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シナリオ詳細

<フルメタルバトルロア>さびしんぼのリーヌシュカ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――ようこそ、ギアバジリカ一号艦――ゼシュテリウスへ。君達をクルーとして歓迎しよう」
 ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ(p3n000076)は両手を広げながら、一行へと述べた。
 混沌では鉄帝国皇帝とされる人物だが、またずいぶん若く感じられる。二十歳そこそこに見えるだろうか。ここが混沌をいびつに再現した新世界『ネクスト』ならばさもありなん。

 それはさておき。
 小さな歯車の音と細かな振動が、ブリッジを包んでいる。
 R.O.Oにログインしたイレギュラーズは、機動要塞ギアバジリカなるイベントを攻略することになった。

 ――新規イベント『機動要塞ギアバジリカ』が開催されました。
   鋼鉄内乱『フルメタル・バトルロア』を攻略し、皇帝殺害の真相に迫りましょう。
   さあ、機動要塞ギアバジリカ初号艦のクルーとなって戦地へ赴きましょう。
   発進! 黒鉄十字柩(エクスギア)で出撃し、鋼鉄を蹂躙する『シャドーレギオン』と交戦せよ!

 つまりこれは、そんなゲーム――R.O.O 2.0のお話だった。
 R.O.Oは練達の国家事業である。
 だが何らかのバグによりR.O.Oに異常増殖した情報――ゲームのような新世界『ネクスト』を形成した。
 ネクストは、『ログアウト出来なくなった人の解放』を『ゲーム攻略成功時のトロフィー』としたり、『ジーニアスゲーム・ネクスト』などといったイベントを突きつけてきていた。あまりに人為的で悪意さえ感じる状況に際して、練達上層部は敢えて乗ること、つまりは『攻略する』ことを考える。
 かくしてローレットのイレギュラーズはR.O.Oにダイブし、ゲームを攻略することになったのだ。
 そして初めての一大イベント『Genius Game Next』を攻略達成したイレギュラーズは、再び『攻略』を求められたのである。

「早速で申し訳ないが、こっちも人手不足でね。今からエクスギアで出撃してほしい」
 藪から棒に一行の背を押すヴェルスは、八機の巨大な十字架を指さした。
 五メートル程の黒い巨大な十字の中央に、棺のようなものがあつらえられている。
 その名は黒鉄十字柩――エクスギア。
 ギアバジリカから戦場へと発射される、いわば『輸送ポッド』だ。
「一人用だが、ああ。希望するなら別に二人で乗り込んでも構わない。少々狭いがね」
 戦地に突きたったエクスギアから現れたイレギュラーズは、敵との交戦を開始する。
「シャドーレギオンをブン殴ってやる訳だ」

 鋼鉄ではこのところ、闘士や軍人、あるいは何らかの志を持つ人々が『突然人が変わったような状態』となり、おかしな軍閥をあちこちで形成して争っているらしい。多くは非常に邪悪な人格に変貌してしまっており、略奪や虐殺などの非道を繰り広げている。それらの人や軍閥は『シャドーレギオン』と呼ばれていた。
 ゲームの『お知らせ』によると、彼等に勝てば『正気に戻る』そうだ。
 つまりシャドーレギオン自身も、ゲームの奥に潜む『悪意の犠牲者』だということになる。
 シャドーレギオンの解放も、また『歪んだトロフィー』のつもりなのだろう。

「あー……なんか、それって『闇堕ち』ですね」
 ふと 『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)が呟く。
「闇堕ち?」
「あー……えっと。何かの影響で、善良な人が突然すごい悪い奴になっちゃうってやつで」
 なるほど。
「意に反して、ひどいことさせられるって、どんな気持ちなんでしょうね……」
 どうにも得体の知れない数々のバグの正体、あるいは原因。あの『R.O.O運営』というヤツのやり口は、癪に障るものが多い。わざわざネクストの人々を『バグらせ』、『悪人に仕立て上げている』という訳だ。
 シャドーレギオンは『DARK†WISH(歪んだ願い)』を持ち、これをしばきたおすことで『WISH(元の願い)』に戻って、正気に返るらしい。これもまたなんと悪趣味なことか。
「なんか、中二病っぽいですね。妙な親近感ありますけど……」
 フレアはそう呟いて、なんだかばつがわるそうに前髪を弄っている。

 とにかく一行は戦地へ赴き、シャドーレギオンに殴り勝たなければならない訳だ。
 何か無線通信を受けたであろうヴェルスは、慌ただしい様子で踵を返し、
「俺はこのまま、この一号艦を防衛しなくちゃならない。だから頼んだぜ、君達だけが頼りなんだ」
 振り返ってそう述べた。

 ――今回の敵は鉄帝国軽騎兵隊、か。
 ともあれ、やるしかなさそうだ。


 唇の端を片方だけ釣り上げた少女が、サーベルを突きつける。
「チェックメイトよ、あなた」
「こ、降参だ。この通り。故郷に妻と子供が居るんだ。きっと、寂しがってる」
「ずいぶん潔いじゃない。好きよ、そういうの」
「……じゃ、じゃあ!」
「もう二度と、寂しく何てならないようにしてあげる」
 身体を戦慄かせた軍人は口を引き結び――白刃が閃いた。
 ちりちりとした粒子が舞い、男が電子データの屑に変わる。
『こちら。абсурд(小隊アー)。制圧が完了しました』
「フスョー、ニシュチャーク! やるじゃない。そのまま作戦を継続なさい」
『ダース!』
 通信機を切った少女『セイバーマギエル』リーヌシュカ(p3n000124)は、次なる犠牲者を求めて軍刀を構える。その瞳は、その歪んだ表情は、混沌における彼女――明るくて、照れ屋で、前向きで、頑張り屋で、ちょっと強引なバトルマニアの姿とはまるで違っていた。
 練達の旅人(ほむら)が述べたように『闇堕ち』とでも表現するほかなさそうだ。

 ――少女は軍帽の角度を整える。
「папа(ぱぱ)、мама(まま)、行ってきます」
 帝都のアパルトマンに住むリーヌシュカは、出立前に必ずモノクロームの写真へ挨拶するのが日課だ。
 彼女の父母は帝国軍人であり、幼い頃に戦死している。
 それ以来彼女もまた、軍人として任務に勤しんでいる。
 幼い彼女は上官に志を尋ねられた時、両親の遺志を継ぎ立派な軍人になるためだと答えた。
 上官は感激し、滂沱の滝涙を流し、毅然とした彼女の態度を大層褒めそやし、彼女もまた自信満々に胸を張ったものだ。
 おそらくこの方便は、彼女自身も真意だと信じ込んでいるに違いない。
 けれど、本当にそれだけか――――

 立ち上る煙と、焼けた火薬のにおい。それから炎の中で、少女は『軍功』を重ねて行く。
 彼女の軍閥(シャドーレギオンの一つ)の上官から命じられたように、望まれるままに。
「папа(ぱぱ)、мама(まま)。こうすれば、追いつけるでしょ」
 リーヌシュカはくすくすと笑う。
「そうすれば、隣に並べるでしょ」
 リーヌシュカは再び白刃を振るう。
「そうすれば、いつか追い越せるでしょ」

 そうすれば――

 きっとпапа(ぱぱ)、мама(まま)。
 ずっと、見えないほど。ずっとずっと前を歩いてる、あなたたちの目にとまるじゃない。

 ーーもう一度。

「だから、もっともっと……殺すわ!」

GMコメント

 pipiです。
 R.O.Oの2.0『鋼鉄編』フルメタルバトルロアです。
 敵はR.O.Oリーヌシュカ。闇堕ちバージョン。

●目的
・鋼鉄の町で暴れている軽騎兵隊(リーヌシュカと部下達)をしばき倒す。
 とにかく倒せば正気に戻ります。

●ロケーション
 鋼鉄の町です。
 襲撃され、瓦礫だらけの場所です。
 もう色々壊れてるので、あまり気にせず暴れましょう。
 別にそれで被害者出したりとか、しませんので。

 皆さんは軽騎兵隊がひどいことしてるあたりに、ズドーン! と登場します。
 人数分の巨大な黒鉄の十字架がブッ刺さる訳です。
 ミッションをスタートして下さい。

●敵
 鋼鉄軽騎兵隊です。
 総じて、機動力と白兵戦力に優れます。

・『セイバーマギエル』リーヌシュカ(p3n000124)
 R.O.Oバージョン(ネクスト現地民)です。
 闇堕ちして、シャドーレギオンにされています。
 剣を使用して戦います。出血、流血、ブレイク、必殺を持ちます。
 妙に強いです。ステージボスだからです。

 『WISH』
  戦死したパパとママに恥じない軍人になりたい。

 『DARK†WISH』
  軍功をあげるため敵を沢山殺したい。

・『鋼鉄軽騎兵隊(バイク+サーベル)』×6
 軽量なバイクを華麗に操り、白兵戦をしかけてきます。
 バランスの良いスペックです。

・『鋼鉄軽騎兵隊(バイク+槍)』×6
 銃弾をばらまきながら、突撃してきます。
 打撃力に優れています。

・『鋼鉄軽騎兵隊(バイク+火器)』×6
 戦場を縦横に駆け回り、ライフルやミサイルポッドなどで攻撃してきます。

●同行NPC
『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)
 希望ヶ浜からのログイン組で、皆さんの仲間です。一応イレギュラーズ。
 物理と神秘のバランス型近接アタッカーで、遠距離単体神秘攻撃と、回復もあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※WISH&DARK†WISHに関して
 オープニングに記載された『WISH』および『DARK†WISH』へ、プレイングにて心情的アプローチを加えた場合、判定が有利になることがあります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

  • <フルメタルバトルロア>さびしんぼのリーヌシュカ完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Ignat(p3x002377)
アンジャネーヤ
スパロウ(p3x006151)
アーマーナイト
焔迅(p3x007500)
ころころわんこ
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)
災禍の竜血
ひめにゃこ(p3x008456)
勧善懲悪超絶美少女姫天使
指差・ヨシカ(p3x009033)
プリンセスセレナーデ
コーダ(p3x009240)
狐の尾
霧江詠蓮(p3x009844)
エーレン・キリエのアバター

サポートNPC一覧(1人)

フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)
ロード†オブ†ダークネス

リプレイ


 街が燃えている。
 駆け抜ける蒸気バイクの機関銃が火を吹いた。
 壁面を粉砕し、徐々に徐々に削り落としている。頭を抱えて震える鉄機種男は、この街の住人だ。
 男が削れた壁からその頭をさらけ出す、まさに直前。

 ――戦場に爆音が響き渡る。

 瓦礫が燃える炎に突きたったのは、九つの巨大な十字架であった。

 現地到着──

 首を左右に鳴らした『白竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)が竜刀『夢幻白光』を抜き放つ。
 ここは鋼鉄――ネクストに生じた鉄帝国の歪な模造品の街である。
 練達の国家事業であるR.O.Oが何者かに歪められ、生じたバグはこの世界をゲームのように改変している。
 ネクストの鋼鉄ではブランドという皇帝が暗殺され、内乱が発生していた。
「世界の病(バグ)というのはかくも根深い……というか」
 言葉を切った『エーレン・キリエのアバター』霧江詠蓮(p3x009844)は眉間を寄せた。
「前からそうだったが悪意が顕著だぞ、このイベント」
 ネクストから突きつけられた『ゲーム』は、『闇落ちした軍閥(シャドーレギオン)をぶん殴って正気に戻せ』というものであり――悪意の真相に近付くためにも、イレギュラーズは『攻略』する必要がある訳だ。
「救い方が明示されているのは眺めて楽しむつもりか、あるいは別の狙いでもあるのか……」
 おそらく、詠蓮は思う。瓦礫の山で笑う軍帽の少女――リーヌシュカは抵抗も出来ず『悪意のバグ』に飲まれ、『闇落ちさせられた』に違いない。
 まさか『このような形』で刃を交えることになるとは。
「すぐに元に戻してやる。待っていろ」
「確かに悪趣味なイベントです」
 ベネディクトが述べた嘆息交じりの言に、『アーマーナイト』スパロウ(p3x006151)も頷く。
 全力で攻略せねばならないだろう。

「一歩間違えば……いや、一歩どころか二歩も三歩も間違えてる感あるけれどね? リーヌシュカもあんな感じになっちゃうかと思うと世の中の流れって怖いものがあるよね」
「ええ、お労しやリーヌシュカ殿……」
 鋼鉄の『カニ』Ignat(p3x002377)の所感に、『ケモ竜』焔迅(p3x007500)もぽつりと零す。
 リーヌシュカというのは鉄帝国の軍人であり、Ignatにとっては友人だ。
 現実世界(無辜なる混沌)では、闘技場で拳と刃を交え、また海洋では肩を並べて滅海竜と戦ったのだ。
 同郷人のよしみというか、殴り合えばわかり合えるという気風も合っている。
 焔迅にとっても近しい想いがあり、真っ直ぐで愛らしいリーヌシュカの凶行に心を痛めている。
 ゲームに表示されたデータ『願い』は『戦死したパパとママに恥じない軍人になりたい』というもの。
 歪んだ先は『軍功をあげるため敵を沢山殺したい』とされている。
 そんな人の心をねじ曲げる『DARK†WISH』なるふざけたゲームルールなど知ったことではない。
 ならば――
「鉄帝、じゃなかった鋼鉄人は斜め45度から叩けば治るって。
 野菜売りのおばあさんが言ってました――!」
「そうだね。ここは鉄帝らしくぶん殴って正気に戻してやらなくちゃね! 友達だもんね!」
 瓦礫の上を跳ねるように、円弧を描き始めた蒸気バイクに向かい、Ignatと焔迅も得物を構える。
 絶対に『元のリーヌシュカ』を取り戻すのだ。

 無論、現実の彼女と面識を持たない者も居る。
 例えば『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)や『狐の尾』コーダ(p3x009240)だ。
 実直な気質のコーダにとっては、これは『仕事』だ。相手が誰であろうと仕事をこなすことには変わらない。あるいは何の宿業か、自身のアバターに余りにも良く似たネクストのチュートリアルNPCは、かつて混沌に舞い降りた顔の良い『誰か』にまた良く似ているともされるが。ともあれその『誰か』ではない以上、彼にとってその仔細とて知る由はない。
 練達という国から足を踏み出していないヨシカ(厳密にはその背後)は、元の世界と良く似た再現性東京での暮らしを選んでいる。けれど――もしかしたらヨシカと彼女は似ているのかも知れないとも思える。
 ほんの少しまえまでは、ヨシカはこの世界へ呼ばれても、何もせずにただ生きていた。見ようとすれば見えるものから目を背け、聞こえる声から耳を塞いで逃げていたのだと思う。それらは悍ましい敵でなく、自身を支えてくれる、あるいは背を押してくれるものだったかもしれないのに。
 だから――彼女にも思い出して欲しいのだ。
 たしかに聞いたはずの『それ』を。
 最愛の二人、彼女の両親から紡がれたはずの糸を――

 ヨシカは指差し一つ。
「プリンセスチャージ――!」
 宙へふわりと舞い上がったヨシカの身体から衣服が消え、身体が光に覆われる。
 エフェクトが可憐な衣装を形成し、足首に、胸元に、髪に――リボンがポンと現れた。
 光がフリルを描き、外套が身を包む。顕現した誘導灯をバトンのようにくるりと回してハートを飛ばし。
 その姿は正しく『ご安全に!プリティ★プリンセス』に登場する主人公の一人だ。

「本日の作業、崩れた心の舗装工事。それでは今日もご安全に……」

 ――作業始め。


 バイクの一団が猛スピードで迫ってくる。抜き放たれた軍刀が炎に赤々と光の滑りを帯び――
「僕達が騎兵を抑えます」
 だが誰よりも速く書けだした焔迅はすれ違い様に軍刀へ食らい付き、二度のウィンク(!?)。
 プロトコルに仕込まれたブッコロ因子が、騎兵の一人を瓦礫の中へ吹き飛ばす。
「ええ本当に。しかしこんな悪路でバイクを操る度胸と腕前は認めましょう」
 スパロウも、飛行スラスターを点火すれば足場の問題を解決出来ることは分かっている。
 だが――あえてこのまま突進して不意を突く。スパロウが巨大な盾を構えて踏み込んだ。
「ですが、こんな大鎧と衝突してまったく無事とはいかないでしょう?」
「――!」
 避けようと弾んだバイクは慣性そのままに宙を駆け、騎兵の軍刀とピコハンが交差した。
 きらきらとした星のエフェクトが飛び散る。激突に跳ね飛んだのは、騎兵だ。
「私を止められると思うのなら。さあ、向かってきなさい!」
 意気揚々と宣言する。それが力無き人々を護るため、時に勇者を内に宿し、時に勇者と共に世界を駆けた絡繰巨人の姿なのだから。このままピコハン(!?)の錆としてやるのだ。
「――鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。悪いが狼藉はここまでにしてもらおうか」
 詠蓮もまた腰を落とし、腰の愛刀三州景忠に指を添える。
「――ッ!」
 迫るバイクを堂々と見据え、裂帛の踏み込み――剣閃。
 鳴神の抜刀術は鮮烈な雷光の如く。すれ違う騎兵、そのバイクへ一条の軌跡を描いた。
 宙を駆ける騎兵は、ずるりと分かれるバイクの上半分へ跨がったまま、石壁へ激突。爆発炎上する。

「やるじゃない、どこの軍閥よ。さてはゼシュテリウスね?」
 リーヌシュカが手をひらひらと振ると、無数のサーベルが大地に突きたった。
「軍功の稼ぎ時よ! このまま蹂躙してあげるんだから!」
 その一本を抜いたリーヌシュカは、真正面に突き出すと表情を歪める。
 邪悪な笑みと共に、どす黒いオーラが足元から吹き上がった。
「はー、駄目ですよ! こんなに可愛い美少女なのに!」
 別種の憤慨を隠せないのは『勧善懲悪超絶美少女姫天使』ひめにゃこ(p3x008456)であった。
 騎兵がまた一人、オフロードバイクさながらに瓦礫を駆けてくる。
「あーもう、邪魔ですね! ひめはリーヌシュカさんと話に来たんですよ!
 今可愛いが失われようとしているんです!
 邪魔するなら二度とバイクに乗れなくしてやりますよ!?」
 あえて瓦礫を防壁に陣取ったひめにゃこへバイクが迫る。だが迫るサーベルはコンクリートの外壁を削っただけだ。この地形のバイクは小回りが難しいという読みが当たったことになる。
 少なくとも『普通に走れる訳ではない』のだ。
 隙を逃してやる手はない。間髪いれずに、ひめにゃこの『可愛さ』が炸裂した。
「え、もうまじムリ……」
「いま胸の奥、きゅーんてした!」
「あのこ尊い……はあ――しゅき」
 吹き飛んだ数人の騎兵(おっさん)が頬を桃色に染める。
 彼等は全く可愛くないが、ひめにゃこは可愛い。

「フレアは回復を頼む。ただし俺より危険そうな味方がいたら優先してくれ」
「あー、はい。わかりました、だいじょぶです。ロールはヒラ意識しときます」
 ベネディクトの言葉に頷いた『ロード†オブ†ダークネス』フレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)が、ひめにゃこが身を隠す壁に、同じく背を預ける。
「ついでみたいでアレなんですけどフレアさんも可愛いですよね」
「っへ!? え、えあー」
「そのアバター何をモデルにして作ったんですか?」
「あー……そのままっていうか」
「今度、詳しく! 話し合いましょう! ね?」
「ええ、と。はい」

 こうして――僅か数十秒の交戦は、早くも壮絶な削りあいの様相を示している。
 イレギュラーズの各個撃破作戦は功を奏し、既に四名の軍刀騎兵が沈んだ。
 味方側に倒れた者は居ないが、敵が放つ銃撃の嵐にいくらかの手傷を負っている。
 バグ的なスペックアップを施されたリーヌシュカが相手ではあるが、堅牢なベネディクトはフレアのバックアップを受け、今のところ難なく持ちこたえていた。

「ちょこまかと面倒くさいわね……」
 敵兵種の優先序列より、より多くを巻き込むほうが良いだろう。
 そう判断したヨシカは戦場中央を誘導灯で指し示す。
「指差し確認、ヨシ! プリンセスパイルハンマー!」
 天空に光が駆け抜け、描き出された巨大魔方陣から顕現した巨大な基礎杭が、轟音と共に敵陣を打ちのめし、立て続けに三度を叩き込んできらきらと消えた。
「オレはこっちから行くよ!」
 Ignatの背負う砲門が熱に歪み、井伏――もとい蟹光箭の閃光が放たれる。
「ガンガン吹っ飛ばしていくよ! FIRE IN THE HOLE!」
 圧倒的な熱量が敵陣後方を貫き、足場さえ崩しながら一気に燃え上がる。


 戦いは続いていた。
 一人、また一人と倒れる軽騎兵だったが、イレギュラーズの損耗も大きくなっている。
 勝負が決まる時が、近付いていた。
「どうしてこの様な事をする?」
 リーヌシュカの剣を弾き、迫るベネディクトが問う。
「軍功が欲しいの、だから死んで」
 間一髪、はじき返したリーヌシュカの刃がベネディクトの首をかすめ、細く赤い線を描いた。
 宙を舞う軍刀を捌き踏み込む。肉薄したベネディクトは最後の一太刀と覚悟を決めた。
「誇りある帝国軍人とは思えぬ所業、それが君の本当に望んだ事なのか?」
「――ッ!」
 表情を歪めたリーヌシュカが自身の頭を抑えた。
 圧倒的な竜気を纏うベネディクトの剣がリーヌシュカを確かに捉える。
「周りに居る貴様らもだ! 厳しい環境の中を生き抜く為に鍛え上げられたその武は、只弱者を捻じ伏せる為だけに存在する物か?!」
 瓦礫を二度跳ね、飛び起きた彼女は俯き。
「ちが、うわ。わたし、達は。本当、は――」
 だがちりちりとしたグリッジノイズ状の残光と共に、リーヌシュカは再び顔を上げた。
「ねえ、軍功が欲しいの。だから死んで」
 迫る軍刀がベネディクトを駆け抜け、体力を示すゲージが一気に消失する。
「ベネディクトさん!」
 ――だがベネディクトは倒れない。
 フレアの回復が、コンマ一ミリだけ残ったゲージを、指一本ほどまで引き戻した。
「さあ、今度は俺と遊ぼうか!」
 とびすさるベネディクトと入れ替わるように、コーダが大盾を構える。
「なら、逃した罪はあなたが背負いなさい!」
「威勢がいいお嬢ちゃんだ」
 コーダは斬撃の嵐に盾をぶつけるように踏み込むと、スカーフを引き抜く。
「よく、頑張ったなリーヌシュカ。もう十分だ……なんて言わねぇよ。満足するまで受け止めてやる」
 風を纏ったスカーフは、甲高い音と共に跳ね飛び回転する軍刀の一本を寸断した。

「ひめにゃこー!」
「推せる!」
 サイリウムを振り同士討ちをする騎兵をよそに、あらかたの敵を沈めている。
「あとは貴女です。リーヌシュカさん」
 スパロウ達がエリアボス――リーヌシュカの元へ立った。
「それにしても随分派手に壊し尽くしたものだ」
 詠蓮は溜息一つ。
「非戦闘員が何人巻き添えになった? それも全て『軍功』になるのか」
「……そうよ」
「この『軍功』で確かに前には進むだろうよ。だがよく考えてくれ。『前』とはどっちだ? その先に本当にご両親はいるのか?」
「……」
「どちらに進むことがご両親に近づくことになるんだ? それがわかるのはお前だけだ。だから言う。よく考えてくれ」
 リーヌシュカと斬り結ぶ詠蓮が問いかける。
 こうして醜悪なゲームシステム――データ化され歪んだ願望『DARK†WISH』との対話が始まった。

 満身創痍のスパロウは樹脂鎧の大部分を破壊され――だが、なればこそ『現実の彼女』が築き上げた実戦経験、その体感に近づけることが出来る。
 リーヌシュカにピコハンを叩き付けたスパロウが問う。
「貴女の思う立派な軍人とは、降参した者を斬る無法者ですか?」
「……」
「鋼鉄の軍人……いえ、戦士ならば。正々堂々と敵に立ち向かう勇者こそ、誇りある者でしょう?」
 そう思うから、だから止めに来た。
「さあ、向かってきなさい。今の私は、放っておくと面倒ですよ」
 呻きながら明滅するノイズに包まれたリーヌシュカはピコハンを受け、飛び散る星と共によろめいた。
「邪魔を、しないで!」
「やっば、ちょっと。ごめんなさい死にました。ご武運を、なんて――」
 仲間への回復を連打しつつ剣撃の嵐に巻き込まれたフレアが、光の粒子となって消え失せる。
「なに可愛くない事してるんですか!」
 ひめにゃこが叫ぶ。
「貴女の真っ直ぐで凛々しいお目々がひめは好きだったのに!
 滅茶苦茶濁ってるじゃないですか! 今、自分がどこ見てるかちゃんとわかってます!?
 その見てる方にはパパもママもいないと思いますよ!」
「ぱぱ、まま……何を、あなた」
「リーヌシュカ殿! そのようなものを幾ら積み重ねてもご両親には届きませんよ!
 貴女の自慢のご両親は、軍功のためだけに戦うような方達だったのですか!」
「違う、違う! ……わたしは!」
 焔迅もまた問いかけ、牙を突き立てる。
 一分でも早く、このステージをクリアするために。
 一秒でも早く、リーヌシュカを元に戻すために。
「リーヌシュカ、貴女自身はどんな軍人になりたかったの」
 なぜ父母を追い越したかったのか――

 ――それを私が、思い出させてあげる。

 コンクリートへアンカーを打ち込んだヨシカが、巻き戻る鋼糸へ身体を預け、リーヌシュカへと一気に迫る。振り抜いた誘導灯が煌めき、リーヌシュカを打つ。
「殺す、殺すわ。殺せば……」
「軍人ってのは端的に言ったら人を殺す仕事だって言い分は分からなくはないよ?」
 少女の姿となったIgnatは、迫る刃の群れを鋏脚剣で切り払う。
「でもね。軍人が人を殺すのはそれが何か大切なものを守るために必要だからだろ?」
 リーヌシュカは応えない。一行の言葉に頭を抑えてうずくまる。
「手段と目的を履き違えちゃダメだろ! 人を殺したから立派な軍人なんじゃなくて、人を殺す業を背負ってでもそれ以上の何かを守るから立派な軍人なんだよ!
 殺すことを目的にしたらただの殺人者じゃないか!
 その魂を汚すような戦い方をするなよリーヌシュカ! ゼシュテル人の矜持を思い出せ!」
「あーー! もう!! うるさい、うるさい!!」
 うずくまる彼女を取り囲む剣撃の嵐が一行に刃の五月雨を見舞う。
「それでも進むんですね。わかりました、この美少女の伝道師、ひめにゃこが受け止めてあげます!」
 ニャコニウムの光線がリーヌシュカを撃ち、その瞳にハートを灯した。
「バッチコイ!」
「思い出せ。厳しい訓練に耐え、自らを鍛え上げたその経緯の中で──触れた事があった筈だ!」
 剣嵐を突き進むベネディクトの剣が閃き、リーヌシュカの体力ゲージを削り落とすが――
 まだ、あと少し。
 あとほんの少しだけだ。
 けれど厳然と、未だ至らず。
「他ならぬ軍人の誇りに! その力を持つ事の意味を学んだ事があったんじゃないのか!?」
 ベネディクトの身体が光の粒子に包まれ、薄らいで行く。
「君は! 君の大好きな人に、一体何を教わった!」
 本当は――彼女自身のほうが余程分かっているだろう。
 切っ掛けがあればそれで良い。
「すまん、後は。任せ――」
「ここまで、ですか」
 これまでたびたびリーヌシュカを押さえ込んでいたスパロウが、最後の一太刀を放ったベネディクトが、次々と強制ログアウトする。
「終わらせます、ここで!」
「けど、やっぱり最後まで、殴りきるしかないよね! だって鉄帝国人だもの!」
 焔迅とIgnatの一撃がリーヌシュカを打ち、ついに彼女は崩れ落ち、耳障りなファンファーレが響く。

「ねえ、これわたしがやったの?」
 軍帽を投げ捨て、そう零したリーヌシュカの頭に、コーダが手のひらを乗せた。
 義理とはいえ娘を持つ身だ。
 親であるからこそ、いつまでも『寂しい』と泣く娘を放っておける訳がない。

「……戦うわ。ゼシュテリウスに、わたしをいれて。こんなのって許せないじゃない」

成否

成功

MVP

Ignat(p3x002377)
アンジャネーヤ

状態異常

スパロウ(p3x006151)[死亡]
アーマーナイト
ベネディクト・ファブニル(p3x008160)[死亡]
災禍の竜血

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 皆さんの健闘により、軍閥ゼシュテリウスにリーヌシュカと部下達が加わりました。
 MVPは鉄帝国人の矜恃を見せつけた方へ。

 それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

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