PandoraPartyProject

シナリオ詳細

食べ物の恨みは怖しプリン食いたし

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●異世界プリン
 アラモード伯爵の舞踏会の目玉は、なんといってもそのプリンであった。
 ただのプリンと侮るなかれ。それは混沌肯定『不在証明』に阻まれ続けていたとある旅人が、ようやく、しかし偶然の賜物により再現した故郷の味だったのだ!
 その希少価値ゆえに、アラモード伯爵といえども用意できた数は舞踏会の参加者と同じだけ。だが、こんな時……必ずや現れるのである。
 一人で二つ以上食べてしまった輩が。

●嗚呼、憧れのプリン
「ぷりんが食べたいの、おなか一杯!」
 食べればいいじゃん……。
 反射的にそう思わずにはいられない豪奢な部屋でその貴族の令嬢は言った。
 巻き過ぎじゃない? ってくらい巻いた金髪縦ロールには誰もが振り返る美しい羽根飾りがフワッサフワッサ揺れている。
 舞台衣装か! と言いたくなる程の豪華でキラキラした赤いドレス。
 幻想の貴族令嬢、ステファニー・ジェフリーは言った。
「今度、アラモード伯爵のパーティがあるんですの。
 わたくし独自に集めた情報では、そこで、なんと、例の『幻のプリン』がサプライズとして出るらしいのです!」
 幻のプリン、通称『異世界プリン』は幻想のくいしんぼうたちの間でヒソヒソと噂になっていた。
 今度開かれるアラモード伯爵のパーティでは、それを食べることができるのだという。
 ──しかし、それにはいくつかの問題があって。
 まず一つ、それは小さな盃程度の器にひとり一つしか供されないと言う。
 そして二つめ。
 今回開かれるパーティの主催はアラモード伯爵だが、場所を提供するのはイワーク男爵。
 イワーク男爵は一部で有名な美食家だ。
 アラモード伯爵のパーティと謳っているが、イワーク男爵の館で行われるのならば恐らくメインはダンスなどではなく美食会である。
 イワーク自体は知見を広めることを趣味としており、地位や出身に関わらず様々な人々を招待しているのだが、その反面、セキュリティの厳しさで有名でもある。
 ──主に、テーブル、つまり食べ物に対してのセキュリティで。
 割り当てられた量以上のプリンの盗み食いなど到底許されない。
「メインはアラモード伯爵の舞踏会ですからね……いわゆる幻の先行公開ですわ!」
 ステファニーはグッと両手を握りしめた。
「でも、幻想のプリン好きと言えばこのわたくし! おちょこ一杯のプリンでは満足できないんですわっ!」
 そして、『自称』幻想イチのプリン好き令嬢はイレギュラーズたちに頼んだ。
 ひとりじゃ怖いから、みんなで盗み食いしてくださいって。


●The ぷりん was a ミッション・インポッシブル
 ステファニー嬢の手引きでパーティへ潜入したイレギュラーズたちは唖然とした。
「……な、なんだと……」
 ステファニーは呻いた。
 幻のプリンは確かにあった。
 小さな品の良い硝子の器に入って会場の片隅に並んでいた。
 ──そして、噂のプリンを狙って二、三個盗もうとする不埒な輩は彼ら以外にも勿論たくさんいた……いたのだが……。
「お客様。大変申し訳無いのですがこちらは皆様に少しずつ楽しんでもらおうという主の意向で一人一個となっております」
「申し訳ございませんが、他のお食事をお楽しみくださいませ」
 キリッと燕尾服を着た初老の紳士が、二つ目を取ろうとする紳士を優しい手つきで退ける。
 黒いドレスを着こなした中年であろう控えめな美しい婦人はにこやかに鈴を振って他のメイドたちを呼び、客人を別のお茶と料理でもてなす。
「なんてこと……、こんなことって!」
 令嬢は天を仰いで悲痛な声を出す。
「あれは、かの有名なイワーク家最強のセキュリティ、執事のセバスチャン・ゼロとメイド長のパーフェクト・ミセス、ロッテン・マイア……」

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●解説
・プリンの番人たちを正面突破で抜けるかどうかは命中と回避で判定されます
・PCは状況・状態によってペナルティがつきます
作戦行動としては、小芝居・戦闘(被害が大きくない範囲で)・連携プレーなどが考えられます
お客であるという立場から傲慢に脅迫するのは(悪依頼なのに)失敗します
泣き落とし・色仕掛けは試みてもいいですが失敗します
立食ルームでは持ち運び用のサイズ様様な銀のトレイ、取り皿、カラトリー、おしぼり等各種あります(持ち帰り用タッパーと食品用ラップフィルムはございません)
庭園ではメイドに頼めば薔薇を摘んでもらえます
こっそり料理を持ち帰ることは可能です(アイテム配布は行いません)

※悪依頼ですが……
・脅迫・暴力による強奪は失敗
・パーティを壊すような騒動は失敗
・同じ手法は二回使えません
あまりに常識手に酷い行為をするとパーティからつまみ出されます


●ステージ
イワーク男爵の屋敷(時間帯:10時~)
屋上庭園(薔薇が見頃!)―ダンスフロア
 │               │
立食ルーム(端に小さなテーブルとソファが複数有)
        │
   談話室(ソファーとテーブル)
戦いは立食ルームで行われます
ダンスフロアは人が多く、隠れるのに最適
談話室も人は多く賑やかで、食べ物を持ち込んでいる人もいます
庭園は人が少なく静か


●ステファニー嬢
・派手は服装をしており盗み食いには向かないのに服装の変更はできません(「パーティですもの、お洒落はレディのたしなみではなくて?」)
・動きも素早くないので、サポートしないと一個以上食べられません
・ステファニー嬢が3個以上食べられないと失敗です

●プリンの番人※命中と回避だけ高い
・セバスチャン・ゼロ
 物腰柔らかな燕尾服を着た初老のイケメン紳士

・ロッテン・マイア
 黒いドレスを着た中年の控えめな美人
 ロングスカートのメイドたちを従えて鉄壁の守りを行う

皆様はステファニー嬢を通した正式な参加者なので
プリン作戦には一回以上チャレンジすれば他の食べ物を食べたり音楽を楽しんだり、ダンスを楽しんでも結構です
あまりに非協力的だとステファニー嬢はむくれますが、一回程度チャレンジすればむくれるだけです


●プリン
味は得も言われぬ、としか表現されません(美味しい)
おちょこの中のプリンはよほど激しい動きをしない限り、落ちません



ということで、悪です!悪属性依頼です。
正義の士として生きていても時には正義のために悪に手を染めなければならない、そんな辛いこともあると思います。
かよわき令嬢の頼みを聞いて行った行為が、世には悪と判じられることもあると思います。
それでも、己を貫いて生きて頂ければ……!
ええと、盗み食いは悪です。
るうGMのアラモード伯爵のプリン連動に「悪依頼で盗み食いしたい」と発言したところ、
ナゼか一番手となり緊張で震えている依です。
悪依頼だけど、たくさん楽しんで頂ければと思います!
他にもたくさん食べようとするライバルがいるはずなので気をつけてくださいね。

  • 食べ物の恨みは怖しプリン食いたし完了
  • GM名
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年07月14日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マスダード=プーリン(p3p001133)
金獅子
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
アンシア・パンテーラ(p3p004928)
静かなる牙
ベアトリス ファルケンハイン(p3p006143)
鉄の女

リプレイ

●魅惑の美食パーティ
 イレギュラーズのひとり──いや、”ふたり”『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)。そのうちの銀髪の少女スペルヴィアは釈然としない思いを口に出した。
「……貴族が悪事をって聞いていたのだけど?」
 彼女に寄生した儀式呪具サングィスが応える。
『依頼主の希望を叶えるのが仕事だな?』
 紫煙をくゆらせながら『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は頷いた。
「そう、ステファニー嬢にプリンを食わせること。……あ、オレらが食えば良いっつーワケじゃねェんで、そこ注意。
 まーた、可愛らしい依頼……いや依頼っつーより『お願い』だろコレ。これで金取るのかよ。あくどい商売してんなァ、ローレット! ま、嫌いじゃねーぜ?」
 魔法少女の言葉に『金獅子』マスダード=プーリン(p3p001133)は訳知り顔で頷いた。
「俺様が隙を作ればいいんだろう」
 『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377) が力強く頷く。
「ああ、セキュリティぶっとばして手に入れればいいんだろう? ショウメンからセイセイドウドウと倒して見せるよ! あ、いや。ホンライの目的は忘れていないからね」
 非常に怪しい気配を感じ、ステファニーは神妙な顔で念を押した。
「くれぐれも忘れないでくださいね」
 『鉄の女』ベアトリス ファルケンハイン(p3p006143) が笑った。
「子供の時分ってのは少し意地汚いくらいがちょうどいいんだ。そこには大人の都合や道理なんて挟み込めやしないし、そうやって育っていくもんだ。だから、今、俺たちが出来る事は、そのヤンチャに付き合ってやる事だけさ」
 令嬢然とした可愛らしい外見から飛び出すさばさばとした男言葉。フォローであるはずのそれに依頼主は顔を赤くして抗議した。
「こっ子供じゃないですわ! プリンの魅力には大人も子供も関係無いのですわ!」
 派手に盛りすぎて年齢不詳の令嬢はプリンの精神性を説こうとした。
「たかがプリンではないよ、プリンだからこそ全力を出すんだ」
 その心情を代弁するかのように共に主張したのは『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)だ。
「悪い事だと分かっていても、この欲望を止めることはできなかった。ああ! プリンいっぱい食べたいよぉ!!? 全力をもって盗み食いするね!」
「お願いいたしますわ! プリン、プリン♪」
 同志を得たとステファニーは嬉しそうに羽飾りをファサファサと動かしながらムスティスラーフの手を取ってくるくると回る。
 そんなふたりを冷静に眺めるアンシア・パンテーラ(p3p004928)。パーティに合わせて服装を整えてはいるものの、今は本来のユキヒョウをベースとした怪人の姿だ。
(言われてみれば、あれは召喚されてから食べていないのか。あの人間形態で過ごしていたのがもう少し長ければ、影響されて執着が増したかもだが──、真っ当に美食を楽しめる場なら、それで充分と思ってしまうな)
 依頼人の前で口にはできんが、そう思いながらアンシアは微かに漂い始めた食欲を刺激する料理の香りに胸がふくらませた。
「お貴族様のパーティねェ。オレには礼儀も作法もあったモンじゃねェが」
 ことほぎは胡乱げに建物を見上げる。
 最後に『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)が不審そうに呟いた。
「プリン、か」

 パーティの料理は凄まじかった。
 一品一品が整えられた見目麗しいアミューズブーシュ、種類豊富なオードブル。温冷揃ったスープにメインの魚・肉料理、そして、目的のデザート。
「なんという絶品」
 無表情で賞賛しながら料理を平らげていく一晃。
「さて、では、これがそのプリン……」
 目的のプリンをまずは一個、一晃はステファニーと共に味わう。
 顔を綻ばせる令嬢、そして一晃は。
「菓子ひとつにここまでかける価値があるとは、ミルクレープ以外に存在するとは思えなかったが……このプリンは余りにも美味……」
「みるくれーぷ!?」
「いや」
「今の目的はプリンだろう?」
 アンシアが令嬢の勢いで倒れそうになったグラスをさっと取り上げて宥める。
「やべえ、これ、俺、自分の分のプリン食えるのか……?」
 準備だと称してパクついていたベアトリスは見た目にわかるほどに腹が膨れていた。完食する度にどこからか現れたメイドたちが皿を下げるので自分でも何皿食べたのかわからない。
「お、アンシア」
「ビシュケク」
 アンシアは獣人と人間形態で二人分のプリンを確保する作戦なのだ。
「協力頼む。獣種は私ほど体格が変わったりしないようだしな。普段は服に不自由しているが、今日は役立ちそうだ」
「ああ。俺、そろそろ行くぜ」
 じゃあ、と去るベアトリス。膨れた腹をさすって歩くのも大変そうだ。
 原材料が謎のカラフルなテリーヌにフォークを突き立てながら、ことほぎはこっそりと足元に視線を落とした。ウィッチクラフトとファミリア―で召喚した二匹の鼠がちょこんと指示を待っている。ああ、と小さく頷いて見せると鼠たちはちょこちょこと走り出した。
「あとは様子を見ながら……ウマいな!」



●プリン・チャレンジ
(少しカマトトぶるか)
 ベアトリスは淑女の振る舞いで正面からセバスチャンへと挑む。
「申し訳ありません、お二つ頂けますでしょうか……?」
「残念ですが」
 はあ、と食べ過ぎで大きくなった腹をさすりながら彼女は訴えた。
「此処に、もう一人いるのです。恥ずかしながら普段碌な物も食べられず……」
 チラっと悲し気にそして恥ずかしそうにうつむくベアトリス。背けた顔は策士の表情だ。
(余り情報を喋り過ぎるのは悪手だ、相手が紳士ならコレだけで行ける時は行けるはず……来た!)
「そうですか……それはいけませんね。では」
「ああ! 何と言うぅおおお!?」
 押し付けられた大きな銀のトレイにはたくさんの肉料理、一目でわかる積載量超過である。
「野菜も必要ですね」
 ずんずん重くなるトレイ。満腹ゆえにこってりとした匂いに込み上げる拒否感。
「ど、どう言葉を紡いでもこの感情は言い表せません。この子が産まれた時は必ずお礼に参ります!」
 放り出すわけにもいかず、トレイを抱えてその場を離れるベアトリス。
 幸いにもトレイの端には小さく二個プリンが乗っていたが、彼女がそれに気付くのは後のことだ。
「手強そうだね」
 観察していたムスティスラーフはプリン・セキュリティに挑み、失敗してとぼとぼ戻る人々から一人、二人と声をかけた。
(敵の敵は味方になって貰わないと。人が多い方が紛れやすいしね。それに、そろそろ……)
「プリン確保用の戦い方にチェンジ! 妥協は一切しない!」
 彼はスイッチマニューバを使って見得を切る。
 プリン確保用の戦い方とは。


 同じくイグナートは正面からセバスチャンへ声をかけた。
「ウワサは聞いたよ。最強のセキュリティだってね」
「さて?」
 やんわりと躱しながらプリンを一個差し出す執事へ彼は宣言した。
「どれほどのものなのかショウブだ。プリンは2コいただくよ!」
「申し訳ございませんが、おひとり様一個となっております」
 セバスチャンの顔つきが変わった。
 同時にサングィスももう一人のセキュリティ、ロッテン・マイアから二つめのプリンを取ろうとした。
 白い手がさっとプリンをガードする。
「お客様」


「プリンを、寄越せ!」
 セバスチャンとロッテン・マイアが動いたのを見てマスダードが三下よろしく声を上げた。
 一斉に動くメイド部隊。
 そして、一晃もまたメイドたちの前に滑り込んだ。
(依頼人がプリンにここまで入れ込むのも理解できた。故に今回の俺は本気で行くしかあるまい)
 一晃の持つミラー鍋のふたがシャンデリアの光を反射して煌めき、白金の星官僚のフォークが比喩的な意味で牙を剥く。
「墨染烏改め今日の俺はプリンゲッター・黒星一晃、一筋の光と成りて美味なるプリンを確保する! ここは俺に任せるんだな!」
「俺様を忘れるな!」
 マスダードが奪い取った巨大なケーキサーバーを構える。残念ながら、呪骨刀コカトリスはクローク預かりであるが、マスダード・ケーキサーバーはカトラリーとは思えない勢いで一刀両断を繰り出す。
「ここからは手加減なし、だ」
 一触即発、だが。
「きゃっ!」
 急にメイドたちの陣形が崩れた。
(来たか!)
 隙を逃さずに一晃が間合いを詰める。
 メイドたちは彼らを置いて、ことほぎが呼んだ鼠の影をさっと隠す。
 それはお食事の場にあってはならないもの。
 あっという間に半数以上のメイドたちがそちらを追って姿を消した。
(俺はプリン確保班の血路を開く為に全力を尽くさなければ!)
 フリーオフェンスからのブロックで残ったメイドを止めつつ、手加減を心掛けながらではあるがフォークを翻す。
「己の死力を尽くしPudding Party Project、略してすなわちPPPを発揮し、メイド達を倒す為に特攻せん!」
 ちなみにこのPPPとはただの気合いであり、特別な意味は持たないことをここに記す。


 セバスチャンに挑んだイグナートは彼の素早さに舌を巻いていた。
「ッ!」
「ご遠慮ください!」
 ジリ……、プリンを背にした執事を抜くことはできなかった。
「たぁっ!」
「こちらは如何でしょうかっ」
 モグ……、非常に美味なプチフールを頬張りながら間合いを取り直してイグナートは戦況を見極めた。
 執事は素早さにおいては彼を凌ぐが攻撃手段を持った戦士ではない。
 対してイグナートは少しずつではあるが彼の体力を奪うことができる。
(相手の体力を奪うのが先か、オレの胃袋が膨れるのが先かだ……)
 セバスチャンが指に挟んだフォークには色とりどりのマカロンが鎮座している。


 ダンスフロアの片隅で、ことほぎは他の招待客と言葉を交わしていた。
「あのサーカスと!」
 招待客たちは先のサーカスとの戦いを我先にと聞きたがった。中々の食いつきようである。
(話のタネにゃ困らねェとは思ったが……これならイケるかねェ)
 デザートコーナーの混乱を察知したことほぎはそっと口調を変える。
「ところで、皆さんもこのパーティにはプリンがお目当てで? オレもなんですが、どうせなら──『幻のプリンを腹いっぱい食べたい』モンですねェ」
 メイドも二人の最強のセキュリティも今は手一杯であることを確認して彼女は魔眼を使った。
「プリン……」
 誰かがふらりとその場を離れるのを見て、ことほぎは内心ニヤリと笑う。
(これで何人かがプリン簒奪に動きゃ、大人数に紛れつつ、オレもプリンを狙いやすい──?)
 ダンスフロアの中が異様な熱気に包まれた。
「これは魔眼というより扇動だな」
 苦笑することほぎ。
 先に飛び出した人々を追い、皆の思いはプリンに集結した。


 スペルヴィアは戸惑いの表情でプリンをガードした手の主、ロッテン・マイアを見返す。
「あら? 招待状には私の名前と……」
『我の名前が書かれていたと記憶しているのだが?』
 ステファニーに頼んだ招待状は名前が離れて併記されており、二人分の名前が記されたようにみえなくもない。
「それとも、旅人(ウォーカー)はお断りなのか……」
『我が契約者殿への歓迎が予定されていないのか?』
 ゲストを不当に扱ってはいけない。マイアはしばらく考えて尋ね返した。
「招待状は一枚ですが──では、胃袋の数でお渡しします。おいくつですか?」
「胃袋の」
『数』
 目的の為に二つと答えるのは容易かった。
 しかし、果たして反芻動物と同じジャンルで構わないだろうか。例えば牛とか。
「二個です」
『……』
 スペルヴィアは躊躇いなく答えた。


 獣人姿でビシュケクとして問題無くプリンを一つ手に入れたアンシアは、スペルヴィアに続いて人型の『活発な令嬢アルマ』として、もうひとつのプリンを手に入れようとした。
 だが、マイアのセキュリティは発動した。
「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい? アルマと申します」
 動揺を押し殺して答えるアルマことアンシア。参加者枠をふたつ用意して貰いたかったのだがそれは難しかった為、招待されているのはビシュケクのみである。
(ゲスト全員を覚えているのか?)
 不安を覚えた矢先、ステファニーがアンシアの手を引く。
「ここに居たのね、アルマ! こちら連れですの」
「ステファニー様と親しくされていましたね」
 アルマとしての姿を印象付けるため、アンシアはともするとプリンブースへ向かおうとするステファニーを引きずってあちこちで談笑していたのだ。
「ええ、無礼ではなくて?」
「失礼致しました」
 意外と素直に二個目のプリンをアンシアへ渡すマイア。
(よし、今だ! この両の手を罪で穢してでもこのプリンを掴み取って見せる!)
 ムスティスラーフがさっとプリンに手を伸ばす。
 ビクッと反応したマイアだが、彼の手に一個のプリンしかないことを確認すると次々と現れ始めた他の客への対応に回った。
 にっこり笑うムスティスラーフ。
 プリンを掴むその腕の陰には二個ほどのプリンがぴたりと張り付いていた。
 「我が見えざる手」は彼のギフトである。
「あぁ、お尻のようにまろやかなプリンだ……ぁああっ!?」
 その時、ダンスフロアから大勢の人々が雪崩れ込み、──デザートコーナーは一気に地獄と化した。
 セバスチャンと戦うイグナート。
 他の客にばれないように鼠を探し回るメイドたち。
 残りのメイド相手に暴れるマスダードと一晃。
 ちょくちょくとプリン強奪に走るムスティスラーフ、ことほぎ、それをサポートするアンシア。
 ステファニーを守るベアトリスと共に試みるサングィス。
 彼らに守られながら果敢に挑むステファニーは結局ドレスに足を取られて未だに一個も取れていない。
 そして、ムスティスラーフの協力者とことほぎに感化された一般客とそれに乗じた他の客たち。
 混乱が極まった頃、招待客名簿を手にしたロッテン・マイアが叫んだ。
「これ以上はおやめください、イグナート・エゴロヴィチ・レスキン様、黒星 一晃様、マスダード・プーリン様!」
 そして──プリンに群がるプリンしか頭にない人々の視線が一斉にマスダードへと向いた。

『マスタード……プリン……?』

 とんでもない言葉があちこちから飛び出した。
「はぁあ!?」
 反射的にガルガルと唸った瞬間、マスダードはその気配を感じた。
(……マズイ!)
 「Forced escapism」、それは彼が贈られたギフト──そう、一言で言えば過度のストレスによって起こる女体化。
「あああっ!」
 発動するギフト、逞しい腕にぴったりだった袖がだらんと細い手首の先に垂れ下がる。
「てったーい!」
 ムスティスラーフが叫ぶと、イレギュラーズたちは人混みに姿を隠した。



●snitch food!
「ぷりん……」
 涙目で重いため息をつくステファニー。
 その手を引いていたスペルヴィアは庭園の片隅で足を止めた。
 そして、サングィスのプリンをステファニーの掌に乗せた。
「一緒に食べるのも依頼のうちだったと記憶しているのだけど?」
『残念ながら我には口も消化器官もないがな』
 驚きの表情を浮かべるステファニー。
「胃袋は二つあるのに?」
『……聞いていたのか』
「他にも騒ぎに紛れてプリン強奪に成功した参加者から取り上げたプリンもあるわ」
 その時、イグナートがさっと現れた。
「あ、探したよ。サクセン後は談話室って話だったよね」
 イグナートに連れられて談話室へ向かうとマスダードが彼の頭を押さえる。
「目立つだろう!」
 全員が集まったのを確認するとムスティスラーフがじゃーんとプリンを二個、ステファニーの手の中に押し付けた。
「お嬢、例のブツだよ、お納めください。……見つかると大変だし、こっそりとね」
「こっちが俺の分だ」とベアトリス。
「あぅ、た、足りませんわ!」
「そんなぁー!」
 プリンを抱えたステファニーを背後に隠して周囲を威嚇していたことほぎが、思い出したように自分のプリンを取り出した。
「こっちがオレの献上品」
 後ろ手に差し出されたそれはことほぎの分だ。
 何かを察したステファニーは真新しいスプーンの先端でそれを僅かに削り取ると残りをことほぎへ返した。
「一緒に盗み食いするまでが依頼、なのですわ」
「あァ? そうだっけ……なんだコレ!」
 面倒臭そうにプリンを食べ始めたことほぎだったがその美味しさに目を丸くする。
 アンシアもまた、ステファニーに強引に勧められてプリンをすくい、納得する。
「これは……なるほどだな」
「腹パンパンでも美味いな」
 食事休憩を挟んだベアトリスも、もくもくと自分のぶんを食べた。
「まだ入るんだな──お、美味い!」
 マスダードが呆れながら自分のプリンを頬張ると、見る間に男の姿に戻った。
 そんな彼らを見ながら依頼主の顔には笑顔が浮かんでいた。
「ああ、プリンも美味しいけれど、皆で食べる盗み食いってなんて楽しいのかしら!」
「つまり、PPPは発揮されたと」
 一晃が深く頷きながらミルクレープによく似たケーキをぱくりと食べた。
 こうして、ローレットの手により令嬢は盗み食いという悪の道へと堕ち、平和なはずの美食パーティは大混乱のうちに幕を閉じたのだった。



成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

なんたる悪……。

お疲れさまでした!

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