シナリオ詳細
グレイトフル・ワンデイ
オープニング
●まどろみ
「りんりんりんごがころがった」
歌いながらラスヴェート・アストラルノヴァは一足飛びで歩いていく。ハマユリの揺れる丘の砂はさらさらとして気持ちいい。歌い終わった彼はうしろをふりむき、顔を輝かせながら右手をふりあげた。
「さいしょはぐー、じゃんけんぽん!」
えへへ、また僕の勝ち! 無邪気な、だけどどこかしら遠慮したような声が風にさらわれていく。
「りんりんりんごがころがった」
また歌いながらラスヴェートは先をゆく。丘の頂上まであとすこしだ。
「ねえ、このままだと僕が一番乗りだよ」
もういちど振り向いたラスヴェートはそのまま凍りついた。いない。誰も居ない。たったいままでじゃんけんをして遊んでくれていたヒトたちが居ない。不毛の砂丘には自分の足跡だけが点々と。優しいお父さんがいない。温かいパパさんがいない。おにいさんたちがいない、おねえさんもいない。
「みんな、どこ?」
ラスヴェートはおもいきり息を吸った。
「みんなどこぉ!?」
水晶玉へ閉じ込められたように、くわんくわんと声だけが乱反射。気がつけば服装も奴隷だった頃のみすぼらしいものに変わって……。
「お父さん。パパさん! みんなどこ、みんなどこぉ!?」
少年は声を枯らして叫び続けた。
●悪夢は目覚めた時安堵するためにある
ごとごとと車輪の音がする。幌馬車の荷台でラスヴェートは目を覚ました。
「ラス、ラスヴェート」
「お父さん」
逆光に埋もれているのは、たしかに武器商人 (p3p001107)だ。そのモノはひんやりした手をラスヴェートの額へ置き、ふと微笑んだ。
「だいじょうぶ、何も怖いことはないよ。これから行くのは不毛の砂漠などではなく海の恵み豊かな地なのだから」
武器商人の腕の中で憩いながら、どうしてお父さんは僕の見た夢がわかるんだろうとラスヴェートは不思議に思った。だがどうでもいいことだ。この涼しい風をたっぷりはらんだような袖の影に隠れていると、怖い夢は雲のように消えてしまった。
「起きたのかい…ラスヴェート…。」
手綱を握っていたヨタカ・アストラルノヴァ (p3p000155)が、腕まくりをした。色の儚い、しかししっかりと筋肉のついた腕があらわになる。
「……あと一息だから。愉しみにしていて…。」
「そうですよ、もうすぐ到着です。バカンスにはぴったりの一等地ですよ坊ちゃま! ついたらバーベキューにいたしましょう!」
向かいに座っていたクロサイト=F=キャラハン (p3p004306)がめずらしくにこにこ顔でいう。そんなクロサイトを「大丈夫かこいつ、はしゃぎ過ぎじゃないか?」なんて目でながめやりつつ、斉賀・京司 (p3p004491)は深くうなずいた。
「バーベキューもいいが、まずはコテージに荷物を降ろさないとな。その後はまず泳ごうか、ビーチバレーもできるらしいが」
「私、ボートに乗って沖へ出てみたいわ。ジンベエザメがいるのよね? えさをやってみたいの」
最後尾から流れていく景色を見ていたルミエール・ローズブレイド (p3p002902)が微笑んでふりかえる。そのあやしいまでの美しさにラスヴェートはちょっとドギマギした。
馬車ががたんと大きく揺れた。ラスヴェートは思わず武器商人へ抱きついた。
その視界へ広がった景色は、夢の中とは大違いだった。
ハマユリ揺れるまっしろな砂浜。透明度の高い海水を彩り鮮やかな小魚たちが飛翔していく。サンゴの上へゆったりとジンベエザメの親子が影を落としている。小さな波止場には黄色いボートがそなえつけられている。あそこにみえるネットはビーチバレー用のコートだろう。そして見るからに快適そうなコテージが潮風を受けて静かに佇んでいた。
そこへいけばどんな願いも叶う店があるという。
そこへいけばいかなる夢も買える店があるという。
そこへいくには対価を必要とする店があるという。
そんな噂と夢と対価を飲み込んで、いまや商人ギルドサヨナキドリは誰が言ったか混沌のショッピングセンター。
ここは海洋支部のプライベートビーチだ。
「ほら、しっかり捕まって……スピードをあげるよ……。」
隠しきれない喜びをにじませてヨタカが馬車を走らせる。期待が皆の胸ではちきれんばかりにふくらんでいく。
さあ、今日という日を楽しみ尽くそう。
- グレイトフル・ワンデイ完了
- GM名赤白みどり
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年09月11日 22時05分
- 参加人数5/5人
- 相談7日
- 参加費---RC
参加者 : 5 人
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参加者一覧(5人)
リプレイ
●
太陽さんさん。波はキラキラ。砂浜まぶしく、ヤシの影。
「ここが……」
ラスヴェートはあっけにとられて口をぽかんと開けた。
「そうだよ…ラス…。ここが……」
パパさんがラスヴェートの頭を撫でる。
おおきなおおきなみずたまり。のたりのたりとうちよせる波。熱砂にまじるサンゴの欠片。
「ここが……」
ラスヴェートはもういちどつぶやいた。目の前の光景が信じられなかった。
「そうだよラスヴェート、ここが……」
お父さんがラスヴェートの背中をやさしく押す。
たたらを踏んだラスヴェートは、足元に白い貝殻を見つけた。何もかもが夏の光の魔法にかかっている。
「ここが……」
「そうよラスヴェート、ここが……」
ルミエールがくるりと回って日差しを存分に浴びた。
「ここが海よ、私達のかわいいラスヴェート」
「海!」
ラスヴェートはパパを見、父を見、ルミエールを見て、京司とクロサイトを見回し、誰もが微笑んでいると気づくと矢も盾もたまらず海へ向かって走り出した。
「海ー!」
ざっぱあーん。
波は荒々しくラスヴェートを出迎えた。衝撃をモロに受けたラスヴェートはころんとひっくりかえった。
「坊ちゃま! ご無事ですか!」
クロサイトがあわててラスヴェートを拾い上げた。
「……ラスは楽しんでいるんじゃないのか。まあ、水着に着替えたほうがいいとは思うけれど」
京司が指摘したとおり、クロサイトの腕の中でラスヴェートはキョトンとしている。頬が赤いのは興奮の証だろう。
「あのねクロサイトさん、波がね、どーんときて、ごろごろーってなって、またどーんってきて、とっても楽しいよ!」
「然様でございますか、ああ、私は坊ちゃまが溺れてしまうかと心配で心配で……」
「水を恐れないのはいいことだ。せっかく海へ来てコテージに引っ込んでるんじゃつまらないからね」
武器商人の言葉にヨタカもうんうんとうなずいた。
「ほらラスヴェート…おいで…。みんなで水着に着替えよう…そしたら泳ぎを教えてもらおう…。」
「およぎ?」
「水の中を移動する方法だよ…。気持ちいいし…楽しい……。」
「うん、パパさん。早く教えて」
「教えるのは…俺じゃない…。」
「お父さん?」
ヨタカは首を振った。
「……クロサイト…。」
みんなの視線がクロサイトへ集まった。彼はひきつった笑顔で応える。京司が眉をへの字にして声をかける。
「だいじょうぶなのか、クロサイトさん」
「え、ええ! もちろんですとも! 私へお任せあれ!」
(……哀しい。なぜ私は見栄を張ってしまうのでしょう)
クロサイトは元海種だ。いろいろあって今は旅人をしているが、前世では海岸近くに住んでいた。そう、前世では。今世は関係ない。泳ぎが得意かと聞かれると、首をひねらざるをえない。だがしかし、だがしかし。ラスヴェートが自分を見上げている。輝く瞳で期待を寄せている。純粋無垢が目の前にいる。この瞳を悲しみで汚すなんて重罪だ。
(ああ……坊ちゃまの、皆さんの期待を受けてNoと言えるわけがありません。何故か出来ると思えてしまうのだから不思議ですね)
●泳ぎの練習
「それでは坊ちゃま、お嬢様、息を止める練習から」
「ふっ」
ラスヴェートは息を止めた。ついでに目も閉じた。彼が着込んでいるのは、半袖にハーフパンツのラッシュガード。腰のあたりにはジグザグ模様のように反射板が入っている。見た目よりは機能性、特におぼれた時すぐ見つけられるようにと武器商人が選んだ。そんなことが起きないように目を配るつもりではあるけれど。
「目を閉じちゃダメよ、ラスヴェート」
隣でルミエールがころころと笑う。まっしろなパレオと海色の羽衣が海水をはらんで大きく広がった。腰のあたりまで水につかりながら、ルミエールとラスヴェートはクロサイトに教えを乞うている。
「ではもう一度、息を止めて」
「ふっ」
「うふふ、また目を閉じてる。力み過ぎよラスヴェート」
「あう……」
情けない顔をするラスヴェートの頬へルミエールが触れる。そこへついっと二人乗りの浮き輪ボートが流れてきた。ヨタカと武器商人だ。櫂を手に取ったヨタカが少女と少年へおいでおいでをする。武器商人が身を乗り出した。
「見ていてごらん」
武器商人の差し出した手に周りの空気が集まっていく。終わった頃にはまるっこい氷がふたつ、武器商人のてのひらへ現れていた。
「いま目を開けて息を止めていただろう、ラスヴェート」
「う、うん」
「その調子だよ。はい、あーん。水分補給は大事」
ルミエールとラスヴェートの口の中へ氷を押しこみ、武器商人は満足げに笑うとまた離れていった。
(目を開けて息を止める感じ、目を開けて息を止める感じ)
「んっ」
「そうそうお上手ですよ坊ちゃま! それでは水面へ顔をつけてバタ足の練習です」
そのあとの練習はすんなりとうまくいった。ルミエールは人魚のように泳ぎ、ラスヴェートもぎこちないながらクロールをマスターした。
浜辺へ座り一部始終を見ていた京司は安堵の笑みを浮かべた。
「さてと、このあとの準備でもしてこようかな」
そう言うと立ち上がり、服へ着いた砂をはらった。
●大きな魚
さて、黄色いボートへ乗って沖へ出た一行は、そこで大きな大きなお魚と出会った。
「こんにちは、ジンベエザメの親子。今日一日キミたちの縄張りへお邪魔するよぅ」
武器商人が小魚を入れた袋をどこからともなく取り出し、ルミエールとラスヴェートへ与えた。灰色に白を散らした魚は答えるようにボートへ近づいてくる。
「わ、わぁ」
「驚かなくていいよラス……。ふふ、こんなに可愛いよ……。」
自分へすがってくるラスヴェートの背中をぽんぽん叩き、ヨタカは彼の袋から小魚をとりだしてジンベエザメの口へ投げ込んでやる。魚はまわりの海水ごと、がぶりと飲みこんだ。クロサイトが口をとがらせる。
「いまいちサメらしくないサメですね。私の方がサメらしいですよ、ねえ!?」
「ああ、そういえばフォルネウスはサメだったわね。フォルネウスのヒレは食べられないらしいけれど、あなた達のヒレは食べられるのよね?」
ルミエールが船べりから手を伸ばし、ぽちゃんぽちゃんと小魚を落していく。そしてジンベエザメの鼻面を触った。
「今日の夕食に分けてくれないかしら。なんて、勿論冗談よ? うふふ!」
ルミエールの真似をして、ラスヴェートがおそるおそる手を伸ばす。大きなほうは怖いらしく、小さい方へ手を伸ばす。魚の背へ触れたラスヴェートは、なんとも言えない顔をした。
「サメ肌だ……」
「だってサメだもの」
武器商人がけらけら笑った。
「いっしょに泳いでごらん。怖くないよラスヴェート、彼らはとても温厚だから」
「俺も…ちょっとだけ泳ごうかな…。」
ボートから海へ入り、ヨタカはラスヴェートの腰をしっかり捕まえてやる。ラスヴェートは一生懸命小魚を撒いている。ジンベエザメの親子は喜んでそれを食べた。ぐるりぐるりとボートをめぐって周回し、子がたくさんの小魚を食べられるよう、親はうねりを起こしている。
「ふふ……とても…仲がいい親子だね…。俺達家族みたいだ……。」
「家族……」
「そう、家族だよ…ラス…。」
ほんのりと頬を赤らめ、ラスヴェートはうつむいた。うれしくてたまらないと顔に書いてある。
「パパさんも餌やりする?」
「いいのかい…ならすこしだけ…。」
ヨタカが小魚を撒くと、がぶり、目の前で親が小魚を吸い込んだ。
「……これは、意外と、迫力があるね……。」
「ね、ね、だよね」
「うふふ、小鳥ったら柄にもなく臆してしまったのかしら」
「…そういうわけじゃないよ…。少し驚いたけれど……。」
少々むきになっているヨタカの横顔に、武器商人は笑いをこらえきれなかった。
●海色ガラス
日焼けした白い机の上、無造作に投げ出された麻袋からシーグラスがあふれた。ラスヴェートはふしぎそうにそれを見つめた。でこぼこふぞろいな形。角はなく、まろい。不透明な輝き。なんだろう、なんだかあれに似てる。あ、そうだ。
「宝石?」
「いや、ただのガラス。波にもまれて丸くなってはいるけれど」
京司はやや得意げに唇の端を持ち上げると、長袖パーカーのジッパーを上まできっちりとしめなおした。
「これが今日の戦利品」
「京司さんが集めたの?」
「ああ」
「ひとりで?」
「そうだ」
自分たちがジンベエザメと戯れている間、京司はひとり海岸をさすらっていたのだ。なんだか急に申し訳ない気分になって、ラスヴェートはごめんねと言った。京司は心外そうに目を瞬かせた。
「僕が好きでしたことだ。謝られてもこまる。それに、僕は海へは入れないから」
「どうして?」
「水へ入ると自殺癖が出る」
長袖のすそをめくると、そこには生々しい傷跡があった。ラスヴェートが小さく息をのむ気配がする。
「まあ僕のことはどうでもいい。それより、せっかく集めたんだ。このシーグラスでアクセサリでも作るといい。道具は手配してあるから」
「ラス、ここはありがたく斉賀のお誘いにのろう」
「うん、パパさん」
ラスヴェートは何やら考え込んでいるようだ。
それにはかまわず、小さな箱の中から、京司は細いワイヤーやボンド、それに留め具の類を取り出した。
「見ているだけでワクワクするわね。この古美銅のなまめかしさ、やはり紫が似合うかしら」
ルミエールがさっそく気に入った道具を手に取っている。
「んー、俺も紫のシーグラスと白い貝殻を使いたいな…。」
「紫が足りなくなるかもしれませんよ」
ヨタカのつぶやきにクロサイトが答える。ルミエールが口元へ手を当てた。
「だって父さまの色はどうしても目についてしまうんだもの。仕方がないわ!」
「それでは私が追加を探してきましょう。皆様はアクセサリー作りをお楽しみください」
クロサイトはぺこりと頭を下げると、砂浜を歩き出した。妻の面影を胸に抱きながら。
「青緑のグラスをメインにしたいんだよな……」
と、京司が言えば。
「おや珍しい、赤がある。これをアクセントに黄色を連ねてアンクレットを作ろうか。あァ、もちろんラスヴェートのも作るよ。そっちはブローチにしよう」
武器商人が応える。アクセサリー作りは和気あいあいと進んだ。やがてラスヴェートが細身のブレスレットを作り上げた。
「京司さん、手を出して」
言われた通りにすると、ラスヴェートは袖の上からそれを巻き付けた。小さな白い貝殻と、緑のシーグラスの、不器用ながらも心のこもった一品だった。
「京司さんに幸いがありますように」
ラスヴェートの真摯な瞳に、京司はゆるく目を見開いた。
「ラスヴェート、我(アタシ)たちの分は?」
「これから作るから待って!」
「紫月ってばいじわるいわない。冗談だよラスヴェート」
ごめんねお父さん、なんて言いながらラスヴェートは砂を蹴立てて武器商人とヨタカのもとへ走っていく。その背をまぶしげに見やりながら、京司はつぶやいた。
「かなわないなあ、もう。子どもには」
●お食事タイム
「ほい肉」
「はい肉…。」
「ほい魚」
「はい魚…。」
「ほい魚介の介のほう」
「ははっ、はいはい介のほう…。」
「ほい野菜」
「ありがとう、たくさん持ってきたね…。」
武器商人がこぶりなバスケットから魔法のように大量の食材を出す。ヨタカはそれを受け取り、さあやるぞと腕まくりをして念入りに手を洗った。一口大に食材を切り、金串へ刺していく。大人にとってさえ長めの金串だ。ラスヴェートはたくさん食べれて大満足だろう。その串へ肉・野菜・肉・野菜とリズミカルに刺していく。
「パパさんお手伝いする」
「んー、まだ刃物を持たせるのは俺が少し怖いな…。紫月、遊んでやってくれるかい」
「いいとも」
「ラスヴェート、おいで、炭火をおこそう」
「うん、やる」
いい子だなとヨタカは感じた。さりげなく困って良そうな人へ寄り添う。奴隷だったころからその気性は変わらないのだろう。
ヨタカの手伝いをしていたルミエールが肉を叩いて柔らかくしながらラスヴェートへ視線を向けた。
「私達のかわいいかわいいラスヴェート、あなたは何が好きかしら」
「ん、と、好き嫌いはないよ」
「あらいいのよ、今日くらいはわがまま言っても。たとえばおなかいっぱいお肉が食べたいとかどうかしら。あなたの望みを叶えることが私たちの願いなのだから遠慮はいらないわ」
しかし意に反してラスヴェートは困った顔をした。そのまま言い淀んでしまう。
(奴隷だったから食べ物のえり好みをしていられる環境じゃなかったのかねぇ)
炭火を育てていた武器商人はラスヴェートの頭へ手を置いた。
「答えられないならそれでいいんだよ。好き嫌いはない、いいことじゃないか。何が好きか嫌いかはおまえがこれから決めていけばいい」
ラスヴェートはこくりとうなずいた。クロサイトが悲痛な面持ちで拳を握る。
「坊ちゃま……断腸の思いですが、私のフカヒレを提供いたしましょう」
「あ……それはさすがにいらない、です……」
ラスヴェートの苦手なものにフカヒレがくわわった。
ともあれバーベキューの準備は終わり、とうとう実食の機会だ。
半分に切ったドラム缶のなかで炭火が赤々と燃えている。その上に乗せられた金網では、金串にさした食材が香ばしい香りを放っている。ときおり、油が火に落ちてじうと音を立てた。
「焦げないうちに…お食べ…。」
ヨタカは火加減を見てほどよく火の通った串を一本手に取った。それをラスヴェートへ渡してやる。
「いただきます」
「ん、言えた。偉いコ」
武器商人も串をとり、一口かじる。
「ん、おいしい。さすがは我(アタシ)の小鳥」
「刺して焼いただけだよ……。」
ヨタカは苦笑交じりに仲間へ串を渡していく。
「刺して焼いただけなのにこんなにおいしいのは、環境もあるのかな」
京司がしょうゆ誰に白身魚の串をひたしている。
「そうかもねトキ、皆で場を囲んでというのが重要なのかもしれないね」
「なるほど。あ、最後の食器洗いはやります。何も手伝わないのは悪いからね」
気にしなくていいのにとルミエールが微笑んだ。
(サメっておいしいのかな)
ふと気になってクロサイトを眺めやる京司。
視線にいやな汗をかいた彼は、場の空気を変えるように懐からメガネを取り出した。べっこうを彫りこんだフレームの、装飾過多なやつだ。
「さあ坊ちゃま、おためしあれ」
「きれいなメガネ……メガネ?」
「フレームは飴、レンズは氷砂糖となっております」
自慢げに話すクロサイトへ笑みを誘われ、ラスヴェートはそっとメガネのフレームを口へ含んでみた。
「あまい」
「でしょうとも! それからバーベキューと言えば雪解け菓子ことマシュマロです。軽く焦げ目がつく程度でハフハフって食べるのがポイントですよ! そのうえこのあとはご主人様のジュエリー・サマー・キューブが待ってますよ!」
「ネタバレするんじゃないよぅ」
どっと笑い声があがる。ラスヴェートははにかんだように笑みを見せ、どこか遠慮しいしいバーベキューを食べていた。
(不憫な子だね。愛しているんだよ、愛を受け取っていいんだよ、ラスヴェート)
だがそれには時間をかける必要があるとも武器商人は感じていた。
●空に花
渡された棒のようなものを、ラスヴェートは不思議そうに観察した。柔らかくしなる棒だ。金箔を模した華やかな紙で包まれていて、何か詰まっている感触がする。さきっぽのひらひらした薄い紙が金魚の尻尾のようでかわいらしい。
「これはなに?」
ラスヴェートはすなおにたずねた。
「花火だよ」
「花火ってなに、お父さん」
「ラスヴェートは火が好きかい?」
「うん、あったかいから」
「これは眺めて楽しむための火だよ」
「ながめてたのしむ?」
「百聞は一見にしかずよ」
ルミエールが線香花火を京司のトーチにかざした。ひらひらした紙へあっというまに火が燃え移り、やがて星々がこぼれおちた。
「ふわあ……」
「きれいでしょう、ラスヴェート」
「ルミエール、わかってると思うが振り回す時は人との間隔を充分あけるんだよ」
「ねぇ京司さん、ダメと言われるとそれをしてくなるものなのよ。知っていて? ふふっ、でも今日はラスヴェートが居るからやらないわ。真似をして悪い子になってしまってはいけないものね!」
ルミエールにつられて、ラスヴェートも自分の花火をさしだした。
「ん、しかり持ってね…火に近づけて、そう…。」
天の川があふれだし、砂浜の上で跳ねて消える。炎は青から緑、そして黄金へ変わった。
「す、すごい、すごい」
「こちらもどうぞ」
如才なく花火セットからさらにもうひとつ花火を取り出すクロサイト。皆、次々と自分の花火に火を入れる。炎の共演にラスヴェートは目を丸くしてはしゃいだ。頬が薔薇色に染まっている。
「きれいだねえ、きれいだねえ」
「気に入ったかいラスヴェート、それじゃ次は打ち上げ花火にしよう。トキ」
「おまかせあれ」
皆から数歩離れた京司はぐるりと腕を回した。人差し指の先に炎がともる。それを天空高く打ち上げた。ドンと腹に響く音がして、夜空に大輪の花火が広がる。
「さあ、星のマーク! 次は何がいい? ラス。ハートでも単語でもなんでもできる」
「えっと、それじゃあね」
ラスヴェートは京司の耳へ何事かささやいた。京司は薄く微笑み、夜空へ向けて炎をいくつも放った。
『ありがとう』
幼い少年の心からの感謝は、たしかに皆の胸へ届いただろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでしたー!
いつまでも書いていたかった……。
MVPはラスの本音を引き出したあなたへ。
またのご利用をお待ちしてます。
GMコメント
ご指名ありがとうございます、みどりです。
●やること
1)海辺でBBQしたりして遊ぶ
2)ラスくんをめちゃんこかわいがる まずは水着からだな!
大きく分けて昼の部と夜の部で描写します。
馬車がコテージへつく前に皆さんでかんたんにスケジュールを組んでおくといいでしょう。取捨選択もたのしみのうちです。
●大きく分けるとこんな感じ
【昼】
昼の部です。
・水泳 基本だよね 泳ごう 気持ちいいよ
・ジンベエザメと戯れる 沖に行くとジンベエザメの親子が居ます ひとなつっこくおとなしい性格です
・ビーチバレー 専用のバレーコートがあります 意外とハードだぞ
【夜】
・花火 打ち上げでも線香でも ゴミは片付けようね
・天体観測 夏の夜空を楽しもう
【昼夜どちらでもOK】
・BBQ ※今回のメイン※ 食材はご自由にお持ち込みを
・コテージで休憩 心地よい潮風に吹かれてゆったりと
・その他 サーフィンなりなんなりしたいことをつめこむといい
●フィールド
サヨナキドリ海洋のプライベートビーチです。透明度の高い海は身を任せると空に浮いているかのようです。
ハマユリ咲き乱れる砂浜は焼け付くようで、BBQなど各種イベントはいい思い出になるでしょう。黄色いボートが楽しげに波と揺れ、コテージではハンモックが午睡を誘っています。
ところでラスくんはそもそも泳げるのでしょうか。
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