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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>級長戸の風

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――我等はミーミルンド派の貴族だ。
 ずらりと並ぶ銀の甲冑の前で、男が厳かに口を開いた。
「これまでの計画が、イレギュラーズや忌々しい三大貴族、そして王家――暗君フォルデルマン三世に邪魔をされた。何も理解せぬ愚か者どもにだ。諸君等はこれを許しておくことができるか?」
 訓練された兵士たちは静まり返っている。彼等の頭上をもったいぶるように男の視線が流れ、くるんと丸まった口ひげをチョイチョイといじった男が再び口を開く。
「しかし、愚かなイレギュラーズや騎士団は調子付き我等の領地へ攻め込んでくるらしい。迎え撃ってやるぞ。――ヴィーグリーズの丘で決戦だ!」
 ミーミルンド派には巨人も古代獣も居り、負けるはずがないと男は自信に溢れた声で告げる。この戦いで兵士たちが案じるものは何ひとつ無く、勝利は既に決まっているようなものなのだと。
「こちらには王権の象徴たる角笛もある! 正義はこちらにあるのだ!!」
 高らかに告げた貴族へ兵士たちは一斉に腕を振り上げ、鬨の声を上げる。

 ――偉大なるミーミルンド家万歳! 我等に勝利の栄光があらんことを!

●ミーミルンド派陣営、豪華な天幕
 戦場とは不釣り合いな豪奢な椅子へとどっかりと腰を下ろした男は、葡萄酒の入ったグラスをクルクルと回しながら丸まった口ひげを伸ばしては離してと弄り、そうして下卑た笑みを浮かべた。
「どうであったか? 私の演説は」
「素晴らしい演説でございました。わたくしも鼻が高うございます」
「んむ、んむ。奴等には考える頭がないからな、私がこうして上手く使ってやらねばならんのだ」
「詳しく指揮はなされますか?」
「よい、よい。些事は全て下々の者に任せれば良いのだと父上も仰られていた」
 兵の命がいくつ失われても私の知るところではない。
 ミーミルンド派のとある貴族の嫡男は愉快そうに笑い、美味そうにグラスを傾けた。

●王家派陣営、とある天幕
「斥候してきたよ」
 白い布をめくって入ってきた『浮草』劉・雨泽 (p3n000218)へ、天幕に居た人々から視線が集まった。
「おかえりなさい、雨泽さん。どうでしたか?」
 羽根のようなふわふわな髪を揺らした 『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)へ「うん」とだけ返した雨泽は、天幕中央にある机へと向かう。大きな机に広げられた大きな地図。その上にはいくつかの駒が置かれている。どうやら、ヴィーグリーズの丘周辺の地図と、そこに集う人々を簡易的に示したもののようだ。
 駒のいくつかを摘んだ雨泽は、地図上で森が描かれている場所へと移動させる。丘からは少し離れた森だが、そちらへ迂回することによって王家派陣営への奇襲が叶いそうな森だ。
「まあ、利用するよね。森へ向かって移動を始めた部隊があるよ。これはどちらかと言うと先遣隊かな。おっかない古代獣たちが奇襲をかけられるように森を確保するための、その前の安全確保だ」
 雨泽は敵陣側の森近くへ駒をみっつ置き、森を挟んで反対側の自陣側の駒をふたつ置く。
「アチラさんは36人。12人ずつで隊列を組んでいたから、12人ずつ森へと入ってくるだろうね」
 まずは第一分隊が森へ入って森の探索をする。決められた時間以内に森の外にいる残りの部隊に連絡が無ければ、次の分隊が森へと入る。その都度敵の警戒度は上がっていき、第三分隊は部隊長含め完全警戒状態で来ることだろう。
「警戒させない方法はいくつか思い当たることだろうね」
 敵から鎧を奪うだとか、相手の連絡手段を使うだとか。後者は聞き出さないといけないけれどと言い置いて、雨泽は天幕の隅へ移動して転がった。
「僕の仕事はここまで。十分働いたから休ませてもらうよ」
「お疲れ様、雨泽。後はオイラたちが引き継ぐね」
 『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の声に合わせ、両手をぎゅっと握ったノースポールがお任せくださいと大きく頷いた。改めて現状を説明するねと、集った仲間たちへとふたりで協力して説明をしていく。
 これまで幻想王国に大量発生した魔物事件、レガリアの盗難、奴隷市。イレギュラーズの領地襲撃。それらはいずれも幻想貴族ミーミルンド派が引き起こした策謀であり、悪徳貴族は幻想王国に大きなダメージを与え、王権簒奪を目論んでいたことがわかった。
 しかし、幻想王国もやられっぱなしではない。数々の策謀をイレギュラーズたちと阻止し、此度その野望を打ち砕かん時がきたのだ。決戦地は幻想中部『ヴィーグリーズの丘』。イレギュラーズたちは幻想の騎士団と協力し、国と民を護るためにも悪しき貴族たちと戦う運びとなった。
「各領地から10名ずつの援軍要請があったんだ。オイラのところはオイラとシュワルベたち、それから兵士さんが3人」
「私のところからは私と、兵士さんが6人です」
 それからノースポールとアクセルを除いたイレギュラーズたち6人で、計20名となる。
「森はこちら側の方が近いので、私たちは待ち伏せすることができます。罠の設置も出来ますし、地形を上手に使って撃退しましょう」
「敵の数の方が多いけれど、頑張ろうね。オイラたちが力を合わせれば、絶対大丈夫だよ!」

GMコメント

 ごきげんよう、イレギュラーズの皆さん。壱花と申します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。

●成功条件
 森確保の阻止
 部隊の無力化(生死不問)

●ロケーション
 時間帯は昼間、晴天。
 幻想中部『ヴィーグリーズの丘』近辺の森。背の高い木が生えている緑豊かな普通の森です。
 森の中で待ち伏せしたり罠をしかけたりして敵兵を退けて下さい。

●敵兵×36名
 シルバーのフルプレートアーマーを纏う成人男性たち。普通に領地を護るために志願し、騎士として剣や技を磨いてきた人たちですが――生まれる場所は選べません。領地に残した家族のために働いています。正義は我等にあり! ミーミルンド家万歳!
 部隊を3つに分けて行動し、12人ずつ森の中へと入ってきます。最後の12人には、この部隊の隊長(ちょっと強い)が含まれます。基本的には剣で攻撃してきます。
 彼等の連絡手段は、『部隊のところへ一人が戻る』or『予め決めた光の色・回数の魔法弾を入り口へ向けて放つ』or『ファミリアを飛ばす』です。特に連絡しなくても一定時間経過するとやってくるので、警戒しているからこそ引っかかりやすい罠等を考えてみるのも良いかも知れませんね。

●悪い貴族
 自陣の天幕で悠々と戦果だけを聞き、都合が悪くなれば切り捨てて逃げます。(基本的には登場しません)

●味方同行者
・『駆ける翼』シュワルベ
 燕の飛行種。10代の少年。元勇者候補生。

・ショーン、ジャン
 雀の飛行種の少年。シュワルベの友人たち。元勇者候補生。

・兵士×9名
 ノースポールさん領地の人……6名
 アクセルさん領地の人……3名(シュワルベたちが来ているので)

※同行者にして欲しいことがありましたらプレイング中でご指定ください。
 特に無ければ皆さんからは見えない場所で彼等は奮闘していることでしょう。

●士気ボーナス
 今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <ヴィーグリーズ会戦>級長戸の風完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

R.R.(p3p000021)
破滅を滅ぼす者
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼
一条 夢心地(p3p008344)
殿

リプレイ

●FIRST TRAP!
 ハァ、ハァ……。
 深緑の中に零れる、少女の荒い息遣い。
 木々が自由に枝葉を広げる森の中を駆けた白髪の少女は、時折後ろを振り返り確認する。明るいお日様色の瞳が忙しなく動き、シルバーの光の反射を捉えてはキュッと眉を寄せ、前方に顔を戻すとまた足を動かすことのみに集中して駆けていく。緊張して強張った頬に汗が垂れるも、少女には拭う余裕さえない。少女の背後から複数人の葉を踏む音と、「いたぞ!」「こっちだ!」と声が続いているせいだ。
 少女は追われていた。それも、複数人の大人に。
 迷彩色のマントも、一度見つかってしまえばあまり効果は成さない。地の利は少し少女にあるため捕まらずにいるものの、それも時間の問題だ。相手は訓練された騎士で、少女よりも体力があるのだから。
「あっ」
 不安に駆られて再度振り返ったのがいけなかったのだろう。体重移動に失敗した足は木の葉で滑り、時折デコボコと落ち葉や土から飛び出している木の根に引っかかってしまった。
 ズザザと滑るように転んでしまったが、柔らかな腐葉土のお陰で怪我はない。
 しかし、その隙を見逃してくれるような追跡者でもなかった。
「こ、こっちに来ないで……!」
 迫る追跡者たちは、すぐ目の前だ。
 少女は怯えた顔で羽根のような白髪を揺らし、尻でずりずりと下がる。
 その背が、トンと太い幹に触れた。『気配は何もないのに』木の葉が一枚ひいらり落ちてくるのみで、後がない。
「お嬢さん、すまないが……」
 目元しか見えない兜のせいで表情は見えないが、あまり悪い人ではないのだろう。覗く瞳も声も、本当に申し訳無さそうだった。
 しかしこれは、戦争だ。年端もゆかぬ少女とはいえ、敵陣の斥候と思われる者を見つければ、彼らは捕えるなり何なりせねばならない。
 怯えた様子を見せる少女へと、銀の手甲に覆われた手が伸びる。
 少女は唇を震わせ、きゅうと結び――そして、『微笑った』。

「今です、皆さん!」

 少女――『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)の声とともに、甲冑を纏った騎士たちの背後に何かが落ちる。ウワァと悲鳴が上がる。慌てて動いた者の姿がいくつか消え、そして何人かが倒れ、見知らぬ幾人かが姿を現している。落とし穴へと騎士を突き落としたのであろう赤髪の男が、ニカリと笑った。
 ――嵌められた!
 残された騎士たちは気付いた。少女はただ逃げ回っていた訳ではない。此処へ誘ったのだ。
 事実に愕然としながらも腰の剣へと手を掛け、後方の襲撃者たちに合わせた陣形を整えようとし――草に足を取られ、ガシャンと重たい音を立てて転ぶ。その上に、新たに木々の上から翼を生やした少年たちが降るように降りてきて身柄を拘束される。
 剣を構えた騎士には、息をつく間もないほどの銃弾が降り注ぎ、弾幕を縫うように刀を持った白面の化粧を施した男が高らかに何事かを告げながら迫り、戦力をそいだ後に軍服を纏う生真面目そうな男が拳を当てて意識を奪っていく。
 視線を誘導するような小さな炎に、眩い光が爆ぜて視界を奪い、騎士が次々と倒されていく。これはいけないと先頭を駆けていた騎士は振り返り、木を背にした少女に手を伸ばすが――。
「諦めて、オイラたちに降伏してほしいな」
 その手がノースポールへ届くのを遮るように、何の気配も感じられなかった木々から大きな鷹の翼がバサリと落ちてくる。地に膝をついてから立ち上がり、帽子の位置を整えるのは『空歌う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)だ。
 落ちてくるのと同時に指揮棒を揮われた騎士は未だ立っていたが、突然何か『破滅の音色』でも聞こえたかのようにビクリと震えて硬直し、そのままふらりと倒れ意識を失った。
 残りの騎士たちもすぐに制圧すれば、森は元通りの静けさを取り戻す。敵兵12人に対し、此方は20人。予め仕掛けた罠も上手く作用し、そこまで騒ぎにならず素早く仕留めることが叶った。
「まずはご苦労さん」
「囮お疲れ様、ノースポール」
「皆さんも素晴らしい手際でした。この調子で次々いきましょう!」
「……落とし穴の底のアンタたち、聞こえるか? 今から引っ張り上げるが、アンタたち以外は全員捕縛済みだ。下手な真似はしない方がいいぜ」
「そうだな、あんた達は“破滅的”ではない。それに……あんた達は何も破滅をもたらす為に戦っている訳ではないだろう?」
 気絶させた騎士たちを縛り上げながら落とし穴へと声を掛ける『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)に続き、『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)が声を掛けた。破滅の予兆が『聴ける』R.R.には、彼らが“破滅的”ではない事が解る。どちらかと言うと、彼らは強権者によって破滅させられる側――被害者とも言える。悪党を破滅に導くのならば良いが、そうでないのならば美学に反する。抵抗しなければ命までは取らないと告げ、落とし穴に落とした騎士たちを仲間たちと協力して引き上げては縛り上げていった。
「馬鹿な領主のために命を落とすことはないわ。……あなたたち、本隊との連絡はどうするつもりだったの?」
 気合を入れてせっせと掘った落とし穴に騎士が掛かった事が嬉しいのか、少しだけ声を弾ませたディアナ・クラッセン(p3p007179)が落とし穴を再利用出来るように整えながら騎士たちへと声を掛ける。蝶よ花よと愛されて育ったディアナの白皙に泥が付いてしまっているが、此処にはそれを咎める人物――『常に淑女たれ』と愛を込めて厳しく躾けてくれたお父様は居ない。
「それで、どうなの?」
 癖で肩に掛かった髪を後ろへと払い、「あ、髪に泥がついちゃったわ」と口にするディアナに、落とし穴から引き上げられた騎士たちは互いに顔を見合わせ、キツく唇を結ぶ。大声を上げたり無理に暴れたりと抵抗はしないが、仕える主への不利益となる情報も漏らさない構えだ。拷問等をすれば別だろうが、イレギュラーズたちもそこまでして情報を引き出そうとは思っていない。
「お馬鹿さんね。あなたたちが義理立てする必要がある相手ではないのに」
「愚陋な指揮官の下、無駄にやられる為だけに森へと足を踏み入れる騎士たち……。嗚呼、なんと……なんと不憫な事じゃ! 不憫! あまりにも不憫! なるたけ殺さず無力化できるよう、麿は仕掛けを拵えて参るぞ!」
 情報を漏らさないのならと一応の猿轡を噛ませた騎士たちを、味方側の森の入り口へと運ぶように味方兵士へと指揮をするノースポールとアクセルの傍らを『殿』一条 夢心地(p3p008344)が騎士たちを憐れみながらも素早く駆けていく。
 夢心地と入れ替わりになるようにパタパタと飛んできた黒い何かが、毛先にいくにつれ朱銀の混ざる銀髪の乙女の指先へと止まった。
『キィ』
「ご苦労さま。――周囲に残されている敵兵はいないようです」
 指先に蝙蝠を止めた『優愛の吸血種』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が、空いている手で蝙蝠を撫でてやりながら報告する。
「向こうの入り口側も、今の所動きがないようですね。引き続き監視します」
 第一分隊が森へ入ったことを仲間たちに知らせた後も敵側の森の入口に忍ばせておいたファミリアーのリスで監視を続けている『挫けぬ軍狼』日車・迅(p3p007500)も報告をすれば、僅かながらに仲間たちの肩の強張りが解けた。動き出したことを彼が知らせてくれれば、その後に身を潜ませても充分な時間がある。また、第一分隊と第二分隊の時間の開き具合を測っておくことは、第三分隊が動き出す時間も識ることができる。
「っと、捕虜にした騎士の鎧をひとつ貰えるか?」
「ん。何かに使えそう? シュワルベー、ちょっと待ってー」
「鎧? じゃあ、ちょっと拝借して……」
「カイト、鎧を着るの?」
「そうそう、とりさん騎士に大変身して……まあ囮だな!」
「その兜では視界があまり良いとは言えませんし、声も籠もって正しい音では聞こえないでしょうから、良いかも知れませんね」
 騎士から拝借した鎧を身に付けていくカイトへ、ユーリエがサポートは任せてくださいと申し出る。ハイセンスを有している彼女は敵の位置を識れるため、近付いてきたら知らせますねと頷いた。
 第二分隊が動き出すまで、イレギュラーズたちは使った罠を再利用できるようにしたり、新たに罠を足したりと森の中を動き回る。事前に空を飛べる者たちで簡単な地図を作り仕掛ける罠の情報を共有しているため、無駄なく足りていないところを補える。
「正々堂々と戦場で渡り合うのも仕事だけれど、こうやって……汗を流すのも仕事のうち……なのね」
 新たに落とし穴を掘り、ディアナはふうと手の甲で汗を拭う。ディアナがこんな作業を知ったらお父様はきっと腰を抜かしてしまうけれど、この仕事は無駄に命が失われないための仕事。何よりも大切なのは民の命だ。向かってくる敵兵――騎士たちは、運悪くミーミルンド陣営の領地に生まれてしまっただけの幻想王国民だ。無駄に命を散らしていい命なんてひとつもない。
「『あからさまに罠です』っていうダミーも作っておくのもありよね? ふふ、楽しくなってきたわ」
 ディアナはもう籠の鳥ではない。世間知らずではあるけれど、外に出ればやれることが少しずつ増えていく。自身の成長を感じながら、次の分隊も上手く引っ掛かってくれるかしらと鈴音を転がした。

●SECOND TRAP!!
「これは、どっちだ?」
「こっちじゃないか?」
 地面に並べられた枝が、何かの記号を示している。その枝が示すと思われる木を見れば、草葉に隠れた木の根本にまた何かの記号。ミーミルンド陣営側の森の入口から歩いて来なければ見えないようにされているから、先に出た分隊が安全なルートを示すために残したものだろう。そう判断した第二分隊は、その記号を追って森の中を進んでいく。時折見つける違う記号は、きっと仕掛けだ。敵がその印に気付いた時に見当違いの場所へと導くためのものだろう。
「お、いたぞ」
 騎士たちの前方で、自分たちと同じ銀の鎧が大きく手を振り、こっちだと示している。頭上で小さく葉が揺れたが、森に住む小動物たちだろう。騎士たちは先行している仲間の元へと歩を進めた。
 そのどれもが、イレギュラーズたちが用意した罠とも知らずに。
 先行していた仲間の元へたどり着けば、あちらを見ろと示される。そこには木々の間に柵が作られ、真っ直ぐに進むことが出来ないようにされていた。避けて進行すれば、見え難くされているが何らかの痕跡が見える。敵も大急ぎで罠を拵えたのだろうが、お粗末なことだと騎士たちは肩をすくめ合う。
 この場で第二分隊を待っていた先行隊の男は、之を知らせるために待機してくれていたのだろう。進む方向はあっちだと示された方角へ騎士たちは疑わずに進み――。
「!?」
 何かに足を引っ掛けた。
 雪崩れるように転んだ騎士たちの足元には、木と木の間に張られたワイヤーに、他の草に隠れるように結ばれた草。示された柵に意識が向いていたせいで、次に進む方角の足元への意識が完全に疎かになっていた。
 倒れなかった者が慌ててよろけるように移動すれば、『地面が消えた』。直前にお粗末な罠を見たせいで巧妙に隠されていた罠に気付け無かった。
「空を飛べないやつは不便だな!」
「き、貴様……! まさか!」
「悪いな。その『まさか』だ!」
 仲間だと信じ切っていた男が笑って兜を取れば、赤髪の知らぬ顔。
「みんな、行くよ!」
 木の上で待機していたアクセルとシュワルベたちが退路を塞ぎ、他の仲間達も木の陰から姿を表わすと同時に制圧にかかる。そこからあとは前回と同様の流れに持ち込み、多少のアクシデントはあったものの、仲間たちと協力しあい第二分隊も誰ひとり殺すこと無く捕縛することが適った。
「これでふたつめ、ですね」
「はい! とても順調です! けど……」
 罠のお陰で怪我も最小限に押さえる事が適っており、順調だ。順調ではあるが、疲労は溜まる。少し疲れた様子が見えてきている兵士たちへとノースポールが視線を送った。
「みんな、そろそろ疲れてきた頃だよね? けど、あと少しだよ。オイラたちと最後まで頑張ろう!」
「者ども。正義とやらの在り方は俺には分からん。だが、自分たちは正しいことをしていると思っておけ。それで十分、力になる」
「残すはあと一分隊のみです。部隊の隊長が居ると思いますが、大丈夫です。貴殿らには僕たちがついています」
「「はい!!」」
 力強いR.R.と迅の言葉に、アクセルから治療を受けていた兵士たちの顔が引き締まった。

●FINAL TRAP!!!
 先に出た第一分隊も第二分隊も、帰ってこない上に連絡もない。
「敵に待ち伏せされていると思って良さそうだな。みな、気を抜かぬように!」
「「「は!!」」」
 森の外で待機していた最後の分隊が、部隊長の声に気を引き締め、規律ある動きで森へと入っていく。
「動き出しました」
「此方でも確認が取れています」
 リスから得た報告をする迅に、ユーリエも言葉を重ねる。リスはそのまま木を伝い第三分隊の後を追い、蝙蝠は気付かれないように高くを飛ばしてユーリエの元へ帰還させる。ノースポールのエコロケーションとユーリエのハイセンスで大体の位置を把握し、騎士たちがどのルートを通るかの予想を立て、各自の持ち場に着くこととなる。
 翼のあるカイトとアクセル。それからシュワルベたちは迷彩色のマントに身を包んだ上で闇の帳を用いて、高い木の枝の上に。ノースポールは領民の兵士たちを連れて離れた場所に潜み、他の仲間たちは木々や草葉の影へと身を潜ませた。

 隊長率いる第三分隊は慎重だった。
「ふむ」
 あからさまな罠の痕跡が窺える箇所を見つけると、サッと片手を上げて騎士たちの歩みを止め、その罠から状況を正しく整理していく。
 まず解るのは、罠を仕掛ける敵が確実にこの森にいること。そして、使用された形跡がないことから、第二分隊は此処を通っていないこと。そしてお粗末に罠設置の痕跡を残すことで其処を避けさせ、騎士たちの行動を誘導している可能性があること。
 上げた片手を振り、長物を持った騎士にあからさまな罠の痕跡を調べさせる。――やはりブラフだ。意味ありげな記号も、先行隊が残したと見せかけて第二分隊を誘うものに違いない。
 しかし、隊長は『敢えて』その誘いに乗ることとした。部隊を預かる身として、先行した騎士たちの安否を知りたかったからだ。彼にはその責任を負う意思があった。
 彼等は注意深く進行した。罠を警戒し、剣で前方の草むらを確認しながら森の中を進む。仕掛けられている罠は足元ばかりを狙っており、仕掛け網が降ってくることも、何かに引っ掛かったら石が飛んでくる等、頭上を気にする必要がなかったため、視界が悪くとも慎重に進めば回避することが可能であった。
「うわっ!」
「大丈夫か!」
 それでも時折、罠に掛かる。草結びを避けた先に巧妙に隠された落とし穴があったり、進めば進むほど手が込んだ罠が増えているせいだ。罠に掛かった騎士を数名の騎士に任せて進むことは可能だが、隊長はそうはしない。少人数になった途端、狙われる可能性が高いからだ。
 だからイレギュラーズたちは、騎士が罠にかかったタイミングで姿を表わすことにした。
「……敵兵か」
 落とし穴に落ちている騎士を助け出している最中に、仲間とタイミングを合わせて木の陰から飛び出した迅に気付いた隊長が剣を構える。素早く連撃を食らわせて後退する隙間に夢心地が切り結び、騎士たちの意識がそちらへ向いた。
 その時。
「鳥の勇者様の登場だ! っても、幻想だとあんまり有名じゃないかもな? まあ何にせよ、勇者様に楯突く悪いやつには空からお仕置きだ!」
「シュワルベたち! いくよ!」
 木の上で待機していたカイトとアクセルたちが後方の騎士へと上方からの奇襲をしかけ、そのタイミングで他の仲間たちも一斉に攻撃を仕掛ける。
 弱っていない騎士には高火力を出せる迅と夢心地が斬り込み、まだそこそこ余裕がありそうな騎士にはR.R.が纏めて範囲攻撃を食らわせた上でカイトとユーリエが相手をし、アクセルが纏めて範囲攻撃で殺さず意識を奪っていく。
「まだ駆け出しだけど、甘く見ないでちょうだいね?」
「私達は殺し合いがしたいわけじゃない。この国を守りたいんです」
「我等の領地へ攻め込んでいるのは貴殿等であろう!」
「真実はちゃんと自分の目で確かめませんと……ほら」
 範囲外の騎士はユーリエの蝙蝠で視界を奪ったところに、ディアナとノースポールが念力や足技を用いて罠へと嵌めた。
 罠を利用しての攻勢に、騎士たちは制圧されていき――隊長のみが残った。
 多勢にひとり。それでも隊長は剣を手放さない。
「降参、してください」
「くっ」
 それでも。
 剣を降ろさない隊長の懐へ白面が素早く忍び込み、剣へ刀を撃ち込む。力の籠もった一撃ではない。ただ、手放すようにと促す動きで。
「人生色々。誰も彼もこの先、真の意味で命を賭けねばならぬ戦場もあるじゃろう。故に、このようなところで無駄な命を散らすことは、この麿が許さぬよ」
「……部下たちの安全を保障してほしい」
 手放された剣が、柔らかな草に沈んだ。

成否

成功

MVP

一条 夢心地(p3p008344)
殿

状態異常

なし

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。

純戦とは違う、力をぶつけ合うことだけが戦いではない。
そんなシナリオでしたが、お楽しみ頂けたでしょうか?
MVPは罠を沢山考えてくれたあなたに。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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