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シナリオ詳細

<フルメタルバトルロア>鳳圏戦忌憚異伝

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 屋根を貫き床に突き刺さる、巨大な十字の棺桶が、バガンと音を立てて開く。
 おちる細かい瓦礫や破片を払いながら、棺より歩み出る和装の女、お龍(p3x007422)。
 目の前にある人物に思わず身構え、魔力を集めた拳を構えてしまうお龍。
 対して、椅子に腰掛け本を読んでいた軍服の男は、顔に刻まれた目の下の疵痕へわずかに皺をよせた程度で、お龍へと振り返った。
 開いた本にほこりがかかったのが気に食わないのか、手で払ってから立ち上がる。
「どこの犬だ?」
 口調に似合わず優しく、そして耳をくすぐるような低い声。
「人畜であろうとも、躾はされて然るべき。そうは思わないかね」
「は、はる――」
 言葉にするのも難しく、喉につかえたお龍は勢い任せに大声をはった。
「榛名慶一!」
 声に出してしまえば勢いがつく。突撃すれば止まらないという癖が身体に染みついたお龍はそのまますべてまくし立てた。
「普天斑鳩鳳王軍閥現軍団長! 次期皇帝ウェルズを頂くゼシュテリオン軍閥の名において貴公を打倒するものなり! 覚悟しやが――」
 飛びかかり、魔力を限界まで集約させた拳で殴りかか――。

 ろうとした瞬間。大爆発によってお龍は建物三階の窓から屋外へと吹き飛んだ。
 白目を剥いて青い空のしたをくるくると回る。
 窓どころか壁ごと吹き飛び、上と横に大穴の空いた部屋で。
 榛名は椅子に腰掛けたまま再び本のほこりを払った。
「野犬が」


「貴公が特異運命座標(イレギュラーズ)殿でありますか! 自分は加賀准尉! 鋼鉄帝国陸軍准尉であります! 我が国の問題にご協力いただき、感謝いたします!」
 びしりと筋の通った敬礼姿勢と大声で述べる加賀栄龍。
 ここは移動要塞ギアバジリカのエクスギア発棺準備室。開いた棺を横に、次なる作戦の説明が行われる場である。
 加賀を前にしたお龍の『うわあ』という顔。
「ああ、えっと、加賀准尉、おまえはどこの……」
「は! 自分は榛名殿の指揮下にて普天斑鳩鳳王軍閥に属しております! ですがわけあって、ただいまゼシュテリオン軍閥にて発棺作業員として雇われております! 経緯としましては――!」
「まてまてまて分かった! わかったからその姿勢と大声をやめろ! なんかこの距離で見てるとクるものがある!」
「は! 失礼致します!」
 加賀は『やすめ』の姿勢をとると、声のトーンをおとして話し始めた。

「自分は榛名殿のもとで首都進撃の作戦についておりました。
 その時は、それこそが故郷鳳圏のためになると信じてやみませんでしたが、その場に通りかかりました久慈峰殿によく似た少年にたたきのめされまして……なぜでしょう、その瞬間からふと己と榛名殿の間違いに気付いたのであります」
 いま鋼鉄国周辺では『シャドーレギオン』という存在が多数報告されている。
 人がもつ正しき願い(WISH)が悪意あるバグによってDARK†WISHへと歪められた存在である。彼らは己の願いを歪んだ形で叶えようとし、そのために多くの場合武力を行使する。もちろん武力行使癖は鋼鉄国故なのだが。
「当時、自分たち普天斑鳩鳳王軍閥――通称『鳳圏軍閥』は己が故郷の平和と安寧のため、ゼシュテリオン軍閥及びヴェルズを打倒し次なる皇帝となることが必要であると考えておりました。
 第二代鳳王はご病気のためヴィーザルにある故郷鳳圏にて療養しており、作戦指揮権は榛名軍団長殿に移りました。
 現在榛名殿率いる鳳圏陸軍は首都付近の軍事基地を制圧。兵と共に次なる攻撃作戦に移るべく兵を休息させております。次なる攻撃が始まる前にエクスギアにて強襲し、この部隊を叩く――そして……」
 ここまで話してから、加賀は小さくうつむいた。
「榛名殿は、自分を引き上げてくださった立派な御方です。故郷の平和を思うこと、民の未来を想うことはわかります。
 けれど……そのために首都を攻撃し多くの死や破壊を生み出すことを選ぶ方だとは思えません。いくら各軍閥による内乱によって首都が混乱しているとはいえ、ここまで大事を起こせばザーバ派やガイウス派も黙ってはいないでしょう。最悪、全員の死――並び鳳圏の物理的破壊という形でこの事件が蓋されてしまうこともありうる」
 軍帽を掴み、握りしめ目元を隠す加賀。
「俺は……そんな結末、見たくねえ」

●鳳圏軍閥とROOの世界
 さて、ここまで解説してきたが、背景についても述べねばなるまい。
 練達の混沌法則解明計画として立ち上がった仮想世界演算システムROO。しかし混沌と同一の仮想世界を作ろうとしたROOは不明なバグによって歪み、ネクストという似て非なる世界を作り出してしまった。
 その折、ログインしていた研究員たちが意識ごと囚われるという事件も発生。研究員救出とバグの原因究明を依頼されたローレットは己のアバターを作りネクストへと入り込み、無数に点在するクエスト攻略という形で探索を始めるのだった。
 そんな中で発生した此度の大型クエストイベント『鋼鉄内乱(フルメタルバトルロア)』は鋼鉄国でおきた内乱をヴェルズ率いるゼシュテリオン軍閥と共に戦い抜くというものだ。

 今回課せられた作戦は鳳圏軍閥の打倒。
 ネクスト世界故の歪みか、鳳圏という『地域』の歴史もまた正史と異なる。
 ウォーカーのヴィーザルへの入植によって開拓が始まった鳳圏という地域は少しずつ移民を受け入れ拡大。小規模ながらある程度の自給自足を成功させた。二代目鳳王は幼い娘と共にこの鳳圏を誠実に導き、周辺地域とも友好的かつ親身な関係を築いていた。
 彼らの願いは常にひとつ。
 『故郷鳳圏の平和ととわの安寧』である。
 彼らはそのために自衛戦力を蓄えた。決して多くはないが、数名の天才的な戦士の登場によって鳳圏は帝国の侵略や他強豪部族からの併呑を免れたのである。
 だがそんな彼らの願い(WISH)が歪み、いま『次なる皇帝になることで平和を強制する』という歪んだ願い(DARK†WISH)へと変わってしまった。
 加賀がそうであるように、一度倒せば彼らのDARK†WISHを浄化し、正気に戻すことができるだろう。
「皆、共に戦った仲間や尊敬すべき先輩方です。どうか、彼らのことを頼みます……」

GMコメント

 エクスギアを用いて強襲。他の兵たちはゼシュテリオンからの支援部隊に任せ、皆さんは『七人の精鋭』と個別に戦ってください。
 基本的にタイマンないしはタッグマッチになりそうです。人数的に一箇所だけは2人で協力できそう。
 そして基本的に余裕はできないので『勝利したら〇〇へ加勢』といったプレイングはカットしてしまってください。『いけたらいく』がデフォルトでセットされたものとして判定します。



 また、今回の突破方法は主に『説得で隙を作って個別に倒していく』です。
 それぞれのキャラクターに対して説得の方向性が変わるので『各個撃破作戦』は絶対に避けてください。敵も味方も次々に潰されてそれはもうめっちゃくちゃなことになります。

●エネミーデータ
『WISH』:故郷鳳圏の平和ととわの安寧
『DARK†WISH』:次なる皇帝になることで平和を強制する

 正史よりも鳳圏の軍事力が低いせいでみな個人戦闘力は低めですが、かといって全員イラストつきのネームドなので油断したり侮ったり、ないしは圧勝前提の作戦を立てていくと普通に負ける危険があります。
 ばっちり対策してしっかりとぶつかっていきましょう。

・不動・界善
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/30482
 戦神として知られる男。真面目で実直。鳳王に忠誠を誓っており、そのために己のすべてをかけている。
 しかし忠義の方向性がDARK†WISHによって歪められているので、忠誠心を刺激すると説得しやすい。
 太刀による豪快でパワフルな戦い方がメイン。
 防御は容易くぶち抜くタイプなのでこちらも火力で攻めないと押し切られる危険あり。

・橘・征史郎
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/48018
 薙刀使いのバーサーカー。戦うことが好き過ぎるせいで強くなってしまった男。忠誠心や誇りや倫理といったものが鳳圏民にしては薄く、戦いの中で命をとりあいたいという修羅の欲求にそって動いている。
 戦意がとにかく高く、弱体化や足止め系のBSに対して高い耐性をもつ。(逆に言うと純ダメージ系のBS以外はすべてはねのける)
 攻撃はシンプルだが率直なためかわすのが難しい。
 彼だけは説得が意味をなさないので、正面からぶつかって倒すしかない相手。

・久慈峰・弥彦
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/23333
 武芸の天才でどこかひょうひょうとした雰囲気の男。戦いを『楽しいか楽しくないか』で考えるところがあり、つまらない相手は瞬殺して終わらせたいと考えている。
 彼を倒すことはあまり簡単ではないが、もし戦いのなかで楽しませる事が出来れば本来の『WISH』をいち早く取り戻しこちらに加勢してくれることもワンチャンある。
 日本刀をつかった自由なバトルスタイル。とらえどころがなく、そして隙らしい隙もない。

・久慈峰・はづみ
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/26720
 真面目で堅物。常に冷静で冗談が通じない。必要なことを必要なだけ行うべきという考えから今回の作戦に従事しているが、『本当に首都攻撃が必要か?』を論理を整理して話してやると案外正気に戻りやすい。
 とはいえ戦いについても一級品であり、すさまじいスピードで敵を翻弄し隙を突くという戦い方をする。戦いながらちゃんと説明するという必要が出そう。さもなくば防戦しまくって引き延ばすかだ。

・志村・亮介
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/28851
 鳳圏きっての色男。ハンサムで清潔感があり、ナンパがうまく非情にモテる。
 その才能をかわれて諜報員として各地に潜入することもしばしば。
 今回は攻撃作戦にモロに加わることになったことに当人的にはあまり乗り気ではない模様。戦闘力にはそこまで自信が無いらしい。
 頭が切れるだけでなく人の話も聞く男なので、戦いながら説得してみるとかなり戦いやすくなるはず。
 色男なだけあって誘惑や色仕掛けに強いので注意。

・葛西・いずみ
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/19538
 鳳圏界で例外的にやべーヤツ。内なる殺人衝動が高すぎて制御できず、欲望のままに人を貪り斬ってしまう。
 彼女も彼女で戦って倒すのが妥当な相手だが、彼女の場合『もっと欲望に素直になっては?』といったたぐいの説得が逆に刺さる。
 なぜなら、本来集団行動ガン無視して殺人鬼になっていた筈の葛西が『みんななかよく首都進撃』とか言い出す歪みにさらされているからである。
 彼女が抑圧されてしまった殺人衝動を引き出し欲望のままに戦うよう仕向けると、そのまま仲間になってくれることもワンチャン。

・榛名・慶一
https://rev1.reversion.jp/illust/illust/20170
 本件の作戦指揮官。謎の強さをもっているが、しっかり準備して挑めば対抗できない相手でもない。
 落ち着いた物腰で祖国のことを常に思っている。
 国を想うあまり個をなくし、彼自身の感情や価値観はかなり希薄になっている。
 そのため平気で嘘もつけるし人を騙せる。逆に他人の嘘や謀りには敏感で、現状のDARK†WISHにも自分なりに疑問をもちかけている模様。
 しっかり戦いながら説得を試みれば自己矛盾に気付いて戦いの手が弱まる筈。逆に、つくべき隙はそこしかない。

●おまけ解説
・黒鉄十字柩(エクスギア)
 中に一人づつ入ることのできる、五メートルほどの高機動棺型出撃装置。それが黒鉄十字柩(エクスギア)です。
 戦士をただちに戦場へと送り出すべくギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
 棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。

※WISH&DARK†WISHに関して
 オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <フルメタルバトルロア>鳳圏戦忌憚異伝完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ザミエラ(p3x000787)
おそろいねこちゃん
雪之丞(p3x001387)
ばぶぅ……
夢見・ヴァレ家(p3x001837)
航空海賊忍者
リアナル(p3x002906)
音速の配膳係
お龍(p3x007422)
だぁくひーろー
焔迅(p3x007500)
ころころわんこ
アーゲンティエール(p3x007848)
魔剣遣い
ユアン(p3x009175)
放浪人

リプレイ

●揺籃から棺桶までのあいだに
 轟七番発棺チャンバーは、他と比べて鉄さびと蒸気の匂いがひどい。まるで血に狂ったようなその部屋で、『ケモ竜』焔迅(p3x007500)は炎狼竜のボディをXXL型棺へと納める。
「鳳圏まで捻じ曲げられているなんて! ……橘中佐殿は大体いつも通りですが!」
 話に聞く限りの橘中佐を比較して、脳内迅が『一緒!』と頭の上で大ききくマルを作っていた。
「おいたわしや皆様……必ずや元に戻してみせましょう!!」
 脳内で『橘中佐殿以外は!』と加えて、棺を内側からがちゃりと閉じる。
 その後ろで、『魔剣遣い』アーゲンティエール(p3x007848)が甲冑をがちゃりとならして棺に脚を突っ込んだ。入りやすいようにうさ耳をぺたんとまげる。
「鳳圏に鳳王、か。
 我は銀の森の外の……もとい、鋼鉄全体の事情について詳しいわけではないが。
 相手はシャドーレギオン、これだけ判れば充分だ」
 棺に寝転がり、剣を胸に抱く。
「鋼鉄の為、民の為、なにより彼ら自身のため――DARK†WISHを祓ってみせよう」
 何度見てもこの風景は異質だな、と思いつつ『調査の一歩』リアナル(p3x002906)は棺に身を丸めた。鉄帝(鋼鉄)の常識は往々にして混沌全体の常識を逸するが、今回がその良い例なのかもしれない。
「まぁ確かに、皇帝の位につけば他の者は平和には生きられるかもしれんが……」
(確かに武力ものを言う世界では多少合理的ではあるけど、皇帝を排出した地域で精鋭達も強い奴らが多い地域なんて…この血気盛んな国じゃあ余計白羽の矢が立ちそうなものだけど。あとついでに皇帝になったら帰れなくなりそうだな、その命狙われ続けるだろうし……)
 なにやら頭の中で考えながら、蓋を閉じる。
 発射棺シーケンスが進み、アームで送り出された棺が次々に射出されていく。

(平和への願いがWISH悪意によって歪められDARK†WISHなる歪な願いとなった……か。いやはや、まさかROOにも鳳圏が存在していたとは不思議では無いが実際に見るのは驚くものじゃな。
 まぁ、「あちら」の鳳圏の事はさておき、それぞれの願いが歪められ更には願った当人達も変えてしまうとは……見るに堪えん)
 豪快に揺れる棺の中で目を閉じる『放浪人』ユアン(p3x009175)。
 思い出されるのは、かつて鳳圏で(厳密には伎庸で)戦った兵や関わった人々のこと。
 しばらくして、到着を知らせるブザーとランプの点滅がおき、衝撃が走る。
 飛行中十字架型になっていた棺が次々と大地に突き刺さり、その一つから『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)が飛び出した。
 この堂々とした襲来に気付いた鳳圏の兵達が身構えるが、既に展開していた支援部隊が兵達へと襲いかかる。その中でもひときわこちらを圧倒する数人のネームドを確認して、ザミエラはヨシッと気合いを入れ直した。
(タイマンかぁ。シチュエーションとしては燃えるけど、責任重大ね?)
 同じく棺から転げ出る『ばぶぅ……』雪之丞(p3x001387)。
(俺の受け持ちは、比較的まともそうな相手の久慈峰・はづみか。
 説得したいが、この体たらくじゃマトモに会話すら出来ねえんだよな……どうすっか
 待てよ、赤子のアバター……そうか、この手があった!
 けど、しかし俺の面子が……だが、穏便に済ませるにはこれしかない、よな……?)
 偶然にも近くでゼシュテリオン支援部隊を一人で十人ほど切り伏せていた久慈峰はづみがちらりと雪之丞を見た。
 目に涙を浮かべる雪之丞。
 そのまた一方で、『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)の棺が開きヴァレ家が身を躍らせる。
「おや、拙者の相手は弥彦殿ですか」
 戦いに加わるかどうかぼんやりと眺めて考えていたらしい久慈峰弥彦へとむき直り、特殊宇宙兵装・夢見ハンマー(フライパン型)を背中の襟の内側から取り出した。そして、顎でくいっと近くの橋をさししめす。
「牛若丸の故事に習って、橋の上でなどどうです?」
「……ほおん」
 弥彦は『ええよお』と言って、ゆらりと橋の方へと歩き出した。

 そして場面はとんで、『だぁくひーろー』お龍(p3x007422)。
 白目をむいてきりもみ回転しながら空を舞い、ごきゃあという聞いたこともない音をたてて地面をバウンドした。
「んがぁ!! なんだこの爆発は!! おかげでボロボロだ! なぜか主に服が」
 がばっと顔をあげると、なぜかダメージを受けた服がまるごと破壊されて下に着ていた水着だけになっていた。しかたなく近くに落ちていたコートを羽織る。
「榛名大佐の顔で……野犬だなんだと散々言ってくれるじゃねえか! 現実の大佐殿は――」
 脳内栄龍の肩をポンと叩いた大佐が、冷ややかに彼を見下ろし『野に下ったか。犬が』と囁いた。
「……今なら言われそうなきがする!」
 唇を噛んで震えるお龍。
「いや、ンなことはいい、とっとと任務遂行だ! 祖国のために!」

●志村・亮介 VS ザミエラ
 早速戦闘からこっそり離脱しようとしていた志村のゆくてを、巨大なガラス辺が塞いだ。
 建物の壁に突き刺さる形で現れたそれに、志村はぴたりと足を止め両手をあげる。
「おっと、降参。俺はバトルとか苦手なんだよね。仲良くしない?」
 そう語る彼の口調には、ほんのりと嘘の匂いがした。
「はろー、お兄さん。お相手お願いできるかな? できれば話し合いですんだら私も痛い思いしないし助かるんだけど」
「へー、奇遇じゃん。俺も女の子を撃ちたくないなー。どう? お茶しない? ほら後ろにカフェテリアあるでしょ? 軍事基地なのに」
 軍事基地なのに? と振り返るザミエラ――の肩に衝撃がはしった。追って強い痛み。
 倒れそうになる身体を動かし飛び退くと、志村がこちらに銃を向けていた。銃口からあがる呪術の煙。
「ごめんごめん、さっきの全部嘘」
「……しってた」
 ザミエラは苦笑しつつも志村の足下に予め仕込んでいたガラス辺を舞い上がらせ、彼へと襲いかからせる。
「お兄さん頭が良さそうだし、ホントはどこかで気付いてたりしない?
 今の凰圏軍閥の動きは強引過ぎるって。そりゃあそっちの軍人さんはすごーく強い人が居るだろうけど……それって『守護神』や『スーパチャンプ』、それに『鋼鉄最速のスピードスター』、そんな超人魔人に確実に勝てるようなレベルかな?」
 奇妙な道具を使ってガラス辺を弾き飛ばし、さらなる銃撃を仕掛けてくる志村。
「ねえ、今のやり方で『鳳圏の平和と永久の安寧』なんて、叶うと思う?」

●不動・界善 VS アーゲンティエール
 斬撃一つで何人もの兵士を吹き飛ばしていく不動。
 次は誰かと構えた彼の前に、アーゲンティエールは堂々と立ち塞がった。
「君の願いは鳳王への忠義、彼に報いる為に鳳圏に平和を齎す、その為に戦う、これで相違ないだろうか」
「無論」
 大地を蹴る一発で地が揺れ、アーゲンティエールのかざしたグレートソードと不動の野太刀が激突する。あまりの衝撃に大きく身体を揺らされるも、アーゲンティエールは一歩さがって踏ん張った。
「首都進撃という行為がどれほどの人間を傷つけるか、どれほどの怨嗟を生むか、一度足を止めて考えるべきじゃないか?」
「止めるべき足などない。前に進むのみ」
 さらなる踏み込みによってアーゲンティエールは突き飛ばされ、重ねて放たれた剣の霊圧によってアーゲンティエールは砲弾のごとく吹き飛ばされた。装甲車用のガレージにシャッターを破壊してツッコミ、車両のボンネットをへこませて止まる。
 が、すぐに身体を転がして離脱。
 次の瞬間に車両が左右真っ二つに切断された。
「その怨嗟は必ずや鳳圏に返るだろう。平穏は遠のくだろう。何より望外の恨みは、君の主を悲しませるだろう」
「そのすべてを斬り捨てるまでだ」
「否、すべては斬れない。戦車を切断できる剣ですら」
 突撃してきた不動の斬撃――を、紙一重で回避したアーゲンティエールは彼の背後をとった。
「――!?」
「それが本当に君たちの望む末路なのか? 君は、君の主君は、『恨まれるべき国』を望むのか」
 迷い。それは、大いなる隙。

●久慈峰・はづみ VS 雪之丞
 目が合った瞬間が最大のチャンス。
 雪之丞は己の肉体が許す限り泣きわめいた。オンギャアである。
 御年28歳。姉から『結婚はしないのですか』と半年スパンで聞かれる歳。
 そんな男が、仮想世界でギャン泣きした。このままおむつを濡らしてやろうかという勢いで。
 そんな彼に、はづみはゆっくりと歩いてきた。刀をゆっくりと鞘に収める。
「こんな場所に赤子、ですか」
 ふしぎと目元はみえない。表情も読めなかった。
 雪之丞の前に立ち止まる。距離にして5m弱。なんでそんな距離で止まるんだろうと不思議に思いながらもギャンギャン泣き続ける雪之丞――に向けて、大きく前屈みになって刀の柄に手をかけた。
(あ、これ死ぬやつ)
 本能で危機を察した雪之丞が激しく寝返りをうっていなければ、肉体がキレイに二分割されていたことだろう。
 移動距離1m。それでも命は助かる距離だ。さっきまで入っていたエクスギアは二分割どころかふりかけみたいに粉々になったが。
 ぎろりと視線が雪之丞へむく。
「戦場に赤子が射出されてくる筈がないでしょう」
「――だよなあ!」
 瞬間的に大人モードになる雪之丞。刀を抜いて時を引き延ばす。斬撃が激しく交差し続けた。

●久慈峰・弥彦 VS 夢見・ヴァレ家
 跳躍。振りかぶる夢見ハンマーが対象を叩き潰――し損ねて橋の足場を叩く。高速スウェーで側面へ回り込んだ弥彦の刀がヴァレ家の首へ迫るが、咄嗟に武器から手を離したヴァレ家は膝から崩れ落ちるような姿勢でのけぞり回避。そのままブリッジ姿勢で両手を肩越しに地へつけるとはねあげた両足で反転スピンキックを繰り出した。残像を残して距離をとり蹴りを回避する弥彦。
「かわされてしまいましたね、残念無念。勝負を決めるつもりだったのですが」
「ほおん。雑兵やなさそうやね……。それで? ボクを楽しませてくれるん?」
 興味があるのか無いのか微妙に分からない顔で刀を構える弥彦に、ヴァレ家は逆立ちしたままニッと笑った。
「楽しませるのは構いませんが、貴方こそ、拙者を退屈させないで下さいね」
「言うやないの」
 急速に距離を詰めて連撃を繰り出す弥彦に、ヴァレ家は鉄板靴による蹴りの連打によって防御。変則でんぐり返しのような転がりで距離をとると、首の後ろから無数の投擲武器を引っこ抜いた。バットや包丁や酒瓶だが。そのすべてを次々に投擲するも、弥彦はそれを次々に切断していく。
 そのまま距離を詰めてヴァレ家の心臓部を突き刺す――が、ヴァレ家はその手首を掴んでがつんと弥彦の額に頭をぶつけた。
「楽しませて頂きました。どうでしょう、これから拙者と一緒に歩むというのは。そうすれば、きっともっと楽しい戦いができますよ」

●葛西・いずみ VS ユアン
 ずがん、と音を立ててエクスギアが突き刺さったのは無数にベッドの並んだ部屋だった。集団治療用の医務室なのか、それとも兵士のベッド群なのかはわからない。
 その中央にて、開く棺。
「おや、おや、おやまあ」
 リズミカルに靴を鳴らし、長い髪をたれさげて身体を傾けるセーラー服の少女がいた。
 腰掛けていたベッドにぱたんと横たわり、棺から出たユアンを見つめている。
 少女の目、というにはあまりにも歪んだ光だ。あふれ出る殺人衝動を隠しすらしない。
「のう……孤高の人斬りはいつからお行儀良く飼い犬に成り下がったのかの。葛西いずみよ?」
「何の話でしょうか。それと、どちらさま?」
「なあに」
 ユアンはスッと手のひらをみせるように、『お手をどうぞ』の姿勢をとると首をかしげた。
「通りすがりのイレギュラーズだ。儂と一つ手合わせ……いや、ヒリつくほどの死合いと行こうか、飼い犬!」
 先に仕掛けたのはユアンだった。
 瞬間的に距離を詰めると頭より高く掲げた踵からズンと足を踏み下ろす。勢いをつけて踏みつけただけにも見えたが、いずみが転がってベッドのむこうへ離脱していなければベッドと床板を踏み抜くその『踏撃』に身体をへし折られていただろう。
 転がる際に持ち出した刀を抜き、首を率直に狙って打ち込む。
 ぱしりと手で刃をつかみ取るユアン――だが、いずみはその手を無理矢理に力で切り裂いた。手のひらにスッと刀傷が走る。
「貴様の願いは…剣はこんなものでは無かろう?
 その剣は、貴様の衝動はその程度で歪められるものでもあるまい。
 己が魂を解き放って見せい……そして存分に死合おうぞ!」
「…………」
 いずみの連撃。
 手の甲を出し。骨で払うようにしてユアンはそれを弾いていく。
 が、その中でいずみの瞳に激しい殺意が吹き上がった。
 ズン、と胸に突き刺さる刀。と同時にいずみの腹に突き刺さる貫手。
「さぁ仕事……いや、闘いの時間よ!!
 我が意、我が拳。全てを持って相手しようぞ!」
 いずみはニヤリと美しく笑い、歪められていた殺意を『まっすぐに』解き放った。

●橘・征史郎 VS 焔迅
 大型のエクスギアが突き刺さったのは墓地に似たフィールドだった。
 たちならぶ十字の石の中にひときわ大きな十字架が斜めに刺さり、その棺を開く。
 姿を現した焔迅は宙返りをかけて着地し、眼前の対象へとにらみつける。
「進軍はここまでです。最後はこの焔迅がお相手致します!!」
「えっ……僕?」
 今井 和彦。モブ顔、気弱、繊細という鉄帝らしからぬ三拍子を揃えた鳳圏兵士である。
「えっ……誰?」
 焔迅も焔迅が困惑顔。向かい合う3秒間。
 今井がそっと帰ろうとしたその途端、天空を裂くが如く一人の男が薙刀と共に大地に突き刺さった。
 いや、ちがう。投げつけた薙刀が雷神のごとく地面にささり、衝撃で周囲が土煙に覆われるなか彼は跳躍によってその場に着地したのである。
 のわーといって吹き飛ばされていく今井を目で追ってから、今回の本命である征史郎へと焔迅は向き直った。
「あなたとは人の拳で戦えればよかった。ちょっと残念ですが……今回はこの姿でお相手します!」
 咆哮と共に食らいつく焔迅。
 征史郎はギラリと獰猛に笑うと近くの墓石(?)を引っこ抜いてぶん投げた。
「ギッ!?」
 まさか投げると思わなかったものがトンできて、焔迅はよろめく……が、倒れはしない。目に炎を宿し、全身に燃え上がらせた闘志で征史郎へと食らいつく。
「倒れるまで当てれば勝ちます! そうでしょう中佐殿!!」
「なんだァテメェ! 分かってんじゃねえか!」
 食らうついた焔迅の顔面をボコボコ殴りつける征史郎。意地と意地の、男と男の勝負が始まった。

●榛名・慶一 VS お龍&リアナル
 水着の上にコートを羽織ったお龍。彼女に向けて、リアナルはぽいっと郵便包みを投げた。
 慌ててキャッチするお龍に、自分も包みを開いてアクセサリーを身につける。埋め込まれた大きな水晶に数字が浮かび。カウントダウンと同時にゆっくりと色が銀から桃色へと変わっていった。
「そいつは『光輝』型の治癒バフだ。後ろからヒール(そいつ)をひたすら連打するから、お龍はひたすら殴っていけ。体力の少なさをフォローする」
「ありがとうご――さ、さんきゅーリアナル殿!」
 お龍はぱちんと自分の頬を叩いた。
(心理戦なんてまったく得意じゃないが気張らねえと!)
 顔を上げると、戦いが収まらない様子を察した榛名がゆっくりと壁の穴へと近づき、こちらを見下ろしている。
 そして『いつでも来い』とでも言うように両手を腰の後ろで組んだ。
「おい榛名慶一! お前、随分と軽いなァ攻撃が!」
 吼え、そして走った。跳躍によって同じ高さまであがると、拳を振りかざす。
「こんなもんで首都が取れると思ってんのか? 我らが鳳圏の首都だぞ!」
「……」
 拳を正面からがしりと止める榛名。が、お龍の膝が直後に打ち込まれた。
「こんなに腑抜けてんのは未練タラタラだからじゃあねえか? 本気でしたいことをしてるとは思えねえな!」
 打ち込んだ二発目も手に止められ、逆に掴んで後方へと放り投げられた。
 今度は本棚に激突。崩れ落ちる本の中に埋もれ頭を出すが、すぐにリアナルのヒールが飛んできた。回復量はかなりのものだ。
「戦場で迷うなと、教えてくれたのはお前だぜ……」
「迷う。この、私がかね」
「全ては守るべき我が祖国(たみ)の為に! 何度果てても、ぶっ飛ばしてお前の――」
 立ち上がったお龍は豪快に殴りかかった。
 止めようとした手が、一瞬遅れる。榛名の顔面に、お龍の拳が入った。
「お前の目ェ、覚まさせてやるぜ!!」

●鳳圏
 戦いに勝利した、と言っていいのだろうか。
 こちらの死亡者は多数。正気に戻った鳳圏精鋭チームが味方についたことで、最終的に鳳圏部隊は鎮圧。彼らのDARK†WISHも晴れ正気に戻った。
 崩れた建物の中で、よろりと立ち上がる榛名。
「どうやら……悪い夢でも見ていたようだ」
 顔に傷に手を触れ、ため息をつく。
「まだ、戦えるね? 彼らのために」
 振り返ると、剣を収めた弥彦が立っていた。
「ん」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ザミエラ(p3x000787)[死亡]
おそろいねこちゃん
お龍(p3x007422)[死亡]
だぁくひーろー
焔迅(p3x007500)[死亡]
ころころわんこ
アーゲンティエール(p3x007848)[死亡]
魔剣遣い

あとがき

 ――鳳圏軍閥を鎮圧しました
 ――鳳圏軍閥がゼシュテリオン軍閥に加わりました

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