PandoraPartyProject

シナリオ詳細

イーサン、魔王になる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●イーサンの憂鬱
 イーサンは、狩人だった。
 生まれは幻想の町中の、しがない鍛冶屋の三男坊。けれども鍛冶場まで父についてゆき、物心つく前から鍛冶屋を目ざした兄たちと違って、彼だけは鍛冶に興味を持たなかった。
 怒られたことはない。確かに父は、鎚を振るうより山を駆けるほうが好きな息子を残念がったが、同時にお前がやりたいことをやればいいとも言ってくれた。
 だからそうした。彼はある日、意を決して、両親の元を去ることにした……そして何のコネもなく唐突にとある狩人の元を訪れ、弟子にしてくれと頼みこんだ。
 その時はひと悶着あったが、今ではいい思い出だ。師匠自身は去年、流行り病で死んでしまったが、今も彼は友人でもある師匠の息子たちとともに、山を駆けまわって生計を立てている。
 そんな彼がある時小耳に挟んだのが、『ドロシーズ・ファクトリー』なる新進気鋭の鍛冶ブランドの名前だ。その辺の一束いくらの刃物とは一味違う、切れ味の割にお手頃価格だと評判の刃物は、彼の友人たちも山で蔦を払うのに重宝すると言っていた。

 ……しかし。
 彼は、それを自分も使う気にはなれなかった。
 何故ならドロシーとは、彼が3年来会いに行っていない母の名前と同じだったからだ。
 冷静に考えればその2つに関連性などないはずなのだけれど、それを握るのはまるで、自分が母を恋しく思っている証拠のように思えてしまう……年頃の青年として、それはどうにも許しがたい。
 ……が、その時事件は起こった。

「おいイーサン! 親父さんから届け物があるぜ!」
 袂を分かった今でさえ、父からは時折こうしてナイフが届く。狩人にとってナイフは消耗品で、父はそれを知っていて彼を応援してくれる。
 いそいそと箱を開けるイーサン。やはりナイフだ。ありがとう親父……あなたのお蔭で俺は今も自分の道を歩んでゆける!
 そう感謝しようとしたイーサンは次の瞬間悲鳴を上げた。何故ならその柄に刻まれていたのは、仲間たちの中で自分だけが持っていない、『D』のロゴマークだったからだ!
「親父……!? まさか、自分の商品に母さんの名前をつけたのかよ!?!?」
 そのまさかだった。

Q.彼の今の気持ちを答えよ
A.こんな世界滅んでしまえ

 あまりの恥ずかしさに猟師小屋をとび出したイーサンは――その日、この山を居城とする魔王となった。

●ローレットにて
「……だそうなんで連れて帰ってきてくれってのが、狩人仲間たちからの依頼さ。簡単な話だろ?」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は肩を竦めて、イーサンの頭を冷やしてくるよう特異運命座標たちへと要請しましたとさ。

GMコメント

 ラブラブすぎる夫婦も子供にとっては毒よね。
 どうも皆様、るうでございます。本シナリオは微妙に先日のシナリオ『世界征服のための町内征服のための家庭征服』の続きですが、あんまり気にしなくてかまいません。

●イーサン
 父親譲りのものづくりの腕があったのか、山の随所にさまざまな罠を仕掛けて、その中に引きこもってしまっています。ぶつぶつと「我は魔王」だとか「生きとし生けるものに死を」だとか呟きながら放心しています。
 罠は致命的なものではありませんが、上手く隠してある上に数が多いのが厄介です。
 無事にイーサンの元まで辿りつき、戦闘になれば、彼はまず間違いなく負けるはずです。首根っこひっ掴んで回収してください。もちろん説得して投降させるのでもかまいません。

 プレイングでは、どんな罠があるかを予想して、対処法を考えておくとよいでしょう(別に、片っ端から引っかかってしまうのでもかまいませんが……)。

  • イーサン、魔王になる完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年07月06日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
ガルズ(p3p000218)
ベイグラント
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)
トラッパーガール
ライハ・ネーゼス(p3p004933)
トルバドール
津久見・弥恵(p3p005208)
銀月の舞姫
不動・乱丸(p3p006112)
人斬り

リプレイ

●落とし穴から始まる夏山登山
 盛夏に差しかかったばかりの山々は、鬱蒼と特異運命座標たちを待ち受けていた。数歩先、十数歩先までなら見わたせれども、数十歩ともなれば解らぬこの山の隅々に、未知なる無数の罠が待ちかまえている。
 それを想像しただけで、『トラップ令嬢』ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)の鼓動は高鳴りつつあるのだった。
「まあ、この山じゅうが罠だらけですのね!」
 目をきらきらと輝かせる彼女は、幸せそうで何よりである。『人斬り』不動・乱丸(p3p006112)にとっては、さっぱり理解のできない幸せではあるが。
「せっかくこの儂が依頼とやらを受けてやったというに、なんじゃ、人が斬れんとは興醒めぜよ!」
 しかも……連れ戻してくるべき相手というのが、乱丸の言葉を借りれば『魔王だ何だ抜かす精神年齢糞餓鬼の家出男』だ。そこまで過激な表現を『ベイグラント』ガルズ(p3p000218)はする気はないが、同じ猟師としてイーサンとやらの目を覚まさせなければならないのは彼だって同じだ。
「……止まれ」
 じっと辺りに目を凝らしていたガルズが手を横に伸ばし、皆の歩みを止めたなら、彼の行く手に横たわる地面に、『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)のピンガーが命中した。
 ビンゴ。
 不審な反響が返ってくる。
「空隙がある。おそらくは落とし穴だろう」
 もう一度ソナーを集中させた後、ライハの指先が、迂回するよう指示を出す……が。
「感謝します。こんな処で脱落しては、イーサン様の心の整理を助けることなどできま……」
 答えかけた『月影の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)の姿はずざざという音とともに、忽然とどこかへと消えさった。直前に彼女が踏みだそうとしていた先では、2対4枚の翼で空中で羽ばたいたままの『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)が不思議そうな顔をして、足元の崖下で目を回す弥恵を額を含めた3つの瞳で見おろしている。
「急に破滅の音が聞こえだしたと思ったら……ティアが飛行中なのに気づかずに、足元を確認せず崖の先に踏みだしていたのか」
 さしもの破滅を音として聞く『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)のギフトも、自ら惨事を招きよせる弥恵のギフトを止めるには、少々役不足のようだった。

●トラップだらけのハイキング
「ともあれ、改めて出発進行であるなー!」
 そんな不安な空気を吹きとばし、『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)は陽気に進む。
「魔王(仮)のトラップになんか、絶対負けないのである!」
 ぶんぶんと腕をふり回し、ずいずいと獣道を進んでゆくボルカノではあるが……どうしても「やっぱりトラップには勝てなかったよ」展開になりそうな台詞に聞こえるのは気のせいか。ルインの耳元で破滅の音が、ぐわんぐわんと鳴りひびく。もっとも、その音の出元がボルカノか、弥恵か、はたまたまだ見ぬイーサンを指しているのかは容易く判断つかないのだが。
 ただ、いかにトラップだらけの山といっても、当然ながら数メートルに1つとかそんなレベルで罠が仕掛けられているわけじゃなかった。いつどれだけ注意すればいいのかが判らないのは厄介なものの、それを除けばピクニック気分だ。
「親からの贈り物なら、気にせず受けとればいいだけじゃないのかな?」
「そうですわ、いつまでもお母様とお父様の仲がいいなんて、素敵な事じゃありませんの」
『だとしても、人によっては気恥ずかしいところもあるのだろう』
「うーん……私には親とか居なかったしよく分かんないや」
 イーサンについて、お喋りを続けるティアとケイティ……と、時折ティアの口を借りて出てくる十字架の中の“神様”。
 けれどもそんな時間もすぐに、再びガルズの声が響いて中断された。
「括り紐だ。不用意に起動させれば木の上に吊るされる……ここは遠くからわざと起動させ……」
「罠なんぞ、この剣の天才、不動乱丸がすべて斬り伏せちゃるき!」
 ぐわさぁ!
 他人の話を聞かずに勝手にその辺のロープを切った乱丸が、直後には木の上でぷらんぷらんしていた。
 黙って降ろしてやるガルズ。ライハも腕を組んだまま、渋い顔を作って辺りを警戒している。
「確かに、思ったとおり殺傷性は低い。あえて嵌まって踏み砕くのも方法だ。
 が――避けられるものまで踏み砕けとは俺は言ってない」
 あれ……? こんな感じに皆で片っ端から罠にかかり続けていたら、ケイティお楽しみの罠いじりタイムが訪れないのでは?
 さぞかし落胆していることだろう……と思いきやケイティ、乱丸が酷い目に遭っている様子をつぶさに観察して何やら納得していた。満足そうな表情を……弥恵に見られていると気づき、慌ててとり繕うケイティ。
 もう遅かった……弥恵が見てる。
「わ、私はもうハプニングなんて起こしませんから……!」
 拗ねたように歩きだし、勇壮な歌を口ずさみながら歩きだした弥恵は……。
 ……案の定、すぐさま次のトラップに引っかかってあられもない姿を晒してましたとさ。

●運命たちの快(怪)進撃
 木々はいっそう生い茂り、特異運命座標らの行く手を阻むかのようだった。なのに、いまだルインの破滅の音は鳴り止まぬ……否、止むどころか逆に大きさを増し、新たな悲劇を予兆する。
「袖摺りあった縁ではあるが」
 破滅を滅ぼすことだけが全てのルインにとって、イーサンの父を巡る騒動はいまだ色鮮やかに映る。その証となる手の中の『ドロシーズ』ナイフは、彼を音の根源にまで導いてくれるだろうか?
 いや、たとえ運命がそれを拒むのだとしても、自ら切り拓くのが特異運命座標。ガルズの狩人の目が次々と目ざとく獣道の存在を明らかにしてゆくにつれ、彼らは一歩また一歩と山の最も深い場所へと近づいてゆくのだ……その妨げとなる罠など全て踏みこえて!
「聞こえているかイーサン……お前の罠などこのとおりだ!」
 自らの足を喰らうトラバサミを気にも留めずに、鎖ごと千切らんという勢いで歩みを進めるライハの声は、木々の間に反響し、さながら山に住まう悪鬼のようだった。
 はたして、その顔つきはまさに壮絶。魔王を僭称する愚かなる男に、真の恐怖と、抵抗の無意味さを知らしめてみせん。
 そして、一刻も早く……痛いから誰かこのトラバサミを取ってくれ! そろそろ動じてない演技も限界なんだイーサン!!
「……無理矢理歩きつづけた意味はあるのか? そのせいで怪我が悪化してるぞ?」
 呆れつつも罠を分解してやるガルズだった。だが……ここまで敵の懐に潜りこんでしまっては、呆れている暇もそうはない。
 そうこうしている間にも、弥恵の下半身だけが地面から生えてじたばたしてた。おそらく落とし穴の類に引っかかったのだろう……が、何にどう引っかかればこうなるんだろうか。
 そんな彼女のもがく動きが、次第にか弱くなっていった。けれども、そんな様子も色っぽく愛嬌あって見え……とか言ってる場合じゃない!!
「ここは私にお任せですわ!」
 ケイティが先が平らに広がった愛杖『円匙杖スプンナ』――つまりどこからどう見てもただのシャベルだ――を地面につき立てた途端……大地はバターのように易々と切れ、中から窒息直前の弥恵の姿が現れる!
「なるほどなるほど……この仕組みは、確かに自力で外に出るのは大変ですわ!」
 そして一転、逆に頭上に視線を向けたなら。
「む!? あんな高さに怪しい丸太が設置されているのである!」
 ボルカノが警戒の声を上げると同時、自走式爆弾を投げつけて……。
「儂にかかれば一撃じゃ! 貴様らは高みの見物でもしてるがいいぜよ!」
 ……乱丸がまた何の考えもなしにロープを切った。
 斜め下方に加速する丸太。想定外の事態に目を見開いたままの乱丸。次の瞬間、丸太は彼と爆弾を同時に突きとばし、その延長線上……すぐ隣を走っていた沢へと、両者を揃ってダイブさせる!

 どーん!

 爆弾の炸裂が沢の水を巻きあげて、湯の雨が辺りに降りそそいだ。もうもうと上がる土煙と蒸気の中から出てきた人影は……おそろしく巨乳の美女!
 乱丸を抱えて引きあげてやろうと飛んでいったティアが、見知らぬ人物の姿に驚いて急制動をかけた。
「えーと……どなたですか?」
『あの乱丸なる男だろう。大方、どういう訳か湯を浴びて女へと変じた、といったところか』
 乱丸は“神様”に難儀な体質を見透かされて忸怩たる思いだったに違いないが、ティアはさっぱりそんなこと気にする素振りも見せず、そのまま乱丸を抱えて皆のところへと戻っていきましたとさ。

●“魔王城”の主
 そんな特異運命座標たちの大冒険も、もうじき終わりを告げようとしていた。
 わが身と心を(おおむね自滅が原因で)すり減らし、ほうぼうの体で木々の間から顔を出した彼らが山頂に見たのは魔王城。もとい、粗末な最果ての小屋。
 ライハのソナーが小屋の中を走査して、中央にうずくまる人影の存在を明らかにする。彼が父に向ける複雑な心境を、他人にすぎぬライハには慮ることしかできぬ……が、しかし彼はイーサンに、(自業自得な名演の)痛みを耐えてでも彼を現実にひき戻したい者がいることを伝えなければならぬ。手はじめに……。

 ずごーん。
 ルインの破滅の力が山を震わせて、鳥たちが泡を食って逃げだしていった。
「ひぇっ……」
 そんな情けない悲鳴を小声で洩らし、小屋の主はおそるおそるふり返る。先ほどまでは壁であったはずの場所がぽっかりとくり貫かれ、いまだ破滅の力収まらぬルインの掌を、怯えた顔で凝視する。
「世界を滅ぼす魔王と名乗っているようだな、小僧」
「は、はい……」
 強張った指先で自分の全身を抱き、小刻みに頷いてみせるイーサンの姿を見るかぎり、ちょっぴり、やりすぎた感が辺りに漂っていた。だからそんな彼の心を落ちつかせるために、ゆっくりと、魅惑的な微笑みを投げかけながら近づいてゆく弥恵。
「そんなことなんてしなくても、貴方は自分でしっかり生きているのですから。貴方は誇らしい方だと思いますよ?」
 ……いやでもこの状況でそれって怖くない? だって、どう考えても魅力で油断させてからブスッといくタイプの暗殺者のやり口ですよこれ。もっとも、ほんとうにイーサンへの奇襲を企てているのは乱丸(どうにか水を浴びて男に戻れた)なんだけど。
「く……来るな!」
 イーサンは、腰を抜かしたまま後ずさった。その姿はどうにも情けなく、先ほどまで世界を滅ぼすとかなんとか言っていた男の姿とは思えない……しかぁし!
「そんな様子では、魔王になんてなれないのであるなー!」
 突如屋根をぶち破り乱入してくるボルカノの姿!
「魔王になるなら我輩にお任せ! 我輩はなれないけど魔王のお友達からなり方を聞いてきたので! もっと魔王らしく振舞えるように特訓である!」
 ……話がさらにややこしくなった。てっきり一発殴りとばして首根っこ引きずって解決するものだと思っていたティアが、いつ攻撃すればいいのかと決めあぐねている。
『そう急くでない。あの男がどうしても改心しなければ、その時にこそ力が必要になるだろう』
 だけど状況があまりに混沌すぎて、“神様”でもどっちに転ぶかは見通せなかった。
「さあ、イーサン殿! まずは今の世界よ滅びろオーラを目に込めてみるのである! これで邪気眼と眼光がいけるのであるな! そしたら次に、感情封印! 魔王なら感情を抑えこめるはず……そう、その世界よ滅びろとかあんまりにいたたまれない気持ちとか恥じらいが! 自分で操作してやれるのであるよ! すごくない?」
「落ちたら人間でも出られない落とし穴の仕組み、感銘しましたわ! もっとイーサンさんの罠の技術について教えてくだ……いえ、きっと自分の知らないところで家族で何かしていて拗ねてしまったイーサンさんのために、私がお父様にイーサンナイフ、を作ってくれるようお願いして差し上げますわ! イーサントラップツールの方がよろしいかしら?」
 ボルカノの鼓舞っていうか追撃に、もはや目的を忘れたケイティの謎攻勢。
「こいつら……俺の気持ちも知らないで! やっぱり、こんな世界……滅んでしまえ!!」
「……いい加減、大人になったらどうだ!」
 ついに錯乱して喚きはじめたイーサンを止めたのは……ガルズのそんな一喝だった。

●イーサンの覚醒
「使える道具も使わないで、何が狩人だ。ましてや魔王などと」
 床に座りこんでいるままの若造を見おろして、ガルズは憎々しげに吐きすてる。
「あれは嫌、これは嫌とわがままばかり……自然はそんなに甘くないのをすら忘れたか!?」
「いえ、そういうつもりでは……」
「なら、引きこもってねぇで仕事しろ。お前は……何がしたくて狩人になった?」
 顔をイーサンの耳元に近づけ囁くガルズ。『魔王』なんて名乗っている今のほうが、よっぽど恥ずかしいんじゃないのかと。
「そのとおりじゃ。儂は学もないし人付き合いなど億劫で敵わん、剣しか取り柄のない男じゃ。そんな儂から見れば……狩人の才能に優れて仲間や家族から大事に想われちょる貴様が羨ましいぜよ」
 眩しそうに目を細めながら語りかける乱丸。その立派な人物が、糞餓鬼の駄々っ子みたいな言動をなど。親と殺しあいした乱丸からすれば、嫉妬してまうほどの贅沢者だ。
 もし、その事実が慰めにならぬのであれば、泣けばよろしい。嘆けばよろしい。一時は夢に逃避するのも手であるとライハは語り――しかし、いつまでも逃避しつづけていても、決して事態は好転しない。
 青年の体が震えているのは、誰の目にも明らかだった。
 それがいまだ燻りつづける父への感情によるものか、衝動に任せた自らの行動に対する後悔によるものか、はたまた特異運命座標らによる説得に反感を覚えたからかは判らない。だが、ただひとつ言えることがあったとすれば……。
「あとは大事な名乗り口上であるな! 魔王なんだから名乗らなきゃ! さあ恥ずかしがらずに暗黒の世界へ!」
 そんなボルカノの『魔王育成コース』への勧誘に、イーサンは明確にNOを突きつけたということ!!
「もう十分だ……! これ以上、魔王なんてやってられるかーーーーー!!!!!」

●後悔と反省と未来
「頭は……冷えたかな?」
『一時の感情に身を任せるのもよいが、今自分がなすべきは何か、改めてよく考えることだな』
 壁に大穴の開いた小屋のその中央で。イーサンはティアと“神様”の説教を、正座してうな垂れたままで聞いていた。
 ルインにも、破滅の音はもう聞こえない。
「世界は綺麗で楽しいです、自棄になんてならないでください」
 そんな願いを込めた弥恵の歌と舞いによる鼓舞も、今ならば確かにイーサンに伝わったのだろう。
 その舞いの最後に弥恵は……そっと、ナイフをイーサンに握らせた。父が作り、母の名を持ったそれを手に、彼は、自らの人生を歩むのだ。
「妻を愛し、息子を案じる。アレでも、奴は出来た親だと思うがな、俺は」
 ルインも遠い空の下にいるはずの、嫁の尻に敷かれているだろう自称“闇の首領”こと、イーサンの父ユージーンに思いを馳せて――。
「……いやいい話になりそうなところ悪いけど、俺、親父のネーミングセンスだけは許してねーから」

 そんなイーサンのささやかな抵抗がありつつも、ともあれ特異運命座標たちは、誰ひとり欠けることなく帰路につくのだった。
 この先イーサンと家族の関係に、どんなものになるかは判らない。いつしかイーサンが今日のことを思いだし、何が魔王で何が世界よ滅べだったのかと悶える日も来るかもしれない。
 ……けれども今は。
「……で、改めて罠について語りませんこと!?」
 イーサンは、目を輝かすケイティに押しきられ、しばしそんな未来のことなんて忘れさっている。
 でも、それでよい。何故ならそんな他愛もない日々こそが、彼の悩みを最も癒してくれるのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 そんなわけでトラップだらけの魔王の山ダンジョン、お楽しみいただけましたでしょうか!
 イーサンの複雑な心境を完全に解すにはもうしばらく時間がかかるでしょうが、少なくとも彼は無事、仲間たちとの平穏な日常をとり戻すことができました。
 今後、イーサンと両親の関係がどうなるのかまでは、今はまだ判りません。しかし、今回の体験が彼になんらかのよい影響を与えたことを信じて……!
 ご参加、ありがとうございました!

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