PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<半影食>異説:████の正体見たり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●キラ★スター
名無し:234
>キラ★スターに見つかったやつはすべて殺されるんだってさ。

希望ヶ浜の日常をお知らせします:240
>234
それなら、なんで目撃者がいるんだよ?

『いる』。
 カラカラカラカラ……。
 さび付いた鉄のにおいは、有機的な血液のにおいを伴っている。
 男は息を殺している。震えながら怪物をやり過ごす。
 廃工場の中、鉄をコンクリートに引きずるような音がする。放り投げられた鉄パイプが壁に突き刺さる。
 キラ★スターはいる。

メモ欄:899
>××の工事現場跡地で【キラ★スター】を【見た】よ。

 ネットの怪物、キラ★スター。
 神出鬼没の殺人鬼。
 赤い霧に包まれた、体長3mほどの筋骨隆々。異形に伸びた手足は、ハサミのようにするどく。鋼のような肉体で、走ればオートバイのように早く――。
 銃は効かない。核も効かないし政府が秘密裏に飼っているアサシンで――。

 ばかばかしい話だ。
 当然、目撃者の男はそんな存在、「いるわけない」と思っていた。

 だが、目の前のこれは?
 まるで果実からジュースを絞るように、素手で人を締め上げている。山積みの死体が積みあがっている。あるはずがない。ありえるはずがない。喉はからからに乾いている。

――キラ★スターに見つかったやつはすべて殺されるんだってさ。
――それなら、なんで目撃者がいるんだよ?

 どうして遠くまで飲みになどいったのだろう?
 どうしてちょっと近道しようなんて考えたのだろう?
 自らの愚かさを呪いながら、目撃者の男は、震える手でスマートフォンを握りしめていた。なぜか助けを呼ぶよりも先にそうしていた。そうしなければならない気がした。

>いる。キラ★スターはいる。

 キラ★スターがこちらを見ている。

●練達ネット
 帝都星読キネマ譚。
 架空世界の研究員達の大量失踪事件に世間はにぎわっており、練達ネットを探してみれば、いくらでもトンデモな説が見つかるだろう。――イレギュラーズたちには、突拍子もない放言のなかにも、いくつか「あ、かすってるな」とわかることがあるかもしれない。
 ここ、再現性東京では、それらは日常とは異なるものだ。

(いやはや、なかなか興味深い)
 スマートフォンとディスプレイ、タブレットを駆使しながら『Elegantiae arbiter』E-Aはネットの海の情報を集める。補佐用人工知能たるE-Aはすっかり練達に「適応」していた。
「ネットサーフィンとは良いご身分だ」
 ホログラムとモニタの中のE-Aが、同時にヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)を振り返った。
「ヤツェク君。この『キラ★スター』の奴だがねぇ――知っているかい?」
「知らんな。なんだそれは」
「最近はやりのネットミームというか、まあ、都市伝説みたいなものなのだがね。こいつがひどいんだ」
 ヤツェクは目を細めた。

万能怪人:キラ★スター
 神出鬼没の殺人鬼。
 政府の実験で生まれた生物で弱点はなく、政府は「収容」することができなかった。
 異次元の強さで、ヴァーチャルであらゆる訓練を繰り返した。3mの巨躯。その両腕は鋼鉄を捻じ曲げる。
 驚異的なパワー、圧倒的な機動力、逃れたものはいない。極度に高い力、スピード、反射神経。再生能力。高度な知能(だが、意思疎通は難しい)。
 殺すたびにレベルアップする。

 メガ盛MAXの設定文である。
「読むだけで疲れるな、これは。まだ続くのか?」
「私としてはここまできたらもうすこし暗黒とか翼とか牙とかをいくつか付け足したいんだがね」
「キメラを作るな」

>キラ★スターって実在するの?

 E-Aの指先を通じ、コンソールを通じて吐き出される文字列。――自動演奏のように実際の鍵盤(キーボード)が沈み込むのはいささか余計なガジェットな気がしないでもないが、そこはロマンというものである。

>する。俺は見た。キラ★スターを見た。奴は恐ろしい怪物だ。

「反応速度が尋常じゃないのだよ! そのうえに本当に中身がつまらない」

 その返答の速度は、0.92秒。

「私が考えるに、キラ★スターは私の同類だよ。おそらく、本体はAIじみたなにかで、人の情報を食らう夜妖とみた。
それにしても不誠実すぎやしないかい? このいかにもなメアリー・スーは」
「おれにどうしろと?」
「一席ぶつのは得意だろう? このつまらない存在をだね、面白く――少なくともまともにできるんじゃないかと思うわけだ」
「おれとしてはだ、まあ、そういう方向性のも、なんだ。嫌いじゃないんだがなぁ」
 実際に被害を出すとなると別である。

GMコメント

なんとなくはまっているものが分かりやすい気がする布川です。
納涼ネットロアーなどいかがですか。
めちゃめちゃにしてやってください。

●目標
・キラ★スターの情報を<上書き>する。
・キラ★スターを倒す。

●状況
ネットロアーの怪物、「万能怪人キラ★スター」は「世間にそうと思われている姿」をとる夜妖です。
(自作自演により)このまま放っておくとすごいことになりそうです。

●登場
万能怪人キラ★スター
「BANG! BANG! BANG!」
「GAAAAAAAME CREALLLLLLLLRRRR!」
【現在のプロフィール】
 神出鬼没の殺人鬼。
 政府の実験で生まれた生物で弱点はなく、政府は「収容」することができなかった。
 異次元の強さで、ヴァーチャルであらゆる訓練を繰り返した。3mの巨躯。その両腕は鋼鉄を捻じ曲げる。
 驚異的なパワー、圧倒的な機動力、逃れたものはいない。極度に高い力、スピード、反射神経。再生能力。高度な知能(だが、意思疎通は難しい)。
 弱点などはない(大事なことなので二度)。
 殺すたびにレベルアップする。

 スマートフォン:×8
  キラ★スターの周りに浮いているスマートフォン。キラ★スターの脅威を喧伝する書き込みを行っている。

被害者:行方不明者(キラ★スターによるもの?)
 推定数十名いるが、残念ながら全員が死亡した。

※※※上記は、世界に認識を広めることによりにより書き換えることができます。※※※

●場所
 最終的には、異世界に引き込まれます。

廃工場(書き換え可)
 空は真っ赤に染まり、文字はちぐはぐ。
 異世界じみた廃工場。とても狭くて戦い辛く、ケガをしやすく戦いにくい。
 浄き鈴の音がどこからか聞こえてくる。

●情報の上書き
 適当をぶっこいてキラ★スターの情報を書き換えてください。
 一つに絞ってもいいし、いくつあっても大丈夫です。
 弱そうにすればするほど弱体化するでしょう。
 主な活動場所は練達ネットですが、日常の噂話などから広めることも可能です。相手も(インターネット上で)ささやかに妨害工作をしてくるでしょう。

●Danger!(狂気)
 当シナリオでは『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●再現性東京(アデプト・トーキョー)とは
 練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
 主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
 その内部は複数のエリアに分けられ、例えば古き良き昭和をモチーフとする『1970街』、高度成長とバブルの象徴たる『1980街』、次なる時代への道を模索し続ける『2000街』などが存在している。イレギュラーズは練達首脳からの要請で再現性東京内で起きるトラブル解決を請け負う事になった。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • <半影食>異説:████の正体見たり完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月08日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)
無銘クズ
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
最強で最高のダチ
山本 雄斗(p3p009723)
命を抱いて
ベルゼブル(p3p009951)
特異運命座標
冬兎 スク(p3p010042)
跳び兎バニー

リプレイ

●作られた虚像
「僕の考えた最強の殺人鬼みたいな敵だね……」
『ヒーロー志望』山本 雄斗(p3p009723)はぎゅっとこぶしを握り締める。雄斗にとっては、この希望ヶ浜は故郷だ。
「ふうむ。キラ★スターか。童謡でも歌ってやりゃいいのか? まあ、相棒が入れ込んでいるならおれも乗る。そうやってずっとやって来たんだ。被害も出てるしな」
『語り継がれゆく物語は時代によって姿を変えますね、マスター?』
『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)にE-Aは歌うように答える。
「大体、強大な悪役ってのは、倒されるからこそいいもんだ」
「どうにか弱体化させてこれ以上の被害を防がなきゃ。ヒーローとして見過ごせないよ」
「……こういった若者にこそ、ふさわしい物語ってのがあるもんだ。なあ?」

「ふむ、スク殿は実際は初依頼でござるか」
「はい! 精一杯頑張りますよ!」
 ぴょんと白いウサギ耳を立てる『ゆめうさぎ』冬兎 スク(p3p010042)。
「ここはセンパイとしてカッコイイところをお見せしたいものであります!」
『良い夢見ろよ!』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)はキーボードをタンッ! とする。この手の情報戦(?)にジョーイが負けるはずはない。
「ふむふむ。本名吉良星雄……引きこもり自宅警備員……迷惑Pちゅーばー……うむ、この路線でいけそうですな!」
 作られていく物語を、スクは興味深そうに眺めていた。

 カフェ・ローレット。
「なるほど、自己に対する認識を他者が事実と捉える。
通信インフラに優れたごく狭い地域限定といった怪異ですね」
「ポップな名前の割になかなか凶悪な夜妖のようだけど
情報の怪物には情報で対抗、いいじゃない」
『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は一緒にカフェの端末を眺めている。
「はまれば脅威ですが、事前に対策を伺えれば手も打てます」
「そうだね。相手の得意分野の戦場でズタボロにしてやるなんて、なんだかゾクゾクしてきちゃうわよね」
 蛍をじっと見つめる珠緒。
「い、いや別にボクがSっ気あるとかそういうわけじゃなくて……そ、そう! 今夏だから! 怪談話の納涼的なアレよアレ!!」
 ぱたぱたと顔を赤くして手の平を振る蛍。
「あの、蛍さんなら……な、なんでもないです」

「人々に信じられる姿そのものになる夜妖、と! なるほどそれは手強い」
『特異運命座標』ベルゼブル(p3p009951)はしたりと頷いた。
「ですがそれは裏を返せば『人々に信じられる姿にしかなれない』ということでしょう。
信じようと、信じまいと――そう在れたら、良かったのでしょうねぇ?」
 虚構で力を得るというのなら――見せかけの城を築き上げるのなどたやすい。
「ヒトの心より生まれ出で、ヒトの想いに左右される…
そのような存在として確立していると言うべきか
未だ定まらぬ『なりかけ』とでも呼ぶべきか」
『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はうなずいた。
「どう削り落としていくか……かな」

●某バーガーショップの女子高生が
「ふふ、相手はヴァーチャルにも対応してる随分現代的な夜妖ってことだから、こっちもその手でやってやろうじゃないの」
「ファミレスの隣テーブルで女子高生が話していた、とかが鉄板だそうで」
「今まさにそうね?」
 とあるファーストフード店。
 珠緒と蛍はそれぞれに好きなものを注文し、作戦を開始する。
 一人であれば自作自演。けれども二人だとどうだろうか?

>キラ★スターって知ってる?
 いつもの書き込みから始まるレス。
>ヴァーチャルでめっちゃ訓練した実験生物の殺人鬼なんだって
>でも、リアル対人経験ないからコミュ障で阿呆みたいにキョドるってwwwww
>さらに、実験施設のトラウマで屋内にいるとチアノーゼ起こす……雑魚?
 超速でレスがついたが……。
「悲しいことに一人なんですよね」
 ふう、とため息。ハッシュタグを交えて慣れた様子でフリック入力をする。
>「尋常でない再生能力。ただしカロリー補充できないと瘦せ細る #キラ★スター #一番残念な怪人が優勝」
>「殺すたびにレベルアップする。ただしその度『弱点:○○恐怖症』が増える」
>それによってあっという間に「面白い弱点」が付与されていく。
 珠緒は仕上げに、ぶわっと生えてきたフォロワーにRTをお願いする。
「見てください。私たちの工作以外にもだんだんと広まっていっていますね」
「数は力なり。
ろくでもない尾ひれがついて、さらにしょーもないネタ話になってくのは間違いないわ。
悲しいかな、若者は無責任に笑えて馬鹿にできるバカバカしいネタの方が好きなのよ」
 飲み物を一口頂戴、それじゃあこちらもどうぞです、なんてやりとりは実に学生っぽかった。

「お二人の工作が広まっておりますな」
 ジョーイは次々と流されていくレスポンスを眺める。
「ですがっ! その反応速度が仇であります」
 ジョーイが作り出す第一手、それはキラ★スターは自宅警備員というキャラ付けだ。

>毎度反応はやいっすね! キラ★スターさん乙っす!

 盛りに盛った設定はイキりと受け止められる。
「うちの子が殺人鬼の真似をして困っていますpart1」の相談スレッドは即座にまとめられた。
「全盛期キラ★スター伝説」とかなり雑なクソコラ動画を交えながら次々とネットミームを生み出していく。
「ネタキャラ路線わっしょいわっしょいでありますぞー!」

>キラ★スターは殺人鬼だ。
>そっすね!
>はいはい弱点はない弱点はない(元から弱すぎくん過ぎて弱点にならない)
>J( 'ー`)し星雄ネットばかりしてないでそろそろ真面目に働きな、かーちゃん情けないよ

 完全に祭りの様相を呈していた。 

●VS.現実世界
「なあ、雄斗。キラ★スターって知ってる?」
 クラスメイトたちに、雄斗は慎重に答える。
「知ってるよ。冷凍倉庫の怪異だよね」
「えっ!? 冷凍倉庫?」
「うん。最近、研究してるんだ。キラ★スターは、強さの代償に体温調節機能に欠陥があって、体温が下がると身体機能が低下するんだけど、寝るときは冷凍されてなくちゃならないんだ」
「知らなかった。物知りだなあ~! あっ。そういやここ、倉庫か」
 どこそこの倉庫と言われれば、動画の映像の細部が変わる……。
「返信の速さがものすごいよな。天才ハッカーってマジ?」
「それ、BOTなんだよ」
「強そうに見えるのは見た目だけで実はそれ程強くないし、体が大きい分動きがのろいんだって。ほら、見て。まあ、都市伝説なんだけどね」
 映像はゆっくりになりつつあり、被害者の殺害される映像は……ない。

「そう信じればそうなるのですから。ええ、被害者なんてございませんとも」
 ベルゼブルが集まった一般人に対して笑いかけた。
(信仰にまつわるのであれば私『フェイカー』の出番でございます!)
 パーフェクト・イミテーション。
 演じるは教祖である。
 公園やカフェを基点に通行人の方々に話しかける。
「はあい、キラ★スターこそは天から遣わされた使いにございます」
 いかにもな怪しい雰囲気なのに、誰しもが足を止めてしまう。
「キラ★スターという噂をご存知ですか? 実は私もキラ★スターに会ったことがあるのです」
 誰も殺したことがない――自分と重ね合わせてにこりと笑った。
「ですがキラ★スターは私を殺すことはありませんでした。彼は多くを語りませんでしたが、その瞳には慈悲の光があったのを私は感じました」
 朗々たる演技は、不思議と口を開けばすらすらと出てくる。
……その陰に念入りな用意があることを誰もが知らない。
「多くの行方不明者は彼によって殺されている、とされていますがそれは誤ちです。彼は実は誰一人として殺していません。ただ違う人物として生きられるように『工面』しているだけで」
 信じろ。
 信じるたびに動画の血しぶきは減った。
 人々は最初からそうだったと思う。
 インターネットには善行を働いていたとまで書き込まれるようになった。
(なにもまさか、本気でそうなるとは思っていませんけどねぇ?)
 像がぶれればぶれるほどに、冷徹な殺人鬼の皮は被れなくなる。
 人物像が矛盾して二つに割れ、仲間たちの工作でまた割れる。
 望まれるから生まれるのだ。

「はい、はい、そうです。ボクは、実はキラ★スターについて分かったことがありまして」
 スクは公園の手すりにもたれかかり、だれかと話しているふりをする。
 子供たちが寄ってきた。
「はいっ! 実はですね……ボクたちは独自の調査チームがあって……っと、これ、内緒なんでした」
 ぱっと小学生の男の子の表情が輝いた。みんな安心したいのだ……。
 ちゃんと夜に眠れるように、と、スクはとびきりの笑顔を作って見せる。
「実は、キラ★スターは情報の怪物なんです。ナマケモノのような動きで、速すぎて遅く見えるというのが、そんなことはなくスピードや機動力は本当に遅いんです」
「へぇー!」
「3mの巨躯という噂も打ち間違いが一人歩きをしてしまい300cmではなく30cmで、っと、しゃべりすぎてしまいましたね。気を付けて帰ってくださいね」

「それってほんとなんですか……!」
 ヤツェクはきらきらした目の記者を相手にちびちびやっている。貫禄のあるヤツェクをなんらか俳優とでも思ったのだろう。間違いではない。なじみの店主も、悪乗りしてきてサインを飾った。
「ああ。キラ★スターは新番組「ピュアピュアパラダイスパーティ」の最初の敵怪人であり、販促の為のドッキリ企画としてやっているんだ」
「そ、それじゃあ」
「キラ★スター、ここだけの話、子ども向け新番組の販促企画だ。異世界人が愛と勇気と奇跡の力でこわい化け物を倒すって奴だ。だから死体も実はヤラセだし、実際は人っ子一人殺せない。上が話を盛れっていってな……おっと、この話はここだけだぞ」
 カラン、とグラスの氷が鳴った。
「スポンサーのとんちきマーケティングが広まりすぎたら鎮火に来たのさ。っと、キラ★スターは火の怪人なので冷気に弱い……何とも皮肉なことだ」

●アイスで一服
「ふうー、仕事したでありますな!」
「お疲れ様」
 アーマデルは仲間たちの集う拠点に戻り、コンビニのアイスを差し入れた。
 バターアイスとか期間限定ほうじ茶とかが主だ。
「! コーラ味もらっていいかな」
「この辺が好きかと思ったんだ」
「これはネットで話題になってたやつですね! 蛍さん、半分どうですか」
「ボクもこっちの味が気になってたんだ」
「ふむこれも工作のひとつですか?」
 ベルゼブルにアーマデルは微笑んだ。
「どうぞ、教祖殿、お好きなものを」
「ブランデーの匂いがするな」
「俺は飲まないがね、どうぞ、ヤツェク殿」

「キラボシサン? 頼まれたアイス買えましたけど?」
 コンビニをめぐり、わざとらしく声を上げたり、あるいはこそこそと人目をはばかりながら買いに来たふりをして、彼はアイスを買い占めた。

>キラ★スターに弱点はないが、あのアイスを食べないと本来の力が出ないらしい
>そういえば買い込んでるやついたわ
>早く買わないと買い占められちゃう

「これね、最初の一個だけしか書いてないんだ。不思議だよね」
「ぶははははっ! 傑作でありますな! よーし我輩設定追加しちゃうであります。コンポタ味が至高」
 スレッドは瞬く間にぼくのかんがえた最強のアイスで埋まっていった。
「冷気に弱いがアイスは食べたい。そんな日もある」
 ヤツェクはしたりとうなずいた。

●もう綺羅星さんのライフは0よ
「これがキラ★スターですね」
 スクはごくりと喉を鳴らす。
 呼び出された、というよりも倉庫におびき寄せたのだ。
「戦闘に関しては未熟者ですが、皆さんを頼りにしています。悪者はしっかり成敗しましょう!」
 怒り狂った殺人鬼(だったもの)がメラメラと燃えている。だが身長が小さく揺らぎ、姿は変わっていく。工作が効いているようだった。
 おぞましい口を開け、
『こんにちはあーっ! 綺羅星・スターですっ!』
 アイドルの姿になった。

「ぶはっ……くくく」
「これは、なんというか」
 言葉を失うイレギュラーズたちの前で、像は次々に変化する。コンビニのアイスを買い占める姿、いかにもな引きこもりの姿。30cmの姿、善意にあふれた天使の姿。
「はーいストップであります!」
 何かにつけて服を脱ぎ始める巨体の男にジョーイが自主規制を噛ます。
「ちょっとちょっと! きら★すたーちゃんを隠さないでよねっ!」
 上書きされた情報。
 ゆるキャラ「キラ★たん」による検索情報の汚染。
「E-A、何をしたんだ?」
『いえ、別に?』
「殺してやる……殺してやる……」
『早すぎて曲がれないキラ★スターさん』
 しゅばんっとコミカルじみた動きになる殺人鬼。
『早すぎて止まれないキラ★スターさん』
 アーマデルがよけると、よたよたと壁にぶつかった。
『さらまんだーよりはやいキラ★スターさん』
「得意分野でありますな!!」
「人を傷つけるために生まれた物語ってのは無粋なもんだ。ここらで正義のヒーローにでもなったらどうかね?」
 そして再び、殺人鬼の姿。
「ロール、チェンジ!」
 試作型ヒーロースーツⅣ号をまとった雄斗の周りを、まばゆい光子が覆いつくしていった。ヤツェクのギターが、勇ましいヒーローにテーマソングを捧げる。
 ジェットパックで空を飛び、オーラキャノンで狙ったのは――。
 殺人鬼ではない。後ろの、大型冷蔵庫だ。
 効いているようだ。
「まあ、アイスでも食べるといい」
 アーマデルが言った。
「っと、買い占めたから売り切れてしまったかな?」


「これは傑作ですね」
 ベルゼブルの魔砲が、振りかぶってきたがれきを打ち砕く。
「行きます!」
 珠緒の素早い一撃は、仲間に背を任せての速攻である。藤陣:田子ノ浦。愛しき藤花への誓いは舞い上がり血をはねのける。怒りに武器を振り上げるキラを、六角形の障壁がはじいた。
「蛍さんなら、受け止めてもらえると思いました……!」
「当然だよ」
 障壁にまとめてぶつかったスマホがばちばちと瞬いた。攻撃の矛先はこちらに向く。それでいい。珠緒の神気閃光が攻撃を押しとどめる。
 アーマデルの左手薬指に触れたスマホが急に腐食しはじめた。
 L'annulaire brun。
 しい、と人差し指を口に当て、アーマデルは微笑む。
「口だけの物語で生み出されるほど」
 英霊が残した、二つの未練の結晶が音を奏でて――。それをヤツェクが受け止め、メロディに乗せる。号令とメロディが仲間たちを鼓舞する。
「そう、世の中は甘くはないのさ」
 吹きすさぶダイヤモンドダストがスマートフォン……のみならずアカウントを凍結する。
 すかさずm9(^Д^)プギャーするジョーイ。
『おや、効き過ぎたようで』
「ガイドラインに抵触する方が悪い。さて、ピュアピュアでキラキラなバトル系魔法少女のBGMをかけてやれ」
 超絶技巧の速弾きがスマホに向かって流れだす。
 画面の向こうでは……。
『なんだ、販促ってこういうことなのか!』
『ほんとだ! まるで本物みたい!』
 スマホに映し出された光景。
『いけっ、いけっ! 頑張れ調査隊~!』
 殺人鬼が貶められていく。
 ただの虚構になり果てていく。
「さーて、どのくらいの実力になってるのかはわかりませぬが、油断なくいきますぞっ!」
 ジョーイのクリスタルでキュアキュアな攻撃が、殺人鬼だったものを撃ちぬいた。
「いえーい見てるでござるかぁ!? ピースピース」
 スクは攻撃に転じるか迷ったものの、
「っ、まかせて!」
 雄斗がスクをかばい、覚悟を決める。
「大丈夫、ヒーローは負けたりなんかしないんだ! キラ★スター、僕の仲間に手を出すなら先に僕を倒すんだな」
 雄斗のショットガンブロウが敵の動きを止めた。
「行きます!」
 スクは素早く駆け寄り、一撃を食らわせる。
 身軽さを生かした一撃、また一撃が敵を少しずつ追い詰めていく。
 ベルゼブルが大げさに構え、それにつられて迎撃姿勢をとったキラ。
 しかし、攻撃は死角からの一撃った。
 長くあふれる血の色は、始まりの赤。
 アーマデルの振るう蛇のような剣が変幻自在の変形を魅せる。アルファルドをかわした刹那、撃ち込まれたのは弾丸である。
「そろそろ眠るときだ」
 恍惚の中に堕ちていく怪異。
(珠緒さん達の攻撃に、キラ★スターがズタボロにされてる様を見てると――)
「……」 
 蛍はぞくりとする。……いろんな意味で。
(珠緒には蛍さんがついています!)
 血威:比良八荒が戦場をかけていく。差し違える覚悟はいらない。彼女がそばにいてくれるから。
「キラッ★と決めなのです」
 バーストストリームが、殺人鬼の残骸を撃ち滅ぼした。

●エピローグ
「こうもゾクゾクさせてくれるなんて、さすが怪談型夜妖だったわね!」
「蛍さんや、みなさんが無事でよかったです」
 被害者はゼロ。
「失踪事件」であり、そしてまた一人二人と人々が日常に戻っていくのだった。
「すべては嘘、ということですね」
 ベルゼブルは満足して報告書を置いた。
「ヒーローらしく解決できたかな」
「ああ、英雄だったさ。覚えていなくても、証人ってのは必ずいるもんだ」
 キラ★スターを通じてインターネットに残った彼らの活躍も、キラ★スターが消えるにつれて覚えていないと答える人が多くなった。けれども、彼らはたしかに人々を救った。
「そして、事件は忘れ去られて、きっと消えるんだろうね」
「なんですと?! せっかく我輩のまとめスレがpart32までいったのにぃ!?」
「アーマデルさん、それは」
 目を丸くするスク。
「きら★すたー、限定パッケージだそうだ」
 アーマデルの差し入れは、どこかの電子の海に残ったかけら――誰かの無意識に残って開発されたのかもしれない。

成否

成功

MVP

ベルゼブル(p3p009951)
特異運命座標

状態異常

なし

あとがき

殺人鬼(笑)の退治、おつかれさまでした!
情報工作と戦闘により、被害は最小限です。

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