流星神社の異変

オープニング

●流星神社の異変
　七月某日――。
　気温も上がり、少し歩くだけで汗が出始めるこの季節。
　町一体が七夕飾りで彩られ、掲示板には『流星祭り』と文字が書かれたチラシが何枚も張られている。

「神主さん、これは何処に運べばいい？」
「ああ、その材料は社務所の方へ――」
　此処は流星神社。星の神である天津甕星を奉る神社である。
　今年の流星祭りの為、神主や巫女達、町の住民などが境内に訪れ準備を進めていた。
　神主が丁寧に境内を掃除し、ふぅと額から流れる汗を拭う。
「ここらで少し休憩しましょう。今すぐお茶を……おや？」
　手伝ってくれた皆さんにお茶を淹れて休憩しよう。そう思い神主が振り返ったが手伝ってくれていた住民たちの姿が見つからない。
「おかしいですね……星宮さん、皆さんはどちらに？」
「あれ？　さっきまでいらしたのに……」
　通りかかった巫女に神主が尋ねるが巫女も不思議そうに首を傾げている。
　社務所にて流星守りの準備をしていた巫女に同じように尋ねても首を振るばかりで手水舎、拝殿、神楽殿、倉庫、あらゆる場所を探したがどこにも見当たらない。
　いくらなんでもおかしいと神主が探し回っていると本殿の前にハンカチが落ちているのを発見した。
「本殿は立ち入り禁止……そも鍵がかかっていて部外者は入れない筈ですが……」
　まさか……神主の顔がさぁっと青ざめた。

●流星神社の神隠し
「お前さん達、流星神社って覚えてるかい？　ああ、いや初めてだったらそれでもいいんだが」
　境界案内人、朧は流星守りを指で弄びながらあなた方に問う。
　ある者は頷き、ある者は首を横に振りながら続きを促す。
「とある世界にある天津甕星って星の神さんを奉っていて毎年流星祭りっていう七夕にちなんだ祭りを執り行っているんだが……その準備を手伝っていた人々が忽然と姿を消したらしい」
　神主から話を聞いた信心深い人々はアマツ様の神隠しだ――などと恐れている様だ。
　ともあれ、このままでは流星祭りの開催どころか流星神社の存続に関わってくる。
「多分、行方不明者が神隠しにあったってのは本当だろうな。お前さん達なら異世界の人間だから神域に入ることも可能だろう。だが……」
　朧は顎に手をやり数秒考えこんだ後に口を開いた。
「本当に『アマツ様』の神隠しなのかね……？」
　その辺りも含めて探ってきてくれと朧はあなた方を送り出した。

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第3章

第3章 第1節

●神隠し、終結。

「よし、これならこいつらを現へ返すことが出来る」
　天津甕星が本殿に戻り、人々に向けて手を翳す。困惑していた人々はやがて光の粒子となり、一人、また一人と帰っていった。
「さて、貴様らも戻る時間だ、こちらに馴染む前にな」
　誰かが言った。貴方はどうするのか？　と。
　天津甕星は静かに微笑む、その笑みは先程までの勝気な物ではなく何処か寂し気な雰囲気を纏っていた。
「俺は神だからな、今までと同じように過ごすだけだ。さぁ、行け」
　あなた方の視界が白に染まる、ふっと意識が遠のき。

　気が付いたら、本殿の前に立っていた。
　扉には鍵が掛けられており中に入ることはできない。空を見上げれば満天の星空に天の川が架かっている。
　周囲には縁日が開かれており、人々は何一つ変わらず流星祭りを楽しんでいる様であった。
「おや、大丈夫ですか」
　優しそうな老紳士が呆気に取られるあなた方に声を掛ける。どうやら神主らしい。
　神隠しはどうなりましたかと聞くと、嗚呼と神主は答えた。
「皆様ご無事に戻ってこられました、ただ何をしていたのか思い出せないとおっしゃるばかりで。ともあれ、本当に良かった」
　きっと、天津甕星様がお守りくださったのでしょうと朗らかに神主は笑う。
「さぁ、お祝もかねて開催された流星祭り。どうぞお楽しみくださいね」
　本殿を見つめつつも、ひとまずあなた方は流星祭りを楽しむことにした。

●三章
　無事に帰ってこれました。現実世界で流星祭りを楽しみましょう。
　お一人様も、ペアでもグループでもお気軽にお越しください。
（その際は同行者様のお名前かタグをお願い致します）
　なお、流星祭りの雰囲気は以下を呼んでいただけると分かりやすいと思います。
（勿論読んでいただかなくとも大丈夫です）
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3605

●目標
　流星祭りを楽しむ。

●舞台
　現実の流星神社の境内です。
　縁日が並び、大きな笹が飾られて、花火が打ち上げられています。
　本殿には鍵が掛けられており入ることはできません

●できる事
《例》
・短冊に願いを書いて吊るす。　
・流星守りを買う。
・天の川を見る
・飲食を楽しむ
・花火を見る
　もちろん上記以外にもやりたいことがあれば遠慮なく！

●境界案内人
　朧
　ご指定がなければ登場しません。ご指名があればホイホイついていきます。
　貴方にとって良き旅路になります様に。それではいってらっしゃい！

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第3章 第2節

「元は悪い神様だって言ってたけど、やっぱり今は良い神様だよ。だって誰に言われたわけでもなく皆を守ってたんだもの」
「はっ、勝手に入り込まれて迷惑だったともいうがな」
　ルビー・アールオースは本殿を振り返り、素直じゃない天津甕星にくすりと笑う。何がおかしいと天津甕星に睨まれ、ルビーはごめんごめんと小さく謝りつつも、その耳がほんのり赤くなっていることを見逃さなかった。
「きっと長い事ここで見守ってるうちに、そういうのも良いって思えたんだよね？　たとえ記憶がなくなっても、助けてもらった人たちはきっと心の中で感謝の気持ちを忘れないと思う。このお祭のようにずっとずっと受け継がれていくと良いね」
「……どうだかな、人間の一生なんぞ一瞬だからな」
　物寂しげな横顔に思わずルビーは手を伸ばしていた。
　その指は届くことなく、ルビーは現実世界へと帰ってきた。
　笹の元へ向かい短冊を受け取る、暫く悩んでからよしと短冊にこう書き記す。

　私とスピネルがずーっと一緒に素敵な冒険を続けられますように。

　笹のできるだけ高いところに結いつけてルビーは天の川を見上げた。
　神域で見上げた星空と何ら変わらない煌めきが黒い帳に散っている。

「それじゃ神様、また会えるかどうかわからないけれど元気でね。もし会えたらその時はあの刀をじっくりよーく見せてね！　お願い！」
　今度は、この指先は少しでも届くだろうか。
　星の光にルビーは手を翳していた。

成否

成功

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第3章 第3節

「……結局、ちゃんと挨拶はできず終いデシタネー」
　境内から少し離れた石段にすわり、わんこはアイスキャンデーを齧っていた。
　がりっと小気味よい音とソーダの爽やかな味が口の中に広がり、さっぱりとしたわんこは残ったアイスの棒をゴミ箱へと棄てて、ぐっと伸びをしてから立ち上がった。その足で直接本殿へ向かう。
「まぁ、「向こうに馴染む」恐れもあったようデスカラ致し方なし！だからせめて、こっち側からさせてクダサイネ」
　本殿には鍵がかかっており、中に入る事は許されない。
　さて本殿に参拝することなど滅多にないが、何か作法でもあっただろうか。
　しかし神前で調べるというのも変な話だろう。
　よしっ、と背筋を伸ばしたわんこは本殿を見上げた。
「天津甕星サマ、先程は大変失礼致しマシタ。お力を貸して下さって、誠にありがとうゴザイマシタ」
　言葉と共に一礼を。
　顔を伏せたまま、わんこは続ける。
「誰一人欠けることなく戻ってこれた。暖かいこの神社を守ることもできた。わんこはただ、それだけで満足デス」
　ゆっくりと顔をあげる。本殿に特に変化は起きていない。
　相変わらず鍵はかかっているし、返事もない。
　ただ、夜空に輝く星々は神域で見た物と何ら変わらない。

「神域までわんこの言葉が届くかどうかはわかりマセンガ……きっと、届くと信じさせてクダサイネ」
　何処か寂しげな色を含んだわんこの微笑みに呼応するように、一筋の流星が軌跡を描いた。

成否

成功

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第3章 第4節

　イカ焼き、りんご飴、輪投げに金魚すくいエトセトラ。
　三國・誠司とアイシャは今年も流星祭りを訪れた。
　遊び疲れた二人はクレープを買い、人込みから離れた境内の隅へと移動する。
「あのお祭りからもう１年経つんだね。またこうして一緒に過ごせてとても嬉しいな」
「初めの頃は僕が作ったクレープみてびっくりしてたもんな」
　あの時は『誠司さん』でアイシャは敬語を使って話していた。
　それが取れて気が付いたら兄妹へ関係が変化していたのは何時からだっただろう。変わった口調と笑顔に兄への信頼と敬愛が表れている。

「あんな綺麗でかわいい食べ物見たことなかったから……それにお兄ちゃんが作っている姿を見るのが楽しくて」
「そんなに面白かった？　ああ、そういえば去年か。ここでアイシャが僕のことお兄ちゃんって呼んだのは」
「あ……」
　温かい背中の上で寝ぼけてお兄ちゃんと呼んだことを話題に出され、アイシャの頬に熱が集まる。
「図々しかったね、私……でもね、あの時の寝言が現実になってとても幸せだよ」
　ふわりと微笑んだ妹に死んでも守る、嫁にはやらんと決意を固くしながら誠司はアイシャの白い髪を撫でる。
　アイシャのやりたい事、遊びたい事をやらせて、笑ってるアイシャを見るのがこの世界での一番の楽しみだ。
　自分は旅人で、彼女は純種。
　いつか元の世界に帰る時が来たとしても、どうかまだその時は来ないでほしいと切に願う。
「お兄ちゃん？」
「……あ、ううん。なんでもない。線香花火でもしようか」
「うん！」
　細い花火の先にマッチで火をつけて、パチパチと火花を散らし始めたそれをじっと誠司は見つめていた。
（僕はアイシャを幸せに出来てるかな）
　以前よりもずっとアイシャは感情を表すようになった。
　それは喜ばしいことだ。だが、自分といて退屈ではないだろうか。
　辛い思いをさせていないだろうかと時々考えてしまう。
（それはアイシャにしか解らないけれど）

　ぽとり、と火球が地面に墜ちて消えた。
「……落ちちゃったね、残念」
「そうだね」
「ねぇ、お兄ちゃん」
「んー？」
　いつも幸せな気持ちにしてくれてありがとね。
　心からの感謝の言葉。思いっきりの最高の笑顔でアイシャは確かに言った。
　まるで誠司の心など、悩みなど見透かしていたかのように言ったのだ。
　鼻の奥がツンとなり視界が滲みだしたことに気づいた誠司は「ゴミが目に入った」なんて言い訳をしながら慌てて目を擦った。
「よし！　そろそろ帰ろうか！」
「うん、そうだね。お兄ちゃん」
　少し赤くなった目を隠しつつ誠司はアイシャに背中を向ける。
　暫くはきょとんとしていたアイシャだが、ああと合点がいったのか誠司の首に手を回しておぶさった。
「また来年も一緒に来ようね、お兄ちゃん」
「うん、約束だ」
　去年と変わらぬ星空に見守られ、二人は石段をゆっくりと下っていく。
　でも今年はあの日とは違う。もっともっと温かい何かを誠司は感じていた。

成否

成功

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第3章 第5節

「黒い手はみんな倒せたし、連れてこられてしまった人たちもみんな無事。アマツ様に帰してもらって、一件落着だねえ」
「そうだな」
　笑みを零す鳶島 津々流に相槌を打ちながら天津甕星は一点を指した。
　其処は津々流が還るべき処である。
「おや、僕らももう帰らないといけないのかい？　折角こうして出逢えたのだから、もう少し色々お喋りしたかったのだけど……」
「俺と喋ってどうする」
　名残惜しそうな津々流に天津甕星は肩を竦めた。津々流にはその言葉はぶっきらぼうだが、その眼はどこか寂しそうだと感じられた。

「神様だから、今までと同じようにひとりで過ごさなきゃならないなんて、何だか寂しいな」
「俺が寂しがるとでも？」
　そっぽを向いた天津甕星に津々流は目を細めつつ、星空を見上げた。
「こちらからお祭りの景色は見えたりするのかなあ？　それだけでも違うかなって」
「どうだろうな」
「じゃあ、みんなの為に戦ってくれたアマツ様に、最後にささやかな贈り物をしよう」

　瞳を閉じ手を構え、霊力で横笛を作る。
　賑やかで陽気なその旋律に天津甕星はふと顔を上げた。
「……祭囃子か」
　津々流は流星祭りを知らない。故にその旋律は津々流の想像に過ぎなかった。
　それでも一柱の神の孤独を癒すには十分で――。
　
　たとえ世界が違ったとしても、一緒にお祭りを楽しめたら。
　津々流の気持ちが旋律に乗り神域に響く。
　
　その音色を以て、流星神社の異変は幕を閉じたのだ。

成否

成功