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シナリオ詳細

海洋ギャング“ルッチ・ファミリー”。或いは、海賊島“ナバロン”…

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海洋都市の裏稼業
 薄暗い部屋。
 葉巻をゆるりと燻らせながら、巨躯の男は「ふむ」と呟く。
 仕立ての良いスーツを纏った筋骨隆々とした男性だ。
 背丈は2メートルに近いだろうか。
 短く刈った髪と、剃り上げた眉、そして細く鋭い瞳。
 男の顔には、額から左頬にかけて深い裂傷が残っていた。
「敵対していた組織のアジトに、よくもまぁ1人で足を運べたもんだな」
 どこか愉快そうな声音で、巨躯の男はそう言った。
 重厚な執務机に肘を突き、目の前にたつ男性……秋宮・史之(p3p002233)へと視線を向ける彼の名はルッチ。
 海洋国家のとある港に拠点を置く、ギャング組織“ルッチ・ファミリー”の頭目である。
 彼を守護するためか、部屋の壁際には数名の黒服が立ち並んでいた。
 感情の読めない、けれど油断のない眼差しを彼らは史之へと向けている。
「俺を殺すなら、わざわざこんなところに呼びつけたりしないでしょ?」
「まぁ、そりゃそうだ。喧嘩はしたが、別に商売敵ってわけでもねぇしな」
 ふぅ、と紫煙を吐き出してルッチはくっくと肩を揺らした。
 それから、机上に置かれたグラスを手に取り史之へと差し向ける。
「飲むか?」
 ルッチの合図で、彼の傍らに控えた黒服の1人が手にしたワインボトルを掲げる。
 見たところ、それなりに高い酒のようだが史之は「結構」とそれを辞した。
「飲み物なら自分で調達できるからね。それより今日、俺を呼んだ理由を聞かせてもらってもいいかな?」
「あぁ、なに。ちょいと数人、人を貸してもらいてぇんだ」
 そう言ってルッチは、1枚の海図を机の上に広げて見せた。

 港町から数日ほど沖へと進んだ海の真ん中。
 上から見れば三角形にも見える形の島がある。
 島の名は“ナバロン”。
 温暖な気候と、鬱蒼とした緑に覆われた熱帯の島だ。
「これは? 未開地の開拓……ってわけでもないよね?」
「話が早いな。その通りだ。地図で見る分にゃ、熱帯の未開拓地にしか見えないだろうが実際のところは全く違う。ナバロンの通称は“海賊島”……海の荒くれども達が一時の休暇に使う犯罪者たちの巣窟だ」
「海賊たちの寄り合い所か。治安の悪そうな響きだ。あんたたちも、そこでシノギを?」
「まぁ、武器や嗜好品の類を卸してる」
 犯罪者相手の商売で、さぞ儲けを出したのだろう。
 ルッチの口元には、隠し切れない凶悪な笑みが浮いていた。
「ところがだ。今回、使いに出したヘルヴォルたちが未だに戻って来やしねぇ。様子を見に行かせた使いの連中もな」
 ヘルヴォル。
 ルッチの部下である、鎚使いの女性の名前だ。
「彼女、けっこう腕が立つだろ?」
「怪我が治りきっちゃいねぇからな。十全とは言えない」
「……言っておくけど、怪我は自業自得だろ?」
 幾らか前の話になるが、ルッチ・ファミリーと史之たちイレギュラーズは海底の闘技場で1度戦いを繰り広げていた。
 戦いはイレギュラーズの勝利に終わり、ルッチやヘルヴォルは大きな傷を負ったのだが……どうやら、その傷はまだ癒えきっていないようだ。
「島の顔役をしている海賊は3人。俺の部下どもがトラブルに巻き込まれているとしたら、怪しいのはそいつらだ」
 ヘルヴォルたちの安否を探ること。
 そして、場合によっては武力を持って彼女たちを助け出すこと。
 それが、ルッチの依頼である。
「聞いた話じゃ、ここ最近は島に出入りする海賊も増えているらしい。まぁ、せいぜい油断しねぇで行こうや」
 なんて、言って。
 固く握った両の拳を胸の前で打ち付けて、ルッチは呵々と笑うのだった。

●海賊島
 海賊島“ナバロン”。
 海洋を拠点とする海賊たちが休暇や補給のために集う小さな島だ。
「気候は温暖。雨が多く、湿度が高いことが特徴だね。それから、島は3人の海賊によって管理されている」
 年間を通してそういった気候であるためか、木々や植物も大型のものが多い傾向にある。
 生い茂った緑の中に紛れるように、海賊たちの利用する施設が多数建てられているそうだ。
「島の中央には湖があって、幾つかある支流を伝ってそこまで辿り着くことはできるよ。川幅のせいで5人乗りの小舟程度しか使えないけどね」
 湖の周辺を仕切っているのは“バルバリア”という海賊だ。
 自身の部下たちと共に、島内に点在する宿泊施設や店舗、酒場などを管理している。
「大口径のマスケット銃を武器とする飲んだくれの大男って話だよ。いつだって優秀な手下を募集しているんだとか」
 狙いは適当だが、命中すれば大きなダメージと【ブレイク】【崩れ】を受けるだろう。
 また、彼の手下たちも同じく銃を武器とする者が多いという。
「それから島の北側には武器保管庫として使われている代洞窟がある。ここはマリブという名の海賊とその手下たちの管轄だ」
 マリブは丸サングラスをかけた細身の女性だ。
 マリブ自身は戦いよりも謀略を得意とする性質であり、【致死毒】【恍惚】【麻痺】の効力を持つ薬物を塗布したナイフを得物として扱う。
「自白剤や洗脳薬の類も仕入れているとルッチは言っていたね。それと、マリブの部下たちは全員女性だそうだ」
 そして、残る1人は“クッキー”。
 島の外周部を拠点とし、島内に出入りする海賊たちの案内や、周辺海域の警邏を受け持っている。
「金にがめつく、保身と自己顕示欲に溢れた小悪党だ。疑り深い性格をしていることと、【失血】【足止】を付与するサーベルの扱いに長けることが特徴だね」
 以上、3人の海賊に仕切られたこの島はルッチ曰く“驚くほどに平和”だそうだ。
 3人の海賊たちの力は拮抗していること。
 3人の海賊たちにより「島内での武力抗争は厳禁」と定められていること。
 海賊たちが、この島の治安悪化を望んでいないこと。
 以上がその理由である。
「島内で起きた荒事を収めるのは3船長の命令を受けた手下たちの役割だ」
 船長の許可を得ていない者が荒事を起こせば、海賊の流儀に則って処分が出されることになる。
 下手に騒ぎを起こすと島の海賊全員を敵に回すハメになるということもあり、ルッチとしては可能な限り秘密裏にヘルヴォルたちの身柄を回収したい。
 最悪、戦闘が起きるとしてもごく小規模なもので済ませたいのだという。
「一応、取引先らしいからね。そのため当日島に乗り込む面子も、僕たちのほかはルッチだけってことになる」
 ルッチ曰く、ヘルヴォルは上記3海賊のどれかに捕まっている可能性が高いらしい。
 ルッチやヘルヴォルはその性格や、扱う商品の重要性、商品の価格設定などの理由から島を仕切る3組織に嫌われているのだ。
「できるだけ早めにヘルヴォルたちを回収したいってことだけど……さて、どうするのがいいかな?」
 と、そう言って史之は深いため息を零すのだった。

GMコメント

こちらのシナリオは「海洋ギャング“ルッチ・ファミリー”。或いは、海底ファイト・クラブ…。」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5677

●ミッション
島内に捕らわれたヘルヴォルおよびルッチ・ファミリーの構成員救出
※騒動が大きくなりすぎると、ヘルヴォルたちの身柄を移送されたり、島に滞在できなくなる可能性がある→ミッション失敗

●ターゲット
・バルバリア
巨躯の海賊。
酒好きであり、大口径マスケットの使い手でもある。
島においては、宿泊施設や酒場などの管理を担っている。拠点は島の中央湖付近。
また、配下の海賊たちもバルバリアに似て銃火器の扱いを得意としている。
※常に酔っ払っているからか、BSにかかりづらい。

大口径マスケット:物遠単に大ダメージ、ブレイク、崩れ、連
 大口径の弾丸を撃ち込む。威力は高いが、狙いは定まらない。

・マリブ
細身の女性。
丸いサングラスをかけている。
海賊ではあるが、荒事は好まない。
姦計を持って良しとする性質。
配下の海賊たちはサーベルや短銃を得物とする。
島における役割は武器、兵器の輸入販売。島の北方にある大洞窟をアジトとしている。

ベラドンナ:神中範に中ダメージ、致死毒、恍惚、麻痺
 毒を塗布したナイフによる攻撃。

・クッキー
島の外周警備を担当とする男性。
保身と自己顕示欲に溢れた小悪党。疑り深い性格をしている。
島の外周に複数の隠れ家を持っている。

船上剣技:物近単に中ダメージ、出血、足止め
 サーベルによる速く鋭い斬撃。

・ボス・ルッチ
筋骨隆々とした大男。
幾つかの犯罪組織を渡り歩いた後、ルッチ・ファミリーを結成する。
短髪にいかつい顔立ち、額から頬にかけての裂傷が特徴。
ガタイを活かした格闘戦を得意としている。
海賊島“ナバロン”には武器や弾薬、食料を卸していたが島の顔役である3海賊からの印象は悪い。

豪拳:物近単に特大ダメージ、致命、封印、体勢不利
 対象の体内にまで衝撃を伝える渾身の殴打。

・ヘルヴォル&ルッチ・ファミリー構成員
合計6名ほど。
ヘルヴォルは鎚を得物として扱い長身女性。
残る5名はルッチ・ファミリーの一般構成員たち。


●フィールド
気候は温暖。雨が多く、湿度が高い。
島の形状は、上から見ると三角形をしている。
島内には密林が広がっており、その中に紛れるように海賊達の造った設備が存在している。
島の中央には湖。周辺はバルバリアの縄張りとなっている。
島の北側には大洞窟。マリブの縄張りとなっている。
島の外周、海岸付近。クッキーの縄張りとなっており、クッキーやその手下が駆る海賊船が潜んでいる。
湖から島の各方向へは支流が伸びているため、島内は小舟での移動が可能。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 海洋ギャング“ルッチ・ファミリー”。或いは、海賊島“ナバロン”…完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
綾志 以蔵(p3p008975)
煙草のくゆるは
ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)
復讐の炎
ジェームズ・マクシミリアン(p3p009897)

リプレイ

●海賊島
 海賊島“ナバロン”。
 海洋都市の沖合いにある熱帯の島だ。
 公には無人島となっているが、その実、海賊たちの管理する休暇島である。3人の大海賊によって支配されており、普段はいがみ合っている海賊同士も島内での諍いはご法度となっている。
「ねぇ、ルッチ。手広くやるのはいいけどさあ、それで恨み買ってたら意味なくない?」
 島の東端にある入江にて、『若木』秋宮・史之(p3p002233)は傍らに立った巨漢へ向けてそう告げた。
「どうにもルッチの旦那はお相手さんに印象が悪いらしいからなぁ。ただの嫌がらせ……で済んでくれりゃまだマシなんだが」
 紫煙を燻らすサングラスの男性、『煙草のくゆるは』綾志 以蔵(p3p008975)もまた巨漢へじっとりとした視線を投げる。
「ってもなぁ、舐められちゃお終いってな稼業だ。恨みを買っても、力づくで黙らせりゃいい。事実、先日まではそれで上手くいってたのさ」
 そう言って巨漢、ルッチは2人を睨み返す。
 とくに史之へは向けた視線には責めるような感情が滲んでいた。ルッチおよびイレギュラーズがナバロンを訪れたのは、海賊たちに囚われたであろうルッチの部下を救助するためである。
「言っておくけど、喧嘩を売って来たのはそっちだからね?」
「まぁ、そりゃそうだ。腕っぷしで負けたんだから、責めるにゃお門違い。ヘルヴォルの奴が怪我をしたのも、俺らの自業自得と実力不足のせいだ」
 今回、海賊に囚われたルッチの部下、ヘルヴォルはしばらく前にイレギュラーズと一戦交え怪我をしていた。その怪我による弱体化が原因で、海賊に遅れを取ったのだとルッチは予想していた。
「"何か"を知っちまったせいでとっ捕まった、なんてことになってなきゃいいが」
「危険込みでの商売ってところかな。さて、ところでクッキーとやらのアジトはどこにあるんだろうね?」
 なんて、軽口を交わしながら3人は島の外周を歩く。

 じっとりと湿った岩盤の上に、巨大なたい焼き……否、『人外誘う香り』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が転がっていた。
「やはり……疑われないためにちゃんと人化しておいた方が良かったですか」
 そう呟いたベークを、数人の女性が囲んでいる。
 しゃべるたい焼きを相手にどう対応するのが正解か、どうにも困っているようだ。そんな彼女たちの向こうに『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)と『Meteora Barista』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の姿を見つけ、1つベークは頷いた。
 ウィズィの召喚した【ファミリアー】の鼠が排除されてから十数分後。島における武器弾薬の流通管理の拠点である巨大洞窟へと侵入した3人だったが、早々にベークが見つかった。
 洞窟の主の名はマリブ。その配下の海賊は全員が女性となっている。
 そのためウィズィやモカは「新しく入った同僚だ」と言い張ってしまえば誤魔化せたのだが、巨大たい焼きは少々不審であったか。
「甘い香りに誘われて来てみれば……何なの、これ?」
 その中の1人、サングラスをかけた女性海賊がそう呟いた。
 彼女がおそらくマリブであろう。ベークを囲む海賊たちが、首を垂れて船長の登場を向かえる。
「うぅん……これで2人が、少しは動きやすくなったでしょうか」
 不幸中の幸いというべきか、結果オーライというべきか。
 人化をしていたのだとしても、その外見は子供であるため、やはり注目を集めただろうと結論づけて、ベークはそれっきり口を噤んで、巨大たい焼きを演じることにしたのである。
 気配を消して、音を頼りに調査へと向かった仲間2人を、ベークは黙って見送った。

 豪華なソファーに身を沈め、赤ら顔の巨漢は言った。
「それで、辺境伯のコン=モスカが、こんな掃き溜めみてぇな場所に一体何の御用で?」
「何、我らもあの海が拓かれてはや一年。肩の荷が一つ降りた分、何か新しい事業でもと思うてな。こうして我自ら足を運んだというわけじゃ」
 注がれた酒には手も触れず『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)はその白い顔に笑みを浮かべる。
 クレマァダの対面に座る男の名はバルバリア。島においては居住区や店舗の管理を担当する酒好きの大海賊だ。
 ところは島の中央、湖の畔に設けられた豪華な宿屋。
 バルバリアを初め、海賊の船長たちが話し合いに使うための施設である。
「そんで、酒の販売か? 確かに上物のようだが、お貴族様方と違って、酒の味が分かる海賊なんざ滅多にいねぇぞ。アルコールが強けりゃそれで万事良しってな連中ばっかだ」
「あれは単なる手土産じゃ。お主が消費すればいい」
「なら、何を売る? どこに拠点を設けるつもりだ?」
「拠点ならもう確保している。だが、顔役に挨拶ぐらいは必要だろう? うちのお嬢様は筋を通すお方でな」
 バルバリアの言葉に応えを返したのはジェームズ・マクシミリアン(p3p009897)だ。実際、既に彼のスキルによって隠れ家は確保できている。
 また、隠れ家には幾つかの小舟も搬入済だ。
 ナバロンの内部には、いくつかの支流が流れている。基本的に島に滞在する海賊たちは、小舟を使って島内を移動するためだ。
「そうかい。それじゃ、売り物の方は? 外の男なら、いい額で雇ってもいいが……」
「ウルフィンか。あ奴も我の護衛だが……少々暴れすぎかのぅ?」
 クレマァダが答えた直後、宿の外で盛大な歓声があがった。
 ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)が、挑戦者を殴り倒して見せたのだろう。
 島に到着してから数十分。
 バルバリアの許可を得たうえで、ウルフィンはちょっとした“遊戯”に興じているのであった。
「あいつに勝てれば大金獲得ってか? 参加費だけで既にちょっとした額は設けただろ?」
 なんて、言って。
 バルバリアは手元の酒を一気に煽った。
 ウルフィンに勝てば大金獲得。
 単純なルールと提示された賞金に釣られ、湖には島の各所から多くの海賊が集まっていた。
「何を売るかはこれから決める。少し島を見学させてもらうが構わんな?」

●海賊の流儀
 クッキー。
 海賊島において、警備や出入りの管理を行う海賊の名だ。武闘派が多い海賊たちの中でも、腕っぷしより頭脳による渡世を至上としている男である。
「そんで、ルッチ・ファミリーのボス直々にお出ましかよ? おまけに見かけねぇ手下を連れてるな? 新入りか?」
「客人だよ。訳ありでな」
「そうそう。まぁ、俺たちの目的は単なる物見遊山だよ。女王陛下の海であまり好き放題やってないかとかね」
 クッキーの問いにルッチと史之が応えを返す。
 ところは入り江の岩陰に停泊していた小型船。クッキーの有するアジトの1つだ。
 ルッチ、史之、以蔵の3人が調査を始めてしばらく、3つ目の拠点に到着したところで、クッキー自らが現れたのだ。
 クッキーは3人を小型船内へと招き入れ、その目的を問うてきた。
 以蔵は不意打ちを警戒して、船外で見張り役をしている。もっとも、実際は【煙化】のギフトを用いた船内や周辺の調査を行っているのだが、そのことをクッキーは知らないはずだ。
「わざわざ外に見張りなんざ立てなくても、別に襲い掛かったりはしないさ。憲兵を連れ込んだりしなきゃな」
 なんて言って、クッキーは肩を揺らして笑う。
「ってか、物見遊山だ? 嘘つけよ。探しに来たんだろ、アンタの部下をよ」
 そう言ってクッキーはルッチを指さす。
 史之が腰の刀に手を伸ばすのを見て、クッキーは慌てたように両手を頭の横へとあげた。どこかわざとらしい態度に舌打ちを零し、史之はソファーに座りなおした。
「ヘルヴォルっつったか? 言っておくが、あいつを捕まえたのは俺らじゃねぇ。これ以上痛くもねぇ腹を探られるのも面倒なんで、犯人を教えてやってもいいが……」
 と、そこでクッキーは言葉を止めた。
 自身の首元に纏わりついた紫煙の存在に気づいたのだ。
 いつの間にそこにいたのか。煙化を解除した以蔵が部屋の隅に立っているのを視界に捉え、クッキーは頬に冷や汗を浮かべる。
「罠は既に解除した。痛くもねぇ腹ってのも、今しがた調べ終えたところだ。もちろん交渉の席に着く気もない。バルバリアだってのは分かったからな」
 そう告げた以蔵の肩には1羽の小鳥が止まっていた。ウィズィの【ファミリアー】である小鳥を通じて、誘拐犯がバルバリアだと知ったのだ。
「知りたいのは、どこに囚われているか……それだけだが、答える気はあるか?」
 以蔵の問いに、クッキーはしばし思案する。
 自身の命と情報の価値を、頭の中で秤にかけているのだろう。

 ベークが囮役を務めてくれたおかげで、ウィズィとモカはスムーズに洞窟の調査を終えた。その後2人は、ベークを囮に洞窟から脱出。
 そんな2人から少し遅れて、ベークもまたマリブのアジトから逃走を成功させていた。
 そうして逃げた先で支流に飛び込み漂流していたベークの身柄を、たった今、回収したというわけだ。
「それで、どちらに向かうんです?」
「行き先はバルバリア領。何が目的か知りませんがね、そこにヘルヴォルさんが囚われているみたいなんです」
「戦闘ですか? あまり期待しないでくださいよ……?」
 ベークの問いにウィズィが応えた。
 小舟に乗った3人は、意気揚々と島の中央付近を目指して漕ぎだしていく。人化したベークは、モカが書類に視線を落としているのに気付いて、その手元を覗き込んだ。
「それは?」
「マリブの日記だよ。数日前の日付で“最近バルバリアの機嫌が良い。噂では、ルッチ・ファミリーとの取引で優位に立てる切り札を手に入れたらしい”というような記述があった」
 おそらく、バルバリアが得たという切り札とはヘルヴォルたちの身柄だろう。
 ウィズィのファミリアーを経由して、得た情報は既に仲間たちへ連絡済みだ。今頃は、皆揃ってバルバリア領への移動を開始しているだろう。
「なるほど。それじゃあ、もう少し頑張りましょうか」
「盗られたら取り替えして万倍返しが海賊の流儀ですよ!」
「ふっ、彼女と会うのも久しぶりだな。パンタローネの件以来かな」
 なんて、島の中央目掛けて進む3人を畔で休む海賊たちは怪訝な顔で眺めていた。

 巨狼が吠えた。
 1人の海賊が地面に倒れた。
 【マッドネスアンガー】で強化された肉体を駆使し、ウルフィンは既に10人を超える海賊を殴り倒していた。
 ウルフィンが誰かを殴り倒す度、悲鳴と歓声が響き渡る。前者は挑戦者に賭けていた者、後者はウルフィンに賭けていた者があげたものだ。
「さぁ、次は誰だ?  これはあくまでも試合、殺生は“今”我が望むものではない……怪我をする程度で済むぞ?」
 パフォーマンスの一環か。拳に炎を灯したウルフィンは、それを頭上へ掲げてみせる。
「へっ。余所者が調子に乗ってんじゃねぇか」
 なんて。
 酒の臭いと共に現れた巨漢が告げた。手にした酒瓶を放り捨て、腰に差した大口径のマスケットへと伸ばす。
 バルバリア。
 海賊島を統治する文句なしの実力者であった。

 銃声と爆音。
 怒号と悲鳴、そして歓声。
 響き渡る騒音に顔を顰めたジェームズは、床に広げた島の地図へ視線を落とした。
 隠れ家として用意された小屋の中。
 クレマァダとジェームズ、さらに合流したルッチ、史之、以蔵と5人の男女が集まっているせいで、快適さなど微塵もなかった。
 元より熱帯の島であるため、気温も湿度も甚だしく不快なのである。
「さて、ウルフィンが時間を稼いでいる間にヘルヴォルを救助してしまおうか。行動可能なメンバーで一気に対象を救出しに行き、脱出するってのが手っ取り早いと思うが」
「我は監視されておるからな。少し、距離を取って行動しよう。陽動のついでにこの島の意義など聞いてみたい。案外ほんとに価値があって良い商売が出来るかもしれんからの」
 呵々と笑うクレマァダは、そう言って小屋を出て行った。
 彼女の移動に合わせ、小屋を監視していた何者かが動き始めた気配もする。バルバリアや他の海賊たちにとって、クレマァダの存在は無視できるものではないのだろう。
「なら、残りのメンバーで強襲だ。場所は……」
「ここだな。湖の中央、バルバリアの遊覧船だ」
 ジェームズの言葉を引き継いだ以蔵が、地図の中央付近を指さし言った。

●一仕事
 ルッチ、史之、以蔵を乗せた小舟が湖を進む。
 ウィズィたちも、遊覧船への襲撃に参加するとのことだ。2チームによる強襲によって、可能な限り迅速にヘルヴォル以下6名のギャング太刀を救出する作戦である。
「罠の解除や索敵は任せてくれ」
 ちら、と畔へ視線を向けて以蔵は言った。視線の先では、バルバリアとウルフィンが激しく殴り合っている。この分なら、多少騒がしくしたところで、襲撃がばれる心配もないだろう。ウルフィンの身の安全は保証できないところだが……。
 煙と化して先行する以蔵を追って、ルッチと史之も遊覧船へ乗り込んだ。
「っと、少し眠っててくれよ」
 3人の侵入に気づき、様子を見に来た船員へ史之は素早く手を向けた。バチン、と何かに弾かれて、船員の身体は背後へ飛んだ。意識を失った船員を物陰に隠した。
「敵を見つけたら速攻無力化。でも、ルッチはやり過ぎないようにね」
「分かってるよ。手加減ぐらいできるっつーの」
 なんて、短く言葉を交わした2人は以蔵の後を追いかける。

「戦闘せずに救出ができればその方がいいんですが」
 そう呟いて、ベークはその場にしゃがみこむ。
 遊覧船内部、船底近くの大部屋には複数の男たちが詰めていた。手に手に武器を持った彼らは、侵入者の姿を見つけるなり、問答無用で斬りかかってきたのである。
 おそらく、バルバリアより侵入者の排除を命じられているのだろう。
「よっ、と」
 ベークが腕を一振りすれば、業火の波が巻き起こる。
 火炎に怯んだ海賊たちへ、静かに迫る影が1つ。
「殺しはしませんが遠慮もしません……遠慮無く…ノバディエット!」
 ウィズィの視線を受けた海賊たちが1歩下がった。
 武力ではなく、気持ちに負けた。その事実が、海賊たちの戦う意思を捻じ伏せる。
 史之、ルッチの行使する暴力もまた、着実に敵の戦力を減らしていった。

 船底付近の暗い部屋に、ヘルヴォルたちは捕らわれていた。
 碌に食事も与えられていなかったのだろう。ヘルヴォルも、ルッチの配下も憔悴している。けれど、幸いにも命を落とした者はいないようだ。
「あ、アンタら……何でここに」
「久しぶりだな。私たちはあなたを救出しに来た訳だが……ルッチさんも私たちも、あなたが何故捕まったか解らないのだ」
 ヘルヴォルの問いに、モカはそう応えを返した。
 紫煙を燻らせながら、以蔵は通路を見張っている。
「それで、バルバリアの目的は?」
 モカの問いに、ヘルヴォルは顔を顰めて視線を伏せた。
「身代金っつーのか。アタシらの身柄と引き換えに、武器やら薬やらの娯楽品を大量に仕入れようとしたんだと」
 何のためにかは、ヘルヴォルにも分からないらしい。
「なるほど。では、あなたたちを解放すればそれで万事解決だな」
 解放されたギャングたちを連れ、モカと以蔵は元来た道を引き返す。

 モカたちからの連絡を受けたジェームズとクレマァダは、ほぼ同時に行動を開始した。
 ジェームズは隠していた小舟を牽引し、遊覧船へと接近。
 一方、クレマァダは拳を構えてウルフィンの救出へと向かう。
「さて、退路を切り拓くとしよう」
 ウルフィンとバルバリアの決闘を囲む海賊たちを殴り倒し、クレマァダは2人の間へと介入。銃を構えたバルバリアに足払いをかけ転倒させると、そのままウルフィンを伴い湖へと跳び込んだ。

「あぁ!? てめっ、負けそうになったからって逃げんのかよ!」
 小舟に乗り込むウルフィンへ、バルバリアが怒鳴り声を浴びせた。
 そう叫ぶバルバリアも、鼻から血を零しているが、戦況で言うなら有利だったのは彼だろう。直前まで連戦していたこともあり、ウルフィンの体力は大幅に削られていた。特に脇と首元に負った弾傷は重症だろうか。
「すまんな。勝負はお預けだ。次は死合いで出会える事を願う!」
 そう言い残し、ウルフィンとクレマァダを乗せた小舟は支流へ消えた。
 その後を追うように、ヘルヴォルやギャングの構成員、その他イレギュラーズも各々、別の支流へと撤退していく。
「……面目ねぇ」
 項垂れ、謝罪の言葉を述べるヘルヴォルへルッチは告げる。
「まぁ、構わねぇさ」
 まだ働いてもらうからな。
 そう言ってルッチは、小舟のオールをヘルヴォルへと手渡した。

成否

成功

MVP

綾志 以蔵(p3p008975)
煙草のくゆるは

状態異常

ウルフィン ウルフ ロック(p3p009191)[重傷]
復讐の炎

あとがき

お疲れ様です。
囚われていたヘルヴォルは無事に救出されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
また、縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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