シナリオ詳細
死者の眠りは妨げられた
オープニング
●墓場にて
生暖かい風の、吹く夜だった。
夏だから、というだけでは説明がつかない気味の悪さ。そういう類のものを墓守の男は感じていた。
「給料がちょっと高いからって受けるんじゃなかったかな……」
そんな事を呟きながら、墓守の男は墓場を歩く。
鉄帝にある墓場でも、相当に歴史の古いこの墓場では……すでにお参りに来る者すら失くした墓が山のようにある。
当然だが、死者は増えることはあっても減りはしない。それは人の営みのある限り続く絶対の論理だ。
故に、この墓場も土地がなくなるまでは拡張を続けるのだろう。
事実、奥に行けば行くほど手入れが雑になってきているが、それも仕方のないことではある。
「……ん?」
確かに今、ゴトン……という音が聞こえた。
一体何が。まさか墓荒らし?
墓守の男は、支給されている剣に手をかける。
もしそうであれば、容赦はしない。
死者の墓を暴き辱めるようなクズは、鉄帝には要らない。
呼吸を整え、音のした方向を確かめ……墓守の男は、「それ」を見てしまう。
「なっ、な……!」
墓の中から、白いものが……骨の腕が、出てきている。
別の墓からも、更に別の墓からも。骨が、死体が、這いだそうとしている。
「う、うわあああああああああああああ!」
この日、墓はアンデッドの巣窟と化した。その原因は、誰にも分からないままに。
●鎮魂の為に
「原因を潰してほしいのです」
『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)は今回の経緯と共に、そう集まったメンバーに告げる。
「今回の墓地ですが……突然アンデッドの巣窟になったのは、相応の理由があるです」
何しろ、それなりに歴史のある大規模墓地だ。今まで起こらなかった事が今回起こったというのであれば、何らかの変化が発生したと考えるのは自然なことだ。
問題はそれが何か、だが……。
「この問題となった大規模墓地ですが、そうなる前に結構大きなお屋敷が建ってた事が分かってるです」
何かの研究をしていたらしいが、その詳細については残っていない。
もしかすると。もしかすると、だが……その屋敷に地下があったとしたら。
そしてそれが、死霊術に関するようなものであったとしたら。
そんな想像を、チーサが補完する。
「……館の持ち主だったのは『枯草公』ソーンデッド氏。黒い噂がたえなかった人物なのです」
恐らく、想像は当たるだろう。
記録に残せないくらいに忌まわしき何かが……墓場にあって。
それが今、目覚めたかもしれないのだ。
- 死者の眠りは妨げられた完了
- GM名天野ハザマ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●大規模墓地へ
「『お友達』になれそうな子たちがいっぱい!」
そんな『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)の声が響く。
「役に立ちそうなものはたくさんお持ち帰りしたいナ❤」
そんな事を言うマリカだが…此処は、そういう発言が出てきてしまうような、そんな場所であった。
大規模墓地。現在立ち入り禁止となっているその場所に『在りし日の片鱗』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)達は踏み込んでいた。
「墓場からアンデッドの群れ、一体何が原因なのかしら。興味が無くはないわね、依頼のついでにどんな仕掛けなのか見せて貰おうじゃない」
そんな事を言うジュリエットの背後では、門が閉められる音が響く。
アンデッドを外に出さない為の処置だが、それだけで外界から隔離されたかのような感覚をおぼえていた。
「アンデッドの大量発生ですか。前に魔種絡みの件を担当しましたが……今回は魔種絡みではなさそうですね」
周囲を確認しながら『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は魔種絡みの事件ではない事にホッとする。
「それでも、アンデッドが大量にいるのは良い状態と言えません。何とかしなければ」
「ほんと、最近こういう事件多いわよね。今回は明らかに本人が望まない所で目覚めさせられてる……なら止めるわ! そんな事許せないもの」
『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)もオリーブに同意し、墓場の奥に視線を向ける。
この場にはまだアンデッド達はいないが……このまま放置すれば、やがてこの場にもアンデッドがあふれるだろう事が理解できてしまう。
そして、その時はそう遠くないことが……奥から聞こえる唸り声で、分かってしまう。
「これはまたすごいことになっているようだね……死後まで苦しむことはない……早く解放してあげなければ……」
「ええ、その為には……」
『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)にレイリーは頷く。
そう、その為にはこの場を突破して、枯草公ソーンデッドの地下室を探す必要がある。
しかし、どうすれば……そんな悩みを解決したのは、『グラ・フレイシス司書』白夜 希(p3p009099)だった。
希は独自のコネクションを使い、枯草公に関する歴史についての資料を調べてきたのだ。
その結果、枯草公の屋敷と……その地下室への入り口があるだろう場所を絞り込むことに成功していた。
「にしても酷い名前だね枯草公て……二つ名にしても貴族の名としても」
「確かにな」
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)が希に同意する。
何故そう呼ばれていたのか……希は調べて、ある程度は知っている。
「相当危ない実験をしてたらしいよ。色々やって……それで、そういう異名」
そう、表に出ているだけでも相当に枯草公は危険なことをしていた。
その存在すらを歴史から消し去りたいほどに……だ。
「死者を弄ぶ行為、とても許されることではありませんわね。死者には安らぎを」
『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)は白銀のレイピアを抜き放ち、そう宣言する。
「墓地に再び平穏を」
ロックもそれに応え……全員が、それぞれの祈りの言葉を口にする。
「さあ、行こう。フィリーネ君! 頼りにしてるよ!」
「お任せを。わたくしは盾! 必ず守り抜くと約束しますわ!」
凛とした叫びが響き、全員が隊列を組む。
そして……アンデッド達が、ついに生者の気配に気付く。
「私の名はヴァイスドラッヘ! 死者たちよ、安らかな眠りを与えるわ!」
白い竜をモチーフにした装甲を纏うヒーロー「ヴァイスドラッヘ」の姿のレイリーが叫び、ヴァイスドラッヘンホーンを構える。
「そのまま奥の緑の墓標を探して。碑文の内容は……!」
「ここのアンデット共に罪は無いが、向かってくるなら容赦はせん……押し通させてもらう!」
此処に罪を封じる。
そう書かれた墓標を探し、ロック達は突破陣形で進んでいく。
●地下研究所
「真っ暗ね……」
用意してきた明かりを灯しながら、レイリーは呟く。
「そうだろうな。こんな事でもなければ永劫に誰も入らなかっただろう場所だ」
「ええ、そして……ここからが本番です」
「そうだね。皆、気を付けて探索しよう」
ロックにオリーブとマリアも同意し、暗い通路を進んでいく。
壁にはかつて研究所が現役だった時に機能していたであろう照明もあるのだが……。
「つけ方が分からないわね」
多少いじってみて、ジュリエットは肩をすくめる。
あるいは何処かにスイッチのようなものもあるのかもしれないが……今はどうしようもない。
そして先頭を歩いていたレイリーは、早速開かない扉を発見する。
「早速ね……とはいえ鍵は何処、に……」
周囲を確認し、レイリーは思わず目を見開く。
壁に、それらしき鍵がかけられているのだ。
「何、これ……」
「此処を封印した人が最後に鍵をかけたんじゃないかなー」
「……それなら納得はいく。此処はもう開けないつもりだったんだろうし」
マリカの意見に希も同意する。
此処で行われていた研究を封じるために扉を閉めたとして、いつか何か起こった時に開けられないのではどうしようもない。
恐らくは、そんなところなのだろう。
「とにかく、これで進めるというわけだ」
ロックが鍵を差し込み捻ると……ガチャリと音が鳴り、ドアが開く。
そして同時に、鍵がボキリと折れる音が響く。
その折れ口をロックが見ると、そこには内部が無惨に錆び尽くした鍵の残骸があった。
「これは……もう使えないわね」
たとえ何かあって撤退したとして、此処を閉める事は出来ない。
しかし言ったジュリエット自身、それが問題だとは思っていない。
「時間が経てばアンデット共は増え面倒ごとが更に増えるだろう。覚悟が1つ増えただけの話だ」
「ええ。しかし……どうやら鍵を探しながら部屋を周らないと行けないようですわね」
まさかここだけ鍵が閉まっているなどというオチではないだろう。
そんなフィリーネの当然の意見に全員が頷く。
「必要がない限りは全員で進んでいきたいですが……」
「まあねー。戦力分散はあまりしたくないし?」
オリーブに、マリカがそう答える。
そう、扉を開けた先……その先から聞こえるのは、やはりアンデッド達の声。
この先は枯草公の、歴史からも消された闇の部分。何があるかは分からない。
マリカは楽しそうだが……一歩間違えればマリカ自身が『お友達』になりかねないのだ。
「オオ……オオオ……」
「ゴーストの群れ……!」
ジュリエットのマリオネットダンスがゴーストを縛り付け、ロックの豪鬼喝がそれでも近づいてきたゴースト達を消し飛ばす。
「次、スケルトンが来るわ!」
ヴァイスドラッヘンフリューゲルを構え叫ぶレイリーの視線の先には、さび付いた斧持って向かってくるスケルトン達の姿がある。
その斧の錆は……間違いなく血錆。何に使われたかを明確に示すかのようなそれに、誰かが思わず舌打ちをする。
しかし、此処で何が行われていようと今更どうしようもない。
マリカの<Honey's zombie>が炸裂し、スケルトンが砂のように崩れていく。
「ああっ!」
それを見て思わずマリカが残念そうに叫ぶが……マリアは逆に冷静にそれを見つめていた。
「ゴーストにアンデッド。ゾンビはいなくて、倒すと崩れる……」
「それって古すぎて骨ですら『もたなかった』ってことお!?」
「アンデッド化で負荷がかかった、という考え方もあるよ」
希の推察はマリカにも納得がいくことだっただけに「そんなあ」と嘆いてしまう。
つまり、此処で『お友達』は増やせない。それが確定してしまったのだ。
「とにかく進むぞ。此処で時間をつかってはいられん」
ロックのそんな言葉に従うように全員は進んでいき……何度かアンデッドを撃退しながらも、幾つかの部屋を巡っていく。
どうでも良い部屋や、誰もいない空の牢獄も多く……しかし、その牢獄も恐らく無数の犠牲者を出したのであろう濃厚な血の気配が残っていた。
そして、そんな中……希の鍵穴スライムで開けた書庫で、希達はついに枯草公ソーンデッドの手記らしきものを見つけていた。
「……反吐が出るわね」
そんなレイリーの言葉が、全てを示していた。
枯草公ソーンデッド。彼の研究歯に死者蘇生に関するものであったらしい。
攫った人間を腑分けし、切り刻み……あるいは組み合わせ、死霊術によりアンデッド化する際の仕組みを応用できないかと。
そういった事を考え実験していたようだった。
勿論だが、そんな研究が実を結ぶはずがない。
手記にはソーンデッドの周囲を捜査員がうろつき始めた事について言及しており……やがて、追い詰められていく様が書かれていた。
その後実際にどうなったかは……全員が知っている通り。
枯草公ソーンデッドは歴史から消され、その家門も断絶した。当然の末路だろう。
しかし、何処を探しても何故ソーンデッドがそんな狂気に至ったかは書いておらず……ただ、飾られた、色あせた夫婦か何かの写真のようなものが希に枯草公の執念の源を感じさせていた。
しかし同時にそれが何の免罪符にもならないことは、この場の全員が知っている。
「死術の宝玉……か。どうやら今回の元凶は見つかったみたいだね」
マリアは手記に書いてあった「宝玉」の事を口にする。
死者をアンデッド化する死霊術の道具。どうやらソーンデッドが最後に作った失敗作であったらしいが……どうやら、それが何らかの理由で起動したと考えるのは難しくなかった。
「興味深いけど……壊した方が良さそうね」
「えー、壊しちゃうの? もったいないなあ」
ジュリエットにマリカが不満そうに言うが、場の意見は壊す方に傾いている。
「そうね、壊したいわ」
「『枯草公』の目的がどうであろうと死者は安らかに眠っていた、それは最期の平等である権利だ……何人たりとも穢すことは出来ない」
レイリーとロックも頷き……「宝玉を見つけ壊す」選択がなされる。
問題は、その宝玉が何処にあるかだが……。
「まあ、ふっつーに考えたらソーンデッドが持ってるんじゃないかなー♪」
「ソーンデッド自身、宝玉の力で蘇った……充分にあり得る話ですね」
マリカの意見にフィリーネも頷き、次の方針が決まる。
ソーンデッドと宝玉の探索……それは当然、かなりの労力がかかるものと思われた。
しかし、探索の途中に聞こえてきた声に気付き、その方向へと走る。
観音開きの扉には当然のように鍵がかかっていたが、もはや不要とばかりにロックが破壊する。
そして、そこには……怪しげな輝きを放つ宝玉を持つ、貴族らしき男のゴーストが居た。
「お前が元凶の悪霊ね! 私はヴァイスドラッヘ。この怪異を止めに来たわ!」
叫ぶレイリーに……しかし、ソーンデッドらしきゴーストは答えない。
「おお、おお……何故上手くゆかぬ……何故、何故……」
それはすでに意味のある言葉ではない。
ソーンデッド自身、魂も摩耗し尽くしているのだろう。
それを宝玉によって揺り起こされた……自業自得といってしまえば、それまでなのだが。
「『お友達』がたくさん作れる死霊術なんてすっごく素敵じゃない! その研究に興味あるナ~♪ マリカちゃんにも研究やらせてやらせて♪」
「おお……おお……何故、何故なのだ……」
「あちゃー……」
マリカは問いかけてみて「やはりダメだ」と落胆する。あれも他のアンデッド同様、何も残ってはいない。
「死者は起きちゃだめ。生も、死も積み重ねられて世界は形成される……貴方の死もまたその中の一つ。貴方の死を失くして、変えてしまえば、積み重なられた世界は歪む」
「死を……死を否定するのだ……」
死の否定。何を思ってソーンデッドがそれを目指したかは、もう永遠に分からない。
しかしその先にあるのは明るい夢ではなく、悪夢であるように希には感じられた。
「覚めない悪夢はない……夢から覚めたまえ!」
だからこそ、マリアは蒼雷式・天槌裁華を放ち……その一撃でソーンデッドは四散する。
それでも残った宝玉がゴンッと音をたてて床に転がって。
拾い上げたロックが右腕の腕力で力任せに握り、粉々に粉砕する。
その瞬間……地下空間に、有り得ないはずの風が吹いた気がした。
それは、恐らく宝玉に縛られていたアンデッド達が解放されたのだと……そう感じさせるもので。
「そのまま眠ってて」
「本当の意味でおやすみ……ゆっくり休むといい……」
希が、マリアが……全員が、全ての犠牲者の鎮魂を祈る。
その祈りが届いたかは分からない。
けれど……大規模墓場で起こった事件が無事に解決した事だけは、確かだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
コングラチュレーション!
無事にアンデッド事件を解決しました!
GMコメント
墓場を探索しアンデッドを倒し、原因を潰しましょう。
□大規模墓場
アンデッドがウロウロしています。生者を見つければ素早い動きで襲ってくるでしょう。
なお、何処かに地下に通じる隠し通路があると思われます。
高い柵で囲まれ、金属門で外界と隔離されていますので、アンデッドが何処かに居なくなることはありません。
□地下研究所
かなり深い階層で構成されています。
無数の部屋と牢獄などで構成されています。
アンデッドを目覚めさせる原因となっているのは悪霊と化したソーンデッドと、その手にある宝玉です。
ただし、何処にいるのかは不明。無数のアンデッドによる妨害もあるでしょう。
鍵で閉じられた区画もかなりありますが、何処かに必ずその鍵は存在しています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
Tweet