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シナリオ詳細

貴族エルの不自然で不可解な日常

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●貴族エルの不自然で不可解な日常
 目覚めるとピクセルモザイクで顔の隠れたメイドがやってきて、カーテンを開けた。
 今日はよい天気ですね。外を蝶が飛んでいますと明るい声で言う。
 鏡の前に立てば、自分の顔が見える。
 やんわりとカールしたショートヘア。着替えたドレスはオレンジ色の、女の子らしい装いだ。化粧箱を開いてほんの僅かに手をくわえれば、元がよいからだろうか、人がうっとりと見つめるような魅力溢れる顔になる。
 食堂へ行けば顔をピクセルモザイクで隠した料理人が頭を下げ、胸に手を当ておはよう御座いますエル様と挨拶を述べた。
 別のピクセルモザイクで顔の隠れたメイドがワゴンをおしてやってきて、席に着いたエルの前に料理を並べていく。
 パンにスープに焼いた肉。色鮮やかなサラダにはシーザードレッシングがかかり、茹でた卵が半分にカットして添えられている。
 いつも通りに豊かで、いつも通りに美味しい食事。
 食べ終えて口を拭うと、顔をピクセルモザイクで隠した執事が慇懃に頭を下げる。
 今日は街にお出かけになられる日ですという言葉に頷いて、屋敷のそとに止めた馬車へと乗り込んだ。ピクセルモザイク顔の御者が馬車を走らせ、ピクセルモザイク顔の庭師を通り過ぎ、ピクセルモザイク顔の門番兵に挨拶され、敷地を出てしばらく進めばピクセルモザイク顔の人々が行き交う街に入る。
 通りの婦人もリンゴ売りの少年もパン屋も、道ばたに寝転ぶ犬でさえ、みなピクセルモザイクの顔に覆われていた。
「エル様、最近おかげんが優れませんね。なにか、気になることが?」
 向かいの席で執事が問いかけてくる。ピクセルモザイク越しに。
 エルは。
 長い睫をわずかに下げ、目を細め。
 今日こそ、問いかけてみることにした。
「ねえ、なぜ――」
 およそ一週間ほど前から。
 ずっとずっと、こうだった。
 自分がおかしくなっただけかもしれない。そんな不安を押し殺して過ごしてきた。
 だから、今こそ言うのだ。
「周りの皆は、顔がモザイクに隠れているの?」

 執事が、御者が、街の婦人がパン屋が子供が犬が馬車の馬たちすら、すべてが一斉に振り返り、立ち止まった。

●ピクセルモザイク
「顔がピクセルモザイクに覆われた人間たち。仮に『ピクセル』と呼ぼうか」
 練達セフィロト、ROOに携わる研究施設の一角に作られた食堂スペース。均等に並ぶスチール製のテーブルのひとつを囲んで、情報屋とイレギュラーズたちは次の依頼について相談していた。
 依頼人は練達三塔及びその直下にある研究員たち。
 彼らから託された大枠の依頼内容はROO内の探索と調査であり、そして今回の依頼内容は伝承首都に暮らす貴族エル・M・ムーンデイの救出である。

「エル。伝承王国(混沌でいう幻想に相当する国)の女貴族だ。領地は小さいがそこそこに平和な暮らしをしているらしいが……ある日から異変が始まった。
 自分を除くすべての領民の顔にピクセルモザイクがかかって見えるようになったというものだ。
 周囲は顔の判別がつかないことを除いてはごく普通に振る舞っていて、はじめは疲れからみえた幻覚ではないかと黙っていたが……一週間したあるとき、そのことを近くの者に打ち明けてみた。
 その瞬間から、エル様はすべての領民から命を狙われる身となってしまったようだ」
 理由や原因はわからない。わかっているのは『ピクセル』と化した領民たちはあらゆる手をつかってエルを殺そうとするということのみだ。
「明らかな異変だけど、唯一その対象にならなかったエルには何かしらの理由があるかもしれない。
 彼女を助け出し、ログインした研究員たちに引き渡すのが今回のオーダーになる。
 貴重な情報をもっているかもしれないエルを、この領地から助け出すんだ」

●エル。その危機と脱出。
 ドレスの裾を掴んで走る。領地の中央にある噴水公園の中を、走る。
 綺麗にかり整えられた植木の間を、水をたたえた噴水の脇を。
 舗装された煉瓦づくりの道を進めば、牧場用の道具やスコップを持った『ピクセル』が眼前の道を塞いだ。
 振り返れば剣を抜いた衛兵や包丁を握りしめた婦人が追いかけてくるのが見える。
 もはや逃げ場はない。ここで無残に殺されるのか。
 それしか、ないのか……。

GMコメント

●オーダー
 ROO内にて、NPCである貴族エルを救出します。
 そのためには領民すべてと敵対することは必至となるでしょう。

●強化サクラメント
 ROOアップデートによって追加された強化サクラメントが領地中央噴水広場に出現しています。
 本クエスト内で死亡してもデスカウントをひとつ増やしてこのサクラメントから復活することが可能です。
 しかし一人あたりの使用回数は限られており、一人につき10回までしか復活できません。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●領地からの脱出
 あなたはOP第三パート『エル。その危機と脱出』時点でエルのすぐ近くから出現することができます。
 領民達はすべてあなたに強く敵対し、エル同様あらゆる方法で殺害しようと試みるでしょう。
 パン屋やリンゴ売りの子供といった戦闘力に乏しい市民はともかく、領地の衛兵や喧嘩に強い人々が現れた場合あなたの命も危うくなります。
 複数回の死亡も計算に入れて行動すべきでしょう。

 そして踏まえておかねばならない要素として、あなたは復活できてもエルが一度でも死亡した場合この依頼は失敗扱いとなります。
 エルを庇うにしてもピクセルを足止めするにしても、そのことを念頭におきつつ挑んでください。

 エルが領地から一歩でも脱出できれば依頼は成功扱いとなります。
 その時点で応援戦力として待機している研究員たちによってエルは安全な場所まで移送されることになっています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

  • 貴族エルの不自然で不可解な日常完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3x000273)
妖精勇者
ポシェット(p3x002755)
このゆびとまれ
リアナル(p3x002906)
音速の配膳係
アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)
女王候補
ねこ神さま(p3x008666)
かみさまのかけら
指差・ヨシカ(p3x009033)
プリンセスセレナーデ
コーダ(p3x009240)
狐の尾
霧江詠蓮(p3x009844)
エーレン・キリエのアバター

リプレイ

●噴水公園にて
 両脇を植木の塀にはさまれた、煉瓦で舗装された道の上。
 後じさりした足がかつん――と靴のヒールが床を叩いた。
 心を落ち着けるようなラベンダーの香りがする庭園の、植木の小道で。
 小鳥がなく美しい昼下がりに。
 包丁やスコップを持った人々が道を塞いでいる。
 後ろを振り向けば、大きな植木ばさみをナイフのごとく逆手に握った庭師らしき男が立っていた。
 誰も彼も、顔はピクセルモザイクで隠れている。
 そんなことがありえるのだろうか。悪い夢を見ているのだろうか。
 どのみち、今の自分はここで――。
 声をあげハサミを振り上げた庭師。
 目を瞑りみを固くした領主エル。
 その瞬間のこと。
「領主、無事か!」
 植木の塀を円形に切り裂いて、一人の青年が飛び込んだ。
 名を、『エーレン・キリエのアバター』霧江詠蓮(p3x009844)。
「助けに来たぞ!」


 時はやや遡って、サクラメント前。
 エル領噴水公園のサクラメントへ転移する直前のこと。
「ちょっと悪趣味に過ぎるんじゃないか、このバグは」
 サクラメントに触れ、転移を始める詠蓮。
 この世界が混沌を摸していて、なおかつ大きく歪められているのは周知のこと。しかし『歪め方』にはどうにも作為的なものを、あちこちで感じていた。
 天義の事件の黒幕であり元凶でもあったアストリアが誠実な味方であった世界や、フォルデルマン三世が王の責務を追わずに済んでいる世界や、絶望の青がとっくに踏破されエリザベスが健常な世界。時間もなにもかも大きく歪めているが、偶然と呼ぶには……そこには誰かの意図を感じざるを得ない。
 今回のバグもそうだ。あまりにも。あまりにも作為的すぎる。
(それにしても、このモザイク……虚数階エレベーターで会った少女と関係があるのかな? もしかしたらこの集団の中に紛れてたりして? 見つけたら声だけかけておこう)
(このピクセルバグが私にも伝染ればリアルに戻らずに済むかも…って一瞬思ったけど、冷静に考えたらああなるよりはまだリアルのほうが幸せでいられそうだわ。
 でも、あいつらの攻撃を受けてるうちにログアウトできなくなるバグの切っ掛けを掴めるかもしれないし……)
 詠蓮の転移を確認すると、『妖精勇者』セララ(p3x000273)と『女王候補』アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)も続いて転移を開始。
 『調査の一歩』リアナル(p3x002906)もまた、サクラメントに手をかざす。
「ピクセルモザイクの住民……か」
 連想されるのはもちろん、ROO世界内のマニエラ領。状況も風景も一変したその領地には、ピクセルモザイクのかかった衛兵がいたという。
「……これがもう1人の私の方にもいるってなると……厄介だな」
 これじゃあまるで、世界を少しずつピクセルモザイクが侵食しているみたいじゃあないか。

 ネズミの耳をつけた『このゆびとまれ』ポシェット(p3x002755)と、猫のみみのついた『かみさまのかけら』ねこ神さま(p3x008666)。黒白縞の3匹の猫を伴って、サクラメントに手をかざす。
「いきなり周りの人がみんなおかしくなったら、すっごい怖いよね……かわいそう」
「たしかに、そうですね」
 今自分たちが駆けつけなければ、恐怖と絶望のなかでエルはただ命を落とすのだろう。
(どう言った理由でエルちゃんを殺そうとしているか分からない。
 けれど、彼女が悪いからじゃないって事は見れば分かるぜ。
 どんな状況でも女の子には優しくしろって言われてるんだ。
 それがゲームの中だって、NPCだって関係ないぜ)
 『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)はプリンセスチャージを既に済ませ、転移のために手をかざす。
「『ピクセル』というバグが何をもたらすのかは分からないが、護り助ける事が仕事であるならば難しいことは考えなくても済むだろう。10回もチャレンジ出来るなら十分だ」
 皆の考えをまとめるように、『狐の尾』コーダ(p3x009240)が閉じていた目を開く。
「俺がやるべきことは、クエスト成功と味方である彼らの生還なんだからな」
 視界が光に包まれて、気付けばそこは噴水公園。すぐ隣には、ぱしゃぱしゃと小気味よく水をふきあげるちいさな噴水があった。
「さあ、『人助けクエスト』といこうか」


「助けに来たぞ!」
 抜刀――と同時に植木の塀を円形に切り裂いた詠蓮はそのまま身をきりもみ回転させると庭師のハサミを刀でもってはねあげた。
 その勢いによってハサミをとばされ、しりもちをつく形になった庭師。
 驚いて飛び退き、エルへ今まさに襲いかかろうとしていた民衆たちもザッと警戒の色を見せた。
「俺たちは大丈夫だ、このモザイクに侵されることはない。まずは領主だけでも安全を確保せねばな」
「ねこです。よろしくおねがいします。エルさん、助けに来ました」
 塀の穴をくぐるようにして現れるねこ神さま。伴った猫たちが一斉にピクセルモザイクの民――略称して『ピクセル』たちへと襲いかかる。その中でも黒ねこによるクロスひっかきが強力な神威をもち、激しい衝撃となって細身の男を吹き飛ばした。
 それによって崩れかけた集団めがけ、アンジェラが傘を投げ捨てて突入。
 顔を庇うようにして片腕をかざし、勢いよく飛び込んでいく。
 押されていたピクセルたちが怒りを露わにしたかのように、アンジェラへ包丁やはさみ、鉛筆やボールペンといったものを突き立てていく。
「私はこの程度どうってことないわ……ずっとこうしてたくはないけどね」
 青ざめるエルへ小さく振り返り。『そっちよ』と言わんばかりに指をさす。
「モザイクバグとは不気味なもんだな。気付いたら殺されるんだったか? ほら、やってみろよ!」
 アンジェラとは反対側。各々武器と呼ぶにはあまりに心許ないハサミや包丁といった道具を握りしめるピクセルたちへ、コーダがファイティングポーズをとってみせる。
 突撃、と同時に繰り出される拳。最前列に立っていた男(顔はピクセルモザイクで隠れて判別がつかない)の顔面を殴りつける。
 感触は確かにある。相手のはなっつらをつぶした感触が。顔がモザイクで隠れているだけで、実際に顔はあるということなのだろう。
 すると、鼻をおさえて血を流す男がコーダの襟首へと掴みかかった。
「いつまでもこうするつもりか! いずれ衛兵たちも駆けつけるぞ!」
「いいや、こうし続けるのは俺とアンジェラだけだ」
 と言った途端。植木の塀を突き破る勢いでキリンが出現。背に乗っていたポシェットが手を伸ばす。
「こっちへ! 『ゴゴティ』、エルさんをのせて公園の外まで走って!」
 ポシェットの施した魔法によってふわりと浮かぶことのできたエルは、咄嗟にキリンもといゴゴティの首にしがみついた。
「な――!」
「残機があるとはいえ、こっちも消耗戦をするつもりはないんだよ」
 バイクから『星詠の翼』を展開するリアナル。機械の翼が大きく広がりピクセルたちをなぎ倒すと、セララやヨシカたちを一緒にのせて空へと飛び上がっていった。
「お前達の相手は、こいつがしてくれるさ」
 リアナルはそう言って小包をポンと放り投げた。煉瓦の床に落ちた小包が勝手に開き、チクタクと時計めいた音を鳴らした。
 それを追って走り出す詠蓮とねこ神さま。
 だが彼らの足にしがみつき、必死に足止めしよううとする女性。
 振り払おうと見下ろした二人に、女はこう叫んだ。
「あの『バグ』を殺さないと、大変なことになるわよ!」
 爆発が、あたりを包み込む。

 公園から先店や家屋が並ぶエリアが広がっている。
 都会ほど家屋が密集しているわけではないが、屋根伝いに移動することは不可能というほどでもなさそうだ。
 飛行能力を生来有する飛行種や、その他の手段で飛行ないしは屋根へ駆け上がる手段のあるものでなければ同じ速度で追ってくることは難しいだろう。
 問題があるとすれば……。
「さあ、今日もご安全に。作業始め」
 屋根の上をか走るヨシカが、屋根へハシゴをかけてよじ登ることで先回りしたピクセルを殴り倒す。足場の悪い場所ゆえか、たったの一撃で屋根を転げ落ちていった。
 ポシェットが飛行能力を付与してくれているとはいえ、自分がそうならない保証は、あまりない。
 更にはピクセルモザイクで顔の隠れた鳥や猫といった動物が、外敵を見つけたかのように襲いかかってくる。
「不具合があるなら、取り除いて直さないと。それが工事ってものよ」
 ヨシカは『プリンセスパイルハンマー』を召喚。空にかざした誘導ロッドにこたえるように、巨大な杭が次々と降り注ぎ鳥や猫、そして飛行種タイプのピクセルを打ち落としていく。
 エルを先導する形で飛行するセララ。
 進路を塞ごうと集まるピクセルたちに『究極!スーパーセララキック!』を打ち込むと、振り返ってエルへ手を伸ばす。
「エルさん、大丈夫。ボク達は味方だよ。
 ボク達の事を信じて欲しい。絶対に守ってみせるから!
 ROOでもボクは正義の味方。困ってる人は絶対見捨てないよ!」


「エルさん、領民のひとはみんな病気になっちゃったみたい。
 エルさんはなんか病気にならない珍しい体質みたいだから、そとでお医者さんがまってて保護してくれるんだって。
 いっしょにいこう、お医者さんがエルさんの体質しらべたら、領民のみんな治す薬ができるかもだよ」
 ポシェットの、実のところ本当ではない説明をうけたエルだが、しかしあまり釈然とした様子ではなかった。
「あれが、病気……」
 とはいえ他に説明をつけられる材料もない。今は『ピクセルでない』という点をもって、ポシェットたちを信用するしかない状況にあるようだった。彼女を護って戦ってくれているという点も、もちろん重要ではあるのだが。
 『助けてくれた=良い人』という式をそのまま受け入れるほど、エルは世間を知らないわけでもないようだ。人を信じすぎると、領主は務まらない。
 ポシェットは『だるまさんがころんだ』を使って屋根伝いに追いかけてくる集団を転落させると、道路を挟んだ向かい側の屋根へ飛び移るように呼びかけてきた。
「いくよ、せーの……!」
 助走をつけ、『にんじゃごっこ』の魔法で空を飛ぶ力を得たポシェット――が、銃撃によって足を撃たれ、バランスを崩して道路へと転落した。
「まて、下がれ!」
 危険を察したリアナルが手をかざし、機械の翼で身を包むようにして防御。銃弾が翼の表面をはね火花をあげる。
 詠蓮も反対側にまわり、エルを護るように刀を高速で振り込むことで飛来する銃弾を弾いていく。
 セララも魔法のバリアをはってエルを護るも、集中する射撃によってうかつに動けない様子だった。
「挟まれた。的になってるぞ」
「そうだろう。屋根の上じゃあ遮蔽物がないからな」
「下りていって戦うか? 一旦俺が……」
「いや、必要ない。このままでいい。このままが、いい」
 リアナルは薄く笑い、その直後――。
「お生憎様、此処から先は工事中につき通行止めとなります。ご了承……下さいッ!」
 屋根の上に集中していた衛兵ピクセルたちめがけ、ヨシカによる『プリンセスパイルハンマー』が降り注いだ。
 屋根の上を走るという作戦は機動力があり追っ手を少なくする一方、目立ちすぎる上射撃に対して非情に無防備な弱点があった。だがその弱点は、作戦によってはチャンスになりえる。
 目立つ彼女たちを逆に囮とし、一度死んでリスポーンしたヨシカたち別働隊が裏道を使って駆けつけたことでバックアタックに成功したのである。
「このまま先に行って頂戴。さっきみたいにすぐおいつくわ!」
 屋根によじ登ろうとする衛兵ピクセルにアンカーを放ち突き立てると、立体機動で群衆の真上をとって誘導ロッドを振り上げる。
 と同時に、別ルートから駆けつけていたねこ神さまが黒猫さんをけしかけた。
 胴体をものすごい勢いでにょーんと伸ばした黒猫のスイングが衛兵ピクセルたちの足をまとめて払い、転倒させる。
 その一方で、アンジェラとコーダもまた反対側の道で射撃をしていた衛兵たちへと殴りかかっていた。
 屋根の上を走る際のもう一つの利点。建物を挟んだ反対側の道の状況が分かりづらいこと。バックアタックのチャンスが増えることだ。
「どうして邪魔をする。貴様もバクか!」
「頭どうかしてるのか? バグはそっちだろ」
 斧で殴りかかる衛兵の攻撃を、懐に潜り込んで腕を押さえ込むことによって防ぐコーダ。
「いや、実際どうかしてるんだったな。……顔が台無しだよ?」
 余裕を見せたコーダに怒り、強引に掴みかかろうとしたその矢先、アンジェラの傘が衛兵の顔面にたたき込まれた。
 ただの傘だというのに鉄柱でも打ち込まれたかのようにのけぞり、転倒する衛兵。
「本隊が目立ってくれる分、復活後は狙われにくそうだとは思ったけど……極端に効果が出たものね」
 アンジェラは再びの死亡を覚悟しつつ、『早く行って』とジェスチャーした。

 アンジェラたちの犠牲をはらいつつ、領地の端までやってきたリアナルたち。
 端まで屋根が続いていてくれはしなかったが、仲間のおかげでかなりのピクセルを振り払えたはずだ。追いついてくるピクセルもいない。
 そんな場所で待ち構えていたのは、白銀の鎧に身を包んだ一人の騎士だった。
 エルの家の紋章がはいった鎧と剣。
 エルは立ち止まり誰かの名前をつぶやく。騎士の名前だろうと、セララは思った。
「お戻りください、エル様。あなたを治療しなければならない。よもや、領地を捨てて逃亡するおつもりで……」
 刀に手をかける詠蓮。
 無論、問答をしている暇などない。
「鳴神抜刀流・太刀之事始――『一閃』」
 すさまじい踏み込みからの抜刀。
 剣によって受け止めた騎士だが、セララがすかさず――。
「ギガセララブレイク!」
 チョコスティックの剣でもって騎士の胸を強烈に打った。
 リアナルが機械の翼から羽根ビットを展開。一斉射撃をしかけながら、呼び寄せたバイクにエルを抱えて飛び乗った。
「――っ!?」
 驚いて目を見開くエルだが、リアナルは構わずアクセルをひねり加速。
 同じく目を見開いた騎士に激突し、そして撥ね、回転する騎士をよそにして、リアナルは領地のそとへと飛び出した。
「っし……これで」
 目印にしていたラインを越えたことを確認し、振り返る。

 振り返ると、そこには焼けた廃墟街が広がっていた。
 原形をとどめず炭となった家屋の列。焼け焦げた草地。燃えてしまってからもう何年も経ったかのように、それは見えた。
 リアナルの腕の中で、エルは。
 ただ呆然と、その風景を見つめていた。

成否

成功

MVP

ポシェット(p3x002755)
このゆびとまれ

状態異常

ポシェット(p3x002755)[死亡]
このゆびとまれ
アンジェラ・クレオマトラ(p3x007241)[死亡×3]
女王候補
ねこ神さま(p3x008666)[死亡×2]
かみさまのかけら
指差・ヨシカ(p3x009033)[死亡]
プリンセスセレナーデ
コーダ(p3x009240)[死亡×5]
狐の尾

あとがき

 ――クエストクリア
 ――特徴的なバグ『ピクセル』の情報を採取しました。
 ――正義国から『エル領の街』が消滅しました。
 ――正義国に新たに『大火災によって住民の多くを失ったエル領』が出現しました。
 ――領主エルは数年前の大火災のおり焼け残ったらしき屋敷へ戻り、領主としての生活を続けるようです。

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