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シナリオ詳細

悪辣の種は砂漠に芽吹く。或いは、月下一夜物語…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●EX MISSION
 Rapid Origin Online
 それはもう一つの現実。
 それはもうひとつの混沌。
 それはもうひとつの世界。

 オアシスの都ネフェルスト。
 商人と小悪党たちの行き交う通りの真ん中で、三月うさぎてゃん (p3x008551)は停止していた。
 目の前を人が通り過ぎようと、うさぎてゃんは身じろぎの一つもしなかった。
 一見すると異様であるが『プレイヤー』なら、彼女が何をしているのかは一目瞭然。
 メール、もしくは運営からのメッセージを確認しているのだ。
 事実、通りの所々には、うさぎてゃんのようにピタリと停止したまま動かない人影が散見できた。
「これは……EX MISSIONのお知らせ?」
 こてん、と。
 小首を傾げ、うさぎてゃんはそう呟いた。

 Rapid Origin Onlineへとログインした彼女がまず初めにしたことといえば、メッセージやお知らせの確認であった。
 幾つか届いていた【お知らせ】に混じっていた1通のシステムメッセージ。
 それは、先日行われた大規模イベント【Genius Game Next】の後日談的な小規模シナリオの通知である。
 砂嵐近郊を舞台とした盗賊団“砂蠍”との戦争。
 その中で、うさぎてゃんが参加したのは、戦力確保のために村を襲っていた盗賊“フザリー”の討伐ミッションだ。
 そのミッションでは、小さな村が1つ丸ごと犠牲になった。
 ごくわずかな生き残りの救出を成し、仲間とともに盗賊フザリーを討伐した。
 任務の途中でうさぎてゃんは【死亡】判定を受けてしまったが、ミッションは無事に成功に終わったと聞いている。
 救えなかった命は多いが、それは仕方のないことだ。
 フザリーの存在が確認された時点で既に手遅れ。
 だから、この話はそれで終わり。
 そのはずだった……。
 けれど、しかし……。
「っ……なに、これ? どうして……フザリーは倒したはずなのに、何でこんなことになるの!?」
 メッセージを一読したうさぎてゃんは、愛らしい顔を悲痛に歪め、吐き捨てるようにそう言った。

●悪辣の種
 ジンは、人の魂と砂を混ぜ合わせて呼び出された人造の悪精霊だ。
 人間1人を犠牲に1体。
 そう長い期間を経ずに消滅してしまうとはいえ、他人の犠牲を良しとするなら恐れ知らずの兵士としての運用ならば、その点はさほど問題にならない。
 事実、フザリーは先だって起きた戦争に際し、幾つかの集落を潰し、ジンによる大軍勢を成す心算であった。
 フザリーの死によりその目論見は阻まれることになるのだが、彼の残した悪辣の種は幾ばくかの時を経て、遂に発芽するに至った。
 場所は、フザリーが命を落とした砂嵐近くの集落跡地。
 かつて並んでいたテントは解体され、30ほどの粗末な墓標が並んでいるばかり。
 砂混じりの風に吹かれる渇いた花束は、生き残った住人たちが供えたものか。
 
 ざらり、と。
 地面の上を砂が流れた。
 渇いた花束も、粗末な墓標も、朽ちた遺体も飲み込んで、それは集落の外れへ集まっていく。
 否、正しくは埋葬されたフザリーの遺体へ……だろうか。
 死の間際、フザリーは1つの術を使った。
 フザリーの得意とした悪精霊召喚の術だ。
 贄とするは自身の命。
 動力は、フザリーの抱く強い恨み。
 そして、土地に染み込んだ住人たちの苦悶と恐怖。
 中途半端なままに終わったフザリーの術は、永い時間をかけて遂に発動へと至る。
 月明かりを浴び、生まれたのは砂の城だった。
 三角錐に近い形状。
 その頂点には、ミイラ化したフザリーの遺体が埋もれている。
 苦悶に歪んだ表情。
 眼は既に腐り落ちているようだ。
 空洞となった眼窩から、スカラベが1匹這い出した。
 【崩落】【懊悩】【停滞】【呪い】【ブレイク】
 ジンの周囲に吹き荒れる砂塵を浴びれば、それらの悪影響を受けることになる。
 砂は絶えず流れ続け、時折城の表面に、誰かの顔を浮かび上がらせる。
 それは、砂の城に閉じ込められた住人たちの魂の残滓か。
 ジンの材料とされた彼ら、彼女らの魂は、あろうことかいまだに現世に留まっていた。
 フザリーの術に囚われ、永久の苦悶の中にいるのだ。
 砂の悪精霊が、現世に存在できる時間は限られている。
 フザリーが自身を贄にしたそれとて、いずれはこの世から消え失せるだろう。
 通常よりも強大ではあるが、保って数ヵ月が限界か。
 ただしそれは、そのままジンが“何もしなかった場合”の話だ。
 旅人を襲い、集落を喰らい、魂を補充しつづければいつまでだってこの世に顕現し続ける。
 フザリーの強い恨みが、ジンにそういう能力を授けたのであろう。
 ずず、と。
 地面を揺らし、砂の城が移動した。
 見れば、その側面からは黒い砂で形成された幾つもの腕が伸びている。
 腕で地面を掴み、巨体を引き摺り歩いているのだ。
 強い恨みに突き動かされ。
 人の気配がする方向へと進んでいるのだ。
 ジンの進むその先には、小さなオアシスを中心とした小集落があるはずだ。

 ジンには人格など存在しない。
 ただ、恨みと苦しみだけがある。
 指揮者を失ったジンには、ただそれだけが残されていた。
 何に怒っているのかも。
 何を恨んでいるのかも。
 何がこれほど苦しいのかも分からないまま。
 ただ、人の命を奪う“現象”に成り果てた。
 それを消し去る方法は1つ。
 核となっているフザリーの遺体を、もう一度破壊することだけだ。

 ――QUEST:砂の悪精霊・フザリー、発生――

GMコメント

※こちらのシナリオは部分リクエストシナリオとなります。
※参照シナリオ『<Genius Game Next>或いは、悪辣、フザリーと砂の悪精霊…。』
https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

●ミッション
 砂の悪精霊・フザリーの討伐

●ターゲット
・砂の悪精霊・ジン(フザリー)×1
全長10メートルほどの巨大なジン。
砂で出来た三角錐型の体から、幾つもの黒い砂の腕が伸びている。
その頂点にはミイラ化した男の死体が埋もれている。
死体の名はフザリー。この巨大なジンを形成している核である。
また、ジンの内部には30名ほどの人の魂が囚われたままとなっている。
ジンを討伐することで、それらは解放されるだろう。

悪辣な砂腕:神中範に大ダメージ、崩落、懊悩、停滞、呪い、ブレイク
 黒い砂腕による無差別攻撃。


・盗賊、フザリー
故人。
砂と人の魂を素材に、砂の悪精霊・ジンを召喚する術に長けた盗賊。
 

●フィールド
40名ほどが暮らす小集落。
サクラメントは集落の中央にあるオアシス付近に設置されている。
オアシスを囲むように、布のテントが張られている。
時刻は月の明るい夜。
空気は冷え込んでおり、風は強い。
視界を遮るものはなく、集落から見て西の方向に黒い影が見える。
それが、ジンと化したフザリーだろう。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
 

  • 悪辣の種は砂漠に芽吹く。或いは、月下一夜物語…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

じぇい君(p3x001103)
オオカミ少年
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
タント(p3x006204)
きらめくおねえさん
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
ホワイティ(p3x008115)
アルコ空団“白き盾持ち”
きうりん(p3x008356)
雑草魂
三月うさぎてゃん(p3x008551)
友に捧げた護曲
※参加確定済み※
アズハ(p3x009471)
青き調和

リプレイ

●砂の悪精霊
「こんなのは僕の知っているジンじゃない」
 暗い夜。
 見上げるほどに巨大な影が、ゆっくりと砂漠を這いずり回る。
 三角錐型の下半身。
 無数に伸びた砂の腕は、むやみやたらにそこらじゅうを引っ掻き回す。
 三角錐の頂点には、乾いた人の遺体が1つ。
「少なくても僕は、こんなものを見た事がない」
『オオカミ少年』じぇい君(p3x001103)は、それを見つめて言葉を零した。
 彼の背後には小さな集落。
 そこに住まう人々の、命を狙って砂の悪精霊はこちらへ向かって来るのだろう。
「自身の命一つだけで済ますならまだしも、他人の命を何十も巻き添えにして拵えるとは」
 今にも舌打ちを零しそうな顔をして『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)はそう言った。
 集落へ迫る砂の怪物の名は“砂の悪精霊・ジン”という。
 一時前に実施された大規模イベント<Genius Game Next>の中で発生したものである。
 元はフザリーという1人の盗賊であったのだが、敗死に際しておよそ30の人の魂と自身の命を生贄にかつてないほど大規模かつ歪な砂の悪精霊を召喚したのだ。
「死して尚……ね。聞いた話ではこのフザリー、随分と見下げた人面獣心の輩だったみたいねぇ」
「現実と電子、善悪問わず、人は生命を終えれば神の御下に還るべきだ」
 『きらめくおねえさん』タント(p3x006204)や『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)はフザリーに逢ったことは無い。
 けれど、眼前に迫る悪精霊や、伝え聞いたその所業から、フザリーという男が人としてあまりにも“悪辣”なものであると、それだけは十全に理解できるし、それだけ理解れば己が力を行使するのに十分足りる。
「……もう、言葉なんか届かないんだろうねぇ」
 盾を手にした『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)は、乾いた死体を見上げて言った。
 あの時、彼は悪辣ながらにまだしっかりと生に縋り、死を恐れる“人”であったが、果たして今は……。

 大量の砂を巻上げて、強い風が吹きすさぶ。
 砂塵と共に蠢く黒い腕。
『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)はライフルを構える。
 ストックを肩に押し当て、銃口をジンの本体……頂点に埋もれるフザリーの遺体へと向けた。スコープ越しに見たフザリーの遺体は、すっかり水分を失い、舌や眼球といった部位は既に喪失してしまっていた。
「砂と風……痛いな、砂嵐みたいだ」
 それっきり、アズハは目を閉じた。
 彼のアクセスファンタズム【響界感測】をもってすれば、視覚に頼らずとも周囲の状況を把握できる。
 引き金を絞る。
 火薬の爆ぜる音がして、1発の弾丸が撃ち出された。
 しかしそれは、フザリーの遺体に届く前に、黒い腕に阻まれる。反撃とばかりに、降り注ぐ無数の黒い腕がアズハの全身を打ち据える。
「っ……!?」
 倒れたアズハを引き摺り起こして、『開墾魂!』きうりん(p3x008356)はその背を平手で強く叩いた。
「これで砂腕の呪いも多少は軽減されるはずだよ! がんばれ!」
 僅かな衝撃とともに、アズハへ注ぎ込まれたエネルギー。それが彼の生命力を活性化させた。
 戦闘開始を目前に、きうりんは次々仲間たちの背を叩き、エネルギーを注入していく。
「私が、私たちで絶対にとめなきゃ、これ以上は被害を出させない!」
 一瞬。
 泣きそうな顔をした『ネクストアイドル』三月うさぎてゃん(p3x008551)は、しかしすぐに笑顔を浮かべた。
 亡くなった人を悼むのは後だ。
 起こった悲劇を嘆くのは後だ。
 次に起きる災厄を、未然に防ぐ術があるのなら、それを行使することこそが優先だ。
 そして何より。
 彼女はアイドルなのだから。
 集落に住む、不安そうな人々へ「大丈夫だよ」と、笑顔でそう告げたのだから。
 笑ってなくちゃ、始まらない。

●さぁ! 進め! 私のボルケーノ♪
 熱く、胸の滾る歌声。
 ごう、と空気を押しのけて業火の柱が砂の体を焼き焦がす。

 黒い砂腕が降り注ぐ。
 上下左右より襲い来るそれは、命を刈り取る死神の腕だ。
 フザリーは命を欲していた。
 他人の命を糧として生まれた砂の悪精霊。その在り方が前面に押し出されたものだ。
 本来であれば、ジンは召喚主の命令に従い行動を起こす。
 けれど、今回に限っていえば召喚主は既に故人なのである。
 要するに、今のジンは制御不能の暴走状態ということだ。
「さて……砂の悪精霊、まずは俺と踊って戴きましょうか!」
 深紅の法衣に細剣、盾を構えたツルギが前に出る。
 黒腕による殴打のラッシュを盾で弾き、細剣で斬り払いながらツルギは駆けた。
 横合いより迫る砂腕は転がるようにして回避。
 地面を叩いて即座に立ち上がった彼は、眼前より迫る腕へ刺突を見舞うと再び疾駆を開始した。
「うっ……む!?」
 一撃。
 大きく弧を描くように撃ち込まれた殴打が、ツルギの背を打つ。
 痛みに一瞬呼吸が詰まる。それと同時にツルギは確かな手ごたえを感じた。
 上手い具合に【怒り】の付与に成功したのだ。
 これで仲間たちが仕事を行いやすくなる。
 それと同時に、ツルギの負担増加は避けられ得ぬ状況に陥るが問題ない。
「1+1は2では無いのですよ。仲間と背を庇い合う限り、俺の盾は砕けない!!」
 ほんの一瞬、背後に控えるホワイティへ視線を向けたツルギの頬を、胸を、膝を、肩を。
 全身のあらゆる箇所を、砂の腕が殴打する。

 夜闇を駆ける獣が1匹。
 紺の衣を翻し、砂塵に紛れじぇい君は駆けた。
 ほんの一瞬、あどけない少年の顔に熟練の狩人染みた鋭さが滲む。
「塵芥となり消えろ。この世界はお前の居るべき場所じゃない」
 腕を振るった軌道に合わせ、不可視の刃が放たれた。
 それはまっすぐ、ジンの巨体に沿うようにして頂点に埋もれた遺体へと迫る。
 ざわり、と。
 ジンの体が波打つと、フザリーの体を護るように砂の盾が展開された。
 じぇい君の放った刃は、砂盾を斬り裂きフザリーの胸を抉ったが、大幅に威力の減衰したそれでは、遺体を損壊させるには至らない。
 衝撃でフザリーの遺体が大きく仰け反る。
 ゴキ、と乾いた背骨の砕ける音がする。
 遺体が幾ら損壊しても、ジンの機能が低下することはないだろう。
 むしろ、適正存在の脅威を認めたことにより、砂の腕がさらにその数を増した。
「っ……まるで宿主の悪意を具現化したような姿だ」
「これ見よがしにてっぺんに座しやがって。お山の大将気取りか!」
 自動反撃ドローンを引き連れ、Teth=Steinerはジンの背後へ回る。
 Teth=Steinerを援護するかのように、1つの光弾が空を斬り裂き疾駆した。黒い腕を射貫いて潰したその光弾は、タントの放ったものである。
「今のうちに行ってしまって!」
「あぁ、任せとけ!」
 砂の地面に膝を突きTeth=Steinerは腕を掲げた。
 その手に握られているそれは、大型ハンドガン型スキル発動器『Castor』。
 引き金に指を添えれば、その銃口に眩い閃光が集約していく。
「その砂腕の付け根を吹き飛ばしてやる」
 トリガーを引けば、解き放たれる一条の閃光。
 闇を斬り裂き、宙を疾駆するそれがフザリーの盾として展開された腕を纏めて塵へと変えた。
「よけてっ、Tethくん!」
 直後、きうりんの声が響いた。
 崩れ落ちる塵に紛れて、幾つかの砂腕がTeth=Steinerへ迫っていたのだ。
 Teth=Steinerは転がるようにそれを避けるが、その足首を強烈な一撃が撃ち抜いた。
「ってぇが、この程度じゃ止まらねぇぞ! 舐めんなよ、この程度の修羅場はイヤってほどくぐり抜けてんだ!」
 足首を押さえ、Teth=Steinerは立ち上がる。
 戦闘続行に問題はない。襲い来る砂腕は、自動反撃ドローンによって撃退されている。
 再度、銃を構えたTeth=Steinerの眼前に、何かが落ちた。
「それ、食べて!」
「……え“!?」
 目の前に落ちて来たのは、根元からちぎられたきうりんの腕だ。
 つい今しがた捥がれたばかりと一目で分かる瑞々しさと、ほんのりと香る青い臭い。
 どこか滋味を感じるそれは、まるで野菜のそれである。
「マジか?」
 腕を食えと言ったのか。
 信じられないという風な表情でTeth=Steinerはきうりんを見た。
「いや食べなくても別に触れるだけでいんだけどせっかくなら食べて! 美味しいから!!」
「……マジか?」
 身振り手振りで腕を食えと勧めるきうりん。
 どこかパタパタとしたその動作には既視感があるが、今はそれどころではない。Teth=Steinerは落ちていた腕を拾いあげると、恐る恐るといった様子でそれへ口を近づけた。

 しゃくり。

 空気の爆ぜる音がした。
 夜の闇を斬り裂く閃光。
 虚空を奔る稲妻が、砂城の頂点に立つフザリーの遺体を貫いた。
 一瞬、死体が大きく跳ねた。
 だらん、と。
 乾いた腕を垂らし、遺体は身じろぎ一つもしない。
 その胸からは、焼け焦げ炭化した皮膚が剥離し零れ落ちたが、それだけだ。
「怨霊に対して狂気……果たして効くのか分からなかったけれど、無理そうかしら?」
 銀の髪を風に躍らせ、タントは頬に手を添える。
 首を傾げ、ジンの様子を伺う彼女のすぐ隣に、青い髪の男が立った。
「恨み、苦しみ、怒り……強い動機となるのもわかるよ。そして、あいつはそれに思考を支配されているのだろうね」
 そう言ってアズハは、構えたライフルの銃口をまっすぐフザリーの遺体へ向ける。
「遺体をさらに攻撃するなんて何だか後味が悪いわ」
 そう言いつつもタントはそっと腕を掲げた。
 その背に展開される7色の光翼。
「きらめけ、わたくしの……“ダズリングスープ”」
 タントは指先に生じた光球を、パチンと弾くようにして射出。
「どうか、消えてくれ」
 次いで、アズハはライフルのトリガーを引いた。
 乾いた銃声と共に、1発の弾丸が解き放たれる。
 もつれるように。
 絡み合うように。
 光球と弾丸は虚空を疾駆し、フザリーの遺体の両腕を穿つ。
 展開された砂の盾を撃ち抜いて。
 バキ、と。
 乾いた肉と骨の砕ける音がして、フザリーの両腕が落ちた。

「スイッチ!!」
 ツルギが叫ぶのと同時に、ホワイティが前線へ向け駆けあがる。
 ツルギの後退速度と、ホワイティの前進速度はほぼ同時。
「そおぉい!!」
 ツルギへ向けてきうりんが1本のきゅうりを投げた。
 本質的には、先ほどTeth=Steinerへ渡したものと同様だ。
「ちょ、危ないよぉ!!」
 広範囲に降り注ぐ黒い拳が、ツルギときうりんを襲う。
 握った拳による殴打。
 地を這う腕がきうりんの脚首を掴む。
 砂の地面に引き倒されたきうりんへ、濁流のごとく拳が落ちて……。
 一瞬のうちに射線に割って入ったツルギが、その身を盾に殴打のラッシュを受け止めた。
「黒風を語るのは、伊達や酔狂ではないのです! 音速で、最短で、一瞬の刹那のうちに!」
 地面を跳ねて、転がるツルギ。
 その体がホロと化して崩れ去る。
 【死亡】判定を受け、サクラメントへ戻されたのだ。
「ここから先は、わたしが必ず受け切るよぉ!」
 盾を構えたホワイティは、四方へ白い絹糸を展開。
 強風に吹き飛ばされないよう、糸で体をその場に固定し、掲げた盾でジンの殴打を受け止めた。
 ギシ、と鎧の軋む音。
 強い衝撃に、内臓や骨が悲鳴を上げる。
 殴打のラッシュ、そのすべてをノーダメージで回避することは出来ない。酸素を求め、開いた口から血を吐きながら、しかし彼女はその場から1歩も後退しない。
「サクラメントがあれば時間はかかれど戻ってこれる! じぇい君!」
「うん!  僕達でジンを倒さなければね!」
 ツルギが戻って来るまでは、絶対にこの場を退かない。
 そんな決意を胸に秘め、ホワイティは盾を一閃。
 砂の拳を弾き飛ばした。

 砂嵐の吹き荒れる音。
 耳障りな轟音に混じって、幽かな歌声が響き渡った。
『さぁ! 進め! 私のボルケーノ♪』
 胸の内から熱が湧きだす。
 そんな歌声。
『君がいなくなってしまっても私がち ゃんと覚えてるから♪』
 開戦からこっち、うさぎてゃんは歌い通しだ。
 喉が掠れ、肺が悲鳴をあげるけれど、彼女はそれでも歌い続けた。
 降り注ぐ砂の拳が、うさぎてゃんの肩を打つ。
 姿勢を崩し、倒れた彼女はほんの一瞬、歌を止めた。
 一瞬だけだ。
 立ち上がり、歌う。
 広い砂漠が彼女のステージ。
 月の明かりはスポットライト。
 オーディエンスたる仲間たち、そして集落の住人たち。
 笑顔で、凛々しく、気高く歌うその姿に、人々は憧れ、笑顔を注ぐ。
 それが彼女の、アイドルとしての在り方だった。
 業火に焼かれ、砂の腕が崩れ落ちた。
 まだだ。
 まだ足りない。
 これっぽっちの炎では、救える命も救えない。
 護れる命も護れない。
 無限に湧き出す砂の腕を焼き尽くし、フザリーの遺体を撃ち砕く。
 ジンと化したフザリーを、再び討ち滅ぼすために。
 救えなかった、30人の命のために。
「全てを包み込むことは無理でも半分くらいなら……きっとなんとかなる!」
 額を伝う血を拭うような暇はない。
 血と汗で顔を朱に染めながらも、歌う彼女は美しかった。

●悪辣の末路
 ガツン、と。
 地面を這うようにそれは迫り、跳ね上がるように放たれた。
 黒い砂で出来た拳が、ホワイティの顎を打つ。
 身体を固定していた絹糸が切れ、その体が宙に浮いた。
「カバーお願い!」
 無防備な体勢を晒しながら、ホワイティはじぇい君へと言葉を投げる。
 直後、無数に打ち込まれる殴打。
 落下することも許されず、ホワイティは全身を滅多打ちにされる。
 そして遂に、彼女は【死亡】判定を受けて消えた。
「後少しだっていうのに」
「それなら、守りながら攻める!」
 戦線に復帰したツルギと共に、じぇい君は攻勢へと転じた。
 しばらく前から、ジンは僅かも前進出来ていないのだ。
 削られ続ける身体を維持するために、そのリソースのほとんどを裂いているのだろう。
 不可視の刃と細剣が、黒い腕を斬り落とす。
 
 砂の巨体が激しく震えた。
 まるで、夜空へ吠えるみたいに。
 どう、と地面を震わせて三角錐の体から無数の腕を展開させる。
 降り注ぐ拳の殴打を浴びて、じぇい君が【死亡】判定を受けた。
 また1枚、盾が削がれた。
 ツルギ1人でジンの注意を引き続けることは困難だ。ホワイティの復帰にも、もうしばらく時間がかかる。
「いざとなったら、私ごとやってくれていいよ!」
 自身に治癒を施しながら、きうりんが前線へと上がる。
 ツルギへ向けてきゅうりを投げ渡した彼女は、そのままジンへ殴り掛かった。

 砂の腕を回避しながら、アズハは宙を疾駆する。
「死角から砂腕を伸ばして殴ろうなんて、させない」
 砂の拳がアズハの頬を掠めて裂いた。
 飛び散った血が、アズハの頬を朱に濡らす。
 ひらり、はらり。
 風に舞う1枚の羽のように、ライフルを構えたアズハは宙を飛び回る。
 時折放つ弾丸は、黒い腕の根元を射貫いて崩壊させた。
「数が多いな」
「でも、もう少しよ……人々の命を、魂を、守るために」
 戦いましょう。
 静かな声がアズハの耳朶を震わせる。
 きらり、と。
 闇を斬り裂く一条の光。
 アズハの傍を、1発の光弾が通過した。
 まっすぐに跳んだそれは、フザリーの胸部に穴を穿った。
 タントの放った光弾が、狙った獲物を逃すことはあり得ない。

 砂の体を駆け上がる、1人の戦士の姿があった。
「だから、舐めんなよっつってんだろうが!!」
 大口径の銃を手にTeth=Steinerは駆けていく。
 何発かの攻撃を喰らったのだろう。
 額からは、滂沱と血が流れている。
 その口にきうりんの細い腕を咥え、充血した目で獲物を見据え、走る彼女はまるで夜叉か何かのようだ。
 飛行と跳躍を繰り返すことで、彼女はフザリーへと接近。
 そんなTeth=Steinerの元へ、数本の腕が襲い来るが……。
「私が届かないのなら……届かないなら仲間を届かせればいいのよ!」
 ごう、と。
 空気が押しのけられて、業火の柱が噴き上がる。
 景色が歪んで見えるほどの超高温。
 うさぎてゃんの起こしたそれは、黒い腕を炭へと変えた。
 そして……。
「その怨念は微塵も残さねぇ。屍星の光に埋もれて消え失せろ!」
 遺体の前へと迫ったTeth=Steinerは、銃口をその眉間に当てた。

 一条。
 閃光と共に、落雷のような轟音が響く。
 夜空を白く染め上げるほどの熱衝撃。吹き荒れる衝撃派は、ほんの一時、音を置き去りにした。

 ただ1人。
 広い砂漠にうさぎてゃんは立っていた。
 フザリーによって、贄とされた住人たち。
 そして、当のフザリーも。
 塵と化して、砂漠の風に吹かれて消えた。
「お墓……また作らなきゃ」
 空に浮かんだ白い月を、うさぎてゃんは見上げて呟く。
 ぽつり、と。
 零した小さな声と、紡がれる静かな鎮魂歌。
 フザリーも、住人たちも、遺体は既に残っていない。
 けれど、ジンの材料とされた魂は、これで解放されただろう。
 安らかに、彼らが眠れるように。
 うさぎてゃんは、果たしてどんな顔をして、静かで優しい歌を歌っているのだろうか。

成否

成功

MVP

九重ツルギ(p3x007105)
殉教者

状態異常

じぇい君(p3x001103)[死亡]
オオカミ少年
九重ツルギ(p3x007105)[死亡]
殉教者
ホワイティ(p3x008115)[死亡]
アルコ空団“白き盾持ち”

あとがき

お疲れ様です。
悪辣フザリーの残したジンは、これにて消滅。
囚われていた魂も、きっと無事に解き放たれたことでしょう。

この度は、リクエスト&ご参加ありがとうございました。
お楽しみいただけたなら幸いです。
では、また縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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