PandoraPartyProject

シナリオ詳細

黒顎拳士

完了

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ダークグレイの通路に差し込む光は祝福の鐘を待ち望むようだ。
 光の方へ一歩足を踏み出す度、高揚感が増していく。
 戦いへの闘志を胸に抱き、青い瞳の男は光の中へ飛び出した。

「イイ! 良いじゃないか! その――筋肉!」
 満面の笑みを向けた『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)がイレギュラーズを青い隻眼で見つめる。
 闘技場のリングの上、向かい合ったイレギュラーズとアンドリューは互いに握手をし正々堂々と闘う事を拳に誓う。
「今日は、俺の我儘に付合わせてしまってすまないな。お前達と交流試合が出来るのが嬉しいぞ!」
 にこりと微笑んだアンドリュー。
 数日前にアンドリューから交流試合の誘いが届いたのだ。
 闘技場でのランク戦のような激しい戦いというよりは、どちらかというと練習試合のような意味合いが強いだろう。肉体と拳、そして言葉で語り合いたいとアンドリューからの手紙には記されていた。

「基本的なルールは普通の闘技場ランク戦と変わらない」
 武器あり魔法有りの実力勝負。ただ、重傷になるような場合は直ぐに審判のストップが掛かる。
 練習試合で大怪我を負うのはお互い避けたいだろう。
「存分に筋肉を見せつけ合い、闘おうじゃないか! それにこれが終わればちょっとした宴会を用意してあるから、そっちも楽しみにするといいぞ!」
 スチールグラートの闘技場周辺には美味しい居酒屋が沢山あるのだ。
 人が集まる場所はそれだけ美味しい飯にありつけるというもの。
「この時期に飲むビールは美味いんだ! ブルストもステーキも沢山用意したからな。俺も酒と肉は大好きだぞ! お前達と囲む食事はさぞかし美味いだろうな! 楽しみだ」

 ――――
 ――

 灰色の曇天から落ちてくる大粒の雨が地面に跳ねる。
 アガットの赤は手に握られたナイフと目の前に倒れている親友から流れていた。
 息苦しさに呼吸が荒くなる。
 どうして、こんな事になってしまったのだろう。

 貧しい極寒の地で産まれたアンドリューは口減らしの為に闘奴として売り払われた。
 五歳の頃だったと記憶している。
 親の手に乗せられる小さな金貨が自分の価値なのだとぼんやりと見つめていた。
 闘奴としての生活は厳しいものだった。
 幼いアンドリューは碌なご飯にもありつけず、お腹を空かせる毎日。
 けれど、仲良くなったダニー・ダロンドが自分の飯を分けてくれたのだ。
 そこから少しずつ大きくなり、成長して親友のダニーと一緒に戦いに明け暮れる日々。
 生きて行く事は大変だが、アンドリューにはこの場所しか無くて、ダニーと共に笑い合い共に過ごす事はそれなりに楽しかったのだ。

 されど――
 手の中のナイフでダニーを殺した。
 突然襲いかかってきたダニーと殺し合いをしたのだ。
 左目もその時失った。
 不可抗力だったなんて言い訳に過ぎない。
 何が原因なのかは大人になった今でも分からない。
 ただ、自分がナイフでダニーを殺したという事実しか残らなかった。
 だから、ナイフを握る事が怖い。
 もしあの時、自分がダニーより遙かに強くあったならば彼を止める事が出来ただろう。

 力が強い者が勝ち弱い者は消えて行く。
 親友を止められなかったのは、自分が弱かったからだ。
 だから、アンドリューは強くなりたいと願った。
 鍛え上げられた肉体や筋肉はアンドリューにとって、最も信頼出来る己の価値になったのだ。

 光の中にファンファーレが鳴り響く。
 鼓膜を揺さぶる声援は強さの証。
 相対するイレギュラーズもアンドリュー以上の声援を受けて向こう側の通路から出て来た。
「いい……良い筋肉をしている! お前は強いのだろう! 戦うのが楽しみだ!」
 イレギュラーズは弱くない。自分と良い勝負をするのだろう。鍛え上げられた筋肉で分かる。
 だから、安心できる。とても好感を覚える。むしろ好きなのではないだろうか。いや、好きに違いない。
 あの頃の弱かった自分を後悔しているから、アンドリューは高らかに声を上げる。
 まだ誰にも語っていない弱い部分を、イレギュラーズになら、預けられるだろうか。
 いつかそんな日が来るだろうか。
「来たら……いいな」
 小さく呟かれた言葉は声援の中に消えて行った。

GMコメント

 もみじです。アンドリューとの初めての交流試合です。
 アライグマに初めてを奪われていない本物のアンドリューが登場です。

●目的
 アンドリューと交流試合
 アンドリューと宴会を楽しむ

●ロケーション
○闘技場
 鉄帝国首都スチールグラートの闘技場。
 交流試合ですが、観客も沢山居ます。
 ファンファーレや声援がイレギュラーズを迎えてくれるでしょう。
 基本アンドリューと一人ずつ試合をします。
 声を掛け合ったり、肉体で語り合ったりしましょう。

○居酒屋
 試合が終わったら居酒屋へ
 美味しいご飯と酒が飲めます。
 ビーフストロガノフ、チキンカツレツ、お肉の串焼き、シュクメルリ、サーモンマリネ、スブプロドクチイ、アクローシュカ、ピロシキ、ガルショーク、ペリメニ、セリョートカ、サーロ、アグレツ&カプスタ、冷製ボルシチ、クワス、モルス、お芋サラダ、塩漬けのお肉やお魚などなど。

 アルコールはビール、ヴォトカ、クワス、バルチカ、ワインやチャチャ、蜂蜜酒等。
 未成年はソフトドリンクやジュースです。

○NPC
『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)
 拳を使った攻撃が主体ですが、蹴り技体術なども得意です。
 刃物は使いません。

 イレギュラーズにはとても好意的です。大好きです。
 筋肉を褒めてくれます。筋肉を見せつけてきます。
 イレギュラーズと仲良くなりたいと思っています。

 酒も大好き、肉も大好き。
 にこにこでイレギュラーズと言葉を交すでしょう。

  • 黒顎拳士完了
  • GM名もみじ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年08月22日 22時05分
  • 参加人数5/5人
  • 相談8日
  • 参加費300RC

参加者 : 5 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(5人)

カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
※参加確定済み※
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
※参加確定済み※
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
※参加確定済み※
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
※参加確定済み※
エーミール・アーベントロート(p3p009344)
夕焼けに立つヒト
※参加確定済み※

リプレイ


 夏の陽光は肌を焦がし、生ぬるい風が頬を撫でていく。
 それよりも更に熱気を帯びた歓声が耳を擽った。虹色のパーティクルが足下をすり抜ける。

『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)はリングの向こう側から歩いて来る男をバイザー越しに見据えた。
 黒い眼帯に引き締まった身体。『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)だ。
「なーんでまぁ、俺が呼ばれたんだろうねぇ……もっと適役居るだろうに」
 小さく呟いたカイトはバイザーの奥で視線を泳がせる。
「ま……あいつが楽しそうならいっか」
 リングに上がったカイトはアンドリューの前まで進み、拳を合わせた。
「つーわけで俺もいつも通り相手させて貰うぜ」
「おう! カイトと手合わせ出来て嬉しいぞ! 存分にイイ筋肉を見せてくれ!」
「また、お前はそういう……」
 審判の合図を持って、試合が開始される。
 カイトの手に集まった氷の術式が空中に広がり、アンドリュー目がけてリングを駆けた。
「筋肉をぉー! もっと筋肉を使うんだ! カイト!」
「いや、そんなこと言われてもそういう用途じゃねーし」
「ふふふ。照れているんだな? 良いぞ。そういう所もまた、イイ!」
 拳を突き出しながら、笑みを浮かべるアンドリューにカイトは術式を返す。
「なに、そのなんだ」
「どうした! 俺の筋肉を見るか!?」
「――やりにくいわ!!!」
 褒められながら戦うのは思った以上に気が削がれるらしい。
 されど、アンドリューの楽しそうな顔は悪く無いとカイトは思った。

「さて。毎度毎度負け越しているが、今回は勝つ勢いで食い下がっていこう」
 拳を顔の前で合わせた『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)は蒼赤の瞳を上げる。
 本気の試合でないとはいえ、気迫が無ければ面白味も何も無いだろう。十七号はアンドリューに拳を突き出した。この拳に正々堂々と勝負を行うという誓いを立てるのだ。
「手加減も容赦も不要。それでいいな?」
「ああ、もちろんだ! 俺も全力で行くぞ!」
 アンドリューの元気な声に十七号は頷く。そう応えるだろうと思った。
 十七号は刀を審判に預け、素手でアンドリューに対峙する。
「武器はいいのか?」
「ああ、今日はカタナは扱わない。野暮だからな」
「そうか。優しいんだな十七号は」
「十七号は呼びにくいだろう。十七夜でいい」
 アンドリューは「十七夜」と口に含み「イイ名前だ」と笑った。
 上から叩き込まれる拳の軌道を前に出る事で軽減する十七号。
「十七夜の拳は誰かに似ているな。懐かしさがある」
「はて、なんのことやら」
 十七夜はリーチの短さを承知の上で、アンドリューが叩きつける拳を躱し『内側』へと潜り込む。
 同じバトルスタイルになる以上、アンドリューの方がタフであるだろう。不利な状況だとはいえ負ける気は無いと蒼赤の瞳に闘志を宿した。
「さあ……行くぞ!」
「望むところだ!」

「筋肉……くっ……」
 自分のお腹を触った『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は眉をきゅっと寄せた。
 引き締まって密度は高いけれど、腹筋は割れないし、見るからにガチムチマッシヴにはなれない体質だからだ。アンドリューの筋肉が眩しい。
「どうした? アーマデル」
「いや、筋肉が凄いなと」
「うむ。鍛えているからな。でも、アーマデルもイイ身体をしている。自身を持つと良いぞ!」
 ペタペタと腕や腹を触ったアンドリューは肩に手を置いてもう片方の手の親指を立てた。
 ラドバウの試合ではアンドリューに負けてしまったけれど。あの時よりは少し強くなっているはず。
 防御を越えて打ち抜く高い火力を持っていないアーマデルにとって相性の悪い相手なのだ。
「どうした?」
「いや、恨み言ではないぞ」
 蛇鞭剣を振るうアーマデルはアンドリューと距離を取る。
「正面からやり合う、真っ当な闘士として、高いレベルで完成しているという事だ」
「大丈夫だぞ! アーマデルもイイ筋肉をしている! 強くなれる! さあ、一緒に戦おう!」
「え、あ。はい」
 元より敵わない相手なれど。胸を借りるつもりで挑むアーマデル。
「折角の機会なので、出来る事をあれこれ試してみるか」
「おう! どんと来い! アーマデル!」
 アーマデルの鞭剣がアンドリューに叩きつけられる。

「噂に聞く「黒顎拳士」と手合わせ出来るとは光栄ですね。この貴重な機会を糧とするべく全力で挑みたいと思います!」
 アンドリューに手を差し出したのは『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)だ。
 マントを羽織ったルーキスの手を握りアンドリューは笑顔で頷く。
「良い試合が出来そうで嬉しいぞ! よろしくな」
 笑みを浮かべるアンドリューに視線を上げるルーキス。相手は実力も然る事ながら肉体自慢の拳闘士。
 ならば、自分も相応の『覚悟』を示す必要があるとルーキスはマントを取り払う。
 マントの下から出て来たのは、黒い褌と刀を差した、ほぼ筋肉だ――!
「なんと! 素晴らしい筋肉! イイ! いいぞ! ルーキス!」
 ルーキスの瑞々しい筋肉をじっくりと観察するアンドリューは良い笑顔で声を上げた。
「これは戦いが楽しみだ!」
「拳には拳で、と言いたい所ですが……拳術の心得は無い為、刀にて失礼致します。いざ、参る!」
 鞘から刀を抜き、構えるルーキス。刀身が陽光を受け光った。それが合図。
「来い! ルーキス!」
「はぁっ――!」
 斬撃一閃。鬼の力を宿した剣尖はアンドリューの胸板に赤い飛沫を散らせる。
「まだ!」
「おおう! まだ来るか!」
 ルーキスの剣檄は翻り、再びアンドリューの身体にアガットの赤を咲かせた。
 自分の使える最高威力の技で正面から。ルーキスのその刃に乗る『強者と戦える事への喜び』そして『勝ちへの執念』はアンドリューの闘志をも燃え上がらせる。
「イイ! 楽しいぞ! ルーキス!」
「ええ!」
 拳と剣のぶつかり合いに、声援は熱を増して。
 二人の闘士は戦いに酔いしれる。

「はじめまして、アンドリューさん。私、エーミール・アーベントロートと申します」
 恭しくお辞儀をした『夕焼けに立つヒト』エーミール・アーベントロート(p3p009344)に、アンドリューも礼儀正しく頭を下げた。
「そんなに畏まらなくても良いんだぞ?」
「いえいえ、貴重な時間をいただくのですから、このぐらいは」
 頭を上げたエーミールはアンドリューの鍛え抜かれた身体をじっくりと見つめる。
「うーん、筋肉が素晴らしい。それに比べ私は……」
 自分のお腹をむにむにと摘まんだエーミールはしょんぼりと眉を下げた。
「最近筋トレしてないからな……」
「何? 筋トレするかのか!? よし、良い機会だ。俺流筋トレを伝授しよう!」
 試合開始の挨拶で掴んだ手をぶんぶんと振り回すアンドリュー。
 審判がリングから降りて合図を叫べば、そこは戦場へと変わる。
 深呼吸を一つ。エーミールは研ぎ澄ませた瞳を上げた。
 近距離型のエーミールはリーチの差でアンドリューに押し負けてしまうだろうと予測し、懐に入り込む事で死角を突く戦法を取る。
「手加減は一応した方がいいですかね」
「そんなもの必要無い! 本気でぶつかり合おう!」
「ふふ……いいですね」
 試合といえど、本気の相手に手加減をするのは無粋というもの。
 ナイフを二本構えたエーミールは左右からの斬撃を走らせる。
 一閃。返し二閃――
 すかさずの足技でアンドリューの重心を取った。
 されど、傾いだ重心の慣性を利用して、エーミールの肩に痛烈な痛みが走る。
「っ!」
「はは! やるな! エーミール! 楽しい、楽しいぞ!」
 エーミールの剣はアンドリューの左腕に赤い傷を残した。


「――ああ疲れた!」
 居酒屋のテラスに十七号の声が響き渡る。周りを見渡せば、試合と同じ熱量でグラスが打ち鳴らされあちこちで宴会モードだった。カイトとアンドリューも互いにグラスを打ち鳴らすのが見える。
 十七号はアンドリューの向かいに座り看板メニューや周りの人が頼んでいるものを観察する。
 やはり肉料理は鉄板だろうか。
「折角だし酒と肉にありつこう。……酒はまだ呑めないから、肉だが」
 十七号はメニューを見つめ、ビーフストロガノフとステーキ、串焼きを山ほど頼む。
「おい、十七夜。マッシュポテトは美味いぞ!」
「ん?」
「マッシュポテトだ!」
「ふむ。一応貰っておこう」
 ほくほくのポテトを潰した器が十七号の前に置かれた。
「最近の大陸はコメなるものも輸入されつつあるみたいだけれど――とりあえず今はパンだな。ふわふわのやつがいい」
 肉とパンを交互に頬張りながら十七号は次々と平らげて行く。
「……領地でコメを扱ってもいいかもしれないな。最近あまり執務室にいないが。ん? どうした?」
 十七号はアンドリューから視線を感じて首を傾げた。
「いや、十七夜の食べっぷりは見ていて気持ちが良い。もっといっぱい食べるといい!」
「あ、ああ。ありがとう」
 食べ方について素直に褒められる機会というのはあまり無いから、何だか少し気恥ずかしい。
 しかも、社交辞令ではなく、本当に楽しそうにアンドリューは十七号を見ている。
 その様子が何だか大型犬っぽいと十七号は口の端を上げた。

 アンドリューは肉野菜バランスよく皿を並べているアーマデルに視線を流す。
「バランスがイイなアーマデル!」
「イシュミルのせい、かも。これ、飲むか?」
 特製グリーンスムージーを差し出したアーマデル。それを笑顔で受け取るアンドリュー。
 ゴクゴクと飲み干して。
「うむ! 美味いぞ!」
「……嘘だろ。健康にはいいけど味は考慮されていないんだぞ」
「じゃあ、代わりに酒は飲むか!?」
 ワインの瓶を傾けたアンドリューにアーマデルは首を振った。
「酒……はまだ無理なんだよな。成人したら付き合ってくれ、最初の一杯は先約があるが」
「ああ、もちろんだ! 楽しみにしてるぞ!」
 言いながら、アンドリューはワインをグラスに注ぎ、豪快に飲み干す。
「……俺は系譜(血筋)の中ではよくない意味での規格外、所謂落ちこぼれでな」
 ぽつりとアーマデルの口から零れた言葉にアンドリューは首を傾げた。
「必要な能力を継がず、皆が受ける訓練や調整に適応できなかった。だから大きな戦いではあまり役には立たないが搦手で露払い、足止め、援護……出来る事をしたいと」
「そうか。アーマデルは強いな。しっかりと自分の力量と実力を見据えて、今何が出来るのかを考えて居る。それは誰もが出来る事では無い。俺みたいに筋肉しか無いヤツとは違ってアーマデルは賢くて強い」
 アーマデルの頭をわしわしと撫でるアンドリュー。
「なあ。その……アンドリューはいい筋肉だな。ちょっと触ってもいいか。大丈夫、ちょっとだけだ」
「おおおお! もちろんだ!!!! ぬんっ! 沢山触れ!」
 ぷるんと筋肉を揺らして見せるアンドリューにアーマデルは目を輝かせた。
「……実にいい筋肉だ」
「そうだろう。そうだろう。俺もアーマデルの筋肉を触る!」
「え、さっき触った……」
「うむうむ! 実にイイ!」
 筋肉を触り、触られ。交流とはこういうものだっただろうかとアーマデルは首を傾げる。
「まあ、楽しそうだからいいか」
 アーマデルはアンドリューの白黒髪をもしゃもしゃと撫でた。

「明日に響くので、ワインを一杯だけ」
「おう。エーミールもお疲れ様だ!」
 乾杯とアンドリューとエーミールはグラスを慣らす。
「つまみはどうする?」
「やっぱり、ここはブルストでしょうか。本場の味を楽しみたいです」
 ザワークラウトかマスタード、どちらも美味しいけれど。
「一口目は何も付けずに食べるのも良いぞ!」
「ほほう」
 ぱくりと頬張るエーミールにアンドリューは満足そうに頷く。
「いやぁ、美味しいですね。あ、すみません。もう一本頂けますか。ワイン」
「良い飲みっぷりじゃないか! イイぞ! その調子でどんどん飲もう!」
「ねえ、アンドリューさん! 聞いて下らさいよ! うちの兄がね、見つからなくてぇ!」
 顔を真っ赤に染めたエーミールはアンドリューにもたれ掛かる。首にぶら下がり、羽交い締めの如く力一杯締め上げた。しかし、アンドリューはそれを物ともしない。宥めるようにぽんぽんと背を叩く。
「兄貴がどうしたんだ? 探しているのか?」
「そうらんですよお! もー居ない。辛い……このお腹もぷにぷにで。アンドリューさんみらいに、筋肉ムキムキマッチョに、俺もなりたいのにぃ~!」
 お腹をぺろんと出したエーミールはアンドリューをバシバシと叩いた。
「ふむ、確かに少し肉が乗っているな」
 エーミールのお腹の肉をむにむにと摘まむアンドリュー。
「んへへ。くすぐったいですよぉ!」
「だが、このぐらいなら大丈夫だ! 明日からでも筋トレだな!」
「ふぁい!」
 酔っ払ったエーミールの酒を取り上げて。水の瓶にすり替えるアンドリュー。
 寄りかかるように寝息を立て始めたエーミールに膝枕をしながらアンドリューは目を細めた。

 ルーキスは普段の衣装に着替えて居酒屋に顔を出す。
「おお、ルーキス来たな」
 アンドリューがルーキスに手を上げてこっちだと手招きした。
「鉄帝の本格的な料理を食べるのは初めてです」
「そうなのか? だったらステーキやブルストは美味いぞ! ほら食べてみろ」
「はい! ここは是非アンドリューさんに倣って肉を! お願いします!」
 アンドリューはルーキスの前にブルストの盛り合わせを置く。
「ブルストにはビールが合うが。ルーキスは飲むのか?」
「あ、いえ。俺は果実水でお願いします」
「そうかそうか。なら、この粒入りマスタードを付けて食べてみろ。美味いぞ!」
 ルーキスはアンドリューに言われるまま、マスタードをつけたブルストを一口食む。
「んっ! これは美味しいですね!」
「だろう!」
 腹ごしらえしたルーキスはキラキラした瞳でアンドリューに向き直った。
「ところでアンドリューさん。どんな鍛錬を積んだらその様な肉体になれるんでしょうか? 自分も毎日鍛錬してるんですが、中々思う様に筋肉が付かないんですよね……」
「何? ルーキス、お前の筋肉はイイぞ!? 引き締まった無駄の無い筋肉だ」
「そうですかね? アンドリューさんにそう言って貰えるなら少し自信が出て来ました」
 ルーキスは少し照れながら、視線をアンドリューの身体に残る傷跡へと流す。
 今まで相当な修羅場を切り抜けて来たのだろう。軽々しく聞いてはいけないのかもしれないけれど。きっとアンドリューなら踏み込んでも許してくれそうな気がするのだ。だから。
「アンドリューさんは何故『闘技者』になろうと思ったのですか? その、答え難い様でしたら申し訳ありません」
 ルーキスの言葉にアンドリューは僅かに逡巡したあとパッと笑顔を咲かせる。
「なあに、子供の頃から闘技場で戦っていた。闘奴というやつさ。この国は貧しいから、生きる為にこの場所に縋り付くしかなかったんだ。戦わなければ死ぬ。そういう世界で生きて来た」
「闘奴」
「ははっ、そんな深刻そうな顔をするなよルーキス。肉体を鍛え上げ戦って勝てば大丈夫なんだ。単純明快だろ? 俺はこの場所しか知らないけど、強いヤツと戦うのは好きなんだ。だからこそ、こうしてルーキス達にも会えたんだからな」
 グラスを傾けるアンドリューにルーキスは微笑みを浮かべる。
「だから、今はいっぱい食べて、いっぱい飲もう!」
「……はい!」
 楽しい時間を噛みしめるように。笑顔で語らうのだ。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 アンドリューとのひととき、楽しんで頂けたら幸いです。

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