シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>明暗わかつまで
オープニング
●
夕焼けの映ゆる黄昏の丘――ヴィーグリーズの丘に、幻想『レガドイルシオン』に反旗を翻したミーミルンド派の軍勢と王国の軍勢が集結していた。
幻想を襲った魔物の大量発生、レガリアの盗難、奴隷市、それに加えたイレギュラーズの領地への襲撃。
それらの事件を引き起こしたベルナール・フォン・ミーミルンドが派閥、ミーミルンドの目論見はその過半数を悉くイレギュラーズが打ち砕いていた。
強奪した王権の象徴たる角笛を掲げ、巨人や古代獣を頼りとする彼らが、乾坤一擲――あるいは自棄ともする行動に出た。
それは――王権簒奪。
長期的に見れば自分達にとっても不都合であろう大ダメージを国に与えた彼らの、無謀にも等しき策であった。
「ジュリアス卿のみですか」
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は自分達が相対するミーミルンド派の敵を見てとった。
「そのようです。……いかに魔種とはいえ、兵40とイレギュラーズ8人を相手に勝てる見込みはないと思うのですが」
そう答えたのは、長剣を佩く青髪の青年――メイナードである。
「そうだね、他の戦場では古代獣や巨人もいるはずだし彼だけでは無理だと思うけど」
同じように訝しむ様子を見せたマルク・シリング(p3p001309)が頷くのと、それはほとんど同時に起きた。
「ブラウ――ベルク!!!!」
発狂のような怒号が響く。広大なる平原を、黒が冒していく。
騎士のような姿に変じた敵――魔種ジュリアス・アスクウィス、その全身からあふれ出る漆黒の魔力が、大地に広がっていく。
やがて、魔力に侵された大地が隆起して、巨人のような姿を取った。
1体、2体、3体と、どんどんと量産される巨人のような怪物は、瞬く間に20に達し――咆哮が轟いた。
「なるほど――そういうことでしたか」
リースリットは『それ』がアスクウィス邸に訪れてジュリアスと出会った時に生み出されていたモノと同質であることを直ぐに理解した。
ちらりと掲げられている旗を見る。
メイナードが隊長を務めるメイナード隊と、もう一つ。
それは今回の受けた依頼(オーダー)で、わざわざ掲げることを念押しされた旗。
「正直、顔も知らぬ大昔の始祖の因縁に付き合わされても……と思うところはありますが。
私が出ても出来ることは死ぬだけですし、止められねば死ぬのは同じ……ここでお待ちします。
――それでも、アスクウィスだけは私が蒔いた種でもある。
どうか、この旗を掲げてください。受ける憎しみは受けきってみせましょう」
――そう、依頼人たるテレーゼが言っていった。
「ブラウベルク家への個人的な憎悪は、巨人ともミーミルンドとも振り払ってでも優先するものってわけだね」
マルクも頷いて視線を敵に投げる。
「準備はよろしいですか、皆様」
続けるように赤髪の女性――イングヒルトがイレギュラーズを見渡した。
それに頷くと同時、兵士達が動き出す。
●
振り下ろされた巨人の腕を、青髪の騎士――メイナードが何とか防ぎ、押し返すように剣を振るう。
「巨人と恐れるな! されど侮るな! 身長差はさほどの物でもない!
落ち着いて敵の腱を切って倒せば対処できる!」
押し返した巨人の足首辺り目掛け、メイナードは剣を薙いだ。
その巨人がふらりと倒れ――弾けるように黒に代わった。
その直後、はるか向こうで1体、新たな巨人が生まれていく。
その様子を見ていたマルクが目を見開くのと同時、メイナードが下がってくる。
「……ジュリアスを討ち取らないと、きっかり20体になり続けるみたいだね」
マルクは思わずつぶやいて。
「……マルク様、1つご提案が」
それを受けたメイナードが話しかけてくる。
「この巨人に関して、我々ブラウベルク軍にお任せください。
我々が耐えられる間に、イレギュラーズの皆様でジュリアス卿を討ち取っていただければと」
「そうするしかないかな」
「はい。……総員! 我々で持ちこたえるぞ!
勇者(イレギュラーズ)の皆様が行くだけの隙を作るのだ!」
頷くと同時、メイナードは兵士達へ指示を与えていく。
「マルク様、リースリット様、他の皆様も。
私に――いえ、私達に着いてきてください。一気に駆け抜けます」
イレギュラーズが一度やや下がると、イングヒルトが4人の兵士と共に声をかける。
「ええ……そうするしかなさそうです」
視線の先には、巨人の1体が崩れ落ちて新たに姿を見せるのが見える。
リースリットが頷くのと同時、イレギュラーズはイングヒルトを先頭に走り抜けた。
目指すは――魔種の首。
- <ヴィーグリーズ会戦>明暗わかつまで完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年07月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
風に旗が靡いている。
怨嗟に満ちた声は戦場の何処かから、風に乗ってここまで伝わってくるものだ。
(やれ、逆恨みでここまで暴れられるというのもある種の才能と言えるかもしれんね。
なんにせよ、憤怒に囚われて隙を作ってくれているのであればありがたい。
脅威と認識される前に事を為すことにしようじゃないか)
激昂露わな敵を見て『不死身ノ勇者』武器商人(p3p001107)は怪しく笑う。
「さァ、キミたちにはブラウベルク名代が味方についている。恐れずに戦おうじゃあないか。ヒヒヒヒヒ!」
笑みを深く、それだけ告げて、武器商人はちらりと後ろを見る。
吹き付けた風に導かれるように翻る旗の下、マルク・シリング(p3p001309)は己が杖を天へと突きつけた。
「これはミールミンド派との戦いに非ず! ブラウベルクと、オランジュベネ残党軍の戦いだ!
ならばこそ、テレーゼ様の剣としてブラウベルクの旗を預かる、黒狼の軍師、マルク・シリングが宣言する! この戦は我ら、ブラウベルクが勝利すると!」
「此処に在るブラウベルクの旗――この旗が折れぬ限り、決して負けることはありません!
ですから、どうか私たちを信じて――そして、貴方達を、信じます!」
続けるように、『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)も兵へと声をかけた。
2人が合わせて発したその大見得を受けて、ブラウベルク兵達が呼応するように雄叫びを上げる。
「……あの彼の、父親ですか」
リンディスの脳裏に浮かぶのは、依頼人――テレーゼを暗殺せんとした仮面の男。
結局は倒れた彼の父が、この先にいるジュリアスだという。
「……行きましょう。悲しい物語を、終わらせるため」
かすかにマルクの方を見て、頷いてから走り出した。
(頼むよ、メイナードさん、イングヒルトさん)
後ろで戦っている彼らへ心の中でそう告げて、マルクもジュリアスの正面へと立ちふさがる。
「――貴様は……!」
漆黒の鎧、見えないはずの敵の双眸が、血走ってこちらを見下ろしているのが伝わってくる。
「決着の時だ、ジュリアス・アスクウィス」
杖に魔力を集中させ、突きつけるように敵へ向ける。
(隊長不在だけどソコはまあ黒狼隊。今回それなり隊員数揃ってるし、
隊としての示しってヤツを良い感じに残してけりゃあ、今後も活動しやすくなる……って寸法だよなぁ~)
携えた槍をくるりと振るって、『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)は地面へ振り下ろした槍をパンと響かせた。
「俺達ゃ勇者御一行! 幻想に轟くは! 我等イレギュラーズにブラウベルク軍! ってなぁ!」
文字通りの竹を割ったような爆音と共に、告げれば、戦場に響き渡る。
同時、夏子は一気に走る。飛燕の如く駆け抜け、槍を払う。
打ち込んだ槍がジュリアスの黒い鎧に防がれた。
「没落した原因に対する逆恨みなのか、正当な恨みなのか……。わたしにはその心中を推し量ることはできない……。
けれど、超えてはいけない線って、あると思うんだ」
霊樹の大剣を握り締め、『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は敵の方を見た。
(『深い恨みや憎しみを恨みを抱えたことがないからそんな風に言えるんだ』って思われそうだけど……)
敵――ジュリアスを見ながら、忘れずに、と振り返る。
「ブラウベルク軍のみんな。倒しても数が増えるとか、ちょーっとふざけんな? って感じの相手さんだけど。
わたしたちも頑張るから、何とか持ちこたえてね! でも、無茶はしないでねー!」
それだけ言って、敵に向かって走り出す。
(人の恨みと言うのは、時に大きな力を起こす事がある。
今回の敵に関しては言えば、まさにその通りなのだが……同時に、恨みや怒りは冷静な判断力を失いやすい。
グランドタイラントの増産に力を注いでるこの状態は、吾輩達にとってチャンスとなるだろう)
その腕に魔力を収束させながら、異界の魔王――『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は敵を見る。
視線を後ろに向ければ、グランドタイラントと武器を交わすブラウベルク軍。
(此処で攻撃を加えたところで、ジュリアスを倒さねば無限に湧いてくる。
なるべく力は温存しておきたいところだ……)
視線を前に返して、グレイシアは走り出した。
(没落の原因、怨恨か……逆恨みってあたりか? 幻想の闇にゃいくらでも転がっていそうな話だ)
大空を舞う『竜の力を求めて』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は淀みに覆われた敵をただ静かに見下ろしていた。
手に握る魔杖に魔力を籠めて、レイヴンはジュリアスの頭上へ飛翔する。
弦を引き絞り、眼下にいる敵はこちらに気づかず。
かつての――執行人であった頃のように、静かに弾き絞った。
「イングヒルトさん、あちらは……お任せ致します。御武運を」
魔種――ジュリアスの下へと到達した『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は、視線をイングヒルトに向けた。
「お任せください。――皆様も、御武運を」
静かにそう言って、イングヒルトはくるりと身を翻し後ろ――グランドタイラントの方へと駆け抜けていった。
その足音を感じながら、リースリットもまた、前へ。
「ジュリアス卿、御覚悟」
抜いた緋炎に込めた風の祝福を、黒き騎士鎧の魔種へと振り抜いた。
●
漆黒の魔力が、極大の塊となっていく。
それはまるで魔力で出来た大剣のように。
(特に、動く心情は無い。
――仕事だから敵を刈る
――魔種だから敵を刈る)
敵を見下ろして、レイヴンは静かに杖を構えた。
ジュリアスが横に向けた魔力の塊。
吸い上げられた魔力を受け、杖が鎌の刃へ変えて横に払う。
大地へ向かって駆け抜けた斬撃は動く腕の動きを見越したように、あるいは断頭台へ落ちる刃のように撃ち込まれた。
よどみの魔力を貫通し、ジュリアスの腕へと傷を刻む。
「――のれぇぇ!!!!」
激昂した魔種が咆哮をあげ、極大の魔力塊を横に薙いだ。
漆黒の閃光が、夏子やマルク、リンディス、武器商人を射程に包んで薙ぎ払う。
「え? もしかして怒ってる?」
くるりとグロリアスを構えなおして、夏子は敵を見て挑発気味に声を上げて槍を叩きつけた。
光を放ち、炸裂音が響き渡る。
「アンタって……いや言うの辞めとこ。本当のコト言うの悪ぃしな? 侮辱とか趣味じゃないし」
武器商人はマルクの前に立ちふさがってその閃光を身に受けると同時、反撃の魔術を撃ち込んだ。
「ヒヒヒヒヒ! さァ、アスクウィスの旦那、まだまだやれるだろう?」
冷笑気味に告げた武器商人に、ジュリアスの瞳がかち合う。
リンディスは攻撃にさらされるマルクの近くにいた。
(……ブラウベルクの旗を掲げ、今必死に戦い抜くマルクさんを護り抜く。
彼の輝き、絶対に消しはさせません。回復支援陣形補佐、私のすべてを以て『援』けましょう)
紐解かれた白紙の魔術書へ、紅の羽筆が奔る。それは広域俯瞰より導かれた十全の戦術。
導かれた戦術をマルクに伝えれば、こくりと彼が頷いた。
「ジュリアスさん。こうなる前に、なにかいい方策があればよかったのにね……って思うよ。
子供の戯言かもしれないけどね」
少女の、ルアナの双眸が誰にも気づかれぬほどの刹那に英雄のように鋭く変質。
勢いに任せるように、霊樹の大剣を以って描くは審判の刃。
審判の斬撃が魔種の纏う澱みを祓う。
「あのインチキ臭いやつ……あれ、わたしも使えるようにならないかな」
その姿を見せた魔種へ、ぽつりと思わずつぶやいた。
「……そこまで憎いですか、ジュリアス卿。全てを自ら擲ってしまう程に」
風の加護を剣身へ纏い、敵を見るリースリットは激昂するままに魔力の暴力を振るう敵を見据えた。
(イオリアス然り、拗れた関係の果てに剣を以て勝敗を決したならば、敗者に待つものは……
廃嫡になったという元嫡男が暗殺者の真似事をしたのも、決して命じられて意に添わずという訳でもないのでしょう)
踏み込みの刹那に放たれる風の斬撃が露出したジュリアスを切り刻む。
「ありがとう、リンディスさん――」
導き出されたその瞬間に、マルクは静かに魔弾を放つ。
撃ち抜かれた高密度の魔力弾が、スパークを迸らせて姿を露出させたジュリアスへと炸裂する。
連撃に動きを鈍らせたジュリアスの瞳が、絶えずマルクを見ている。
(他の何よりも優先して、フラウベルク家へ向けられる憎悪。
その恨みを晴らした時、一体何が残るのだろうか)
激昂し続けるジュリアスにグレイシアは静かに見据えて魔力を拳に収束させた。
露出した魔種の本隊目掛けて放たれた漆黒の魔力は、やがて獣の姿を取って食らいつく。
「忌々しい――忌々しい!!」
ジュリアスが憎悪を放つ。
それが淀みとなってジュリアスの身体に纏わりついていく。
それを見据え、レイヴンは静かに魔力を練り上げた。
禍々しき断頭の刃が魔杖に伸びる。
「その鎧では一息に首を落すとはいかなそうだな」
振り抜いた斬撃は真っすぐに鎧へと姿を変える澱みを刻み、一部を削り落とす。
続けるようにグレイシアは走り抜ける。
手刀に魔力を帯びて、叩きつけるように捌けば、澱みを帯びたジュリアスの身体を薙ぎ払う。
瞬間、ジュリアスの帯びた魔力が吹き飛ばされる。
それを受けた瞬間、武器商人は自らの身体に満ちる魔力が蠢くのを感じ取る。
「ヒヒヒヒヒ、シリングの旦那、どうやらそろそろ交代の時間だよ」
「うん、分かったよ武器商人さん」
命の法衣に編まれた護符が魔力に応じて熱を帯びていく。
振るった杖より描き出すは癒しの聖域。
傷を負った仲間たちの傷をいやす祝福の領域。
強烈な輝きと共に白亜の領域が輝いた。
●
戦いは続いている。
1体、新たなグランドタイラントがジュリアスの周囲に姿を見せる。
願ったように振われるジュリアスの攻撃は、それが故に読みやすい。
リンディスは魔力を籠めて紅筆を走らせる。
「私がいる限り、絶対に彼を倒させはしません」
ハーフ・アムリタへと口を付けて、魔力を振り絞る。
導き出した次の一手を魔術書に書きなぐり、空へと放つ。
輝く色が美しく紡がれていく。
「やっぱ怒ってるの? なんで? ごめんなアンタのコト知らなくて」
関わってこなかった以上、当たり散らすばかりの敵の理由は判らない。
「知らぬなら――手を出すな、小僧!」
血走った両目を剥いて、ジュリアスが夏子の前から離れてマルクの方へと走り抜ける。
「さァて、アスクウィスの旦那、ここからは我(アタシ)も攻めに回ろうか」
ジュリアスの方へと移動して、武器商人は胡乱に笑う。
その身へと頂くは2つの魔術。
1つはあり得ざる勝利を捻じ曲げ実現する勝利の魔術。
1つは英雄譚を紡ぐ高みを抱く魔術。
逆境を得て強化される己の力をそのままに、武器商人はソレを行使する。
それはまるで深淵を覗いたかのような闇を以って、ジュリアスの精神を侵食していく。
「なるほど、交代ね」
前へ来た武器商人を見て、夏子はマルクの前へと移動する。
「どこまでも、邪魔立てするか――」
くるりと槍を構えれば、敵の憎悪に満ちた目が夏子を見ていた。
「ま~知らない仲でもないしね」
閃く斬撃、合わせるように構えた槍を越えて斬撃が撃ち込まれる。
合わせるように、夏子は反撃の刺突を放った。
(……なるほど、弾切れですか)
そんな様子を見て、リースリットは再び肉薄する。
握りしめた緋炎が帯びるは雷鳴。
振り抜かれた雷光の一閃は真っすぐにジュリアスの身体を斬り開く。
防御態勢を取った敵に雷が走り、その身体に痕跡を残す。
「――負けません」
リンディスは言葉を残して、再び魔力を筆に乗せて紡ぎ出す。
鮮やかな燐光を放ち降り注ぐそれはさる医師団の伝承。
多くの人々を救った逸話を紡ぎ、刻まれた多くの傷を温かに癒していく。
続けるようにして紡ぐは更新された戦略。
新たなフェーズに入った戦場での最適解を導き出したそれを、仲間へともたらしていく。
マルクも続けるように魔力を込めた。
周囲にいる者は兵士も多い。
近くの兵士も巻き込むように、マルクは聖域の魔術を再び行使する。
ここまで来た。だからこそ、ここからだ。
(一旦離れた方がいいけど……)
心を落ち着かせて、奮い立たせて、マルクはジュリアスの血走った目に視線を向けた。
そのまま兵士達から離れるように走り出した。
●
パンドラの光が幾つも輝き、重傷を受けた者も少なくない。
その一方で、ジュリアスの傷も確実に増えていきつつあった。
余力を失ったのか、グランドタイラントの増産速度が確実に減っている。
「ふ、ふざけるな……ぐ、ぐぅ……」
膝を屈しながら、ぎろりとジュリアスが睨む。
紳士風の姿を露出させるジュリアスが、震えながらボロボロの剣を握り、激昂する。
踏み込んだジュリアスが剣を握り、マルクへめがけて剣を放つ。
合わせるように、夏子は自身の身体を曝け出すようにして槍を構えた。
苛烈な攻撃に全身を切り刻まれながら、夏子は反撃の槍を叩き込む。
「人間棄てちゃあおしまいだぜ」
言って、こちらを見てさえいない魔種に向けて、槍を振り下ろした。
リンディスは紅の羽筆を走らせ続ける。
かつての記録より紐解いた癒し手の魔力を攻撃を受けた夏子へと注ぎ込んだ。
美しき癒し手の魔力は温かく夏子の身体を包み込み、削られた体力を癒していく。
「この場所で、終わりにしよ?」
戻るに戻れないとばかりに激昂するジュリアスへ、ルアナは大剣を向けた。
全身へ魔力をみなぎらせ、ルアナは真っすぐに凍刃を振り抜いた。
澱みを失った紳士へ振り抜かれた冷気纏う絶凍の刃に、ジュリアスの身体が凍てついていく。
武器商人は自らへ英霊の物語を降ろす。
「ヒヒヒヒヒ」
その身に宿るインチキのような『勝利』への片道切符。
受ければ受けるほど脅威を増す魔術の神髄。
行使される魔術は、血走るジュリアスの双眸を映し取り、夢想の向こう側でその身体を貪り喰らう。
(此処まで何もかもを喪わずに済む道も間違いなくあった筈。
それを選べなかったのは……廃嫡騒動で精神の平衡を欠いていたらしい事、その上でオランジュベネの乱……そして反転。
せめて最初の不幸が無かったならと思っても、もはや詮無き事ですね)
リースリットの握る水晶の剣が、鋭い魔力を帯びる。
(多くの力を割いてでもブラウベルクを滅ぼさんとする憎悪。
私達がしてあげられる事としては唯一つ)
「――ジュリアス卿。その妄執、断ち切って差し上げます。もう、終わりになさいませ」
収束した緋色の魔力が霧のように散り広がっていく。
剣閃が緋色に彩られた氷をジュリアスへともたらしていく。
「お前には因縁も縁も無いが、どの道、魔種に堕ちた以上は死んでもらう」
かつての処刑人の如く、レイヴンは静かに魔杖から魔力の刃を紡ぎ静かに振り払う。
それは静かなる断罪、間合いなく守りさえ許さない。
研ぎ澄まされた斬線はゆるぎなく。
「これで終わりだ、ジュリアス――!!」
マルクは声を張り上げるようにしてジュリアスを見た。
収束させた魔力を幾重にも、幾重にも重ねていく。
紡がれる魔力はスパークを放ち、法衣に編み込まれた護符が熱を帯びた。
厄災を持つ究極の閃光が瞬いた。
苛烈な砲撃が、真っすぐに魔種の身体を焼き払う。
「ぐぅぅぅあぁぁ!!」
血走った眼で、叫ぶジュリアスがもう一度剣を握り締める。
その剣がすぐ近くにいたグレイシアを狙う。
静かに切り裂かれた身体が傷を生じたのと同時、グレイシアは手刀に魔力を籠めた。
まるで未来を奪うように、或いは動きを奪うように。
後の先を描いた手刀が貫き、護りを削り落とし、必中を果たす。
追撃の一太刀が刺されば、ジュリアスの身体が崩れていった。
●
「どうか、皆様は他の戦場へ――」
メイナードと言ったか、青髪の青年が叫ぶ。
ジュリアスが倒れたことで、グランドタイラントは永続しなくなった。
「助かるぜ! 僕等が戦えるのも、貴君等の様な勇者が居てくれるからだ!」
ジュリアスが倒れる寸前、近くに出現したばかりの最後になるであろうグランドタイラントをメイナード隊の方へ吹き飛ばして、夏子は言う。
まだ戦いは終わっていない。
次へと、イレギュラーズは走り出した。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
MVPは作戦上、最も危険であった立ち位置の貴方へ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは。春野紅葉です。
リースリットさん、マルクさんのアフターアクションでもあります。
●オーダー
【1】ジュリアス・アスクウィスの討伐。
【2】ブラウベルク軍の壊滅阻止。
●フィールド
ヴィーグリーズの丘に存在する平野部です。
視界は良好、巨人と兵士の戦う声が聞こえてくる戦場のど真ん中です。
●エネミーデータ
・『怒れる老騎士』ジュリアス・アスクウィス
魔種です。全身を漆黒の魔力で出来た鎧で包んだ騎士風の姿をしています。
当シナリオ中はその力の殆どを『自分が没落した所以たるブラウベルク家の軍勢を壊滅させるため、グランドタイラントを増産する事』に向けています。
そのため『<ナグルファルの兆し>怒れる騎士と流転する槍媛(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5842)』よりもかなり弱体化しています。
神攻系の攻撃を振るいます。
<スキル>
昏き斬塊(A):濃密な魔力の塊を真っすぐに振り下ろして直線状を斬り払います。
神超貫 威力中 【渾身】【万能】
昏き薙閃(A):濃密な魔力を振り抜いて薙ぎ払います。
神超扇 威力中 【渾身】【万能】
昏き澱(A):自身を中心に溢れ出す魔力を爆発させて周囲を攻撃します。
神自域 威力中 【渾身】【万能】
昏き棘(A):死を齎す刃を対象へ叩きつけます。
神近単 威力大 【弱点】【邪道】【変幻】【スプラッシュ3】【必中】【必殺】
魔鎧(A):全身を覆う澱みの鎧です。
神自付 【神攻大アップ】【防技大アップ】【抵抗大アップ】【命中大アップ】【能率】
・グランドタイラント×20
周囲の死霊が魔力と反応して暴走し、2mほどの巨人風に姿を変えたものです。
正確にはどちらかというと悪霊やゴーレムの類に分類できます。
【乱れ】系統、【足止め】系統のBSを持ちます。
ジュリアスが倒れない限り、常にその数を20体でキープします。
●友軍データ
・ブラウベルク軍×40(メイナード、イングヒルト含む)
テレーゼ・フォン・ブラウベルクを領主代行とするブラウベルク家の私兵です。
士気が高く、戦線の維持に全力を尽くしてくれています。
とはいえ、ジュリアスを討伐しない限りは永続的に姿を見せるグランドタイラント相手ではいつかは力尽きます。
戦いの勝敗は皆様の活躍にかかっています。
・『忘れられた武略』メイナード
やや長めの剣を佩き、甲冑に身を包んだ姿は騎士のように見えます。
タンクとして堂々とした堅実な行動を行い、ブラウベルク軍の指揮を行いながら戦線を維持します。
腕はブラウベルク軍兵の中で飛びぬけており、申し分ありません。
・『流転する槍媛』イングヒルト
槍を片手にやや軽装な鎧姿をしており、騎士というよりは戦士といった雰囲気があります。
手数と反応速度を駆使して攻めかかり、本命のアタッカーへつなぐサポート役のような動きを熟します。
皆さんをジュリアスの下へ送り届けた後はグランドタイラントとの戦いに移行しています。
腕はブラウベルク軍兵の中で飛びぬけており、申し分ありません。
●士気ボーナス
今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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