シナリオ詳細
<Liar Break>スキンメカニック
オープニング
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幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の公演以来、混乱の続いたレカド・イルシオンだったが機転が訪れた。
民衆が暴発した『幻想蜂起』事件を解決して貴族たちに恩を売ったローレットが動き、彼らと民衆を説得することでサーカスの絶対的庇護者であった国王フォルデルマン三世を味方につけ、動かすに至ったのだ。
国王の庇護を失ったサーカス団は迫る危険を察知、即座に幻想脱出を図った。
だが、ローレットと共同戦線を張った門閥貴族たちの私兵によって国境を封じられ、サーカス団は幻想国内に釘づけされてしまう。
狭まる包囲網に焦るサーカス団と団長ジャコビ――。
いま彼らは、魔性をむき出しにして、決死の覚悟で反撃に打って出ようとしていた。
●
「やれやれ、大変なことになりましたね」
木漏れ日がまだら模様を描くテーブルの上からティーカップを持ち上げ、スキンメカニックは優雅に微笑んだ。
「私ひとりなら逃げ出すのは簡単なことです」
彼の主な仕事は破れたテントや衣装の修繕だ。そのため公演中は滅多にお呼びがかることはない。普段は自分の作品作りに勤しむ傍ら、その土地、その土地で、新しく弟子を取って指導していた。だが、人間の弟子はすぐに自滅してしまう。もっとも、彼はそのことを残念に思ったことはない。
所詮は人間、ただの暇つぶしに作った玩具だ――。
公演後の移動も『シルク・ド・マントゥール』とは別々だった。それゆえ彼とサーカス団と彼のかかわりを知る者は少ない。
「しかし、団にはそれなりに愛着がありますしね。それに、此度のことでテントの補修素材もたくさん必要になるでしょう……」
人の皮膚で作ったシガーケースからメンソールの細い髪煙草を一本取り出し、長い指の間に挟んで口に運ぶ。
形のいい唇にシガーを軽くくわえ、魔力で火をつけた。
団長ジャコビがよこした使者――大玉の上に腰かけた双子の姉妹に向けて、薄紫色の煙を薄く、細く吹きかける。
「わかりました。人間たちに『本気の呼び声』をきかせてやりましょう。もちろん、君たちも手伝ってくれますね?」
双子の姉妹はコクンと頷いた。
「ふふ、いい子たちだ。ところで私の弟子になる気は?」
双子の姉妹は力いっぱい、ブンブンと首を横に振った。
「……いい子ですが、かわいくない子たちですね。君たちは」
●
「ちょっとしたホラーショーだったらしい」
『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)はイレギュラーズを前にして依頼書から受けた不快感を隠そうともしなかった。丸眼鏡の奥の目は不穏な闇を宿している。
「村ひとつ丸ごとだ。年を取りすぎていたり、肌が穢かったりする者はさっさと殺されたが……若い女性や子供は生きたまま全身の皮膚を剥されて放置された。生きたままだぞ」
事件直後の村の光景と、生存者が受けた苦痛は想像を絶する。犯人の残酷さに震え、イレギュラーズたちは周りの空気がぎゅっと縮こまったような気がした。
「足の裏の皮膚まで剥されていたというのに、気丈にも助けを求めて隣村まで歩いた女性がいてね。それで事件が発覚したってわけだ。ま、発覚は一日そこらの違いだろうが、おかげで犯人どもを捜しあてることができた」
クルールは北の国境付近の地図をテーブルに広げると、山間部のある一点を指でトントンと叩いた。
地図にトレーゼと記されているその地点は、大きな川の真横にあった。川は国境に沿って流れている。
「現場はこの川の真横に建つ修道院だ。ここで村を襲ったサーカスの連中が修道士たちを人質に取って立てこもっている。現在、クラウス・シュタウフェンベルク伯爵の兵団が修道院の三方を包囲しているが、裏には兵を立てていない」
レカド・イルシオンの貴族である伯爵の兵はうかつに川に入ることができない。なぜなら川で国境が区切られているからだ。
「この修道院はもともと隣国との戦争時に使われていた要塞だった。平和になってから修道院に改修されたのだが、その時に川に面した壁を一部壊して水路を引き、中に船着き場を作ったらしい。サーカスの連中が押し入った時、幸いにして船は修道院になかったが……修道士が一人、脱出して貴重な情報を持ち帰ってきている」
脱出した修道士の話によると、魔種によって狂わされた多くの修道士たちが、いま、魔種の指示に従って大型カヌー作りを手伝っているという。木の骨組みに張られるのは人の皮膚――村の女や子供たちからはぎ取ったものが使われているとの事だった。
カヌーが完成し、川に出られた時点でほぼ逃亡を防ぐことは難しい。川の半分を渡れば隣国、僅かな距離だ。
「そう、そこでオレタチの出番というわけだ。多少、国境をまたいだところでお咎めはなかろうからな」
ただ、そのまま隣国内まで追って行き、討伐することはできないという。
「国と国同士の事情だ。そこは察してくれ。で、だ――」
クルールはもう一枚、テーブルの上に広げた。
「お前たちの到着と同時に、修道院の正面からシュタウフェンベルク伯爵兵が突入。大々的に攻撃を仕掛けて、連中の気を引きつける。お前たちは混乱に乗じて修道院内に潜入、サーカス団員を倒してくれ。
修道院内部に突入できるポイント三つ。
一つ目は修道士が出て来たゴミの投棄口。修道院の左横にあり、地下のゴミ処理場に続いている。
二つ目は鐘楼だ。空からしかアプローチできないが、鐘の下から梯子で修道院の礼拝堂横に降りることができる。
三つめ、水門。ただし、鉄柵が降りている。柵は中からしか上げることができないらしいが……川底そこまで届いていないんだと。つまり水中に隙間があるという話しだ。
伯爵の兵たちが魔物を追い詰めるのを待ち、水門から出て来た所を向かい撃ってもいいが、さっきも言った通り危険な賭けだ。一発で仕留めることができないならやめておけ」
三か所を同時に攻めるか、二か所にするか、それとも一か所に絞るか。それはイレギュラーズの判断に任せるという。
「サーカス団員の数だが、一体と二人だ。双子の玉乗りとシルクハットをかぶった男が一人。先生とか、スキンメカニックとか呼ばれているこいつが魔種で修道士たちを狂わせているようだな。双子の玉乗りはおそらく魔物に従属する人間だと思われる。件の修道士曰く、ナイフ捌きはすごいが、特別不思議な力を使うところは見ていない……そうだ」
最後に、とクルールは低い声で付け足した。
「修道士たちは狂気の影響を受けているが、また戻ってこられる段階にある。今回に関しては我々の活動――ノーブル・レバレッジ作戦の効果がでかい。助けられる命は助けてくれ。以上だ、吉報を待っている」
- <Liar Break>スキンメカニックLv:5以上完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年06月29日 22時46分
- 参加人数9/9人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 9 人
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参加者一覧(9人)
リプレイ
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イレギュラーズたちを乗せた小型船が河を進む。明かりは舳先に置かれた青いカンテラ一つ。
「しかし、ほんと修道院が好きですね。幻想で暗躍する人達は……」
『狐狸霧中』最上・C・狐耶(p3p004837)が、ぼんやりと薄青いもやの中に見えはじめた建物を見据えながら声を零す。
「まあ、私の宗派とはまったく無関係なのでわりとどうでもいいのですが」
とはいえ、あまりいい気分ではない。
聖域を穢すたわけは大いに祟ってやらねば、と狐耶は川面に息を落とした。
『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は亡き師の形見である銀のフルートを握りしめた。
これ以上、犠牲は増やさない。
Lumiliaは魔種と魔種の協力者を倒す決意を新たにした。
修道院とはまだかなり距離が開いていた。それにも関わらず、建物の影をしっかり捕えることができる。それだけ――。
「大きいな。元が要塞だけはある」
『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)は研究者らしく、頭の中でさっと修道院の広さを計算した。
ひときわ高く細い影へ目をやって、あれか鐘楼だなと当りをつける。河側の壁から鐘楼まで少し距離があるようだ。鐘楼と礼拝堂は隣接している。水門を壊すときに音が立ったとしても、礼拝堂にいるスキンメカニックと双子の玉乗りたちに気づかれる心配はないだろう。
「そりゃいい。水門の細工に気を使わなくて済む。徹底的にやろうぜ」
魔種の爪の欠片すらこの世界に残さないようにしよう、と『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)はさわやかに笑った。
「ああ、必ず仕留めようぜ。ここが奴の……本当の終焉の地だ」
『TS [the Seeker]』タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)は母から貰った脇差の柄にそっと触れた。
修道院の輪郭がはっきりとしてきた。朝靄を払う風に乗って、馬のいななきが小さく運ばれてくる。修道院の正門前に展開しているシュタウフェンベルク伯爵兵の軍馬だろう。
「私はそろそろ……」
『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)はカヌーの縁に腰かけると、変身を解いた。美しい人魚の尾が青いカンテラの光を受けて艶めく。
「先に行って水門を開きます」
フロウはさっと背を倒すと、ほとんど音を立てることなく入水した。そのまま水中を泳いで小型船を追い越し――舳先の青いカンテラを取って――修道院へ向かう。
突撃ラッパの音が響いた。
水草の影で休んでいた水鳥たちが一斉に飛び立つ。
「――! 始まりましたね」
『銀閃の騎士』リゲル=アークライト(p3p000442)の声は微かに昂っていた。
激しく門を叩き破る槌の音が叫び声にまじり合い、おめき声や悲鳴さえも聞こえはじめた。イレギュラーズたちの潜入を支援するため、シュタウフェンベルク伯爵兵たちが攻撃を開始したのだ。
リゲルは舵を巧みに繰って、修道院の水門の前で小型船を90度回頭させた。
フロウが水中から青いカンテラを持つ腕を上げて、船体が船着き場の石をこすらないように誘導する。
石でできた水路の壁を蒼い水が打つのが見え、その音がやけに響いて聞こえた。
「生臭い……血の匂いがする……」
『パラディススの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)は小型船を下りると、ジグからランプを借り受けた。
エトはまず、時計を取り出して時間を確かめた。カヌーが完成するまでどのぐらい時間の猶予があるかを調べるためだ。
「大丈夫。水門に細工をする時間はたっぷりあるわ」
「しかし、まあ、あまり時間をかけないようにしよう」
ジグはランプを返してもらうと、眼鏡はずしてレンズについた水滴を拭った。
水門の開閉装置は錬鉄でできたゲートのすぐそばにあった。小型船を下りたイレギュラーズたちは開閉装置を壊すために、微かに湿った石路の上を水門近くまで戻らねばならなかった。
フロウは柵を降ろすと水の中に戻り、青いカンテラで開閉装置を照らした。
「これですか。……頑丈そうですね」
「任せろ」
威降はLumiliaと場所を交代すると、開閉装置をいじって部品を抜き取った。
「念には念を入れて、針金でバッキバキに巻きつけておきましょうね。あとで困るぐらいバキバキに、ええ」
狐耶がハリガネを手に前へ進み出る。
「あっ!?」
最後に小型船を降りたリゲルが、振り返って小さく声をあげた。
「どうしたの?」、エトがと細工を施す仲間から顔を戻して聞く。
リゲルは黙って指さす先をシグがランプで照らす。
「船がどうか……あ!」
『『しおから亭』オーナーシェフ』パン・♂・ケーキ(p3p001285)が三人のところまで戻って来た。
「後で水門を壊して回収すればいい。……いや、だめか。ここに置いておくこと自体が。まさかの事態が起こってはならないしな」
パン・オスは躊躇うことなくグレートソードを小型船の底に突き刺し、穴をあけた。
あっという間に船底に水がたまり、唖然とするリゲルの目の前でゆっくりと沈んでいく。
「なに、ローレットが弁償してくれるさ。それよりもあっちを見ろ」
パン・オスは水門の反対側、礼拝堂に通じる石段――石の一つ一つがとても高い――に顎をしゃくった。
●
高く掲げたランプの明かりの中に、生首が浮かびあがった。石段の中ごろに六つ並べられている。
首にはあたかも絞首刑にされたかのごとく口—プが卷かれており、その首から頭部にかけてすっかり皮がはぎ取られていた。 恐らく、修道女たちだろう。
「なんてひどい事を」
息を呑むエトの横でリゲルが憤る。
「しかし、解らないな」
シグは指で眼鏡を押し上げた。
「石段に生首をずらりと並べたところで足止めにならないが……何か仕掛けているのか?」
「だろうな。出られるなら、入ることもできる。魔種が脱出を計画したとき、追っ手の侵入を考慮して罠を張った可能性は高い」
パン・オスはさっさと石段に向かって歩き出した。
正面の門はもとより、鐘楼にも何らかの仕掛けが施されているだろう。
しかし、魔種はゴミの投棄口から逃げることなど思いつかなかったに違いない。だからこそ、修道士が一人、逃げ出すことに成功したのだ。
「まあ、オレもついさっき気づいたんだが」
「それで、どうする」
「……あんたはどう考える?」
顎に指をあてて考えるシグの後ろに、開閉装置を壊し終えた仲間たちが集まっていた。魔種の非道を目の当たりにして、怒りと緊張で肩を盛り上がらせている。
シグはおもむろに口を開いた。
「面倒な罠を張る必要はない。ただ、侵入があったことを事前に知ることができれば、先手を取って攻撃できる。つまり、生首をどかせば警報が鳴る程度のものだろうと推測する。侵入者が生首に怖気づいて逃げだせば上出来、というところだろうか」
貴族兵たちが暗闇の中で皮を剥がれた生首を見たら、悲鳴をあげて腰を抜かしたかもしれない。仮に豪胆な者がいたとして、だ。生首をどかせて階段を上がろうものなら、扉に触れるか触れないかで魔種が放つ狂気に飲みこまれただろう。
――構わない、こっちから仕掛けよう。
低く震える仲間の怒声を押さえるように、パン・オスは手のひらを上から下へ動かした。
「落ち着け。この中に罠を調べて解除できるものは?」
誰も名乗りをあげなかった。
「そうか。なら、しかたがないな。首をどかせると同時に突入するぞ」
「私と威降さんで首をどかせます」
嫌な役回りに狐耶が手を上げた。
「警報……本当に鳴るかはともかく、知ると同時に攻撃してくるでしょうから、時間の短さから考えて扉の向こうは祭壇横にいるという魔種になるでしょう。ですら対魔種のメンバーで礼拝堂に突入してください。ね、威降さん?」
「うん? ああ、俺はそれでいいよ。パンは――」
「オレも首をどかせる。一人で二つずつ、首を腕に抱えたらすぐに脇に退くぞ」
三人が首の前に立った。対魔種のメンバーは下で二列待機した。
タツミとリゲルが盾役として先頭に並び、フルートで静寂のバラードを吹くLumiliaと二足歩行形態に戻ったフロウが続く。その後ろにシグとエトが立った。
突入の合図はタツミが取ることになった。
「用意はいいか? いくぜ……3……2……1、突撃!」
●
カウントダウンの最後で、三人は修道女たちの頭を両腕で抱え持ち、横へ飛びのいた。突撃の掛け声と同時にタツミとリゲルが階段を駆け上がる。
扉が内側から蹴り破られ、蝶番ごと吹っ飛んだ。
リゲルが抜刀とともに剣を薙ぎ、飛んできた右の扉を切り払う。タツミも持ち前の反射神経の良さを発揮して、左の扉を手のひらで受けて木っ端みじんにした。
石段の上からくすんだ菫色の闇がどっと流れ落ちてきた。
礼拝堂へ上がる前に先陣を切った二人の足が重くなる。
シグの額に液状化した魔剣「ローデッド」が浮き出て、二重魔方陣を描いた。スキンメカニックの姿は見えないが、こちらの攻撃が届くところにいるのは間違いない。原罪の叫び声をあげられる前に、封じてしまわねば。
「マッドネスセオリー・ノーマライズプレッシャー。我が理論、覆せるものなら覆してみろ」
狂気と苦痛のしわを顔に刻んだ修道士たちが、入口に立ち塞がった。
「あなたたちに問います。それが神の御心に仕える者の振る舞いですか!」
フロウが叫び声とともに全身から魔力を放出し、真ん中の修道士を圧倒する。
エトは魔導書を開き、頁から柔らかな癒光があふれ出させて菫色の闇を駆逐した。
回復したリゲルは一気に石段を登ると、右に立つ修道士に肩からぶち当たって突き飛ばした。
カヌー作りを放棄して、修道士たちがイレギュラーズの元に殺到する。
リゲルは狂気が渦巻く目に囲まれて、針や鋏で体中を突かれながら、力強く語った。
「足の皮を剥がれた女性が死ぬ気で状況を伝えに来てくれた。貴方達を救うためにだ! それに周りを見てみろ。修道女たちはどこへ行った?」
まっすぐ腕を伸ばし、司祭のごとく祭壇に立つ男たちを指さす。
「アイツに全員殺されたんだ! 目をさま――なに?!」
祭壇に修道服を着た男が三人立っていた。三人ともフードを深くかぶり、顔は影になって見えない。
「ちっ、ダミーを用意していたか?!」
タツミが怒鳴りながら、掴みかかってきた修道士の脇腹に拳を叩き込む。
「三人とも倒せ!」
石段からシグが指示を飛ばす。
祭壇に立つ男たちが同時に指を微妙に曲げると、修道士たちが手に持っていた長針や鋏、あるいは固く握った拳を出鱈目に振り回しはじめた。
「そこをどきなさい!」
フロウが気を発して威嚇するが、狂った修道士たちは引かない。それどころか、イレギュラーズたちを石段から突き落とす勢いで押しよせてくる。
「止まるな! 押し切れ!」
炎のごとく揺らめく破壊エネルギーを纏い、シグは知識の魔剣と化した。何としても、礼拝堂へ。もはや手加減など考えている場合ではない。全身で異想狂論を放つ。
修道士の壁に一筋の穴が開いた。
道を切り拓く勇者を称え鼓舞するために、Lumiliaが勇ましくも美しいメロディーを銀のフルートで奏でる。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッと空気を切り裂く音が、立て続けに聞こえたかと思うと突然、真っ先に人壁を突破したタツミとリゲルが膝を崩した。
弾む大玉に乗った双子の姉妹が笑いながら、倒れた二人に突撃する。
「私たちがお相手いたしましょう」
狐耶は一気に最前線へ出ると、魔装具――神の依代を手に舞い、速玉(イザナギ)の神力を発動させた。
「やぁ、おはよう。悪いけど、君達はここでお終い」
さわやかに笑いながら威降は剣を薙いだ。閃く水の影の如く、朝焼けの色を石床に落とすバラ窓の下を一条の白光が飛ぶ。
青のピエロ服を着た少女の片手が、血潮の飛沫と共に宙に躍った。
「――その首置いていくがいい、外道共」
威降は鋭く手首を返して首を狙った。が、これは避けられた。青いピエロ服を血で汚した少女は玉にのったまま素早く後退していく。
赤いピエロ服を着た少女がナイフを投げて、双子の妹を援護する。
「どこを狙っているのです? 貴女の相手は私ですよ」
狐耶は素早く威降の前に割り込むと、手刀で飛んできたナイフを叩き落とした。
イレギュラーズたちの背後で朗々とした声が響き渡った。
「我こそ神兆なり!」
パン・オスは傷ついた仲間たちの間を大股で通り抜けると、未来を切り開こうとしている者が持つ特有の鋭い眼光で狂った修道士たちを睥睨した。
「よく聞け、腐れ坊主ども! お前たちが信じる偽神に代わってこのパン・オスが――お仕置きよ」
美味しそうな体を捻ってポーズを取り、ふざけたウインクを飛ばす。
惚けていた修道士たちの目に怒りの炎が灯った。口から罵詈雑言と唾を飛ばし、駆けだしたパン・オスを追う。
「そうだ、オレについてこい」
パン・オスは修道士たちを統率して礼拝堂の横の扉から出ると、地下一階のごみ処理場に向った。
祭壇に立つ男たちが同時に微妙に手首を返し、三次元空間を播き乱した。因果論によって護られ整合した物理次元に狂気を発生させるべく、おぞましい波動を放つ。
(「やはり封じられなかったか……」)
もとより、めくら撃ちで当たるとは思っていなかったが。シグは気力を振り絞り、かきむしられるような狂気におちいる前にもう一度、異想狂論を放った。ロジックがかっちりと決まった手ごたえを感じつつ、床に崩れ落ちる。
狂気に抗うイレギュラーズたちを双子の玉乗りが襲う。ナイフを投げ、大玉で蹂躙する。
「きゃはははは! 狂え、狂えー。狂いながら死んでゆけ!」
「それとも人間やめて魔種に転じるか? きゃはははは」
皮肉にも双子の姉が放った一言が、タツミとリゲルの闘志を奮い起こした。タツミは姉を、リゲルは父を想い、剣を支えに震えながら立ち上がる。
「俺は、俺たちは、魔種に……特に貴様のような悪魔に負けはしない!」
「ええ、その通りです」
血と汗と恐怖の匂いが立ち込める礼拝堂に、エトの凛と澄んだ祈りの声が響いた。柔らかな光が自分と仲間が受けた傷を癒し、狂気を洗い流す。
双子の姉妹は慌ててイレギュラーズたちから距離を置いた。スキンメカニックを守るためにナイフを連続で飛ばし、イレギュラーズたちの足を止めようとする。
威降は体を張って仲間を庇った。
「だから、お前たちの相手は俺たちだっていうの」
気を巡らせてナイフ傷を塞ぎ、血を止めて戦闘を続行する。向かってきた青い大玉に全身でぶち当たった。
「セイッ!」
威降が吐の底を絞ったような声を発すると同時に、青いピエロ服を着た小さな体が風を巻いて宙に飛ぶ。
ナイフが玉乗りの指先から離れる前に、狐耶の足はすでに地面を蹴っていた。赤いピエロ服に迫ると格闘術式を発動し、目にも止まらぬ速さで拳と肘を繰りだして大玉の上から叩き落とした。
「ヤツが逃げるぞ! 用具室だ」
ゴミ処理場から駆け戻ってきたパン・オスが叫ぶ。
Lumiliaは翼を広げて飛び立つと、身代わりの男たち二人を切り伏せる騎士と武士の頭上を越え、鐘楼へ至る扉の前に回り込んだ。
継ぎあわせた菫色の皮布を手にした男――スキンメカニックの前で両腕を広げる。
「そこを退きたまえ」
「奥の手を封じられたから逃げ出すのですか。双子を見捨てて、それで空から――」
その通り。
スキンメカニックの手元で透け見えるほど薄い刃が閃いた。Lumiliaの腰から下、翼が両足の皮膚がすっぱりと切り落とされた。
パン・オスがボロボロの体を魔種の前に投げ出して逃走を阻むも、即、一刀されて倒れる。
「細切れがよかったかな、パンケーキくん?」
「……パン・オスだ」
下から睨みつけながら、体を跨ぎ越す魔種の足を掴む。
「望み通りに。キミの皮には興味がないのでね」
スキンメカニックが右腕をあげる。
「駄目っ!」
フロウはメイジワンドの頭を魔種の背へ向け、魔弾を撃ち放った。
Lumiliaが床から氷の鎖を放ち、今まさに振り下されようとしていた右腕を絡め取る。
「ええい、鬱陶しい!」
スキンメカニックは強引に右腕を振るって、用具室のドアごとパン・オスを切り刻んだ。
エトがハイヒールを発動して瀕死のパン・オスを癒す。
「逃がさない!」
リゲルは掲げた剣の先に青白く輝く光弾を作りだした。彗星のごとく放たれた光弾が、魔種の抱え持つ皮布を焼きつらぬく。
その直後、菫色の闇がイレギュラーズたちに襲い掛かった。
スキンメカニックは祭壇から飛び降りると、開け放たれたままの扉に向かった。双子の姉妹も大玉を置いて後を追いかける。
第三の脱出路に気づいたのだ。
「逃がさないと言ったぜ」
タツミが追いつき、手をかけた。とたん、魔種の右肩が爆ぜ飛ぶ。
双子の姉妹が投げたナイフを寸でかわしたタツミは、そのまま体を返して走ってきた双子の片方の胴を薙ぎ切った。
もう片方――青いピエロ服を、眼の紋様を模したシグの魔法陣が囲う。
ダメージを受けて足を止めたところで、狐耶と威降が同時に攻撃して仕留めた。
「リゲル、頼む!」
バラ窓から差し込む朝の光を浴びて、銀閃の騎士が疾駆する。
リゲルは仲間たちが放つ一斉攻撃の援護を貰ってスキンメカニックに肉薄すると、猟犬の牙の如き剣で一気呵成に首を刎ねた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
スキンメカニックと、サーカス団員・双子の玉乗り姉妹をなんとか討ち取りました。
全員ではありませんが、修道士たちも助かっています。
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
情報屋の言葉や説明に嘘はありませんが、不明点もあります。
●依頼条件
1)魔種・スキンメカニックの撃破
2)サーカス団員・双子の玉乗り姉妹の撃破
●場所と時間
・国境の川沿いに建つ修道院。
・夜明け前……突撃開始からしばらくして陽が昇ります。
●修道院
地下1階を含む二階建て。
元々、戦争時に作られた要塞。高く分厚い城壁に囲まれている。
・鐘楼……鐘の下に一人用の縦梯子がかかっており、礼拝堂の横の用具室に
降りることができる。
・水門……鉄の柵が降りているが、川底から二メートルほど、隙間がある。
船着き場は礼拝堂の真裏にある。
バラ窓の下の扉を開くと、すぐ船着き場。
※水門は中からしか開くことができない。
・ゴミの投棄口……地下一階のごみ処理場に出る。礼拝堂からは少し離れている。
●魔種、スキンメカニック/1体
シルクハットをかぶっています。
見た目の年齢は30代前半。細身。
左目の下に星型の小さなアザ?があります。
礼拝堂、祭壇横にいます。
修道士たちを操り、カヌーを作らせています。
【原罪の呼び声】……全/人を狂わせて操り、破滅的な行動を取らせます。
【スキンメカニック】……近単/透け見えるほど薄い刃で瞬時に皮膚を切り剥ぎます。
【くすんだ菫色の闇】……遠列/強い倦怠感に捕らわれ、身体能力が低下します。
●サーカス団員・双子の玉乗り姉妹/2人
原罪の呼び声のキャリアーです。
見た目の年齢は12、3才ぐらい。
赤のピエロ服が姉、青のピエロ服が妹。
大玉に乗っています。武器はナイフ。
【ナイフ投げ】……遠単/二連攻撃
【玉転がし】……近単/大玉に乗ったままぶつかってきます。
※彼女たちは説得によって洗脳が解けることはありません。
●修道士たち/20人
30代の男性がほとんど。みな痩せています。
全員ローブ姿。フードを頭に被っています。
魔物たちを守るように動きます。
【殴る】……近単
【蹴る】……近単
【刺す】……近単、手に持っている鋏や長針で刺してきます。
彼らは強く呼びかけることで、洗脳を解くことができます。
修道女もいましたが、全員殺されています。
●味方NPC
・シュタウフェンベルク伯爵兵50人が、修道院正面から攻撃を仕掛けます。
元要塞の修道院はとても堅牢で、正面門を突破するのにかなり時間がかかります。
彼らはいわば陽動部隊です。
実際に共闘する場面はないでしょう。
⚫その他
・カヌーの完成度
脱出した修道士によると、脱出時点で半分出来上がっていたそうです。
日の出前には完成するでしょう。
●MSコメント
よろしければご参加ください。お待ちしております。
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