シナリオ詳細
爆騒音のスィカーダ。或いは、それは夏の風物詩…。
オープニング
●ストレガのビデオレター
みぃんみぃん、じじじじ……。
セミの声が木霊する。
モニターに映っていたのは、黒いドレスにウィッチハットといった、まるで魔女のような格好をした妙齢の女性だ。
名を“ドクター・ストレガ”という、イレギュラーズにとってのお得意様だ。
つまりは、トラブルメーカーということである。
『--の幼虫--は-の中で7年の-------』
わざとらしく片手をあげて、モニターの中でストレガは言った。
『諸君らに回収してもらった-----獣の寿--延--役に立つかつ思い---幼-を捕--のだが』
どうやらストレガは、何かの実験をしていたらしい。
その結果が、この騒音というわけだ。
『機械で-----としたが、暴---ね。おかげで私の研究所は--様だ』
そういってストレガは、サイドテーブルから手の平サイズの小さな機械を摘まみ上げた。
それはセミを模した機械だ。
どういうわけか、その頭部には黒い角が取り付けられている。
胴体部分に空いた無数の穴は、スピーカーの役割を備えているのだろう。
『まぁ、見てごらん。まずはこれを--するだろ?』
ストレガはセミ型の機械を両手で摘んで力を加える。
バキ、と軽い音がして、半透明の翅がへし折れた。
『すると---へ戻り、再-するんだ!』
ストレガの手の中で、セミ型の機械が起動する。
それは体を丸くすると、ピタリと身動きを止めてしまった。
しかし、それから時間にして1分ほどが経過すると、セミ型の機械は再び稼働を開始。
僅かな燐光を散らしながら、折れたはずの翅を伸ばして羽ばたいた。
瞬間、じじじじじ、とより一層に騒音は強く、激しくなって……。
『すご---? 止める方法は、--んだが私1人--無理だ。少なくとも--』
と、そこまで言ったところでストレガは急に白目を剥いた。
間近で大音を聞いたストレガは、目を回して気絶したのだ。
それっきり、ビデオレターが終了するまで彼女は目を覚ますことはなく……。
きっと今も、気を失っているのだろう。
●困惑するイズマ・トーティス
「これは……何だ? 何が起こっている? 騒音が酷くて頭が割れそうだ」
モニターを凝視するイズマ・トーティス(p3p009471)は、耳を押さえて眉間に深い皺を寄せる。
頭が割れそうなほどの騒音の中、ヘッドホンを装着したストレガが何かを言っているのだが……。
どういう経緯でそうなったのか、彼の手元にストレガからの荷物が届いた。
今から1時間ほど前のことだ。
同梱されていた再生機器をセットし、内容を確認したイズマはすぐにそれを後悔する結果となった。
「い、依頼なのか? 何を言っているのか聞き取れない……」
そう。
セミの鳴き声が煩過ぎて、ストレガの言葉の何割かは上手く聞き取れないのであった。
しかし、映像から判断できることもある。
ストレガが造ったセミ型の機械が暴走を開始したらしいこと。
そして、その解決をイレギュラーズに依頼したいということだ。
「まずは裏取りだな。練達の情報を探ってもらおう」
問題が起きていると理解した後、イズマの行動は速かった。
自分たちが成すべきことは何なのか。
それを探るべく、急ぎローレットへと向かう。
そうしてイズマは、以下のことを突き止めた。
現在、練達の首都セフィロトでは、騒音を発する奇妙な機械が大量発生していること。
騒音を間近で聞いた者は【窒息】や【混乱】【封印】の症状を受けること。
その正確な数は分からないが、少なくとも100は超えている。
そして、セフィロト郊外にあるストレガの研究所付近には、とくにその数が多い。
常に「みぃんみぃん、じじじ……」と騒音を発し続けているため、言葉による意思の疎通さえ難しいほどだという。
「さらに、どういうわけか角まで付いているしな。あれで刺されれば痛そうだ」
1体1体は大した脅威ではないだろう。
しかし、数が多すぎる。
「【出血】ぐらいは覚悟するべきか? いや……問題はそこじゃないな」
どうやって事態の収束を図るか。
考えるべきはそれだろう。
「やはりストレガさんに聞くしかないか? 止める方法はあるみたいなことを言っていたからな。それとも、全部潰して回るか?」
そのためには何が必要か。
少なくとも、あと数名は人手がいるだろう。
イズマはそう呟いて、仲間たちへ呼集をかけた。
- 爆騒音のスィカーダ。或いは、それは夏の風物詩…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月23日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●みんみん、じじじ
みぃんみぃん、じじじと蝉が鳴く。
上下左右、四方八方を飛び回るそれを正しく呼称するならば、蝉を模した機械である。
「-------!」
側頭部より生えた羽を押さえて『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)が何かを叫ぶ。しかし、その声は蝉の鳴き声に遮られて聞こえない。
直後、ルーキスの足元に1匹の蝉型機械……スィカーダが落ちる。
腹を上に向けた体勢で、機械の脚をだらんと力なく開いていた。
「まぁ、夏---」
何事かを口にしながら『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がスィカーダへと手を伸ばす。しかし、その手がスィカーダに触れるより早く、ルーキスがそれを制止した。
『不用意に近づくな。セミ・ファイナルだ』
そう、一見して機能を停止したように見えるスィカーダだが、まだ稼働しているのである。
なぜなら、脚が閉じていないから。
「では、ト---」
サクリ、と。
巨大なナイフがスィカーダの身体を貫いた。
直後、スィカーダは激しく一度、ジジジと鳴いてその機能を停止する。
スィカーダにトドメを刺した『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は、ハンドサインを仲間へ送り、視線をまっすぐ前へと向けた。
そこにあるのは、全長200メートルほどの巨大な建物。フォルムだけならムカデに近い形状をしたそれの名は“ソシエール”。
スィカーダの開発者である女性、ストレガの拠点であった。
『今回はまた地味に嫌なロボだね……! 会長もうるさいって巷で評判だけど、比じゃないくらいうるさいね!』
『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)の溌溂とした声が、仲間たちの脳裏に響く。
スィカーダの発する騒音に、負けず劣らずの大音声だ。
そうしながらも、茄子子は懐から取り出した1枚の符をすぃっと宙へ泳がせる。淡く、けれど強い光が降り注ぎ、仲間たちの体を包んだ。
淡く光る自身の両手を見下ろして『魔種の回し者』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は目を見開いた。
茶色い瞳をきらきらさせて、彼女はぶぉんと腕を振るう。
『茄子子カイチョーすご〜〜い! なんかよくわかんないけどすごい楽!!』
その手には、いつの間にか1匹のスィカーダが捕らわれていた。騒音を撒き散らし、もがくスィカーダをじぃと見下ろし、リコリスはそれをあろうことか口へと運ぶ。
『ボク羽衣教会に入信する!!』
なんと素直なことだろう。
ハンコやサインを求められたら、断るように誰か言い含めておいた方がいい。見よ、茄子子は急ぎ、何かの書類を取り出した。
しかし、リコリスの意識は既に口に含んだスィカーダへと向いている。
バキ、と硬質な音がして、スィカーダの身体が砕け散った。
機械の部品をバリバリと咀嚼したリコリスは、眉間に皺を寄せて何かを吐き出す。
血と唾液に濡れたスィカーダが、ぐちゃと床に転がった。
「この騒--100----れると立----ね……聴覚----のはきつ--」
今にも舌打ちを零しそうな顔をして、『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は愛用のガトリングへと弾を送った。
トリガーに指をかけるが、研究室の至るところにスィカーダは散らばっているため、狙いを付けられないでいる。
現状のまま弾丸をばらまいても、思うような戦果は得られないだろう。スィカーダの放つ騒音に、砲撃の大音声が重なって、誰かの耳がイカれる心配さえあるか。
「騒々---ん---ルじゃ---よこれ!」
例えばそれは『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)であろうか。音さえあれば、それがどんな類のものでも、合わせて踊ることが出来る彼女であるが、この騒音の最中で舞う気はないようだ。
耳を押さえて、今にも胃の中身を吐き出しそうな顔をしている。
「--セミの---用した!? 大量に--過--! 試作は----してくれ!」
そしてもう1人。
音楽家の家系に育った『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)もまた、スィカーダの放つ騒音に、耐え切れないでいる1人である。
かつてないほど取り乱し、彼は不満を上げるのだが、悲しいかな渇いた叫びはスィカーダの声にかき消され、誰の耳にも届かない。
●スィカーダ
小さな体に、飛行能力を備えた機械。
その腹部にはスピーカーが取り付けられている。
みんみん、じじじと放つ騒音が、しかし例えば意味ある音声であったとしたらどうだろう。
災害の現場に誰より速く羽ばたいていき、避難経路を触れまわるのだ。
また、スィカーダには破壊されても再生するという性能が備わっている。
現在、暴走状態にあるスィカーダは騒音を撒き散らす迷惑な存在でしかないが、その実しかし、幾らか改良を加えれば先に述べたように人の役に立つ機械なのである。
ソシエールは、幾つもの研究室が連なった形状をした建物だ。
そのうちどこかに、スィカーダの止め方を知るストレガが意識を失い倒れているという。
とはいえ、スィカーダを放置したまま先へと進むことは出来ない。気絶しているストレガを起こすにしても、多少は辺りを静かにしておかなければならないのである。
「再生するとは言え即効性はないそうだ」
黒銃を構えルーキスは言った。
その指先が、黒銃のトリガーを引き絞り、壁際に止まったスィカーダへ向け魔弾を放った。
狙い違わず、魔弾はスィカーダの背へ命中し、機械の身体を粉々に砕いた。
銃声に驚いたのだろう。
スィカーダたちが、一斉に飛び立ち、激しく鳴いた。
床や壁が振るえるほどの大音声。イレギュラーズの身体を覆う光の鎧が、ビリビリと揺らぐ。
『チッ!五月蝿くて集中力が乱れやがる。纏めてぶっ飛ばしてやるしかねぇなぁ!』
『ほんと……終わる頃には聴覚死んでそう』
滅茶苦茶に飛び回るスィカーダたちを、ルーキスの放った紫電が穿つ。
雷光に追い回されるように、スィカーダは研究室の天井付近へと退避。しかし、いかに距離を取ったところで、そこはコルネリアの射程圏内である。
「羽虫が集まってよォ……鳴き止まねぇなら弾ぶち込んで沈めてやるよ!」
回転する砲身から、無数の弾丸がばら撒かれた。
火薬の爆ぜる音を鳴らして、撃ち出させる無数の弾丸。それは、次々、スィカーダたちを撃ち抜いていく。
スィカーダの耐久力はさほどに高いものではない。2、3発も弾を浴びれば機能を停止し、
床に落ちる。
そのうち1つを踏み砕き、コルネリアは次の部屋へと続く扉へ視線を向けた。
スィカーダの数が減った間に、一行は次の部屋へと進む。
先頭を切って斬り込んだのは、ヴィリスとウィズィの2人であった。
騒音を散らし、2人へ向けて黒い影が飛来する。スィカーダの頭部に取り付けられた黒い角が、ヴィリスの頬や脇を深く斬り裂いた。
飛び散った血が、白い壁に痕を残す。
しかし、それも一瞬のことだ。降り注いだ燐光が、ヴィリスの傷を即座に癒す。
『ちょっと、そんなに前に来て大丈夫なの?』
振り返ったヴィリスの視界に、スィカーダに群がられている茄子子が映った。
おそらく、茄子子で間違いないだろう。
飛び回る無数のスィカーダの中から、見慣れた小さな手が覗いているからだ。
『会長の事は心配しなくても大丈夫だよ! 何せ会長は魔力に関しては疲れ知らずだからね!!』
淡い燐光が瞬いた。
茄子子が自身に治癒の術式を行使したのか。
ひとまず、彼女は放置していて問題ないとヴィリスは意識を切り替える。
『早く静かになってもらわないと頭がおかしくなっちゃいそうだわ。頭はもう数少ないまともな場所なのに』
ヴィリスの零した呟きは、あっという間に騒音に紛れて消え去った。
ヴィリスの喚んだ、得体の知れない“何か”が駆ける。
到底、人では届かぬほどの高い位置へとそれは疾駆し、スィカーダを1体砕き割る。
『さあ、Step on it!!』
声を張り上げ、ウィズィは部屋の端へと駆けた。
その後を追い、無数のスィカーダが飛んでいく。
視界を埋めるスィカーダの数が減った隙に汰磨羈と茄子子は急ぎストレガの姿を探した。テーブルの影、椅子の後ろ、本棚と本棚の間……どうやらこの部屋にストレガの姿はないようだ。
『リコリスよ……少し重いのだが』
汰磨羈は腕に張り付いたリコリスを引き剥がし、それをスィカーダの群れへと投げ込む。
ウィズィの薙いだ銀のナイフが、スィカーダを砕き、打ち落とす。
何匹、打倒されたとて、スィカーダの猛攻は止まらない。
蜂の群れを率いて暴れるリコリスや、部屋の四方を駆けるヴィリスも次々とスィカーダを壊しているが、いかんせん数が多すぎた。
そうしている間にも、再生を終えたスィカーダが前の部屋からやって来る。
『また……一網打尽にしてやる!』
1歩、強く踏み込んでウィズィはナイフを一閃させた。
ごう、と空気が唸る音。
ナイフに薙がれたスィカーダが、数体纏めて床に散らばる。
戦闘の音を聞きつけて、次の部屋からもスィカーダたちがやって来た。
ならば、とばかりに茄子子と汰磨羈、そしてイズマとリコリスは急ぎ次の部屋へと向かった。
先頭を駆けるリコリスは、床に這いずるようにして鼻をしきりにひくつかせていた。
どうやらストレガの臭いを追っているのだろう。
『臭いを覚えているのか?』
『うん、ストレガさん! ボク覚えてるよ、あの脚の生えた美味しくないカボチャ作ってた人でしょ?』
顔をあげたリコリスは、もう1つ先の部屋へと視線を向けている。
どうやらそっちの方向から、ストレガの臭いがしているようだ。
そんなリコリスの頭部へ向けて、2匹のスィカーダが接近する。
「あぁうっ⁉」
1匹はリコリスの額に、もう1匹は肩を抉る。
仰向けに倒れたリコリスを引き摺り、茄子子は次の部屋へと駆ける。そんな彼女をサポートするべく、部屋の中央付近へとイズマは駆ける。
スィカーダの群れを引きつけた彼は、腰を低くし細剣を一閃。
翅を裂かれたスィカーダは、じじじと鳴いて床でのたうつ。
「あれ……この角、もしかして」
落ちたスィカーダを見落ろして、イズマは目を丸くした。
スィカーダの頭部に着いた黒い角に、どこか見覚えがあったのだ。先ほどから、仲間たちを傷つけている角がこれだろう。
黒く鋭い鋼の角は、イズマの剣を受けてなお無傷。
よほどに頑丈な素材で造られているらしい。騒音を撒き散らす機械に、一体どうして角など付けてしまったのか。
『まったく。こんな所で、"戦いにおいて数は正義"という言葉の意味を痛感するとはな!』
イズマと背中合わせに並び、汰磨羈は静かに刀を抜く。
騒音に顔を顰めながら、汰磨羈は1歩、弾むように前へ出た。
ひらり。
頭上で刀を一閃させる。
はらり。
斬り下ろすように、流れるように刀が閃く。
見る者を魅了させる、流麗な舞いは、スィカーダのプログラムさえもを惑わせた。
仲間同士で同士討ちを始めるスィカーダ。
その隙に、イズマの刺突が1匹ずつを確実に仕留め、破壊する。
血塗れたウィズィ、そしてヴィリスが転がるようにやって来た。
2人に肩を貸しているコルネリアとルーキスも、幾らかの傷を負っている。
『アタッカー兼ヒーラーはな、ほんと……やる事が多い……ッ!』
仲間たちの治療をしながら、汰磨羈はそんなことをぼやいた。
先行したリコリスと茄子子を、残る6人が追いかける。
本来であれば一団となって移動する予定だったのだが、スィカーダの猛攻により一行は分断されていた。
しかし、それも今だけだ。
スィカーダの多くが再生するまで、幾らかの時間が必要だろう。
騒音も先ほどまでよりだいぶ静かになっている。今なら肉声で意思の疎通も叶うであろう。
「ストレガくーん! 助けに来たよ! いやむしろ助けて!!!」
先の部屋より響く茄子子の大声により、一行はストレガの発見を知る。
暗い暗い闇の中。
上下左右で、みんみんじじじと騒音ばかりが響き渡った。
夢と現の狭間の世界を揺蕩いながら、ストレガは思う。
静かに眠らせてほしい……と。
『寝るな気絶するな早く起きろ!! こっちの耳がイカれる前に手短に止め方教えなさい早く!!』
夢と現の狭間から、ストレガを呼び起こしたのは凛とした女の声だった。
『こ、これは一体……声が脳に直接響く?』
『いいから早く、アレの止め方を教えなさい!!』
白い髪に、猛禽のそれに似た翼を持つ美しい女だ。
彼女……ルーキスは、ストレガの襟を掴んだまま、スィカーダの止め方を問いかける。
『うるさすぎて頭おかしくなってきた!! ね、アレの停め方おせーて!』
『ん? おぉ、誰かと思えば茄子子くんじゃないか。遊びに来たのかな? いや、君に見せたいものがあって』
『それどころじゃねぇのよ! さっさと聞き出すこと聞かねぇとキリがねぇわ!』
怒鳴り声をあげたコルネリアは、部屋の入口へと向かう。
前の部屋から、再生したスィカーダたちが次々こちらへ向かっているのだ。それに伴い、一度は鎮まっていた騒音も、再び増している状態だ。
そろそろ声での意思疎通が難しくなってきた。
『あー……耳が痛いな』
『自業自得だろう。まったく。いい加減慣れてきたよ、御主の所業には』
『あの映像で言いかけてた、スィカーダを止める方法を教えてくれ。騒音を何とかしたい』
『汰磨羈くんとイズマくんも来ているのか。なに、人類の進化とより便利な生活のためには、こういうのも必要なのだよ。さて……止め方なら簡単だ。2つほど先の部屋に、緊急停止ボタンがある。こう……一抱えほどの、蝉の蛹の形をしてる物だね』
簡単なことさ。
なんて、いかにも誇らしげな笑みを浮かべてストレガはそう告げる。
その言葉を聞き、リコリスとヴィリスは駆け出した。
その様たるや、まるで矢か弾丸のようでさえある。
●騒音騒動の終焉
斬って、斬って。
撃って、撃って。
刺して、刺して。
壊して、壊す。
次々と向かい来る大量のスィカーダを、イレギュラーズは破壊する。
イズマの細剣が翅を貫き、汰磨羈の刀が斬り裂いた。
コルネリアの弾幕が、スィカーダの接近を食い止めた隙に、ルーキスの放つ紫電の奔りがそれを焦がして、床へと落とす。
数の多さに圧倒され、中には手傷を負う者もいるが……。
『頑張ろう! 会長達人類の発展に一役かってるよ!』
降り注ぐ淡い燐光が、傷を癒し、体力を回復させるのである。
ナイフを一閃させながら、ウィズィは「ほぅ」と吐息を零す。
「ほんと、茄子子さん頼りになる~!」
茄子子の傍にいる限り、ちょっとやそっとのダメージなんて、あってないようなものなのである。
カン、と火花が飛び散った。
刃の付いた義足でもって、ヴィリスが床を蹴ったのだ。
弾かれたように疾駆するヴィリス。
その隣をリコリスが駆ける。
2人の前方には都合2匹のスィカーダがいた。
左足を軸に、ヴィリスは体を旋回させる。
放たれた足刀が、スィカーダを2つに蹴り裂いた。
ヴィリスの剣踵を潜り抜け、リコリスが走る。
迷いの無い足取りだ。リコリスには、スィカーダの停止装置の位置が分かっているのだろう。
事実、リコリスの向かう先には、茶色い蝉の蛹が1つ。
ぱっくりと割れたその背の中に、赤いボタンがあるのが見えた。
「今度は今度は食べられるもの、造ってよね!」
蛹に飛びつくと同時、リコリスはボタンを拳で押し込む。
ピピ、と微かな音がして……。
直後、起きた無数の小さな爆発が、研究所を揺らすのだった。
「じ、自爆スイッチ……正気なのだわ?」
「確かに手っ取り早いとは思うが……」
目を丸くしたコルネリアとイズマが、思わず顔を見合わせた。
呆れたように吐息を零す汰磨羈を伴い、ウィズィはストレガに詰め寄っている。
一方そのころ、茄子子は腹を抱えて笑い転げていた。
「いいか? 次は冷暖機能ならとか考えるなよ」
「静かにはなったみたいだけどまだ蝉の鳴き声が頭の中に響いているわ」
耳を押さえたルーキス、そしてヴィリスの2人に笑顔を向けてストレガは得意げに笑う。
どうやら、今回得られたデータは、満足のいくものであったようだ。
「はは、お互い災難だったね。いや、耳は痛いが……何、これも人類のより良い生活のためだよ」
なんて。
あっけらかんと笑う彼女の顔を見て、2人はこう思わずにはいられない。
つまり、馬鹿と天災は何とやら……と。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
スィカーダは全て停止しました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
※こちらのシナリオは「夏が来るんだよ。或いは、漆黒の一角獣…。」のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6171
●ミッション
騒音問題の解決
●ターゲット
・セミ型機械“スィカーダ”×100~
手の平サイズのセミ型機械。
ストレガが作製したもので、耳障りな騒音を鳴らし続ける。
どういうわけか、鋭い角を備えており、多少の戦闘能力はもっている模様。
騒音を聞いた者に【窒息】【混乱】【封印】を付与する能力を持つ。
また、多少のダメージは自己修復できるようだ。
●依頼人
・ドクター・ストレガ
黒いドレスにウィッチハット。
顔色の悪い妙齢の女性研究者。
生物をモデルにした“人の暮らしに役立つ機械”の開発を生業としている。
セミ型機械の騒音にやられ、研究所のどこかで気絶している。
●フィールド
ストレガの移動研究所付近。
研究所の出入り口は解放されているが、騒音が酷く誰も近づこうとしない。
その騒音たるや、発声による意思疎通が困難なレベルである。
研究所内部はほぼ1本道。外から見るとムカデのような形をしている。
通路にはストレガが作ったガラクタ、発明品、部品が散乱しており、移動の妨げとなる。
ソシエールの全長は200メートルほど。
30メートル単位の小部屋が幾つか連なった形状をしている。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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