陽花は突然進路を変えた。
 全力で移動を始めた紫陽花の前に、回り込んでいた牽制班が立ちふさがる。こちらの班の目的は、敵を倒すことではなく合流を防ぎ、できれば損傷を最小限にしておくこと。
「人を襲わなければ、その命が潰えることもなかったでしょうに……」
 残念です、と朱鷺はオーラで編んだロープを紫陽花めがけて放った。ロープは紫陽花に絡みつき、その動きを阻害する。
 1体目のいる方向へ行かせるわけにはいかない。
「やれやれ、損傷を抑えろとは難しい注文だが……」
 やれと言われた以上やらざるを得ないと、颯人は紫陽花の動きをマークしつつ、鋭く踏み込んだ。通常花を狙いたいところだが、装飾花に隠れてしまい見えない。花にもぐりこませるように刃を振るっておく。
 アイリスはアンデッドのなりそこないに自分を守らせておいて、紫陽花へと毒の薬瓶を投げつけた。割れた瓶の破片が紫陽花の花を散らす。が、毒の効果は振り払われた。
 あざ笑うように紫陽花は揺れ、朱鷺とアイリスの上に垂らすように黒い雨を降らせた。アイリスは死骸盾の効果もあって雨から逃れたが、朱鷺の肌には黒い雨がしみこんだ。
 じくじくした痛みが、不快に精神を逆撫でする。
 わが身ごと傷をえぐってしまいたくなるのに耐えて、朱鷺は天に祈りをささげた。

 攻撃集中班は、紫陽花の弱点を探りつつ1体目への攻撃を続けていた。
 弱点かと思われる通常花を狙うのは難しい。だが、
「どうやら株を狙うのが効果的なようでございますわね」
 紫陽花の反応を観察し、エリザベスはそう結論づけた。目を引き付ける赤い花に攻撃したときよりも、それを支える株に攻撃したときのほうが、紫陽花の反応が大きいように見受けられる。
「では、元から断つ、ですかな」
 灰は身を低くして、紫陽花へとカウンターをくらわせた。
「こちらは引きちぎっても構わないんだよね」
 だったら気が楽とばかりに、ダカタールは紫陽花へと直接魔力を流し込む。裂けた株は刹那、鈍く黄金色を宿したあと、苦悶に身をよじった。
 深い傷を負った仲間はエリザベスが治療を受け持つため、みつきは狂気と毒をもたらす厄介な雨を受けた仲間への対処を主として行うことができる。待機状態をもうまく利用し、みつきが雨の効果を消し去ることにより、紫陽花の脅威は大幅に抑えられている。
 そうなれば戦いはこちらの思うがままだ。
 リースリットのオーラソードが、揺らめく炎のごとき魔力をまとって紫陽花の株を断つ。
 そこへ最後のとどめとばかりに、ウィリアムは大剣を召喚する。空に煌めく蒼い軌跡を引きながら飛来した剣は、紫陽花の生命を完全に断ち切った。

 3人で紫陽花を抑えなければならない牽制班は、かなりの苦戦を強いられた。
 紫陽花の損傷を考えると、思い切った攻撃がし難いことも、戦闘の難易度をあげている。
 隙あらばもう1体のほうへ行こうとする紫陽花を阻害し、こちらの戦線を維持するのが精いっぱいだ。それでも、2体が合流し重ねて雨を降らされる危険を鑑みれば、耐え続けるしかない。
 苦しい戦いの中、気配を感じ振り返った朱鷺はおおと声をあげた。こちらを目指す式神と、その後ろに仲間たちの姿を見出したのだ。
 牽制班の癒し切れていなかった傷がふさがり、心身をさいなむ雨の効果が消し去られる。
「花はちぎれやすいので、株そのものを叩いてください! 弱点もそこのようです」
 エリーナが牽制班へと呼びかけた。
 増援により大幅に戦況は好転し、余裕さえもって紫陽花に対峙することができるようになった。
 そして。
 金色の炎を宿したオーラソードを構え、颯人は紫陽花の懐に飛び込んだ。迷いなく株の根本を貫いたそれが、2体目の紫陽花の息の根を止める最後の一撃となったのだった。


 戦いが終わると、灰は大きく息をつき座り込んだ。
「はぁー、生きててよかった!」
「怪我が回復しきっていない者はいないか?」
 仲間の間をまわり、みつきは癒えていない傷の治療をしていった。
「人の血を吸う紫陽花。最後は自身の血を吸うことになったということでしょうか。人の身でも、植物の身でも因果応報。この世界は特に諸行無常です」
 朱鷺は紫陽花を前に黙とうを捧げた。
 リースリットとウィリアムは1体目の変異紫陽花を軽く調べてみた。茎は太く葉は鋭く、人を襲える強度には変異を遂げているが、基本は周囲の紫陽花とよく似た作りをしている。もとはこの畑で咲いていた紫陽花なのだろうか。
 花びら1つくらい、と指先で摘みかけたが、ウィリアムはすぐにその手を放した。依頼は依頼。完遂させるべきだ。
「ではこちらは燃やしますね」
 調べ終えたリースリットは1体目の死骸にフレイムバスターで斬りつけ、エリーナは持ってきていたカンテラの油を垂らし、火をつけた。
 燃やし終えた残骸は、依頼通りに穴を掘って埋めておく。
「なんで、埋めてくれ、まで頼むんだろうな」
 ウィリアムの疑問に、エリザベスは埋められてゆく花を興味ありげに眺めた。
「やはり肥料にするということなのでしょうか?」
「こんなのを養分にしたら、他の紫陽花に影響が出たりしないのか」
 ウィリアムの懸念に、颯人もちょっと顔をしかめた。
「後々増えたりはせんだろうな。……まさかそれが目的……?」
 一面に赤い紫陽花が咲き乱れ、赤や黒の雨を降らせる。そんな嫌な想像を颯人は強いて脳裏から振り払った。今は考えても仕方がない。
「可能なら、紫陽花畑の普通の肥料になるといいね」
 今回のことで荒らしてしまったし、とダカタールは畑を見やった。
「次の花はただ美しく在れる様、夏の彩を飾れる様に」
 盛りの季節を過ぎつつある紫陽花畑から空へと、ダカタールは視線を移した。
「――もうすぐ夏だねえ」

 損傷を抑えて倒した2体目の紫陽花を依頼人のもとへと運ぶため、アイリスは細心の注意を払って厚手の布で包んだ。
「馬車を持ってきていますので、そちらに載せていただけますか」
 担いで運べば紫陽花を傷つけてしまうかもしれないからと、エリーナは紫陽花を荷台に載せ、馬車を慎重に走らせた。
「よからぬことに使われなきゃいいんだが……」
 みつきが気がかりそうに荷台に目をやる。
「こんな化け物をなにに使うっていうのでしょう。出来るのなら、良いことに使って下さったら嬉しいですな!」
 そうあってほしいとの願いをこめて、灰は笑顔を作った。
「紫陽花も不思議でしたし、依頼人もなんだかミステリアスでしたわね。毒や棘を秘めているからこそ、人は飽きずその魅力に惹かれるのでしょうか」
 エリザベスはうっとりとつぶやく。
「謎は女を美しくする……わたくしも目指したいところでございますわ」


 変異紫陽花の1株はゲルセミウムのもとへと無事到着した。
 小さな灯りを掲げて布の中身を確かめ、ゲルセミウムはあら、と声をあげた。
「あら……まあ、まあ、なんて素敵。まさかこんなきれいな状態で手に入れてくださるなんて思っていませんでしたわ」
 あまりぼろぼろにしないでもらえるとありがたい、と言ったのは、ある程度ぼろぼろになってしまうだろうという予測があってのこと。
 それがかなり良い状態で届いたことは望外の喜び。
 ありがとうございますと礼を言うゲルセミウムの声には、ほのかに熱がこもっていた――。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼、お疲れさまでした。
紫陽花を傷めないようにとの皆さまの心配りに、ゲルセミウムも大満足の結果となりました。
ありがとうございました。

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