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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>蜘蛛の子散らす街

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 街が燃えていた。
 略奪と暴行が広がり、狂騒を見せている。
 その原因となっているのは、街に蔓延っていた犯罪者達。
 切っ掛けは、ひとつの噂。

 これまでこの街の犯罪を取り仕切っていたのは領主であり、イレギュラーズの手により事実が発覚した。

 それは確かめる事など出来ない筈の噂だったが、真実だと思われる事実が幾つか起り、街は騒然とし始めていた。
 そのひとつが、領主の親戚筋の人間が領内に入り、領主の入れ替えに動いていることだ。
 さらに、これまで領主と関わり合いが深いと思われていた人物達が次々と失踪していたりと、噂は真実なのだと思わずにはいられない状況だった。
 その状況で、新たな噂が広がる。

 新しい領主は、元領主の禍根を全て断つため、街の浄化作戦を始める。

 あくまでも噂である。
 しかし真実であると皆は思った。
 ゆえに、街の犯罪者達は次々と逃げ出そうとしている。
 まるでそれは、沈む船から逃げ出そうとするネズミのように、狂騒に侵されていた。
 しかし逃げ出すにしても、先立つ物は要る。
 だからこそ奪った。
 略奪し、邪魔する者には暴力を振るい、自らの行いを隠すように火を放つ。
 なにか明確な目的があっての暴動ではなく、漠然とした不安だけで、街は燃えていた。

 その街の中を、シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は走っていた。

(やっかいだな)
 略奪をしていた男を拳闘で殴り飛ばし拘束した後、他の場所で助けを求める者は居ないかと走り続ける。
(リーダー格が居れば、それを叩けば沈静化する。けど、いま起こっているこれはそうじゃない)
 この街にシャルロットが居たのは、少し前の依頼の縁だ。
 依頼の中で、薬物中毒者に更正の道を示したのだが、その内の何人かが助けを求めて来たので、手を貸すために街に残っていた。
 その矢先に起ったのが、今の騒動だ。
(何が起こっている?)
 以前の依頼が終ってから、少しずつ街に不穏な気配が広がっていたのは気付いていた。
 だがそれが何を起点としているのかが掴み切れず、助けを求める者に手を貸している内に、今の惨状が広がっている。
(モリアーティが何かしたのか?)
 それは以前の依頼で相対した、1人のウォーカーだ。
 様々な世界から流れ込んできた空想架空が実体となる世界から訪れたという彼は、イレギュラーズの鏖殺と世界の滅びを望み活動していると言った。

 本物になれない紛い物が、本物が成し遂げられなかった役割を成就する。それが私だ。

 この世界の主人公であるイレギュラーズを殺し、物語を、世界を終わらせることで、自身の原典となったキャラクターが出来なかったことを成し遂げ、自らの存在意義とする。
 ただそれだけ。
 あまりにも矮小な理由で、幾つもの犯罪活動を行っているようだった。
 そのひとつが薬物売買であり、それを潰すためにシャルロットは動いていたのだが、モリアーティの足跡を掴めないでいた。
(すでに街から逃げ出したか?) 
 可能性はある。
 領主が魔種であったことが知られ、恐らく繋がっていただろうモリアーティが、この街に居続ける必要性は無い。
 元凶であるモリアーティを捕えることは出来ず、けれど街の暴動を見過ごすことも出来ない彼女は、自分が出来ることを成すために走っていた。そこに――

「素晴らしい。まさに騎士だね」

 拍手と共に、以前聞いた声が耳に届く。
「モリアーティ」
 シャルロットは戦闘体勢を取り、声の主に身体を向ける。
 そこには、紳士然としたモリアーティと、1人の男性が居た。
(領主……いや、元領主と言うべきか)
 モリアーティの傍らにいるのは、魔種である元領主。
(長期戦は不利だ。短期決戦で一気に仕留める)
 シャルロットは重心を落とし、一気に踏み込む。
 瞬く間に間合いを詰めると、本命の一撃へと繋げるフリッカージャブ。
 拳を下ろした状態から虚を突くような這い上がる一撃は、獲物に食らいつく蛇の如き鋭さで放たれる。
 だが、それより早くモリアーティは反応していた。
 腰をどっしりと落とし両腕を上げた防御主体の構えを取り、放たれたフリッカージャブを右腕で捌く。
 捌きつつ間合いを詰め、シャルロットの足さばきを阻害する位置に踏み出す。
(拙い!)
 シャルロットは反射的に危機を感じ取り、多少体勢が崩れるのも覚悟で後方へと跳ぶ。
 ほぼ同時に、唸りを上げて空を切るモリアーティの左フック。
「残念。逃げられてしまったね」
「手を貸しましょうか、モリアーティ」
 元領主の呼び掛けにモリアーティは応える。
「ありがとう、ジャック。だが不要だよ。別にここで彼女を殺したいわけじゃないからね」
(ジャック?)
 シャルロットは訝しげに眉を顰め、元領主に言った。
「そんな名前では無かったのに、改名したの?」
 隙を作れないかと挑発する様に言ったのだが、ジャックと名乗った元領主は笑顔で応えた。
「領主であった頃の名前は捨てたよ。どのみち、やっていけないからね。だから代わりの名前をモリアーティに付けて貰ったんだ。ジャック・ザ・リッパ―。スナック菓子のようなジャンクな名前だが、気に入ってるよ」
 そう言うとジャックは腕を振るう。
 その動きだけで発生した飛ぶ斬撃が、シャルロットを背後から襲おうとしていた男達を斬り裂いた。
「……なんのつもり?」
「楽しいお喋りの邪魔になる無粋な連中を取り除いただけだよ」
 ジャックは肩を竦めるように応えると、足元で倒れ伏していた男の首を掴み、シャルロットに向け放り投げた。
「っ……ぁ」
 痛めつけられているが生きているようだ。
「そいつは私の親戚でね。私が魔種だということで、殺して代わりに領主になろうとしたが、そいつ以外は皆殺しにしてやった」
「何が言いたいの?」
 シャルロットの問い掛けにジャックは応えた。
「そいつを連れ帰ってくれ。そうすれば街の混乱を収めるための依頼をローレットに出す筈だ」
「……どういうつもりなの」
「後始末をして貰おうと思ってね」
 モリアーティの言葉と共に、離れた場所の建物が破壊される音が響く。
 視線を向ければそこに居たのは、1体の巨人。
「あれは――」
「実験的に薬を投与した魔物の1体だよ。ちょうど大量にあふれていたのでね、使わせて貰った」
「実験……何をしてるの」
「魔種を増やす実験だよ」
 平然とモリアーティは言った。
「前に言ったが、私は世界を滅ぼしたい。ただ、何をどうすれば滅ぼせるのかは分からなくてね。だから一先ず、魔種を増やす方法を探っていてね」
「それと魔物に薬を投与することが、どう繋がるというの」
「人間以外の生き物も全て魔種になれれば良いと思わないかね?」
「なにを言って……」
「そのままの意味だよ。世界を守るためにイレギュラーズが必要であり、魔種が滅びに繋がるというのなら、魔種を増産すれば良い。けれど人間以外も魔種になれるなら、増産速度は上がる。だから薬で干渉してどうにかできないかと思っていたんだが、巧くいかなくてね。結果として出来たのは、薬漬けになって暴れるしか出来ない魔物なんだよ」
「失敗作だと? その後始末を、押し付けようというの?」
「そういうことだよ。別に放置しても良いんだが、折角だ。どの程度、君達イレギュラーズと渡り合えるのか確認したくてね。今あそこで暴れている1体以外にも、何体かいる。今は薬で眠っているが、いずれ起き出して暴れるだろう。街の崩壊を防ぎたいなら、全て倒してくれ」
 そう言うと、モリアーティはジャックと共に離れていく。
「待ちなさい!」
 追いかけようとするが、足元に銃弾が突き刺さり止まらざるを得ない。
 見れば、狙撃銃を構える男がモリアーティの行く手を守るように就いていた。
(今は、追い駆けるのは無理ね……)
 伏兵がどれだけいるか分からないため、その場での追跡は諦めるシャルロットだった。

 そしてローレットに依頼が出される。
 内容は、街で暴れる巨人型の魔物の討伐と暴動に加担している者達の制圧。
 さらに、街で暴れている巨人型の魔物は、ヴィーグリーズの丘に現れている魔物と同じであるためか、そちらから魔物が流れてきているため、そちらの駆除もする必要がある。
 最早、規模としては争乱に近い。
 油断できない中、イレギュラーズ達は街へと向かった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
25本目のシナリオは、アフターアクションを元に作らせていただきました。

今回のシナリオでは、以下の特殊判定が行われます。

====================
●士気ボーナス
 今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
====================

以下、詳細になります。

●成功条件

街で暴れる魔物を討伐する。

●敵

三つの種類に分かれています。

1 巨人型の魔物(大)×4体以上

5mの大きさの巨人です。
ご参加いただいた皆さまのレベル帯などを考慮に入れて、数は増える場合があります。

攻撃手段

肉弾攻撃

殴る蹴るなどの身体を使った攻撃です。近単です。

炎の吐息

口から火を吐きます。中貫。攻撃を受けると、業炎のBSが付きます。

凍てつく吐息

口から凍気を吐きます。中貫。攻撃を受けると、氷結のBSが付きます。

敵は1箇所に集まっています。
薬物を投与されており、死ぬ直前まで元気に暴れます。
反面、思考力は落ちているので、仲間との連携はありません。

2 巨人型の魔物(小)×8体以上

3mの大きさの巨人です。

ご参加いただいた皆さまのレベル帯などを考慮に入れて、数は増える場合があります。

攻撃手段

肉弾攻撃

殴る蹴るなどの身体を使った攻撃です。近単です。

敵は街にばらけて暴れています。
多少、連携を取る可能性があります。

3 暴徒×山盛り

混乱に紛れて略奪などを行っている火事場泥棒。

攻撃手段

素手や刃物を使った攻撃。
一般人より多少強い程度。
街のいたる所に居ます。

暴徒は、制圧できればいい程度なので、放置しても構いません。

●味方

街の領兵×30

それなりに強いです。
イレギュラーズ達に従うよう上に言われているため、指示を出していただければその通りに動いてくれます。

●戦場

街の中での戦闘になります。
魔物が暴れたり暴動があって危ないため、街の住人は退避しています。

●流れ

今回の流れは、

1 現場となる街に到着
2 暴れている巨人を発見し向かう
3 巨人達との戦闘
4 討伐して依頼終了

という流れになります。

●その他

モリアーティ

元凶です。実験体である薬漬けの巨人とイレギュラーズの戦いを観察しています。
プレイングによっては、戦いが終わった後に出て来たり、戦いの際中に出てきたりします。

仲間と共にいるため、今回倒すことは非常に困難です。
プレイングによっては、オープニングに出ていたNPC以外の仲間も出てきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 説明は以上になります。

 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <ヴィーグリーズ会戦>蜘蛛の子散らす街完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
ルシア・ペラフィネ(p3p009277)
沈む夜の祈り

リプレイ

 略奪渦巻く街に、巨人達が暴虐を撒き散らす。
 千地乱れる中、『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)は声を上げた。
「あわわ……だ、大混乱って感じね」
 いたる所から響いてくる怒号と、巨人達の破壊の音が響く。
「暴動に加えて巨人が大暴れしてるし……ヒドイ有様だわ」
「ああ、一刻も早く事態を収めないと」
 逸る心を抑えながら、『猪突!邁進!』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が言った。
「敵の尻拭いをさせられるのは不本意だが……そんなことを言っている場合ではないな。街に被害が広がる前に巨人どもを片付けさせてもらおう」
「うん。まずは巨人をどうにかしないと」
 ブレンダに同意する様に、『子供達のお姉ちゃん』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が続ける。
「街の混乱を少しでも早く治めなきゃ。巨人達はアタシ達が仕留めるから、民衆の人達を護って避難させるのはお願い」
 領兵の隊長にファミリアーのねずみのカットを預けると、檄を飛ばすように言った。
「アンタ達もここを守る兵ならアタシの指示で動いて欲しいの! 大丈夫、必ずここを切り抜けるから!」
 ミルヴィは自身の信条を飲み込みながら言葉を口にする。
(暴徒も民衆だからこんな状況なら殺すな、なんて言えないけれど……!)
 だからこそ、護るための意志を宣言する。
「この剣とアタシの名に懸けて! この街は護ってみせる!」
 ミルヴィの意志ある言葉に領兵達は応える。
「承知しました。我ら30名、貴方達の旗下に入ります。どうかご指示を」
 暴動が起こり逃げ出す者が多い中、残った領兵達は決死の覚悟を抱いている。
 彼らの覚悟に応えるように、『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が号令を出す。
「黒鉄守護オウェード=ランドマスターじゃ! 巨人をワシらに任せて、暴徒の鎮圧に専念するんじゃ!」
 オウェードの名乗りに、領兵達にどよめきが走る。
 黒鉄守護のふたつ名を耳にしていた者がいたようだ。
「その名を汚さぬよう、一時とはいえ旗下に入る我ら、全力を尽くします」
 オウェードの号令に領兵達の士気がさらに上がり、街を護る意志が強くなる。
 それをより強固にするように、『Legend of Asgar』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)が声を掛けた。
「これ程治安が悪くなっても集まり、無辜の民のために剣を取ってくれた兵たちよ、異界の貴族として、貴方たちの行動を誇りに思う!」
 騎士たるシャルロットの呼び掛けに、領兵達は兵としての礼を取る。
「我らが誇り、行動で示します」
 領兵達は意気軒昂に高ぶり、イレギュラーズ達の動きを待っている。
 彼らの勢いが薄れぬ内に、『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)が声を上げた。
「それじゃ始めるか。敵は大型巨人と小型巨人。こっちは俺達で対処する。部隊を分けて動くなら――」
 広域俯瞰で戦場の状況を確認していたtrickyは、進行ルートや敵の動きを伝える。
 それを聞いて、より精度を上げるため、『沈む夜の祈り』ルシア・ペラフィネ(p3p009277)が領兵達に尋ねた。
「街の地図があったら見せて貰える? 無ければ口頭で教えて貰えると助かる」
 ルシアに応え、領兵は街の地図を皆に渡す。
 即座に頭に叩き込み、それぞれの持ち場に向け走り出した。
 目指す場所へと向かう中、暴徒達が目に留まる。
(魔物に、暴れる人たちがいっぱい……!)
 街を侵す者達に怒りを覚えるのは、『闇と炎』アクア・フィーリス(p3p006784)。
(この騒ぎに乗って物を盗むなんて、許せない、けど――)
 アクアの視線は、街を破壊する大型巨人に向かう。
(今目を向けるのはあんなゴミ共じゃないの。あの魔物を倒さないと、街がめちゃくちゃになる……!)
 倒すべき第一の標的に向け駆けていく。
(そんな事は絶対にさせない……いくら大きくても、殺せるなら何の問題もないの)

 皆は、全力で走る。
 今回、対処するべき相手は、大きく分けて三つ。
 一つ目は大型巨人。
 二つ目は小型巨人。
 三つ目が暴徒の鎮圧と民衆の避難誘導。
 素早く対応するべく走り続けた。

●小型巨人殲滅
 暴徒で混乱する街の中をイレギュラーズ達は走る。
(……逃げるなら、身一つで逃げればいいのに……)
 ルシアは暴徒達に嫌悪を抱くが、それ以上に腹立たしいのは元凶。
(何を考えているのか分からないけれども……不快な存在なのは確かね)
 目の前にいれば叩きのめしたい所だが、今は自分の持ち場を制圧することの方が大事だ。
 怒りを飲み込み、小型巨人達に向け走る。
 それを尻目に暴徒達が略奪を続けようとするが、オウェードが領兵を指示して制圧に動く。
 多少傷付く者も出たが、すぐさまtrickyが回復。
『諦めちゃ駄目だ! 一緒に頑張ろう!!』
「そうだぞ、頑張れ頑張れ。馬車馬のように働け。お前達の取り柄なんてそれぐらいなんだから」
 声援を掛けながら領兵達の士気を上げていく。
 その甲斐もあり暴徒は制圧され、イレギュラーズは先に進む。
 だが進めば進むほど暴徒達の略奪が目に映り、元凶に対する怒りが湧く。
『この騒ぎの元凶が、どっかで俺達のこと観てるらしいぜ? マジで腹立つよな』
「ならば見せつけてやればいい。この程度では擦り傷にすらならん」
 それを証明する様に、イレギュラーズ達は巨人と接敵した。
『すぐに回復するから心配しないで』
「怪我など恐れるな。すぐに癒す」
 trickyは全体を俯瞰しながら中衛に位置取り、皆の支援に動けるよう準備。
 その間に、オウェードが仲間に声を掛ける。
「まずはワシが引きつける。その後は、1人で突出せず連携して動くんじゃ」
 作戦を伝え、オウェードは敵に向け突進する。
(アイツが群れの要じゃな)
 戦略眼で敵の動きを見極めたオウェードは、一際強壮な巨人に肉薄する。
 気付いた巨人が雄たけびをあげ殴りつけて来るが、オウェードは守りを固め受け流す。
 鉄塊の如く微動だにせず、片手斧で巨人の拳を叩き落とすと、そこから更に踏み込み、腿に向け全力の一撃。
 意志を乗せた一撃は、抉るように叩き切った。
 痛みに絶叫し巨人は反撃するが、守りを固めたオウェードは全てを受け切る。
 オウェードに削られていく巨人を助けようとするかのように、他の巨人が集まって来るが――
(なるべく多くの巨人を巻き込めるようにしていけたらおいしいかしら)
 奈々美が纏めて攻撃する。
 魔力を集中すると、ネオンライトが散りばめられた高層ビルを召喚。
 巨人達の足元から、ドン! という勢いで高層ビルが伸びると、巨人達を突き上げ宙に吹っ飛ばす。
 派手な攻撃に、領兵達は巻き込まれないよう距離を取る。
(あわわ、味方は巻き込まないようにしないと……。特に領兵さんを吹っ飛ばしたりしたら……ううぅ、怖くなってきたわ……)
 気をつけながら連続攻撃。
 巨人達は何度も突き上げられ、堪らず距離を取ろうとした所に、ルシアが逃がさぬとばかりに距離を詰める。
「どこに行くの」
 退路を断つルシアに、巨人は金切り声をあげ腕を振り降ろす。
 ルシアは身体を半身ズラし、巨人の腕の軌道から距離を取ると、敵の腕を取り左足を軸に回転。
 巨人は自らの勢いを利用され、顔面から地面に叩きつけられた。
 体勢の崩れた敵に、ルシアは追撃。
 拳を何度も叩き込み、魔力を流し込む。
 流し込まれた魔力は敵の再生能力を逆転させ、肉体を破壊していった。
 イレギュラーズ達の猛攻に敵は弱っていく。
 そこでオウェードは、一気に攻勢を強めた。
「どうした! これで終わりか!」
 退路を断ち声をあげるオウェードに、敵は文字通り死に物狂いの勢いで襲い掛かって来た。
 しかしオウェードは真正面から叩き伏せる。
 敵の攻撃を避けることなく片手斧で叩き落すと、さらに踏み込み胴に一閃。
 暴れる敵の動きを読み切り、後の先を取り止めを刺した。
 群れのボスが倒され、敵は動揺し逃げ出そうとするが、ルシアが押し留める。
「逃げてはダメよ」
 敵への悪意を魔力に乗せ放出。
 それは敵を包み込むと毒と呪いの霧へと変わり蝕んでいく。
 さらにtrickyが連携攻撃。
『倒さないと』
「くたばれ」
 虚と稔、両人格ともが殲滅の意志を込め全力攻撃。
 ラサを思わせる熱砂の嵐を作り出し巨人を捕えると、肌を斬り裂くような勢いで暴風の渦を叩きつけた。
 堪らず距離を取ろうとした敵に、奈々美が追撃。
「逃げられないようにしないと」
 呪言を唱えると、逃げ出そうとした巨人の足の空間が歪曲。
 渦動する空間に巻き込まれ、敵は足を捻じ折られた。
 動きが鈍った敵に、皆は全力攻撃。
 この場に居る小型巨人を全滅させた。
 だが小型巨人は他の場所にも居る。
 殲滅に再び走り出す中、大型巨人との戦いは始まっていた。

●大型巨人殲滅
「居た」
 全力で仲間と共に駆けていたミルヴィは、離れた距離でも視認できるほどの大型巨人を確認し、仲間に声を掛ける。
「小型と暴徒は対処してくれてる。こっちは大型に集中しよう」
 ファミリアーを通じ得た情報を皆と共有。
 今この場に居るのは戦い慣れた猛者たち。
 それぞれ力を最大限に活かす術を体に染み込ませている。
 短い言葉を交わすだけでお互いの戦術を合わせ戦いに挑む。
 先行して前に出たのはブレンダ。
 建物を殴り破壊する1体に狙いをつけると小剣を投擲。
 風を切り投擲された小剣は巨人の目を貫く。
 片目を失い暴れる巨人。
 鈍器のような手足を、ブレンダに向け振り回す。
 触れれば潰されるような暴力を前に、ブレンダは間合いを詰める。
 振るうは二刀。
 巨人の攻撃を掻い潜り足元に跳び込むと、左右の二刀で斬り裂く。
「こっちだ。来い」
 深々と切り裂きながら誘導。
 決して臆することなく刃を振るう。
(これで良い)
 ブレンダの狙いは短期決戦。
(被害を抑えるのならこれが一番。一対一ならこの程度の巨人になど遅れはとらんさ)
 事実。一対一でブレンダは巨人と渡り合う。
 だが大型巨人の数は4体。
 残りも無視できぬ災禍だ。
 その内の1体を、シャルロットが果敢に攻める。
「飛ぶ斬撃と魔法の刃を受けてみなさい」
 炎を吐き周囲を焼く巨人に向け突進する。
 気付いた巨人が口を開き、炎の渦で焼き払おうとするが、そこでシャルロットは更に加速。
 炎を背後に置き去りにし距離を詰めると、魔力で形作った黒き大顎を放つ。
 首元に噛み付かれ肉を食い破られる巨人。
 だが痛みなど感じていないのか、距離を詰めたシャルロットに向け拳を放つ。
 それをシャルロットは斬り裂いた。
 巨人の拳を長剣で切り払うように撫で斬り、その勢いで巨人の体勢を崩し、短剣を突き刺す。
 そこから体を捻り、肉を断ち切るように斬り裂いた。
 全ての動きに無駄は無く、洗練されている。
 絶え間なく繰り返される連続攻撃。
 黒き大顎で肉を食い破り、長剣と短剣を巧妙に振るう。その剣は正に――
「これは……歴錬の刃よ」
 振るう刃は全てが必然。
 長き練磨の果てに到達した剣の術理が、鮮血を思わせる紅き流れとなって巨人を斬り裂いていった。
 イレギュラーズ達は、大型巨人と真っ向から渡り合う。
 それはミルヴィも同じだ。
 巨人の前に躍り出ると、妖艶な剣舞と視線を向け引き付ける。
 目を離せなくなった巨人は、ミルヴィを集中攻撃。
 口から冷気を吐き出し、鈍器のような拳を振るう。
 その全てをミルヴィは避け切る。
 周囲の建物の被害が出ないよう誘導しながら、巨人の意識を狩り獲っていく。
 本来ミルヴィは、敵であろうと流血を好まない。
 彼女が望んだのは、誰も傷つかないで済む力。
 それでも今、彼女が戦うのは――
(誰が相手だろうと民衆が苦しむのを見過ごしちゃいらんないよ!)
 護る意志を表すように、ミルヴィは巨人を翻弄し意識を狩り獲っていく。
 そんな彼女を援護をするのは、アクア。
(協力して、少しでも早く倒すの)
 アクアは仲間の動きを把握し、同士討ちをしない射線を確保してからハンターズを召喚。
 狙うは巨人の足。
(動きを止めれば、倒し易くなる筈なの)
 ハンターズが巨人に殺到する前に、動きを止めるべく影を操る。
 巨人の影が震えたかと思うと無数の腕となり、しがみ付くように足を掴む。
 影に呪縛された巨人に、殺到するハンターズ。
 ざわめき群がり血みどろにさせた。
 動きが鈍り弱ったのを好機と見たアクアは距離を詰める。
 そこに他の巨人が1体、襲い掛かって来た。
 幾らか攻撃を受けるアクア。
 回復役がこの場に居れば特に問題なかったが、いま居るのは攻撃特化のみ。
 ダメージが癒されることなく蓄積していき――
「デカイだけが取り柄のカス共が調子に乗るな! 全員ぶっ殺してやる!」
 攻撃性を露わにする。
 身に纏う漆黒の炎を燃え上がらせ、魔力を糧に悪夢の業火を生み出す。
「頭を焼かれてくたばりやがれ!」
 放たれた業火が巨人の顔に巻き付くと、更に爆発的に燃え上がる。
 焼かれる巨人の絶叫が響いた。

 大型巨人とイレギューラーズ達は渡り合う。
 確実にダメージを重ねた所で、小型巨人の殲滅に動いていた仲間が合流。
 協力して倒し切ることが出来た。

『まだ怪我が残っている人がいたら教えてね。すぐに治すから』
「怪我してるなら言えよ。余計な気遣いはするな」
 trickyは、虚と稔の両人格共に仲間を癒すために全力を傾ける。
 彼のお蔭で、傷を受けた者も回復し、あとに残るほどのダメージは無くなった。
 回復を終わらせた所で、暴徒の鎮圧に全員で動く。
「街は大丈夫? 盗品はない?」
 アクアは領兵に確認し、被害が抑えられていることに安堵すると、暴徒狩りに精を出す。
(槍で胴体貫いて殺しとけば、手っ取り早いんだけど)
 領兵に、あとで法に則って裁きたいと言われ、半殺し程度で留めておく。
 暴徒達も鎮圧し街を平定する中、街の惨状に元凶への怒りが再燃する。
(モリアーティ……悪役は悪役らしく厄介なことをしてきたわね……!)
 シャルロットが怒りを感じた。その時だった。
「止まって!」
 周囲に注意を払いながら進んでいたルシアが、皆に警戒するように告げると、建物の影に向け言った。
「隠れていないで出て来なさい!」
 ルシアの呼び掛けに応えるように男達が2人出て来る。
「君達の活躍は素晴らしいね」
 称賛を口にし現れたのはモリアーティとジャック。
 2人を目にした途端、ブレンダが跳び出す。
 邪魔する者は全て斬り伏せるほどの気迫を見せ距離を詰めると、暴徒達から奪った短剣を投擲。
 投擲を受けたジャックは片手で全て斬り飛ばすが、モリアーティを守る者は誰もいなくなる。
 一対一。一足一刀の間合いまで距離を詰めると、モリアーティが虚を突くように間合いを侵してきた。
 刃の間合いを殺される。
 全力を出せぬ間合いでブレンダは刃を振るい、モリアーティは回避に専念。
 ブレンダの攻撃のリズムが崩れた瞬間、モリアーティは後方に跳び距離を取る。
「判断が早いね。思い切りも良い」
 称賛するモリアーティに、ブレンダは言った。
「貴様らがどんな大層な理想を掲げているかは知らんがそんなもの私は認めぬよ、イミテーション共。ごっこ遊びは終わりの時間だ」
「理想などないよ」
 モリアーティは応える。
「私達は悪党だ。悪党が動く理由は理想ではなく私欲さ」
 とぼけるように言うモリアーティに、オウェードが言った。
「お前さんがモリアーティか」
「始めまして、黒鉄の守護者。貴方ほどの相手に覚えて貰えるほど、私に価値は無いのでね。忘れてくれて良いよ」
「とぼけた男じゃな。これだけは言っておこう……イレギュラーズは海洋の『大号令』を成功させた……ワシらを甘く見るとは――」
「そんな余裕は無いよ」
 モリアーティは返した。
「君達こそが主役であり、私達は所詮、悪役という名の端役がいい所だ。甘く見るなど、とんでもない」
 本音を口にしているように聞こえるモリアーティに、シャルロットが言った。
「答えなくても、嘘を言ってもいいけど、2つ聞くわ。一つは、眠らせていたけど怠惰の魔種の眠りの砂とは別口かしら?」
「関係無いよ。私達は余所者に新参者。歴史ある魔種など相手にされないよ。それで、あとひとつは?」
「もう一つは、貴方たちの組織の名前くらい、名乗って行きなさいってことよ」
「これは失礼。我らビブリオ。私欲にて動く悪党だ。お見知りおきを、イレギュラーズ」
 そう言うと逃げ出そうとする。
 追いかけようとしたが、どこからか狙撃が続き下手に追えない。
 離れていく2人に。
「モリアーティって……名前負けしてないかしら……」
 奈々美が呟くと、モリアーティが逃げながら応えた。
「負けないために悪を成すのだよ」
 そう言って消え失せた。
 逃げ出した2人を見詰め、ミルヴィは言った。
「魔種だろうといい人間ならそういう評価をしたいけれどアイツらは野蛮な簒奪者って奴さ!」
 憤慨するミルヴィに、オウェードが言った。
「次の決戦はそれ以上の苦戦になる……だからこそお互いの無事を祈ろうかね!」
 これに力強く返すミルヴィだった。

 かくして戦いは幕を下ろす。
 迅速に動くことで、被害を最小限にとどめる事の出来たイレギュラーズ達だった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
皆様の活躍で、街の被害は最小限に抑えられました。
街の人々も感謝しています。

それでは、最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした! ご参加、ありがとうございました!

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