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シナリオ詳細

<琥珀薫風>紺青に月

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 紺青の宵闇に浮かぶ白月を見上げ歩を進める。
 大きな満月の夜はどうしても思い出す声があった。
 自分と同じ琥珀色の瞳をした美しき姉に手を引かれ土手の道を歩いたことを。
 何の変哲も無い遠い思い出なれど、大切な風景でもあるのだ。

『琥珀薫風』天香・遮那(p3n000179)は空に浮かぶ明かりから、地上へと視線を戻す。
 仄かな月光に鹿ノ子 (p3p007279)の碧桃の髪が照らされ、歩く度に緩りと毛先が揺れた。
 それにじゃれるように使い魔である望が鹿ノ子と遮那の足下を駆け回る。
「望よ。そんなに足下を駆けると躓いてしまうぞ?」
『だって、お散歩楽しいんだもん』
「散歩ではないのだが……」
 足下に来た望(ぼう)を持ち上げふわふわの毛並みに指を入れれば擽ったそうに身を捩った。
「そうッス! これは重要な任務ッスよ」
 遮那達が向かう先は春日村。
 先日、剣巫女と刀匠を見送った錆塚峠の様子も見ておきたかったからだ。
「紫屍呪の影響が出ていないかということですよね」
 隠岐奈 朝顔 (p3p008750)の言葉に遮那は頷く。

 遮那が天香を継いだことを快く思って居ない者達が策謀し、錆塚峠の穢れを切り取って紫屍呪とした事件があった。それは幻想国へと持ち込まれ、魔物を引きよせる能力を利用し街を崩壊させようとした者が居たのだという。その場に居たタイム (p3p007854)や鹿ノ子達の奮闘により紫屍呪は解呪され事なきを得た。
「そういえば、吉野もそろそろ帰還するか」
 獄人の奴隷流出を追って幻想国へと渡っていた従者の柊 吉野(ひいらぎ よしの)には帰還命令を下していた。
「あの子とても忙しそうに走り回ってたから、ゆっくりさせてあげたいわね」
「そうだな。しばし休暇を与えるか。よく働いてくれたしな」
 タイムは幻想国で吉野を度々見かけている。共に戦う事も多く、何事にも一生懸命に向き合う姿にタイムは何時しか親しみを感じるようになった。

「吉野のやつ、最近見かけないと思ったら大陸へ行ってたんですね」
 遮那と同じ黒髪を揺らし、御狩 明将(みかり あきまさ)は金色の目を夜空へ向ける。
「明将……其方、吉野が居ないと寂しいのかの?」
「いやいや、そんな事一言も言ってませんよ! 俺、じゃない……私が吉野が居なくて寂しいなどと思うわけないでしょう」
 慌てた様に怪訝な表情を見せる明将に小金井・正純 (p3p008000)はくすりと微笑んだ。
「……正純さんまで。遮那様も私の事を揶揄ってますよね?」
「そうだな」
「否定を! してください!」
「すまない。つい、楽しくてな。同年代の男子が吉野と明将しかおらぬから」
 明将は正純の所に居候している少年だ。豊穣での大戦の折、焼け出された所を正純が拾ったらしい。
 彼の父は長胤に忠誠を誓っていた。だから若くして当主となった遮那に思う所があった。
 けれど、触れあう内に『父の仇』から『同じ年の遮那』へと心境が変化していったのだ。
 あと頑張って敬語は使うようにしているらしい。

 突然、遮那の首筋に冷たい風が吹いた。何事かと感じる間も無く。
「遮那くん!」
 夢見 ルル家 (p3p000016)の声と何処からの悪しき気配に遮那は咄嗟に雲霧を抜き放つ。
 剣刃に弾かれた矢。遮那は傍に居た鹿ノ子と朝顔を庇うように袖を広げ地を駆けた。
 暗がりに剣尖が閃き遮那の喉元目がけて迫る。
 それをひらりと避けて、相手の刀身の上に軽やかに乗った遮那は雲霧を横に薙いだ。

「――何者だ!」

「問われて応えるなぞ愚かな事。お命頂戴する!」
 大袈裟に振り上げられた太刀に遮那は注視する。
 ここは避けるより前に出て懐へ飛び込んだ方が良いだろう。
 隙だらけの太刀筋は『斬って下さい』と言わんばかりだ。
 一歩踏み込んだ遮那に相手の口元が笑みを浮かべたのに気付く。
「……っ!」
 この一手は相手の読みの範疇。つまり悪手だ。気付いた時にはもう遅い。
 遠距離から投擲された必殺の『槍』を視界に入れた遮那は、次に己を押そうであろう痛みの予感に奥歯を噛みしめた。されど、諦める訳には行かぬと目の前の敵へと刀を突き立て、背後から迫る攻撃を少しでも軽減しようと身を捻る。

 目の前に広がる血飛沫に月明かりが反射した。
 遮那を庇うように背に槍を受けたのは――柊 吉野。
「吉野!?」
「間に合った、か」
 背に刺さる槍を引き抜いた吉野は、その槍にて遮那に剣を向ける敵を穿つ。
 そして、振り返った吉野は遮那の傍に居た明将に食ってかかった。
「お前は八百万だろ! 獄人の俺と違って遮那様の隣にいても誹りを受けないだろ! だったら、ちゃんと守れよ!」
「はぁ!? 何でだよ! 家臣でも何でもないだろ!」
 遮那が気にしないと優しく声を掛けてくれたとしても。獄人である自分が傍に居ることは、要らぬ中傷を背負わせてしまうことになる。だからこそ、情報収集として大陸に渡ったのだ。
「友達として! 守りやがれ!」
「……何だよそれ。お前に言われなくてもそんな事分かってるよ!」
 父の仇であろうと、遮那は既に明将の友人だ。命の恩人の親しい人だ。それを守らぬは武士の名折れ。

「二人とも止めよ! そんな事で言い争ってる場合ではない!」
 遮那は気を張り巡らせながら吉野の角を撫でた。
「吉野。よく帰った。立てるか」
「問題ありません」
 血を拭きながら吉野は立ち上がる。この状態の彼を下がらせるは定石なれど、吉野という少年の矜持がそれを許しはしないだろうから。そして、明将も武将の子。
 ならば、下す命は一つだけ。
「二人とも存分に『私を守れ』!」
「御意!」
 駆け出して行く二人の背から視線を逸らし、タイムへと駆け寄る遮那。
「タイムすまない。吉野に回復を。ああなったらもう止まらぬからな」
「ええ。任せて」
「明将も前のめりに突っ走って行くから、正純、援護を頼む」
「はい」
 遮那は雲霧を構え琥珀の瞳を敵影へと向ける。
 周りを囲まれているということは、狙いは遮那なのだろう。

「ルル家! 背は任せたぞ」
「勿論ですよ!」
「朝顔、無茶はするな。と言いたいが、其方の事だから聞かぬな。前に布陣せよ!」
「はい!」
「鹿ノ子も行くぞ!」
「はいッス!」

 駆け抜け翻り。月明かりに剣尖が走る――

GMコメント

 もみじです。
 遮那を狙う暗殺者を倒しましょう。

●目的
・暗殺者の掃討

●ロケーション
 春日村の近く。森の中の街道。少し開けた場所です。
 暗いです。月明かりと手持ちの明かりがありますので広場は照らされています。
 森の中は暗いので追加の明かりがあれば少し見通せるかもしれません。

●敵
 暗殺者×??
 複数人居る事は確実です。
 非戦スキルで人数を探ることが出来ます。
 現在分かっているのは刀を持った一人と弓矢を撃ってきた一人。
 何処かに潜んでいる必殺の『槍』を投擲する者です。
 他にも複数の気配がします。暗殺の手練れです。
 彼等は積極敵に遮那の命を狙うでしょう。
 遮那に恨みを持つ者の仕業だと推測されます。
 掃討しましょう。

●NPC
○『琥珀薫風』天香・遮那(p3n000179)
 豊穣の大戦で天香の当主と成り日々精進しています。
 今回は暗殺者に狙われています。
 若くして当主となった遮那を追い落とそうとする者は後を絶ちません。
 自分の身は自分で守れる程度の実力です。

○柊 吉野(ひいらぎ よしの)
 遮那に仕える獄人の少年です。
 豊穣から幻想への奴隷流出について遮那の代わりに調査を行っていました。
 自分の身は自分で守れる程度には戦えます。

○御狩 明将(みかり あきまさ)
 遮那の友人です。八百万です。
 大戦の折焼け出された所を小金井・正純 (p3p008000)に拾われました。
 吉野とは少しぎこちない雰囲気です。
 自分の身は自分で守れる程度には戦えます。

○望
 遮那の使い魔。狛犬の姿で伝書鳩の様な役割を担っています。
 豊穣の錆塚峠の麓で遮那と鹿ノ子 (p3p007279)に鎮められた精霊です。
 もふもふです。攪乱や回復などの援護をします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <琥珀薫風>紺青に月完了
  • GM名もみじ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月10日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談10日
  • 参加費300RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

夢見 ルル家(p3p000016)
涙と罪を分かつ
※参加確定済み※
鹿ノ子(p3p007279)
涙の約束
※参加確定済み※
タイム(p3p007854)
この手を貴女に
※参加確定済み※
小金井・正純(p3p008000)
明けの明星
※参加確定済み※
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
共に歩む道
※参加確定済み※
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼

リプレイ


 何処からともなく蛍が視界の端に過ぎ去り消えて行く。
 月が群青の空に浮かんでいた。

「如何な理由かはさておき、未だ天香……或いは遮那くんへの反目は小さくないようですね」
 緑瞳を上げ、『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)は『琥珀薫風』天香・遮那(p3n000179)の背を護るように剣を構える。
「天香には拙者達がいるという事を存分に示しましょうぞ!」
 月光が瞬く星の刀に走り、宵闇に白く浮かんだ。
「各方! ご油断召されるな!」
「はい!」
 ルル家の言葉に応えるのは『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)だ。
 朝顔は遮那の前に立ち、夏の青空と太陽の花を思わせる鮮烈な光を発する。
「遮那君と見る綺麗な夜に無粋な……暗殺なんてさせませんよ!」
 高らかに声を張り上げる朝顔。暗き戦場において光輝く巨躯の獄人は存分に目立つだろう。
 その上で、朝顔は遮那を抱き上げてみせる。
「何を……」
 突拍子も無い行動に思わず声を上げた遮那の鼻先に「しぃ」とするように朝顔の指が差し出された。
「遮那君と私が互いに守ろうとし私が敵からもよく見え、彼の最愛と勘違いすれば、私を狙うでしょう。これで皆、動きやすいはずです」
 大人が子供をあやすようにくしゃりと遮那の頭を撫でた朝顔は少年を離し前を向いた。
「私がいる限り、遮那君は殺させません!」
 先陣を切り、朝顔が正面の敵に向かって駆け出す。
 手負いの暗殺者を裏打薄翠でねじ伏せ、なぎ払った。赤黒い血と共に地面へ投げ出される死体。朝顔の眼は確実に目の前の敵が死んでいるのだと見通す。

 きっとこれが初めてではないのだろうと『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)は唇を引き結ぶ。
 鹿ノ子が知らない所で遮那はおそらく多方から命を狙われているのだろう。
 いつも傍に居られるわけではないけれど。だからこそ、肩を並べている時間は、彼の力になりたいと鹿ノ子は願うのだ。
「遮那さんのおわすこの豊穣に、乱あるを許さず」
 前方に朝顔。後方にルル家。

 ――ならば僕は、あなたの隣がいい。
「……鹿ノ子、抜刀!」
 白く透き通る刀身――『忍冬』の銘を持つ太刀を解き放ち鹿ノ子は琥珀の瞳を上げた。

 青い瞳を柊 吉野に向けた『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)は掌に陽光を封じた花を咲かせる。
「吉野さん……! すぐ回復するから少しだけじっとしていて」
「……っ、すまねぇ」
 タイムの指先が夜空をなぞれば、戦場に陽光花が舞い落ちた。吉野の傷口に集まった輝く花は優しく少年を癒す。遮那を護る為には傷を治さなければ存分に動けないと思ったのだろう。大人しくタイムの回復を受ける吉野。それでも警戒するように刀の柄は手放さない。回復に集中するタイムに何かあった時の為にも周りの殺気を注意深く感じ取っているようだった。
「紫屍呪のごたごたも一応は落ち着いて様子を見に来たら……もう、今度はなに?」
 立ち上がった吉野が剣を構え、走り去る前にタイムが鼓舞するようにタクトを振るう。
 月明かりとは別の暖かな光が戦場を包み込んだ。
「回復は任せて。望くんも一緒にお願いね」
『うん! 邪魔するのは得意なんだ! 任せてよ!』
 タイムは遮那の傍に飛んでいる使い魔の望を撫でる。
 望が目くらましにと眼前の敵へ白い霧を吹き付けた。

「これだけの護衛が揃っているのに暗殺とは、女だと舐められたか、それとも余程焦れて追い込まれているのか。一人二人捕まえて話を聞かねばなりませんね」
 疼く右肩を意識の外へ追いやり『星の救済』小金井・正純(p3p008000)は遮那を護るように円陣の一部に加わる。敵の正確な位置が不明な以上、全方を警戒するのは道理。
「最優先は遮那さんの御身。守りきりましょう」
 飛んで来た矢を敢えてその身で受け、何処から飛んで来たのかを見極める正純。
 遮那に怪我を悟られぬよう自分の肩に刺さった矢を抜き地面へ投げ捨てる。多少の傷など、どうとでも無いが心優しい少年はきっと自分の傷を気にするだろうから。
 正純の瞳は葉に隠れ潜む敵の位置を看破する。
「見えてますよ――」
 正純は天星弓の握り手に力を込めた。弓の反りに沿って星屑の煌めきが流れる。
 番えるは死神の矢。邪剣の月光纏わせ、引き絞る弦の音が緊張感を高めた。

「――――……」

 張り詰めた弦が解き放たれ、必殺の閃光矢が木の陰に隠れた暗殺者の太股を打ち貫く。
「ぐっ、ぁっ」
 小さく漏れた声と共に敵が木の上から落ちる音がした。
 

「おうおう、何だどうした。嫌がらせじゃなくて直接命を狙ってきたのか? それともそことは別口か?」
 大太刀を軽々と振り上げ肩に乗せるのは『撃劍・素戔嗚』幻夢桜・獅門(p3p009000)だ。
「……うーん、よく分からねぇな」
 月灯りの雫で夜目が利くようになった獅門は四方を囲む敵の気配を感じとる。
「まあ裏の事情は後で考えるとして、今はこいつらをぶちのめせばいいか。当主はお前らには殺させねぇよ。命が惜しけりゃとっとと降伏するんだな!」
 朝顔の挑発に乗せられ向かってくる敵の攻撃を横から絡め取り、獅門は大太刀を叩きつけた。
 頭上からの振り下ろしに暗殺者の腕の骨があらぬ方向へ曲がる。


 何処かでホウホウと青葉梟の鳴く声が聞こえる。夏の虫が木々の間に囀っていた。
 ルル家は耳を研ぎ澄ませ、周囲の音を注意深く聞き分ける。
 動物や虫、自然の音ではない、人間の息遣いと草木を踏む音。
 絶対なんてものはこの世に存在しない。ルル家達の認識の外から敵はやってくるかもしれないのだ。
 全てを察知できているという考えは捨て、感覚を戦場に巡らせる。
 何かが動いた。重い足音。鹿のような四足歩行ではない。
 二足歩行の何かが此方へ向かってくる。
「七時の方向に敵です!」
 ルル家の声に走り込んで行くのは吉野と明将だ。
「はっ、獄人の分際で護衛気取りか」
 黒づくめの暗殺者が角の生えた吉野を見て頭巾の中で蔑む笑いを見せる。
「ああ? 何だとてめぇ!」
 怒りを露わにした吉野が敵へ斬りかかった。
「吉野さん待って待って! 挑発に乗せられないで。無理をするとさっきの傷口も開いちゃうわ」
 タイムの言葉にぐっと歯を食いしばる吉野。されど、眼光は鋭く目の前の敵と切り結ぶ。
「それに獄人だからなんて考えないで。わたしにとってはあなたも大切な人よ。幻想でどれだけ助けて貰ったと思ってるの? ふふ」
「……っ」
 落ち着かせようと少しだけ余裕の素振りを見せるタイムに困ったように息を吐く吉野。怒りと照れが混ざってしまう。
「そんな安い挑発に乗って、大事なもの守れるのかよ」
 明将は吉野へ向けられた剣尖を弾き、返した刀で暗殺者との間合いを開かせる。
「うるせぇ」
「……明将、己の命と、可能なら遮那さんの命を守りきりなさい。先程吉野さんも仰っていましたが、貴方は家臣ではないけれど、遮那さんの友なのでしょう?」
 正純は吉野につっかかる明将を嗜めるように言葉を投げた。明将が吉野へ掛けた言葉もコミュニケーションの内の一つなのだろう。正純もそれは分かっている。けれど、今の明将は言葉のチョイスが悪かった。この年頃の男の子特有のものなのか明将も吉野も言葉が圧倒的に足りなさすぎると正純は溜息を吐いた。
「ほら、そんな不服そうな顔しない。心と表情が一致しないのはあなたの悪癖ですよ」
「二人とも仲良く、ね」
 正純とタイム両方から諭された少年達は同じ方向を向いて剣を振るう。

「遮那さんだけの時を狙ってきたということは、天香ではなく、その個人を敵対視しているということ」
 小さく呟いた正純の言葉に明将は頷いた。家そのものを葬り去るというのならば、その血族の後継者となる人物を根絶やしにする必要がある。特に天香家は大きい家柄という事もあり跡継ぎを用意しようと思えば幾らでも選出することが出来るだろう。
「もしかしたら、外部ではなく内部にも居るのかもしれないな」
 天香の血を継いでいない、ただ、可愛がられていたというだけの『よそ者』が当主となったのだ。
 実際に遮那を嫌う天香の血筋の者は居るだろう。特に八百万の貴族として育った者は獄人である吉野を傍に置いている時点で相当な変人という認識をしている。遮那に憎しみすら感じる者も居るだろう。
「俺も正純さんや吉野達に会う前はそうだったから。でも、一方的に殺すのはやっぱ違うんだよ。絶対に」
「そうですね。……今この時にコトを起こしたことを後悔させてさしあげます。ええ、こんなに星が綺麗な夜なのに、何となく腹の虫が収まりませんので」

 朝顔は視界の端で剣を振るう遮那を感じる。
 ――彼が私を守りたいのは、私が遮那君を好きだからで。私を愛してるからじゃないけど。
 高い位置から振り下ろされる剣身。風を割き敵の首を切り飛ばす。
 朝顔は地を蹴り、遮那に向かう暗殺者に体当たりした。カウンターで朝顔の背に突き立てられる刃。
「……守られてるばかりは嫌だから。今だけは、どうか最愛の君を守らせて下さい」
「朝顔!」
「大丈夫。遮那君がいるなら私は絶対に倒れません」
 背に突き立てられた剣を引き抜き投げ捨てる。低く状態を構え直した朝顔は突進して敵の頭を掴んだ。
 そのまま地面に叩きつけ剣で心臓を貫けば月光に蘇芳の赤が舞う。
 返り血を袖で拭い飛んできた矢を弾く朝顔。
「君を害するモノは全て受け止めてみせます。……少しでも君が私を好きになって貰いたいから!」
 朝顔の言葉は獅門の耳にも届いた。
「遮那さんの周囲には他にも人がいるから大丈夫だとは思うが、まあ用心するに越した事は無いよな」
 特に槍を投げてくる敵は危ないと獅門は眉を寄せる。
 暗闇に潜み遠くから飛来する『槍』の軌道。
「ったく、厄介だよ」
 獅門は自分を守る事よりも攻撃を優先し、相手を先に叩きのめす事で勝ち上がってきた剣鬼だ。
 こうした守りの戦いは焦れったくもある。
「まあ、守りの技術はてんで駄目だが体力はそこそこあるから壁くらいにはなるだろ」
 槍の軌道を読み、遮那に到達する寸前で己の身体を滑り込ませる獅門。
「獅門!」
「ぐ……っ、問題、無い。それより何処から撃ってきたか分かるか?」
 可能性の炎を燃やし、獅門は肩で息をする。
「ええ、貴方のお陰で大凡は分かりました」
「九時の方角に居るッス!」
 正純と鹿ノ子が槍を撃ってきた暗殺者の位置を割り出した。
 槍を撃つ前に連携する為の小さな声が聞こえたと鹿ノ子は仲間に告げる。
「そういうのは全部僕の耳には筒抜けッスよ!」
 正確な位置を狙い、風の型を取る鹿ノ子。鞘に収めた白妙剣に意識を集中させる。
 集中に集中を重ね研ぎ澄まされた剣の鞘走り。
 加速する剣尖から生み出される風の刃は夜空を駆け抜け槍を持った暗殺者を切り裂いた。
「やったっス!」
「よくやった鹿ノ子。獅門も身体を張って敵の所在を突き止めてくれて有難う。怪我は大丈夫か?」
「おう。戦いに怪我はつきもんだよ。力のある回復役も居る事だしな」
「この場は花の聖域。生きとし生ける者に陽光の祝福を――」
 タイムの陽光花が咲き誇り、戦場を優しい光で包み込む。
 仲間の傷は瞬く間に再生し綺麗になっていく。
 特に獅門を貫いた槍の傷口を集中的に治すタイム。
 タイムは剣を振るい戦場を閃く遮那の横顔を見遣り眼を細めた。
 初めて出会った時に、涙を浮かべタイムに縋ったあの小さな少年はもう居ない。
 顔つきは精悍さを増し、背丈も伸びた。神逐を乗り越えたみんなもそうだ。
「わたし達は強くなったの」
 胸元で握り絞めた手。タイムはこの戦いの勝利を祈る。

「鹿ノ子、行くぞ――!」
 遮那の風に乗って鹿ノ子が空高く舞い上がった。
 少女の身体は軽々と夜空を駆け、森の中の敵へと到達する。
「逃がさないッスよ!」
 美しく咲き誇る花の如く艶やかに。ゆらゆらと惑わす蝶の如く軽やかに。
「花の型――」
 吹雪く花吹雪は嵐となりて敵を捕えた。

「天香の忍を舐めない事ですね!」
 ルル家は敵の作戦を脳内にシミュレートする。
 敵もこちら側の事を知らないはずはない。相手を確実に殺すにはまずは調査を重ねなければリスクが大きいだろう。お庭番たる姫菱・安奈がこの場に居ないとはいえ、相手がこちらを舐めてかかる筈もない。
 ならば突破口を探っているのだろう。
 傷が残る遮那の頬を横目にルル家は敵の懐へ飛び込んだ。
 遮那が傷付くのは出来れば見たくない。けれど、過度に保護されるのを望まないだろう。
「故に忍の一字也!」
 月光に血飛沫の粒が舞う。急所を狙った痛打は再び振り降ろされた剣に重なる。
「それはそれとして拙者の遮那くんを傷つけた報いは受けて頂きますよ!」
 剣檄が群青の空に響き渡った。


 逃げて行く敵を無理に追う必要は無いと正純は視線を上げる。
「……何か分かれば後ほどで安奈さんや帝に共有しなければ」
 遮那を狙う暗殺者共が何処の派閥に属しているのか。

「ロープで縛りあげるくらいはわたしにも出来るかしら?」
 正純の隣でタイムが縄を引っ張る。
「こういうの人に任せてばっかじゃいけないよね……重っ」
 足で押さえて、背筋を使い締め上げた。
「こう……こうかな~? うん。上出来」
 しっかりと結ばれた事に満足げに頷くタイム。

「おら、こいつら死んだふりしてたぞ」
 獅門がまだ息のある暗殺者を二人ずるずると引き摺ってくる。
「いくら死んだふりをしても俺の目はごまかせない。鬼の目ってのはそういうもんだ」
 朝顔の前に暗殺者を放り出した獅門は、ロープで彼等を拘束した。
「これで少しは当主の敵が減るといいんだけどなぁ……」
「貴方達は首謀者から切り捨てられるはずです。素直に情報を教えてくれませんか?」
 朝顔は闇憑き餅を暗殺者の口の中に突っ込み思考を読み取る。
 ――当主に相応しいのは正当なる血筋である我が主。
 前当主の庇護無き今、下賤な血を排斥すべきだ。
 殺さなければ。主の為に。必ず! 必ず!!!!
 さもなくば死して詫びねばなるまい。
「あ、ダメです!」
 朝顔の制止より先に、奥歯に仕込んだ毒を噛み暗殺者達は息絶える。

 ようやく訪れたひとときの安寧。
 敵の気配も消え一同はほっと胸を撫で下ろした。
 されど、敵は外からだけではないのだ。内側にも油断できない『敵』が居る。
 イレギュラーズは一層気を引き締めなければと胸に誓った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 遮那との共闘お楽しみ頂けましたら幸いです。

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