シナリオ詳細
お散歩日和
オープニング
●いつもぽつんと立っている
リリコという少女を一言で評すると「手のかからない子」だ。
会話に入ることは少なく、一人でたたずんでいることが多い。
また、言われたことはきちんとやり遂げるが、それ以上の気働きを見せることもない。よくできた子ではないが、悪いかというとそうでもない。つまり孤児院という場所において、比較的問題行動を起こさないおとなしい子、つい放っておかれてしまう子なのだ。
無口で無表情なのが、さらに拍車をかけている。痛いともつらいとも言わないうえに顔に出さないので、風邪をこじらせて肺炎一歩手前まで行ったこともあるくらいだ。彼女がそうなったのには理由がある。簡潔に述べると、目の前で魔物に両親を食い殺されたからだ。時期はイレギュラーズたちの大量召喚が行われる以前の話になる。どれだけ声を枯らして助けを呼んでも誰も来てくれない絶望の果てに、最後の力を振り絞った両親から、何があっても静かにしているように言われ、リリコは藪の中へ隠された。それ以来、リリコは必要最低限しかしゃべらないでいる。
●変化は突然に
そんなリリコがある日、親代わりのシスターへ言った。
『本屋へ行きたい』、と。
シスターは目を丸くした。あの消極的なリリコが願いを口に出すなんて、よっぽどのことだ。ここで断ってしまえば開きかけた心の扉がふたたび閉ざされてしまうだろう。何人もの子どもを見てきたシスターは心の機微にさとかった。
「わかったわリリコ。でもね、私はついていけないの。生憎と今日は篤志家の皆様にご挨拶にいく日だから。だけど大丈夫。私がローレットの支部へ先回りして、お散歩の同行をお願いしておくわ。合流場所は噴水のある広場にしましょうね、あそこなら支部から近いからすぐにイレギュラーズの皆さんが来てくださるわ」
場所はわかる? とたずねられ、リリコはこっくりとうなずいた。そして肌身離さず身につけているバッグを開いた。中に入っているのは一冊の絵本。
「その本みたいな絵本を探しているのね。すてきなご縁があるといいわね。ついでにみんなへのお土産も買ってきてちょうだいな」
シスターはふんわり笑い、小さな財布をリリコへ託した。リリコの頬をかすかに表情がよぎった。微笑したのかもしれない。
バッグのなかみは世界でただ一冊の絵本、リリコのためだけに、とあるイレギュラーズが描いた絵本だ。色彩豊かに描かれているのは、砂漠を泳ぐ魚、妖精のお茶会、金の花を咲かせる男……。文字による解説がないのが逆に空想を煽る。眠れぬ夜は月明かりを頼りにこの本を開くのがリリコの楽しみだった。不思議と神秘に満ちた絵本のページをめくるうちに、くじらが海へもぐるように、眠りの淵へ沈んでいく……。それは不眠に悩まされていたリリコを癒やす大切な宝物だった。リリコが本に興味を持ったのも当然と言えよう。
つばの広い帽子をかぶると、リリコは広場を目指して歩き始めた。
ひとりで散歩に出かけるのは初めてだ。
●よろしくイレギュラーズ
「すみません。子供の散歩に付き合ってもらえませんか」
ギルドにあらわれたシスターはふんわりとあなたへ笑いかけた。
「私が園長を務めている孤児院の子どものひとりが、最近本へ興味をもつようになったのです。そのため、本屋に行きたいと言っているのですが、あいにく保護者の私は別の用事が入っています。けれど、今日、どうしても、リリコを本屋へ連れて行ってやりたいのです。とはいえ、なにしろ7才の子どもですし、最近はスリの被害が増えているとかで、どうか見守りをお願いします」
ていねいに腰を折って礼をされては受けない訳にはいかない。
ちょうど予定も空いていたところだ。子どもの散歩につきあってやるのもいい。
待ち合わせ場所は噴水のある広場で、まあるく円を描くように屋台が立ち並んでいる。そこから通りをしばらく歩いていけば本屋へたどりつくだろう。おっと、孤児院で待っている他の子どもたちのためのお土産も買ってあげなければ。たしか、あの通りにはおもちゃ屋や駄菓子屋もあったはずだ。
自分も童心に帰ってあそんでみるのも楽しいかも知れない。
- お散歩日和完了
- GM名赤白みどり
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2019年06月23日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
リリコは初めて会う人達と仲良くできるか心配していた。そこへ……。
「あっ、あの子がリリコちゃんかな? はじめましてー!」
人混みをかき分け、元気のいい挨拶をした『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)。その名の通り炎のようなポニーテールにぴょこんと飛び出た猫耳が愛らしい。リリコはあわてて立ち上がりお辞儀をした。
「君がリリコちゃん? そんなに固くならなくていいよ。一度会ったらお友達、楽しく行こう! ボクは炎堂焔っていうんだ、今日はよろしくね」
人懐っこい彼女の笑顔に緊張の糸が解ける。
続けて『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)だ。陶器のような白い肌に黒と桃色の可愛らしいドレスが映えているが、見た目は孤児院の上の子達と同じくらいだ。リリコが勝手に親近感を抱いた。
「よろしくお願いしマスねぇーリリコちゃん」
「……はじめまして」
うんうんとうなずく美弥妃。そのたびに長いリボンが揺れ、アホ毛がぴこぴこ跳ねた。
「ワタシはお手手つないで歩くのが好きなんデスよぉ、よかったら一緒に繋いで歩いてくれマスかぁ?」
「……はい」
「うれしいデスねぇ~。ワタシもお散歩やお買い物が好きなので楽しみデスぅ!」
いつのまにか隣に誰か立っていた。
小柄な体にふわふわの青灰色の髪。くりんと巻いた角を飾る赤いリボン。羊のブルーブラッド、『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)だ。
「お久しぶりです、ね…」
「……こんにちは、メイメイさん」
「あ……覚えてて、くれ、た…うれしい…です」
忘れられているかもと思ったメイメイの心配は杞憂に終わった。知った顔を見たリリコもどことなくうれしそうだ。
「リリコ…さん…。ひとりで……ここまで来たんですね。…すごい…勇気です」
そんな彼女を応援したいとメイメイは願っていた。
しゃなりと音がなった気がした。リリコが振り向くと、そこにはみどりなす黒髪に着物を合わせた儚げな猫耳の女性、『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)がいた。彼女はゆらりと会釈をし、腰をかがめた。
「ええお天気や…お散歩、楽しもね? うちは蜻蛉、宜しゅうねリリコちゃん。今日は、お兄さんやお姉さん、皆が一緒やから安心してね」
イレギュラーズにはこんな美人もいるんだとリリコは驚いた。
「……はい」
「可愛らしなぁ。むかし世話をさせてた禿の子らを思い出すわ」
蜻蛉が目を細める。
突然リリコの頭に手が置かれた。そのままわしわしと乱暴に頭を撫でられる。
「お使いなぁ。えらいえらい。ま、スリとかある見てぇだし、少し見といてやるか」
顔を上げたさきには首筋にタトゥーのあるハーモニアの青年。長い耳はびっしりとピアスで飾られている。黙っていれば美丈夫。しかしどこかうさんくさい。リリコはついバッグを守るように抱き寄せた。
「おっと自己紹介が遅れたな。俺はスティーブン、スティーブン・スロウ(p3p002157)。これでもイレギュラーズなんだぜ。よろしくお見知りおきをってやつだな。あー、あんま喋るのは得意じゃないんだっけか。そーかそーか、ならこんなのはどうだ?」
言うなりスティーブンはリボンを取り出し、指に引っ掛けてくるりと回すと大きな蝶や花がいくつもできた。美しい細工物にリリコが見とれていると、スティーブンは言った。
「どうだい、気に入ったのがあったら結んでやるぜ」
蜻蛉も身を乗り出す。
「そらすてきやねぇ、スティーブンさん。それでリリコちゃんにおしゃれさせてあげてえな」
「よっし、そうこなくちゃな」
スティーブンがリリコの後ろへまわる。ちょいちょいと指先で髪とリボンをつつくだけで、カチューシャみたいな編込みができ、それの端に花束が生まれる。蜻蛉がはしゃいだ様子で拍手をする。
「ええなあ、よぅできてる。いいもんつくってもろたねリリコちゃん。それつけて、本屋さんへ行こね? きっと素敵な本との出会いがあるわ」
噴水の水鏡を覗いてリリコは髪飾りの出来に見惚れた。こんなおしゃれ、普段はしたくてもできない。自分は不器用だし、シスターは清貧をむねにしているので、身なりにはあまり気を使わないからだ。
「……とっても、ありがとう」
「可愛く飾ってやんのも俺の仕事の一環よ。リボン限定だがな」
そこへ三人がやってきた。一人目は翼の生えた二足歩行の黒ヤギ。二人目は黒ジャケットで銀髪の青年。三人目は鮮やかな金色の瞳が印象的な精霊。
「やあ遅れてすまない。つい話し込んでしまっていてね」
黒ヤギ、つまり『商店街リザレクション』イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)は悪びれもせずそう言うと、リリコの前に膝まづき手をとった。
「御機嫌よう、お嬢さん。私はイシュトカ。イシュトカ=オリフィチエ。今日一日キミのエスコートを務めさせて貰う」
そこまで言うと青年を振り向き、にやりと人の悪い笑みを浮かべる。
「……といってもお姫様をエスコートするのは騎士の仕事であって、そこのリゲル君のような人がいれば私の出る幕ではないのだがね」
リゲルと呼ばれた青年が苦笑する。
「まあ、顔は私のほうが面白い。どうぞよろしく」
おどけてみせたイシュトカは立ち上がり、一礼をした。大きい。リリコはその存在感に圧倒された。
今度は青年が挨拶をする。短く刈った銀髪に青い瞳。白いシャツにシンプルな黒ジャケット。差し色のストールが映える。
「ご紹介に預かった『銀閃の騎士』リゲル=アークライト(p3p000442)だ。普段は鎧だけど、今日はお散歩がメインだから私服で失礼。今日一日、実りあるものにしたいものだな」
快活に呼びかける彼の隣で、フィアンセでもある『慈愛の恩恵』ポテト チップ(p3p000294)が柔らかな笑みを浮かべる。
「初めてまして、私はポテトだ。今日はリリコが気に入る絵本が見つかると良いな」
ぶっきらぼうな言い方とは裏腹にゆるゆるとつつみこむような優しい声。リゲルとポテト、ふたりの間に流れる親密さは黙っていても伝わってきて、しかも応援したくなるような暖かさを持ちあわせていた。
リゲルがリリコのバッグへ目を移す。
「良かったらイレギュラーズから貰ったという絵本のことを聞かせてほしいな。いろいろな世界を本を通じてみることが出来て、ワクワクしたかい?」
リリコはこくんとうなずき「見る?」とバッグを開いた。一同リリコの絵本をのぞきこむ。それは美しい本だった。豊かな色彩が甘い波となってページを覆っていて、書き手もまた楽しんだのだと伝えてきた。
●
「ふんふんふ~ん♪ おっさんぽ おっさんぽ たっのしいおさんぽ~♪」
「イシュトカさまがお詳しそうなので…頼りにしてます…ふふ」
焔が鼻歌交じりで先頭を歩いていく。メイメイが尊敬する相手を頼もしそうに見上げる。イレギュラーズたちはリリコをスリから守るため、円陣を描くように歩いていた。美弥妃はリリコと手をつなぎ、彼女の歩調にあわせて歩く。目当ての本屋はどんなところだろうと想像を膨らませていると。
「お嬢さん、ハンカチを落としましたよ」
ふいに目の前へ見知らぬハンカチを差し出され、美弥妃は面食らった。
「いや、それワタシのじゃ……」
ないデスぅと続けるつもりが、背後からの悲鳴で途切れた。
「なんのつもりだ、この手は?」
振り向くとポテトがすりきれたジャケットを着た男の腕を絡め取っていた。
「いででで! なんて馬鹿力だ!」
「馬鹿力とはご挨拶だな。見ていたぞ、おまえが美弥妃の財布を狙っていたのを」
驚いた美弥妃が背後を見るとハンカチを持っていた相手はとっくに逃げ出していた。二人一組になり、ハンカチを使って注意を引いている間に財布をスリとるつもりだったようだ。美弥妃はとまどい、腕をきめられている男をしげしげと眺めた。
「スリが出るって言うから、てっきりリリコちゃんが狙われるとおもってたデスけど……」
「気づいたのだがね」
イシュトカが立派なあごひげを撫でながら言った。
「子どもと保護者が手をつないで歩いていたら、財布を持っているのは保護者と普通は思うな?」
「「「あっ!」」」
イシュトカの言葉に、一同なにかが腑に落ちた。
「ついでにいうと、イレギュラーズたちが闇市で大金を使っているという噂はずいぶんと広まっているらしいな。逆説的にイレギュラーズは金持ちだと思われているのだろう。実際には豪遊しているのも大金を持っているのも一握りのイレギュラーズたちなのだが、悪漢どもには関係ないようだ」
蜻蛉がはっと身を翻した。彼女の感情探知が複数の悪意を感知したのだ。まるでイシュトカの言葉を裏付けるように。
「なんやこの数……。悪意がそろってこっち来てるで」
「リリコちゃん、急いで広場を抜けよう!」
焔が自分のポケットを抑えながら叫ぶ。そんな彼女の細身の体を狙い、体当りしてくる子どもが居た。ひらりとかわすと、「ばーか! ばーか!」と叫んで走り去っていく。あんな子どもまで悪事をと、焔は唖然とした。気を取り直してリリコをかばいながら歩みを速める一同。そんな彼らを狙って飛んでくるトマト。
「ああ! 服が汚れちまったよアンタ! 悪かった、きれいにさせておくれ!」
「当たってませんし…けっこう…です…!」メイメイが涙目で訴える。
「おねえさん美人だね、どう? お茶でも」
「スリは帰りや!」バッサリ切り捨てる蜻蛉。
「あなたは神を信じますか?」
「ものによります!」と、リゲル。
あの手この手でイレギュラーズたちの注意をそらそうとするスリ集団。それをちぎっては投げちぎっては投げしているうちに、ヤツが動いた。
「ぐはあぁん!」
スリの一人が全身をマジックロープで縛り上げられていた。いや、縛るなどという単純なものではない。それは機能美に装飾と芸術性が加味された、まさに緊縛と呼ぶにふさわしい見事な亀甲縛り。
「よくやったデスぅ、スティーブン!」
「キシシッ……泥棒退治の名目で縛り放題。入れ食いじゃねえか! もっとこいスリども!」
喜悦に歪んだ顔でマジックロープを連打するスティーブン。
「そいやぁ!」
高手小手縛り。
「ずりゃあ!」
下手後手縛り。
「おうりゃあ!」
諸手上げ縛り。
「落ち着きやスティーブンさん! 今日はほのぼの依頼のはずやで!」
思わず蜻蛉が声を上げる頃にはあたり一面マジックロープだらけだった。一仕事終えたスティーブンはやりきった顔で額の汗を拭った。
「ふぅ~縛った縛った。満足だ。このチームに俺がいるとは運が悪かったな。ツキに見放されちゃお終いだぜ?」
足元から聞こえてくるうめき声に、げっそりした顔でポテトがため息をついた。蜻蛉へ顔を向ける。
「スリはまだ来そうか?」
「ううん、いまのでお終いみたいやわ。まだ気配は感じるけれど、離れていってる」
「自分たちの手に負えないと判断して諦めたのだろう。一流のスリとはそういうものだ。彼らは己の二本の指にすべてを賭けた、誇り高い職人でもあるからな」
そうイシュトカが言い添えた。
「じゃあお散歩再開だね。災難だったね、リリコちゃん」
美弥妃がリリコと手をつなぎなおし、安心させるように笑顔を見せる。
「……外は怖いところなんだね」
イシュトカがぴくりと耳を動かした。なにか言いたげに口元が動くが今はその言葉を胸へ沈めたようだ。一行は広場を抜け、通りを進んでいく。
●
イレギュラーズたちは本屋で絵本を探していた。彼らの居る階にはコミックや子供向けの本が集められている。その一角で、ポテトは飛び出す絵本に感動していた。
「凄いな、こんな絵本もあるのか……! これは私用にも買おう。子供向けと思っていたが、あなどれないものだな」
他にもないかと書棚を端から端まで見て回る。そんなフィアンセの姿にくすりと笑い、リゲルは一冊の絵本を手に取った。海の絵本だ。波がキラキラ光っている。
「リリコちゃん、海には興味があるかな。こんなのはどうだい?」
リリコはじっと絵本を見つめている。それが気を惹かれたサインだとリゲルは見抜いていた。
「この本はリリコちゃんにプレゼントしよう」
「……いいの?」
「もちろんだとも。ポテトも何かお勧めの本はあるかい?」
「これ」
「植物図鑑かー」
「……うれしい」
「「そうなの!?」」
「……孤児院の庭で、食べられる草、探せる」
「リリコちゃん……」
せちがらいセリフを聞いたリゲルとポテトは、いつか孤児院のこどもたちに腹いっぱいおいしいものを食べさせてあげたいと思ったのだった。
近くでそのセリフを聞いていた蜻蛉が、物陰でそっと祈りを捧げる。
(子供は子供らしゅう生きられるのが、一番。たとえ無口でも、その小さな身体で色んなものを抱えて、考えてるんよね、きっと。今は無理かもわからんけど、少しでも、そのお心が温まりますように)
そこへふらりと美弥妃が通りかかる。
「たくさんありマスねぇー、リリコちゃんはどんなのがいいデスかぁ? これ? これは怪傑ゾロアスターの冒険デスよぅ。むつかしい綴の単語がたぁくさんありマスよぅ。でもだいじょうぶ、この単語ドリルで勉強をすればすぐに読めるようになりマスよぅ」
といって、美弥妃はドリルと厚めの本をリリコへ渡した。財布を取り出そうとするリリコを首を振って制止する。互いの意思を尊重し合う一同のこと。もしお勧めがあればリリコへプレゼントすることが暗黙の了解になっていた。最終的にリリコが買った一冊は、敬虔なシスターが苦労の末、難病に打ち勝ち村を救うという美談だった。物語に出てくるシスターへ自分の保護者の姿を重ねたのかも知れない。ともあれ、彼女の財布にはかなりの余裕があった。
「お菓子ならまかせて! こっちに来た頃に自由にお買い物出来るのが嬉しくて、買い食いとかしちゃってたからねっ!」
駄菓子屋で胸を張る焔。
「えっと、こっちの棒みたいなのは色んな味があるんだけどね。まずは基本のチーズ味がおススメかな、ボクは甘辛い感じのタコ焼き味も好きだよ! 1個の値段は安いから色々試せるかも。
こっちはカラフルで綺麗だよね。もちっとした触感で甘くておいしいよ。あとね、この器になってるのも食べれるんだよ。
あっ、これね、凄いんだよ! 薄い紙みたいなので包まれてるでしょ?実はこれ、この紙ごと食べれるんだ!」
マシンガントークをリリコは楽しげに聞いている。悩んだ末に、リリコはボンタン飴を一箱買った。選んだ理由は安いうえに数が多くてみんなで分けられるから。悲しいかな、つい値段が最優先になってしまうようだ。まだたっぷりあまりがあるのだからと促され、リリコがオレンジ色の袋に手を伸ばしたとたん、焔は真っ青になって割って入った。
「こ、これはダメ! このお菓子、特にこの粉は凄くおいしいんだけど1度食べるともうやめられなくなっちゃうんだ。ボクも買い溜めして定期的に食べないと落ち着かなくなっちゃって……うぅ、考えてたら食べたくなってきちゃった、すみませーん、これください!」
「一度食べるとああなるんだ。お小遣いがいくらあっても足りなくなるぜ。それよか健全にフルーツのパイをお勧めするね。表にうまそうなのが売ってたぜ」
スティーブンが言っていたおおぶりのフルーツパイを買うと、向かいのおもちゃ屋へ入る。
「男の子には…んー…「けん玉」とかどうやろか。手に取って、まずは…糸の先についとる玉を回して…こう!」
皿の上に見事に玉を乗せてみせる蜻蛉。
「なかなか上手に出来たことない? ふふ。お嬢ちゃんもど? …そうそう。あちゃあー……」
リリコも挑戦してみたが苦戦に次ぐ苦戦だ。ただおもちゃとしては気に入ったらしく、幼児向けの木のパズルといっしょに買い求める。小さい子たちのためだろう。
「女の子には何しようかね」
「……リボン」
リリコは自分の頭を指さしてそう言った。蜻蛉が笑みを深くする。
「せやね…。…キラキラした飾りのついた髪留めに、綺麗なリボンはどうやろ。うちが、皆の髪結いしてあげるよって」
うなずくリリコ。ひたと見据えてくる瞳が感謝を浮かべている。店を出ると日が傾いていた。メイメイが小袋を取り出して土産を分け、カードに孤児院の子どもたちの名前を書いて添える。
「名前を読んで渡してあげてください、ね。…今日のお散歩は…リリコさんの物語の一頁、です。…たくさん重ねて、素敵な物語になる、と良いです、ね…!」
「……ありがとう」
メイメイの心づくしを、リリコは受け取った。きっと孤児院の子どもたちも喜ぶだろう。リリコは歩き疲れた様子だった。その荷物をスティーブンたちが代わりに持ってやる。
「おいで」
と、イシュトカがしゃがんで広い背を向ける。リリコを背負うと、「いいものを見せてあげよう」と彼は大空へ向けてはばたいた。街を上空から見下ろす。初めて見る景色に、リリコは言葉を失った。
「君の孤児院はどこかね」
「……あっち」
「小さいだろう」
「……うん」
「見ての通り。この世界は果てもなく広い。外には怖いこともある、辛いこともある、それでも私は信じている。この世は素晴らしいところだと。時に方角を見失い、溺れそうになることもあるが……そんな時は、我々のことを思い出してくれたまえ」
リリコが今日初めてはっきりと微笑んだ。わずかに口角をあげただけではあったが、たしかにそれは笑みだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでした。
今日一日でリリコはかなり成長したようです。
これもイレギュラーズの皆様のおかげです。
世界の広さを見せてくれたイシュトカさんにMVPを贈ります。
またのご利用をお待ちしております。
GMコメント
ようこそこんばんは、みどりです。
幼女とお散歩してください。
リリコ(10才)
イレギュラーズを信頼している無口な少女
まだまだ読み書きは勉強中
孤児院のこどもたち
7人います。みんな孤児院から出る機会が少なく、お土産を心待ちにしています。
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