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シナリオ詳細

<フルメタルバトルロア>死に急ぐ貴婦人の横っ面を張り飛ばせ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 シャンデリアのきらめき。社交の場でも軍人は礼服で。
「いやいや、もうじきご結婚か。栄えある機械化歩兵中隊を護衛として使えるとはいいご身分ですなぁ。そこらの令嬢よりよっぽど固い護りだ。いやいや、うちの娘も軍に入れるべきですかな? 隊員諸君のご家族もお喜びでしょう。間違っても死力を尽くさねばならぬ戦場に送られることはありませんからな」
 生きることが第一命題。死ねばたくさんの領民が路頭に迷う。ゆえに、わたくしは、いかなるそしりも身に受けましょう。
 しかし、部下をそしられ、それでも妄言を吐く輩に微笑みかけねばならないのははらわたが煮えくり返る思いでした。
 いつか。いつか我が部下達の真価を発揮できるような機会を。

「吶喊! 吶喊だ。突っ込めええ!」
 指揮官の命令は総員突撃だった。正義の軍勢に向けて戦斧が振るわれる。
「勲詩を上げよ。武勲を立てよ。目に入る敵をすりつぶせ!」
 手には小振りの戦斧。基本的に薄い装甲、要所の装甲だけを厚くした白刃隊が、散開陣形で突っ込んでくる。
 マズルの長い揃いの兜のせいで、それは狼の群れのようだった。
 兜に仕組まれたオルゴールのような調整機構が白刃隊を調律しむる。
「戦え! 死ね。死んで名を残せ!」
 たおやかな容姿にそぐわぬ蛮声を上げながら、『狼を放つ』コンスタンツァは刃を振るう。彼女を知るものはみな目をむくだろう。戦場にあろうと、淑女の嗜みを忘れることはない。そんな言葉遣いをする人ではないのだ。
 彼女の望みは、生まれのしがらみから解き放たれ、全身全霊をかけて軍務を全うしたい。部下にまっとうさせてやりたい。という、国家に仕える軍人として当たり前のものだったのに。
 望みはゆがめられ、軍規も作戦も顧みず、ただ戦場で殺戮に耽溺する者に変わり果てていた。
 戦場で活躍させてやろう。例え、死んだとしても。息てくすぶり続けるよりはずっとましだろう?


「――というわけでですね。R.O.Oからの挑戦状ですよ。鋼鉄の内乱を攻略し、工程暗殺の真実を力づくで究明せよ。機動要塞ギアバシリカ初号艦のクルーになって、シャドーレギオンと交戦せよ。とのことです。黒鉄十字柩とかいてエクスギアと読む――えーっとね、十字架型の一人用ロケット。無理すりゃ二人詰め込めるかな。ただ、こう――恋に落ちちゃう距離感的な。ええい、戦闘領域まで一気にぶっ飛ばすための手段だっつの! イチャコラしてんじゃねーのですわ!」
 今、『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)の脳内で二人で入ってたかそう恋人イレギュラーズの二人が張り倒された。理不尽。
「戦う相手が、各軍閥からぼこぼこ発生してる『シャドーレギオン』ね。個人の望みや願いが『WISH』って新規パラメーターなんだけど、これがゆがめられると『DARK†WISH』になる。これが悪堕ち状態。これを戦闘でHP削り落として悪堕ち解除すると正気に戻って、ギアバジリカに合流するから、ある意味強キャラスカウトイベと言えないこともない」
 ここまでメクレオは努めて冷静だった。理性的であった。己を律せていた。
「――わかっている。当然だ。逆にいなかったらそれはそれでもにょる局面だ。情報屋としてあるまじき態度であるのはわかっているが――言わせてくれ」
 メクレオはまなじりを決した。
「『怒濤を御する』コンスタンツェはそんなこと言わないっ!」
 数瞬の間。「え、それって誰?」と発する間もなく回される資料。過去数回、敵、あるいは味方としてローレットと関わっている。
「あれから数年。ご縁を伝ってお商売させてもらっておりますが、ホントに誠実な領民思いの上客――」
 お商売相手か~い! R.O.O関連の仕事、大丈夫? ネクストは解釈違いな二次創作案件多いよ?
「R.O.Oに鉄帝の軍人貴族である『怒濤を御する』コンスタンツェをモデルにしたNPCが現在展開中のイベントに投入されていることが分かりました」
 メクレオの表情が暗い。
「さっき言ったイベントで『闇落ち改変』されてます。解釈違いです。運営にお問い合わせレベルで解釈違いです」
 やめろ。R.O.Oの運営は暴走しているAI群だ。つうか、お問い合わせでお気持ち表明したってイベントの内容が左右される訳ないんだ。無粋極まる。
「他にも設定が色々改変されてるけどさ。わかってない。AIは何もわかってない」
 あのー、その話長くなりますか。ローレット・イレギュラーズの無言の圧は、ちゃんと自分の危機は自分で回避できる系戦闘薬師に届いた。やっとくもんだね、戦闘訓練。
「――というわけでですね。闇堕ちから救わないことには俺の気持ちがもたない」
 そんなこと言うなら自分でR.O.O潜ればいいのに。一応戦闘できなくもないんだから。
「それは、横に置いといて」
 置くのかよ。
「だって、強敵がご所望なんだよ。俺が何の役に立つとゆーんだ」
 俺はあくまで薬師なんだよ。と、メクレオは言う。
「バックボーンは同じなんだよ。R.O.OのNPCの名は『狼を放つ』コンスタンツァ。彼女も色々思惑がこんがらがってて、公私共に今死ぬと人が数十人以上死ぬレベルでごたつくから絶対死ねない立場なんだ。軍人としては二律背反。そんな彼女の望みが『全身全霊をかけて軍務を全うしたい。優秀な部下の真価を発揮させてやりたい』だったからだって、誰にはばかることがあろうか」
 歯がゆいのは本人が一番だよね。
「願いは捻じ曲げられ、彼女とその部隊は全力で殺戮に耽溺してる。『軍務』って軸は動いてないから業務の域ではあるけど、高潔な貴族軍人のやり様じゃない」
 メクレオはギリっと奥歯を鳴らした。
「『WISH』と『DARK†WISH』はこのイベントで追加された新パラメーター。つまりR.O.Oをゲーム化させたバグ、あるいはそれを引き起こしたろくでなしが起因してる。あくまで電脳世界の話だ。だからって、放置はできないだろ。俺は、業務上、レディ・コンスタンツェに手傷を負わせろと依頼した側だけどな。尊厳踏みにじっていいとは思ってねえんだよ」
 電脳世界のコンスタンツァの正気を取り戻さなくてはならない。
「強いぞ。心して目を覚まさせてきてくれ」


 足元がじゃぶりというほどの血だまりだ。軍靴が赤黒く染まる。
「お判りいただけまして? わたくしの兵は一騎当千ですのよ。わたくしとわたくしの兵にとって、大地を敵の屍で埋め尽くすなど造作もないことなのですわ」
 柔らかな声。たおやかな笑顔。返り血を浴びた頬は健やかだ。
「ああ、死ぬ事をおそれず戦えるなんて。なんて幸せなことなのかしら!」
 コンスタンツァは天に叫ぶ。
「ああ、死んでしまいたいけれど、まだ足りませんわ。もっと、もっと強敵を! わたくし達と最期を分かち合うにふさわしい強敵を!」

GMコメント


 田奈です。
 現実の登場人物がモデルのNPCを殴って正気に戻してもらいますよ。
 鉄帝の「怒濤を御する」コンスタンツェ様とは何の関係もありませんけれど、拙作『<第三次グレイス・ヌレ海戦>酔う岩礁』、『<Gear Basilica>コンスタンツェお嬢様の花嫁衣裳を守って。』、『<鎖海に刻むヒストリア>幽霊船での乱戦・新妻付き。』を参照いただけると、メクレオの気持ちに近づけるかと存じます。

 ネームド『狼を放つ』コンスタンツァ
 鉄帝国軍人。機械化歩兵隊指揮官。
 妙齢で高貴な身分の令嬢です。色々思惑がこんがらがった結婚予定です。公私共にまだ死ぬと人が数十人以上死ぬレベルでごたつきますので絶対死ねない立場です。本人も自覚しています。
 小回りの利く双剣を使います。手数を稼いで相手を自滅させるタイプです。
 見た目のたおやかさに反し、非常に頑健です。状態異常はほぼ無効化します。
 部下を最大限戦わせるためなら死亡させることも辞さない方針で指揮します。
『WISH』
 生まれのしがらみから解き放たれ、全身全霊をかけて軍務を全うしたい。部下にまっとうさせてやりたい。

『DARK†WISH』
 戦場で活躍したい。死んでも。いや、死ぬことでこそ勲詩は完成するのではないか?
そう。戦場で死ぬこそ軍人の誉れだ!

 機械化歩兵部隊『ゲドイトゥ』白刃隊×20名
 小振りの戦斧を振り回す機械化歩兵。重装備ではありませんが、その分動きは俊敏です。機械の補助で命中・回避に補正が加わり、連携がよくなっています。
 全員捨て身で行軍してきます。今日は死ぬにはいい日だ。状態です。

場所・死屍累々のだだっ広い荒野です。
 どこにも逃げ隠れするところはありません。戦闘中のところにみなさんの部隊がエクスギアで投入されますので、事前準備の時間はありません。
 戦闘前のスキル使用による強化は一つだけです。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

※WISH&DARK†WISHに関して
 オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。

・黒鉄十字柩(エクスギア)
 中に一人づつ入ることのできる、五メートルほどの高機動棺型出撃装置。それが黒鉄十字柩(エクスギア)です。
 戦士をただちに戦場へと送り出すべくギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
 棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <フルメタルバトルロア>死に急ぐ貴婦人の横っ面を張り飛ばせ!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

梨尾(p3x000561)
不転の境界
レインリリィ(p3x002101)
朝霧に舞う花
Ignat(p3x002377)
アンジャネーヤ
ユリウス(p3x004734)
循環の天使
ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)
逧 蛻コ蟷サのアバター
きうりん(p3x008356)
雑草魂
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
アズハ(p3x009471)
青き調和

リプレイ


 戦争だ。戦争だ。敵の死体を踏み潰し、味方の死体の踏み越えていく戦争だ。行く千幾万の兵に踏みしだかれて、兵士は土に還り、母なる大地を肥やすだろう。
 いざ征け、兵士よ。銃剣をとって戦う者よ。今こそ命を散らせるときぞ。
 数多の英霊に名を連ね、我ら祖国の礎とならん。
 照覧あれかし。我ら、一切のしがらみを捨て、ただ一心、敵を葬ることをここに誓わん。

 昏い望みが行軍の背を押す。
 行先は栄光どころか冥府でしかありえないのに。
 その眼前を八つの飛行機雲が横切っていった。

 十字をかたどった棺が無事に地面に到達。カリカリと歯車がかみ合う音を立て柩のふたが開き、中にいたイレギュラーズに無事到着を知らせる――『開墾魂!』きうりん(p3x008356)が柩から出ることもなくログアウトしたのは三半規管リンクをカットしていなかったからだろう。
 エクスギアと名付けられた射出装置は広大な戦場に迅速に小隊を送り込むことに特化されていた。乗り心地は度外視だ。リンクは切っておくに限る。

「これは……随分派手にやってるな」
『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)はそう呟いた。
 目を開けるまでもない鮮烈な耳をつんざき腹に響く機動歩兵の駆動音。
『カニ』Ignat(p3x002377)は目まぐるしくアバターを切り替えた。どれが今作戦に一番効果的か考えて――とりあえずヒト型にした。今回は説得しなくてはならないので顔はあった方がいい。
 眼前で繰り広げられる地獄絵図。それはささやかな願いを醜悪に捻じ曲げられた悪夢の産物だ。今そこで行軍しているのは彼女の望んだものではない。
「連中の肩の荷を降ろさせてやりたいと思うよ! ゼシュテルの人間の姿で正気を失って戦う姿は哀しいものを感じるからね」
 少女の顔でIgnatはにっこり笑って見せた。

 『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)は、儚げな印象の麗人である。口調にどことなく幼げな響きがあるのに気付いているのはどれだけいることか。
「現実では『コンスタンツェ』さんで、ネクストでは『コンスタンツァ』さんなのだね」
 何ともはや、紛らわしい。現実と虚構を混同してしまいそうだ。
「解釈違いの二次創作――」
 現実ならミュートしてブロックして触らぬ神に祟りなしとやり過ごすものだが、そうはいかないと立ちふさがってくる。粉砕せよと投げ出されるならそうしなくてはならない。
「やれやれ、最近になって気付いたが、このR.O.Oの運営とやらは趣味が悪いようだね」
『朝霧に舞う花』レインリリィ(p3x002101)は、嘆息する。
「わざわざ現実の人間をモデルにしたNPCを改変するのもそうだけど……それをクエストという形の強制戦闘で倒さなければならないようにしてくるのだからね」
 それは悪意に満ちたカリカチュアだ。捻じ曲げられた善意が悲鳴を上げている。
「相反する願いの結果、生きても死んでも成就する――なかなか人間らしく、面倒なものを仕向けるじゃないか」
『逧 蛻コ蟷サのアバター』ヴラノス・イグナシオ(p3x007840)は、開示されたコンスタンツァのステータスに目を走らせた。
「まあ、ボクはそれでも守れる範囲のものを守るために戦うだけさ」
 誰もかれもがそうできるなら、きっと世界はもう少しよくなる。
「……よし、いいだろう。兵卒への願い、死を望む怒涛、まとめて私が演出してやる」
 かつて魔王という異名に振り回された小心者だった、ヴラノスのナカノヒトはそんなことを嘯いた。
 心に弱さを抱える者は幸いである。彼らは弱さを御するという方策でより強い自分を明確に構築することができるだろう。
「全く、これだから人間は……」
『ゲーム初心者』ユリウス(p3x004734)、そこで一度口をつぐんだ。
「まぁここは非現実世界で、彼女はただの再現なんだから呆れたって仕方ない訳だけど」
 そうだそうだ。ここは電脳世界だ。と、ナカノヒトは思い直した。
「さぁ、思いの丈をぶつけてごらん。ありのまま受け入れてあげよう! 私は何処だろうと心優しく美しい天使のままなのさ」
 実際ユリウスのアバターの種族は美天使だ。
 天使が人間批判をし始めたら危ない。ミクロでは堕天、マクロでは黙示録のフラグが立ってしまう。
「ふむ……」
 アルバは戦場に向かって耳を澄ませた。聞こえる音と感じる音。事前に読み込んできた資料と現状を突き合わせる。
「……うん、多分だいたい解った」
 コンスタンツァの声が聞こえたのだ。
「殺戮に溺れて死を望むなんて、相応しくない。そういうのは求めてないって感じだな」
 ゆがめられた望みの中でもがき苦しんでいるのが引き連れたのどから発する雑音で察せられた。つらそうな声だ。
「心して向かうよ。目を覚まさせに行こう」
14才の黒い犬獣人『ただの』梨尾(p3x000561)は、くぅんと鼻を鳴らした。これだけは先に行っておかなくてはならないと思っていたのだ。
「えっと、皆さん」
 梨尾のナカノヒトは思い出の中の息子をロールプレイしている。10歳で会えなくなった息子の思い出を練り上げて、そこに息子の姿で悪いことはできない父心を一注ぎした結果、礼儀正しく丁寧な少年像が出来上がった。
「自分のことは範囲攻撃に巻き込んでいただいて結構ですので――」
 そういう時攻撃を躊躇しないでほしいな。と。
 別にデスペナコレクターではない。というか、息子の姿のアバターにデスカウントは増やした躯体とナカノヒトは真剣に思っている。
 ただ、自分の犠牲で死者が少しでも減らせるなら……と考えているのだ。
 自分のいやな気持と死人の数なら、自分の気持ちを犠牲にできるのが梨尾のナカノヒトだ。
 ただ攻撃に巻き込まれたりはしない。それでもアバターを死なせない戦闘スタイルは確立している。父親ゆえに。このアバターに愛着があるのだ。
「――部下の白刃隊の方達も含め不殺の方針で了解だ」
 ゲドイドゥ無力化のための攻撃を担当するユズルが戦闘方針の申し合わせを始めた。
 誰も死なせない。情報屋も言っていたではないか。これはスカウトイベントなのだ。
 それは味方に対してもそうあるべきではないか。
「ボク自身は不殺スキルは持っていないため、決着をつけるのを援護する形だね」
 レインリリィは首肯した。
「無駄に血が流れないようにしたいと思うよ! オレは不殺がないから消耗が少ないところへ攻撃を仕掛けて削っていくね」
 Ignatもレインリリィと同じ役目を担う。
「『ジャッジアイズ・クリティカル』での敵部隊損耗管理は私の仕事。どこをどう攻めるかは私が判断する。各ユニットはいかに長く生き、いかに早く狩れるかを意識しろ」
 
「私は軍人では無いから、名誉ある死、というものがあまり理解できないな」
 相手陣営にもそう思うのだから、味方ならなおさらだ。
「――殺すより生かして収める方が難しいけれど、頑張ろうか」
 イズルは梨尾に向かって微笑んだ。


 鋼鉄の内戦と位置付けられるだろう。
 軍事国家は一枚岩ではない故に最強の皇帝がすべてを掌握しなくてはならない体勢だ。それに揺らぎが見えたとき、抑え込まれていた力が暴走して国が揺らぐ。
「彼らの願いを理解する――そして、一番大事にしてたことを思い出させるんだ」
 ゆがめられた願いの原型を、転調されたモチーフの原型を探るようにアズハは耳を澄ませる。彼は”路を聴く者”なのだ。

 戦場でそれが効果的と判断されれば投入される。
 オッドアイの犬獣人の少年は、性情を手に懐中時計を盾として戦列に立つのだ。
 焔が錨の形をとって、兵士たちの心の柔らかいところに突き刺さる。
「そこの死にたがり共!家族はどうした!お前らが死んだら誰が明日の飯を食わせるんだ! そんなに死にたいなら先に俺を屍にしろ!」
 戦場に響き渡る咆哮。朗々と響く挑発に淡々と死体を作るシュレッダーマシーンのようだった部隊が色めき立つ。
「そうそう。仕事での戦いなんて本気になる必要がないに越したことはないのにね」
 挑発にちょっとだけ力添え。
「戦いに狂っていいのは狂人の特権だよ。軍属なら目的と手段を混同しないことだね!」
 梨尾の背後に控えたIgnatはたっぷり時間をかけて集中している。もっと引き付けてほしい。もっとだ。
 ぎりぎりと引き絞られるような空気だ。硝煙と泥と血とオゾンの味しかしない空気だ。ここがVRの世界であることを、視界にぎりぎり入る各種パラメーターや円形ソナーが教えてくれる。
 完全武装した機動歩兵の中、結い上げた髪が風にほつれるのもそのままに双剣を握りしめた女がいる。
『狼を放つ』コンスタンツァ。戦場に狼の群れを解き放つ指揮官。
 貴族の証として武功を当然とされ、血を受け継ぐものとして死ぬことは絶対に許されない。いっそ、部下の手柄の上前を撥ねるタイプなら彼女はここまで追いつめられはしなかっただろう。軍人としてあまりにも矛盾した期待を果たすのに、彼女はあまりにも誠実過ぎた。
 どす黒くよどまされた彼女の「望み」が彼女とその部隊を戦闘人形に仕立て上げている。
「命中、回避、反応共に申し分無しか。怒涛――ではないか、紛らわしいな。本当に――の指揮あっての統率だと言うなら、私の仕事だ」
 グラノスは、指揮系統を分断させる目星をつけて術の発動位置を設定した。
 指を模した10本のナイフが一振りの長剣と化す。
「黒鉄香るは眠らぬ夕焼け、昏きよりいずるは荒野の主――」
 今この場所で詠唱されるにふさわしい。アデプトスタイルを名乗るプレイヤーはそういうことをする。
 地面を舐めるように飛ぶ赤い鳥がゲドイトゥ前衛を蹂躙した。
「気絶してるなら助けてやる、だから寝てな」
 気力を砕き、やがて肉体も蝕む置き土産。
 Ignatが放つ雷撃によって、更に後方のゲドイトゥの蒸気機構が吹っ飛んで、陣形に隙が生まれる。
 アズハは戦場に狂気と呪縛を撒いた。ある者は立ち止まり、ある者はやみくもに得物を振り回す。
 指揮系統がズタズタになり、戦場に無秩序が訪れる。
 敵の怒りを煽るなら、自分が多くの傷を負う覚悟抜きではできない。
 小回りの利くタイプといえ、戦斧の刃は梨尾の頭くらいはある。
 ふわふわの毛皮が、吹き出す血でガビガビに固まっていく。
「ちゃんと見てるよ。死なせたりしないさ」
 天使だからね。と、ユリウスは付け加えた。ここではかつてできなかったことができる。傷ついた誰かを癒すこと。それが仕事として選択に入っている。PCならば当たり前のこと。そうしようとするユリウスの選択をだれも阻むことはできない。多勢に無勢のイレギュラーズはユリウスの保護下に入っていた。
 今回のイレギュラーズで最も頑丈なのは、この犬獣人の少年なのだ。梨尾は範囲回復を浴しても、範囲攻撃に巻き込まれることはなかった。


 自らの傷を厭うこともなく、死に向かって行軍していたゲドイトゥの心身にたっぷりと不調の種をまき、殺さないように細心の注意を払って文字通り倒す。イレギュラーズは地道に向き合った。
 イズルの背で七色の聖晶の翼が展開される。一本一本の羽根が刃となる。
「勿論、危なそうな時は回復の方へ偏らせることもできるよ」
 けれど。と、目隠しの下でイズルは微笑んだ。
「回復できる方が多いから、私は不殺攻撃に傾けても大丈夫かな?」
 返事は期待していない。
 翼は幾度か羽ばたいた。降り注ぐ刃の羽根。それを受けた兵士は動くことを忘れてしまった。ほどなく来る意識の暗転。


「FIRE IN THE HOLE! 相手は数が多いからね! 片っ端から黙らせてやろう!」
 まばらになってきた隊列の向こう。コンスタンツァに向けて、Ignatのドロ―ン・ライフルから閃光が迸る。直線状の兵士を焼き切り、穿ち貫いていく。
 崩れ落ちる部下の隙間を縫うようにして、栓舌蘭とした麗人が陣中に駆け込んできた。
「戦場で死ぬって華々しく思えるよな。だが何故そう思える?」
 アズハは語りかけた。中距離から超遠距離がアズハの間合いだ。近接武器で飛び込んでくるコンスタンツァ相手では分が悪すぎる。
 アサルトライフルでつばぜり合いなんてありうべくもない。
(相手の攻撃が届かないなどの有利があれば高度を上げてもいいな)
 飛行をどう使うかを考えたときにちらりと考えたこと。本当に使うことになるとは思わなかった。
 文字通り死体の山を足場にして飛び掛かってくる彼女に向けて叫び続けるために飛び回らなくてはならない。
「……俺は、生きてる間に何かを為したからだと思う。ただ戦場で死にたいなら無抵抗にしてればいい。でも戦うのは……まだ活躍が足りないからだろう?」
『DARK†WISH』に塗りつぶされた本当の『WISH』を掘り起こす。
 生まれのしがらみから解き放たれ、全身全霊をかけて軍務を全うしたい。部下にまっとうさせてやりたい。
 彼女はそう望んだのだ。
「軍人として相応の誉れを――部下達に――」
「ならばまだ死ねないはずだ。仲間、家族、周りを見ろ!」
 屍の山の上で、今なら見えるはずだ。
 コンスタンツァが一人死ぬだけで、それだけの死体の山ができるという現実が。生きることが戦いなのだ。
「暖かい室内でぬくぬくと過ごしているような奴らの言うことを真に受けてどうするのさ。自ら進んで死ににいくような無様は止めたまえ。そんなことをしたって敵に笑われるだけだ」
 この場の命を死なせないように目を皿のようにしながらユリウスは言った。
「誰にも笑わせるものか。私の部下は、私の隊は最強なんだ! 私が、私であるばかりに!」
 高い悲鳴が迸る。喉から血を吹きだすような長い声。
 アズハの耳にはとても美しく響いた。
「目を覚ましてもらう。死ぬわけにはいかないんだろう?」
 絶対に外してはいけない一撃。アサルトライフルの引き金に掛けた指の震えをねじ伏せる。調律のAの音を出すように。そう。これは調律の一撃なのだ。
 ほとんどの攻撃に耐性があるコンスタンツァの意識を刈り取る銃声が戦闘の終結となった。
 捻じ曲げられていた願いが正しい姿を取り戻した瞬間だった。


「俺は君らを生かす。本当の実力を発揮して活躍する機会は、生きた先にあるから」
 アズハは、注意深く事情を説明した。
 ヴラノスは、傲然と笑みを浮かべた。
「……血塗れた欲求、実にいい。『部下達の真価を発揮できるような機会』を知ってるんだが……私達と共に来ないか?」
 血で汚れた白い頬をくしゃくしゃにして、コンスタンツァとその部隊はギアバシリカに乗り込んだ。
 贖罪は己が武勇を以て。
「そういう訳でこの戦いはお終いだ。次の機会があるなら、敵ではなく、互いに背中を預ける仲間として会えると良いね」
 天使が言うなら、それは福音だ。そうあれかし。その歩みに幸いあれ。

成否

成功

MVP

アズハ(p3x009471)
青き調和

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。コンスタンツァ麾下ゲドイトゥは合流しました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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