PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ひたりひたりと濡れ女

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 穏やかになった豊穣の地でも、夏はかなり蒸し暑く、じりじりと照り付ける日差しは帝都で過ごす分には何とも耐え難い。
 それもあってか、人々は避暑の為に各地へと出向くこともしばしばある。
 近場であれば、高天御苑には藤棚があり、晩春に花は見頃となるが、夏場は丁度良く日差しを藤の蔓が遮ってくれて涼しさを感じさせてくれる。忙しい貴族などはここでしばしの時を過ごすこともあるのだとか。
 また、やはり海水浴は豊穣においても人気は高く、砂浜にはたくさんの精霊種や鬼人種が賑わう。彼ら向けの出店、海の家なども出されていたようだ。

 また、山で過ごす者も少なくない。
 少し標高が高い場所なら、それだけで気温は下がる。高原は絶好の避暑スポットだ。
 他にも、渓流もなかなかに捨てがたい。この辺りにはログハウスやコテージが建てられ、キャンプを運営している逞しい精霊種の姿もある。
 ただ、そこでは現在、妙な噂が立っていて。
「……出るんですよ、濡れ女が……!」
 受付にいた鬼人種女性が声を荒げる。
 話によれば、現れるモンスターは4体。濡れ女は翼持つ女性のモンスターを伴い、昼夜を問わず、主に少女や若い女性を狙って襲い掛かってくるという。
 該当しない男性や年配女性、中性や性別のない者が狙われないというわけではない。邪魔をすれば、排除対象とみなして誰でも襲ってくるという話だ。
 その話を確かめるべく、依頼を受けたイレギュラーズはモンスターの出現する渓流へと足を運ぶ。


 高天京を訪れたイレギュラーズ。
 最近では、ROOでこの国をベースとした神光を訪れる者も多く、改めてその違いを確かめていたメンバーもいたようだ。
「改めて、依頼を再確認いたしますね」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は挨拶時のみ笑顔を見せたが、すぐに真顔になって説明を始める。
 ここから数時間かけて向かった山の中腹に川が流れており、その周囲はちょっとした避暑地として知られている。
 イワナやヤマメ、ニジマスといった魚を釣ることができたり、河原でお肉を持ち込んでバーベキューをしたり。とりわけ、海洋からそうした文化が持ち込まれてきており、最近では豊穣でもそれらを興じてみたいと考える者が増えてきているのだとか。
「ただ、そんな人々を狙うモンスターが出現しているそうです」
 目撃者は、『濡れ女』と表現していた。
 見た目は下半身が魚となった海種に近い姿だったが、その全身はびっしょりと濡れており、地面を動く度にひたり、ひたりと水の滴る音がするのだとか。
 また、濡れ女は両手が翼となったモンスターを3体連れているという。こちらは水に濡れてはいないようだが、飛行種を思わせる姿なのが気になるところ。
「彼女らは天女と呼ばれる人為的に作成されたモンスターのようです」
 『衆合地獄』華盆屋 善衛門なる人物が、美しい女性を作品とすべく肉腫を使って体を作り替えているのだとか……。
 改造によって人としての思考はなく、呪力を使って襲ってくる。女性を主に狙うのは、主が新たな改造の為の素材としている可能性が高い。
「現状、被害は襲撃だけで済んでいて、死人までは出ていないのは幸いですね」
 証言と自身の予知と合わせてわかったことを、アクアベルは資料としてイレギュラーズへと提供する。その力は完全に判明していない為、注意したほうがよさそうだ。
 新たな被害が起こる前に、天女と呼ばれるモンスターを討伐する他ない。キャンプ場を運営する人々もそれを願っている。
「事後は切り替えて、清流でのんびりと過ごしてください」
 清流はとても爽やかで、そのせせらぎを耳にしながら釣りをしたり、バーベキューをしたりできる。依頼について考えることも多いだろうが、折角の憩いの一時を堪能したい。
「以上ですね。それでは、よろしくお願いいたします」
 彼女は丁寧に頭を下げ、この1件をイレギュラーズへと託すのである。


 飛び散る水飛沫、とめどない水の流れ。その清流には、ちらほらと川魚の姿も見られる。
 そよぐ風は夏を感じさせず、涼しげだ。物陰に入れば陽光による暑さも軽減され、とても過ごしやすい。
 しかしながら、そんな憩いの地で寒気を感じさせる音が聞こえてくる。
 ひたり、ひたり……。
 水の滴る音は間違いなくこちらへと近づいてくる。
 ひたり、ひたり、ひたり、ひたり……。
 それが止まったかと思えば、いきなり襲ってくる女性型の魔物達。
「あぁ、いやだ、いやだ……」
 空からは腕が翼となった別の魔物達が。
「ころして、ころ、して……」
 その瞳には涙も零れ、音も立てずに岩場の上で弾けたのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 豊穣の地、爽やかな渓流に現れる天女……モンスターの討伐を願います。

●目的
 天女含むモンスター集団の討伐。

●敵……天女×4体
 『衆合地獄』華盆屋 善衛門が作品として作り上げたとされるモンスターです。
 肉腫を寄生させられて体を大きく作り替えられ、元の人格は無くなっているようです。元に戻す手段は分かっておらず、歪められた生を終わらせてあげる他ないようです。

〇濡れ女×1体
 全長は人間種成人女性くらい。主に女性を狙って水の中に引きずり込もうとするようです。
 下半身が魚のようになり、海種を思わせる姿となっていますが、常に全身が濡れているのが特徴的です。
 水を使った呪力での攻撃を得意としています。

〇姑獲鳥(こかくちょう)×3体
 こちらも人間種成人女性くらいの大きさで、女性の顔に両腕が翼となった姿をしており、少女をさらう姿が目的されているそうです。
 敵対する者には呪力を伴う瞳で睨みつけ、威力と射程距離のある呪力弾と広域に飛ばす羽の弾幕を併せて攻撃を仕掛けてきます。

●状況
 豊穣の地、高天京から離れた山を流れる渓流は地元民も釣りや水浴び、避暑に訪れるなど、ちょっとした憩いのスポットとなっています。
 ただ、最近はモンスターが現れるという噂も出ており、神使……イレギュラーズがその討伐を依頼されました。
 昼夜は問わず、ある程度固まって過ごしていると主に女性を狙って襲い掛かってくることが確認されています。
 戦場となるのは渓流と面した岩場、砂利の集まる水辺など。場所によっては林に面しています。また、渓流の流れは場所によっては速い為、流されると戻ってくるのに時間を要することがあります。

 事後は河原で渓流釣り、水浴び、バーベキューなどを楽しむことができますので、存分にお楽しみくださいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • ひたりひたりと濡れ女完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月16日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀のとなり
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
アルトリウス・モルガン(p3p009981)
金眼黒獅子

リプレイ


 豊穣を訪れたイレギュラーズ一行は高天京を離れ、山を登っていく。
 まだ日が昇る時間帯、これからメンバーが訪れるのは避暑地となるキャンプ地とのこと。そこに現れる魔物討伐が任務だ。
「せっかくの夏の楽しみを魔物に邪魔されたくはないな。これ以上、被害が出る前に対処しよう」
「ぶはははっ! これからのシーズンに安心して憩えるよう、しっかりお仕事こなさねぇとなぁ!」
 肩まで青い髪を伸ばす精悍な青年、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はキャンプ場の従業員や客の憂いを絶つべく対処しようと皆に同意を求めると、色黒な肌をした豚の獣人を思わせる『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が豪快に笑う。
 ただ、今回の状況はそう単純ではない。
「人を浚って改造はやばいでしょ」
「肉体を改造され、新たな犠牲者を作るために動き続けなきゃいけない……こんな胸糞悪い話、あるかよ」
 小柄で色白な肌をした希薄な存在の女性、『死生の魔女』白夜 希(p3p009099)の言葉に合わせ、金髪金瞳に黒いライオンの耳と尻尾を持つ『新たな可能性』アルトリウス・モルガン(p3p009981)は露骨に今回の事態に嫌悪感を示す。
 今回討伐対象となるのは、改造によって天女と呼ばれる魔物とされた女性達。彼女達は、改造主の命によって新たな素材を求めているのだという。
「敵は人為的に命を歪められた犠牲者……その方々も本件の被害者では?」
 現場となるキャンプ場の利用者に被害がないと事前情報ではあったが、毛先が白くなった桜色の髪を靡かせる巫女の少女、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は天女らを人に戻す手段がなければ、この件の被害は0ではないだろうと静かに憤る。
 ただ、言うべき改造主に届くことはない。今は被害の拡大を防ぐべく注力するしかないと珠緒は首を振る。
「これ、放っといたら結構ヤバい案件よね? 同じ女性として絶対許せないわ!」
 その傍らでは、黒目・黒髪の眼鏡っ子『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が素直に怒りを露わにしていて。
「モンスターにされた『彼女達』を苦しみから解き放つためにも、必ず解決しましょう、珠緒さん!」
「ええ、蛍さん。せめてそこだけでも、確実にやらねばなりません」
 比翼連理の仲で結ばれた2人は、互いの気持ちを確かめ合い、依頼に臨む。


 昼間、現場となるキャンプ場を訪れた面々は、そのまま渓流の流れる河原へと向かう。
 彼らは従業員から砂利の集まる水辺の場所を聞き出し、そこへと直行していた。他の場所に比べて足場が安定し、射線の確保がしやすいという判断。また、視界の悪い夜を避けたのも交戦の為だ。
「ここで魔物を引き付ける作戦でいいんだな?」
 アルトリウスの確認にも、皆から異論は出ない。
 現れる魔物のうち、下半身が魚のようになった濡れ女は流れの速い水中へ、主に女性を引き込むという。
 珠緒がファミリア―2体を飛ばして魔物による不意打ちを警戒する中、囮となるのは……なんとゴリョウである。
「引き付けは任せますッス!」
 トナカイの獣種、『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)が事前の話を受け、改めて彼へと願うのだが……。
 ギフト「棒を針に」によって外見を細身としたゴリョウは、ゆったりとしたワンピースを着用して変装する。
 長く横にふんわりとしたウィッグが顔の輪郭を、鍔広な帽子が目元を隠し、羽織るケープが肩幅を隠す。
 加えて、ゆっくり内また気味に歩くことで男性に見えぬよう装い、一見すればゴリョウであるどころか男性とすらわからぬ外見に彼は変わって見せた。
「さて、濡れ女は水中から来るのだろうか?」
 一部、その女装を良く見せる為の提案をしていたイズマも、ゴリョウの囮任せにはせず聞き耳を立てる。
 心地よい水の流れに交じり、やがて聞こえている物音。
 ひたり、ひたり……。
 水中から現れるかと思いきや、そいつは川の上流から流れに沿う様に現れる。
「……あぁ……」
 ギフトで存在感を消す希など後方にいる女性メンバー達には目もくれず、全身をびっしょりと濡らした人魚の如き魔物は何かを呟きながら一直線にゴリョウへと近づく。
 ひやりとした感触。それを感じた彼はギフトを解除して。
「無力な女性と思ったか? 残念、俺だ!」
 オークの姿へと戻った彼は金色の双眸で濡れ女を睨みつけ、その注意を引く。
 新手の妖怪と思わせることで、敵を怯ませる狙いもあったようだ。
「うぅっ……!」
 濡れ女が呻いたタイミング、真上から飛来してきた3体の魔物。両腕が翼となった姑獲鳥らである。
「彼女はマーメイド。あっちはハーピィ。概ね同じ姿かたちで、ここまで酷くできるものなのか」
 旅人である軽装鎧姿の侍、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)にとっては、目の前の魔物は出身世界にて共存していた見慣れた魔物だったが……。
「いやだ、いやだ……」
「……ろして、ころ、して……」
 うわごとのように呟く彼女らと快活だった自身の世界の魔物との対比が際立ち、エーレンも余計にこの所業に対する怒りが静かに募っていたようだ。
「歪んだ作品なんかにされて、尊厳を失っても死ねないなんて……嫌だろうな」
 口につく言葉は本人の望み出会ったのだろうが、すでに彼女達に理性はない。ただ改造主の命に従って人を襲い、あるいは連れ去ろうとするのみだ。
 魔物達に憐れみを抱く希は、こんなことができる人間がいるんだねと首を振って。
「……ああ。これは……もう終わらせるしかない、のかな」
 希の呟きに、イズマがもはや言うことはないと頷いた。
「複製肉腫だったら、助けてあげたかったんッスけど……こうなってはもう手の施しようがないッスね……」
 せめて苦しまずに終わらせてあげられればと構える鹿ノ子の言葉によって、希は肉腫という存在について思い返す。
「引き抜けば、治らなかったっけ……」
 事前情報では、元に戻す手段はわかっていないとのことだったが、希はやるだけやってみようと、アナザーアナライズを使って生態情報を集めることにしていた。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。すまない、少しだけ我慢してくれ。……すぐに楽にする」
 その間、魔物へと名乗りを上げるエーレンが謝りながらも聖十字剣を抜く。
 また、アルトリウスも素直に現状を魔物達へと吐露する。
「オレ達は、お前達を元に戻す手段は持っていない。今できるのは、お前達を殺すことで今生から解放することだけだ」
 ただ、アルトリウスは握る拳に力を籠めて。
「……だけど、約束する。お前達をこうしたヤツは、オレ達神使が必ずぶん殴ってやる!」
 そうして濡れ女に向け、アルトリウスは殴り掛かっていくのである。


 河原で敵……天女の集団を出迎えるイレギュラーズ。
「貴女達のように辛い運命に遭う女性達をこれ以上出さないために……」
 2冊の異形の本を剣と手甲に変え、蛍はさらに力強い言葉で続ける。
「そして、貴女達がこれ以上悲しまないですむように、ここで倒させてもらうわ!」
 飛来する姑獲鳥を、そのまま蛍が珠緒と共に相手取る。
 蛍は空飛ぶ敵の気を引くべく、致命の桜吹雪を舞い降らせて。
「飛ばせはしないわ。ボクの元に……さあ」
 桜の花びらに気を取られ、降り立ってくる姑獲鳥達。
 合間を縫うようにイズマが攻め入り、2人の負担を軽減しようと冷たい一撃で敵を狙い撃つ。
 イズマの攻撃もあって、地へと落ち立ったままの姑獲鳥らへと、少し距離をとっていた珠緒が使うスキルは突撃戦術「ダニッシュ・ギャンビット」。
 チェスで用いられる戦術でもあるが、珠緒は一気に相手を蹴散らそうと嵐を巻き起こして己の力を高め、蛍へと最も近づいた姑獲鳥目掛けて激しく瞬く光を放っていた。
 その光に、濡れ女の視線が向く。
「ぶははっ、余所見はいけねぇな!」
 ただ、ゴリョウが金の瞳で見つめたことで、濡れ女は水に呪力を纏わせて散弾の如く彼へと投げ放った。
 ゴリョウはそれを防ぐべく、駆動大青鎧『牡丹・海戦』も纏って水中へと引きずり込まれる状況にも備えていた。
 ゴリョウに気をとられるその濡れ女へと、他メンバー達が全力で攻撃に当たる。水中へと相手を引きずり込むという濡れ女は最優先討伐対象だ。
「足場が良いとはとても言える場所じゃねぇからな。気をつけろよ」
 アルトリウスが言うように、足元は砂利、近場に水場と、足をとられかねぬ状況で立ち回らねばならない。
 魚の下半身を持つ相手がバランスを崩せばいいが、さすがに期待しすぎかとエコーロケーションで相手を見ていたアルトリウスは接敵し、近接武装「ラ・レーテ」を相手に叩き込んでいく。
 アルトリウスに続き、エーレンが自らに肉体再生を一時的に施してから攻撃に出る。
 接敵の勢いを得て十字剣から繰り出されるは、全てを断ち切る刃。確かに濡れ女の体を裂くには至るが、敵も簡単にはやられぬと身を引いて被害を食い止めていた。
 ただ、その背後には鹿ノ子が回り込んでいて。
「いくッスよ、『猪鹿蝶』!」
 鹿ノ子も白妙刀【忍冬】を握っており、火力、命中精度の増した一撃、いや、連撃を見舞っていく。
「猪、鹿、蝶!」
 再度、攻撃に合わせ、獣の名を叫ぶ鹿ノ子。改造によって能力が高まっている濡れ女も思った以上の相手の能力に顔を顰めていた。
 仲間達が交戦する中、相手の能力を探っていた希が愕然とする。
「肉腫の寄生が、深すぎて……」
 改造度合いも相まって肉腫は体へと根を張り巡らせており、救出は絶望的であると言わざるを得ない。
「……殺すことしかできないなんて、私もずいぶん無力になったもんだね」
 殺すことなら誰にだってできる。それでは自分がいる意味がないと嘆く希は、意を決して長杖「メサイア・ダブルクロス」から禍々しい白い光を放ち、濡れ女へと振るう。
 決定的な一撃を叩き付けられたなら、それで終わり。希はそう認識しながらも、稚拙なる必殺の一撃を再度振り上げるのである。


 そこから先はイレギュラーズの一方的な展開だった。
 ゴリョウに気を取られたままの濡れ女の隙を突き、鹿ノ子が3連撃を叩き込む。
「ああぁ、うぅ……」
 最後まで無念さを感じさせながらも、濡れ女は誰一人水場へと引きずり込めぬままにその場へと崩れ落ちる。
「ぶははっ、次は姑獲鳥だな」
「もう女装とか関係ないッスね」
 鹿ノ子は小さく笑い、残る敵へと向かう。

 姑獲鳥は変わらず2人がかりで抑えており、堅牢なる防御態勢をとる蛍が傷つきながらも相手にしていた。
 宙を飛ぶ相手が距離を離そうとするのが厄介であり、蛍はその度一時的に飛行して桜吹雪と業炎の火の粉を舞い散らす。
 敵が落ちてくれば、珠緒も抑えと削りに当たる。
「動きを封じることで、意に沿わぬ暴力を少しでも、止めましょう」
 再度、珠緒が瞬かせる神聖なる光に灼かれた姑獲鳥らが動きを止めれば、イズマが彼女らの放つ羽の弾幕を浴びながらもしばし耐え、細剣で相手の体を貫いていく。
 途中からアルトリウスも名乗りを上げていて。
「多少は耐えてみせるさ、その間に立て直してくれよ?」
 身体を張り、姑獲鳥の呪力弾や瞳に耐えるアルトリウス。それによって若干体を硬直させていた彼だったが、その言葉に甘え、蛍は珠緒の天使の歌で傷を塞いでいたようだ。
「1体ずつ、確実にいこう」
 そんなエーレンの呼び掛けもあり、個別に対処するメンバー達。
 エーレンが先程と同様に接敵すると共に相手へと斬撃を刻み込む。今度の一撃はかなり深く、姑獲鳥の表情が歪む。
 そんな相手の苦痛を察したのか、希は翼ある人の姿をした闇の炎を発して。
「せめて安らかに。なるべく苦しまないように」
 黒炎の天使はそっと姑獲鳥へと抱擁し、その歪んだ生を終わらせていた。

 2体目には鹿ノ子が向かっていて。
「正直、空を飛ぶ敵とは相性が悪いんッスけど……そうも言ってられないッスね!」
 加えて、呪いの視線は何らかの異常をもたらすのは間違いない。それもあり、鹿ノ子はできるだけ目を合わせぬように「猪鹿蝶」を見舞う。
 そいつの討伐に注力していたイズマ。
 濡れ女が既に倒れていたことで水中での戦いとはならなさそうだと、彼は意識を集中させて。
 細剣「ノクターナルミザレア」を操るイズマはまず、鋭い一突きで相手の体を貫く。
 それによって攻撃態勢を崩された姑獲鳥へ、イズマは膨張した黒い顎を食らいつかせる。
 さらなる攻撃手段も残していたイズマだったが、その前に姑獲鳥は意識を失って地に倒れていた。
 残る1体は蛍、珠緒ペアが追い込む。
 蛍目掛けて呪力弾を発した姑獲鳥が続けて翼を広げようとするが、全身に負った傷もあってかなり動きが鈍ってきていた。
 ――この炎が、彼女達の悲劇と悲しみを浄化する火になればいいのだけど……。
 その時、蛍は眼前の敵の悲しい運命から目を逸らさないという強い心を持ち、業炎を大きく燃え上がらせる。
「……こんな「救い方」しかできなくて、ごめんなさい」
 放つ炎は姑獲鳥の体を包み込む。ただ、生存本能なのか、相手はその炎の中でももがこうとしていた。
 そこで、珠緒が両手の内に光を煌めかす。
「これが珠緒の最も速い技……苦しむ時間も、一瞬であればと願います」
 刹那の後、光に穿たれた姑獲鳥の瞳から光が消え、浮力を失って河原へと落ちていったのだった。


 戦いを終え、イレギュラーズは倒れた天女達や遺留品を纏める。
「願わくば、次の人生では憂いなく人生を楽しめることを」
 エーレンを始め、メンバーらはまず彼女達の弔いをと、黙祷を捧げて。
「この国の詳細な葬儀作法はわかりませんし、気休めかもですが」
「……うん」
 できる限りのことをと主張する珠緒と共に、蛍もその冥福を祈る。
 そのまま埋葬して弔おうとエーレンは考えていたが、希がその前にできる事をしたいと話す。
 他の仲間達を気遣い彼女はこっそりと隠れつつ、作業を進めて。
「多分、この濡れ女も姑獲鳥も攫われた人なはず」
 改造された女性達の遺品で素性が分かればと思ったのだが……、
 纏っていた衣装、着けていた髪飾りなどでわかるかもしれないと、それらを回収した希は、霊魂疎通で呼びかける。
「奪われていたのは肉体だけだと思うから……」
 肉体の枷をなくした魂が自由になったのを確認し、希は遺留品を纏めて。
「最近悔しいこと多いな」
 木陰から遊ぶ仲間達を目にした希だったが、今は遊ぶ気にはなれないとこの場を離れることにしたのだった。

「さあ、ここが安心して楽しめる憩いの場に戻ったことを、皆に知らせてやらねば」
 一方で、冥福を祈ったエーレンは、キャンプ場のスタッフの元へと向かって。
 彼が報告へと向かう間に、メンバー達は大きく背伸びして。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……楽しませてもらおうかな!」
「……そうッスねぇ、せっかくだし」
 イズマは早速、川魚を捕ろうとまずは岩場から釣りを試すことにする。また、鹿ノ子は川魚捕りの邪魔にならない河原付近で水浴びを始めていた。
「ぶははっ、それじゃこちらも始めるか!」
 持参した料理道具を広げたゴリョウは早速肉を焼き始める。
 戻ってきたエーレンも肉を仕込みつつ、竈を利用して白米も炊いていた。
「川魚釣れたよ!」
 程なくして、イズマは嬉々として釣果を皆に見せる。一部は水中へと潜り、直接捕えていたようだ。料理上手な2人にそれらを託したイズマはその仕上がりに期待せずにはいられない。
 エーレンが早速それらを手早く捌き、ゴリョウがここぞ腕の見せ所と丁度いい具合に火が通るように注視する。通しすぎれば身がパサパサになって美味しくなくなってしまうからだ。
「……こんなものだろう」
 焼けた肉と共に、焼き魚を差し出すゴリョウ。
 早速、それをとってきたイズマが一口。程よく焼けた川魚の身はホクホクでとても美味しく、彼も目を見張っていた。
 他メンバーもそれぞれに焼けた肉や野菜を口にし始め、ほっこりとした表情をするのに、イズマはうんと頷いて。
「皆で美味しいものを食べるっていいよな」
 彼はそう言いながら、持参したあるてろ茶を仲間に振舞う。豊穣の地で人気の紅茶とあって、皆芳醇な香りとほのかな甘みのある味を堪能していた。
 なお、その料理の一部を、ゴリョウは先程祈りを捧げた天女達の供え物にとして。
「成仏してくんな」
 そんな光景もあってか、珠緒は即座に気持ちは切り替えられないと小さく溜息をつく。
 傍にいた蛍は仲間の作る料理には舌鼓を打ってはいたが、物憂げに景色を眺めて。
 流れる川は変わりなく過ぎゆく。それに、蛍は運命の残酷さを思う。
 そんな蛍に珠緒は寄り添い、しばらくの間心を鎮めていたのだった。

成否

成功

MVP

白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ公開です。
 MVPは事後の一時を使ってまで、天女達のことを考えていた貴方へ。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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