シナリオ詳細
雪原のはぐれ者たち。或いは、光を無くしたセクレタリ…。
オープニング
●怒り心頭のセクレタリ
鉄帝国。
ヴィーザル地方のとある雪原を狼が駆ける。
尋常ならぬ巨躯を備えたその狼の名はウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)。
肩や胸から流れた血が、白い雪に点々と赤い染みを残す。
ことの起こりは、今からおよそ1時間ほど前のこと。
雪原を根城とするならず者の集団に、つい最近になって1人の翼種が加入した。
そんな噂を聞きつけ、調査へ向かったウルフィンはやっとの想いで川沿いにあったならず者のアジトを発見。
そこで彼が出会ったのは、セクレタリと名乗るヘビクイワシの翼種であった。
黒と白、2色の長髪に細く怜悧な瞳と長い睫毛。
スクエアの眼鏡が良く似合う背の高い女性であった。
「なるほど……確かに、私たちの里はどこかの兵士たちに奪われました」
淡々と。
感情の窺えない声音でもって、セクレタリはそう言った。
「やはりか。クアッサリーとエミューと言ったか。貴様の仲間だろう?」
クアッサリーとエミュー。
その名を聞いたセクレタリは、ピクリと眉を跳ねさせた。
「……また、彼女たちの名を騙って……そう言って貴方たちは里を!!!」
確かな怒気を孕んだ絶叫。
直後、ウルフィンは胸部に強い痛みを感じた。
1度ならず、2度、3度とセクレタリは執拗にウルフィンへ蹴撃を叩き込む。
そんな彼女の瞳は、どうにも焦点が合っていない。
視力が弱っているのか、蹴りの狙いも滅茶苦茶だ。
「貴様、目が見えて……」
「ぬけぬけと……ほざくな! 私の目が病んだのは、全部貴様らのせいだろうが!」
弁解の暇も与えぬままに蹴られ、追い立てられたウルフィンはすぐさま撤退を選択する。
騒動を聞きつけ、集まって来たならず者たちへセクレタリが加勢を指示したからだ。
「追ってください! 此処を奪われたくないのなら、絶対に逃がしては駄目!」
「……聞く耳を持たんか。我の言葉では届かんらしい」
クアッサリーとエミューを探す必要がある。
そう判断し、ウルフィンはその場を後にした。
その後、1時間にわたって追い回される羽目になるとは、この時の彼は予想もしていなかったのだ。
●セクレタリと会うために
「……と、そういう経緯で貴様らを探していたのだ」
パチ、と炎の爆ぜる音。
山中の洞窟にて、焚火を囲む3人の男女。
ウルフィンと、クアッサリー&エミューという名の翼種の姉妹である。
「たしかにセクレタリは私たちの仲間だ」
そう言ったのは、赤い短髪の女性、クアッサリーだ。
しかし、と彼女は首を傾げて悩むような仕草をみせる。
「セクレタリはいつも冷静だった。蹴り始めたら止まらなくなるという性質ではあったが、彼女は集落で1番の知恵者だった」
クアッサリーの言葉を引き継ぎ、青い髪の女性・エミューは言う。
「それに目が見えないなんてこともなかった。セクレタリがそれほどに怒るほどの何かがあったのだろう」
「だとしたら、私たちはセクレタリに謝りたい。彼女が辛いときに、傍にいてあげられなかったことを謝りたい」
案内してくれ、と。
クアッサリーとエミューの2人は、深く首を垂れて言う。
当然、ウルフィンとしてもその申し出を断る理由などありはしない。
ただ、それを成すには問題があった。
「うむ……あのセクレタリという女、かなりの実力者だったな」
肩や胸の傷跡に手を振れ、ウルフィンは呟く。
セクレタリの攻撃には【移動】【連】【ブレイク】が伴っていた。
さらに、セクレタリの仲間である獣種のならず者たちも【流血】や【ショック】の付いた体術や爪術を駆使していただろうか。
一戦を交えた感想だが、最も手ごわいのはセクレタリに間違いないだろう。
だが、およそ10名ほどいた仲間のならず者たちも、それなりの実力者であった。
「セクレタリが大人しく話を聞いてくれるとは思わん。それに、すまんな……我がひと悶着起こしたせいで、アジトの守りは厳重になっているだろう」
「構わない」
「押し通る」
「……以前も思ったが、貴様らは少し短絡的にすぎないか?」
「では、どうする?」
「話を聞いてくれないのなら、聞かざるを得ない状況を作る」
「貴方たちもそうしたはず。違う?」
ウルフィンは顎に手をあて、思案する。
確かにウルフィンたちは、戦いを持ってクアッサリーとエミューを押さえ、話を通した。
「……アジトは木製。幅、50メートルほどの川の中に造られていた。ビーバーの造る巣に似ていたか……今思えば、我の訪れはならず者たちに気づかれていたな」
見張り役の人か動物でも配置しているのか。
或いは、索敵能力の高い者がいるのかもしれない。
「どう思う?」
「セクレタリなら、人と動物を併用する」
「個人の技能より、数でカバーするのがセクレタリの戦法。誰でも出来る仕事を平等に割り振る」
ならず者の指揮を取っているのはセクレタリだ。
クアッサリーとエミューはそう確信しているようだった。
「私たちを、セクレタリの元まで送り届けて」
「怪我が治りきっていないから、協力して」
よろしく、と。
頭を下げる2人を睥睨し、ウルフィンは思う。
セクレタリの元に2人を送り届けるために、誰を招聘するべきか、と。
- 雪原のはぐれ者たち。或いは、光を無くしたセクレタリ…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月09日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●雪深き国
しんしんと、静かに雪の降る夜だった。
幅広い川を下る1隻の小型船。
流れは速い。船が激しく揺れるたび、冷たい飛沫が『特異運命座標』ノット・イコール(p3p009887)の眼鏡を濡らした。
「できた?」
甲板にしゃがんで、筆を動かす2人の女性へノットはそう問いかける。
細く引き締まった体に、鳥の脚を持つ彼女たちはエミューとクアッサリーという。よく似た顔で同時に2人はノットへ振り向き、その眼前に墨で汚れた紙片を翳した。
字がへたくそで、生憎ノットにはなんと書いているかは読めない。けれど、2人の満足そうな顔を見るに、自身らの想いをしかと綴れたのだろう。
「出来たとも、ノットよ」
「セクレタリへ宛てた渾身の手紙だ」
「うんうん。やっぱり友達とは出来る限り一緒に過ごすのが一番だよ。突然別の世界に召喚されたら仲直りも出来ないから」
なんて。
どこか自嘲を含んだ声音で、ノットはそんなことを言う。
「手紙は書き終えた? それじゃあ、結構脚ざっくりやってるみたいだし、治療しておこうか」
消毒液と包帯を手に近づいて来た『神は許さなくても私が許す』白夜 希(p3p009099)へ、双子は胡乱な視線を向けた。
それもそのはず。双子の怪我はイレギュラーズとの交戦の結果、負ったものだ。今回は双子の仲間である“セクレタリ”という名の翼種へコンタクトを取るべく協力関係を結んでいるが、だからと言ってすぐに信用しろという方が難しい。
「フンッ……全くこいつ等種族揃いも揃ってはどうなっているんだ……喧嘩っ早いとかそのレベルを超えてるだろうが」
「蹴られた痛みも、足蹴にされた屈辱も、忘れていませんよ」
そして、それはイレギュラーズの側も同じことだった。
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)そして『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)の2人は、双子と交戦したことがある。双子の蹴りがいかに強力なものかは身を持って理解しているし、命を取り合った相手を無条件に信用するほど甘い人生も送ってはいない。
雪に紛れて、1羽の小鳥が飛んでいた。
それを見上げる『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は、つり目がちの瞳を細め「おや?」と僅かに首を傾げた。
「奇襲を受けないよう警戒はしていましたが……ともするとあの鳥さん達も皆、彼らの目であり耳なのでしょうが」
飛び去って行く鳥を見送り、アッシュは視線を川面へ落とす。
溶けた雪で水量が増しているのだろうか。川の流れは速く、そして波は高かった。
「あぁ、多少流れは速くとも、俺には『操船技術』がある。だから任せて」
舵輪を握る『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、アッシュの方を振り返ってそう言った。
「接近はそれで良いとして、問題は……いえ、やましいことは無いのです。堂々としていれば……良い、筈」
交戦は避けられないでしょうが……そう囁くアッシュの背後に、少女が1人近づいた。
「お話を聞いてもらえないなら、力づくで聞かせるというお話なのね? ボクにも分かり易くて助かっちゃう」
『虎風迅雷』ソア(p3p007025)は鋭い爪を出し入れしつつそう問うた。
短慮かつ好戦的なクアッサリーとエミュー、そしてセクレタリに話を聞かせるための手段として、それはいかにも簡単かつ効果的なものであろう。ソアという虎の精霊こそが、今回集ったメンバーの中で、最も彼女たちに近しい感性を有しているのかもしれない。
川の中央には、木材や土を固めて造った“住居”があった。
今回のメインターゲットであるセクレタリ、そして、彼女の仲間らしきならず者の獣種たちのアジトである。
アジトの上や、周囲の足場には10名近い男たちが立っていた。上流より接近して来るイズマの小型船を迎える用意は万全らしい。
迎える、と言っても歓迎しているわけではない。正体不明の来訪者に対し、彼らはひどく警戒心を強くしているように見えた。
「落ち着いて話を聞いてもらえれば、そうややこしいことにはならないのだろうけれど……」
それを許容できないほどに、彼らやセクレタリはひどい目に逢ったのであろう。そう思えばこそ、可能な限り大きな怪我人が出ないことを『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は願っていた。
「今回は敵を倒すことが目的ではないし、変な疑いをかけられたくもないから堂々と行く作戦だけど」
川辺の茂みに身を潜ませるアレクシア。彼女の見つめるその先で、1羽のカラスが手紙を加えて飛び立った。ノットの使役する【ファミリアー】であろう。
手紙に『記録』した双子の声を、セクレタリへ届けるためだ。
けれど、それは叶わなかった。
ならず者の1人が、カラスへ向けて石を投擲したのである。
石に打たれたカラスは、翼を激しく羽ばたかせながら川へと落下していった。
「っ……やっぱりこうなっちゃった」
アレクシアは地面を蹴って、高く跳躍。
白い花吹雪を散らしつつ、アジトへ向けて跳んでいく。
●川中のアジト
カラスと手紙が川へと落ちるその直前、横から割り込むアレクシアが空中でそれを受け止めた。
アジトの上に着地した彼女へ、ならず者たちが爪やナイフを差し向ける。
「わ、ストップ! 私たちは、ここを奪いに来たんじゃないから!」
敵意が無いことを示すべく、アレクシアが両手を頭の横へと上げる。けれど、男たちの警戒心は一向に緩められることはない。
それどころか、激しい憎悪や敵意といった感情がその瞳には滲んでいるようにさえ見える。
「はーい、セクレタリさんにお話しがあって来たよ!」
「クアッサリーさんとエミューさんを連れてきた、どうか話をしてほしい!」
小型船の甲板上から、ソアとイズマがそう叫ぶ。
ほんの一瞬、男たちの視線が声の方へと動いた。
男たちの注意が、小型船へと向いた隙を突き、アレクシアはアジトの端まで一気に後退。男たちの手が届かぬ位置へと移動する。
上流より迫る小型船と、アジトへ至ったアレクシア。
どちらを優先し警戒すべきか、判断に迷っているのだろう。ならず者たちの仕草からは、僅かな動揺が見て取れる。
今のうちなら、言葉を交わす暇も幾らかあるかも知れない。
アレクシアがそう思った、直後のことだ……。
『3名はその女性を川へ落として! 残りは船へ攻撃を! モタモタしないでください! また、騙され、奪い取られたいのですか!!』
アジトのうちより女性の声が響き渡った。
それを合図としたように、ならず者たちは一斉に行動を開始。つい寸前までの動揺など、まるでなかったかのように、統率の取れた動きをしている。
「止むを得ないか……皆、絶対に、殺してしまわないようにね!!」
手首に嵌めたブレスレットへ魔力を通し、アレクシアは仲間たちへとそう告げた。
同時に腕を一閃させれば、解き放たれる閃光が夜闇を一瞬真白に染める。閃光に焼かれ、アレクシアへと襲い掛かった3人が、顔を押さえて踏鞴を踏んだ。そのうち1人へ足払いを駆けながら、アレクシアは周囲の様子を素早く探る。
先ほどの声は、アジトの内部から聞こえていた。
おそらく、それがセクレタリの声だったのだろう。短い指示でならず者たちが行動を開始した辺り、セクレタリがこの一団のリーダーとみて間違いはない。
「指示を出させないようにしないと……」
そう呟いたアレクシアの視界の端で、ソアの体が宙を舞う。
アジトに着地したソアは、ぐるると獣らしく喉を鳴らして威嚇を放つ。
一見すると愛らしい容姿の小柄な少女だ。
けれど、ソアを囲むならず者たちは、彼女の本質を正しく理解しただろう。極寒の地でならず者へ身を落とした者たちとはいえ、彼らは筋骨たくましい獣種である。それなりの修羅場は潜っている史、命のやり取りも日常茶飯事。
そんな彼らをして、迂闊に触れては危険だと思わせるような何かがソアにはあった。
「そのまま大人しくしててよね? ボクたち本当にお話に来ただけなの」
「闘争は我も好むところだが、ひとまずは話を聞け」
威嚇を左右へ飛ばしつつ、ソアは1歩、2歩と前へ出た。
その背後に着地したウルフィンは、白い吐息を零しながら周囲を囲む男たちを睨みつける。その様子を、船上に待機している仲間たちや、アレクシアが見守っていた。
このまま、何ら苦労もなくアジトへ侵入し、セクレタリへコンタクトが取れるだろうか。
否。
「待ちやがれ! 話だけ聞けって? セクレタリの故郷を奪った連中は、そう言って里に入り込んだと聞いてるぞ!」
「あぁ、そうだ! また旅の途にある仲間からの伝言か? 同じ手が二度も通じると思うな!」
ソアの威嚇に怯んだとしても。
ウルフィンの戦意に気圧されたとしても。
彼らは後退しなかった。それどころかむしろ、2人の進路を塞ぐように動き始めた。
拳を握り、研いだ爪を伸ばし、すぐにでも跳びだせるよう身を低くして戦闘の構えを整える。それを見て、ウルフィンは悟った。
これ以上、退けと告げることは彼らの覚悟を踏みにじるような唾棄すべき行いである。
「今回は我も手を抜かんぞ? 死ぬほど痛いが……我慢しろ」
牙を剥き、爪を伸ばしたウルフィンは夜空へ向けて吠え猛る。
進路を巧みに塞ぎつつ、退かず、進まずを徹底しているならず者たち。
その様子を見て、アッシュはぽつりと呟いた。
「装備や敗残兵が集まってコミュニティを形成した……と言ったところでしょうか」
細められた右の瞳が、ならず者たちの一挙手一投足を追う。
小型船からアジトへ移り、アッシュは腕を持ち上げた。彼女が手を翳せば、その直線上からならず者たちは即座に退避。どうやら、前進しているソアやウルフィンを相手取りながらも周囲への警戒を怠ってはいないらしい。
それはまさしく、正規の戦闘訓練を積んだものの動きであった。
「交わすべきは武技ではなく、言の葉であるべき筈ですが……まずはテーブルに付かせるところからですね」
背後に控えたイズマへ向けて、アッシュはハンドサインを送る。
アッシュの合図を受けたイズマは、操舵輪を大きく回した。
急流に乗ったイズマの船が加速する。
「捕まっていろ!」
「言われずとも」
「そうさせてもらう」
2人が身体を固定するのとほぼ同時、イズマの操る小型船がアジトの端へ乗り上げる。元より、土と木材を寄せ集めた脆いアジトだ。たったそれだけで、天井の一部は崩落し、崩れた端から濁流に流されていく。
「長くはもたないぞ。短期決戦で……少々強引でも、押さえる!」
小型船が激しく揺れた。
イズマ、希、ノットの3人は同時に跳躍し、アジトへ上陸。クアッサリーとエミューの2人が僅かに遅れたのは、脚に負った怪我のせいか、それとも今回初めてイレギュラーズと組んだことによる連携不足が故だろう。
「っと、思ったより足場が脆いな」
近くにいたならず者の肩を刺突で貫き、イズマは言った。
そんな彼の横を、オリーブが低空飛行で駆け抜ける。
「むしろどんどん壊れてくれた方が自分にとって都合が良いです。目の悪いセクレタリにも良く効くでしょう」
全長130センチの長剣。その腹で、ならず者の胴を打って川へと叩き落してみせた。さらに、前方を塞ぐならず者の足元を、気合一閃薙ぎ払う。
「見え透いた手を!」
跳躍し、ならず者はそれを回避。カウンター気味に放たれた拳がオリーブの顔面を強かに打つ。地面に落下したオリーブへ、2人のならず者が同時に襲い掛かったが……残念ながら、遅すぎた。
「こうも足元が不安定だと蹴りづらいな」
「怪我も治りきっていないからな」
クアッサリーとエミューの膝が、2人の男の顔面を強打。鼻の骨ぐらいは砕けただろうか。鼻血を噴いて、倒れた2人の胸を足場にクアッサリーとエミューはさらに先へと進む。
『浸水して来たわ! 何があったの!!』
アジト内部からセクレタリの声が響く。それを聞いて、双子は駆ける速度を上げた。その後を追うならず者を、オリーブとイズマが足止めする。
「そこのノーザンキングス共。そちらが捕虜としているセクレタリを返してもらう!」
双子の後を追いかけながら希は叫ぶ。
その声を聞いて、数名の男が動きを止めた。
「あぁ? 何言ってんだ、あいつ? ノーザン・キングスはてめぇらの方じゃねぇ……あ?」
「まぁ、そんなところよね」
男の周囲を飛び回る、マスケット銃や小剣、鉄球、短剣の群れ。それらを操作するように、希は虚空に指先を泳がせた。
銃声が鳴る。
放たれた弾丸が、ならず者の脚を撃ち抜く。姿勢を崩したならず者を放置して、希は疾走。アジト内部へ続く出入口の前でぴたりと足を止めた。
既に双子とノットはアジトの内部へ入った後だ。
後のことは、彼女たちが上手くやってくれるだろう。
蝋燭の淡い明かりが満ちた小部屋に、眼鏡をかけた長身痩躯の女が1人。
長く筋肉質な脚。白と黒の長い髪。
細く怜悧な瞳からは光が失われていた。
「賊め! 故郷を奪っただけでは飽き足らず……一体私たちに何の恨みがあるのだ!」
怒声が響く。
風を切り裂き、放たれた蹴りがノットの胸部を強打した。ミシ、と骨の軋む音。折れてはいないが、罅程度は入ったかもしれない。
「ぐ、待って。ボクらはただ、話をしに来ただけなんだ!」
「同じ手が何度も通用すると思うな!」
顔面へ向けて放たれた爪先蹴りを、ノットはぎりぎりのところで回避。けれど、続けざまに放たれた前蹴りの連打がノットの胸や腹を打つ。
視力を失っているせいか、狙いは甘い。
けれど、一撃一撃が重い。狙いの甘さを補ってあまりあるほどの威力を備えたその蹴りは、掠めただけでもノットの皮膚を斬り裂いた。
鳥類特有のかぎ爪が、セクレタリの足先には備わっているのだ。
「まったく、こんなに冷えるのに血の気が多いね」
混戦の中、アレクシアから双子の手紙を受け取っている。けれど、これほど果敢に攻め立てられては、それを渡す暇もない。
「退いてくれ、セクレタリの相手は」
「私たちに任せてくれ」
ノットの体が蹴り飛ばされたのを確認し、クアッサリーとエミューの2人は小部屋へ飛び込んでいった。
●セクレタリの事情
崩壊したアジトの残骸が、急流に流されていく。
それに紛れて、気を失ったならず者たちも。
ウルフィンとオリーブは宙を飛び回り、次々とそれを回収していく。
敵対していたとはいえ、今回の任務にならず者たちの安否は無関係なのだ。
そうであるなら、彼らがここで命を落とす必要はない。
「依頼に入っていないんですがね……後でごちゃごちゃ言われても面倒ですし、そこのところを忘れることは無いように」
そう言ってオリーブは、荒っぽい手つきでならず者をイズマの操る小型船の甲板へと放り込んでいく。
寒さに震えるならず者に、答えを返す余裕などは無いようだ。けれど、もうしばらくすれば会話程度は出来るようになるだろう。
「ねぇ、よければ話してくれない? セクレタリさんに何があったのか詳しく聞きたいな」
「えぇ、そうですね。一先ず、話をして頂けませんか。貴方たちのことも。彼女らの住処に起きたことも。交わすべきは武技ではなく、言の葉であるべき筈です」
アレクシアとアッシュの問いに、ならず者たちは顔を見合わせ思案する。
「抵抗なんて考えないでね。それでも向かってくるなら数で囲んで倒してしまうわ」
それはソアの忠告だ。
水に濡れ、ダメージを負ったならず者たちには、もはや反撃の意思などない。希の手当てを受けながら、暫しの間思案していた一同は、やがて一言、こうつぶやいた。
「俺たちも、セクレタリも……どこかの兵に雇われたっつー“地上げ屋”に住処を奪われたのさ」
吐き出すようなその一言がポツリと零れた。
足首が浸かる程度まで、アジトの内部に水が入り込んでいた。
その中に倒れたクアッサリーとエミュー、そしてセクレタリの3人を見下ろし、ノットは「困った」と呟いた。
「話をするってことだったのに、何で動けなくなるまで戦っているの?」
セクレタリも、戦いの途中で相手がクアッサリーとエミューであると気付いていたはずだ。けれど、彼女たちは蹴り合いを止めはしなかった。
再開を祝福するように。
蹴り合う姿は楽し気で。
だからこそ、ノットはそれを止めることが出来なかったのだ。
もっとも、直前に負ったダメージが大きかったということもあるが……。
「すまない」
「楽しかったから」
「でも、おかげで頭が冷えたわ。貴女たちは、信頼に足る人物であると認識します」
「……まぁ、いいけどね」
3人を運び出すために、仲間を呼ぶ必要がありそうだ。
そう考えたノットは、小鳥を1羽召喚すると、それを船へと遣わせた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
お待たせしました。
セクレタリと双子鳥は無事に再開。
住処は再び失われ、彼女たちは新天地を目指し再び旅に出て行きました。
依頼は成功となります。
いずれ、どこかで再開することもあるかもしれません。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
こちらのシナリオは『砦破りのジェミニ。或いは、青と赤のヒクイドリ…。』のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5873
●ミッション
セクレタリのもとへ双子を送り届ける
●ターゲット
・セクレタリ×1
白と黒の混じり合った長髪。
怜悧な瞳とスクエアの眼鏡が特徴。
何らかの理由で視力は損なわれている。
冷静沈着で思慮深い性格をしているらしい。
また、彼女は蹴り始めると止まらない性質である。
執蹴:物近単に特大ダメージ、移、連、ブレイク
対象を執拗に蹴り続ける。全力で、何度も、動かなくなるまで。
・ならず者の獣種たち×20
狼や豹、兎の獣種。
寄せ集めのならず者ではあるが、各人の実力は高い。
碌な装備を整えられてはいないようで軽装の者が多いようだ。
荒撃:物近単に大ダメージ、流血、ショック
爪や肉体を使った格闘戦術。
●同行者
・クアッサリー&エミュー
赤い短髪、長身の翼種がクアッサリー。
長く青い髪を1本に括った長身の翼種がエミュー。
2人とも厚手のコートにショートパンツといった服装をしている。
素早い身のこなしと冷静な判断、力強い蹴りを用いて戦闘を行う。
現在、2人とも怪我をしており本来の戦闘力は発揮できない。
蹴砕:物近単に大ダメージ、移、連、滂沱
流れるように繰り出される鋭い蹴撃
鉄穿:物近単に特大ダメージ、移、飛、滂沱
勢いをつけて繰り出される渾身の蹴撃
●フィールド
川の中央に造られた木製のアジト。
外から見た感じ、ビーバーの巣のようにも見える。
川幅は40メートルほど。
川の流れは速いが、泳いで渡れないほどではない(ひどく冷たいが)。
アジト内部の足場は脆いようだ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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