座敷童は遊びたい

オープニング

●とある温泉旅館にて
　いわゆる地球の、現代の日本と呼ばれる国によく似た世界。
　山間という立地のおかげで夏場でも涼しいその場所に、その旅館はある。
　「ひこやま荘」と看板を掲げたその旅館には、こんな噂があった。
　ーー幸福をもたらす、座敷童がいる。
　そのような噂もあってか、人里離れた山の中の旅館であるにもかかわらず、客は多くいるようだ。
　しかし、商売繁盛しているはずの旅館では、ちょっとしたトラブルが起きている。

「ねーえー！　お仕事ばっかりじゃ楽しくないんだよぉ！　わたしも遊びたいー！」

　齢は7つくらいだろうか。着物を着たおかっぱの黒髪の半透明の少女が、駄々を捏ねている。
　そう、彼女こそがこの旅館の座敷童、お菊だ。
　頬を膨らませてじたばたする少女を、女将が宥める。
「まぁまぁ、そう言わずに。お菊ちゃんのおかげでお客さんたちは幸せになって帰ってくれてるんだよ。」
　だから頑張って、と言おうとした女将の言葉をお菊は遮る。
「わたしばっかり頑張るっておかしいよぉ！　良いもん！　遊ばせてくれないならお仕事しないもん！」
　そういうと、お菊は不貞腐れてすうっと消えていった。
　こうなったお菊は頑としていうことを聞かないのを、女将は知っている。
「仕方ないわねぇ。私も旅館の仕事があるから、そっちばかりに時間を割くわけには行かないし……。」
　うーん、と考え込んだ後、女将はあることを思いつく。
「折角だから、お菊とお客様に一緒に遊んでもらいましょう。1日遊ぶことができれば、お菊も機嫌を直してくれるでしょう。」
　この旅館は、間違いなくお菊のお陰で繁盛している。いつも頑張ってもらってるし、たまには我満を聞いてもよいだろう。
　女将は早速、チラシをパンフレットを作り始めるのだった。

●座敷童と遊ぼう
「座敷童って、幸せをもたらす子供のお化けのことよね。」
　ポルックスは座敷童に対して大きな関心を寄せている。
「ただ、ずっと人ばかり幸せにしていても、自分が楽しくないとそれはそれでつまらないモノ。……ということでみんなには、座敷童のお菊ちゃんと、一緒に遊んできてほしいの。」
　ポルックスはひこやま荘のパンフレットを見せてくる。
「最近暑くなってきたけど、旅館は結構涼しいところにあるみたい。ご飯もおいしそうだし、のんびりしてくるといいんじゃないかな。」
　彼女はそういうとにっこり笑うのだった。

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第2章

第2章 第1節

●座敷童は折り紙もやりたい

　一生懸命にかくれんぼで遊んだ後、お菊とイレギュラーズは心地の良い疲労に包まれていた。
「こんどは、お部屋で遊べる遊びがしたいね。」
　お菊は部屋の隅のおもちゃ箱をガサゴソと漁ると、満面の笑みで色とりどりの紙をもってイレギュラーズのもとに戻ってくる。
「ねぇ、今度は折り紙しようよ！」
　屈託のないその笑顔は、イレギュラーズたちもつられて笑顔になるものだった。

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第2章 第2節

「はろーっ！　じゅてーむっ！　ごきげんようっ！　厳重注意で済みましたヨハナ・ゲールマン・ハラタですっ！」
　ヨハナは相も変わらず元気よく挨拶をする。
　先の『本気のなまはげ事件』については、悪気はなかったということで、地元警察からかなりきつく怒られる程度で許された。

　さて、お菊がかくれんぼの次にせがむのは折り紙だ。
「かくれんぼの続き……じゃなくて折り紙ですかっ！　今ちょうどオリガミバトラーが放送してるタイミングですからねっ！」
　一緒にイトウジ君を応援しながら折り紙しましょうねっ、というと彼女はそのアニメで如何に折り紙技術に関する学びが多く得られるかについて説明する。お菊は興味津々だが、この世界でオリガミバトラーが放送されているかは定かではない。
「複数の折り紙を組み合わせて大きな折り紙を作るあたり、ペーパークラフト折限定自由形的に参考になる部分が多すぎるんですよっ！　つまりイトウジ君がやってるあれとこれを上手く組み合わせれば……！」
　早口で彼女は器用に、しかし目にも止まらぬ速さで折り紙を組み合わせていく。
　
　ーーそして5分後。

「できましたっ！　1/6スケール立体愛染明王像っ！！」
　ガチもガチ、本気のガチで作られた1/6スケール立体愛染明王像は、折り紙とは思えないほどクオリティが高い。
　お菊は勿論、旅館の従業員も、その出来栄えに感心している。
　ヨハナのその顔は、とても誇らしげなものだった。

成否

成功

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第2章 第3節

「座敷童さんがいる旅館かあ、さぞかし繁盛しているんだろうねえ。」
　鳶島津々流は出迎えてきた座敷童を前に、ゆったりと和室でくつろいでいた。
「名前はお菊さんっていうんだ。ふふっ、頑張っている子にはご褒美を。たまにはこうやってみんなで遊んでもいいんじゃないかなあ。」
　それを聞いてお菊は部屋の隅の玩具箱から折り紙を取り出し、満面の笑みで津々流に差し出す。
「折り紙遊びだね。僕も子供の頃は色々教えてもらって沢山作ったなあ。」
　懐かしさを感じながら、お菊が何を折りたいのかを聞いていく。
「女の子だから、可愛らしいものがいいかな。」
　そう言うと、まずは薄いピンク色の折り紙を5枚拝借。
　暫くして、それを5枚組み合わせて桜の花が完成。お菊は大喜びで、次の花を折ってほしいとせがむ。
「それじゃあ、これはどうかな？」
　今度は小さな折り紙を沢山使った、色とりどりの紫陽花が咲き誇る。お菊も挑戦したくなったのか、あたしも折る、とやる気になる。
「じゃあ、少し難しいけどユリやアヤメ、それからお菊さんに因んで菊の花も折ってみようか。」
　うん、と頷くお菊。しかしなかなか折るのが難しく、苦戦している。
　津々流はお菊の頑張りに手を添える。
「難しくても大丈夫、手順ひとつひとつ、ゆっくり教えるから。自分で折れた時の嬉しさは一入だからねえ。」
　お菊は自分で作った花々を、自慢気に女将たちに見せた。津々流はそれを嬉しそうに眺めていた。

成否

成功

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第2章 第4節

「なるほど座敷童のお菊さんと折り紙で遊ぶターンということですね。」
　アルプス・ローダーはふむふむとこの遊びをどう楽しむかを真剣に考えている。
「先ほどの方を見ましたが1/6スケール立体愛染明王像を５分で作ってしまわれては……程々の折り紙では見飽きてしまうかもしれません。」
　先程の方というのは、間違いなくヨハナのことだろう。ローダーからすればあのクオリティのものを見せられては、別の方向性でお菊を楽しませないといけないと考えている。
「時間をかけない折り紙でいかにして楽しんでもらうか？　できるのか？　できるんです。」
　ローダーは得意げに続ける。

「そう、この……紙飛行機なら１０秒でね！」
　ジャジャーーン、というSEが聞こえてきそうな勢いで、彼女は一見何の変哲もない紙飛行機を見せつける。
「こちらはただの紙飛行機、飛ばす事しかできませんが楽しむ事ができるんです。これより紙飛行機コンテストを開催します！！滞空時間（ｓ）×飛行距離（ｍ）をかけてより大きい人が優勝です！！」
「つまり、長く、いっぱい飛ばした人の勝ちってこと？」
「そういうことです！　オリジナル紙飛行機で挑め！優勝賞品はなんとこの金色折り紙！！」
　分かり易いルールに、お菊はとても嬉しそうだ。
　その日、旅館の中庭で、沢山の紙飛行機が空を舞った。
　楽しく遊ぶ2人の姿はつられて他の旅館の従業員も微笑むような光景だった。

成否

成功

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第2章 第5節

「うむ、うむ。あいわかった。折り紙の夢ちゃんとの異名を持つ、この麿に任せておけばオッケーじゃ。」
　一条夢心地は先のかくれんぼが終わった後、お菊の折り紙で遊びたいという要望を快く引き受ける。
「折り紙で遊ぶにあたって重要なポイントはひとつ……。」
　真剣な表情の夢心地に、お菊はうんうんという頷く。彼はニマッと笑って続ける。
「それは銀とか金とかのキラキラ折り紙は貴重ゆえ、なるべく使わずとっておくことじゃ！　あれはレアじゃからの……ちょっとした時に使うのは普通の色のやつで良い……。」
「あ！　金とか銀って、一個の袋に2枚とかしかないもんね！」
「そういうことじゃ。……よし、それでは早速作っていくのじゃ。麿は飛行機を作ることにするぞよ。」
　――長く飛んでいられるように作るには、熟練のテクニックが必要となるぞえ。
　彼は素早く、しかし丁寧に紙飛行機を折っていく。彼が折っているのは、ちょっと手順が多い方の紙飛行機だ。
「ここをこうして……うむ、完成じゃ。」
　出来上がった紙飛行機は、持ちやすく、丈夫になものだ。早速、広い和室で紙飛行機を飛ばしてみる。
「ほおら見てみいお菊、部屋の端から端まで飛んでおる！」
　ピュッと彼の手から離れた紙飛行機は50畳ほどの部屋の隅から隅まで飛んでいく。
「うわー！　紙飛行機ってこんなに飛ぶんだ！　すごいね！」
「ふっふっふっ、大～成～功、じゃな！」
　そう言って2人は笑いあうのだった。

成否

成功