PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ここが噂のアドラスティア。或いは、共闘のサンディ・カルタ…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ここが噂のアドラスティア
 スラム街に破壊の音が鳴り響く。
 悲鳴と怒号が曇った空に木霊して、突如それはブツリと途切れた。
 ぐちゃり、と。
 粘ついた音を鳴らし、建物の影から現れたのは一言でいえば“光の塊”であった。
 直視が難しいほどに、そいつの体は眩い光を放っているのだ。
 大きさや、姿形こそ人のそれと大差はない。
 ただ、その体の造りが人のそれと同じかどうかは分からない。
 何しろそれは、光っているから。
「あれは……まさか」
「ラプチャー……ちっ、どこのどいつだ、あんなものをスラム街に逃がした奴は」
 光の塊、聖獣“ラプチャー”は血塗れの肉塊を引き摺りながら、空へ向けて両手を掲げる。
 その姿はまるで、祈りを捧げる信者のようにも見えて……。
 アドラスティアの聖銃士、ウェスティ・カルートとサタディ・ガスタはその正体が、自分たちの同僚であったことを知る。

 眩い光を浴びながら、サタディは手にした魔導銃の引き金を引く。
 しかし、指に力を込めた瞬間、彼の頬は引き攣った。
「な、なんだこりゃ! 痺れて……」
 直後、閃光の軌跡を描き眼前に迫ったラプチャーが、サタディの側頭部を殴打する。
 割れた額から血を零し、サタディの体が地面を跳ねた。
「う、ぉ」」
「あの光よ、サタディ。【痺れ】や【苦鳴】【停滞】を与える効果があるみたい」
「怪力だけじゃないのかよ。だが、光の外から攻撃すれば何とでもなる」
 そう言ってサタディは踵を返す。
 その後に続くウェスティと2人、目指したのはスラムを囲む外壁の上だ。
 ラプチャーはとりわけ巨体というわけでもなく、飛行能力を有するわけでもない。
 高い位置から、銃撃を加え続けようというのだろう。
 だが、しかし……。
「おい、もう1体だと……」
「なに、これ……」
 そこにいたのは、口の集合体かのような異形の怪物。
 実際のところ、聖獣に異形は珍しくないのだが、それにしたって醜悪だ。
 形としては翅の生えた巨大な芋虫に近いか。
 しかし、その頭部には数十を超える人の口が付いている。
 それらは口々に悲鳴を上げ、助けを請うて、血を吐きだすのだ。
 吐き出された血や吐瀉物で、怪物の頭は真っ赤に濡れていた。
『や、やめ、喰わないで』
『脚ぃ! 俺の脚がぁぁ!!』
『痛い、イタイ……』
 それは、怪物に食われた誰かの悲鳴だろうか。
「くっ」
 怪物がこちらを振り向いた瞬間、サタディは魔導銃の引き金を引いた。
 放たれるは【感電】を付与する魔弾だ。
 宙を疾駆したそれが、芋虫の頭部に命中する。
 だが、芋虫がその動きを止めることは無かった。
「不発か?」
「違うわ、サタディ! 貴方、その手……」
「あ? 手? って、おい……何だこりゃ」
 見れば、サタディの手の甲には“人の口”らしき傷が出来ていた。
 掠れた声で呻くそれが、サタディの魔力を吸い取り、技を不発に終わらせたのだ。
「【封印】と【魔凶】……かしら? まずいわ、サタディ。私たち2人だけじゃ……」
「そう言う任務だ。やるしかねぇだろ……上の連中は、スラムの住人の安否なんて知ったこっちゃねぇんだからよ」
 俺たちがやらなきゃ、スラムが壊滅してしまう。
「覚悟を決めるぞ」
 そう呟いたサタディは、魔導銃の銃口を向けた。

●高所の監視者、サンディ・カルタ
 サンディが、瓦礫に埋もれた2人の姿を発見したのは偶然だった。
「こいつら、確かアドラスティアの聖銃士だとかって言う」
 周囲の様子を警戒しながら、サンディは2人の元へと向かった。
 どうやら2人とも息がある。
 治療が間に合えば、数日ほどで動けるようになるだろうか。
 だが、このまま放置しておけば一日をおかずに絶命することは確実か。
「仲間ってわけじゃないんだが……っても、見殺しにするのは寝覚めが悪い」
 どうしたものか、とサンディは悩む。
 瓦礫の山と化したスラムの一角には、激しい戦闘の痕跡が残っていた。
 幾つもの銃痕や、血の痕跡。
 強い力で打ち砕かれた家屋の壁に、何かに齧り取られた肉片。
 聖銃士の2人がこれを成したわけではないだろう。
 2人は何かと戦っていたのだ。
 その何かは倒せたのか?
 それとも、どこかに逃げたのか?
「情報を得るには2人の話を聞く必要があるよな、うん」
 なんて、自分を納得させてサンディは2人を近くの家屋へ引き摺って行く。

「敵は2体の聖獣だ。光ってる方が“ラプチャー”で、口だらけの芋虫は“アポカリプス・サウンド”」
「ラプチャーは攻撃力に優れ、アポカリプス・サウンドは防御力に長けているようだったわ」
 薄暗い部屋の片隅。
 地面に横たわった姿勢で、サタディとウェスティはスラムで起きた騒動についてを物語る。
「スラムの住人は、今は逃げてるかな……でも、他に行く宛ての無い人たちだから、いずれ戻って来ると思う」
「たぶん、聖獣どもが地下から上がって来るのと同じころにな」
 曰く、サタディとウェスティは聖獣を倒しきれたわけではないらしい。
 スラムに数ヶ所ある大穴に、2体を追い込み、瓦礫で生き埋めにしただけである。
 いかに聖獣とはいえ、瓦礫を押しのけ地上に這い出てくるまでには、暫く時間がかかるだろう。
 持って数日。
 それがサタディの見立てであった。
「スラムに逃げ込んだのはアドラスティアのマザーだった女だ。名前は知らないが、どうやら聖獣の情報を得るのが目的で潜り込んでただけらしいな」
「今は自分が聖獣になっちゃってるけどね。ほら、そこに埋まってる、眩しい方がそうよ」
 2体の聖獣のうち“ラプチャー”。
 サンディたちが隠れ家として利用しているボロ小屋の、すぐ外に埋められているのがそれだ。
 もう1体の巨大芋虫“アポカリプス・サウンド”は、現在地から200メートルほど離れた外壁の麓に埋められているそうだ。
「さぁ、話せることは話したぜ?」
「これ以上、話すことはないし……殺すなり、捕まえるなり好きにすればいいよ」
 諦めたように、2人は深いため息を零す。
 それに対し、目を丸くしたサンディは問う。
「え、何で? やべぇ奴らが相手なんだろ? だったら協力して倒せばいいじゃん? 幸い、俺の仲間も近くにいるんだ」

GMコメント

※こちらのシナリオはリクエストシナリオとなります。

●ミッション
聖獣“ラプチャー”および聖獣“アポカリプス・サウンド”の討伐

●ターゲット
・ラプチャー×
聖獣。
人と同程度の大きさと形をしているが、全身が発光している。
非常に眩しく、肉眼での直視は危険。
動きが速く、力が強い。
通常攻撃の威力が非常に高い。
元はアドラスティアのマザーであったらしい。

聖なる光:神遠範に中ダメージ、痺れ、苦鳴、停滞
 全身から放つ眩しい光。


・アポカリプス・サウンド×1
聖獣。
巨大な芋虫の姿をしている。
その頭部には、数十から百ほどの人の口がめちゃくちゃに付いており、口々に悲鳴や助けの言葉を吐き出している。
動きは鈍重だが、身体は頑丈。

終末の音:神中範に中ダメージ、封印、魔凶



●仲間?
・ウェスティ・カルート
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/33362
アドラスティアに所属する聖銃士の女性。
直接の戦闘よりも、魔導銃による体力、BSの回復を得意としている。
※スラムの惨状に胸を痛めているようだ。


・サタディ・ガスタ
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/33361
アドラスティアに所属する聖銃士の青年。
穏やかな気性のウェスティに比べ、荒っぽい性格をしていることが分かる。
魔導銃による威力の高い魔弾の発射を得意とする。
サタディの操る魔弾には【感電】や【業炎】【氷結】の状態異常が付与されている。



●フィールド
アドラスティアの外れ。
スラム街の隅の方。
近隣の住人たちは逃亡しているが、いずれ戻って来るらしい。
家屋の大半は、ウェスティ&サタディと聖獣たちとの戦いに巻き込まれ、瓦礫の山と化している。
そのため足場は非常に悪く、ある程度身長があると身を隠すことも難しい。
現在、サンディたちが潜伏している地点のすぐそばには“ラプチャー”が。
そこから200メートルほど離れた外壁の傍には“アポカリプス・サウンド”が埋められている。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • ここが噂のアドラスティア。或いは、共闘のサンディ・カルタ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年08月19日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
※参加確定済み※
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
三國・誠司(p3p008563)
一般人

リプレイ

●暴走する聖獣
 血と黴と、それから垢と生ゴミの臭い。
 すん、と鼻を小さく鳴らしてマルク・シリング(p3p001309)は視線を下へと差し向ける。半壊した家屋の内部、壁に背を預け座っている2人の聖銃士たちは、マルクの視線を受けながら、どこか不満げな顔をしている。
「聖獣が聖銃士の前で暴走、かつ聖銃士と共闘とは、ね」
 囁くようなマルクの声に、聖銃士の片割れ……サタディは小さな舌打ちを零し、手にした肉へ喰らい付く。
 そんなサタディを咎めるように、三角帽子を被った女性……ウェスティが彼の袖を引く。
「返事は無しか。まぁいいや、奪うよりも拾えるものがあるならそこから手を付けなきゃ」
 ガチャガチャと『一般人』三國・誠司(p3p008563)の手元からは金属の擦れる音がしていた。戦闘を前にして、愛用の大砲を点検しているのだろう。
 しかし、誠司とて聖銃士相手に本心から気を許したわけではないらしい。大砲を点検しながらも、しっかりと横目で2人の動向を監視している。

「やっぱ、いきなり手を取り合ってってわけにはいかねぇか」
 困ったように頭を掻いて『横紙破り』サンディ・カルタ(p3p000438)はそう言った。
 イレギュラーズにとって、アドラスティアという都市やそこに所属する聖銃士たちは敵である。アドラスティアという国の在り方そのものを、受け入れられない者も多い。
 暴走した聖獣という共通の敵がいる状況でさえ、仲良く手を取り合って、というわけにはいかないのだ。
 敵の敵は味方、とは言うものの、実践するのはなかなかに難しい。
「成り行きで共闘するのも、複雑な部分が無いとは言えない」
サンディの言葉に応えを返すは『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)。
 彼もまた聖銃士に対して思うところが無いわけではないのだろう。
 しかし、聖銃士の全てが悪人である、とまでは考えていないようだった。
 否、この場に集ったイレギュラーズの多くは、きっとそう考えているはずだ。けれど、アドラスティアとは敵対しているということもまた事実。
 信用も信頼も出来ないが、互いに利用し合うぐらいは出来るだろうか。
「まぁ、だろうな。確かにここで捕まえるなり殺すなりする手もあるんだろうが……それでスラムのガキどもまで死んでちゃ世話ねーしさ」
 苦笑を浮かべサンディは答えた。
「分かってるよ。それに、僕にとっては願ってもない事だとも思う聖銃士は確かに敵だけど…出来る限り助けたくはあっても、殺したい相手ではないから」
 そう言い残しシャルティエは家屋の外へ向かった。
 進路の先には『善性のタンドレス』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の姿。
 地面に埋まった聖獣を、シャベルで掘り起こしているのだ。

 ざっ、ざっと小気味の良い音が響く。
 シャルティエとココロが地面を掘っているのだ。
 直後、ずしんと地面が揺れた。どうやら、土や瓦礫の下に埋もれている聖獣……ラプチャーが活動を再開したのだろう。
 ラプチャーが地上に出てくるまで、あと十数分から数十分といったところか。
「それじゃあ、僕はアポカリプス・サウンドの方に行きますね……今回も僕が敵をひきつければいいんですよね?」
「えぇ、お願いします」
 付近に埋もれたもう1体の聖獣のもとへ『甘姿不屈』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が移動する。
 そんな彼を見送って、ココロは再び土を掘り返す作業に戻った。
 ウェスティとサタディの治療を終えてから、彼女はずっとこの調子であった。聖銃士に対し、思うところがあるのだろう。
「まぁ、大丈夫でしょう」
 数瞬、ベークはココロの様子を伺って、零すようにそう呟いた。
 
●ラプチャーとアポカリプス・サウンド
 光に背を向け荒れたスラムを1人進む。
 怒号と銃声、剣戟の響き。
 仲間たちがラプチャーと交戦を開始したころか。
 イレギュラーズが5人に、聖銃士が2人。
 聖獣1体を相手取るには十分な戦力だ。
 けれど、そこにもう1体の聖獣が加わればどうだろう。
「来ましたね。非常に遺憾ですが、虫系の敵には結構効きますからね、僕の匂い」
 足を止めたベークの前に、無数の口を持つ巨大な芋虫が現れた。その聖獣は、頭部に並ぶ口から悲鳴や嗚咽、怨嗟の声を喚き続ける。
「さて、貴方の相手は僕です」
 腕を掲げ、ベークは告げる。
 その肌に刻まれた魔術式が、ぼうと淡い光を灯す。
 直後、アポカリプス・サウンドは跳んだ。芋虫の巨体では、大した飛距離は稼げない。身体は頑丈なようだが、その動きは鈍重だ。回避しようと思えばそれも可能だろう。
 けれど、しかし……。
「まぁ……持久戦は僕の得意分野ですからね」
 瞬間、たい焼きへと姿を変えたベークは、アポカリプス・サウンドの突進を受け止める。
 弾かれ、地面を転がるベーク。
 その身にふわりと淡い燐光が降り注ぎ、その身に負った傷を癒した。
 
 地面が揺れて、土砂が飛び散る。
 誠司の放った砲弾は、黒きオーラを撒き散らしながら輝くラプチャーへと迫る。
「最大火力だ。脚を吹き飛ばす」
 ドガン、と。
 砲弾は見事、ラプチャーへ命中し、その体を瓦礫の山へと弾き飛ばした。
「着弾。次だ」
 不意打ち気味の1撃は、見事ラプチャーを撃ち抜いた。しかし聖獣がその程度で活動を停止するとは到底思えない。
 素早く次弾を装填し、誠司は砲のトリガーを握る。
 再度、地面が揺れて轟音が響いた。
 けれど、ラプチャーは地面を這うように疾駆し、砲弾を回避。
 素早く誠司との距離を詰める。
「っ……眩し」
 太陽を直視したかのような激しい光に、誠司は思わず眉をしかめた。
 直後、誠司の胸部に衝撃が走る。
 ラプチャーの拳が、誠司の胸を殴打したのだ。
 血を吐き、地面に転がる誠司。その頭部へ向け、ラプチャーは脚を振り下ろす。
「おい、モタモタしてんな!」
 怒声をあげて、魔弾を放ったサタディがラプチャーへ向け駆け寄っていく。
 ラプチャーの意識がサタディへ向いた隙を突き、ウェスティは誠司の身体を後方へと引き摺って行く。
「よし、サタディ! そのまま攻撃を続けろ! 集中攻撃でさっさと聖獣を倒して、この厄介な状況を終わらせるぜ!」
 1本の矢を弓に番えたサンディは、弦をキリリと引き絞る。
 ごう、と魔力が渦巻いてサンディの矢は夜より黒き闇を纏った。
「命令してんじゃねぇぞ!」
 サタディの弾幕が。
 サンディの放つ黒き矢が。
 一斉にラプチャーへ降り注ぐ。
「あぁ、今はとにかく、あの聖獣を!」
 弾丸と矢の雨に紛れて、シャルティエはラプチャーへと肉薄。
 がむしゃらに振り回されるラプチャーの拳を盾で弾くと、機械仕掛けの剣を振るってその胸部を斬り裂いた。
 ミシ、と骨の軋む音。
 ラプチャーの拳を受け止めた、シャルティエの腕が悲鳴をあげる。
 それほどまでに、ラプチャーの拳は重かった。
「っ……なんだ、これ?」
 閃光に紛れ飛び散った何かが、シャルティエの頬を黒く濡らした。
 それはどうやら、ラプチャーの血であるらしい。
 タールのように黒く濁った、腐りきった血液だ。
「防御しろ、シャルティエさん!」
 直後、マルクの怒声が響いた。
 けれど、僅かに間に合わない。
 視界が白く染まるほどの閃光が、辺りを包み込んだのだ。

 白い閃光を間近で浴びて、シャルティエが地面に蹲る。
 閃光に焼かれた腕や顔には火傷の痕が残った。身体が痺れているのか、その動作はぎこちない。
 接近戦を得意としているラプチャーにとって、今のシャルティエは絶好の的だ。けれど、ラプチャーがシャルティエを襲うことはなかった。
 見れば、ラプチャーの片腕が肘の辺りから失われているのだ。
「っ……ギリギリ間に合ったけど」
 そう呟いたマルクの右腕は、ひどく焼け爛れている。
 しかし、その手に握った杖を離すことはない。
 彼の放った閃光がラプチャーの腕を撃ち落としたのだ。しかし、代償としてマルクも少なくないダメージを負っている。
 また、一時的にだが視力にも問題が出ているようだ。マルクは定まらない視線を、急ぎ周囲に巡らせる。
「誰か、回復が必要なもの……がっ⁉」
 声をあげたマルクの頭部を、ラプチャーの手刀を打ち抜いた。
 一瞬、意識が途切れた瞬間、マルクの腹部にラプチャーの膝が突き刺さる。

 振り抜かれたラプチャーの膝に、直後、矢が突き刺さる。
 サンディは、瓦礫の山から山へと移動を続けているようだ。
 時に瓦礫の山に隠れ、或いは家屋の屋根に飛び乗り、構えた弓に次々と矢を送り込む。ラプチャーが反撃する隙を、与えないための行動だ。
 サンディだけではない。
 ウェスティの治療を受け、戦線に復帰したサタディも稲妻の魔弾を撃ち込んだ。
 バチ、と空気の爆ぜる音が響いて、ラプチャーの身体が仰け反った。
「順次、治療を! それで簡単にじり貧にはならないはずだ!」
 ラプチャーが怯んだその隙に、マルクは自身へ回復術を行使する。
 その鼻腔を擽るのは、肉の焦げた嫌な臭いだ。
 眩く輝いてはいるが、ラプチャーの身体は生身の人間と大差ないのだろう。その証拠に、マルクの撃ち落としたラプチャーの腕は、既に光を放っていない。
 どす黒く変色した、細い女の腕だった。
 腐敗が進んでいるらしく、皮膚の一部は失われ、血に濡れた骨と化している。
 数瞬、マルクはそれを凝視した。
「聖獣について探っていた元マザー……だったか」
 哀れなことだな、とそう呟いて、彼は再び立ち上がる。

 飛び散った瓦礫が、ココロの頭部にぶつかった。
 金の髪に血が滲む。
 しかし、ココロは流れる血を拭うことなく、ただひたすらに回復術を行使した。
「決して振り向かず、後ろを向いたままですよ! いいですね!」
 地面に広がる魔法陣。
 ふわり、と渦巻く燐光が仲間たちの傷を癒す。
 仲間の治療を行いながらも、ココロは隣に立つウェスティへ指示を下した。
「分かってるよ。分かってるけど、貴女みたいに広範囲はカバーできないんだってば!」
 そう反論を口にしながら、ウェスティもまた視界の隅のサタディへ向け治癒の魔弾を撃ち込んでいく。
 戦線を維持すること。
 それが彼女たちに役割だ。
 例え背後にラプチャーの気配が迫ろうと、誠司の放った砲弾の余波で髪が激しく嬲られようと、決して治療の手は止めない。
 しかし、一瞬、ココロの手が停止した。
 その頬を、一筋の汗が伝う。
「っ……アポカリプス・サウンドも近づいてきていますね」
 イレギュラーズが自由に使える時間は、思ったよりも少ないのかもしれない。
 
 誠司の放った砲弾が、着弾と共にはじけ飛ぶ。
 ばら撒かれたのはトリモチだ。
「おぉぉおおお!!」
 怒号とともにサタディの放つ弾丸が、ラプチャーの体に降り注ぐ。
 足をトリモチに拘束され、片腕を失ったラプチャーは、前進も後退も出来ないでいる。弾丸を払うべく薙がれた腕は、シャルティエの盾が受け止めた。
「っ⁉」
 衝撃に弾かれシャルティエが地面に転がるが……。
「そんだけ喰らえば、呪王の【呪い】も真価を発揮してるだろ」
 弦の震える音が鳴る。
 放たれた矢が空気を切り裂き、疾駆した。
 タン、と。
 予想外に軽い音。
 ラプチャーの額へサンディの矢が突き刺さり、それっきりラプチャーは光を失い地に伏した。

 打たれ、潰され、弾かれた。
 皮膚は削れ、骨は軋み、内臓は大きな傷を負う。
 その度に彼は立ち上がる。
「僕の役目は耐えるだけなのでまぁ何とかなるでしょう」
 一見すれば、それは巨大なたい焼きだ。
 一時、人の姿に戻ったベークは、額を伝う血を拭い、熱い息を吐き出した。
 そんな彼の全身に淡い燐光が降り注ぐ。
「おや、そっちは片付いたようですね」
 背後へ視線を向けたベークはそれを見た。
 砂埃の中、こちらへ向かって歩み来る、7人の姿を。
 マルクの掲げた杖の先端が、淡い燐光を放つ。それがベークの傷を癒した。
 否、降り注ぐ光は膨大だ。
 ココロや、ウェスティもまた治癒の術式を行使しているのだ。
「幾らでも、どんな傷でも癒します。どうぞ、無理をせず、じっくり戦ってください」
 ココロがそう告げた瞬間。
 弾かれたように、男たちが駆け出した。

 動きの鈍い巨体など、良い的以外の何者でもない。
 アポカリプス・サウンドは防御力に長けた聖獣だ。
 矢の1本や、数発の魔弾程度では、その外皮を貫くことは出来ない。
「だから、どうした!」
「スラムの住人たちがそろそろ戻って来るぞ! ココロさんはあぁ言ったが、さっさと片付けちまおう! さぁ、三国キャノンの出番だぜ!」
 1本の矢で足りぬなら、2本、3本、或いはもっと多くの矢を浴びせかければ良いだけだ。
 数発の魔弾で穿てぬのなら、数十発を雨のように降らせればよい。
 矢と魔弾をしこたま浴びた芋虫が、錆びた鐘に似た絶叫をあげる。
 精神や肉体に異常をもたらすその絶叫に、シャルティエは思わず耳を塞いだ。
 シャルティエの小さな体がビクリと震え硬直する。
「これ以上、スラムを滅茶苦茶にさせないよ!」
 その背を打ち抜く一条の光弾。
 ウェスティの放ったその一撃が、シャルティエの身を蝕む異常を打ち払った。
「っ……ありがとう。ところで今更だけど、何だってこんなことになってるんだか。まさかスラム街はいつもこうなの……?」
「まさか。異常事態に決まってるでしょう!」
「聖獣の情報を持ち逃げされるなんざ、前代未聞の不祥事だよ!」
 先ほど倒したラプチャーは、元はアドラスティアのマザーである。
 既に死した彼女が、どういった目的からアドラスティアに潜り込んだかは不明だが、少なくとも彼女は迷いなく自身の体を聖獣とした。
 きっと、仲間がいるのだろう。
「そっか……っていうか、アポカリプス・サウンドの元になったのって、誰なんだ?」
「知らねぇよ。イカれたマザーに利用された、スラムの孤児か誰かだろ!」
 シャルティエの問いに答えを返したサンディは、両手に構えた魔導銃のトリガーを引いた。

 地面を抉り、土砂を巻きあげ、誠司の放った砲弾は芋虫の体をごっそりと抉る。
 何発の砲弾を撃ち込んだだろう。
 まっすぐに進む芋虫を、誠司は真正面から迎え撃った。
 アポカリプス・サウンドの放つ絶叫を浴び、誠司の耳や鼻からはだくだくと血が溢れていた。
 ダメージは大きい。
 意識は途切れる寸前だ。
 けれど、誠司はやりきった。
 身体の片側を大きく失った芋虫は、ついにその歩みを止めた。
「少し無茶をしたが……これで止まった」
 抉られ、顕わになった芋虫の体内へ魔弾や矢、マルクの放つ閃光が撃ち込まれる。
 悲鳴を上げる芋虫は、しかしもはや逃げることも叶わない。
 頭部に並んだ無数の口が、限界まで開かれる。
 耳障りな絶叫を放つ大口。そのうち1つへ、シャルティエは剣を突き刺した。
 瞬間、紫電が迸り、大絶叫を掻き消した。

●聖獣
 並んだ死体の数は2つ。
 片方は腐敗した女の死体。
 もう片方は、原型さえも留めぬほどに崩れた子供の死体であった。
「……これが聖獣か」
 ラプチャーだった女の遺体へ誠司がそっと手を伸ばす。
 しかし、彼はピタリと動きを停止した。
 その側頭部に、サタディが銃を突きつけたのだ。
 もっとも、サタディの喉にもサンディの矢が突きつけられているのだが……。
「……手を貸してもらったことには礼を言う。だが、協定は終わりだ」
「そうか? 俺はスラムの連中の避難誘導も手伝うつもりでいたんだけどな」
 剣呑な雰囲気を纏うサタディへ、誠司はじっと視線を送った。
 沈黙はどれほどの時間続いただろうか。
 盛大な溜め息を零し、サタディはゆっくりと銃を下ろす。
「……ここは見逃してやる。大人しく帰っとけよ。だが、忘れるな。次に逢う時は敵同士だ」
「まぁ、それでいいよ。アンタらがちゃんと自分の輪郭を保てていてくれれば、それでいい」
 そう言って誠司はラプチャーの遺体から1歩離れた。

「この場は見逃しますが、次は甘くしませんよ」
 そう告げたココロは、ほんの一瞬、ウェスティへと視線を投げかけた。
 それっきり、言葉を発することもなくココロは歩き去っていく。
 最後まで聖銃士を警戒していたのはベークだ。
 最後尾を進むのは、いざという時、仲間たちの盾となるためだろう。
 しかし、聖銃士からの追撃はなかった。
 
 アドラスティアのスラムを抜けて、5人は帰還の途に就いた。
 結局、聖銃士たちは最後までそれに気が付くことはなかったのだ。
 いつの間にか、マルク1人がその場から姿を消していたことに。
 今頃彼は、元マザーの足取りを追ってスラムの調査をしているだろう。

成否

成功

MVP

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者

状態異常

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)[重傷]
防戦巧者
マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)[重傷]
花に願いを

あとがき

お疲れ様です。
聖獣は無事討伐されました。
依頼は成功です。

この度はシナリオリクエスト、ありがとうございました。
スラムの人間およびウェスティ&サタディに多少の恩を売ることが出来たのではないでしょうか。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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