PandoraPartyProject

シナリオ詳細

子供達は英雄の話を聞きたい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●平和かくりてラサの地は
 市民行き交うラサの商業市場。一般市民の生活圏に食い込んでいる此処では、一流の武器や防具よりも、生活必須品や食料品といった方の需要が高い。
「やぁ、深緑から持って来たお薬草だよー。傷によく効くんだよー」
 キャラバンの売り子手伝いとして、交易品を売り込んでいる『動物好きの』リトル・ドゥー (p3n000176)。拙い口上ながら、その効能の説明や精算を間違う事なくよくやれている。
「おおや、流浪の。今回はこっちで物を売っているのか」
 傭兵の一人がリトルに対してそういう風に声を掛けてきた。以前、盗賊団が首都襲撃の際に輸送隊を組んだ傭兵だ。妻と思しき同年代の女性と、子供を引き連れている事から今回は武器や依頼の頼みではなく生活品目当てだろう。
「どうだ。上手くやれてるか」
「薬草より哺乳瓶やおしゃぶりがよく売れるのが気になるんだよー」
「それはちょうどラサでそういう事件が……それはともかく」
 仔細話すとこの子が素っ頓狂な事にやりそうな気配がする。本題に話を切り替えよう。
「君は、確か幻想の勇者と縁があったのだったかな」
「幻想の勇者? うん、その何人かとは知り合いだよー」
 勇者と目される人物は複数いるが、リトルはその中でも『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が真っ先に思い浮かんだ。ブレイブメダリオンパレードで彼が直々に『黒鉄守護』という称号を拝領した話を、大喜びしていた記憶がある。
 その時の事を思い出して、ニヘニヘと表情を崩すリトル。それを見て、傭兵の連れ子はリトルの表情を興味津々に見つめていた。
 この様子を見てキャラバンの中で察しの良い年長者や長は、「あぁそういう事か」と合点がいく。
「ははは、いや。参ったな。……実は、以前の事件に見聞きしたイレギュラーズの武勇伝を息子に言い聞かせたら『もっと聞きたい』とせがまれてな。しかし、俺も常日頃からあの人達と組んでるわけでもないから、そのストックがな」
 傭兵は頭を掻きながら「赤犬ディルクの話ならもっと語れるのだが……」と口惜しそうにしている。実際、ラサに住む子供にとってディルクの武勇伝はよく耳にするだろう。しかし、だからこそ他の英雄達の武勇伝を聞きたいという気持ちも生まれてくる。
「つまり、勇者さん達やイレギュラーズさん達の事をはなせばいいんだね?」
「あぁ、お願い出来るか? もし請け負ってくれるのなら、君の手元にある薬草をいっぱい買うから……」
「うん、もちろんだよ! でも手伝いが……」
「いってらっしゃい。リトル。現地の人達との交流も、キャラバンとして大切な事だ」
 そういわれて、リトル・ドゥーは息巻いた。たとえその子のママになれずとも、昔話を語るお姉さんくらい自分にも務まるはずだ。お金もいっぱいもらえる! そうすれば長も、両親も喜んでくれる!

 ……そうして、場所を変えてその子と話そうとする際に、リトルはもっといい事を思いついた。
 ――言い換えよう。『素っ頓狂な事』を思いついた。
「その勇者さん――イレギュラーズさん達と実際会いたくない?」
「できるの?」
 傭兵の息子は、先ほど以上に興味津々な眼差しでリトルを見つめている。十歳の幼子にとって、自分より小さな子から期待が向けられるのはどれほどの事か。
 リトルはニヘニヘとした企み顔で、その子に自分の計画を打ち明けた。
「できるよ。それも、ちゃんとした方法。誰からも怒られない方法で。……その為には、もっとたくさんの人がいるんだ」

●それゆけ一般人(児童の部)
 黒鉄守護、勇者オウェードは狼狽していた。何も強大な魔物と対峙するハメになったわけではない。大勢の年端もいかぬ少女(と少年)達が、自分に対して羨望の眼差しやら憧憬の感情やらを向けている事だ。
「これは一体どういう事かしら?」
 オウェードが固まっている横で、ギルドに押しかけてきた大勢の子供達を目の前に、『竜首狩り』エルス・ティーネ (p3p007325)が驚いていた。彼らからそういった目を向けられているのは、エルスとて同じ事。そんなエルスから問いただされれば、我ぞ先にと質問答えようとする子供達。
「あのねあのね、リトルちゃんが、皆で報酬になるもの出し合えば、イレギュラーズさんに依頼頼むのに足りるかもって!」
「幻想のゆーしゃさんとか、エルスさんや、他のつよーいイレギュラーズさんからお話聞けるって!」
 経緯は大体は分かった。要は特殊な仕事を持って来られたらしい。
「えへへ、凄いでしょ。リトルね、情報屋さんに憧れてたから。こうやってお仕事持ってこられた事を光栄に思うよ!」
 そうやって子供達の中心で自慢げに胸を張っているリトル・ドゥー。
 小さい子は言葉を覚えたての赤ん坊、年長者はエルスティーネと同年代といったところか。彼らは幻想の勇者がどういった冒険をしてきたのだとかだとか、ラサで活躍するイレギュラーズがどういった戦場や、恋路を歩んできたのか気になって仕方がない様子だ。
 ……まぁ、人数がやたら多い事もあって、確かに報酬は適正だからそこら辺は問題はないのだが。
「ねぇねぇ、ドラゴンって倒した事ある!?」「ドラゴンなんてイレギュラーズでも見掛ける機会早々ないって聞くぜ? でも巨大獣とかさ、そういうのなら……」「エルスティーネさんは、赤犬さんの花嫁さんなのよね? このリトルって子からそう聞いたのだけれど……」「あーん! 兄ちゃんが頭ぶったー!!」「オウェードさんも恋の逃避行を手伝ったって聞いたけれど、勇者様が手助けしたロマンスはどういう――」
 オウェードとエルスの二人っきりだとこんな『子守』は完遂するのは難しい。
「う、うぅむ。こ、ここ、これは。ははは、男の子ならとも、も、かく、女の子達まで勇者の話にあ、あつまってくるとは……」
「ラサの人達にここまで歓迎されるのは嬉しい事なのだけれど……やっぱり他の人達も頼るべきかしら」
 幸いにして、イレギュラーズには何かしら武勇伝を持った人間が多くいる。
 それらの人間の得意分野や、技術を借りて、どうにか彼らの『イレギュラーズの武勇伝を聞きたい』という依頼を達成する事にしよう……。

GMコメント

稗田ケロ子です。

●シチュエーション
 ローレット、ラサ支部。イレギュラーズは数十人にものぼる子供達に詰め寄られている状態。
 彼らは「他国で活躍した人の武勇伝を知りたい」「依頼や冒険で活躍した傭兵の話を聞きたい」といった内容の頼み込んで来ました。
 あまりにも人数が多い為、各自で分担してその手の話を言い聞かせるとしましょう。
 
 ただ言い聞かせるにしても、相手はまだ年端もいかない子供です。
 英雄叙事詩的な難しい話や残酷な話を上手く言い聞かせるには巧妙なプレイングか《話術》的な非戦スキルが必要でしょうし、実演を交えながら語るにはステータス自体や戦闘技能も必要でしょう。
 子供達を楽しませるなら演技に関するスキルを使って各々の活躍をなぞった劇を演じるのも面白いでしょうし、戦闘技能にとにかく自信があるなら野に出て獣をあざやかに狩るといった事も有効です。
 何にしても得意分野を活かし、イレギュラーズさんの自分が一番言い聞かせたい活躍を彼らに言い聞かせる事が依頼の成功に繋がるでしょう。

●プレイングについて
 シナリオやSSなどの活躍については《シナリオの名前》などを記述してもらえば、参照がしやすく齟齬が少なくなると思います。
 キャラクター自体の過去話をする際にも、プレイヤー目線で何かしら記述を頂ければ描写の精度が高まります。

●NPC
リトル・ドゥー:
 パサジール・ルメスの子。実質的に依頼を持って来た子。
 簡単な必要物資調達、手が足りない時の手伝いくらいはする。
 彼女も混じって、話を聞こうとしている。
「私もね、イレギュラーズさんのお話聞きたいな!!」

  • 子供達は英雄の話を聞きたい完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年07月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
※参加確定済み※
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
眞田(p3p008414)
輝く赤き星
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
チヨ・ケンコーランド(p3p009158)
元気なBBA
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
※参加確定済み※
サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)
砂漠の蛇

リプレイ


「ババババババーンチヨ婆あ! お日様照り照りラサ砂漠、ここがわしのほぉおむぐらんどっ」
 作詞、作曲:『元気なBBA』チヨ・ケンコーランド(p3p009158)。
「そうじゃわしがチヨ婆じゃ! 砂を巻き上げダダダダッシュ!」
 チヨは自己紹介とばかりに大袈裟に踊りを披露する。ラサの住民にとっては色宝の件で、彼女がいくらかの活躍をしたという話は記憶に新しい。
「とはいえ、私やリトルちゃんより小さい子が理解出来る話ってのも難しいよねぇ……」
 その時期に依頼で同行した事のある『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)。
 フラーゴラは取り急ぎ、その場に居合わせたイレギュラーズ達にどうすべきか相談しようとするが、その最中にも年少者達は興味津々に割り込んでくる。
「相変わらずエルスは子供達にも人気だねぇ?」
「……英雄譚はウィズィのお話を聞いて欲しいところなのだけれど」
 余裕な態度の『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)。彼女や子供達の視線から目を逸らすような振る舞いをする『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)。
「わしに任せよ皆の衆、水の少ない日にも、わしがドラム缶担いで、極楽温泉をお届け」
 チヨ婆が口上を続けた。フラーゴラは「前の、悪い盗賊さんをやっつけた頃の話だよ」と噛み砕いて説明する。
「ラサの平和を、平和を、守るのは」
「まもるのはー?」
 幼子の一人がたどたどしく相槌を打った。チヨはその直後、集中線がつく勢いで子供達の方に振り返る。
「そうじゃ! わしじゃよ!!!」
 バァーン!
 周囲の目にそういった擬音が見えた気がした。動きが面白おかしかったのか、幼児達からくすくすと笑い声。
「そうじゃ! わしじゃよ!!!」
「バァーン!!」
 再びチヨが派手な動きをしながら自らを主張すると、今度は幼児達がノリノリで擬音を発した。
「おばあちゃん、おんせん? おみず? つくれる? ここでも?」
「そうさ、この桶に、温かい水を満たしてみせよう!」
「みたせてみせよー!」
 何人かのイレギュラーズは、チヨの大袈裟な振る舞いを見て「ははぁ、成る程」と幼児の扱いの上手さに感心した。


 はたしてこの年齢不詳の老婆がゴーレムや危険なモンスターと戦ったと聞いて、信じぬ者がいくらほどおろうか。
 元々彼女の噂を聞き及んでいた者ならいざしらず、一人の青年が「まさか。ウチの祖母より老けてる人が戦えるとはね」などと茶化すように言ってきたが、
「ふんヌっ!」
「ばばばぁ~ん!!!」
 手持ちのガラクタから分厚い金属片一枚を取り出して、拳一つで叩き割った。青年も顔を青ざめさせる。慌て、他の女性陣に目を逸らす。
「あ、アンタらだってオレとそう年齢も変わらないだろ?」
 十代後半の青年にそう言われたフラーゴラやウィズィは、意味ありげにエルスの方を見やる。
「……ふふふ、そうね?」
 くすくすと笑みを浮かべる、年齢不詳のエルス。
「だから、って事じゃないが。駆け出しの時とかの話をしてもらえれば……」
 言外の事を察して、一人のイレギュラーズが手を挙げた。『Re'drum'er』眞田(p3p008414)。
「俺、英雄って柄じゃないけど、まあ一つのお話として聞いてくれればいいかな?」
 眞田も齢二十三の男性。青年達にとって一番参考にしやすい人物かもしれない。畏まったように正座をする青年達。
「いやあ、柄じゃないんだけど子供たちと遊びたくてつい来てしまった」
 眞田は苦笑しながら手を左右に振った。
「まず軽く自己紹介。俺はここと違う世界から来た人間で実戦経験はゼロ! 何故か選ばれて戦ってるんだ」
「実戦経験ゼロ? 魔物を倒す訓練とかは……」
「いやぁ、ゲームセンターでお化けに銃を撃ったりはした事はあるけど……」
 青年の一人に「オレも弓で狐を狩った程度しか」と微妙にズレた共感をされた。そのすれ違いがいっそ微笑ましい。
「で、話すのは練達でのこと。再現性東京では夜妖っていう化け物がいる。子供を狙うサンタさん……の姿をしてたりね。でもって一番多かったのがゾンビ」
 そういいながら、チヨのやり方を参考にスネアドラムの演奏を使いながら、眞田は八人で三十数体のゾンビを相手にした話を始めた。
「三十? アンデットっつーと……その、怖くはなかったか?」
「正直なところ少し。でも。仲間達と一緒にバリケードを組んだり、俺は前線でゾンビを迎え撃った。こんな感じでダダダっとゾンビを倒して行ってね……仲間も魔法や銃弾をドンッと打ち込んで大量に仕留めて行った」
 危険はなかったのかと問われると、眞田は大きく頷いた。
「もちろん。ゾンビに囲まれるし、後ろから誰かに呼ばれても振り返られないしで精神的にもキツかった……でも確かに心強い仲間たちが居たからタイムリミットまで持ち堪えれて……全員無事帰還できたんだ」
 その時に重傷者が出なかったのは、ひとえに仲間達との協力の賜物だろう。
「あはは。……はい、俺からの話はこれでおしまい。……で、他の人の話も気になるんだよな! コイバナとかも」
 そう話を振られてしっかりと頷くウィズィ。コイバナと聞いて目を逸らすエルス。――『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)。
「う、うむ。わ、わしの話か」
 黒鉄守護。挙動不審。
「あ、あれはは……け、けけっこんしきの折に……」
「私が彼女達の面倒をみましょうか?」
 見かねて提案するウィズィ。実際、数十人の少年少女から好意的な眼差しで見つめられるのだ。オウェードでなくとも面映ゆくはなろうものだ。……何故かオウェードは残念そうに安堵していたが。

 さて改めて、少年・青年達を目の前に咳払いをするオウェード。
「おじさんは、幻想の勇者? なんだよね」
「あぁ、そうとも!」
 オウェードは「あの御方の名は穢すまい」とばかりに、威厳ある振る舞いに努めた。先とは打って変わって、かなり凜々しい。
 チヨが合図を送ると、硬そうなガラクタを放り投げてきた。オウェードも手っ甲で打ち上げて、もう片方の手でソレをキャッチするといった曲芸を披露してみせる。
「依頼では、今のように刃物を投げつけられるような事もある。ワシはそんな危険から護るべく花嫁や、リトルという娘を護衛した事もあったか……」
 両方とも敵陣ど真ん中ゆえに戦々恐々する場面であったが、護衛した人物を守り切ったのは誇るべき事実だ。少年達から感嘆の声が漏れて、オウェードは誇らしげに笑う。
「他には? こう、モンスター倒したとか!」
「ふむ、義手を作る為に遺跡で機械と戦った事もあるが……」
 フィンブルの春、その折に巨人が現れた戦いについて語った。3m以上ある巨人。
「平和な森に巨人が暴れておったそうな……巨人は炎を操っていた……深緑であったらいかほどの被害が出たか……」
「ラサでも会いたくないぜ。暑くて干からびる」
「そーそー」
 少年達の指摘にひとしきり笑い、その顔のまま話に戻る。
「ワシは堂々と正面で立ち向かい巨人の攻撃を抑えつつ仲間を守る。燃え広がった森で戦うので何が起こるかわからん」
 そんな巨人をどうやって倒したのか。興味津々にそう尋ねられ、オウェードは懐から一つのアイテムを取り出す。
「『ハイペリオンの羽根』が光った……弱点を教えるかのように……弱点に仲間が攻撃をすると巨人は音を立てて崩れていった……」

 二人の話は中々好評だった。男児から好まれる冒険譚としてはいかにもソレらしい。さりとてラサの少女達も冒険譚は嫌いでない。
「私が話すのは、その由縁。昨年の、海洋決戦のこと」
 その証左にウィズィの話に耳を傾けていた。ウィズィは眞田から楽器を借りて、彼女も即興で演奏を奏でる。
「さて……ドレイク、って海賊を知っているかな?」
「名前だけは噂で耳にした事あるけど……どういう海賊なの?」
「詳しくは知らないか、海洋は遠いもんね」
 荒れ狂う海を渡り新大陸を見つけることをお姫様に誓った男。お姫様とは死別して尚、永遠の命を得る果実を齧ってまで約束を果たさんとした。
「海賊。そう、悪いやつだよ。国家に、そして私達の前に立ちはだかった」
「まぁ。悲恋の男という事でしょうか。それを、イレギュラーズさんは打ち倒したのですか?」
 ウィズィは複雑そうな笑みを浮かべながら首を振る。ナイフをふるって一人芝居。
「『フッ、勇敢なレディ達だ!』『くそっ、余裕ぶりやがってー!』……なんて、戦ってたけど。その時期に海洋には魔種や竜種リヴァイアサンが現れてね」
 ドレイクはニヒルでいけ好かないヤツだったけれど強い男だった。だが強大な敵を前に、手を取り合う事になる。
「力を合わせ! そしてっ……」
 不意に楽器を鳴らす調子が外れた。何故かその調子外れた音が当時を知る者に《彼女》を想起させる。
 ウィズィは……それを誤魔化すようにナイフを横一閃にしてから、自信満々な笑顔を作った。
「見事、海を取り戻したの。ふふ、実はこの帽子はそのとき、ドレイクから預かったものでね……いつかまた会えたら、返してやるって決めてるんだ」


「海洋大戦についてね……私もその時期に、戦いへ赴いたわ」
 続けて語り始めるのはエルスだ。
「大戦は色々な話がある。でも私が話すのは一人の海種の少女を……葬ったお話」
 自分に憧れて魔種になった少女レアータ。もし魔種になっていなかったら……。
「きっと仲良くなれそうな気がしたの。自分を好きって言ってくれるのって……嬉しいでしょう?」
「その女の子は、救えたのですの?」
 エルスは首を振る。
「……だからせめて、あの子が安らかに眠れるようにと刃を振るったわ」
「ケッ……魔種になりてぇヤツは、どいつもこいつも……」
 口惜しげに声を漏らす『最期に映した男』キドー(p3p000244)。何人か二人と同じような顔をするが、エルス自身がそれを切り替える。
「さ、次は明るい話……かしらね?」
 周囲を見回すエルス、やがてこの場で唯一のグリムアザース――『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)に子供達の注目が集まる。
「困りましたね。イレギュラーズになって日が浅いので、あまり語れる事が……」
 何か話せる事はないかと考えている内に、ふと思い浮かぶ事があった。
「私自身の冒険譚というわけではありませんが、一つお話をしましょう」

 昔々、聖なる山の頂に精霊の宿る不思議な石がありました。
 罪や穢れを背負った人がその石に触れて祈ると、身代わりになってくれた。
 人々は救いを求めて山を訪れたけれど、永遠には続かなかった。
 罪や穢れ溜め込み過ぎた石が、災厄を生み出す石に変わってしまったのです。
 石は山の地下深くに封印しましたが、災いは止みません

 そこまで言って、幼児の一人が「せーせきさまのおとぎばなし?」と反応する。
 サルヴェナーズが少々驚きつつも「知っているの?」と尋ね返した。
「どこかで聞いたことある!」
 互いの話が同じか定かでない。似通った伝承がラサにあるのかもしれぬ……。
「どんな災いも恐れない一人の神官が現れました。聖なる山を取り戻す為、僅かな術と道具、そして溢れんばかりの勇気を頼りに、石から溢れる蛇や羽虫を払い、呪詛の川を越えて、地下に乗り込み……石から災いを取り払った」
「山がきれーになった?」
「えぇ、そう……」
 その後、神官がどうしているのかは分からない。エルスに明るい話を促された手前だ。……どう〆るか待ちわびる子供達に、リップサービスの体で一言告げる。
「神官はきっと何処かで幸せに暮らして、このお話を誰かに御伽噺として伝えたのでしょう」


「悪い魔物め! えい、えいっ!」
「オレは魔物じゃねぇっつうの!」
 男児達から絡まれているキドー。何度も力比べを仕掛けられたが、男児達が怪我しない程度に軽くあしらった。
「ったく、ベビーシッターは依頼にねぇだろ?」
「……じゃあ、ゴブリンさんもお話を聞かせてくれるの?」
 男児がニヘヘと悪い顔をする。してやられたような気がするが、特に拒む理由もないか。
「海洋で――いや、アイツの話は子供にゃ難しいな。じゃあ、コイツの話をするか」
 そういって懐から長大な琥珀の塊――いや、琥珀製のストーンナイフを取り出した。
「英雄が愛用する武器には逸話があるモンだろ?」
 周囲の男児達が目を輝かせているのを見て、キドーは悪い笑みを返す。
 実際、希少石で作られた武器というだけでも男児にとっては格好良く映る。混じり気なし、継ぎ目なしの琥珀の大塊から削り出された正真正銘の宝刀だ。
「これから俺が話すのは所謂英雄譚の序章ってェやつよ」
 その『時に燻されし祈』という宝刀は、元々他人の持ち物だ。娼婦を利用して盗もうとした事も口にしかけたが、女性陣に変な目で睨まれたので寸前で呑み込んだ。
 キドーは“ナンヤカンヤ”で隙を作り、持ち主からナイフをスリ取ったが相手もそれを気付かぬ間抜けではなかった。
「奴はすぐオレに気付きやがった。奴の――クソエルフの火球を掻い潜り、夜の森の中を駆けちょっとしたマジックで蝋燭の灯りを激しく燃やしたり小さくしたりしてだな……」
 臨場感たっぷりに逃走劇を語る。思い返せば、死に怯える場面や奇妙な現象もあったが、その話すらも今では宝刀を彩ってくれる。
「逃げて逃げて、逃げた先は空中神殿。そこから俺は、他のイレギュラーズみたいに様々な化けモンと戦った。さっきのクソエルフとも――共闘する事になってな。今じゃあ、魔術の先生よ」
 それを語り追えた時には、男児達からの視線は大きく変わっていた。キドーはその態度に満足げに腕を組む。
「その先生についてはまた別の物語。別のときにいつか話してやんよ」

「……え、私? 私……うーん」
 順番が回ってきたフラーゴラ。ポケットからマッチを取り出して、それに火をつける。すると彼女の目の前に――乗馬するフラーゴラの姿が投影された。
「わぁ、これは。魔法?」
「うぅん、ギフト……チヨさんといっ……ってぇっ!?」
 幼児達が寄って集って投影された映像や炎を物珍しそうに触ろうとする。大慌てで年長者が幼児達を抱っこするハメになった。
「……不思議なものは触りたくなっちゃうよね。ふふ……」
 乗馬する彼女の投影は、観光客風の傭兵と共に戦う場面を映したところで一旦消えた。
 そこからは多少ドギマギとしながら、唄う調子で語り始める。
「アトさんに恋をして、お師匠先生――えっと、イーリンさんが騎兵隊においでと声をかけてくれて――慣れない馬に乗って――♪」
 コイバナ好きしそうな女子達から「わぁ」と黄色い声があがった。フラーゴラは照れ臭そうに頬を掻く。
「……あ、アトさんってのはさっきの映ってた男の人だよ。仲間に迷惑かけるんじゃないかとか敵が怖いだとかあったけど……」
 彼や師匠が傍にいて、色々教えてくれた。乗馬のやり方、絡め手の強弱、他にも――。
「……そういう事を経て、私は他のイレギュラーズやエルスさんと一緒に宝石龍と対峙したの……」
 エルスは静かに頷いた。奇しくも二人は同じ戦場を経験した間柄。
「ラサの子達なら宝石竜は知ってる事かしら? あの竜はとても強かった……本当に」
「その戦い、ディルクさんも出陣したって聞いたよ」
「えぇ、そう。ディルク様と戦ったけれど……私なんて最初は全然歯が立たなかったの」
 ディルクはアレを《竜もどき》と称していたが、最終的に百人以上のイレギュラーズが投入された事からどれだけ侮れない存在だったかは明白だ。
「……そこには、さっきの――彼や、お師匠先生もいた依頼。エルスさんが、水晶偽竜の首を取った話でもあるね……」
 フラーゴラはマッチを擦って、水晶偽竜を投影する。
「ラサに集まってくれた特異運命座標の皆さんの力があってこそ思いがあってこそ。だと私は思っている」
 エルスはフラーゴラ、他のイレギュラーズとも視線を交わし、それぞれが反応を返す。
「……たくさんの方々の強い意志がなければ、あの竜には勝てなかった。私がトドメをさせたのも……その思いのおかげだと思っている自分一人で成し遂げられる事ではなかった。その事をいつも胸に刻み付けてるわ」

「どうも無茶な聞き入れてくれてありがとうございました」
「いえいえ」
 年長者から纏まった報酬を受け取り、依頼は事なきを得た。
 全体的に見ると冒険譚・英雄譚に寄ったそれは年少者から好評で。少年少女は帰り際にはしゃいでごっこ遊びに興じている。
 ――やぁ、我こそは『黒鉄守護』。お慕いするリーゼロッテ様の為、貴様を捕らえてみせる。
 ――へっへっへ、『時に燻されし祈』をお前さんにゃ渡さないぜ。
「?! わ、ワシは、その……」
「……マジでやめてくれ……」
 拙い芝居を目の前に掌で顔面を押さえるオウェードとキドー。他の者も同じノリで演じられ、微笑ましいやら恥ずかしいやら。
 エルスは微笑みながら、たまには悪くないと思いつつも、ドゥーに向かって一言尋ねた。

「ドゥーさん? どうして子供達が赤犬の花嫁さんだなんて言う子がいたのかしらァ? 秘密で打ち明けたはずのオウェードさんの慕ってる人とかも……」
「え? えへ、えーっと、あのね、そのね……」
 ――リトルは自分の所業をどう語るべきか、彼ら以上に考えるハメになったのは余談である。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした

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