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シナリオ詳細

再現性東京2010:愚挙テレビジョン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――悪性怪異:夜妖<ヨル>

 澄原 晴陽は苦虫を噛み潰したようにかんばせを歪めてからそう吐き出した。ブラックコーヒーを注いだマスコットのマグカップから手を離しテーブルに並んでいた報告書やカルテをまじまじと見遣る。
 ソファーに座っていた澄原 水夜子は適当なチャンネルをセレクトし、テレビ画面を食い入るように見詰めていた。見慣れた澄原病院の入り口には記者が群れて殺到している。
 テロップには『大規模行方不明事件の被害者が搬送!』と面白可笑しく記載されている。水夜子にとっては「まあ、暇な希望ヶ浜らしいですよね」と云いたくもなる様な。そんな光景だ。
 記者に囲まれているのは院長である晴陽だ。佐伯製作所の職員やアルバイトの学生達が多数行方不明になったスキャンダラスな出来事はイレギュラーズにとっては『新たな事件の始まり』でしか無かったが希望ヶ浜では大事件として取り上げられていたのだろう。
 音呂木 ひよのに言わせれば「想像ついた出来事」である。
 突如としてゲームに閉じ込められたなど誰が信じようか。現代日本でそうした出来事が『有り得ない事』であるのは希望ヶ浜を訪れた人間ならば誰しも知った事だろう。
 つまりは、イレギュラーズによって救われた研究員や学生達は突如として行方不明状態から解放され、マスメディアの好奇の視線に晒されぬ為に澄原病院に『経過観察のための入院』を行っているのだという。
「いやあ、私がR.O.Oに探索に行っている間に希望ヶ浜も随分と……姉さんもテレビデビューですか?」
「……今ほど、院長を辞めたくなったことはないわ」
「ふふ。龍君がグレた時でさえ週刊誌でバッシングされる程度でしたもんね」
「……」
 嘆息する晴陽に水夜子は可笑しそうに笑った。

 ――被害者の方は何と仰っていましたか!? 佐伯製作所による無理なアルバイトが原因とのことですが!

『……詳しくは存じ上げません』

「ですって」
「誰が信じるのですか。ゲームに閉じ込められていました、なんて。一大ミステリーとなるくらいでしょう。
 それで、水夜子。音呂木さんを呼んで来たのでしょう。……『仕事の依頼』を学園へと出して頂けますか」
「祓い屋には任せないんですか?」
「誰かを犠牲にしても良いと考える個人事業主に全てを救う事を願う『病院』が依頼をするとでも?」
 嫌っていますね、と水夜子は微笑んでからテーブルの上に置かれていた書類を手に「行ってきます」と手を振った。


 病名: 愚かなるビフローズ
 症状: 人間の知識に巣喰う夜妖。様々な憶測が飛び交う昨今、活動が観測されやすくなった。罹患患者は真実を得る為ならばどの様な行いにでも身を投じることが出来る。

「との事ですが」
 カフェ・ローレットにてひよのは溜息を吐いた。澄原病院から齎された依頼は単純明快な事ではあるが、面倒そのものだ。
 詰るところ、『佐伯製作所大量行方不明事件』を探る人間を標的に動き回っている夜妖を討伐して欲しいと言うことなのだ。
「実は『夜妖憑き』になりやすいタイプの夜妖であるらしく……それを未然に塞いでおきたいという事と、晴陽先生がマスコミ疲れしているのでこれ以上適当な憶測で病院に飛び込んでくる愚か者を減らしたいと」
「愚か者」
 そう繰り返したイレギュラーズにひよのは肩を竦めた。
 テレビでは繰り返し放送されている佐伯製作所 大量行方不明事件に関して。
 佐伯製作所の社員やアルバイト職員、体験学習として訪れていた学生達が大量に行方を晦ましたのだという。
 その際に、大規模にアルバイトを募集しておりアルバイトの内容が『ゲームのデバッグ』であった事から面白おかしい憶測が飛び交っている。
 デスゲームに参加させられたのだとか、ゲームと称して他国に売られていっただとか……そんな『現実味の無い』『信じること出来ない』事件の真実を探りたいと願った『希望ヶ浜的一般人』達に夜妖の『魔』が差した。――簡単に言えば、夜妖は取憑いてその欲求を肥大化させると言うのだ。その欲求により得た知識を喰らい、喰らい尽して飽きたらポイなのだという。
 澄原病院にはそうであったであろう患者が『脳を喰らい尽されて』体だけ運ばれてくることが繰り返された。手の施しようのない患者ばかりが頻発すれば、これも佐伯製作所の陰謀だとかそうした論調になりかねない。
「つまるところ、夜妖を撃破して希望ヶ浜の平和を守る簡単な仕事なのですよ。
 まあ……夜妖憑きの人間が現われるでしょうから、そいつをチョチョイと倒して夜妖を逃さぬように撃破すれば宜しいかと。
 場所は、お誂え向きに佐伯製作所です。夜ですが、R.O.Oで運ばれてきた患者の受け入れをしている澄原病院たっての願いなので貸し出して下さいました」

 それにしても、どうして晴陽がマスコミに囲まれているのか。囲まれるなら佐伯製作所の方では――そう言いかけたイレギュラーズは「あ」と呟く。
 ……佐伯製作所の名の通り、所長、佐伯 操は現在はR.O.Oのコントロール(出来ていない!)に駆り出されて居るからか……。
 さて、晴陽の精神状況が悪くなる前に、夜妖を倒して希望ヶ浜の平和を守りに行こう。

GMコメント

 R.O.Oに出張中の水夜子さんが「何だかそれで希望ヶ浜も大変そうですよ」と依頼を持ってきました。

●成功条件
『愚かなるビフローズ』の討伐

●夜妖憑き
 悪性怪異<夜妖>が一般的な人間に憑依した症例の事。悪性怪異と呼ばれる者の直接的な外囲がないケースや代償を支払えば大丈夫なケースも多数見受けられます。
(例:なじみは猫耳と尻尾は顕現しているものの『ヒミツの代償』を支払っているようです)

●愚かなるビフローズ
 人間の知識に巣喰う夜妖。様々な憶測が飛び交う昨今、活動が観測されやすくなった。罹患患者は真実を得る為ならばどの様な行いにでも身を投じることが出来る。
 との事ですが、正しい意味での『脳食い虫』です。知識を得た脳そのものを喰らい尽して次の人間に移動するタイプの実害の或る夜妖。
 そんな遺体ばかり搬送されてきてはまたも世紀のミステリーなのでさっさと倒して欲しいとのことです。
 尚、夜妖が『どの様な姿をしているのか』は分かりません。誰もがそれを見た事あるのは人に憑いているときだけです。
 攻撃方法は近接タイプであろう事が推測されます。また、必殺等も有しているようです。
 意思疎通は不可。普通に怖いお化けです。怖いお化けであるのは確かです。

●『愚かなるビフローズ』に憑かれた男
 マスメディアの記者のようです。カメラを手にふらふらと佐伯製作所に訪れます。
 知識のためならば人殺しも厭いません。首から提げた名札には『希望ヶ浜テレビジョン』『車山野 サトル』と書かれています。
 彼は人間離れした能力で闘います。不殺を行う事で夜妖と分離させることが可能、命を救う事ができます。
 意思疎通は多少出来ますが、大体「得る為なら必要ないだろ!死ねー!」って感じです。

●佐伯製作所 ホール
 佐伯製作所1番ホール。佐伯製作所の有する社屋の第一ホールです。
 このために開放されており、自由に出入りできます。つまりは『愚かなるビフローズ』へのエサです。
 ただし、『愚かなるビフローズ』に憑かれた男以外にも無数の人影が見えます。彼等もまた『佐伯製作所 大量行方不明事件』を追いかける人々なのかも知れません。丁重にお帰り頂いて下さい。

●佐伯製作所 大量行方不明事件とは?
 佐伯製作所とはaPhoneやインターネットを希望ヶ浜に提供する佐伯 操(練達三塔主)の研究施設です。
 つまるところ、希望ヶ浜ではそう呼ばれていますが、R.O.Oの実験に携わった人々が大量に行方不明になったという話です。

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 再現性東京2010:愚挙テレビジョン完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年08月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
原田 幸村(p3p009848)
あやかし憑き

リプレイ


 ――それで、佐伯製作所の件ですが……。

 ワイドショーで面白おかしく取り上げられる流行ニュース。aPhoneで利用できる佐伯製作所の張り巡らせたインターネット上でも都市伝説のように語られる。
「狭い地域でそんなに毎日大きなニュースなんてないだろうに」
 嘆息する『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は水夜子がタブレット端末で確認を促したニュースサイトのトップページを眺めてから肩を竦める。
「テレビだネットだとよくニュースが並ぶものだと思ったものだが、引きこもりのワリに――いや、だからこそ随分と情報に貪欲なことだ」
「知りたがるのは人の性。だからこそ、この事態ってのはまぁそうなるわなって感じなんだがよ」
『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は求めるは事実では無くて真実か、と呟いた。探し続けても真実は何処にも存在せず、納得出来る答えを求めれば求めるほどに『希望ヶ浜らしさ』を失っていく。ラダの言うとおり閉じた世界で或る癖に真実を求めるが故に、出会ってしまうのだろう。
「ふむ、ROOでもちもちしてる水夜子ちゃんからこの依頼とは! この手の夜妖憑き退治に私ちゃんはまた駆り出されるとはね。
 つまり普段おさぼり気味の私ちゃんも、巫女として頑張るのです! そんな私ちゃんが言うなって話だけどな! ぶはは! ……今のひよの先輩が聞いてたりしないよね?」
 依頼者である水夜子はナン食わぬ顔で後方を指さした。『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の首が『ぎぎぎ』と錆付いた人形のように動く。
 後方で微笑んで居たひよのに気付きニコラスは「やっちまったな」と秋奈の肩を叩くのであった。
「うう……ローレットからの正式な依頼って初めて受けたけど……何だか普通の学生からしたらどえらい事に巻き込まれてる様な……」
 困ったように呟いた原田 幸村(p3p009848)にとっては慣れぬ初仕事がやって来た。澄原病院から渡された資料をaPhoneで確認する彼の背後では『八尺ちゃん』と呼ばれた守護霊が覗き見ている気配がする。
「それにしても『脳食い虫』とか害悪過ぎる……。
『好奇心は猫をも殺す』とか言うけどその果てが能無し死体とか勘弁してほしい。俺も気を付けないとね、八尺ちゃん」
 十分、彼も希望ヶ浜にとっては『異質』な存在――そもそも、希望ヶ浜では怪異の存在は是とされない――ではあるが、それはそれ。
 彼に害を為さない怪異と、誰かに害をなすか良いならば後者の方が受入れがたいのは確かである。
「脳食い虫ですか! 嫌ですねー、しにゃの叡智の詰まったパーフェクトプリティ頭脳が狙われちゃいますよ!!
 そんな事になったら世界の損失です! 絶対に無事に終わらせましょうね! それにこの騒動で色々明るみになってROOが中断! とか困りますし!
 ちょっとクソゲーですけど神ゲーを終わらせてなるものですか!」
 堂々とそう言い放った『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)の言うとおり『R.O.O』のログアウトエラーを発端としているニュースである。
「脳を啜る夜妖とは実に勿体ない事を。喰らう連中は胃袋と精神が直結しているとでも謂うのか。
 嗚呼、もしや私の文字も舐りたいと。全く、脳と心臓が空なのは今に始まった真ではない」
『深淵を覗くものは』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)にとって脳髄は存在しない。だが、代わりに誰かの好きな御伽噺を詰め込んだ怪奇幻想たるその身は悪性怪異の行いに理解を示すことは出来ない。
「知識を喰らう夜妖とは厄介な……逃すと面倒なことになると思いますし、ここで排除しておかねばなりませんね」
 準備をしましょうかとaPhoneでしにゃこに一度メッセージを送信した『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)。しにゃこは「目の前に居るんだから話せばいいじゃないですかー!」と言うがリュティスは無視をし『状況は此方で報告して下さい』と書き込むのであった。
「知識欲を糧に人の脳を渡り喰らう夜妖とは、これまた珍妙ですね。
 R.O.Oでの諸々でここまで面倒な事態になったのなら、早急に処理をしないとですね。澄原晴陽も困っていますし、やっていきましょう」
 淡々とそう告げる『激情のエラー』ボディ・ダクレ(p3p008384)の傍らで水夜子はにんまりと微笑んだ。そういえば、彼女も澄原一族である。何だと見下ろすボディに『R.O.Oでもちもちしながらほぼ全容を把握している』彼女は「龍くんも喜びますねえ?」と曇り無き眼でそう言うのだった。


 警備員のアルバイトを装って幸村は第一ホールの周辺を見回していた。エレメント・マスター、そして霊術士でもある彼は其れ等で使役できる存在に声を掛ける。周辺の索敵網を張り巡らせる幸村と同じく、入館証を首から下げていたラダはアルバイターの振りをしていた。
 報道陣やメディア取材に十ずれる者達の避難先の確保と案内紙の準備を行っていたラダはaPhoneの着信を確認する。
 此度の討伐対象である『愚かなるビフローズ』に憑かれた希望ヶ浜テレビジョンの車山野 サトルと言う男のみを第一ホールへと誘い込み、その他の報道陣は別の場所へと移動させることを目的としていた。
「こんちゃーすっ音呂木からきましたー」
 挨拶を行い、避難誘導用に使用できる別のホールを借り受ける。職員の服なども佐伯操の協力者である為か容易に借りることが出来た。
「kawaiiしにゃこちゃんに尾行の何たるかを……うーん、わかんね。なんとかなるっしょ! 今度一緒に服買いに行こうぜ!」
 秋奈がにんまりと笑えば『kawaiiしにゃこちゃん』は早速、サトルの尾行へと向かう。リュティスとaPhoneでの連絡を取り合えるように準備は万端だ。
「貴様等が野次や俗物だと謂うのは理解している、何よりも登場人物を目立たせるための糧なのだ。
 兎角、早々に帰り給えよ。変なファッションの貌(もの)に嫌悪を抱きたくはないだろう。Nyahaha」
 朗々と語ったオラボナに何を言っているのだと取材に十ずれていた女記者が近寄り、目を見開いた。超常を理解出来ない彼女にとって『貌』のない存在は理解が出来ないだろう。
「コスプレイヤーか?」
 女記者がたじろいだが、後方より見て居た者達の前に姿を現した秋奈は制服姿である。第一ホールで潜伏していたニコラスは小さく頷いた。
「しかし……このまま騒がれ続けるのも大変だしよ。ぱぱっと解決してやらねぇとな。
 いやほんとマジでお疲れ様だわ。これ終わったらパーっと休んで欲しいわ。そんな暇はないとか言いそうな気もするけど、それでもよ」
 院長室や病院からほぼ出ることが叶わず、施設内で全ての生活が完結している晴陽を思えば目を覆いたくなる。窓から顔を出せば院長がいたと撮影されるのならば堪ったものではないだろう。
「澄原晴陽も疲労が蓄積しているでしょう。これでマスメディアの動きが緩めば良いですが。希望ヶ浜は特異的な地域。どうなるか判別も付きません」
「まあな……」
 ボディの言葉に残念だと肩を竦めるニコラス。反故結界を張り巡らせ建物へのダメージを軽減させ、感情探査を行っているボディは「誰か来ますね」と呟いた。しにゃこからの連絡は未だ無い。リュティスは立ち上がり、標的以外の出入りを防ぐ為に誘導員の振りをする。
「仕方在りませんね。……誘導して参ります」
「ああ」
 行ってらっしゃいと手を振ったニコラスにボディは「希望ヶ浜は面妖ですね」と返すのだった。

「扱えるようになれればひたすら便利だよな、aPhone。落として壊しそうだけど」
 そう告げるラダがメディア関係者を誘導する為の張り紙を貼った。製作所の入り口からサトルを確認しホールへと人が近付かないようにと道を作り続ける。標的より先に彼女の方が先に第一ホールに辿り着く事になるだろう。
「避難の方は順調か? トラブルで人手が要るなら駆け付けるがね」
 ラダの問い掛けにボディは「今のところは大丈夫です」と応えた。そろそろしにゃこから連絡も来る筈だ。
 ターゲットを両眼にオン。耳を眼を、そして鼻を使って『ビフ男さん』を尾行していたしにゃこは紛れ込んでいる一般人はオラボナと秋奈、幸村によって無事に移動を始めていることを連絡する。
(ホールまで普通に動いてくれれば良いんですけどねー。いやー、こんなかわいいしにゃに見詰められるなんて得してますよー?)
 ネットニュースに『可愛いしにゃこちゃんに見詰められちゃった』位書いてほしいものだとしにゃこは小さくぼやいた。
 視線を動かせば幸村が誘導棒を振っている。リュティスに促されて第三ホールまで歩くメディア関係者は渋々と言った雰囲気だ。
「何かご用でしたか? ふんふん。あー、それ、全然しらんしー。んー、あー、ああ、そうそう! そう……あれは一時間前のことじゃったー」
 雑な『やりとり』でメディアの面々を困らせる佐伯製作所の職員。名札には『山口路子』と適当な名前を飾っている秋奈はにこにこと微笑んで居た。
 ……因みに、そんな職員存在しないためにメディアからクレームがやって来ても化かされたんじゃないですかと返すための準備は万端なのである。


「素晴らしい。人間を餌と見做すのは怪物の常だが、此処まで執着させるとは」
 手を打ち合わせたオラボナは秋奈が『足止め』する第三ホールを離れ、第一ホールへとやって来ていた。しん、と静まり返った室内には男が一人立っている。
「誰だ」とその唇が動いた。aPhoneの着信で秋奈はヘンテコなムービーを第三ホールで流し、時間を稼ぎ此方への合流を考えているらしい。因みにムービーは水夜子の原案だ。『面白くないですか?』と定点観察しておいたナマケモノの一日が流れるだけだそうだ。屹度適当な所で彼等は帰るだろう。
「誰だ、か――誰だろうな?」
 夜妖と男の分離をするべく。しにゃこからのGOサインを受けたニコラスが真っ直ぐに飛び込んだ。サトルの急所以外を剣の面で打って行く。
 気迫で意志を削るように、悪性怪異の魔力を毟り取る。ディスペアー・ブラッドの紅色の光にたじろいだ男を直ぐさまに羽交い締めにしたボディは「出られるのはちょっと」と呟いた。
「なッ――」
「本当ですよ。折角ここまで来て頂いたのに! えーと、ビフ男さんじゃなくって……お名前なんでしたっけ?」
「車山野 サトルさんです」
 リュティスに「そうでした」としにゃこは微笑んだ。可愛らしくデコレーションした傘を真っ直ぐに掲げる。しにゃこの背後から勢いよく飛び出したのは黒いワンピースを着ている長身の女であった。
「やっちゃえ、八尺ちゃん! あっ、でも殺さない様にお願いします」
 殺してはダメなのかと振り仰いだ悪霊。幸村はこくこくと頷く。八尺ちゃんの呪術がサトルの体を包み込む。
「正直、初めての正式な依頼だから先輩達の指示に従います。任せてください、先輩方」
「ひ」
 びくっと肩を竦めたしにゃこ。それだけ幸村の表情は『殺人鬼』を思わせたのだ。彼は普通に微笑んだのだろうが、鋭い殺人鬼並みの眼光を美少女に向けたならばそれはそんな反応を返されるだろう。
 息を潜め、緩急付けた邪剣の極意をその身に降ろす。ラダが放つ鋼の驟雨が男の天蓋へと降注ぎ、ボディによって押さえつけられた男との分離を促した。
「頼れるみんなのJK、秋奈ちゃんだ! よっしゃおらー! かかってこいやー!」
 清純なる巫女らしからぬ声を上げた秋奈は『戦神』としての刃を引き抜いた。堂々たる名乗口上と共に鋭い勢いで放った殺人剣は猪鹿蝶と三段に変化する。
 黒髪が大きく揺らぎ、奔る秋奈の背後からふわりとエプロンドレスを揺らしたリュティスが攻め立てる。レッグシースに仕込んだナイフを引き抜いて、弓兵は瀟洒に踊り、その意識を刈り取らんと狙い定める。
 羽交い締めを行っていたボディは無骨な掌に鉈を握り込んだ。勢いよく男の意識を刈り取ることを狙うボディの動きに合わせてしにゃこは「ビフ男さんこっちですよー!」と傘で勢いよく殴った。それは仲間に可愛いオーラをぶつけないための配慮だが、凄まじい光景をボディは間近で見ることとなる。
 ぱっと手を離せば秋奈に引き寄せられるように男は走り寄って行く。剣でその体を受け止めて、唇を吊り上げた。
「よ! そろそろ疲れてきたんじゃなーい? 少年!」
 そろそろその脚もふらついた。ビフ男さんとサトルの分離が始まった事に気付きリュティスは「構えて下さい!」とそう言った。
 ずるりと、男の体から抜け落ちたのは黒き影である。脳を啜る存在は見えもしない暗闇を奔り、影を追い求めるかのように真実を欲す者達を象徴するかの如く『存在しない貌に口だけ』を有していた。牙が覗き紅い舌が暗がりに眩く見える。
 オラボナは「成程」と首を傾いだ。どうにも自身と似た無貌だ。しかし、勿体ない人の業を喰らうそれはオラボナとは対照的ではあるまいか。
「外見は其処まで重要ではない。貴様ならば解せる筈だ」
 首を傾げるように。御伽噺をその身に宿したオラボナは無貌より毀れ落ちた人間の業を重戦車の如き進撃に変化させた。
「逃がしなんざしてやらねぇさ」
 ニコラスが叫ぶ。その剣は容赦を行う事は無く、地を蹴って勢いよく叩き付けられた。ラダの弾丸は狂いなく『黒き影』を狙い穿つ。
「無事引っ剥がしたら捕獲して、どうせですからちょっとあの鬼メイドの脳食べてもろて……しにゃの悪行だけ忘れさせるとか……できません!?」
 この場で最もワルな事を考えているしにゃこの背に「またですか」と声が掛かった。突如首根っこを掴まれて「懲りない方ですね……」と溜息を吐いたリュティスはお仕置きが必要かを検討しているようである。
「無理ですか! ちっ使えないですね! 大人しく永眠しといてください!!」
 足をバタバタと動かしたしにゃこの言葉に頷いて幸村は「八尺ちゃん、お願い」と囁いた。影が伸びるように『黒き人型』を飲み込んで行く。
 その呪術が呪術を喰らう様子をオラボナは愉快そのものだと手を叩いて見守っていた。
 だが、其れだけでは未だ姿を失わないか。中々しぶといのだと呟いたニコラスが「殺しちまうか」と囁けばボディは大きく頷く。
 ぷちり、と。
 まるで虫でも殺すようにそれは無力化された。黒が霧散し、何もなかったように一人の男が地に伏せるだけとなる。
「……終わった?」
 問うた秋奈にラダは「どうだか」と肩を竦めた。
「ここでは情報は娯楽の一種のようだし、この夜妖もいずれまた現れるのだな。
 持病の発作ようなものだ。適宜対処し、付き合っていく他ない。成程医者にとっては頭が痛い相手に違いないな」
 囁くラダに消滅して行く愚かなるビフローズは応えやしない。晴陽が手を焼く相手であるのは確かだが――この発作は当分治まることはないだろう。


 希望ヶ浜を騒がせるホットニュース。こんな狭苦しい空間で流行したからには娯楽に飢えた者達は何時だって同じ事を繰り返す。そんな人の業を嘲笑うようにオラボナは揺らめいた。
 しにゃこの首根っこを引っ張っていたリュティスは「この方は病院で宜しいですか」と問い掛ける。倒れた車山野サトルは澄原病院に搬送しよう、とラダは準備を進めていた。水夜子の用意も周到。メディアを逃れる様に病院に辿り付くルートは想定されているようだ。
「いやー、しにゃ達の活躍で神ゲーの続きも出来そうですね」
「デコイですが」
「くそげー!」
 叫ぶしにゃこに水夜子は小さく笑ってから、車は慣れた様子で救急搬送用のルートを辿る。救急入り口で晴陽が蒼白い顔でイレギュラーズを出迎えた。
「晴陽さん、酷ぇ顔色だな。……何時もお疲れ様。大丈夫か? 休憩しろよ」
 声を掛けるニコラスに秋奈も「そうだぜぃ、せんせー?」とその顔を見上げる。疲労の色が滲んだ晴陽は「今日ばかりはゆっくりと寝れそうですね」と肩を竦める。
「……これで澄原晴陽も楽になるでしょうか? 少しでも助けになれたのなら、幸いですが」
 ボディへと晴陽は小さく頷いた。こうして夜妖に対して『適当』な対応をしてくれることは喜ばしい。彼女には頼れる存在が少ないのだろう。
 祓い屋に頼らないのは其れを祓う課程での犠牲に関する思想が彼等とは大いにズレているからだと聞いている。
「……有難うございます。希望ヶ浜の皆さんはビジネスパートナーですから……また頼りにさせて頂きますね」
「勿論さー。音呂木巫女見習いの秋奈ちゃんにお任せあれ! って、そーいや、せんせーはなんで祓い屋が嫌いなの?」
 何か事情があるのと問うた秋奈に晴陽は困ったような表情を少しばかり滲ませてから「目の前で人が死んだ、それだけですよ」とだけ告げた。
 静まり返った院内にメディアの影はない。だが、外へ出れば無数の人の眼が溢れている。
 今の希望ヶ浜は『有り得もしない事象』で持ちきりなのだ。誰も彼もが日常の中の非日常を楽しむように見たくないものから目を逸らしながら子供騙しな日々を送っている。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 澄原晴陽がげんなりとした様子で顔を出して「お疲れ様でした」と皆さんへ感謝を述べておりました。
 希望ヶ浜はまだまだ落ち着かないでしょうが……R.O.Oも頑張って下さいね!

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