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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>ne vivam si abis.

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●薔薇の騎士
 幻想王国を騒がせる『一連の騒動』はミーミルンド派によるものであると、幻想議会より声明が発された。
 国王フォルデルマン三世の名の下で、彼の一派の討伐令が下されたことは幻想王国の貴族ならば誰もが知る事だ。
『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディが幻想議会、元老院を動かし、挙兵したことも。
『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクが商人ギルドを保護し、国王陛下の護衛の必要性を説いている事も。
 それを三大貴族に名を連ねるアーベントロート家の令嬢、侯爵代行であるリーゼロッテ・アーベントロートが識らぬ訳があるまい。
 彼女はと言えば、幻想王国第十三騎士団――通称『薔薇十字機関』の出兵を今だ決定していないそうだ。
「――乙女の園を荒らし回る不埒な方がいらっしゃる事はご存じでしょう?」
 椅子に深く腰掛けた乙女はティーカップの中に乱雑に角砂糖を放り込んだ。それも手慰みだったのだろう。
 アーベントロート派に属する貴族達の中にも自身らの領をモンスターに荒らされたという報告が上がっている。
 それを気紛れで享楽的な乙女が是とするわけがない。そもそも彼女は『好きにするのが好き』なのであって『されるのは嫌い』なのだ。
「どうやら、『何方』の仕業かが分かったようで……。
 以前も申し上げたのですけれど……私、辱めを受けて黙っていられる性質ではございませんので」
 魔性を帯びた紅玉が細められる。僅かな苛立ちを滲ませた乙女の笑顔は、其れでも変わることはない。
「貴方達、仕事をなさいな。素敵なダンスを踊って下さいましね。
 ええ、ええ、ダンスは優雅でなくっては。私が貴方方に『お願い』するのですから。
 パーティーにはアーベントロートとして参加しなくてはなりませんのよ」
 アーベントロート派の、リーゼロッテから派遣された彼女の騎士として。
 決戦の地、ヴィーグリーズの丘へと向かわねばならないのだ。
 ――享楽的で、困った御人なお嬢様。
 それが、此度の『戦』に首を突っ込んできた『最悪』な彼女と少しばかり似ている事なんて口にしてはいけないのだから。

●享楽のアタナシア
 ヴィーグリーズの丘に吹いた初夏の風は湿った気配を感じさせる。
 なだらかな丘陵にその女は立っていた。無数の兵士の声が響いている。煩わしくも鳴る鬨の声。
 勇ましくも愉快な人々の命の取り合い。その様子を女は白けた眸で眺めて居た。
「ルクレツィアさまったら。ぼくのことがそんなに好きだなんて」
 幻想王国など、派閥など、王権など、女にとっては関係など無かった。ただ、冠位魔種の為だけに。
 彼女が『玩具』と呼んだ少年ばかりに構っているのは苛立たしいが、彼女の遊び場(エリア)である以上、拗ねているばかりではいられない。
 此処で、手柄を上げておけば彼女もリュシアンなんて言うクソガキよりも自身を愛してくれると女は信じて已まなかった。
「ああ、ルクレツィアさま。美しい御人。
 あの唇でぼくの名を呼ぶそれだけで世界が色を変えるのです! 何て幸福なのだろう!」
 戦場には似合わぬ女の叫び声。長く伸ばした銀色の髪が風に揺れている。

 ――アタナシア。

 ――アタナシア、私、とっても『怒っておりますの』よ。

 彼女が苛立ったのは『長兄』の所為なのだろう。傲慢の魔種が暗躍していると聞いて彼女は酷く乱されたように怒り狂った。
 傍観者であった筈が、わざわざ死の女神の神経を逆撫でして彼女が慈しむ子孫を横取りしたのだ。
『どうせ、命まで奪わずに爵位を失って海洋王国にでも流れるか監獄島で一生を終える程度になる』と考えていたが、その道は途絶え、此方側に転がり落ちてきたのだ。
「あんなオカマまで仲間に入れて何考えてるのさ。ぼくが居ればそれで幸せだろ……。
 大体リュシアンもクラリーチェも、ジャコビニだっけ……? そいつらもいらないんだ。こんな国、ぼくがいれば何時だって」
 そこまで呟いた女はゆっくりと天を仰いだ。
 どうせなら自分の下に『駒』を増やした方が良いか。この戦いが終わったら、此の地に領地を有しているという女魔種を誘っても良い。
 見上げた太陽のように、焔の色が美しい『強欲』な女。
 一度、彼女と出会った際には危うく燃やされかけたが、強欲の冠位が居ないのだ。駒として得ておけばルクレツィアなら喜ぶ。許可を取れば彼女の元に遊びに行かせてくれるだろう。
「けど――まだ行けないか」
 女はゆっくりと振り返った。エメラルドの眸が楽しげに細められる。
 彼女はカーテシーをし、まるで『無垢な令嬢』のような仕草を見せて友人へと話しかけるようにやけにフランクに話しかけた。
「やあ、ご機嫌よう。君たちがイレギュラーズ?
 ぼく? ぼくは『享楽』のアタナシア。……勝手に名乗っただけの呼び名だろうって。酷いなあ。
 ふふ、なら二つ名を考えてよ。何だって良いよ。ぼくに勝てたらどんな侮蔑の言葉だって受入れよう」
 女の周囲に、兵士が見える。
 死者の行列。何かを思い出したように適当に放り投げられたのはミーミルンドの家紋。
「ぼくは、今回はこっち」
 自身が敵であることを示すように女――『享楽』のアタナシアは薄い唇に赤い舌を這わせてうっとりと微笑んだ。

「――大丈夫。ぼくのほうが、君たちより強いから」

GMコメント

夏です。アーベントロートの皆さん力を貸して下さい。

●成功条件
 ・死騎士の消滅
 ・『享楽』のアタナシアの 撃破 または 撃退

 当シナリオはレイドシナリオ『<ヴィーグリーズ会戦>Nemo fortunam jure accusat.』のサポートシナリオです。
『享楽』のアタナシアを撃退することで増援を防ぐことが可能です。

●ヴィーグリーズの丘
 決戦の地。その場所からはミーミルンド男爵の姿が見えます。どうやら、アタナシアはミーミルンド男爵のサポートに訪れたようです。
 ルクレツィアの言い付けなのでしょう。ミーミルンド男爵のための増援を作成しつつ、イレギュラーズの行く手を阻む役目のようです。
 周辺に障害物はありません。戦いやすい場所です。

●エネミー
 ・『享楽』のアタナシア
 色欲魔種。冠位魔種ルクレツィアに心酔している女性。男性のような口調は彼女の騎士になろうと考えてのものでしょう。
 その称号は自称だそうです。少し巫山戯た雰囲気ですが実力者であることは確かです。
 彼女は『ネクロマンサー』であろうことが推測されます。周囲には無数の死霊騎士の姿が見られます。
 非常にEXFが高く、ネクロマンサーでありながら前線で戦う装備を有しています。魔法剣士と呼ぶのが相応しいでしょうか。

 ・死霊騎士 *初期40
 2Tに1度3体ずつ増えます。アタナシアが『やる気を失った』段階で死霊騎士の増援は停止し、彼女は戦場から離脱するようです。
 怨嗟に塗れた騎士達です。非常に好戦的で、今生きている存在を恨んでいる様子が見て取れます。
 アタナシアは『その地の怨念』などを利用して呼び出している様子であり、これらはイミルの民や幻想王国で使い捨てられた民達に騎士としての力を与えたものであろうと考えられます。
 それ故に、騎士らの戦闘能力はバラバラ。弱い者も居れば、強い者も居ます。幼い子供や老人も混ざっています。

●味方
 ・アーベントロート派騎士15名
 アーベントロート派に属する騎士です。戦場の補佐のために薔薇十字機関及びアーベントロートの騎士達は散り散りに動いている様子です。
 彼等は放置しておくと簡単に命を落とす可能性が御座いますので注意して下さい。

●士気ボーナス
 今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <ヴィーグリーズ会戦>ne vivam si abis.Lv:20以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年07月06日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

夢見 ルル家(p3p000016)
離れぬ意思
郷田 貴道(p3p000401)
喰鋭の拳
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
マルク・シリング(p3p001309)
ジェック・アーロン(p3p004755)
太陽の使者
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
ゼファー(p3p007625)
律の風
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

リプレイ


 ヴィーグリーズに戦火の気配が漂った。
 長く伸ばした銀髪を風に揺らした女は己の為に此の地を訪れるであろう『勇者』達を楽しみに待っていた。
 欲望の気配を讃えたエメラルドの眸に享楽の気配が乗る。その身を包み込んだ騎士服は華奢な女の身には余りにも似合わない。

 ――私、無遠慮に、無作法に、園を荒らし回られるのは嫌いですの。

 そう告げた困った乙女は自身の私兵のように勇者達を派遣した。彼女の銀の髪と似た色味を帯びた女の銀髪は彼女の事を思い出さずには居られない。
 リーゼロッテ様。そう彼女の名を呼んでから『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は戦場へと歩み出ると決めていた。
 そうだ、アーベントロート派であるかどうかも関係は無く、それを望んだのがリーゼロッテ・アーベントロートで有ることがオウェードにとっては重要だった。
「リーゼロッテ様と黒鉄守護の称号に誓ってッ!」
 胸に宿した幻想への誓いは、彼女の為にある。それはキルロード男爵家の一員である『noblesse oblige』ガーベラ・キルロード(p3p006172)とて同じであった。アーベントロート派に属する己が死力を尽して『お嬢様のために功績を挙げる』のだ。
「やあ」
 手を振った。まるで旧来の友人にでも鉢合わせたかのように、やけにフランクな仕草で女はその整ったかんばせに柔和な色を乗せる。
「最近は妙な連中の相手が多かったからな、魔種の相手なんていつぶりだ?」
 その姿を見るだけで魔種であることが嫌というほどに分かる。『ドラゴンスマッシャー』郷田 貴道(p3p000401)は女のことをまじまじと見遣った。
 華奢な体躯を包み込んだ騎士の正装。女が手にしているレイピアはその小さな掌によく似合う。一見すれば、『大して強くは無い』存在にも思えたが、貴道が見誤ることは無かった。
(強ぇな……)
 言葉にはせず、眼前の女が破顔している様子を双眸に収め続けるだけだ。余裕さえも感じさせる立ち居振る舞い。此方の出方を伺っているのだろうか。
「政治にゃ微塵も興味ないし正直お嬢が上に立つのはどうかと思ってるが、ミーも領地を置かせてもらってる身だ。
 ここに居るのはアーベントロート派、郷田貴道だ、ここらでお嬢に媚び売らせて貰うぜ」
「お嬢、ああ、『君たちも』誰かの為に戦うのかい? ふふ、ぼくと一緒じゃ無いか。
 ぼくも愛しきあの方のために、ここまでやって来たんだ。『お互い』仲良くしようじゃないか」
 微笑むその女のかんばせから感じるのは盲目的な恋心だった。恋する乙女のような、一方的なまでの愛情を『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は苛立ったように眺めて居た。
 彼女は『愛しきあの方』と呼んだ只の一人に己が戦果を挙げれば愛して貰えると考えているのだろう。苛立っては仕方が無い、ソレだけでは駄目だという事を痛いほどに知っているレジーナにとって何の惑いも無く愛し続ける彼女がドウシテも許容できない存在だったのだ。
「生きて帰れたら『超絶美少女のルル家ちゃんに負けた』アタナシアと名乗ると良いですよ!」
 揶揄うような声音で『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)はそう行った。『享楽』との通り名は己が名乗った物だと囁けば、彼女は可笑しそうに笑うのだ。
「『超絶美少女のルル家ちゃんに負けた』か――君も困ったものだね。
 ぼくの事が愛おしくって、僕に君の名を覚えて欲しいと、そういうことだろう?」
 そうじゃないと否定する暇も合えた得ず悦に浸ったアタナシア。
「享楽さん? 随分と楽しそうなお名前ね」と微笑む『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)にも「素敵な名前だろう」と彼女は笑みを零す。
 何処までも、余裕を滲ませた彼女に警戒を解かぬまま『青嵐』ゼファー(p3p007625)は身の丈ほどの一振りをそっと構えた。
「大層な名前をお持ちですこと。誰がそんな名前をプレゼントしてくれたのかしら?」
「Athanasia」
 Athanasia――不滅。そう意味された言葉が彼女の能力そのものだというのだろう。その厳かにも『過ぎる』名を欲しいままにした女は「アーシャ、アーティ、好きに呼んでくれて構わないよ」と友人に語りかけるように微笑んだ。
「さあ、そうやって呼ぶ機会が来るかしら?」
「来てほしいものだけれど。友人は多い方が良いから――ねっ?」
 微笑んだアタナシアの背後にぞろりと死霊の軍勢が見える。それは怨嗟に塗れた姿であった。イミルの民の血を引いた者、幻想王国で使い捨てられた民達。この国を恨みながら死んでった彼等を騎士として力を与えた存在だったのだろう。
「どうだい? ぼくの友人たちさ。死霊騎士と呼んでおくれよ」
 ぞろりと揃った軍勢。軍靴の音が響く。
 アタナシアは、その総司令官を気取ったように微笑んで居た。『神翼の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)の感じた苛立ちなど、知らぬとでも言うような。
「死霊騎士、ね……死者を貶める魔種って、どうしてこんなに多いんだろう。生死観の違いか、人種の違いか。いずれにせよ――馬鹿にしてる」
 立った苛立つ気配。ジェックの鴇色の眸をまじまじとの見詰めていたアタナシアは「んー」と唇を尖らせて首を傾いだ。
「君にとって、死者とは触れるべからずなのだろうか。ああ、それも仕方が無いね。けれども僕は『Athanasia(不滅)』
 その名を冠したからには、この怒りに溢れ、やりきれなかったと悔む心を救ってやりたいと――そう、尊厳を重視したのさ!」
 馬鹿にしている。
 そうとしか感じられない屍繰りの女にジェックは唇を噛んだ。
「ねえ、『享楽』さん。ダンスはお得意?」
 そっと、ヴィリスは問うた。ドレスより覗いた剣靴。プリマ・ドンナとして堂々と、乙女は鈍色の髪を揺らがせた。
「今の私もとっても楽しいの。こうやって自由になれたんだもの! だからここで終わるわけにはいかないわ――さぁ、踊りましょう」
 この夕日が落ちるまで。
 ヴィーグリーズを飾った『月』の気配が欠けるまで!


 ぞろぞろと姿を現す死霊騎士達の前でアーベントロートの騎士は驚くように仰け反った。無より現われた異形達。其れ等は、歴とした恐怖の象徴だ、
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は彼等を護る様にゆっくりと前へと進む。
「我ラ 不倒 大樹ナリ」
 的の主力であるアタナシア。彼女相手に堂々と戦いを挑むことでアーベントロートの騎士を鼓舞したい。主力を抑える任を担う事となるフリークライは自身の背中そのもので、彼等に示したいのだとそう語る。
「敵の数が多い。判断を誤れば崩れるね」
 冷静に、戦況を見極めて。戦略は常にネリ続けねばならないか。統率を担うマルク・シリング(p3p001309)はアーベントロートの騎士の動揺を払うべく声を張り上げた。
「皆、僕を中心に集まって隊を組んでくれ!」
 集まれるだけで良い。集団を作り、相対することを狙ってのことだ。息を飲み、頷く。アタナシアが此方を見て笑っているのは余裕だろうか。
 その表情さえも気に食わないがジェックは堪えるようにヴィリスへと目配せした。そして、彼女が地を蹴り飛び込んでゆく。
「舞台の幕は上がったわ! 最高を魅せてあげる!」
 これがこの戦いでのファーストステップ。躍る様に視線を合わせ、そして一歩。ヴィリスと共に前へと飛び込んだのはフリークライ。
 息を合わせる貴道とゼファーは勢い良くアタナシアの眼前へと飛び込んだ。
「ヘイ、笑ってられるのは何時までだろうな?」
「乙女は優雅に微笑んでこそだろう?」
 貴道が一気に肉薄する。アタナシアは適当な間合いに踏み込むように剣を突き出した――が、ノーモーションで打ち込んだ変則カウンター。飛び込んできたそれにアタナシアは直ぐさまにレイピアを振り下ろす。
 貴道に咄嗟に反応した女の目がぎょろりと動いた。喰らい付くが如く、ゼファーは完全なる自由を得た己の身を勢いよく前線へと飛び込んだ。
『ブレ』た。流れるような銀の髪。多重にも動きを残した速度と共に強欲な心は幾重にも攻撃を重ねたいと願うかの如く。
「余所見はいけないわ?」
「熱烈だね」
 一瞥だけ。視線が交わったことに気付いてゼファーが地を蹴る。槍の穂先がレイピアと重なった。がら空きとなった右側、貴道の拳が打ち立てられる。
 ヴィーグリーズの野を踏み締めた脚が僅かに埋まったが直ぐに跳ね上がった女によって土が宙を舞う。
「ぼくと戦いたかったのか。ふふ、友人関係には拳で語り合うのも必要だとそう言いたいんだね?」
「フレンドになんざ為るつもりはねえ!」
「……ツレない」
 拗ねたようにアタナシアは唇を尖らせた。彼女の意識を此方に向けられているだけで良い。
 ゼファーは、何も持たない只の少女であれども、愛と自由を謳う『愚かな彼女』とはまるで違う、誰かの為と手を伸ばす。長い腕が振り回した槍がアタナシアの前髪を掠る。僅かに散った前髪を気にするように手をやったアタナシアにゼファーは獰猛な獣のように笑って見せた。
「よっぽどご主人様にお熱みたいね。熱すぎてちょいと火傷しないか心配だわ?」
「ぼくに火傷してよ、レディー」
 アタナシアの剣が、ゼファーの肌を擦った。傷口に毒を塗りつけるような執拗な仕草。だが――「ン。フリック ヒーラー」
 後方より、花を背負いしフリークライは静かな声音で行った。二つの日記帳を手に、フリークライは一時の幻で傷を失せさせる。
「アタナシア 抑エル 攻メル 仲間 支エル 維持 HPAPBS 回復 回復 回復 アタナシア 好キニ サセナイ」
 それが戦うための気力を与えるだけであろうとも、それだけでいい。僅かな翼でも、仲間が前へ向けて走ることを知っているからだ。
 言葉少なく、墓守は神秘探求を行う如く魔力を遊ばせる。後方へと下がったヴィリスを確認してから貴道とゼファーを支えるフリークライはアタナシアのそのエメラルドの双眸が此方を見ていることに気付いた。
「君は、ヒーラーか。そうか」
 フリークライが錆付いた人形のようにゆっくりとした仕草で顔を上げた。女が笑っている。まるで、獲物を定めたかのような顔をして。


 作戦は単純明快、『良い感じ』に死霊を削って『良い感じ』に倒すことである。アタナシアの生み出した死霊達。怨嗟に塗れた騎士達は中央で朗々と歌い上げる享楽の乙女を補佐するように動き回っている。
「無念のうちに死んだ相手を叩くのは気分よくありませんが……!」
 其れ等が、幻想王国の闇である事に気付いていても『リズちゃんのお願い』を無碍には出来まい。そして、彼女は魔種だ。此処で野放しにしても良い事は何もないのだ。
 伽藍堂の眸に埋め込まれた鴉天狗の眼球。どろりと溢れ出すような虚無の波動は妖の気配を孕み緑の波動を生み出した。
 ルル家が放った波動に飲まれ、死霊騎士がその足を止める。

 ――カード:リリース 終末と退廃の魔女。

「姿をお見せなさい! 魔女の眷族が一柱……スピリット・オヴ・シーホース」
 レジーナは堂々と叫んだ。姿を現した馬は化物染みたかんばせをしていた。地を蹴り上げ、ずんずんと進み続ける。
 馬上より兵の劣勢を見つける鳥の鳴き声を聞く。指先が手繰った霊魂の気配。
「――此方よ!」
 偽・天乖鍵は贋作であれども『箱庭』には大きな影響をもたらしたものだ。それならば、効果を与えられるはずだ、と。
「我(わたし)も勇者の一角、お嬢様に認められた存在よ? 見逃して貰っては困るわ。
 さあ、リーゼロッテ・アーベントロートお嬢様の名の元に集まったのならば、怨念程度に膝を屈するなんて事はないでしょう?
 こんな小娘の言葉に従うのが業腹と言うならば、せめてその命お嬢様の為に無駄にする事なきよう」
 堂々と。レジーナはそう叫んだ。パフォーマンスの如く飛び込んだのは黒き波動。まるで総てを飲み喰らうが如くレジーナの生み出す牙が飲み喰らう。
「リーゼロッテ様のご命令とあれば、このキルロード男爵家が長女、ガーベラ・キルロード……死力を尽くして任務を遂行致しますわ」
 アタナシアが『誰ぞの為か』と告げた言葉にガーベラは惑うこと無く返した。それはガーベラ・キルロード男爵令嬢としての意地だ。
「ええ、それに私も怒ってますの……お相手の方が死者の民達を『騎士』としてるとか。
 死してなお辱められるとはこの事ですわ……使役されてる民達の為にもこの戦い……負けられませんわ」
「いいや、レディー・ガーベラ。彼等は戦う力も持たぬ負け犬に過ぎなかった。
 だからこそ! そう、だからこそだ! ぼくは力を与えたのさ。彼等の怨嗟に見合う力を! 復讐への手助けを!」
 貴道とゼファーを相手取り、フリークライの支援を受けた二人を相手にしながらも軽妙な口は良く回る。名を呼ばれたガーベラは強く彼女を睨め付けた。
「レディーと呼ばれる筋合いは御座いませんが。享楽だか何か知りませんが……騎士の矜持も持たない者に負けませんわ」
「ぼくにとっては等しくレディーさ。ああ、プリンセスの方が良かったかい?」
 揶揄わないで下さいませ、と。ガーベラは低い声音でそう言った。その体を飛び込ませたのは死霊騎士に押される側となっていた騎士達だ。
 アーベントロート。その紋章を冠する騎士達の眼前へとその身を滑らせる。高潔の盾に騎士の剣ががつんとぶつかった。庇うための躯は、一つでも両の手がある意味を彼女は知っていた。
「ッ――」
 怨嗟が響く。唸る声が身を包む。その声音を聞きながら、ジェックはゆっくりと『完璧なる』ロスト・ワールドをそのかんばせへと添えた。
 願掛けの必要だって無い。世界の残滓は心を落ち着かせてくれる。息を飲み、強欲を冠した狙撃銃を構え――
 見通し、放つ。
 弾丸は出鱈目に飛び交った。天空の下、弾丸が突如として意志を持ったように跳ね回る。それこそが一個の命であるかのような。
「グオオオ――!」
 唸り声。その声に畏れ慄く兵達を叱咤してマルクは頌歌を口遊む。エポードスは結ぶ。
「死霊騎士の姿形に惑わされるな! 弄ばれる死者を救うには、倒すしか無い!」
 命の法衣がはためいた。死を遠ざける者、己をそう自認して。アンムネジアワンドの先に乗せられた輝きは救済の歌となる。
 前線を駆けたレジーナを支える癒し。死霊騎士とアーベントロート派の騎士達を戦況広報から見定めるマルクへとオウェードが「どうじゃ」と声を掛けた。
「アタナシア。態度こそは高慢で度し難い存在だと認識していたけれど技量も伴っているように感じるね」
「成程……流石はリーゼロッテ様がワシらを直接呼び付けるだけの相手と……」
 オウェードは息を飲んだ。マルクは戦線をどうにか押し上げる策を探していた。アタナシア――そう名乗った女の前で控えたいのは『人死に』だ。
 回復役を二手に分け、出来る限り戦線を瓦解せぬように、そして『新たな死霊』を増やさぬようにと努力を続ける。いざとなれば最終手段に戦乙女の加護を齎すことの出来るガーベラも頼りの綱だ。
(オウェードさんには騎士を総て此方へと集めて貰う……レジーナさんにもだ。
 全員が集まれば、少なくとも無駄に人命を失う可能性は薄くなる。それだけでも『彼女にとっては不満足』の結果になる筈だ……!)
 戦場見通すマルクの傍らから、オウェードが飛び出した。乱戦状態だ。『黒鉄守護』と呼ばれた己の声を、そして戦場を見通す眸が的確に彼等を誘うことが出来ると走る。
 亡霊がオウェードへと剣を叩き付ける。片手斧の刃が僅かに零れるが気にすることは無い。
「オオオ――!」
 オウェードは叫んだ。剣を逆に押し込み、不滅の意思で強烈に己を修復する。強靱なる肉体を活かしずんずんと進み往く。
 楽しげに笑い続けるアタナシアを任せていられる味方がいることが幸福だ。戦線を瓦解させぬ為にガーベラとヴィリスを要請する。
 司令官であるマルクに背中は任せた。何よりも愛する彼女の為だ、此処で負けるわけには行かぬとオウェードは踏み込んで。
「リーゼロッテ様の為……ッ!」
 ジェックの放った弾丸は死霊騎士達を退けるが為に広がっていく。その陣から一度後退したレジーナは鋭い勢いでその身を滑り込ませた。
「見縊っては困るわ?」
 享楽的にも微笑んで。戦線を支えるオウェードの背の向こう寄り一撃を放つ。
 戦線を支え続けるオウェード、そしてその眼前へと弾丸を放ったジェック。縦横無尽に踊り続けるヴィリスはリズムを崩すことは無い。
「さぁ、騎士様たち。ここが正念場よ。ここまで来たらみんなで笑って帰りましょう。
 ええ、みんなで帰るのよ。こんなところで終わっていいはずがないもの――私の人生という舞台はまだまだ続くのよ!」
 この舞台はどれ程に悍ましい怨念が渦巻くか。ヴィリスはそれでもまだまだ終わりは遠いと微笑んだ。
 ステップ、そしてその体を捻る。ヴィリスがリズミカルにその地を後にすれば追い縋る怨霊をジェックの弾丸が打ち倒す。
 騎士達を襲おうと手を伸ばす死霊を受け止めてオウェードは唸った。
「オオオ……! リーゼロッテ様の為、此処は行かせん……ッ!」
 己こそ黒き守護者。青薔薇に集いし者の命を守るが為に。レジーナは微笑んだ。
 ああ、そうだ。総ては愛しきあの人の為――だからこそ、『愛を貰えると思った彼女』が妬ましい。
 似たもの同士の自己嫌悪。八つ当たりだと笑う勿れ。乙女の心(どく)は恐ろしいのだから!


「ぼくは君のことが気になるんだ。ヒーラーくん?」
「我 墓守。我 死ヲ守ル者。民達ノ死 取リ戻ス。返シテモラウゾ」
「――ああ、そうか。君はぼくが嫌いなのか! ぼくはとっても好きだよ?」
 揶揄い笑ったその声にフリークライは耳を貸さない。無縁遺灰を身に纏う。瑞花の気配が紫電の魔石を輝かせた。
 福音が前線でアタナシアを攻撃し続ける貴道を包み込んだ。
「余所見か?」
「君はぼくだけを見てくれているだろう? ――っと、」
 そして、叩き付ける。一撃一撃に総ての意味がある。無駄など無い。
 貴道は我闘う、故に我在りとその戦い様で示していた。往くは修羅道。望むは苦難。仏に会っては仏を喰らい、鬼に会っては鬼を討つ。死闘こそ、我が生涯なり。
 ならばこそ、アタナシアにに叩き付けた餓狼の拳に確かな感覚を覚えたのだから騎士を鼓舞せねば為らない。
 己の背中を見て、騎士が憑いてくることを望み灼けた喉に声を宿す。
「ヘイ、どうしたブラザー? ユー達そんなもんなのかい? へばったのかい? やる気あんのかい? ま、ミーが居れば問題ないがなHAHAHA!」
 にい、と笑った。
 貴道が攻め立てる。アタナシアの余裕の笑顔などさっさと崩してしまいたいと願うかのように。
「躾けのなってないバカ犬ですこと。もっと淑やかでなくちゃあ、ご主人様に見向いて貰えなくてよ?」
「ふふ、ぼくのご主人様は『バカ犬』の方が好きなのさ。どうしてか分かるかい?
 手懐けられる女なんて、可愛いだけで何の魅力も無いだろう! バカな子程可愛いなんて、『彼女のような女じゃなきゃ思わない!』」
 何とも捻じ曲がった女だとゼファーは呟いた。こう言う女の仮面を剥がす事ほど面白い事は無いというのに。
 彼女は何時までも『不滅』を掲げて笑い続ける。『享楽』を関するアタナシア。そんな厳かにも程のある名前の女が地を蹴った。
 まずは一歩、それを食い止めたのは貴道。身を捻るように行く手を遮れば腕に突き刺さったレイピアが引かれる。
「うん、君の血液(ワイン)の味わいはどうかな?」
「……悪趣味め!」
 罵ろうとも響かないか。魔種である女は剣へと魔力を乗せて攻撃を叩き込む。彼女も『知能のある敵』だ。フリークライに狙いを定めていることは分かった。
 フリークライは響き渡っているアタナシアの声など利く耳も持たない。不倒の大樹であると己を位置付ける。
 主力を抑える自身らが健在であれば騎士達は、仲間を信じてマルクの元に集うはずだ。フリークライは後方を確認する。
 遊撃を行うガーベラやヴィリス、ルル家とジェック。その陣の中を走るオウェードとレジーナはマルクの元へと兵士を誘い、救い続けた。
 回復手であり、そして司令塔であるマルクの指示は死霊の軍勢を抑えるようにと声を掛けている。
「アタナシア 好キニ サセナイ」
 堂々とそう言ったフリークライは維持する為に立っていた。その身体に僅かな亀裂が走る。だが青龍の加護の如く緑が芽吹き花咲いた。
 可能性は、その身体を支え続ける。輪廻の花は己のことも生かし続ける。おかえりなさいと、いらっしゃいを告げるために。枯れるわけには行かぬとでも言うように。
「此処に巡った大勝負の機、此れを逃すは拳士の恥なりと識ったわ! ――今こそ不滅を破る時! さあ、いざ参る!」
 支える人が居る。そして、その福音が包み込んだ己の躯で邁進する。それが強欲だというならばそれさえも飲み干してやろう。
 ゼファーは距離を詰める。まだ死霊騎士を抑える仲間は合流しないか。だが、押している。数は減っているはずだ。供給されようとも、崩す事でチャンスは巡る。
「不滅(アタナシア)、決して変わることの無き事は貴女の与える命だけではないのよ? お分かりかしら」
「ああ、レディー! 君の不変を教えてくれ?」
 天が指し示すもの、ありとあらゆる此の世の定め。其れには確かな摂理と秩序があり、全てには理由がある。
 それこそが、不変。
 空舞う速さを。飽くことなき、求め続ける獣の獰猛さを。女は身に纏った。加速したその体を掠めた剣先が頬に傷を作る。朱花舞えども気も止めず。
 ゼファーは放つ。
「『見えて』らっしゃる?」
「君の美しい瞳のことを?」
「――よく言うわ」
 ぎん、と音を立てて槍を受け止められた。だが、ソレで終わりではないとゼファーは勢いよく槍を引く。姿勢を崩したアタナシアへと貴道が飛び付いた。
 叩き込む。だが、それだけでは届かないか。眼前が紅に染まる。それでも、貴道は躯をバネのように跳ねさせて飛びかかった。
 そんな事でノックアウトされる程、柔な男では無い。
「ファッキン!」
「ふふ、素敵な言葉をありがとう」
 アタナシアへと叩き付けた拳を細剣が受け止める。その衝撃か、氷の如き繊細さを持ったレイピアが折れる。チャンスかと貴道は再度飛び込んだ。
 死霊騎士が彼女の前へと姿を現し、貴道を押し止める。
「ぼくってば、これだけ求められると興奮してしまうな」
 その様子を双眸に映したマルクが「ジェックさん!」と叫んだ。
 後方より飛び込んだのは弾丸。飛ぶ、宙を切り裂き――神翼の勇者と呼ばれた女のキル・プロビデンスが見通す。
 すべては神の配慮によって起こっている証左の如く、弾丸がアタナシアの肩を撃ち抜いた。
 その反動に右肩が多いに逸れる。貴道を狙おうとした折れたレイピアが死霊騎士を掠めた。

「――アタシの事も忘れなく」

 唇を吊り上げた。だが、狙いは逸れたのだ。己の美しさばかりを掲げた女だ。彼女の顔を狙い撃てば意識を向けることは容易だろう。
 膝を突いた貴道を庇い、擦れ違うようにルル家が飛び込む。満身創痍であるのはゼファーも同じか。
 アタナシアは未だにフリークライを見て居た。それも、詰らなさそうな目をしてだ。
(――やはり騎士を巻き込んで此方を撤退させるつもりだったか……。これなら、彼女を撤退に追い込むことは可能だ。それ以上も……!)
 マルクの視線と意図を受け止め、ルル家は勢いよく飛び込む。此の儘、アタナシアを自身らに釘付けにすれば良いのだ。
 フリークライばかりに攻撃を重ねられたのは困ったものだが、その癒しを重要視されていることは悪いことではない。
 騎士を先導し、ガーベラとヴィリスが遊撃し続ける中、マルクは僅かに急いて居た。何方に勝利を示す賽の目が転がるか――


「先程拙者達より強いと仰っておりましたが……そういう事は勝ってから言わないと格好悪いですよ!」
 アタナシアの元へと滑り込んだルル家に、女は不思議そうな顔をして行った。
「ぼくは一人だ。君たちは? 一人きりでぼくと戦っている? 群れを作っている。
 なら最初から答えは決まっているよ。ぼくの方が強いんだ。君たちよりずっと。……けれど、許すよ。ぼくも何も君たちを虐めたいわけじゃ無いからさ」
「屁理屈!」
 ルル家は叫んだ。魔種で有る以上、彼女が強いことは当たり前だ。だが、それを子供じみた理由を付けて強いのだと言い続けるのは余りにも陳腐が過ぎる。
「ですが、この程度ですか。成程、これなら『色欲』もタカが知れていますね!」
「君は――ああ、……愛しきルクレツィアさまを馬鹿にしたのかい?
 生かしてはおけない。ああ、そうだね。『炎の魔種』なんて迎えに行っている暇も無い。ぼくはローレットを壊さなくっちゃならないじゃないか」
 ぞう、と背筋に気配が走る。ルル家んは宇宙力を炸裂させた。
 限界なんて、気にしている暇なんて無い。疾く駆けろ。疾く進め。
『真珠』の煌めきよ、不滅など打ち破り――ルル家の躯が地へと叩き付けられた。だが、その切っ先は女の腹を確かに裂いた。
「ふふ、いたぁい」
 睦言でも囁くような甘い声音に、乗せられた明確な殺意。ルル家を狙うその一撃を決死の覚悟で受け止めたのはゼファー。
「ッ、本当にお喋りね。あまり喋りすぎる女は嫌われるわよ?」
 その躯が弾かれるように叩き付けられる。だが、レジーナは直ぐさまに戦場を駆け抜ける。ガーベラは戦乙女の呼び声で邪悪を払い、果報たる『鍬』を構える。
「私どもは誇り高きアーベントロートの騎士。死して尚も魔種に弄ばれる民を救いたいと願うもの……。
 これ以上の狼藉、このキルロード家が長女、ガーベラが許しませんわ! 覚悟をなさいませ!」
 堅牢なる女の高らかな宣言。騎士達は背後で死霊騎士を抑え続けている。此の儘だ、進めば良い。
「目指すのは撃退じゃない、今この場所での『撃破』だ!」
 マルクはそう叫んだ。アタナシアが押し切れない。強い、それは確かだ。
 これだけの軍勢を自在に操っている――だが、それでも彼女には傷を負わせることが叶った。
 アタナシアを抑えに回り続けたゼファーと貴道、そして支えていたフリークライも健闘した。
 ならば、後は騎士を抑えて畳み掛けるだけだ。ヴィリスは剣戟を聞きながら舞うように脚を振り上げた。
「私は自由が好きなの。でも貴女を自由にさせるわけにはいかないのよ!」
 踊る。シックなドレスを振り乱すように、プリマ・ドンナは堂々と。
 騎士達を支えながら、其れ等を護るオウェードはレジーナ様と名を呼んだ。美しい銀髪の娘は「分かっているわ!」と声を張り上げる。
 戦線を維持し続ける。ヴィリスとガーベラは状況を見定めマルクの指示を受けてアタナシアを対処する。
 ジェックとルル家は死霊騎士の陣に手を加え続けるアタナシアを狙い続けていた。
「怯むな!」
 ジェックは叫んだ。騎士達は『死霊騎士』にトドメを刺すことにさえ躊躇うか。それが人の命を奪う事になるからか。それとも、死霊の無念を思ってか。
 だが、ジェックの弾丸は跳ねる。アタナシアへの道を開くために無数に。
「アタシ達がやらなきゃ、一体誰が彼らに安眠を与えるの」
 空間を縦横無尽に走り回る弾丸の中をずんずんと抜けたルル家は「マルク殿!」と名を呼んだ。
「ああ! こちらは大丈夫だ。レジーナさん、頼んだよ!」
「ええ。我(わたし)に任せて頂戴。お嬢様の命を我(わたし)は決して破らない。
 此の地はアーベントロートが勝利を収めます!」
 馬を走らせ逃げに徹し、そして騎士を畳み込む。アタナシアへと感じた苛立ちを騎士達へとぶつけ続けるレジーナに続きオウェードは「進め!」と叫んだ。
 求めるのは躯の強さでは無い。心の強さだ。此処で勝利を収めるという確かな感覚を。
 マルクは拮抗状態を保ち、目映い光を放ちながらも仲間達を支援し続けた。此の儘、畳み込む。
 何が不滅だ。
 何が――
 マルクは身命を賭してでもと極めては快適な魔力を走らせた。アタナシアは避けきることは叶わない。
 エメラルドの瞳が、青年を睨め付けて細められる。「楽しいね」とでも囁くような幸福に染まって。
「ああ! 満足したよ!
 君たちは素晴らしい。ふふ、このぼくに喰らい付いてくる。此程に嬉しい事は無い。ねえ?」
 アタナシアは地を蹴った。跳ね上がった女を追い縋るようにヴィリスのエペ・ポワントは軽やかに踊る。
 リベルテ・チュチュ――自由に踊って、美しく優雅な私。躍動的に、踊り狂うは“瞬きのタランテラ”。
「この舞台はここで終わり。貴女はここで閉幕よ、アタナシア」
「いいや、まださ、レディー。
 ぼくの総ては未だヴェールの中。知っているだろう、乙女にはひみつは多ければ多い方が良いのだから」
 唇に乗せられたその気配。ヴィリスの指先をぐ、と引いてアタナシアは至近距離で笑う。
 エメラルドの瞳が、隠された乙女の眼帯を射貫くように見詰めて細められた。
「――だが、今日は幕引きしよう」
「簡単に『幕引き』できると思わないで!」
 弾丸から逃れるというのか。ジェックは直ぐ様に弾丸を放つ。そのかんばせを狙い、意識を引くように。
 ひゅ、と風を切る音。エメラルドの瞳が見開かれ――
 女の左耳を吹き飛ばす。ばちん、と音を立て朱色が舞い散った。
「アアアッ」
 鋭い女の声、そして重なるように地を踏み締めた音。ばちん、と音を立てて叩き付けられたのはガーベラか。
「くっ――!」
 盾を頼りに再度立ち上がる。だが、もう一度攻撃を届ける前にガーベラは気付いた。
 エメラルドの瞳には先程までの好戦的な色は無い。茫然と立ち竦んだ女は銀の髪を赤く染め上げて、ぼんやりと落ちた己の耳朶を眺めて居る。
「ふ、」
 僅かな呼吸音。微かながら感じられた笑気。
 ガーベラは意味さえ分からないものを見たように鍬を構え、じりじりと後退した。
「ふ、ふふ、うふふふふふふふふ。
 ふふ、あははっ! ああ……ぼくは、君たちが丁寧に拾い上げた騎士(かれ)らをさっさと此の地の肥やしにしようと思ったのだけれどね。
 ソレさえ出来ずに、時ばかりが引き延ばされた。ああ、良き時間だったよ。余りにも嬉しくて……ふふ、昂ぶってしまったよ」
 女の赤い舌がちろりと覗いた。恍惚の笑みを浮かべたその女の視線を受け止めて、ルル家はゆっくりと立ち上がる。
「ッ――約束は、覚えてますね」
 言葉を吐くにも苦しいほどの。それでも一矢報いて遣らんと言わんばかりのルル家にアタナシアは微笑んだ。
「『超絶美少女のルル家ちゃんが健闘した』アタナシアと名乗っておこうかな? レディー。
 それでは、幕引きだ。今日のぼくは聞き分けが良いのさ。それじゃあ、また。……いつだって、ぼくは君たちを愛しに来るよ」
 ヴィーグリーズの喧噪が、さあ、と引く。
 振り仰げば幾つもの戦場から戦火の気配が消え失せた。彼女は、ベルナール・フォン・ミーミルンドを支援するために現われたと聞いている。
『支援』を行う理由を失ったのか、それとも――
 理由は変わらないが、イレギュラーズがこの戦線を支えきったことには変わりない。
「ゆ、勇者様」
 呼び掛ける騎士を振り返ってからガーベラは「今は唯、勝利を喜びましょう」と堂々と言った。此の地を任せると告げた『お嬢様』に歓びの言葉を伝えるために。
 此の地は、戦をよく知っている。
 ヴィーグリーズに漂った死霊の気配は薄れ、残されたのは遠巻きに見えた鮮やかな夕日だけだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

郷田 貴道(p3p000401)[重傷]
喰鋭の拳
ガーベラ・キルロード(p3p006172)[重傷]
noblesse oblige
ゼファー(p3p007625)[重傷]
律の風
フリークライ(p3p008595)[重傷]
水月花の墓守

あとがき

 お疲れ様でした。散らばっている騎士をその場で殺して此方の手駒にしてやるぜ!と思ったんですが目論見が外れました。
 これも、全員生存を心がけ、闘った皆さんの成果です。
 アタナシアを倒しきることは叶いませんでしたが彼女は此の儘では押し切られるだろうと感じて後退することを決めました。
 またお会いしましょうね。

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