PandoraPartyProject

シナリオ詳細

シュシュ、花喫茶のひとひら

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ティル・タルンギレ 君の気配
 メグ・メル 駆ければ、棘を避け
 ゴヴニュの饗応 喉に落とせば、永久を指切りいたしませう

「皆さん待っていたのです!」
 ふんわりとした白花のスカートを揺らして。妖精フロックスはイレギュラーズを待っていた。
 彼女の可愛い友人・ユーフォルビアが『外』に遊びに行った際、とっても素敵な出会いを果たしたそうだ。
 フロックスに頑張ってと応援されてもじもじとしたユーフォルビアは緑のスカートをふわりと揺らす。そわそわと身を揺らがせた彼女は困ったようにイレギュラーズをチラリと見てから照れたように目を伏せた。
「困ったことを聞いてしまうかも知れないのだけれど」
 彼女はおそるおそると唇に音を灯して。
「メイド喫茶ってご存じかしら?」
 言っちゃったと慌てるユーフォルビアにぱちり、と瞬いたフロックス。
 フロックスは知らないと首を振った、けれど、イレギュラーズにとっては『知っている』事ばかり。
 フラン・ヴィラネル (p3p006816)はユーフォルビアに視線を合わせてから「知ってるよ!」と微笑んだ。
 花開いた春の気配。春薔薇のガーデンは、『外』に広がる夏葉を迎えることはない。小躯より伸びる翅を瞬かせた彼女たちは「知っているんですって」「どうしましょう」と囁いて。
「それで、メイド喫茶がどうしたの?」
 練達などで良く見られるものだけれど、と付け加えたソア (p3p007025)にユーフォルビアは「やってみたいの」と恥ずかしげに白い頬を薔薇色に染めた。
「妖精郷で?」
「そう、そうなの」
「そっか、じゃあ……このガーデンでやってみてもいいね」
 エストレーリャ=セルバ (p3p007114)の微笑みにユーフォルビアはぱあと華やいだ。春の気配に少女のざわめきが心を躍らせる。
 一輪の薔薇を手にした少女の歓びに笑みを綻ばせたリア・クォーツ (p3p004937)は「お客様は妖精達かしら?」と周囲を見回した。
 指先にキスをする程の小ささの彼女たち。30cmの少女はふわふわと躍る様に跳ね上がる。
「ええ、ええ! そうなの。けれど……あなたたちにもお手伝いして欲しいの」
「……けれど、私達はとっても大きいわ。貴方達と比べても……どうしましょう?」
 首を傾いだエンヴィ=グレノール (p3p000051)にクラリーチェ・カヴァッツァ (p3p000236)は「そうですね、大きさの差があります」と思い悩んだ。
 給仕を行う事だって、大きさの差が良しとしない。
 ユーフォルビアは「フロックス、ねえ、ねえ、皆で沢山の妖精をもてなす為に魔法は使えないかしら?」とささめきごとを悪戯めいて告げる。
「おもてなしの魔法なら、屹度、いただけるわ!」
「まあ!」
 くすり、くすくす。
 少女達の言葉にクラリーチェは首を傾げて。妖精達の秘密の魔法、とある魔法使いが残していったという遺宝(アーティファクト)。
 光を頂く白薔薇の宝石に、妖精達は口づけて。
 きらりきらりと、白き花弁が落ちてから――イレギュラーズを包み込む。
「ちいさくちいさくなりましょう? ちょっとだけの瞬きの夢なの。可愛い子達(シュシュ)、可愛い子達(シュシュ)。
 此方にいらっしゃって! とっても楽しい花喫茶を行いましょう?」

GMコメント

リクエスト有難うございます。日下部あやめと申します。

●目的
 メイド喫茶を妖精達と楽しみましょう!

 当シナリオでは戦闘はありません。イージーやイベントシナリオ相応の難易度です。

●花喫茶シュシュ
 とある魔法使いの残した遺宝(アーティファクト)を駆使して、30cmサイズになった皆さんは妖精郷でメイド喫茶を楽しみましょう。
 お給仕さんとしてメイド服や燕尾服を身に纏い、可愛らしくおめかしした妖精さんたちをおもてなしして下さい。
 例えば、妖精郷に咲いた春の花には食べられるのものもありますし、『外の世界』のフルーツを持ってくるのも良いかも知れません。
 フルーツは深緑特有のオレンジ色の果実(味わいはバナナに似ています)等々、こんなのあるかも?を沢山盛り込んで下さっても構いません。
 珈琲や紅茶だけではなく、メニューの考案も一緒に楽しく行ってあげて下さい。
 妖精さんたちは、外の世界のことは珍しいものばかりです。イレギュラーズの皆さんは妖精さん達に色々と教えてあげて下さい。

●魔法の道具
 とある魔法使いの残した遺宝(アーティファクト)と妖精さんたちが呼んでいます。
 イレギュラーズの皆さんはこの道具が動いている間は身体が自由な大きさに変化させることが出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

どうぞ、宜しくお願いします。

  • シュシュ、花喫茶のひとひら完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月21日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活

リプレイ


 絢爛なる花開く。常春に包まれた妖精郷にさぁさ、いらっしゃい。
 可愛い子達(シュシュ)を手招く小さな花翅の娘達に誘われるように『魔法使い』の花弁がイレギュラーズを包み込む。
「わあ、お人形さんみたい」
 小さくなるなんて不思議な心地。妖精達が用意したエプロンドレスのスカートの端をつんと摘まんでから『雷虎』ソア(p3p007025)はくるりと踊ってみせる。虎の尾は猫の気持ちを表すようにふわふわ、ふわり。何とも不思議な心地に包まれて、「エスト、エスト」とソアは呼ぶ。
「どうかしら? ボクこういうの憧れだったの」
 妖精達と同じ大きさ。ビスク・ドールのように小さく愛らしい姿となったソアを掌にそうと乗せて『賦活』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)は「わあ!」と大仰に驚いてみせる。
「ソア、とっても可愛いね。とても似合ってる。普段と違う姿は、とっても新鮮。カチューシャも、可愛らしいエプロンも!」
「えへへ」
 うっとり微笑んだソアがエストも早くと指先をくいと引っ張った。同じ魔法に掛けられれば小さな妖精達と同じサイズに変わって行ける。
 白き花弁の魔力が包み込む。そんな気配に緊張したように身を捩った『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)はぎゅうと林檎を抱き締めて。熟れて紅色になった果実は掌で包み込めたのに、今は抱えるほどに大きくて。
「喫茶店のお手伝いなら経験があるのだけど……こんな小さな姿で、と言うのは初めての体験ね……」
 見上げるほどの大きさのパイナップルを天蓋に。エンヴィは不思議そうにぱちりと瞬いて。さて、どうやって調理をしようかと頭を悩ませた。
 様々な果物調理をし、妖精達の『お願い』に応えなくてはならなくて。今日はとっておきの『メイド喫茶』をお手伝い。『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)にとっては妖精達の可愛いおねだりが何処か不思議でくすぐったく感じられて。
「皆が楽しめるならそれが何よりです。一日頑張りましょう。では、私はこちらの衣装をお借りしますね」
 クラリーチェが衣装棚から選んだのは執事服。ふわりと揺らいだ春色の雲を思わせた髪をきゅっと結い上げて、ループタイをしめる。
 褐色のほっそりとした指先を包むのは真白の手袋。指を動かし、感覚を確かめてから「どうでしょうか」と問い掛ければ「似合っているわ」と『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は大きく頷いて。
 流石にメイド服を着用するのは妙な心地になるからとリアが選んだのは執事服。クラリーチェと同じように髪を纏めて、手袋を。それに倣うエストレーリャにリアはこてりと首を傾げて瞬いた。
「……ぶっちゃけさ、エストもメイド服で良かったんじゃない? あぁ、いや、ごめんなさい、なんでもないわ」
「え、」
 ぱちりと瞬く彼にリアは手をひらひらと振って「おっとと、いけないいけない」と咳払い。誤魔化しながら、花喫茶の準備に取りかかる。
 妖精さんはふわふわでかわいい。メイド喫茶だってふわふわで可愛い。つまり、妖精さんのメイド喫茶はとびっきりふわふわで可愛い。
『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)はうっとりえと笑みを零す。緊張した小さな花の蕾ユーフォルビアはフランを伺い見てから恥ずかしそうに前髪で瞳を隠す。そんな仕草が愛らしくてついつい、笑みが毀れ落ちる。
「それを自分もやってみたいって、その気持ちはすっごく解るから……いっぱいいっぱい楽しもうね!」
 皆が一度妖精サイズになってみるまで。フランの指先につんと突かれたリアが「ぎゃ」と驚いた様に肩を竦める。うりうりと撫でるフランに慌てるエンヴィをぬいぐるみのようにぎゅうと抱き締められたクラリーチェが微笑んで居る。
「ねえ、皆。お店の名前は覚えている?」
「勿論。花喫茶シュシュ!」
 ソアがえへんと胸を張ればその胸元に小さな春花を咲かせてゆく。名前の通り花をふんだんに。メイド服の胸元や髪だって沢山花で彩って。
「準備完了! 花喫茶シュシュ、開店だー!」


「あらエンヴィさん。リボンが曲がっていますね」
 照れたように水を思わす長髪を指先でいじったエンヴィの胸元にそっと手を添えてからクラリーチェは微笑んだ。白と黒を身に纏えば、いつも以上にその青い髪が輝いて見えるのだ。
「あ、有難う。ねえ、クラリーさん、その……小さいと、調理が大変そうだわ……?」
「大丈夫ですよ。大きさは自分で好きに変更することが出来ますから。一緒に調理しましょうか」
 穏やかに微笑むクラリーチェの紫苑の眸にエンヴィはこくりと頷いた。調理は得意な面々に任せると宣言するリアにお腹をきゅるりと鳴らしたフランとソアが美味しそうだと盛り付けられるフルーツをまじまじと眺めて居る。開店準備中の花喫茶の入り口に妖精達は「何かしら」「楽しそうだわ!」とくすくすささめき合いながら集まった。
「クラリーさん、えっと……フルーツはこれ位の大きさの方が良いかしら? 小さ目に切ったけれど、妖精サイズにはまだ大きそう……?」
 少しの戸惑いに、大丈夫だと応援メッセージを送るフロックス。彼女のOKに安堵して胸を撫で下ろしてからエンヴィはショーケースに妖精サイズのケーキを並べて。
 フルーツケーキにはふんだんとフルーツを盛り付けて。切り込みを入れて可愛らしくディスプレイ。フルーツジュースや紅茶やマフィン。クッキーだってお忘れ無く。お皿には小さなビスケットを使用して、さいごまで『美味しい』を演出すればユーフォルビアは「すごい」と眸をきらりと輝かせる。
「妖精サイズだと、一個のフルーツを使い切るのも大変ね……」
「けれど、お外じゃお皿は食べられなかったから! わあ、すごい。お皿まで美味しくゴクンなのね!」
 嬉しいと踊る花翅の娘にフランは「凄いでしょ、イレギュラーズって」と揶揄うように微笑んだ。準備は完了、花振る喫茶シュシュの扉を開いた妖精が「きゃあ!」と歓喜の声を震わせる。
 扉を開いたエストレーリャ、そして並んでクラリーチェがそっと手を差し伸べる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
 恭しく手を取るクラリーチェに妖精がうっとりと目を伏せる。照れくさそうに染まった紅色の頬が愛らしくて、エストレーリャはくすりと微笑んだ。「おかえりなさいませ、お嬢様」のご挨拶と共に妖精達をテーブルへと誘えば擦れ違うソアがエプロンドレスの裾をちょこんと摘まみ上げる。
「おかえりなさいませ、お嬢さま」
 それともご主人様が良いかしら、なんて。揶揄うように告げたその言葉にふんぞり返るように胸を張った小さな彼女は「ご主人様なのだ!」と意地を張るように微笑んだ。お水を注いだコップを置き「何を召し上がりますか? ご主人様」と穏やかに問い掛けるソアは小さな黒板にイレギュラーズが作成したデザートの絵を説明した者を用意した。可愛らしくカラフルに。『外の世界』の花をデコレーションした特製のデザートに妖精達が驚いた様に感嘆の声を上げた。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
 お出迎えをするフランにおっかなびっくりの妖精は「ええっと!」と驚いた様に肩を竦める。フランは「驚かれましたか?」と揶揄うように微笑んだ。
「ここはお嬢様達のおうちのサロン、わたし達はお帰りをお待ちしてました……なんて設定です。だから、気軽に『帰ってきて』くださいね!」
「成程! ただいま!」
「はい。お帰りなさいませ、お嬢様!」
 何時もの話し口調ではメイドさんらしくないから。『あたし』は『わたし』に。敬語も駆使してベテランメイドさんになりきって。そっと椅子を引いてお嬢様を席へと誘えばオーダーを告げるベルの音が鳴り響く。
「お嬢様、お呼びですか?」
 微笑んだリアはちら、とソアとフランを確認して安堵したように笑みを零した。一生懸命な二人が慌ててしまわないように。困ったときに手助けできるようにと気を配った『執事』に妖精は「メイドさん頑張ってるのよ」と揶揄い笑う。
「……失礼しました、それで、何をご所望でしょうか?」
「あのね、メイドさんにパンケーキをお願いしたいなって思って! だから、呼んで貰えるかしら!」
 リアは喜んで徒微笑んだ。目配せされたクラリーチェはソア特製のメニュー表を手に『同じ視線』で笑みを零して。
 メニュー表に「オススメ!」や「美味しい!」と書かれたコメントに妖精達は「迷う」と悩ましげに唇を指先でなぞる。そんな仕草ひとつも愛らしい。可愛らしい彼女の『一番の笑顔』を届けるためにクラリーチェはひとつひとつ説明を。
「どのパンケーキをお召し上がりになりますか? 本日の紅茶は……」
 妖精郷の茶葉についてはフロックス達からお勉強済み。執事たるもの、お嬢様方の好みにはしっかりと精通しておかねばならないのです。


 妖精郷のフルーツは見た目と味が知っているものとは大きく違う。エンヴィは味を確認しながらケーキにつかうもの、タルトにつかうもの、ジュースにつかうもの、と其れ其れを味見し続ける。
「……えぇ、これは必要な事なの……本当よ? ほら、食感とかも大事だから……ね?」
「オーダーだよ! あ、いいなぁー」
 眸をぱちぱちと瞬かせたソアにエンヴィは「ひ、必要だもの」と肩を竦める。エストレーリャは「ソア、こっち」とこっそりと拱いて。悪戯っ子の様に柘榴の眸が楽しげに揺れている。
「ほら、さっき褒めてくれたから。お礼に味見してくれる?
 ふふ。味見だから、つまみ食いにはならないよ。ね、エンヴィ」
「……えぇ、そうよ。味見は、つまみ食いではないの……」
 助かったというように胸を撫で下ろしたエンヴィにソアとエストレーリャは顔を見合わせてくすくすと笑う。食べ過ぎですよ、と頬を突くクラリーチェに拗ねたように唇尖らせたエンヴィは「美味しいのよ」と頬を薔薇色へと染め上げた。
「あーん。んー! おいしい!」
「でしょう? あ、ユーフォルビアも、食べてみる? 深緑の桃は、タルトにしても美味しいから」
 こっそりと厨房を覗いていたユーフォルビアはそわそわとソアとクラリーチェの様子を伺い見た。味見判定でますか、と聞きたげな緑色の瞳にクラリーチェは「見てませんよ」とわざとらしく目を伏せて。
「あーん……! わ、わ、とても美味しいわ! ふわあってして溶けてゆくの」
 頬が落ちちゃいそうと、慌てて頬を持ち上げるユーフォルビアにエストレーリャはよかったとにんまりと微笑む。オーダーのタルトを運んで欲しいとソアとクラリーチェに頼みながらエストレーリャは「紅茶は淹れにいくよ」と茶葉の準備を始める。
 ちりりん、と鳴るベルに「はあい」と返事をするソアの声音が跳ねる。楽しくって堪らない。お茶やデザートのおかわりを聞いて、隣に座って「あーん」と何時もエストレーリャがしてくれるようにプレゼント。
 お見送りをするならばとびきり可愛いお嬢様にと爪のお手入れをして、髪を解いて「行ってらっしゃいませ」とお見送り――ああ、なんて、そんなことを『やってもらいたくなって』しまった!
 うずうずと身を揺らしたソアにエストレーリャは「またあとで」と口をはくはくと動かして。君は何時だって分かってくれるから、嬉しくって堪らないのだ。
 高い位置から紅茶を注いで、エストレーリャは桃のタルトにキャンディツリーの食べられる若葉を添えて、妖精郷の外に漂う夏の気配を運んで見せる。
 夏とはどんなものかしら、問う声が聞こえた気がしてクラリーチェは「素敵なものですよ。春も良いけれど、夏も秋も。冬はちょっぴり怖かったですが」と揶揄い笑う。
「この服、元のサイズだと人形の衣装になりそうだけど……違和感無く着れるのね。これも魔法の影響かしら?」
 緊張したエンヴィも給仕係に加わって。似合いますね、と微笑むクラリーチェに彼女の白い頬は薔薇色のままで戻らない。
「活動的なスタイルのソアさんやフランさんのメイド姿は淑やかで可愛らしいですし、リアさんは白黒の修道服と似た色合いだからか、落ち着いて着ているようにも見えますね」
「ふふ、似合うでしょう?」
 自慢げに微笑んだリアは「クラリーチェも似合っているわよ」と手を振って。お嬢様達のお世話を焼きすぎるソアに「だめよ」と注意をするように頬を突いた。
 花々が咲き誇る花喫茶シュシュは大繁盛。賑わう店内を急ぎ足で歩き回るフランは「目が回るよ~!」と慌てたように走り回る。
「フラン、落ち着いて」
 頬をつん、と突いたリアにフランは大きく頷いた。妖精サイズのパンケーキには沢山の『メイド特製盛り付け』を。
 深緑の果実に名物のスイカを添えて、「スイカは妖精さん達よりも大きい物もあるんだよ!」と特大のスイカを指し示す。カフェ店内に設置されたレイアウトでも目立つスイカに驚いた妖精達が「面白い~!」と笑うその表情にフランはほっと胸を撫で下ろす。
「お嬢様、好きなものはなんですか?」
 へたっぴでも、フルーツソースでお嬢様の好きなものを描けば心がこもる。食事に舌鼓を打ちながら、談笑する妖精達へと蒼白く輝くヴァイオリンが音色を響かせる。リアは『お嬢様達の為への演奏会』を即席で開いた。
「さあ、お嬢様方が見た事の無い、外の英雄の物語……どうぞ、お聞きになって。
 まずは一曲。蒼剣のシンフォニア。……とあるギルドのろくでなしマスターの旋律」
「知っているのです! レオンさんです!」
 そう宣言するフロックスに妖精達がどっと湧く。彼女は妖精郷でのイレギュラーズの活躍にも前線で携わった。リアは「ええ、そう!」と演技がかった言葉使いで大きく頷いた。
「いい加減でだらしなくて適当で、人の事揶揄うし何でもお見通しな感じが気に喰わない中年男。
 でも、本当は偉大な冒険者で、いざって時は頼りになる面倒くさい英雄よ。それじゃ、次の曲を聴いて下さる? ――神託のコンフェシオン」
 屹度、妖精達が見ることの無い空の話。蒼天に浮かんだ神託の庭園。決して地へと降りることの無い少女。静かで清廉、穢れも知らないような顔をした寂しげな神殿に佇む彼女。
 見ることの無い空の、見ることの無い果ての物語。奏でる音にうっとりと目を細めて微笑んだ妖精達にリアは大きく頷いて。
 まだまだ、奏でる音は沢山ある。天義の、海洋の、冠位魔種と呼ばれた不倶戴天の災厄を打ち払ったあの日のことを。グラオ・クローネの、シャイネンナハトの、愛しき誰かを思う心の旋律を。
 リアの掻き鳴らしたその音色にユーフォルビアは「素敵なのね」と呟いた。精霊種、故に何処へでも行けるけれど勇気が無い。ストレリチアのように真っ直ぐに飛んで行ければ、沢山のことを知れるのかしら。
 そう首を傾いだ小さな緑色の少女にフランは微笑んだ。今は手を繋げば掌の大きさは同じ。時間が経てば包み込むような大きさになって仕舞うけれど。小さくても、大切な友達にフランは「ユーフォルビアちゃんは、メイド喫茶を見に冒険したんだね」と微笑んだ。
「ええ、ええ、とっても大変な冒険だったの。けど、みんなにとってはちっぽけかしら?」
「ううん。でもね、外には他にも沢山素敵な出会いがあるし、今度はあたしがご案内するから、一緒に遊ぼうね!」
 嬉しいと手を重ね合えば温かい。フランはユーフォルビアに「それじゃあ、一緒にメイド喫茶の続きをしよう!」と力強く手を引いた。
 楽しい時間はあっという間。客波の引いて行く店内にほっと胸を撫で下ろしたエンヴィへクラリーチェは「お疲れさまです」と穏やかに微笑んだ。
「さ、皆。余ったデザートで休憩しましょう? もうすぐ魔法が解けてしまうから。其れまでの間、ね?」
 リアにやったあと跳ねたフランとソアは「桃のタルト!」と一直線に。キャンディツリーの甘いキャンディの葉が咥内で溶けて心地よく広がって行く。
「あの、みなさん!」
 意を決したユーフォルビアが緑色のスカートをぎゅうと握りしめてから、その頬を薔薇色に染め上げて微笑んだ。
「とっても、とっても楽しかったわ。また、一緒に遊んで頂戴ね?」
 此処には無い何処かに訪れたような。そんな非日常。魔法が解けるまでは皆、花の妖精だから。ふわふわと躍る様に約束をしよう。

 ティル・タルンギレ 君の気配
 メグ・メル 駆ければ、棘を避け
 ゴヴニュの饗応 喉に落とせば、永久を指切りいたしませう

 ――ねえ、次は外の世界に行きましょう。小さな小さなユーフォルビア。
 屹度、もっともっと楽しい出会いが外で待っているはずだから!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はリクエスト有難う御座いました。
 とっても可愛いメイド喫茶をご一緒させていただけ、とても嬉しかったです!

 またご縁がありましたら、どうぞよろしくお願いします。

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