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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>偽りの仇敵

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●真の仇は誰か
「遂に姉上の仇を討つ時が来たか……」
 流れの魔術師団団長・ヴェンデルはそう呟きながら地面の草を焼く。
 焼痕は巨大且つ不可思議な紋様の魔法陣だった。
「ヴェンデル殿、ヴェンデル殿、本当に、本当に大丈夫なのですね? 我らが主・ベイル子爵の悲願を達成させるためには退くわけにいかないのですよ? 要するに、要するに、失敗は許されないのですよ? イレギュラーズに敗北するなどあれば――」
「――誰が負けると?」
 ヴェンデルの元にやってきた口煩そうな――いや、実際に口煩いのだが――執事の喉元に長杖の先が微かに当たる。
 それだけでたらりと血が滴り、執事は悲鳴を上げた。
「子爵に伝えておけ。私の敗北を心配する暇があるなら、今すぐこの丘を去り土地屋敷全て捨ててさっさと逃げるがいい、それが嫌なら黙って見ていろ、とな」

 慌てふためきながら主の元へと駆け去っていく執事に呆れたように息を吐き、ヴェンデルは四人の弟子たちを呼び集める。
「分かっているだろうが、此度の戦いはあの子爵を死なせたら負けだ。幾つ糞をつけても足りない糞子爵だが、奴の本陣は憎きイレギュラーズから死守しなければならない。とはいえ、糞子爵を守るなど意にそぐわぬと言う者を責めるつもりはない。むしろ、お前たちは今ここで離脱し、新たな人生を歩むべきだと私は思っている」
 ヴェンデルは真剣な面持ちで告げたが、弟子たちは薄笑いを浮かべた。
「何言っちゃってるんすか、団長」
「カッコつけないでちょうだい」
「今更ですよ。ここまで来たなら一緒にお姉様の仇を討ちましょう」
「団長に拾われたからこそ今の私たちがあるのです。私たちは全員、人生の終焉を団長の傍で迎えるつもりです」
 四人の弟子たちは、ヴェンデルが本懐を遂げるためなら命を捨てることも辞さない構えだ。
「そうか……」
(ならば、お前たちのことは私が命に代えても守らねばならんな)
 ヴェンデルは弟子たちにただ静かに頷く。

「おのれ、おのれぇっ!」
 ヴェンデルの元から逃げ帰ってきた執事からの伝言に、ベイル子爵は顔を赤かぶのように真っ赤に膨れ上がらせ、怒声を上げる。
「卑しい流浪の魔法使い連中の分際で偉そうな口を叩きおって! 誰が雇って人並の暮らしをさせてやっていると思っているのだ! 儂らは崇高なるミーミルンド派の貴族だぞ、儂は子爵だぞ、先祖代々の土地を守ってきた由緒正しき家柄だぞ! そうだろう? 違うか!?」
「違いません、違いません!」
 ベイル子爵の怒りは収まらない。
「何がフォルデルマン三世だ、あのボンクラめ。何が三大貴族だ、この国を食い物にしおって! 本来ならば、我がベイル家は今頃侯爵辺りの爵位を得ていてもおかしくはないのだ! だというのに、いつまでたっても子爵のまま、しかもベイル家の土地はくだらん理由で代々のボンクラ共に随分奪われ、気付けば雀の涙ほどしか残っておらんではないか! 儂が何をしたというのだ!」
「何もしておりません!」
「……おい、『何もしていない』というのはどういう意味だ? 儂がこれまで怠慢を働いてきたとでも言いたいのか?」
 執事は咄嗟に叫んだその一言を瞬時に後悔し慌てて手で口を塞いだ。
 だが、「何もしていない」というのは事実だ。
 ベイル子爵は、領地を持つ貴族としてすべきことも善行と言える善行も一切してきていない。
 領地の管理は配下の者たちに丸投げし、自身は貴族の身分を振りかざし少ない財産で贅沢三昧、いよいよ財力に陰りが見え始めたところでミーミルンド家の蜂起に乗っかり全てを王家やイレギュラーズたちのせいにしてヴィーグリーズの丘の一角に陣を張る始末だ。

 しかも、彼は過去におよそ人道に反する悪行を犯している……己に振り向かず爵位の低い貴族の元に嫁ごうとした女性の殺害という鬼畜の所業を。
 女性は館に監禁された挙げ句火を掛けられた。彼女には大層腕の立つ魔法使いの弟がおり、弟は火災を知り現場に駆けつけたものの、既に館も女性もほぼ燃え尽きた状態だった。
 これといった力を持たない姉の役に立ちたくて腕を磨いた魔法が、何の役にも立たなかった。
 この時、弟は館の手前で「上手く行った、ローレットに報告だ」と口走りながら走り去る者数名とすれ違っている。この者たちが子爵の雇ったならず者だったとは、弟には知る由もない。

「ふん、まぁいい。イレギュラーズなど所詮は寄せ集め、大枚叩いて雇った魔法使い共が返り討ちにするだろう。いいか、儂は今日、ここでひとつ事を成す。イレギュラーズなど蹴散らし、王家と三大貴族の連中に煮え湯を飲ませてやるのよ。ところで……聞いているか? ミーミルンド家ではかの恐ろしき『巨人』の封印を解いたらしいぞ。王権の象徴たる角笛を持つミーミルンド家が巨人を引っ提げて出てくるのだ、これがどう敗北に繋がる? 繋がらんだろう? 儂らの勝ちは決まりというものよ……ハハハハハッ!!」
 勝手に機嫌を直したらしい子爵に安堵した執事は、媚びるような卑しい笑みを浮かべる。
「ええ、ええ、ベイル様の勝利とこの先の栄光は疑いようもございますまい。しかしながら、ベイル様もお人が悪い……ヴェンデルを取り込むために、『あの女』を始末した濡れ衣をイレギュラーズに着せてしまうとは」
 執事の言葉に子爵は酷薄に口角を吊り上げた。
「ふん、あれ程儂が可愛がってやると言ったのに、よりによってバルツァーレク派に属するろくに名も通っておらん男爵の若造を選んだあの女が悪いのだ。儂の顔に泥を塗った報いを受けさせたまでよ。それにしてもヴェンデルは腕は立つというのにどうも頭の中身は空っぽのようだな。儂の嘘を簡単に信じおって、すっかりイレギュラーズを討ち果たすつもりになっておる。とはいえ……どこでバレるか分からんからな、いっそイレギュラーズと相討ちになってくれれば万々歳なのだが」
「ええ、ええ、この戦いに勝利しミーミルンド家が覇権を握ればベイル様もきっと侯爵に……そうなればヴェンデルの代わりになる用心棒などいくらでも見つかりますからね」

●蝙蝠を辿れば
 その頃、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は、ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)とエイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)を誘い、領地を蹂躙した大蝙蝠について調査を続けていた。
 ココロとエイヴァンは、かつてジェイクの領地が襲撃を受けた際に共に戦ったイレギュラーズだ。
「この程度じゃ終わらねぇだろ……絶対まだ何かある筈だ」
 あの怪王種の蝙蝠が一体どこから来たのか、そしてこの事件の背後には何があるのか、根源は何なのか……領民への聴取を進めるうちに、当時大蝙蝠はどうも『神翼庭園ウィツィロ』の方角から飛んできたらしいという情報が手に入る。
「確か、神翼庭園じゃ何者かによって封印が暴かれたって話だよな……それと関係があるとしたら、その封印を暴いた奴が鍵を握ってるんじゃねぇか……?」
 思考を巡らせるジェイクたちの元に領地の執政官がひとりの男性を連れ急ぎ足でやってきたのはその時だ。
 男性は所持していた書簡を早速ジェイクに差し出しながら恭しく頭を下げた。
「私、バルツァーレク派に属するクライフ男爵家より参りました使者にございます。この度、クライフ男爵と因縁浅からぬベイル子爵なる者が、王家及び三大貴族に牙を剥きました。ベイル子爵はミーミルンド派、ミーミルンド家は巨人の封印を暴き王家簒奪を目論む悪しき貴族でございます」
 ジェイクが急いで書簡の内容を確認すると、そこにはバルツァーレク家当主の署名入りでミーミルンド派の打倒に関する依頼が記されている。
「……要するに、俺の領地を襲った奴の背後にいる黒幕ってのがミーミルンド家で、ベイルっていう子爵はミーミルンドの下で王家や三大貴族に牙を剥いているから倒せと……そういうことだな?」
 ジェイクが確認すると、使者は即座に頷いた。
「ベイル子爵は軍らしい軍は用意していない模様ですが、何やら相当腕利きの魔法使いたちを雇っているとの噂。クライフ男爵の私軍では太刀打ち出来ません。何とぞ、何とぞ……」
 頭を下げる使者を前に、ジェイクたちは立ち上がる。
「いいぜ。その魔法使いとやらを倒して、子爵を潰してやろうじゃねぇか」

GMコメント

マスターの北織です。
この度はオープニングをご覧になって頂き、ありがとうございます。
以下、シナリオの補足情報ですので、プレイング作成の参考になさって下さい。

●成功条件
 ベイル子爵の撃破
 ※生死は問いませんが、子爵は恐らく生きていてもろくなことをしない奴です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 現時点で判明している情報に嘘はありませんが、敵の攻撃パターンなどに不明点もあります。

●戦闘場所
 ヴィーグリーズの丘の一角です。
 比較的開けた草原で、ぽつりぽつりと低木が生えています。
 草原には、巨大な魔方陣が展開しています。
 草原の奥に簡易的な天幕が張られており、これがベイル子爵のいる本陣となります。
 本陣の中には子爵と執事しかいません。

●魔方陣について ※一部PL情報です。
 子爵のいる本陣に接近するには魔方陣の効力範囲を突破しなければなりませんが、魔方陣はヴェンデルが戦闘不能状態になるか自発的に解除しない限り効力を失うことはありません。
 ちなみに、魔方陣の効力範囲内では常に【退化】と【重圧】というバッドステータスが働いています。
 また、魔方陣の外からの遠距離攻撃などには魔方陣が持つ結界が発動してしまいます。そのため、魔方陣の効力範囲内にいる敵に離れた位置から有効打を与えることは出来ません。
 
●魔術師団について ※一部PL情報です。
 団長のヴェンデルを筆頭に総勢5名の魔法使いによる集団です。
 ヴェンデル以外の4人はそれぞれ毒・火炎・氷・電撃を駆使した魔法で攻撃してきますが、防御については少々甘いようです。
 一方、ヴェンデルは弟子たちの扱う4系列を網羅しており、各系列の最上位バッドステータスを扱うことが出来ます。そのうえ、防御がとてつもなく固いです。
 5人は魔方陣内で動き回り連携を取りながら攻撃してきます。
 ただし、この魔術師団はベイル子爵に対して一切良い感情を抱いていません。
 ミーミルンド派のベイル子爵の下にいればイレギュラーズと戦える、イレギュラーズを倒すことが姉の仇を討つことだという理由で用心棒契約を結んでいるに過ぎません。
 そのため、結果的に説得して投降させることは不可能ではないと思われますが、何せヴェンデルは姉を殺害したのがイレギュラーズであると信じて疑わない状態なので、説得する場合はヴェンデルが攻撃手段に出られなくなるくらい弱らせる必要があるでしょう。

●ベイル子爵の「過去の悪行」について(補足)
 大まかにはオープニングにあるとおりです。
 実行犯は子爵が雇ったならず者で、子爵は女性の弟にイレギュラーズたちの犯行だと思わせるためにあえて「上手く行った、ローレットに報告だ」とならず者たちに叫ばせています。
 無論ローレットが追及されるようなこともありませんでしたし、そもそもローレットやイレギュラーズたちを知る幻想の人々はこんな噂を信じたりはしません。
 しかし、この弟は実はひどく純真な性格であることと姉の死を前にしてかなりショックを受けていた状態であったことなどから、イレギュラーズによる犯行だと信じてしまっており、生来の頑固さが災いしてそれが事実だと今も完全に思い込んでいます。
 ちなみに、殺害された女性の弟が誰であるかは……オープニング内に明記はしていませんがほぼ推測出来てしまうかと思います。

●その他参考情報
 時間帯は夕方、天候は晴れ、微風です。
 気温は「高くも低くもない快適な温度」です。
 夕日をバックに激しく戦いましょう。

それでは、皆様のご参加心よりお待ち申し上げております。

  • <ヴィーグリーズ会戦>偽りの仇敵完了
  • GM名北織 翼
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
那須 与一(p3p003103)
紫苑忠狼
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

リプレイ


「来たか……」
 ヴェンデルの双眸に殺気が揺らめいた。
 夕日をバックに近付いてくる八人のシルエット――イレギュラーズだ。
「ここから先、何があろうと貴様たちを通すわけにはいかない」
 魔法陣に足を踏み込んだイレギュラーズたちにヴェンデルは長杖を構える。

 自身の能力を上昇させた『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)は、仲間たちとなるべく離れないようにして彼らの力を上げながら、つい先程『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)や『恋する探検家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)らが交わしていた会話を思い出した。

 ――戦場到着の少し前。
「俺なりに調べたんだが――」
 戦場を目前に控え、ジェイクが口を開く。
「数年前、クライフ男爵所有の別荘が放火され男爵の婚約者が犠牲になった。報を受けた男爵は馬車で急行する途中に賊に襲われ、今も半身不随だ。現場から立ち去った放火犯の言動からローレットの仕業じゃねぇかって話も出たが、人相の一致する奴はなく結局お蔵入り。だが……婚約者に死ぬ前日まで煩くつきまとってた貴族がいたらしくてな――それがベイル子爵だ。しかも、男爵の記憶では、婚約者にはヴェンデルって名の弟がいたそうだ」
「子爵が雇った魔法使いって、『ヴェンデル魔術師団』だよね」
 フラーゴラの問いにジェイクは頷いた。
「ああ。状況的に恐らく殺されたのはヴェンデルの姉で、実行犯の背後には子爵がいる。ヴェンデルは姉の敵がすぐ側にいるっていうのにいいように利用されて、しかもそれに気付いてねぇ。ったく、哀れなもんだぜ」――

(このまま戦って倒しても……「解決」にはならない……気が、します。ヴェンデルさんたちに、わたしたちのお声が届くようになるまで……戦います。誰も悲しい事にならないように……そのお手伝いを、です)
 フェリシアは仲間たちの位置に細心の注意を払いながら「真の解決」を願う。


「団長の悲願のため君たちにはここで倒れてもらうよ」
 早速ヴェンデルの弟子のひとりが短杖を振るうと、『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)の狙撃銃が火を吹いた。
 獰猛な蛇の如く迫る電撃の連なりに蒼白になる弟子たちだったが、ヴェンデルが彼らの前に強固な障壁を張り弾丸を阻む。
「彼らを倒したくば、まずは私を倒すことだな」
 ヴェンデルは銃撃の威力に冷や汗を流しながら殺気漲る眼光でワルツを睨んだ。
(うわー。とんだ濡れ衣で殺意向けられるとかほんと迷惑。奴さん、大真面目に仇討ちする気満々じゃない。ともかく――)
「――盛大な歓迎、どうも! お望み通り、その凄まじい勘違い全否定してやるから!」

 ワルツが次弾を装填していると、敵の動きに変化が出る。
 弟子たちがフラーゴラと『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)に向かい始めたのだ。
 オーロラのような光を浴びた弟子はフラーゴラに構え、別の弟子はエイヴァンが放った衝撃に吹き飛ばされ怒気衝天の様相だ。
 ヴェンデルは弟子たちを止めようと踵を返したが、そこをワルツの銃弾に射抜かれる。
「言ったでしょ、全否定してやるって。あのねー、ローレットなんて只の代行業なんだから、不要な恨みを買うような真似する訳がないでしょ! 悪事を働いた後に自分たちの正体をわざわざ宣伝しながら逃げる悪党がいるかっ!」
 弾丸とともに刺さったワルツの強烈な主張にヴェンデルの顔が一層深く歪んだ。
 それは、彼の中に何らかの「矛盾」が芽生えた瞬間だろうか。

 ヴェンデルが被弾した間に、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はフラーゴラに肉薄した毒使いに火炎を散らす。
 橙炎色の花弁が三度乱れ舞い、肌を焼かれた毒使いは地を転がり息を荒げ、距離を詰めたジェイクが慈悲の投網を撃ったが、それを見てヴェンデルの顔色が変わった。
 怒号とともにヴェンデルが長杖をぶんと振ると不規則軌道の稲妻がイレギュラーズたちに幾筋も落ち、彼らの動きを封じる。
 これに乗じ弟子の氷使いはフラーゴラに何本もの氷柱を突撃させるが、フラーゴラは体の痺れを自力で癒し、可能な限り氷柱を躱した。
 それでも躱しきれない氷柱が彼女を襲おうとすると、
「敬愛する先輩の愛弟子、拙者が守らねば」
 と、『はですこあ』那須 与一(p3p003103)が立ちはだかる。
(んににに……こういう御仁とはやりにくいでござるな……とはいえ)
 与一は離れた位置で憤怒の表情を浮かべるヴェンデルを見やった。
(あの状態では拙者らの言葉に耳を傾けてはくれそうも無し……少しはこちらの話を聞いてもらえる程度には落ち着いてもらわねばならぬでござる)


 一方、猛攻を仕掛ける電撃使いをエイヴァンは氷の砲撃で迎え撃つ。
(まずはこの弟子たちをどうにかしなけりゃ話も出来んからな)
 一瞬前後不覚になった電撃使いが反撃で繰り出した電撃は、あろうことか自身に返った。
 そこに『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が間合いを詰める。
 繰り出される右の拳は竜さえ穿つかと思える程の凄まじい軌道で電撃使いを貫こうとするが、ヴェンデルが猛吹雪でイグナートを含めイレギュラーズたちの体を凍てつかせ、火炎使いが炎を大蛇のようにして這わせた。
 しかし、イレギュラーズたちは吹雪から逃れ大蛇を躱す。
 ココロが強力な回復術を発動させ吹雪の力を削いだのだ。
(勘違いで傷付け合うなんて……こんな悲しい事はないよ)
 ココロは声を張り上げる。
「ローレットは世界を救うために動いてる……信じて!」
 ココロの術で猛吹雪からの生還を果たしたイグナートの前には、先程距離を詰めたままの電撃使い。
 ぶわっ、とイグナートの銀髪が滾る闘争心で舞い上がり、拳打が電撃使いの脇腹にめり込んだ。
「ちょっと鍛え方が足りないんじゃないかな! 魔術師だって最後にモノを言うのはフィジカルだよ!」
 呻き声を上げた電撃使いは、悔しげに唇を噛みながら気を失った。


 ヴェンデルは電撃使いと毒使いを回収して後退すると、与一に向けて長杖の先から火炎を射出する。
 一見細い矢のように見えるそれは凄まじい威力で与一を貫いたが、フェリシアが活力を注いで癒し、何とか与一を踏ん張らせた。
「あの……」
 与一を癒しながらフェリシアは意を決してヴェンデルに話しかける。
「……お姉さんのこと、聞きました……『ローレットに報告だ』って言って、去った人たちのことも。でも……悪いことをした時って、堂々と報告とか……しません、よね? 怒られるの嫌ですし……誰かに迷惑掛けちゃうかもしれませんし、ね。ヴェンデルさんのように、ローレットを良く思わない人もいるのに……わざわざ悪評を流すような事……するでしょうか……?」
 ヴェンデルは怪訝そうな顔を見せたが、何かを振り切るように首を振り攻撃に出る。
(よし、こっちの言葉が響いてる!)
 手応えを感じたジェイクの高殺傷の魔弾が一直線にヴェンデルに向かい、その肩を紅に染めた。
 更にワルツの弾丸が続き、紅に輝く弾道を描いてヴェンデルの太腿を穿つ。
 すると、ヴェンデルは瞬時に大量の不可視の刃を形成しワルツに飛ばした。
 ずたずたに切りつけられた傷口はみるみる凍りつき、焼けるような痛みを引き起こすが、ココロが駆けつけ福音を紡ぐ。
「ああ、ココロちゃんっ!」
 可愛いココロの前で腐抜けていられるかと、ワルツは奮起して銃の照準を火炎使いに合わせた。

 ワルツの射線が火炎使いにぴたりと張りついているのを確認したエイヴァンは
「弟子を取る程の身ならもう少し落ち着いて貫禄ってもんを示したらどうだ」
 とヴェンデルを引きつける。
 直後、轟く銃声。ワルツの銃弾は火炎使いの体に鮮血の花を咲かせた。
 それでも立ち上がろうとする火炎使いに、ジェイクの投網が容赦なく、しかし決して殺さぬ慈悲を込めて射出される。
「よくも……!」
 エイヴァンに接近していたヴェンデルは怒りの雷を落とし、食らったエイヴァンは視界に星をちらつかせながらもヴェンデルの二の腕に掠めるような一撃を入れた。
 それが強力な毒を仕込んだ一撃であることに気付いたものの、ヴェンデルは歯を食いしばり動き続ける。

 残った氷使いはフラーゴラにまたも氷柱を飛ばした。
(この師弟の間には、強い信頼がある……)
 フラーゴラの胸は痛む。
(ワタシも姉弟子のココロさんにもしものことがあったら、きっと犯人を恨むと思う。だから――)
「――キミのことは殺さない」
 フラーゴラは己のリミッターを取り払い、氷使いに一気に肉薄すると思い切り蹴りを入れた。
 青い銀粉が蒼炎のように舞う中氷使いが蹌踉めくと、
「退け! あとは私に任せろ!」
 とヴェンデルが血相を変えて氷使いに叫ぶが、与一の魔弾が氷使いの足を止め、ココロの拳が地を穿つ。
 噴出した赤い柱が氷使いに激突、駄目押しとばかりにジェイクの投網が絡み氷使いは倒れた。
「貴様ら……許さん!」
 血走った目でイレギュラーズたちを睨視するヴェンデルの杖が弧を描き、轟々と燃える炎の幕が彼らに襲い掛かる。
 すると、灼熱の炎がもたらす苦痛や障害から仲間を守ろうとフェリシアが声を上げ、与一はフェリシアの術で炎による影響を抑えながらココロの前に滑り込み、火炎を受け止めた。
 満身創痍になりながらも残る力を全て注ぎ込み破壊的威力の一砲を返すと、ヴェンデルの顔が苦痛に歪む。
 それでもヴェンデルは火炎使いと氷使いを担ぎ、先に倒れた弟子たちの元へと運ぶと己の魔力を削り強固な障壁を張った。
 ヴェンデルは何が何でも弟子たちを守るつもりなのだろう。
 そのあまりに必死な様子にどうにもやりきれない思いになり、フラーゴラは何とかヴェンデルに思いとどまってもらおうと口を開く。
「ヴェンデルさんは、ローレットの人全員を殺すつもり……? それは途方もなく疲れちゃうよ……。ローレットには様々な依頼が来るし、ワタシだって見た目ほどいい子じゃない。でも……色々いるよ、ローレットには。ヴェンデルさんが思い描いているのとは違う人たちも、沢山」
「……それでも私は戦わねばならない! 弟子たちのために! 姉上のために!」
 ヴェンデルは激昂状態だが、復讐一色だった双眸には明らかに当惑の色が差し込んでいた。
(ヴェンデルは本当に弟子たちを大切にしている。わたしだってそう。妹弟子のフラーゴラちゃんはとても大事……あんないい子、他にいない)
 ココロはちらりとフラーゴラを見やり、密かに動き出す。
(ヴェンデルとはきっと通じ合うものがある筈……こちらに弟子たちを殺す意図がないのが分かればきっと考え直してくれる!)


「そろそろ大人しくなってくれないか」
「どう見ても本当の仇はアンタの後ろでふんぞり返ってるじゃない! お姉さんばかりか可愛い弟子たちの命まで全部アイツに騙されて持ってかれていいの!? 自分の頭で考えて、倒すべき敵を見極めなさいっ!」
 エイヴァンが衝撃波を飛ばし、ワルツがトリガーを引く。
 ワルツの弾丸が上胸に深く捻り込み、耐えきれず片膝を着いたヴェンデルにイグナートが拳を振り上げた。
「そりゃローレットは人様にムネを張れないようなこともしてるけれどね――」
「その胸を張れぬ所業で姉上は殺されたのだ!」
「――ハナシ聞けってば!」
 イグナートは息を切らしながらもヴェンデルに慈悲の一発を殴り入れる。
「それでも、少なくともムネを張れないようなことを声高に喋ったりしない程度には弁えてるんだよ!」
 いよいよ地面に倒れ込んだヴェンデルは、立ち上がろうとするものの鮮血を吐き出した。
 エイヴァンの毒にイグナートの拳が追い打ちを掛けたのだろう。
 弟子たちを守るために張った障壁も消え、それでも彼は長杖を地に突き刺し立ち上がるが……。
「もうその辺にしておけ。後ろをよく見ろ」
 エイヴァンに言われ振り向いたヴェンデルは絶句した。
 四人の弟子たちは意識を取り戻し手当てを受けているではないか。
 傍らにはココロがおり、彼女が弟子たちに応急処置を施したと察したヴェンデルは自身の中で何かが大きく揺らぎ崩れるのを自覚した。
 そんな彼に
「ヴェンデル、そろそろ俺たちの話を聞け!」
 と一喝の後、ジェイクが歩み寄る。
「もう分かってるだろう? お前の姉を殺したのは俺たちじゃない! 真犯人はお前の背後にいるベイル子爵だ。自分になびかない者は処分し、利用出来る者はとことん利用する、あれはそういう男だ。お前にも心当たりがあるだろ?」
 ヴェンデルの視線は無意識のうちに子爵のいる天幕に移った。
「では、あの日私が見たあの男たちは……」
 エイヴァンとココロがジェイクの言葉を補う。
「お前さん、ローレットの名を叫ぶ連中を見たんだったな? だが、そんな事をすればローレットの評判は落ちかねん。それでもやるとしたら、それは余程のバカか俺たちを陥れようとしているアホのどちらかだ。そもそも、俺たちがお前さんの姉にしたような血も涙もない事をする輩なら、今この場でお前さんたちが生きているのは不自然だろう? さて、ローレットの名を叫んだ連中はどっちか……答えは後者のアホで、それを仕組んだのがベイル子爵だった事も調べはついてる」
「ここまでジェイクさんたちが仰った事は間違いではありません。考えてみて? 悪事を為す依頼を受けた人は胴元の心証を慮って依頼主を秘匿するもの、思い返せば子爵の言動に不審な点もあったのでは? 魔術を深く理解出来るのなら、人の言う事の真否だって理解出来るでしょ?」
「ああ……何ということだ……」
 これまで誤った敵を討ち果たすことばかり考え、よりによって真の仇の用心棒を引き受け弟子まで巻き添えにした己の無様さが悔しくて、ヴェンデルは力なく呻き地面の草を握り潰した。
 倒れながらも話を聞いていた与一は切なくなる。
(被害者のヴェンデル殿を雇い斯様に戦わせたのが加害者である子爵とは……腹立たしいことでござるな。ヴェンデル殿が如何な結論を出そうとも、拙者は止めぬでござる)
 このままでは終われないという無念さの滲むヴェンデルの背中を見て、
「このまま奴の犬として俺たちに殺されるか、奴に復讐の刃を向けるかはお前次第だ」
「必要なら手を貸すが……どうする?」
 とジェイクとエイヴァンが静かに告げると、ヴェンデルはようやく顔を上げた。
 沈みかける夕日が反射するその瞳はもう嘘に曇らされてはいないが、立ち上がろうとしただけで血を吐き出しのたうち回るまでにヴェンデルは傷ついている。
 フェリシアはヴェンデルを支えながら救いの音色を口ずさんだ。
「わたしに出来るのはこれくらいですが……思うままに、です」
「世話を掛ける」
 ヴェンデルはフェリシアに一礼すると、小さく呪文を唱えて。魔法陣消失させる。
「これでもうお前たちの力を削ぐ空間はなくなった。いつでも子爵を引きずり出せる」


 魔法陣が消えると、イグナートが真っ先に天幕の入口を勢いよく捲った。
「何だ貴様らは!」
 突然の「来客」に子爵と執事は揃って驚き立ち上がる。
「貴様が私の姉を殺したこと、全てこの者たちが調べ上げた。もはや言い逃れは出来ないぞ」
 ヴェンデルに睨まれた子爵は執事と一緒に天幕の一部を捲り逃げようとした。
 しかし、
「清廉潔白と言うつもりはないけれど、ローレットの悪名をツゴウよく使われるのはシャクに障るからね! キミのタクラミは完全粉砕させてもらうよ!」
 と、イグナートが子爵の首根っこを掴んで引き倒し、その横でジェイクが執事に銃把底を叩きつけた。
 気絶した執事を尻目に、イグナートは子爵のどてっ腹に拳をねじ込み動きを止め、ヴェンデルに目でその先を促す。
 ヴェンデルが長杖の先を子爵に向けると、子爵は
「儂が悪かった! 何でもする、何でもするから命ばかりはっ!」
 と必死に懇願し、人の良いヴェンデルはつい手を止めた。
 しかし……。
「――などと言うと思ったか馬鹿めが!」
 子爵は手負いのヴェンデルを突き飛ばしまたも逃げようとする。
 しかし、フラーゴラが素早く対処しヴェンデルの盾となり、ココロの赤い柱が子爵を突き上げた。
「ぐえっ」
 子爵は踏み潰された蛙のように短く呻き、気絶する。
 ヴェンデルは杖の先で子爵の額に軽く触れた。
「貴様のような者はいくら殺しても殺し足りないが……殺しはしない。貴様は此度王家に盾突いた罪でどのみち裁かれよう。それまでの間、私が今仕込んだ毒で姉上の幻を見続けてもらう。幻覚の中で姉上に幾度となく焼き殺されるがいい」

 天幕を出たヴェンデルは、イレギュラーズたちに深く頭を下げて詫びると、ジェイクに長杖を預ける。
「如何な理由であれ、王家に仇なす者の下でお前たちに刃を向けたのは事実、私は然るべき沙汰を受けるべきだ」
「そうか……まぁ、悪いようにはならねぇだろうがな」
 ジェイクは口元を僅かに緩ませながらヴェンデルの腕をそっと掴んだ。
(日が沈む……)
 フラーゴラは丘の向こうに沈み行く夕日を見つめる。
 「トラモント」は、空を鮮橙から赤紫に染め、やがて新しい明日を誘う。
 戦うことでヴェンデルたちを新しい明日に導けたフラーゴラは、日没の景色に微かな笑みを浮かべた。

成否

成功

MVP

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃

状態異常

那須 与一(p3p003103)[重傷]
紫苑忠狼

あとがき

マスターの北織です。
この度はシナリオ「<ヴィーグリーズ会戦>偽りの仇敵」にご参加頂き、ありがとうございました。
少しでもお楽しみ頂けていれば幸いです。
今回は、子爵にも容赦なく拳をぶち込んだ豪快なあなたをMVPに選ばせて頂きました。そして、正確無比な弾丸でじわじわとヴェンデルを追い詰めたあなたに称号をプレゼントさせて頂きます。
改めまして皆様に感謝しますとともに、皆様とまたのご縁に恵まれますこと、心よりお祈りしております。

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