シナリオ詳細
ハイヌウェレの子ら
オープニング
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ヒューゴー・ギブニーは決して善人と呼べる男ではなかった。
若い頃から仲間たちとつるんで弱そうな者に暴力を振るっては、金を巻き上げ女を奪い、欲望の限りを尽くしてきた。それは大人になってもさして変わらず、振る舞う舞台が街から海になった程度だ。
傍若無人で支離滅裂、粗野で野蛮な海の荒くれ者。それがヒューゴー・ギブニーという男だ。
自分が天国に行けるなんざ到底思っていないし、そもそも死後の安寧など興味はない。
けれど、あぁ、けれど。
「こんなのッ……あんまりだろ……!」
激痛に痛む足を引きずりながら、暗闇の中でヒューゴーは必死に逃げていた。
顔は涙と汗と鼻水でぐちゃぐちゃで、とても見れたものじゃない。
「ハァッ……ハァッ……!! クソッ、クソクソクソッ! こんな島、こんな島にこなけりゃ!!」
既に十数名いた仲間は一人もいない。
自ら死を選んだもの、『奴ら』に生きたまま解体されたもの、発狂してどこかへ逃げ出したもの……ヒューゴーはその姿を見ていた。見てしまった。
「イカれてやがる……イカれてやがる!!」
背後からは獣のような荒い息遣いと、下卑た笑い声が聞こえてくる。
『奴ら』はこの状況を楽しんでいる。コレはいわば狩りなのだ。傷ついた獲物を囲い込んで、喰らうための。
「あ」
ぐらりと身体が揺らいだ。石に躓いて地面に倒れる。
振り返れば、『奴ら』はもうすぐそこまで来ていた。
「い、いやだ」
死にたくない。こんなところで。死にたくない死にたくない死にたくない。どうして? この島に来たから? あいつの子供を堕ろさせたから? それともあいつから金を奪ったから? 嫌だ。どうして、俺はまだ。
『奴ら』の持っている曲刀が、俺の足に腕に腹に指に髪に振り下ろされて――。
●
「ご機嫌よう。カーディナル・レッドでダブグレイな依頼が入ったわ」
ローレットに所属する情報屋の一人、『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は一枚の地図と、数枚の写真を取り出した。
「受けてくれる人はいるかしら?」
イレギュラーズ達が視線を落せば、そこには一箇所に赤いばつ印と『豊穣島』という文字が記されていた。
プルーは薄い笑みを浮かべると、依頼の詳細を語る。
どうやらこれは海賊からの依頼らしく、『豊穣島』と呼ばれる島に宝探しに赴いた仲間たちが依然として帰ってこないというのだ。
依頼主の海賊は出港当日、激烈な腹痛に見舞われて家で休養を取っていたらしい。
幸いただの食あたりだったが、今度はいつまで経っても仲間たちの船が港に訪れない。これは何かあったのではないかと心配して、ローレットに捜索依頼を出したという。
その『帰ってこない仲間』の写真を見てみれば、いずれもひどく悪人面で「いかにも」といった風体の男たちばかりだった。ヒューゴー・ギブニー、アラン・ダフ、ボブ・リドリー、クラーク・キッチン……etc。
「島の正式な名前は『バーサール』。少し調べてみたのだけれど、チリアンパープルな話ばかり出てきたわ」
曰く、『人喰いの怪物がいる』。
曰く、『神を待つものどもに生贄として捕らわれる』。
曰く、『入ったら最後、二度と生きて帰れない』。
いずれも明確な情報はなく、それ故に立ち入ったものがひどく少ないのだろうと推察できる。
「おそらく島民に関する噂なのだと思うわ。島の外から来るものに対して特殊な信仰を持っているのかもしれないわね。
たとえば、海の向こうから来るまれびとの身体を喰らえば変わらぬ豊穣が約束される……とかかしら?
だからできる限り慎重に、かつ秘密裏に島へと上陸して頂戴。もしも見つかったら、何をされるかわからないから」
仮にプルーの推測に近いことが起こっているのだとすれば、件の海賊たちは既に――。
しかし、そうだと言って見過ごすわけにはいかないだろう。正規の手続きを踏み、ここに『依頼』として持ち込まれているのだから。
「今回の依頼は不鮮明な情報が多いわ。あなた達が対峙する敵のことも、件の島のことも。
もしかしたらショッキングなことを目の当たりにするかもしれない。だから……気をつけてね」
そうしてプルーに見送られ、イレギュラーズ達は『豊穣島』と呼ばれる暗黒の島へと赴くことになる。
待ち受けるのは、果たして――。
- ハイヌウェレの子ら完了
- GM名清水崚玄
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年09月10日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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潮の香りに混ざった錆臭さの真実を、果たしてどれほどのひとが知っているというのだろうか? 知恵を得た者たちが恐れた夜の帳はすべてを覆い隠し、何者も手の届かぬ彼方へと連れ去ろうとしていた。
「“人喰い”に“生贄”とは、『豊穣島』なんて名前の割に随分と穏やかじゃねぇな。そんな島にわざわざ向かうやつらの気が知れねぇが……帰ってこねぇ連中がいるんなら、放っておくわけにもいかねぇか」
視界の向こう、島の方角へと瞳を向けて『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は言う。
「えぇ。人喰いの怪物とは不穏ですが、救える可能性のある者を放っておく訳にはいきません」
その言葉に『活人剣』ルーキス・ファウン(p3p008870)が頷き。
「……さすがに、カムイグラとは関係ないよな」
『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)がぽつりと懸念を零す。
カムイグラ、或いは『豊穣郷』。豊かな恵みと黄金の稲穂がなびく彼の地と、これから向かう島はあまりにも違いすぎる。しかしその名に同じ『豊穣』を冠する以上、どことなくひっかかりを覚えるものもいた。
胸騒ぎ、といってもいいのかもしれないが。
「どうだろうね。分からないことも分かっていることも、総じて不気味という具合だけれど……受けた以上はやるしかないね」
そう肩をすくめるのは『若木』秋宮・史之(p3p002233)だ。
しかし賊とはいえ人の命が掛かっている。手を抜くつもりもない。
「人喰いの怪物、生贄、入ったら生きて帰れない――しかもこれが島民にまつわる噂だってんだからファンキー過ぎてブルっちまうぜ」
紫煙を弄ぶ『煙草のくゆるは』綾志 以蔵(p3p008975)は、そんな『噂』を思い起こして皮肉げな笑みを浮かべた。
「うっかり捕まったら燻製嫌いにはオススメしねぇって言っとかねえとな」
「いいアイデアだね。ワタシも言っておこうかな、狼の肉はやめたほうがいいよって」
そんな風にさらりとした口調で言葉を交わしたのは『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)だ。社交的でおしゃべりな彼女は、他人と良好な関係を築くことはそう難しくなかった。……勿論、言葉や意思がきちんと通じる相手に限って、だが。
「ともかく、何が起こるかわからない。心して掛かろう」
相手は未開の島に潜み棲む食人族。その真偽がどちらにせよ、あまりフレンドリーではなさそうだ。
「もちろん、ですの。必ず、生きて、帰りましょう」
こくりと、船の側を浮遊しながら移動している『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が頷いた。
自分にはまた会いたい人がいる。彼のためにも、ここで果てるわけにはいかないのだ。
――やがて、少しずつ『豊穣島』と呼ばれた地の影が見えてくる。
ほのかな光が挿す夜闇のなかにおいて、それは得も言われぬ異様さがあった。例えるならば、それはある種の獄だ。絶海にそびえ立つ、未開という名の高壁に囲まれた森獄。
鉄錆の臭いが鼻孔をすぎる。
さきほどよりも濃いと感じた思考は、果たして正しいものだっただろうか?
「厭な空気じゃのう」
舵を握る『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)はひとりごちる。
言葉という枠に収めることのできないその空気を感じたのか、ポチも潮のそばにぴったりとくっついていた。
「……もしや、わざと来訪者を誘うために宝の噂を流した者がいるんじゃろか」
怯えた様子のポチを片手であやしながら、ふとそんな考えが頭を過り寒気がはしる。
だとすれば誰が? なんのために? どうやって?
すべては密やかな暗がりの中に隠されていた。海賊たちの生死も、噂の真相も、島に根付く信仰も、そしてこの探索の行く末も。
冷たい月輪に見つめられながら、イレギュラーズ達は豊穣島バーサールへと上陸した。
●
動植物と意思の疎通ができるのは情報収集においてこの上なく有利であった。ことさら今回の依頼においては、まともに対話できる相手がいるかどうかもわからないのだから。
「島の奴ら、随分といろんなモン持ってっちまったみてぇだな」
「そうじゃのう。貝たちの言っていた通り、海図も食料も衣類もなーんもないわい」
潮と縁は浜辺に放置された海賊船の中を探索していた。海賊船という割にはあまりにもガランとしており、まるで打ち捨てられたかのようだった。
しかし机の引き出しやベッドの下など、隅々まで見てみれば一つの手帳を発見する。なにかの拍子に落ちてしまったのだろう。それは机の裏側に隠されているかのようだった。
「これは……日記か?」
「そのようじゃの。一応、見させてもらおう」
ペラペラと頁を捲れば、他愛のないことが書かれている。船員への愚痴、他愛ないメモ、明日の予定……その中に幾つか、気になる記述があった。
《エリックが面白い話を持ってきた。『豊穣島』?
なんだそりゃ。ずいぶんメデタイ名前の島だな。あいつはそこに宝があると言っていた。
ヒューゴーは行く気らしい。あいつは業突く張りだからな。俺も同類だが》
《『豊穣島』ってのはまだ誰も入ったことのない未開の島らしい。面白そうだ。
人喰いの怪物だがなんだが知らねぇが、どうせ見間違いだろ。
にしても、まさか話を持ってきたエリックが[『海洋』でありふれた魚介]で腹を下して来れなくなるとはな。仕方ねぇから、アイツの分まで俺の懐に入れといてやるか》
記述はそれが最後だった。
「エリック、確か依頼人の名前だったか?」
「そうじゃ。……少し、キナ臭いのう」
「ハハ、確かにな。犯人としちゃあ十分すぎる」
「できるなら、それは間違いであってほしいがのう」
縁は手帳をパタンと閉じると懐へしまい込む。証拠として、そして『遺品』として。本当は他の船員のものも持って帰りたかったが、こうまでなにもないと仕方がない。
殺風景になった甲板へと歩みながら、二人は改めて浜辺を見渡す。
「……おい、ありゃ何だ? ガラクタか?」
浜の向こうに、奇妙なオブジェがあった。
「いいや……おそらくあれは」
望遠鏡で覗いていた潮が、どことなく思案するような声で続ける。
ひどく不格好で、到底完成とはいえない。すぐさま波に揉まれて打ち砕かれてしまいそうな姿を呈しているが、あのオブジェのような何かは。
「――船じゃ」
石造りの遺跡は暗く、じめじめとして居心地がいいとはお世辞にも言えなかった。
「あーあ、ここは本当にいい場所だな。ホテルにしたら儲かりそうだ」
「千客万来間違いなし、かもね……」
「そう、ですの? 変わった人も、いますのね……」
声を潜めながら探索を進めるのは以蔵、フラーゴラ、ノリアの三人だ。
半径100m以内に敵対心を持つものはいないと、フラーゴラの索敵能力で判明している。しかしだからといって無警戒で進めるほどのんきではいられない。以蔵の広域俯瞰能力と超人的な視力、フラーゴラの桁外れの嗅覚を用いて慎重に進んでいる。
「たぶんだけど、この島の人たち……積荷信仰を持ってるんだと思う」
「積荷信仰、ですの?」
「うん。海の向こうからやってくる神が豊穣をもたらす、っていう信仰……。ここでいう神は、だいたいが外から来た人なんだけど……」
「……その言い方だと、どうにも違うって感じだな?」
「ノリアさんが見つけてくれた壁画やレリーフを加味すると……人ではない何かだったんじゃないかな」
「あの、すこし不気味な、壁画ですのね……」
壁をすり抜けられるノリアは、数分前に『女の身体が解体され、そこから作物が生まれる壁画』を発見していた。描かれた女の身体はどこか赤黒く、名状しがたい奇妙さがあった。
「このあたりの海域は海底火山が多いからな。大昔、火山の影響で不作が起こっても不自然じゃあねぇな」
「……なら、うん、そうかも。不作は、壁画にも描いてあった」
「では、島の人達は、なぜ人喰いと、呼ばれていますの?」
「こういう島じゃあ、信仰ってのはそうそう揺るがないもんだ。長く生きた奴ほど頑固な油汚れみてぇになる。……島の奴らは、それ以降も『海の向こうからくるもの』を女と同じように見ていたんだろう」
「豊穣をもたらす、神……」
「ご明察」
「……以蔵さんがここに来て正解だったかもね。この島の人にとって、神は崇めて奉るモノ。敵対するものじゃない」
そう、彼らは排除のために動いているのではなく、神から恵みを賜るために動いているのだ。
「安心してくれ。敬虔な信徒たちはまだ影も見えねぇ。ミサでもやってるんだろうさ」
「もしも何かおそろしいものがいたら、私が皆様の盾になりますの」
そうして探索を続ければ、奇妙の文様の刻まれた大きな扉の前に突き当たった。分厚いその扉は、ノリアの親和スキルでも通り抜けることは難しい。
「……気をつけて。この向こう、すごい血の臭いがする。人はいなさそうだけど、いくなら皆で行こう」
「オーケー。心構えはバッチリだ」
「私も、大丈夫ですの」
ズリズリと引きずる音を響かせ、三人はその扉を開いた。
ぶわりとむせ返るような血と、腐った臭いが蔓延する。
「これ、は……!」
空と陸からジャングルを探索していたルーキス、ウェール、史之にとって、その発見は何よりも得難いものだったかもしれない。
「――大丈夫です、あなたを傷つけるものはこの場所にはいません。俺たちはあなたを助けに来たんです、大丈夫、大丈夫ですよ」
沈むような地形に隠れるようにして、一人の海賊がいたのだ。左腕は切断された上に全身には無数の傷が刻まれ、精神状態はひどく恐慌してはいるものの、まだ生きていた。
「アラン、アラン・ダフですね? 深く息を吸ってください、ゆっくりで大丈夫です」
史之からの報告で、住民たちは今『祭事のようなもの』をしていると分かっていた。
ルーキスは海賊の、アランの瞳をしっかりと見て語りかければ、彼は徐々に平静を取り戻していく。
「は、はは、は……まさか助けが来るなんて思わなかったぜ。あ、ありがとう、ヘヘッ……海はまだ俺を見放してねぇってことか……」
「俺たちは、あなたの仲間からの依頼でここにやってきたんだ。話せる範囲でいい、何が起こったのか、教えてもらえるか?」
「仲間……あぁ、エリックか……」
筋骨隆々としたウェールに支えられながらアランはゆっくりと話し出す。
島に上陸して間もなく、自分たちは島民の『歓迎』を受けた。取り囲まれ、そのままジャングルの奥の集落へと案内されたという。真っ先に反抗したボブが、全員の目の間で首を切断されたことで、海賊達はその覇気を削がれてしまったのだ。
「あの時あいつらは笑ってたんだ。ボブの首から流れる血を浴びて! 信じられるか? 死体に対して、ババアみてぇに拝んでた!」
「……ご冥福をお祈りします。それで、その後はどうなったんですか?」
集落に連れてこられた海賊たちは一人の大きな杖を持った女と出会ったという。年は二十代ほどにしか見えなかったが、奇妙な違和感があったという。もう何百年も生きているかのような、そんな『不相応さ』をアランは感じたのだ。
その後、海賊たちは集落の外れにある洞窟へと連行された。一人、また一人と洞窟から外に連れて行かれたが、帰ってくるものは一人としていなかった。
「クラークが配膳のガキと仲良くなったんだ。だから俺たちは逃げられた。少なくともあの洞窟からは。けどあいつらからは逃げられなかった。あいつら、俺の腕を! 思い出しただけで吐き気がする、そのまま食って、クソッ」
「他の船員の方々は?」
「分からねぇ。あいつらから逃げるため、俺たちは離れ離れになったんだ。ヒューゴーもクラークも、俺はもう随分見てねぇ。……断末魔の声は聞いたが」
アランがそこまで話したちょうどその時、少し急いだ様子で史之が降下してきた。その面持ちが告げているのは、危機の接近だ。
「新情報だよ。さっき島民は祭事のようなものをしてるって言ったけど、それが中断された。そして、『ここ』に向かって進み始めてる。……女と目があったのが良くなかったのかもね、双眼鏡越しだったっていうのに」
「……不味いな」
ピクリと耳をそばだてるウェールにも、徐々に接近する足音が聞こえていた。一つや二つではなく数十名のそれは、このままであれば囲まれることは明白だった。
「撤退しよう。史之さん、集落の情報は?」
「ばっちり。ちゃんと見えたよ。あまり気持ちのいいものじゃなかったけどね」
「では、頼む」
同時、耳を裂くのは轟音。史之の撃ちあげたアシカールパンツァーが眩い光を照らし出せば、それが合図となった。
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「これはちょっと、洒落にならん数じゃの」
「そいつは上々。援護のし甲斐があるってもんだろ?」
「老体には勘弁してほしいものじゃがのう……」
轟! と青の衝撃が迸れば、島民の一部が大きく後方へと吹き飛ぶ。しかしそれは氷山の一角、すぐさま違う島民が走り、躍り出てくる。
浜辺を探索していた潮と縁は他の班よりも先に隠していた船へと乗り込み、出発の準備を済ませることができていた。故にこうして、ジャングル担当班の撤退をサポートしているわけだが……。
「まったくキリがないな。一体どんだけいるんだ? 分裂でもしてるみたいだ」
「なるほど、怪談めいているのう」
縁の放った膨張した黒の顎が、船へと近づく島民を払い除ける。
或いはそれはケーキに群がる蟻のようだった。到底理解のできない言語を放ちながら、赤い瞳をぎらつかせる島民たちがわらわらと湧いて出てくる。
「ありがとう! 遅くなってごめんね」
「援護、感謝する。助かった」
「島民の生態は気になっていましたが、まさかこれほどとは……」
「おいおい、俺ってマジで空飛んでたのか? すげぇな、タマが冷えたぜ」
タン、と軽い調子でウェール、史之、ルーキス、アランが潮の操縦する『ポチ2号』の甲板へと着地する。
「さっき、フラーゴラさんたちから連絡があった。彼女たちは『ボトルシップ』で別ルートから撤退するそうだ。……俺たちが島民を引きつけているのを見たんだろうな」
「相わかった、なら出発するぞぉ。二の舞は御免じゃからの……!」
同時、よじ登ろうとしていた島民を弾くように、瞬く間に船が浜辺から離れていく。
浜辺では、数えることも億劫になるほどの黒い人影が、じっとイレギュラーズたちを見つめていた。その先頭にたつ、大きな杖を持った女がひどく異質に見えた。
「――集落には、骨で作られた塔のようなものが沢山あったよ。中央で、沢山の……たぶん人が燃やされてた。まるでキャンプファイヤーみたいに。島民達の服とか装飾品とか見た? どれも島にあるものじゃ作れない。あれはたぶん、外からきた人から奪ったものだよ」
島から離れていく最中で、史之は自分が見たものを話す。
「燃やされてる人を囲んで、島民は祈ってた。それで、大きな杖を持った女が両手をあげて何かを唱えてて……その時、突然女が振り返って、目があった」
それで気付かれたのだと、史之は直感したのだ。燃え盛る炎で表情はよく見えなかったが、自分たちとは明らかに違う『異質さ』が全身を駆け巡った。
「遺跡、には……祭壇が、ありましたの。石造りの、とても大きな……そこには……その、人の皮が、捧げられていました」
ノリアのその言葉に、イレギュラーズ達は眉を顰めた。
「まだ、新しいものだと、思います。いずれも、男性で……海賊の方々のもの、かと」
「遺跡の情報はファミリアー越しにある程度把握している。……が、どうして皮を捧げるのかは、すこしわからないな。何か意味がある、のだろう」
「……『ガワ』があればまた『ミ』を詰められるから、かもしれんのう……」
「最悪の輪廻転生だな」
「推測に過ぎないがの。なんにせよ、生存者がいてよかったわい」
ちら、と潮、縁、ウェールがアランを見れば、彼はルーキスに手当を受けている最中だった。『どうせなら胸のデカイ女がよかったよォ~。こいつの胸でかいけどカチカチだよォ~』などと嘆いていた。
――島を離れる間際、尋常ならざる聴力を持ったものはソレを聞き取ることができただろう。大きな杖を持った女が、喋っていた言葉に。
「らくきらし、せりいちとい、そらもいちきちにみ」
或いは人並み外れた嗅覚を持っていたものは、彼らが纏う、吐き気のするほどの血と肉の臭いにも気付けただろう。
「ていこいりにいひい」
そして桁外れの視覚を持っていたものは、彼らが皆、イレギュラーズたちを崇めるように手を合わせたり、万歳をしていたことが分かったはずだ。
「にみんらなす、きすちそい」
遺跡を探索していた者たちはある写真を発見している。
杖を持った女と、胸元に蛇の刺青をした男が仲よさげに写る写真を。
裏側には1年ほど前の年月日と、以下のように書いてあった。
『ハイヌウェレの子らと』。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
これにて海洋シナリオ『ハイヌウェレの子ら』全員生還でシナリオクリアとなります。お疲れ様でした!
今回の調査で分かったことは以下の通りです。
・島には『積荷信仰』が根付いており、島の外から来たものを殺害し、その持ち物を奪うことで豊穣を得られると考えている。
・島民は『船』を作っているが、完成には程遠い。
・大きな杖を持った女と胸元に蛇の刺青をした男が手を組んでいる。
・依頼人(エリック)が『豊穣島』の噂を海賊たちに教えたが、出航日には船に乗らなかった。
・大きな杖を持った女は、双眼鏡越しに見られているということを感知できる能力を持っている。
・遺跡の祭壇には、人の皮が捧げられている。
・なんらかの影響により、島民との言語によるコミュニケーションができない。但し、島民同士はコミュニケーションが成立している。
調査シナリオということでアドリブ盛り盛りで描写させて頂きました。
皆さん素晴らしい探索でした。MVPは冒険家のあなたに。
GMコメント
●一言
本シナリオは『調査シナリオ』です。戦闘行為は可能ですが、推奨しません。
●成功条件
①『帰ってこない海賊たち』の生死の確認
●地形
『豊穣島バーサール』
自然豊かな孤島です。豊すぎると言ってもいいかもしれません。
鬱蒼と茂ったジャングルはまるで迷路のようで、隠れるにも隠すにももってこいの場所です。
周囲の漁師たちは忌避している島であり、様々な不穏な噂が飛び交っています。
この島へと上陸し、『帰ってこない海賊たち』がどうなったのか、ということを調査するのが今回の依頼内容です。
見つかった場合は島民との戦闘が予測されますが、戦闘は非推奨です。
フリじゃないです!
●調査プレイングのすすめ
基本的に隠密行動をおすすめします。この島は現地民族の庭であり、PC達はそこにやってきた『マレビト』です。もしも見つかった場合は非常に厄介なことになるでしょう。
調査可能箇所は『ジャングル』『海岸』『遺跡』の三つです。調査方法に関しては、『自分の持ちうる調査能力・ないしは方法』を記載してみてください。
もし調査や探索が苦手な方がおられましたら、調査を行う仲間を護衛することで危機を回避することができるかもしれません。
また、PCはそれまでの経験・知識等から、「忍び足」「罠対処」「自然知識」「超視力・聴覚・嗅覚」等のスキルが使用する機会があるのではないかと推測できて構いません。
反面、「交渉術」「演説」「扇動」「人心掌握術」系統の『人心に干渉する』スキルはあまり効果的ではないということも察することが出来ます。
●注意
本シナリオはグロテスク表現が含まれます。
全年齢対象向けに抑えますが、苦手な方はご注意ください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
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