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シナリオ詳細

<フルメタルバトルロア>日華に隠れ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――皇帝が殺されたらしいぞ!

 ああ、そうね。そうらしいわ。だからって如何したって言うの?

 ――誰が犯人だ? ヴェルスか? ガイウスか? ザーバか!? いや、全てが疑わしい!
 S級のビッツはどうだ。アイツだって『戦える』だろ? アイツも怪しいぞ!

 いやね、やめて頂戴よ。そんな汚れるようなことアタシが好むと思っているの?

 ――疑わしいならば、殺せ! 皇帝の座は!

 ああ、もう! うんざりなの。そんな『バカみたいな椅子』なんて!


 鋼鉄の北東部に広がる貧しい大森林地帯『ヴィーザル地方』。
 現実と違わず富国強兵を掲げ、拡大戦略を行う鋼鉄にとっても旨味のない荒廃したこの土地には三つの部族が住んでいた。
 その一部族、ハイエスタの村ヘルムスデリーの程近いその場所にイーリス教会は存在した。
 シスター・ジュリエットは来訪を告げるベルの音に驚愕したように目を丸くする。
「ビネガー様ではありませんか?」
 虹色に染まる髪を持った美しい少女に気易い仕草で手を振ったのはラド・バウS級闘士のビッツ・ビネガーその人であった。
 その傍らには彼の付き人であるラド・バウ闘士カリブルヌス夫妻の一人娘エクスマリアが手を繋がれて立っている。
「こんにちは、シスター。久しぶりにビッツおじさんが帰ってきたんだ!
 首都のお話を沢山聞かせて貰おうと思って。おじさんが人気が無いところが良いって言うから、此処を借りても良い?」
「ええ。ビネガー様とマリアさんが宜しければ」
 穏やかに微笑んだジュリエットに「ありがとう!」と満面の笑みを浮かべて返答するエクスマリアは12歳になったばかりの少女だった。
 その美しい金の髪と蒼眸を『お気に召した』ビッツが彼女の両親を付き人に引き立ててからと言うもの、彼女の面倒を時折こうして見て遣っているらしい。
「……その、ビネガー様。首都のことは私も聞いても宜しいでしょうか?」
「なぁに、幼馴染みクンが巻き込まれないか心配なわけ? 大丈夫よ、あの場所に近付かなけりゃ。
 まあ、だからアタシは逃げてきたんだけどね。避暑よ、避暑。分かるでしょ? あれに巻き込まれるのがうんざりなの」
 肩を落したビッツにジュリエットは曖昧に笑って見せた。エクスマリアと言えば「おじさん疲れてる?」と首を傾ぐだけだ。
「そりゃあ、疲れますとも。誰が皇帝を殺したのか、ですもの。
 アタシも容疑者の一人に仕立て上げられちゃぁ……まあ、あんな場所ですもの。誰だって容疑者で誰だって犯人よ。
 だから、アタシは逃げてきたのよ。汗臭い男達の戦いに巻き込まれたくも無けりゃ、あんな椅子、誰が座るもんですか」
「椅子?」
「……コッチの話よ。マリア」
 エクスマリアの髪を櫛で梳かすビッツは「シスター」とジュリエットを呼んだ。
「はい、何でしょうか? ビネガー様」
「ビッツで良いわ。ココに、アタシみたいなのを追ってくるオバカさんがいるとおもうの。
 申し訳ないんだけれど、報酬は出すわ。アンタ達で何とかしてくれないかしら? 折角の休暇に汚れたくないのよね」
「マリアも闘っても?」
「マリアは駄目よ。汚れちゃうじゃない。シスターは妖精騎士だからお願いしてるのよ」
 ね、と微笑んだビッツにジュリエットは「お任せ下さい」と穏やかな笑みを返した。


「と、言うわけで、クエストらしーんだけどさ。あれがR.O.Oのエクスマリアさん?
 なんていうか、笑ったりしてるだけで随分と雰囲気変わるよなあ……可愛いと思う。あ、いや、今も可愛いぜ?」
 ファーリ (p3y000006)に何を言っているのだろうとジュリエット(p3x008823)は首を傾げた。
 クエスト内容を確認していたザミエラ(p3x000787)は「ふんふん」と頷いてからファーリの名を呼んだ。
「これって、ビッツさんが『容疑者候補から外れたくてヴィーザルに逃げてきた』ってことでいいのよね?」
「そう。今の鋼鉄じゃ誰も彼もが容疑者候補。まあ、分かりやすい人だけれどさ。
 ビッツ・ビネガーは『無理に強者』と闘いたくはないし、皇帝になりたいタイプじゃない。だからこのイザコザに巻き込まれたくなくて逃げてきたらしい」
「ふうん。成程。それで、どうして『追ってくるオバカさん』がいるのかしら」
 首を傾いだザミエラにジュリエットは「単純にビッツ・ビネガー容疑者を犯人と認識して暗殺、と言うわけではないのですよね?」とファーリに問うた。
「そう。そこなんだけどさ、ビッツ・ビネガーを追ってくる奴等は『鋼鉄の軍人』なんだ。
 其れも皇帝に近い位置に居るはずの存在。でも、どうして追われているのかをビッツは口にしない」
「可笑しいわよね。だって、そういう軍人達は皆犯人捜しをして居るはず。わざわざここまで追いかけてこないわ?」
「うん。けど、現実とR.O.Oは違う。ビッツがどうしてここまで逃げてきたのか。
 そもそも、普通に避暑なのか、いざこざが煩わしいからか。それさえも分からないんだ。
 けど、このクエストにはこうでてるだろ? 『ビッツのお願いを達成する』って。だから今回は此れを熟せば良いってワケ」
 つまりはビッツ・ビネガーが本件の重要参考人の可能性はあるが、ネクストは彼からのクエスト達成を求めてきているのだ。
 ビッツ・ビネガーの思惑は分からないが、一先ずは彼の『お願い』を達成しておかねばならない。
 クエストを達成してからでも、彼の本心を聞き出すのは遅くはない筈だ――

GMコメント

 夏あかねです。

●クエスト達成条件
 ビッツのバカンスを邪魔する『不届き者』を追い払う。

●『クエスト』
「ココに、アタシみたいなのを追ってくるオバカさんがいるとおもうの。
 鋼鉄じゃ、皇帝……ああ、元ね。元皇帝の近衛隊がいたんだけど、そいつらがアタシを追いかけてきてるの。
 と言っても、首都でも犯人捜しをして居るから10人くらいだと思うわ。そいつらを倒して頂戴?」

 ・エネミーデータ:近衛軍人 10体
 連携をとれる近衛軍人達です。ビッツ・ビネガーの『拘束』を行おうとしてきます。
 ビッツは闘う気はありませんので彼の護衛として、軍人を退けて下さい。

 ・フィールドデータ:イーリス教会
 ハイエスタの村ヘルムスデリーの程近い場所に存在するイーリス教会です。
 ジュリエット・フォン・イーリスさんのR.O.Oの姿である『妖精騎士ジュリエット』がシスターをして居ます。
 出来れば教会にはあまり傷を付けないように気を遣ってあげて下さい。

●味方データ
 ・妖精騎士ジュリエット
 ジュリエット・フォン・イーリスさんのR.O.Oの姿。妖精騎士です。妖精と協力して闘います。
 其れなりの戦力です。基本はビッツの護りを固めてくれます。

 ・エクスマリアちゃん
 エクスマリア=カリブルヌスさんのR.O.Oの姿。12歳の可愛い女の子。表情がコロコロと変わります。
 ビッツおじさんの傍で護衛される係です。戦闘は出来ません。

 ・ビッツ・ビネガー
 休暇なのか、それとも逃避かのか。此の地まで逃げ果せてきた自称避暑中のS級闘士です。
 美しく棘がある男性です。自称『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』。
 一言でいえばオカマですが性別を問い掛けると「好きな方でいいわよ」と笑みを溢されます。気が置けない姐さんです。

●フルメタルバトルロア
 https://rev1.reversion.jp/page/fullmetalbattleroar
 こちらは『鋼鉄内乱フルメタル・バトルロア』のシナリオです。

・ゼシュテリオン軍閥
 ヴェルスが皇帝暗殺容疑を物理で晴らすべく組織した軍閥です。
 鋼鉄将校ショッケンをはじめとするヴェルス派閥軍人とヴァルフォロメイを筆頭とする教派クラースナヤ・ズヴェズダーが一緒になって組織した軍閥で、移動要塞ギアバジリカを拠点とし様々な軍閥と戦います。

・黒鉄十字柩(エクスギア)
 戦士をただちに戦場へと送り出す高機動棺型出撃装置です。
 ギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
 棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。

・移動要塞ギアバジリカ
 クラースナヤ・ズヴェズダーによって発見、改造された古代の要塞です。
 巨大な聖堂が無数に組み合わさった外見をしており、折りたたまれた複数の脚を使った移動を可能としています。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <フルメタルバトルロア>日華に隠れ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年09月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フラッシュドスコイ(p3x000371)
よく弾む!
梨尾(p3x000561)
不転の境界
ザミエラ(p3x000787)
おそろいねこちゃん
シラス(p3x004421)
竜空
吹雪(p3x004727)
氷神
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス
ジュリエット(p3x008823)
天体観測者

リプレイ


 R.O.Oと云えどもその景色は大きく変化しているわけではないのだろうか。ヒース荒地を見下ろしてから『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)は頬に手を当て溜息を吐いた。
(■■■と出会っちゃうなんて。ひょっとしたらどこかで、なんて考えたことは会ったけど……)
 肩を竦めるザミエラに、彼女を迎え入れたシスタージュリエットは「どうかなさいましたか?」と穏やかな声音で問いかける。
 ううん、と首を振ったザミエラは「大丈夫よ。心配ありがとう」と声音を弾ませた。ハイエスタの村ヘルムスデリーの程近い場所に存在しているイーリス教会は、妖精騎士のシスタージュリエットによって運営されているらしい。穏やかに微笑み、妖精と共に戦場へと駆け出る準備を整えていたシスターの後姿を眺めて『天体観測者』ジュリエット(p3x008823)は不思議そうに瞬いた。
(このゲーム世界での、私……。何やらとても勇ましく凛とされて居て、やはり私とは姿は似て居ても違うのだと実感致しますね)
 そう、彼女にとっての『ゲーム世界でのNPCである自分』がシスターなのだ。ともなれば、その存在が気になってしまうというもの。
 そればかりに気を取られていてはビッツからもたらされたクエストにも響くと頭を振って頑張ろうとやる気を溢れさせて。
「皇帝亡き今、近衛軍人達は誰の指示で動いているんだろう……ビッツ様を拘束して得をするヒト……ムムム……分からない……」
 うーんと頭を悩ませる『はやい!』フラッシュドスコイ(p3x000371)もそれは同じだった。わざわざ帝都を離れ、辺境ともいえるヴィーザルにまで旅行に訪れたのだというビッツ・ビネガー。本来ならば帝都で『大人しく』している筈の彼は自身の扱いに苦しみ此処に訪れたのだという。
「今は首都も大変なことになっているでしょうに、こんな所まで来るだなんて」
 そうぼやいた『氷神』吹雪(p3x004727)へと、膝にエクスマリアを乗せていたビッツが「そうなのよね、アイツらったら」と唇を尖らせる。シスターの準備したクッキーをエクスマリアの口に運んでやっている最中なのだろう。現実と違い、膝の上にちょこんと座ったエクスマリアは「まーだ?」とねだるような声音で大きな口を開いている。
「いいえ。私だってうんざりしてるのよ? 落ち着いてくれないとゆっくりパルスちゃんの試合を観に行くことも出来ないんですもの。
 ……こんな所まで来る暇があるのなら早くなんとかして欲しいのだけれど」
 その言葉は近衛隊に対して向けられていた。近衛隊だというならばこの『イベント』をさっさと終わらせてやって欲しい。だが、それ程の立場が――フラッシュドスコイが気にした通り『皇帝の指示で動くはず』の物がビッツを追いかけまわしている。
「ビッツさんを犯人だと思っていて敵討ちにではなく、捕まえに来るという事はその先に目的があると思うのだけれど……色々と気にはなるけれど、今はしっかり守り通さなくてはいけないわね」
 そう呟いた吹雪の背中をビッツはまじまじと眺めていた。その先――それが何であるかを『竜空』シラス(p3x004421)は知らない。彼にとってのビッツ・ビネガーは目標だ。故に、普段の竜を模したアバターではなく普段通りの自分の姿で彼の前にやって来た。
「可愛い子犬ちゃんじゃない。ふふ、アナタたちが守ってくれるなんて光栄だわ」
「行ってろ」
 ふい、と視線を逸らす。彼はR.O.Oの世界でだって変わらない。それが、第一印象だ。だが、真相は分からない。どうしてここまで近衛隊が追いかけて来るのか。どうしてビッツはこんな所に逃げて来たのか。真相を探る為には、クエストを熟さなくてはならない事は確かなのだから。


「二人で旅行って羨ましいですね。自分も今は会えないお父さんと見知らぬ場所を散歩とか憧れちゃいます!」
『ただの』梨尾(p3x000561)は瞳をきらりと輝かせた。エクスマリアは「良いでしょー?」と自慢げである。彼女の両親はラド・バウで日々しのぎを削っているだろうが、ビッツともなればこうしてエクスマリアと旅行を行うのも日常的なものらしい。
「こんにちはお嬢さん。私はザミエラ。あなたのお名前は?」
「え? エクスマリア。マリアって呼んでね」
 甘えたように蒼い瞳が見上げてくる。金の髪は手入れが良く行き届いており、ビッツが愛らしく結い上げていることが分かる。
 小さな少女にザミエラは瞬いた。予想していたよりも幾分も幼いエクスマリア――守るべき『クエストの保護対象』であると言う認識以上に、何処か不思議な感覚が身を過る。
「ふぅん、エクスマリア。スペルは……Exmaria、ね。わたしはこう、Xamiera、よ」
「わあ、似てる。凄いね?」
「ふふ……ねぇ、エクスマリア。あなたは今、幸せ?」
 きょとんとしたエクスマリアは「うん」と微笑んだ。ビッツとの旅行は楽しい。シスタージュリエットだって『お友達』なのだ。そして、こうして話しかけてくれたザミエラだって――彼女の中では『お友達』である。
 そんなエクスマリアを見つめてから『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)は言ってくるねと微笑んだ。
「疑わしいからって容疑者候補にされてしつこく付き纏われたら、ビッツさんじゃなくても誰だって嫌になっちゃうよね。私だってそんな状況なら面倒になって離れたくなっちゃうもん!」
「そうよそうよ!」
 ラド・バウの歓声の様に声を上げるビッツにネイコは小さく笑う。彼はこの世界の方が幾分か気安いのだ。
「それで首都から離れたのにヴィーザルまで追っかけてくるって、本当に軍人さん達はしつこいって言うか……。
 ビッツさんも口にしないだけで何か理由があるのかもしれないけど、話を聞くのは先ずは『お願い』に応えてからだよねっ!」
 ネイコが気配を探る。梨尾が保護をイーリス教会へと施し、耳を欹てた。ぴん、と立った獣の耳が音を捉える。
「楽しいのに、幸せなのに。それを台無しにする。だから邪魔者さん達はめっ! です!」
 ネイコは「来たよ」と囁いた。ジュリエットは構え「ジュリエットさん、お願いします」とビッツの護衛を願う。彼女の言葉にシスターは「同じ名前ですのに」と可笑しそうにころころと笑った。
「ええ、お任せあれ――」
 レイピアを引き抜いたシスタージュリエットを一瞥してから『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)は地を蹴った。眼前には礼拝堂へと入り込みビッツの捕縛を行わんとする近衛隊の男たちの姿が見える。成程、エクスマリアが居るならばビッツには不利になると考えてやってきたのか。彼らは隙だらけだ。
「俺は『待て』の出来ない狗が嫌いです。恥ずかしいとは思わないのですか?
 神を奉る宮を荒らして捕物などと……貴方がたが愛した皇帝陛下の名に泥を塗る行為だと、痛みをもって知りなさい!」
 一寸の間に、ツルギは『閃光乙女』に雷を乗せた。シラスが続く。敵の手の内分からないが連携がとれているというならば定石通りに動けばいい。
 シラスにこくんと頷いて、梨尾は兵士を惹きつけた。三人での分担。それにより、兵士の役割を見極めるが為に。
「何者だお前達は――!」
「応える義理もないだろ。ビッツはやってねえってよ、さっさと帰りな」
 シラスが冷めた声音でそう告げれば、吹雪は「お帰りはあちらよ」と凍てつく霊気をその身にまとった。氷雪の神の力を開放し、一面の銀世界が吹き荒れる。
「綺麗」と後ろで手を叩いたエクスマリアと一瞥してからホイッスルを鳴らすかの如く兵士に向かってびしりと指さしたネイコは叫ぶ。
「これ以上の迷惑な追っかけ行為は禁止させてもらいまーす! ……何てね!」
 教会を傷つけないように。その意識をしっかりと。妖刀を手にしたネイコはツルギが惹きつける兵士の軍へと踏み込んだ。敵集団を翻弄するべく桃色のエフェクトが舞い踊る。魔法少女らしからぬ災厄の一撃が近衛隊の男の子よ面へと叩きつけられた。
「……皆さん、シラスさんが惹きつける方の中にヒーラーが居ます」
 そう囁いたジュリエットは仲間を巻き込まぬ様にと術を放つ。夜明けの書に書かれた文言を口遊み、前線を翻弄し続ける。妖精たちの声を聞き、構えたままのシスターも「ええ、あの方がヒーラーですね」と頷いた。
 ネイコが前線へと飛び出した。叩き付けた一撃に続くのはツルギによる徹底的な攻勢。
「貴方がたは捕らえるつもりでも、俺は倒すつもりで刃を振ります。
 半端な覚悟で殴り合うのは非礼であると、ザーバさんと拳を交えた俺にはそう思えるのです」
 ここでイレギュラーズを退けさせれば良い。そしてソレを見たならばビッツとて易々と投降するだろう――そんな生半可な態度で倒されて堪るものか。ツルギは自身を盾として攻撃を重ね続ける。
「こんな争い無意味ですよ……皇帝の近衛隊がしっかりと警備していたなら元皇帝さんが暗殺されるわけありません!
 だから事故死です! 皇帝の近衛隊さんがしっかりと完璧に元皇帝を守ってるはずなんですから!」
 ふんすと拗ねた梨尾もその幼い体に多量の攻撃を浴びせられようとも懸命に耐え続けた。
 彼が耐えるならば自身が攻める。フラッシュドスコイは『おりゃりゃー!』と叫んだ。
「このままいくらやってもビッツ様には指一本触れさせないぞ! 退け退けー! ビリビリになれー!」
 自身も少し痛くても。容赦するわけがない。シャークバズーカが「さめー!」と飛び込んでいく。それに続き、反動を受けようともフラッシュドスコイは止らなかった。
「お前等は『真実』を知らないだろう!?」
 近衛隊がそう叫んだ。「知りません!!」とはっきりとフラッシュドスコイは返す。梨尾も「知りたいけれど、こんなのなしです!」と叱るような声音でそう言った。
「ああ、そうだ。真実を知ったらお前達はあんな闘士庇う事は――」
 シラスの拳が兵士の横面へと飛び込んだ。「わあ」と笑ったネイコに続き「お見事」とツルギが称賛を送る。
 真実が何かも知らない。皇帝暗殺の嫌疑は『誰にも掛けられている』 
 それが鋼鉄の動乱では無かったか。さも、彼等は真実を知っているかのように言うのならば。気に入らない。
 彼等の言う真実などビッツ・ビネガー当人から聞き出せば良いのだから。
「もう諦めて帰れよ、俺らの相手した後で更にビッツに勝てると思ってんのか?」
 シラスは冷め切ったようにそう言った。
「そんなことを言われて諦めると――」
「ねえ軍人さん。この辺りで手打ちにしない? これ以上やりあっても……『Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人』が無傷で残ってるわけだけど」
 ザミエラは首を傾ぐ。背後でビッツがゆっくりと立ち上がった。その細身からは想像も出来ない『強さ』を有することくらい、彼等も知っている筈だ。
「そうよね、幾らバカンス中だって、そのコ達に見せてって言われたら……」
 ハッタリだろうか。彼に戦うつもりはない。シラスとザミエラの言葉に敢て乗ったのだろう。
「これでも、まだやるつもりかしら? こちらとしては構わないのだけれど。
 ……もし私達を倒せたとしてもその人数でビッツさんを拘束出来ると思っているの? それに倒れている人達も早く手当てをしてあげた方がいいのではなくて? 退いてくれるのなら私たちは手出しはしないわよ」
 吹雪の声に、呻いた兵士達は後退して行く。転がっている兵士を放置して幾人かが逃げ出した。置いてけぼりとなった兵士達を一瞥してからツルギは「拘束しておきましょうか」と囁いた。、


「終わったー! ビッツ様、マリア様! ボク達の戦うところ、見ててくれましたか!」
 人懐っこく飛び付いてくるフラッシュドスコイにエクスマリアは「格好良かったよー」と眸を煌めかせた。うれしそうに微笑む彼女はビッツの膝から降りてフラッシュドスコイの手をぶんぶんと振り回している。
「ふふ。良かった! ……ビッツ様、このあと首都に戻っても平気ですか? まだ護衛が必要でしたら、ボクは喜んで引き受けますよっ!」
 その言葉にビッツはううんと唸った。梨尾は鎮まらぬ動乱を不安視するように「その」と声を掛ける。
「ビッツさん。もしも鋼鉄に帰らないけどここから離れる時があればギアバジリカに来ません? ゼシュテリオンです。
 イレギュラーズは顔のいい人が揃ってますし、自分の事を撫でたりモフモフしてもいいんですよー!」
「でもね、それってヴェルスの軍閥でしょう? アナタ達に頼ったのはアタシだけど、アイツには関わりたくないの」
 ごめんなさいねとビッツは微笑んだ。毒気の抜けたかのような彼は梨尾を撫でて困ったように微笑む。
 茶を準備するシスターを一瞥してから、シラスはじろじろとビッツを眺めた。彼は、思った以上に『何もない』
 本来ならばこの場で彼に挑んでみたい。現実で叶わなかったのならば、R.O.Oでならば何か変化があるのではないかと思えたからだ。――だが、それをネクストでこなす、となるのは複雑な心地のまま。
「如何したの?」
「……何でもねえ、ただのアンタのファンだよ」
 あら、と微笑んだビッツは「可愛い子犬ちゃんのファンなんてうれしいじゃない」と揶揄うように目を細める。
 吹雪は彼の様子を困ったように眺めて居た。ツルギは軍人達の残留思念を読み取れないかと倒れ伏せた近衛隊兵士を捕縛する振りをして触れる。

 ――――――――
 ――――

 何よ、あれ。

 それはビッツの声だろう。耳馴染の良い、掠れたハスキーな声音だ。今、この場で楽しげに話している物と同じだ。

 どうしてアタシが居るの? ……『父上』? アンタたち、何よ。ちょっと、やめなさい!

 ―――――――――
 ――――「ツルギさん?」
 吹雪の呼び掛けにツルギは顔を上げた。先程の思念は何か。シラスがクエストに警戒する様に、ツルギはビッツをまじまじと見遣った。
 彼はラド・バウの二つ名など我関さぬ表情で微笑んで居るだけだ。聞き出さねばならないか。事の真相を。
「ビッツさんはお強いのにどうして此処まで?」
「このコが危険な目に合うのはウンザリなのよ」
 微笑んだビッツの美しいかんばせを眺めて、ジュリエットはネイコを一瞥した。ネイコは頷く。屹度、ビッツは何かを隠しているのだ。
「――追われて居るのは何かを見た、もしくは知っているから……では無いのですか?
 でなければ『鋼鉄の軍人』を追っ手にされるなんて仰々し過ぎな気がいたします。どうか追われている理由を教えては頂けませんか?」
「その顔(ひょうじょう)、本当にシスターそっくりね。名前が同じだと、性格まで似るのかしら?」
 そんな風に揶揄い笑ったビッツにジュリエットは驚いた様に目を丸くした。凜とした佇まいの妖精騎士と自信が似ているなどと想像もしていなかったからだ。
「……私も聞いても?」
 件のシスタージュリエットが、本来のジュリエットと、そしてネイコが真意を問いただしたいのだと気付き同調した。この場所に匿われる立場であるビッツもシスターの一声には弱い。心配そうに寄り添うエクスマリアの背を撫でてからビッツはのろのろと唇を震わせた。
「馬鹿にしないで聞いて頂戴。いえ、馬鹿げてるのはワカるわ? アタシだって、気は狂ってないもの」
「バカにしないよ」
 梨尾は頷いた。ビッツは「アタシね」と震える声音を絞り出す。
「アタシね、見たのよ。『アタシ』を」
「―――は?」
 どういう意味だとツルギは彼を眺めた。嘘を言っている風ではない。自分自身を見たというのは鏡覗き込んだと言うわけでもないのだろう。
「アタシは犯人を知ってるわ。皇帝殺し。ええ、鋼鉄最強だった『元皇帝』ブランドが殺された場面を見たのよ。
 犯人は『アタシ』だった。アタシは『アタシ』を見たのよ。ブランドを殺してる『アタシ』をね。……変なこと言ってるなんて、思わないで頂戴」
「……ちょっとは思った。だけど、此処でアンタが嘘を吐く理由はないだろ?」
 シラスは堂々と言った。ビッツはやっていない、と。その言葉は嘘でも偽りでもない。彼が欲しかった言葉だったのだろう。
 R.O.O(いせかい)にまで訪れても、彼は何時までも頂きで卑劣なる笑みを浮かべる門番であった筈だった。その彼が幼い少女を護る為に『何か』から逃げているのだという。
「アタシは『アタシ』から逃げたわ。マリアの事だって巻き込むかも知れない。だから、ここに来たのよ」
 追っ手が早かったのは想定と違ったとぼやいたビッツに「おじさん」と涙を滲ませたエクスマリアが擦り寄った。付き人夫婦の子。大層可愛がって居ると噂にもなるほどの子供。そんなエクスマリアがビッツにとっての弱点であれば――?
「……ビッツさんもマリアさんも危険が迫れば護りますよ!」
 安心して下さいとエクスマリアを安心させるようにフラッシュドスコイはそう言った。これ以上、此処で出来る事はないだろう。
 得た『もう一人のビッツ』――それが何かを調べなくてはなるまい。
「それじゃあね、エクスマリア。なにか困りごとがあったらいつでも呼んで」
 ザミエラは行きましょうと一向に呼び掛けた。それが鋼鉄を取り巻くR.O.O 2.0イベント『鋼鉄内乱フルメタル・バトルロア』の核心に迫る情報なのだから――

成否

成功

MVP

シラス(p3x004421)
竜空

状態異常

フラッシュドスコイ(p3x000371)[死亡]
よく弾む!
梨尾(p3x000561)[死亡]
不転の境界

あとがき

 ご参加有難う御座いました。
 オカマとして親しまれていますが彼も実力者。果たしてその真実とは……?

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