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シナリオ詳細

アンダーテイカーと滲むアナベル

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ざくざく。ざくざくざく。
 土を掘る音がした。ゴシックロリィタのドレスに身を包みシャベルで土を掘り続けるのは一人の幻想種である。
 葬列には不似合いな豪華なそれに身を包んでいた彼女は棺の中で眠る死者の硬い指先に白銀の薔薇を差し入れて微笑んだ。

 ――どうか、良き旅路を。

 彼女のガーデンは何時だって一等美しい薔薇が咲き誇っていた。
 自身の護る墓地より遠く離れた常春に『アルジャンローズ』と名付けた冬の名残のガーデンが存在して居る。
 それがアンダーテイカーの故郷に近く、最も遠い場所に存在する自身だけの箱庭だ。
 妖精達の協力も経て花を育てる彼女は小さな花翅の娘に乞われる。

「ねえ、アンダーテイカー。春の花以外を見せて頂戴?」
「そう、そうね。アンダーテイカー。雨の終わりに滲んでしまった花が見たいの」

 さて、どうしましょうとアンダーテイカーは首を傾いで。葬列には余りに不似合いなゴシックロリィタのドレスを揺らして。
「あたくしの『守るべき方々』の夢(ねむり)を良き者にするために協力して下さる貴女達に。
 ええ、ええ、あたくしは何かをして差し上げたいのだけれど……どんなお花が良いのか分からないのだわ」
 その澄み渡った柔らかな色彩が滲む。シャベルを背へ。アンダーテイカーの長耳へ妖精が囁いて。

「ねえ、イレギュラーズに聞いてみてはどうかしら?」
「ええ、ええ、それがいいわ! ねえ、アンダーテイカー。とっても素敵なお話があるの!
 それをイレギュラーズに聞いてみてはどうかしら? きっと、素敵なお花を見せてくれるわ!」


「御機嫌麗しゅう」
 深緑、大樹ファルカウのその傍で微笑みを浮かべ待っていたのは『アンダーテイカー』と名乗る幻想種であった。
「お見知りおきの方は、お久しゅうございましてよ。ご存じない方に改めて自己紹介いたしますわ。
 あたくしは『アンダーテイカー』、白銀の薔薇を胸に一刺しする墓守なのだわ。どうして薔薇を刺すかって? 死者の命の花を咲かせてるだけなのだわ、深い――それほど深い意味などないの」
 風変わりな乙女は笑みを浮かべる。昏色のロリィタドレスに無骨なシャベルと似合わぬ装備を手にした彼女は「お願いがありますの」とゆったりとした口調でそう言った。
 アンダーテイカーは『白銀の薔薇』で死者を弔う一族の娘だ。妖精郷にガーデンを設けたのはその地で死者の眠りを助ける花が手に入るだろうと考えたかららしい。
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は「久しぶりだね」と彼女へと笑みを返して。久々に出会えどもその姿に変化がないのは流石は幻想種――そうした種の特徴なのだろうか。
「『永劫に枯れない花』『耐え忍んだ雨あがり』、そう呼ばれている花があるそうなのだわ。
 あたくしの『アルシャンローズ』――ガーデンの世話をしてくれている二人の妖精がおりますの。
 一人は赤いラーレのような可愛い女の子、カタリーナ。もう一人は晴天の陽のような黄色いカリメロと言いますの」
 カタリーナとカリメロはアンダーテイカーが墓守の仕事をしに幻想王国へと帰っている際に、彼女が妖精郷で冬の名残の大地に作った『アルシャンローズ』というガーデンの世話をしてくれているらしい。
 そんな彼女たちがアンダーテイカーにおねだりをしたのだという。

 ――『永劫に枯れない花』アナベル・ラァン。

 その花は妖精郷には咲いては居ないそうだ。深緑の片隅にひっそりと咲いている其れを是非、二人のために採ってきたい。
 その花を永劫に見て居られるように、プリザーブドフラワーにしてやろうと考えたらしい。
「あたくしのガーデンを護ってくれている二人に、どうか素敵な花をプレゼントしてやりたいのです。
 手伝っては下さいません事? ……小さな二人の笑顔を、生者の微笑みをあたくしも見てみたいと思いましたのよ」
「うんうん。一緒に探しに行こう! それで……えっと、どの辺りに咲いてるのかな?」
 問うたスティアにアンダーテイカーは古びた地図を取り出して――妖精郷から少し離れた片隅へ。彼女たちのための花を探して。

GMコメント

 日下部あやめと申します。
 アンダーテイカーと小さな妖精のお願いを叶えに。

●目的
 アナベル・ラァンの確保

●ラァン・アンブルの森
 琥珀色の木々が生え茂る深緑の片隅です。この周辺にアナベル・ラァンが生えているようです。
 枯れ木の森の異名を持ち、モンスターが潜んでいるようです。

●オールドウッド3体
 古い切り株を思わせるモンスターです。神秘攻撃を得意としています。
 遠距離攻撃を得意としているそうです。また、枯れた自身の体を満たすためにHP吸収攻撃を行います。
 アナベル・ラァンの群生地近くに生息しているようです。

●アンダーテイカー
 実年齢は不明。少女の外見をしています。長い髪に硝子の色の瞳。
 ロリータドレスにシャベルを背負った墓守。本名不詳です。
 墓守の一族の娘。白銀の薔薇を使者に一刺しする事で安寧へ導くそうです。最近元気を無くした白銀の薔薇を育てる場所と、死者の手向けの花を求めて妖精郷へ訪れました。
 ある程度の戦闘はこなせるようですが、本人談の通り『一般人よりましかな』程度です。
(過去登場はとっても過去になりますが、『アンダーテイカーと(花の名前)』というタイトルです。ご存じ無くとも大丈夫です。)

●アナベル・ラァン
 妖精カタリーナとカリメロがアンダーテイカーにおねだりした緑色の紫陽花です。
 枯れない花と呼ばれている理由は、この枯れ木の森に群生しているからだそうです。
 摘んでしまえば生気を失うことからアンダーテイカーはブリザーブドフラワーを作って二人にプレゼントしようと考えています。

 戦闘終了後、このアナベル・ラァンを妖精郷アルヴィオンに存在するみかがみの泉郊外に存在する空き地に作られたアンダーテイカーの庭園『アルシャンローズ』まで持って行って、カタリーナとカリメロにプレゼントしてあげてください。
 憧れのイレギュラーズとの逢瀬を屹度喜んでくれるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

どうぞ、宜しくお願い致します。

  • アンダーテイカーと滲むアナベル完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ


 深き森に茂る草木は何時だって同胞を招き入れる。幻想王国に居を移して久しけれど、枯れることなき静謐の緑は同胞たる『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)を快く招き入れる。それが、どうしてであるかは分からない。何時か戻るべき場所であるのは、屹度確かで――
「あたくしとご一緒して下さるの?」
 微笑むは褐色の肌に月の鈍い光を映し込んだ銀髪の娘。この共同体の同胞であり、幻想に守護すべき地を有する幻想種の娘、アンダーテイカー。彼女の声には、と息を飲んでからクラリーチェは頷いた。
「妖精さんたちのお願い事、是非ともに叶えて差し上げましょうね」
 思考は一時中断した。森の声に耳を傾けるのではなく、今は共に途往く者達と進まんと。そう願う様にアメジストの目を細めて。
「妖精さんたちのために枯れないお花のプレゼントなんて素敵ね!
 ルシェたちも妖精さんたちに喜んで貰うために頑張るわ! アンダーテイカーお姉さんもよろしくお願いします!
 あ、切り株お化けさん襲ってきたら危ないから、安全な所で待っててほしいです!」
 ぺこりと頭を下げた『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)にアンダーテイカーは「ええ、よろしく頼むのだわ」と頷いた。
 小さなキルシェのかたわらではぽてぽてと歩くリチェルカーレが首を傾いでから鼻先をふんふんと揺らしている。ふわもこで可愛いリチェルカーレは草木の香りに心地よいと頬を緩めた。
「妖精さんのために何かをしてあげたい、花を見せてあげたい、か……うん、ぜひ協力したいな。
『永劫に枯れない花』を探しに行こう。俺も見てみたいしな」
 永劫に枯れない花(アナベル・ラァン)とはどのような物だろうかと『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の眸に興味のいろが差す。鈍色のシャベルを背負った乙女が案内する先に、件の花が存在して居るらしい。
「笑顔のためのお花……とってもとっても素敵だと思います。
 お花を持って帰るお手伝い、ニル、がんばります。それに、ニルも、枯れないお花を見るの楽しみです」
「枯れない花、か……」
『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)が楽しみだと頬を緩める様子をちら、と見遣ってマルク・シリング(p3p001309)はどのような物だろうかと首を捻った。花も生きとし生けるものである。遍く命のそのひとつ、永劫の命など存在はしておらず、枯れてまた芽吹く、命の巡りを繰り返していく物なのではないかと――ああ、それでも『永き』を生きる幻想種達にとっては、花もそうであれと願ったのだろうか。
 彼女たちは長命の種だ。永劫に寄り添って、人知れず命を落とす。永遠に最も近く、それでも遠い。そんな彼女たちが後生へ続いてと鼻に願いを掛けたのだろうか。
「永劫に枯れない花って素敵な異名だね。どんな意味があるのかはわからないけど……取り扱いには注意する必要があるのかな?」
 しっかりアンダーテイカーさんの言う事を聞きますと元気よく笑った『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が小さめのプランターと手持ちスコップを持参して。花の為の準備は怠らずと言った様子である。
「あたくしの我儘でしたのに。お優しいのね、皆様。赤いラーレの淑女カタリーナと晴天の陽のようなメルメロにお花を贈りたい……あたくしの都合ですのよ」
「いいえ! いいえ!」
 きらり、と輝いたのはその額。『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)は何時も通りに晴れた陽の如き快活さでその姿を現して。
「オーッホッホッホッ! 大切な方にお花を贈るなんて素敵ですわ! 良いでしょう! このわたくし!」
 ――パチン、と音が響く。

   \きらめけ!/
   \ぼくらの!/
 \\\タント様!///

「――‬が! ぴかっとお手伝い致しましょうーー!」
 デリバークレバーエンデバーポーズを決めて、タントが告げればアンダーテイカーは「喜ばしい事なのだわ」と手を叩いた。
「『永劫に枯れない花』『耐え忍んだ雨あがり』……。
 ふむっ、雲間から差し込む陽光のきらめきを思わせる二つ名ですわね! わたくしも気になりますわ!
 ……それにしても、アンダーテイカー様はわたくしとシルエットが似ておりますのに真逆の色合いですわね。面白いですわ!」
 くすくすと、含み笑いのように囁くタントに「あたくしもそのポーズを決めればご一緒になれるかしらん?」とアンダーテイカーは首を傾いで。


「ン。フリック アンダーテイカー 墓守。親近感。カタリーナ カリメロ オ花 プレゼント 手伝ウ」
 同じ墓守として、草木を愛する者として。『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)にとって、アンダーテイカーは似通った存在であるとも感じられていた。
 フリークライの言葉にアンダーテイカーも「あたくしと同業者ですのね。喜ばしい」と目を細める。彼女が一行を案内したのは『枯れ木の森』の異名を持っているラァン・アンブル。イズマは不思議だと周囲を見回した。茂る草木は迷宮森林と同じではあるが、色彩が一転している。まるで枯草の様に物寂しい気配を醸し出す。
「ここが枯れ木の森なの? ルシェ、初めて来た!」
 周囲をきょろりと見回して。リチェルカーレも初めて来たのだとふんふんと鼻先でアピールする様子が微笑ましい。若葉のような鮮やかなエメラルドの瞳をぱちりと瞬かせたキルシェの側で、イズマは遥か大空より立体的に森を見遣る。
「……確かにモンスターが潜んでるようだけれど、擬態をして居るようだね」
「擬態……。モンスターさん達はこの森に住んでいるんですね。枯れた森に見えるけど……ここも、誰かにとっての大切な場所だと思うのです」
 大切な場所を喪わぬように。ニルが祈るように張り巡らせた保護結界はこの森を苛むものから守ってくれるだろう。
 往きましょうと足取りは軽く。タントの眩い金が揺らげば、アンダーテイカーのそれも同じ。ふわりとウェーブの掛った髪先が揺らぐ度にシルエットは似ているのに、どうしてこうも『別々』なのだろうかと感じてしまって面白く。
「ふふ、わたくしとアンダーテイカー様はおそろいなのに真逆ですもの、似ていて少し違いますわね!」
「ええ、あたくしも思ったのだわ。ふわふわ、髪が揺れるのは同じですのに」
 可笑しそうに笑ったアンダーテイカーが何時か、出会った日よりも幾分も表情が和らいでいることに気づきスティアはほっと胸を撫で下ろした。
 彼女に会いたいと願っていたのはスティアだけではない。旧知の仲なれば、手助けをしたいと願うのはマルクも同じだ。
「アンダーテイカーさんは、お久しぶり。元気だった?
 今回は頼もしいメンバーが揃っているし、荒事の時は安全な所で見ていてくれれば大丈夫だと思うよ」
「ええ。あたくし、皆さんに守って貰う気持ちで一杯でしたの」
 そんな風に軽口を交せば、上空より鳥の声が響いた。軽やかに、そして、何かを合図する鳥を見上げたスティアは「あっちみたい?」と宙を指さして。
「ええ、そのようですね」
 ゆらり、と。葬送者の鐘を手にし、永訣を願うクラリーチェは人知れず佇む者に、そして、此の地に棲まう草木へと問い掛けて。
 奥へ、奥へと迷いなく。切り株達は腹を空かせて佇んで居るのだという。アナベル・ラァンを求めた者の生きる力を得て、そして永らえる事を願うかの如く。
「オールドウッドはアチラのようですが……アナベル・ラァンも同じ場所。避けては通れませんね」
「うんうん。森を傷付けないように、アナベル・ラァンを無事に発見できるように頑張ろうか!」
 微笑んだスティアがかさりと枯れ葉を踏み締めた。その音に何かが反応を示す。音を過敏に感じ取ったオールドウッド。何処に居るのかとささめきあうかの如く。さあさあと風が音を鳴らして。
「いらっしゃったようですけれども」
「ン フリック 守ル アンダーテイカー 後ロ」
 ゆっくりとその身を前へと押し出して。「わたくしの後ろへ! お守り致しますわ!」と微笑むタントは眩くひまわりの如く枯れ木の森へと光をもたらした。
「ごめんね切り株お化けさん。
 ルシェたち切り株お化けさん達退治しに来たわけじゃないけど、出来れば邪魔せずに見ておいて欲しいけど、邪魔するならルシェたちも負けられないのよ!」
 攻めを補強する腕輪に光が灯された。リュックサックをずしりと揺らして。キルシェの下から致命の毒蛇が靱やかに飛び出した。するり、と音さえ聞こえそうな程に素早く飛び込んだそれが切り株を思わすモンスターへと襲い掛かって。
「皆には手を出させないから!」
 華奢なその体に守護を与えたのはリインカーネーション。母の愛がスティアへと護りを与えて。魔力の旋律は、りいんと軽やかに神の福音を告げた。
 枯れ木の森に響き渡ったその音は、オールドウッド達の意識を奪う。地を這う切り株との距離迫る。天使の羽の如き魔力の残滓の中でスティアは鋭くそれらを睨め付けた。
「あれがオールドウッド。その名の通りだな」
 夜を抱いた瀟洒な細剣の切っ先に魔術の青木彩が乗った。真夜中の蒼の如く、深き宵を灯した切っ先が格闘を織り交ぜた独自の技で攻め立てる。
「自然をいたずらに傷つけたくはない…なるべく手早く、周囲に影響が出ないよう気をつけつつ、動ければいいのですが」
 何処まで傷付けずに済むだろうかと。囁く声音に追憶の音が追いかけた。静謐なる祈りが淡く光を灯し、治癒魔術を灯す。
 目を瞠る程の、聖なる光を放ったマルクは研鑽の結果に練り上げた卓越した魔術で切り株達を攻め立てる。神聖の光のその奥に、潜むように蝕みの術が息衝いた。ニルの周囲に広がる魔法陣が魔力を欲し呼応するが如く淡くきらめいた。
「存分ニ暴レテモラッテ ジリ貧回避 エイエイオー」
 応援するフリークライはイズマとマルクを支え続けて。それでも、彼等の『戦略』が光るならば少し我慢を。
 生命の躍進に。その象徴の如く太陽の娘は笑みを零して。愛しい人の教えの如く。想像上にライフルを構えた。目を閉じて――聞こえたその声に、応ずるように引き金を。黒の猛禽(あなたのひとみ)が何かを外すわけがない。
「お邪魔者はささっと退場願いますわー!」
 唇に乗せたその音に、オールドウッド達がずんと飛び込んだ。その行く手を遮る如くマルクは呪言が歪みの力を持つ。ばちりと音を足せ切り株の腕を思わす枝が折れた。
 その音に怯むが如く命貪るモンスターが後退する。逃しはしないとイズマの細県が煌めいた。
 正確無比に刺し貫いて。リゾルート。響かせたは魂の唄。茶と灰に塗れた終焉を思わす森の中、人の命を貪るモンスター達はその動きをピタリと止めた。


「ほわー……美しい光景ですわー! これがアナベル・ラァン……」
 緑色の花は、枯れ木の景色では一等美しく見える。草木の茂る生命の脈動に。いのちを思わす雨上がりの気配。
 タントはほう、と息を吐いた。採取にも繊細な機微が必要なのだと、クラリーチェはそっとしゃがみ込む。
 緑色の紫陽花から薫るのは心地よさ。澄んだ森に流れた水のような――雨上がりの香りに目を細めて。
「これがアナベル・ラァン……? こんなところに咲くお花、ニルははじめて見ました」
 ぱちり、と瞬くニルは首を傾いだ。余り沢山摘んでは帰れない。それに、直ぐに枯れてしまうなら、お土産にも出来ない――『みやげばなし』に出来るように目に焼き付け、覚えて帰らなくてはならないか。
「ところで、ぶりざーぶどふらわー?というのはどんなのでしょう?
 作るの、お手伝いできることありますか? あったら、ニルもやりたいです」
 そわそわとしたニルに続き、スティアも「どうやって作るんだろう?」と興味津々とアンダーテイカーの手元を見遣る。
 一緒に作りたいと望んだ彼女たちにアンダーテイカーは「準備が必要だわね」と悩ましげに瞬いて。
「トコロデ ブリザードフラワー 多分 持ッテ帰ッテ作ル ソウ? コノ場デ 魔法トカデ 時間カケズ 作ル?」
 首をこてりと傾げたフリークライは準備、と小さく呟いた。準備をするならば、この場で直ぐには屹度難しい。
「ン。モシ持ッテ帰ッテ 作ル 二人 見セテカラトカナラ フリックニ 植エテクレタラ ギフトデ 幾ラカ 保ツシ 運送安全。
 チナミニ フリックモ エンバーミング 可能。ブリザードフラワー 手伝エル? ア。デモ 贈リ物 自分デ 作リタイカナ」
「まあ、持って帰れるのならば持って帰りましょう。直ぐに枯れてしまうアナベル・ラァンをあなたならば持ち帰れるのだわ?」
 こくりと頷いたフリークライにタントは「それならば皆で作ると致しましょう!」と輝かんばかりの笑みを浮かべて。
 そっと、採取を行ってフリークライへと植え替えればその花は美しく背中で咲き誇った。屹度、『彼女たち』に見せられなかったはずの花が生き生きと、運ぶことが出来る。
「喜ぶお二人の顔、早くみたいですね」
「ええ、あたくしの同業者さまのお陰なのだわ」

 妖精郷の春の気配は、枯れ木の森とは大きく違って。その春を一心に受け止めてマルクはアルシャンローズへと足を運んだ。
 小さな二人がせっせと如雨露を手に草木繁る時を待っている。冬の疵痕を隠すように植えられた花々は、ソレでも目が覚めたばかりで。
「あ、アンダーテイカー!」
「それに、お客様だ! こんにちは!」
 手を振った二人にスティアは「こんにちは」と微笑んだ。マルクも「お邪魔します」と穏やかに微笑みを深めて。
「ン。コンニチハ。梅雨明ケ オ届ケ 来タ」
 ずしり、とその体を落したフリークライの背中で咲いたその花に花翅の娘達がぱちりと瞬いた。
「こんにちは。雨あがりの紫陽花を届けに来たよ」
 丁寧にその花を取り扱うイズマが柔らかに告げればアンダーテイカーは「とっておきの魔法を此処でみんなで掛けるのだわ」とスティアとニルへと目配せを。
「妖精さんたち初めまして! キルシェです! 今日はよろしくお願いします!
 あのね、アンダーテイカーお姉さんから妖精さんたちにプレゼントなの! 妖精さん達見たがってた枯れないお花!
 素敵よね! これをね、もっともーっと一緒に居られる魔法をかけてくれるんだって!」
 慎重な作業を続けるアンダーテイカーにスティアとニルが真似をして作業を続けて。のんびりと座っていたフリークライの背中のアナベル・ラァンはそんな様子を可笑しそうに微笑んで。出来上がった何時までも枯れない素敵な花をイズマは妖精達にも大切にして欲しいと微笑んだ。
「ずっとずっと形が残るお花。きっと見るたびに贈られた日のことを思い出すのだと思います。
 そこに込められた気持ちも、ずっとずっと残るのですね。カタリーナ様もカリメロ様も、よろこんでくれるといいですね!」
「ふふ、ニル。わたしはよろこんでるわ」
「わたしだって!」
 カタリーナとカリメロが嬉しそうにニルの頬に擦り寄って。永遠に時を止めたアナベル・ラァンが小さな掌に収まって笑みを浮かべているようで。
「アンダーテイカーお姉さん頑張って作ってくれたの!
 一緒にお礼言いましょ! 素敵なお花、有難うございます!」
 キルシェにならって、妖精達はお礼を口にして。小さな彼女たちと、その前で頭を下げたキルシェにアンダーテイカーは面食らったように微笑んだ。
 死者に手向けるための銀の薔薇。一等美しい輝きが、慰めの夜露に濡れて。
 その傍らでは生きる者へと贈る花。並んだかんばせが、微笑み合う様はどちらも等しく美しい。
 生死を超えて、思いを届けて。その為にアンダーテイカーは此の地に『アルシャンローズ』と呼ばれるガーデンを開いたのだろうか。
「花ってとっても素敵ですわね、アンダーテイカー様!」
「ええ、あなたも此の地を愛して欲しいのだわ」
 愛するこの場所を、誰かが共に慈しんでくれる幸福に。スティアはアナベル・ラァンを此の地で育てられないかとそう聞いた。
 世話は少し難しい、けれど小さな妖精二人ならば屹度――その希望を込めればアンダーテイカーは快く応じてくれて。
「アンダーテイカーさん、アナベル・ラァンのプリザーブドフラワー、僕も一輪だけ貰って帰ってもいいかな?」
「ええ、ええ。どうぞ、一輪を。想いを込めて忘れない様に持って行って欲しいのだわ」
 憶えて居てね。そんな後ろ髪を引かれるような思いを込めて。今日の思い出がマルクの掌で花開く。
「んん…。もし許されるならば、庭園を少し見せていただければ嬉しいですが、如何でしょうか? 今日はとことん自然の中で過ごしたいなと」
 クラリーチェの手をそう、と引いて。アンダーテイカーは「どうぞ、楽しんで。この庭は、何時だって愛する者のために開かれているのだわ」と囁いた。

成否

成功

MVP

フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加誠に有難う御座いました。
 アンダーテイカーのガーデンは皆様のご協力で素敵な花が揃ってきました。

 また、アンダーテイカーと共に、冒険の旅にでかけましょう。
 それではご縁がございましたら、またお会い致しましょう。

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