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シナリオ詳細

砂海之地獄

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ラサの商人たちは今日もあちこちへと足を延ばす。
 灼熱の砂漠を踏み越えて。多くの商売道具を荷として乗せながら。
 自らの生を今日も謳歌していた――しかし。
「んっ……な、なんだ? どうしたってんだ、オイ!」
 荷車を引いていたパカダクラの様子がおかしい。
 何度も足をもつれさせている様な……段々と前に上手く進めなくなっているのだ。
 妙な様子だと商人が気付くも――既に『遅かった』

 今、彼らは既に『捕まって』いたのだ。

「う、うわああああ!! 奴だ! ここは『奴』の巣なんだ!!」
「まずいぞ荷を捨てて逃げろ!! 早くしろ、引き摺りこまれるぞ――!!」
 足元で『砂』が動いている。
 それは形容するならばまるで『波』の様に。足を取られればそちらへと引き摺られんとする。
 ――しかも段々とその波の速度は加速していた。
 速度が増し続ければやがて人の足では逃げられなくなるような勢いに。
 その果てにいるのは一匹の魔物。
 大口を開けて得物を待っている――テーシンという『アリジゴク』型の魔物であった。


「アリジゴクの魔物……それで商隊に被害が出ている、と」
 後日。ローレットで商人から話を聞いているのはギルオス・ホリス(p3n000016)だ。
 その魔物は現地でテーシンと呼ばれて恐れられている種族で、まぁ一言で言えばアリジゴクによく似た存在なのだが……しかしテーシンは人すら遥かに超える程の質量をもつ、巨大な存在であるらしい。
 これほどまでのサイズとなれば捕食の対象もアリではない。人すら容易に狩る事の出来る危険な存在だ――
「ええ。しかも奴の巣もまた非常に大きく……気付いた時には奴の巣に足を踏み入れていた、なんて事も。奴は普段休眠状態にあるらしいのですが、テリトリーに侵入した者の存在に気付くと狩りの態勢に移行するのです」
「――なんでも砂をある程度操る事もするのだとか?」
「厄介なのがソレです。砂をまるで波の様に操って……そう。獲物を引き摺り込むのですよ」
 商人の話だと、テーシンは砂を操り自分のいる所にまで強制的に引き寄せる力を宿しているらしい。砂はまるで海の波の様に対象の足を絡め捕って……奴に近づくほどにその速度は増していくのだとか。
 巣の外縁に近い部分であればまだ脱出も可能な事もあるかもしれない。しかし速度がついてしまえばもう無理だ――あとは時間の問題で奴の口元へ運ばれてしまうのみ。
 商人も重い荷車諸共脱出することは出来ず、泣く泣く商品を諦めたのだとか……
「このままでは大損が続いてしまいます! 是非、ローレットに退治してもらいたいのです!」
「成程……しかし話を聞いた限りでは、飛行出来ればさほど難敵ではないような……?」
「ああ、たしかに飛行すれば波にのまれる事はありません。
 ですが……自らがあまりにも不利だと判断した場合、奴は逃げるそうです」
 砂の地下に潜ってどこぞへと。
 常に有利な状態を確保しようとしている訳か。仮に、イレギュラーズ全員が飛行していた場合テーシンはすぐさま逃亡の姿勢を見せる事だろう……その巨体も相まって耐久力も高いらしく、早期に逃げに徹されれば討伐するのは非常に難しそうだ。
「……ひとまずもっと情報を集めてイレギュラーズ達に打診してみる、か」
 ある程度はわざと巣に引き込まれる必要があるかもしれないとギルオスは思考しながら。
 それでもきっと彼らならば勝利せしめるだろうとも確信していた。
 砂の大地に潜り込む悪魔の討伐など――イレギュラーズならばきっと果たせるからと。

GMコメント

●依頼達成条件
 アリジゴクの魔物『テーシン』の撃破

●フィールド
 ラサの砂漠地帯の一角です。時刻は昼でも夜でも選べます。
 首都ネフェルストから西の方に大分進んだ所ですが、この辺りは商人がよく通る所でもあるのだとか。最近そこに後述する魔物、テーシンが現れています。

 まずはテーシンの目撃情報があった地点へと赴いてください。
 ……が。テーシンはアリジゴクであるが故か、完全に『待ち』の姿勢です。つまり、結構探す必要がありそうです。ラサの砂漠は過酷な環境ですので、探索が長時間に至ると体力(HPやAP)に影響が出始めるかもしれません。ご注意を!

●テーシン
 所謂『アリジゴク』と呼ばれる生物に非常に似ていますが――サイズは遥かに巨大です。
 非常に優れた耐久能力と、鋭い牙を携えています。もしもテーシンの巣にのまれ、奴の懐にまで引き寄せられてしまった場合は牙に注意してください。この牙に噛まれるとそこから体力をも吸い取られてしまいます。
 また他の攻撃方法としては砂を飛ばしてきます。
 これは遠距離にまで届く攻撃で『足止系列』や『窒息系列』のBSを付与する事もあります。ただし前述の牙と比べればさほど攻撃力が高い訳ではありません。

 奴は普段、砂の下に潜り込んで身を潜めています。
 奴の巣(潜んでいる箇所から大体半径100m)内に踏み込んだ獲物の存在を感知すると起きて、砂を操り自らの懐へと引き寄せんとしてきます。距離が近くなる程流れも速くなり、身動きも取りづらくなるようです。
 具体的には反応・回避・機動力に影響が出始めます。
 ただし機動力が高いと、これらの減少効果は軽減されるようです。

 飛行しているとこの流れには一切巻き込まれないのですが、飛行しながら攻撃してくる人数が多いと、テーシンが警戒して場合によっては逃亡してしまうようです。恐らく二名~三名程度が限界でしょう。

 奴を逃がさないようにしつつ、なんとか撃破してください!

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 砂海之地獄完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ


 灼熱の砂漠というのはラサにとっての日常だ。
 そしてこの枯れた大地には多くの魔物も多く出現する――
「ワーム、サソリ、アリジゴク……ラサではこの手の魔物が定期的に湧くものだ。珍しい話という訳でもない。ま、今後の為にも被害防止のノウハウを蓄積できるといいんだがな」
 特に『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)にとっては今回の様な魔物騒ぎに関しても『日常』の範囲と言えた。今回はアリジゴクの類らしいが、以前は砂漠の中を泳ぐワームなどを相手にした事も……
 まぁ過去の話はともあれまずは見つける所からか、と。
 彼女は日差しを防ぐラサの伝統的な衣装と共に――砂の大地を往く。
 日光に当たらぬ様に長袖でありながら、風通しの良い代物。
 砂漠の昼に直射日光を浴びてはならぬと。その他水や補給物資、いざと言う時の為の周辺地図や大きめのテントも持ち込んでおこうか――万が一の事は隅々まで考えても損はないのだから。
「ラサの環境に適した奴といやぁ、魔物ながら流石なもんだがよ。
 ちぃと面倒がすぎるぜ、ったくよ。せめて目につく所にいてくれってんだな」
「ええまったく――砂を自在に操るアリジゴクの魔物、ね。ラサ特有の魔物って感じだわ」
 ただ戦うだけでなく探す事もせねばならぬとは、場合によっては気の遠くなる事になりそうだと悪態をつく『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)。だが周辺の商人などが困っているのであれば倒す他ないと『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)は思考するものだ。
 アリジゴクの魔物テーシン――話に聞いた様な、砂の流れをある程度操るというのも砂漠ならではなのだろう。環境に適応した魔物の撃破……まずは奴を探さねばならぬと、イレギュラーズは班を二つに分けるものだ。
 昼に行動を開始したのも探しやすくする為。
 キャンプの設営が終わればすぐにでも赴こう――
「全く。砂漠ってのは足も取られるわ寒暖差が激しいわ、厳しい所だよな。
 夜になりゃあ今度は一転して極寒の気温……その前にケリは着けたい所だ」
 そしてラダ、ルナと共に『仁義桜紋』亘理 義弘(p3p000398)は、テーシンが目撃された箇所でのミニキャンプを設営する。一つのチームが探索している最中、もう一つのチームはここで休んでおくのだ。
 幸いと言うべきか――今回の依頼は発見を上手くできれば攻撃のタイミングはこちらが選べるのだから。
 故に往く。まずはエルスにラダ、亘理にそして。
「物流や交易を阻む魔物の排除……なんとなく、自分が元々生まれた世界を思い出してしまいます。あれも相応に過酷なものでしたが……よもや此の暑さは……」
 既に若干ダウン状態の『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)と共に、だ。きゅう、と熔けてしまいそうな感覚を得ているアッシュだが、持ち込んでいた水筒の水を喉に押し込めば――頭を振って前を向く。
 油断すればまーた熔けてしまいそうな熱気だが負ける訳にはいかないのだ。
 気持ち少し多めに水筒を用意して、己のみならず疲弊している者があらば即時手渡そう……ああ、何の用いもしていなければ干からびてしまうのが想像だに易い! こんな所でミイラになるのは御免である!
「ま、焦ると碌な事にはならないよ。余裕はもっていこう――
 なに。少なくとも今すぐ急いで倒す必要はないんだから」
「ああ……だがさて。奴さんは一体どこにいるこったかね」
 汗だくのアッシュをラダは気遣いつつ、歩を進める亘理と共に周囲の探索を。
 二人が用いているのは『耳』だ。優れた聴力を用いて、周辺に妙な動きの音が無いかを探る。如何に砂の下に潜っているとはいえ、獲物が来ないかを窺っているのならば……多少なり生命の気配というものはあるはずだ。
 或いは後は――抜け殻のような生物の死骸や隊商の残骸が無いか、目も用いるべきかと。
「夜は視界が悪くなるから今の内、ね。寒さも襲ってきたら咄嗟の動きが鈍らないとも限らないし……テーシンの吐き出した生物の欠片でもあれば目印になりそうだけれど」
「ええ――とはいえ砂漠はやはり広大ですね。地平まで続く灼熱の光景……ふぅ、ふぅ……」
 過酷なる地への耐性を宿すエルスは、瞼の上を掌で覆いながら視界を確保。照りつける太陽光の果てまで見据えて――同時にアッシュはファミリアーの鳥を空へと飛ばすものだ。
 流砂や不自然な砂の窪みなどが無いかと。上空からなら多少安全の筈だ……尤も、テーシンが空まで感知せぬとは限らぬ故に気持ち少し高めに飛ばして存在を気取られぬ様に注意もしている。
 ある程度遠くまで直進させ、Uターンさせてもう一度。
 繰り返し繰り返し丹念に探索を進めるのだ。
 ああ、きっとお辛いでしょうが……頑張ってくださいね、小鳥さん。
「……後で水浴びさせてあげますからね」
 休憩時か、帰った後に存分にと。
 額に流れる汗を拭って――砂漠の地平を彼女は見据えていた。


 砂漠の灼熱は皆の体力を容赦なく削っていく――が。
「いやぁホント暑いわねぇ! もう服とか全部脱いじゃいたい気分!!
 え、ダメ? じゃあ代わりにカキ氷食べたいわカキ氷!! 近くで売ってるかな!!?」
 『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)は服の胸元をばたつかせ、風を得ながら出発の為の準備を進めていた。こんな事もあろうかと灼熱の地への耐性は用意していたが……しかしそれにしても暑い場所だ。
「まぁそろそろ出番だよね! 頑張ろうぜー、あっはっはー!!」
「やれやれ……随分と元気な事だな。まぁ暗いよりはいいのだろうが」
 同時。京の天を突くが如くの活力に反応したのは『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)だ――しかしアリジゴク。アリジゴク――か。
「……あくまでも普通の、俺の故郷のでかいヤツの話だが。あれが巣をつくる乾燥した細かい土(砂)の土地は、風が地面を馴らして平らにする。つまり――不自然に残るくぼみは意図的に作られたものの可能性が高い」
 踏み込むまで気付かなかった……そう深くはなく。
 広く浅く、緩くなだらかな勾配程度にしか見えないか――
 或いは砂丘の間の谷間がそれなのかもしれない、と彼は考察する。
「この先に似たようなモノがあった注意、だな。気付けば奴の領域という事は十分あり得る」
「その前に事前に発見できるのが一番なんだがな――人にしろ動物にしろ生き物を狩ってるなら、獲物になった連中の血の臭いとかがへばりついてないかね。身じろぎや呼吸の音を拾えりゃラッキーなんだろうが」
 アーマデルの注意を耳に拾いつつ、ルナは優れし五感にて周囲を見る。
 目で、耳で、或いは鼻でテーシンの気配がどこぞに無いかと。
 奴が感知するより早くこちらが感知出来れば――より優位を取る事ができよう。
「砂の下にありし怪物、ですか。
 あまり興味はないのですが……放っておくのも少しかわいそうですね」
 それでも万一奴の奇襲に備えて前を行くのは『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)だ。彼女の踏み留まる力は尋常ではなく、絶対に殺害せしめる程の意志と技能がなくば――彼女の力を奪いきる事叶うまい。
 故にその特性を活かし、囮として彼女は率先して前にいるのだ。
 万が一何かあってもそうそうには崩れぬと。
 勿論捕まらぬのならばそれに越したことはなく、故に彼女は同時に精霊との疎通を試みている――現地に精霊がいれば、彼らから情報を得る事も決して不可能ではないだろうから。
「或いは、怯えた精霊でも見つける事が出来れば異邦者がいると推察も出来るのですが」
「成程、精霊は見逃している……とも限らんしな。なにせ魔物だ」
 サルヴェナーズと共に周囲を見据えるアーマデル。
 さぁどこだ。交代しながらそれなりにこの地帯を探索し続けている。
 そろそろ『何か』あってもおかしくはない頃だと――そう思った、瞬間。

「おお? 砂が――動いてやがる。来るぞ! 気ぃ付けろ!!」

 まずもって気付いたのはルナであった。足元の様子が、おかしい。
 それが奴の奇襲であったと即座に気付いたのは獣種としての本能が故か――仲間に声を飛ばして連鎖的に行動を促せば。

『カ、ァアアアア!!』

 彼方でなんとも凄まじい声が――轟いた。
 人の声ではない。これがまずもって件の魔物……テーシンだろう。
 遂に奴の巣を見つけた訳である。ならばまずは、総員をもって奴を叩くのみ!
「はっ――ようやく出てきたの! 逃げられちゃ堪らないから、速攻で仕留めるよ!」
「やれやれこのタイミングで来ますか。まぁこちらも体力は温存出来ていましたが」
 まずもって行くのは京であった。飛行する力を用いてテーシンの下へと直進――
 その命。逃がさず消し飛ばしてやろうと蹴りをぶち込むのだ。
 一歩で音速。二歩で壁超え雲を纏い、三歩で赤熱し四歩めでは――もはや至高。
 着弾すると共に凄まじい衝撃波がテーシンを襲い、同時にサルヴェナーズは己に注意を向けるべく動くものだ。暗く輝く泥が周囲に広がり、それは彼女を守護するように――或いは害する者を喰らう牙となるべく。
 纏いて続かせるは催眠魔術。魔眼より至る魔術の奔流がテーシンの意志を縛らんと。
「さて。普段地中にいる者が地上へと這いずり出されたら……どうなるのかな?」
 直後に往くはアーマデルだ。元のアリジゴクとどこまで差異があるか知らぬが――
 しかしあくまでもアリジゴクだというのなら目はさほどよくない筈だ。
 退化しているはずのその目が全てを焼く白日の下に晒された時、眩むか否か。
「試させてもらおうか」
 放つ一撃。未練の結晶が奏でる音色が――テーシンへと叩き込まれた。


 時刻は未だ夕刻にもならず、昼の範疇であると言える。
 つまる所灼熱は続き、イレギュラーズ達の体力を削り続けている訳である、が……しかしミニキャンプを設営し、順々にチームを送り出す戦術が功を奏していた。陰ありし場所で休んでいる者達の体力の消耗は少なく、むしろ水の補充も出来るのであれば回復もしよう。
 故に体力は全快――とまでは言わないまでも好調な状態を保てていた。
 いざテーシンとの戦闘に至っても問題ない程に。そして。
「あの様子は――遂に見つかったか。よし、行くぞ!」
 だからこそ休憩中であったラダ達の行動も早かった――
 別チームが戦闘の気配に巻き込まれたのを勘付くや否や現地へと赴く。これよりは温存していた体力の全てを奴へと投じるのみ……! 順繰りに各地をローラーしていた所為かが遂に出たかと。
「ごめんなさいね、もしかしたら貴方は貴方で自らの生を営んでいるだけかもしれないけれど……ラサの民を困らせるのならば、私はあなたを滅するしかないの」
 そして至るエルスは前衛として乗り込むものだ。
 テーシンが操る流砂の流れにむしろ乗る様にして接近していく――近くに至ればサルヴェナーズらが戦闘中であり、その奥には巣の、穴の底で待ち構えているテーシンと思わしき巨大なアリジゴクが存在していた。
 ――見えるは強靭なる牙。アレに噛まれれば軽傷とはいくまい。
 それでも奴を滅するべく、エルスは往くものだ。
 奴めの牙を砕いてやる為に。周囲の、ラサの平穏を護るために。
 放つ一閃。だが、気を付けるべきは牙のみならず、奴が被せてくる『砂』も、だ。
「注意しろ――砂を投げかけ落ちてくる獲物を捕らえ喰らうのが奴の常套戦術だ。
 囚われれば一気に奴のペースとなるぞ」
 直後、アーマデルが注意すれば案の定とばかりに――砂が降り注ぐ。
 それは獲物を逃がさぬ様にするための妨害。攻撃力自体は決して高くはない、が。
 刹那でも視界を奪われ、奴の流砂に足を運ばれてしまえば致命的だ。
「顎の力は強いが脚は弱い。砂の地下深くへ逃げるのも身を隠すのは勿論、歩行が得手ではないからかもしれない……だからこそ奴からこちらへ近づいてくる事は早々無いと思うが、油断するなよ」
「ああ。だが、どうせ逃がさねぇ事も考えたら――多少は踏み込むしかねぇよなぁ」
 言いながらアーマデルは撃を紡ぎ、そして彼の言葉を受けた上で進むのは義弘だ。
「中々のデカさだ。近付くのを怖がってたらよ、中々『芯』までは届かせられねぇ」
「成程――それも道理ではあるな。
 やっと探し当てた相手……ここで逃がしては今日一日が台無しとなるのも事実」
 意地でも仕留めておくかと、ラダの援護を受けながら義弘は五指を握り締め。
 ――往く。
 ラダの狙撃がテーシンの頭部を狙うように。挑発せしめし一撃が隙を作れ、ば。
 その刹那に距離を詰めた義弘が――拳をぶち込む。
 全霊の一撃を。奴めの『芯』に響かせる一撃を。
 内部に浸透せし極限の一撃は衝撃波となりてテーシンを内部から襲い――
「このままお前に先手はやらねぇぜ。覚悟しときな……ラサの連中狙ったのが運のツキさ」
「みんな困ってるみたいだし、さっさと退治してあげちゃうんだから!
 さぁさぁさぁ! そのご自慢の牙はどうしたの、蹴り折ってあげようか!!」
 更に続くのはルナと京だ。
 ルナは己が圧倒的な機動力を生かした超速度からの――所謂逃げ撃ちをもってしてテーシンを討つ。彼程の脚力があればこそ、テーシンの操る流砂の影響などほぼないに等しいものだ。
 同時に京は低空を飛行しつつ、全身に回転の力を携えながら――牙を一閃。
 超速の蹴撃が奴を穿つ。逃げさせないし、逃がさない。
 その意思をもってして奴を追う。更には地表にて録音していた『歩く音』を再生すれ、ば。
『――!?』
「おーおー混乱してるね。訳も分からないまま、潰れちゃいな!」
 人々の歩く音などを普段知覚していたテーシンには混乱の元となるものだ。
 空を飛んでいる者ばかりではないのだと奴に示す為に音をリピートしてやる。
 ――その隙に奴へと更なる攻撃を叩き込もう。
 このまま奴を混乱させ続け、ペースを握り続ければ楽に――

『キ、シャアアア!!』

 だが度重なる痛みに苛立ったのか、テーシンが暴れ出す。操る流砂の速度が加速し、バランスを取り辛くもなるものだ――そうしてテーシンは牙を近くへと至ったイレギュラーズ達に突き立てんと急速に迫りて。
「そうはいきません――ここで貴方には果ててもらいます」
 しかし。そうはさせじと奴の攻撃の隙間に介入したのがアッシュだ。
「人には人の、貴方がたには貴方がたの、生きる為の営みというものがあるのでしょう」
 其れがぶつかり合い、互いに退けぬのなら。
「どちらかが滅ぶ定め」
 故に。此処で朽ち果てて頂く。
 放つ雷撃が砂を這う様に迫りて――アリジゴクの身へと絡みつく。
 巨体を喰らう蛇が如く。首元へと噛み付き、そして。
「お逃げになりますか? しかし、そうさせる訳にはいきません」
 たまらず砂の下に避難しようとしたテーシン、をサルヴェナーズが止めた。
 再び放つ魔眼の力が形成するのは、これまた蛇だ。
 戦場の各所に大蛇の群れが湧き出て襲い掛かって来る幻影――
 それ自体はテーシンを仕留めるに足る一撃ではないが、地中へ行かんとする手足を狙ったソレは一瞬の停滞を生み出して。
「これで終わりよ――さようなら、砂漠に住みし生命よ」
「お前も生きる為に食ってるだけだろうが、私等にとっても死活問題でね。
 観念してくれ。これが定めだ」
 さればエルスとラダの、命を断絶するに足る一撃が――テーシンの身を打ち砕いた。
 ――奴の身が崩れてゆく。流砂の動きは止まり、巨体は轟音と共に倒れれば。
「手強い敵だったわね……他にもいないか警戒した方がいいかしら?
 一匹だけ、とは限らないものね」
「おぅ。でも周囲には似たような奴がいる様な気配ないな――とりあえずはコイツだけだろうさ」
 エルスが周囲を見据える。テーシンはあくまで今回の依頼にて、商人らを困らせていたわけだが……種族として他にもいるかもしれないと。だがルナの知覚範囲内に――同じ様な存在がいる様な気配はない。
「ま、問題ねぇだろうさ。それより傷が深い奴はいねぇか? キャンプの所まで運ぶぜ」
「はぁ。もう、ホントかき氷食べたいかき氷!! う~早く帰ろ!!」
「賛成、ですね。とにかく水……水がもっと欲しい……」
 ともあれ依頼は達成したと思えば、ルナが皆の身を気遣って。
 さすれば京とアッシュはあまりの暑さに限界なのか、早めに帰還したい所であった――これ以上照りつける太陽の下にいる理由もない。義弘らがキャンプの撤収を完了すれば、そのままローレットへと戻るとしようか。
「……」
 寸前。エルスは去る前にもう一度テーシンのいた方を見据えるものだ。
(……魔物にも魔物の命はある。けれど、彼を生かす選択肢は無かったのかしら)
 それはあくまで彼女の願望。全てを生かせる選択肢なんてどこにもない。
 正義なんてものを振りかざす気もまたない――けれど。
 彼女の、元々吸血鬼であったという種族が魔物と共に生きる事は出来ないのかと。
 どうしても思考を馳せてしまうものだ。
「せめて彼らに理性があったなら、ね」
 寂しく、呟く様に言の葉を零せば。
 ソレは砂を運ぶ風に溶けて――どこぞへと。

 砂漠の大地は死の大地。果たして自由を許容できる寛容さがこの地にあるか、それとも……

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 テーシンを探す為にキャンプ地を設けるのはとてもいいアイディアだったかと思います。
 かなり調子のいい状態で奴と戦いに挑むことが出来ました! お見事でした。

 それではありがとうございました!

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