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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>フロンティエールに喝采あれ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●frontiere
 ヴィーグリーズの丘――幻想中部に存在する広大なその場所に『フロンティエール』は存在した。
 なだらかな丘陵を望むその場所は嘗て、古代獣を追い払うが為に人々が死闘を繰り広げたという逸話が残されている。
 赫々と燃え上がる夕日を望む事ができるヴィーグリーズに、紅鏡の力を得ることが出来ると戦士達は士気を向上させた。
 その逸話を有するその地に――彼等はいた。

「ご覧よ、アシル! 我らの味方をする紅鏡があれ程に美しい。
 ミーミルンドの勝利への前祝いだろう! 誉れ高きレガド・イルシオンを泥船とした奴等を屠らねばならない!」
「……ロバン、そう簡単に勝てるだろうか……。
 ほら、遠くに見えるだろ。奴等だ。イレギュラーズと騎士団だ。嘘ばかりの正義を掲げた奴らが来るぞ……」
 一方の青年は赤毛を揺らした騎士然としていた。代々の教えである槍術が彼を戦場へと駆り立てた。
 もう一方の青年は淡いエメラルドの瞳を揺らがせた魔術士であった。フードを目深に被り俯いてはそろそろと眼下の景色指さした。
 初夏の風に揺らがされた夏草は青々と茂っている。フロンティエールで『獲物』を待ち構える狩人のように二人は息を潜めた。
「アシル、不安がるなよ。俺達だけじゃない。巨人も、我が家の騎士達もたんまり居る。
 それに、ミーミルンド男爵が言っていたじゃないか! 我らには王権の象徴たる角笛がある。尊き血を持った子供も居るらしい。
 何方が正しいか何て、それだけで分かりきってる。……殺すのが厭なら、奴等の目を覚まさせてやれば良いだけだ」
「……そうは言っても、奴等だって有象無象だと聞いていても歴戦の英雄……勇者なんだろう? ああ、ほら……来た!」
 アシルが頭を抱えればロバンはからからと笑った。二人は幼馴染みである。ジャンメール家の三男であるロバンは家門を代表して前線を任された。
 全てはミーミルンド派が勝利するためだ。腐敗した国政を正す為には必要であるとアシルはロバンと共にフロンティエールへと訪れたのだ。
「さあ、アシル! 根比べだ!
 ――偉大なる叡智、ミーミルンド家に喝采を! 我等に勝利の栄光があらんことを!」

●introduction
「開戦だ。ちょっと、聞いてってくれる?」
『サブカルチャー』山田・雪風 (p3n000024)はイレギュラーズに向き直った。柘榴の瞳には僅かな焦燥が滲む。
 テーブルに広げた地図は幻想王国の中部、ヴィーグリーズの丘を中心としたものだ。彼はその程近い位置へと鉛筆で印をつける。
「ここ。フロンティエールは古代獣を追い払うために、豪族クラウディウスの民が戦ったという逸話が残されてるんだ。
 紅鏡――つまり、太陽の事――の輝きが戦士達に力を与えた、とも言伝えられてるそんな場所。まあ、戦記物のアニメには付き物の場所」
 僅かに茶化す様にそう言った雪風はそっと息を潜める。
 これまで幻想王国では様々な事件が行われていた奴隷市。その影に潜みレガリアの盗難、破壊された町に、魔物の大量発生。
 其れ等は点と点でしか無かった。しかし、今となれば全てを線で繋ぎ合わせることが出来る。
「幻想貴族、ミーミルンド男爵を中心とした派閥があるんだって。此れまでのことは、その一派が引き起こした事件だった。
 俺は旅人で、この国には詳しくない。けど、もう随分と過しているから解る事はある。……この国は門閥貴族が台頭する、困った国」
 元は勇者王が建国した由緒正しき国であった。だが、『長過ぎる時間の経過』によって澱み腐敗し続けた国内は貴族達が私物化している有様だ。
 そうと言えども『王国』は『国王』が在ってのものだ。国王フォルデルマン三世を政敵とし、討とうとする動きは看過できるものではあるまい。
「彼等は王国に大きなダメージを与えて、王権簒奪を目論んでいた――とされるらしい。
 それでどれだけの民が犠牲になっても、必要な事だって……そう言いながら。俺には理解出来ないけど」
 普通の少年である彼にとって、それは理解の範疇を超えていた。だが、後手であった戦も真っ向勝負が出来る段階にまで何とか追い付いた。
「互いに主張があるのは知ってる。けど、見過せば沢山の人が死ぬかも知れないんだ。
 魔物の軍勢や、此方を攻め入る貴族達を倒して欲しい」
 お願いします、と雪風は頭を下げた。王国より派遣される騎士達が前線に立っているフロンティエール。
 その地に、急行して欲しい。彼等が死んでしまう前に――犠牲なんて、少ない方が良いのだから。

●loin
 フロンティエールの旭日は燦々と照らしていた。その地に立った騎士達の数は30を超えるだろう。
 剣を握る腕が僅かに震えた。あの鮮やかなる陽を受けてのっぺりと射干玉の影を伸ばした巨人達。
 古廟スラン・ロウより解き放たれた怨嗟と死に濡れた忌まわしき存在――其れ等をイレギュラーズは倒していたのか。
「どうなさいますか、アルマン隊長」
「行くしかあるまい。イレギュラーズ……いや、勇者殿達も、これらを相手にし続けたのだ。
 彼等にばかり任せて、幻想の騎士が指を咥えて見て居られるものか! ――全軍突撃! 王国に平穏を齎すのだ!」

GMコメント

 日下部あやめと申します。どうぞ、宜しくお願い致します。

●目標
 ロバン・ド・ジャンメール率いる敵騎兵隊の無力化

●フロンティエール
 ヴィーグリーズの丘を望む広場です。此の地には燦々と太陽が降注ぎ、非常に明るい戦場です。
 夕日を美しく見ることが出来る場所とも言われています。青々とした夏草が風に揺れた、戦いやすい場所です。

●ロバン・ド・ジャンメール
 ジャンメール子爵家三男坊。ミーミルンド派に属する家門を代表して前線にやって来ました。
 自身も所属するジャンメール騎士団と古代獣、巨人と共にイレギュラーズを待ち受けています。
 非常に快活で気さくな青年です。槍術を得意とし、前線でやり合います。

●アシル
 ロバンの幼馴染みであり、魔術士です。彼の専属の魔術士として立ち回ります。
 この戦いには懐疑的ですが、ロバンを護る為ならばとフロンティエールにやって来ました。

●ジャンメール騎士団
 ・騎士達 30名
 ロバンの引き連れるジャンメール騎士団です。騎士として堂々と戦います。全ては、ミーミルンドとジャンメールのために。

 ・古代獣 5体
 獅子を思わせる獣達です。神翼庭園ウィツィロから出現したようです。
 清廉なる気配を纏い、水の扱いを得意としているようです。ジャンメール騎士団に従い動きます。

 ・巨人 5体
 古廟スラン・ロウから姿を見せた巨人達です。男女それぞれ。
 死の気配を感じさせます。意思の疎通が可能でありジャンメール騎士団に従っているようです。

●友軍:王国騎士団 20名
 隊長アルマンが率いる騎士団です。其れなりの戦力になりますが巨人や古代獣に対しては少し分が悪そうです。
 彼等は皆、勇者であるイレギュラーズに憧れており、皆さんの力になりたいと願っています。
 皆さんのように、讃えられる存在になるために戦場で剣を握っています。

●士気ボーナス
 今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <ヴィーグリーズ会戦>フロンティエールに喝采あれ!完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
メルナ(p3p002292)
太陽は墜ちた
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

リプレイ


 ――この国は歪んでいる。

 幾つもの仕事を引受け、熟してきたからこそ。ソレが分かった。『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は呟く。
「私にだって、わかるよ」
 互いに譲れない主張があって、互いに譲れない事情があって、誰もが理由を宿している。それを知っていても。
 多数の人々が死ぬ事だけは許せなかった。それが笹木 花丸にとっての、事情だった。
「だから、戦うよ。皆と一緒に」
 花丸から零れた呟きに『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)の瞳が憂う色を乗せる。
 どちらが正義かは解らないけれど、どちらが正義かを決めなければ戦えない程、純粋ではなくて。
「でもね、大勢が死ぬと解っていて……戦わないことを選べる程、不純でもないのよ」
 純粋でも、不純でも無い。少女は、選ぶことを決めていた。それは決意と呼ぶべきか、汚れてしまったのか。それとも。
 国は民。民になくして国は無い。揺るがない心を抱えたまま『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)は「ダサいぜ!」と呟いた。
「蔑ろにしてる時点で迷惑自己中じゃん? 民に仇成しちゃったらおしめぇじゃん? 魔種とヤッてるコト変わんねぇじゃん?」
 武力と言えば良いか。それとも、威を借りて居ればそれで満足なのか。果たして、理解は出来ないが民を仇為せばそれは敵であることには変わりない。
 それでも、心揺らぐのは『幻想王国』そのものに対する不平や不満であった。貴族達の中で横行する行いが『揺らぐ青の月』メルナ(p3p002292)に惑いを作り出していたのは、確かだった。
「……多くの犠牲を仕方ないと割り切るのは、認められないよ。……そう、お兄ちゃんなら思う筈だから。……止めさせてもらうよ!」
 止めるが為、と。その言葉に力強く頷いたのは『木漏れ日の魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)だった。
 雪風から齎された情報。犠牲は少ない方が良いとリディアは知っていた。だからこそ、味方も敵も出来る限り殺したくは無かった。命を奪えば、誰ぞと同じになって仕舞うのだから。
「さて、今回は後輩の騎士もいることだ。うまく王国騎士たちを動かして勝利をつかみに行こう」
『貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は剣を握り、友軍士気の鼓舞を行うべく、戦場へと辿り着いた。
『フロンティエール』――なだらかな丘陵を望んだ古戦場に戦の気配が満ちあふれる。若い草を照らす紅鏡は燃え滾る戦意の如く。
「今回は敵の数も多く辛い戦いとなりそうですわ。戦場での油断は命取り、常に冷静に戦況を見極めましょう」
 そっとスカートを持ち上げて『百合花の騎士』フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)はカーテシーで騎士団へと礼を尽す。名門ヴァレンティーヌ家の令嬢は百合花の紋章を背負い堂々と宣言した。
「帰りを待つ者のためにも……全員生存以外許しませんわ!」
 眼前に存在する古代獣も、巨人も。それを打ち倒すのはイレギュラーズの仕事であると乙女は堂々たる鼓舞を行う。
 眼前の敵勢とは睨み合いが続いている。イレギュラーズの到着に此方を伺う者が居ると言うことだ。赤毛の騎士は「来たか、イレギュラーズ」と好戦的に笑みを零す。
「理想に燃えるのは結構な事ですが、思うて学ばざれば則ち殆し。
 ロバンさん、新興宗教や過激派セクトに引っかかる学生のようなタイプですね。清濁併せ呑む貴族を務めるには、ちょっと精神がお若すぎるようだ」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)の言葉にロバンは怒ることも無く小さく笑った。
「勝てば官軍。負ければ賊軍。それ位は知っている――『我らが敗北し続けたことで』手立てが此れしか無くなった事は苦しいが……。
 我らジャンメールが勝利する事が叶えば、その考えは変わるだろう?」
「さあ、どうでしょう」
 落ち着き払ったまま、寛治はロバン・ド・ジャンメール――ジャンメール騎士団の司令塔として、剣を構え高らかに宣言した。

 ――進軍せよ! 我らは足を止めては為らない。フロンティエールに喝采あれ!


「幻想を、そして民を守るために力を貸してください。共に戦って皆で勝利を掴みましょう!」
 指先を組み合わせ、リディアはそう願った。イレギュラーズと共に戦場を翔る王国騎士団へと対等な関係を、と心がけたリディアは隊長たるアルマンの首肯に胸を撫で下ろした。
 前線へと飛び出した夏子が肩を竦める。武力に溺れて、理想に溺れてダサ続きで呆れ返ってしまう。
「にしても良い風良い風情良い景観ですな。こういう雰囲気尊くてなんか堪んないよ――ただのんびりとそういうの感じてたいね。どう?」
 小さく唇を吊り上げて構えるグロリアス。先陣の加護を帯びた穂先へと乗せたのは挑発の気配。
「ヤダなぁ、出来れば話し合いで済まさん?」
「……それで済むほどにロバンは『お行儀良く』ないんだ」
 呟かれた言葉に夏子は「そ」と小さく返す。騎士団と共に前線を駆けるメルナは大将ロバンへ向けて進む道を確保すべく一歩踏み出した。
「あちらが正しいのか、こちらが正しいのかじゃない。あちらが侵そうとしてる民を守る為。
 ……私達が戦う理由は、それで良い。そうでしょ? ……戦おう! 守るべきものを守る為に!」
 高らかに喇叭を吹き鳴らすような。宣言と共に放ったのは煌く光刃を叩き付けた斬撃。無垢を洗わすかの如き蒼白い斬光。
 一閃に合わせ、騎士達は『勇者』の声に士気を向上させ敵陣へと飛び込んでゆく。
 友軍の士気に鼓舞を。大集団を統率し、秩序を与えるべくシューヴェルトは厄刀『魔応』を掲げた。
「僕らには角笛や勇者王の末裔よりも大きな大義がある! それはこの幻想の民を守ることだ。騎士として、民を守るためにも共に戦おう!」
 王国の騎士達の大義名分が民を護る事だとシューヴェルトは知っていた。長く伸ばした髪を夏の風が大きく揺らがせる。
 堂々たる演説に、騎士達は統率され隊長アルマンは勇者の指示に従うように盾を構える。
「総員、戦闘準備! 目標はジャメール騎士団、巨人や古代獣については僕らイレギュラーズに任せろ。さあ、突撃だ!」
 一斉攻撃が始まった。愛馬ユウキュウの黒鹿毛が風に揺らいだ。何処までも遠く、果てへと。そうした名を冠するフィリーネの愛馬はフロンティエールの野を駆ける。
「ついていらっしゃい! このままだと女に抜けられた陣形だと、お笑い話ですわよ」
 ロバンを落す。ソレこそが戦況を変化させる鍵である。声を張り上げ、全ての『視線』を引き付ける。
 共に先陣へと飛び込んだのは花丸であった。兵士達には道を。彼等が騎士で有ることは否定しない。共に戦う仲間として認めた声音は堂々と。
「王国騎士の皆、私達と一緒に道を切り開いて! そうすれば敵将達は私達が何とかしてみせるから!」
 引き付けすぎて倒れぬように時を配り、花丸が引き付けたのは古代獣と巨人だった。見上げるほどに高い。巨人を見詰めるのは幾度目か。
 花丸のアメジストの瞳に決意が讃えられる。固く傷等だけになった拳が、天を衝く。
「これは、正義を振り翳す戦いではない――ひとえに、幻想の民を守る戦いよ!」
 声を張り上げれば、心を揺らがせるほどの大きな影響力となる。ラヴは知っていた。特異運命座標は、英雄となった。物語に出てくる存在のように。
 讃えられる英雄でありたいならば、己の為に成すのでは無い。民のために。斯く在るべし。
 護るものとしての矜持を、言葉で、行動で、態度で。見せ付けるように鼓舞をする。寛治を庇い、戦場を見据えるラヴは夜を織った拳銃にそっと指先を添えた。
 リディアは寛治へと、最適化する特殊支援を施した。エランヴィタール、いのちの躍進の気配を纏った少女は寛治が戦える時間ヲ増やし支えるために、支援を絶やすことは無い。
「さて――」
 地を叩いたのは紳士用スティッキ傘。クラシカルなデザインの傘をそっと構えればかちり、と音が立った。どうしようもないほどに不可避を嘲笑う死神の気配をその身に纏い放たれるのは一弾一殺。
 剣を構えたロバンの肩を穿つ。勢いに、肩が弾かれたように外に向いた青年が唇を噛み、おおと唸った。剣を構えた騎士はそれでも『自身の矜持』を満たすが如く飛び込んでいく。
 夏子が抑えるアシルは比較的自由に動き回っていた。留めるだけの手段を有さぬ夏子は、それでも魔術士が気遣うようにロバンばかり見ている事に気付く。
「しょうがねぇか……嫌だけど嫌がらせするよ」
 邪魔立てすると言うならば。闇を劈く如く、発砲音を放ち全力丁寧に横へと薙ぎ払う。魔力弾を放った騎士をシリウスで受け止めて、睨め付けた。

「――夜を召しませ」

 躍る様に。天蓋覆った夜の空は逆しまに『落ちた』。重圧に、抗うことの出来ぬ夜による不能感。
 ラヴの囁きに足下も覚束ない兵士達。其れ等を双眸に映してシューヴェストは堂々と王国の剣を引き抜いた。斬り伏せる訳ではない、誇りをぶつけ合う戦い。
 凍て付く氷の鎖が周囲へと漂い、その中を駆ける花丸の拳が天を衝く。狙いはロバンだった。騎士を引き連れたフロンティエールの喝采を求めた青年。
 彼の背後より飛び出した巨人をその双眸に映して、メルナの青白き斬光が一閃の軌跡を描く。
 寛治は開けていく景色の中で銃口をゆっくりと青年に向ける。リディアによる支援は何も気にする事はない。
 肩を。脚を。命を奪わぬ一弾。苦しくも、決して逃れられない生の気配の中でロバンが叫ぶ。
「アシル!」
「……ああ、ロバン。先ずは彼か」
 アシルの魔術が寛治へと迫る。夏子の挑発より逃れた魔術師の魔力は凶弾と化し寛治の肩を射抜いた。だが、男は顔色一つも変えやしない。
「今、支えますね」
「ええ……どうやら、彼等はフロンティエールの喝采を浴びたくて仕方が無いらしい。ですが……」
 寛治は注いだ紅鏡をその眼鏡に映しながら首を振った。どれ程に勝利に焦がれようとも、得られる結末は只の1つしか無いのだ。
 古代獣と巨人を引き付けていたフィリーネのワイヤーがぎりぎりと音を立ててる。戦闘の『大部分』を担っていたモンスター達の助力を得られないならば彼等は敵ではないとでも笑うように。
「どうして彼等に与するのですか」
 リディアの問い掛けに巨人は「我らがフレイス姫の為に」と笑った――それだけであった。
 流転する運命は何時だって自分たちで掴み取る。フレイス・ネフィラがどの様な人であったのか、それ程に慕われる存在だったのか。それを『今に生きる』花丸は知る由は無いけれど。誰もを失わないためには、切り分けることが必要だった。
「寛治さん!」
 花丸の呼ぶ声に、フィリーネは「わたくしも参りますわ!」と高らかに宣言し道を開いた。
 鼓舞の声も響く。高らかなる喇叭の音色の如く脚を動かして、王国の剣が賊へと向けられた。何時の日か、フロンティエールに訪れた戦の気配の如く。
 ラヴの指先が呪いを乞うた。蝕む術は、ロバンを侵食して離しはしない。夜を落して、月をも蝕む呪いの気配。
 ロバンへの道を開こうとするイレギュラーズにアシルは駄目だと叫ぶ。「フォローすんのはこっちも同じワケ」とせせら笑った夏子の声音が青年の肌へとべたりと張り付いた。
「そう! 俺達は太陽と! 平和を憂う騎士達と戦っている!
 誇り高き勇者達と肩を並べて戦えて、光栄だよ。さあ、フロンティエールに喝采あれ!」
 夏子の言葉に、騎士達は走り続ける。メルナは戦い続けたくは無かった。だからこそ、寛治の『弾丸』に総てを賭ける。
 殺さないことが何かに繋がるはず。正しい、正しくないでは無い。理想に殉じるのが騎士だから。
 彼ならば屹度『これから』を作り出せると願う様に慈悲の剣を振り下ろす。
 願う様なリディアの光が、効率化の魔術を寛治へと届けた。オートマチックの拳銃は最後の一弾を許さない。
 どうしようもなく不可避。その弾丸はこれでしまいだと嘲笑う。
 放たれた一撃にロバンの身体が弾かれたように地へと叩き付けられた。
「ぐっ」
 ロバンと悲痛な声で呼ぶアシルの行く手を遮っていた夏子がその身を逸らす。慌て、走り寄る魔道士は経過し居たようにイレギュラーズを睨め付けた。
 赤毛の青年は肘を地について身体を起す。その時、彼の瞳に映り込んだ赫々たるフロンティエールの焔は、どうしようもない程に遠かった。
「ジャメール騎士団に告ぐ! 大将のロバンは僕たちで無力化した。
 今すぐ降伏するなら命は助けてやるし、巨人や古代獣も止めるならシェヴァリエ家の名においてジャメール家の手助けもしよう!」
 高らかに宣言したシューヴェルトを睨め付けてから、アシルは「武器を下ろして」と騎士達へと囁いた。


 一時停戦、と呼ぶには余りにもお粗末な状態であるとアシルはせせら笑った。対話を求めるイレギュラーズに応じて誰もが武器を一度は柄に治めていたのだ。
「守るべき主君が斃れた今、これ以上戦う必要はありますか?
 あなた方にも守るべき領地と領民があり、あなた方の帰りを待ちわびていることでしょう。これ以上の抵抗はやめて兵を引いてもらえませんか?」
 リディアの言葉に、ロバンを護る様にアシルが立ちはだかった。
 幼馴染みであった青年にとって、イレギュラーズに逆賊とされた彼であれど大切である事には違いないのだろう。
「領民を護る為の戦い、です」
 アシルの言葉にラヴは首を振る。そうだろうけれど、そうではない。『これ以上』は更なる悲劇を生むだけなのだ。
「あなた方の団長は倒れた、勝敗は決したわ。……もう、無駄に血を流すのは止めましょう」
 ラヴは殺し合いたい訳ではないと告げた。その瞳にのせられた不安に、アシルは騎士達を留める。これ以上は進まなくて為らないと。
 首を振った彼に、ロバンは「アシル!」と叫んだ。アシルが交渉に応じることが彼の矜持が許さないのだろうか。ロバンは痛む身体を引き摺り乍ら唇を噛み締める。
「このまま法に照らせば、将は勿論の事、参加した兵やその家族まで処罰の対象となるでしょう。内乱罪とはそれ程の重罪です。
 ですが、聞けばロバン氏の挙兵は『腐敗した国政を正す』為との事。やや矛先を違えてしまってはいますが、その理想は褒められるべきものだ」
 寛治の言葉に、膝を突いたロバンは青年を睨め付ける。その気配にリディアは肩を竦めて、メルナは唇を噛んだ。
「今降伏すれば、私が掛け合って罪一等を減じるよう取り計らいましょう。戦闘可能な者は今からヴィーグリーズ会戦で国王陛下にお味方するのです。
 そうすれば『腐敗したミールミンド派を糺すため、味方のフリをして参陣していた。不幸にもイレギュラーズと戦闘になったが、当初の予定通り内応した』という筋書きになります」
「だから? ……俺達だって、奴等に迫害され続けてきたんだ!
 貴族だからといって幸福が約束されてたわけじゃ無い。奴等が幸福に暮らす裏で、俺達がどれだけ――!」
 叫ぶその声に、花丸は唇を噛んだ。ああ、やっぱり――『この国は腐っている』んだ。
「私には、この筋書きを通すだけの人脈があります。どうですかアシルさん? それとも、是非もなしと?」
 寛治の言葉にロバンは「家を裏切るか、もしくは俺に死ねというのか?」と叫んだ。ああ、そうだ。彼は只の三男坊。
 戦場に飛び出してきたのは騎士としての青臭い矜持じゃないか。アシルは「それでロバンは救えるのか」と問い掛け、勢いよくロバンに横面を叩かれた。
「アシル! 俺は、家を裏切るくらいなら死んだ方がましだ!」
 その言葉に夏子は膝を突いた青年騎士を鼻で笑った。騎士として殉じるなんて『クソ喰らえ』なのだ。
「死ぬのは最低の無責任、恥も後悔も注がず、責任も果たさず……何が騎士だよ。なあ? 正々堂々を勘違いしてんじゃねぇか……?」
 金色の瞳が睨め付ける。注がれる苛立ちにロバンはぐ、と息を飲んだ。アシルが「ロバン」と名を呼ぶ。彼が立ち上がり、アシルの腰に刺さっていたサーベルに手を構えたことを一瞥してからフィリーネは前へと出る。
「まだ戦う意思があるものはわたくしが相手になりますわ!」
 フィリーネはそれでも剣を構えた。睨め付けるわけでは無い。決意を乗せた、百合花の紋を冠したヴァレンティーヌの娘は気高くも問い掛ける。
 ジャンメールの三男は、剣を取り落とした。此の儘やり合えど待ち受けるのは悪戯に兵を殺した騎士という不名誉だ。
「ッああ、どうせ、勝てやしない……いいや、もう、いい。これが、この国の……」
 喝采が齎された側が何方であったのか。只、ソレだけが区別されただけであったとでも言うように、青年は支えられて立ち上がった。
 寛治に対してロバンは頭を下げる。どうか、自身の友人や、部下達だけでも助けて遣ってくれと。それが、『この国の貴族としての在り方』だと示すように。
「……俺の首は皆に預ける」
「分かりました。お約束しましょう。ねえ、アシルさん?」
 寛治の視線が、アシルへと向けられる。ロバンを救うと誓うその言葉に、青年は願う様に頭を下げた。
「……優しいね。皆は」
 メルナは小さく呟いた。静寂の海のように凪いだ瞳は――憂いの色を載せていた。
 きっと、お兄ちゃんだって、そうするんだろうと。ゆっくりと目を伏せて。

成否

成功

MVP

フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)
百合花の騎士

状態異常

フィリーネ=ヴァレンティーヌ(p3p009867)[重傷]
百合花の騎士

あとがき

この度はご参加有難う御座いました。
ロバンは本来は悪人ではないのでしょうね。
MVPは堂々と先陣を賭けた幻想貴族の貴女へ差し上げます。とても素晴らしい鼓舞、そして戦でした。

またご縁が御座いましたら、どうぞ、宜しくお願い致します。

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