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シナリオ詳細

負泳ぐ墓所のジューン・ブライド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●墓所のジューン・ブライド
 天義の国。その、とある大きな共用墓地での出来事である。
 荘厳な教会に併設された墓地だ。多くの人々が静かに眠る、近隣の街の人々にも親しまれた墓地であり、これまで特に何ら問題の怒らなかった場所でもある。
 さて、件の教会の名を、セテマイ教会と言った。大きなステンドグラスや、宗教建築の美を見せつける立派な建物で、とりわけ結婚式に利用されることの多い場所だった。天義の建物に対してこういうのは好まれないであろうが、俗に言う『整地』的な場所であると言っても過言ではない。
 この教会で結婚したものは幸せになれる。とりわけ、六月の花嫁は最良である――そんなおまじないの様なジンクスも相まって、六月と言えば連日のように結婚式が行われ、幸せな新郎新婦が毎日のように誕生しているわけである。教会側も、この風潮に相まって、結婚式と言えばこの教会! と宣伝もしている。これはなまぐさな話ではない。多くの信徒に神の祝福を与えるために重要な事なのである。
 ……所で、結婚する者がいれば、当然のように独り身のものもいる。アレである、「二人組作ってー」と言われれば、一人余る奴が当然のごとく存在する。してしまう。それが人間社会の悲しいバグ……と大げさにっていいものかはさておいて、まぁそう言うものである。
 セテマイ教会、華やかな挙式が行われるその中で、それを恨めしそうに見つめるものがいる。男であったり、女であったりする。いや、或いは、花嫁花婿を祝福する客の中にも、ささやかな嫉妬や憎しみのようなものを抱いてしまうものだっているかもしれない。
 それが、一つ一つはひどくささやかなものであったとしても、それを集めて煮詰めれば、高濃度の憎悪に変わるのではないだろうか?
 そして、如何によく弔われ、清浄に保たれていたとしても、そこは死者の眠る地として様々な穢れを意識される場所である墓地ならば、その『憎悪のようなもの』が集まるには適した地ではないだろうか――。
「き、来たわね……!」
 と、セテマイ教会の共用墓地に、一人の魔女がいた。いや、多分魔女である。上から下まで黒づくめで、野暮ったいドレスを着こんだ、三十手前くらいの女性である。どこからどう見てもテンプレじみた魔女なので、多分魔女だ。
「ふひひ、これだけあつまれば……」
 彼女が掲げた瓶には、何か黒いもやもやとしたものが集まっていた。彼女が蓋を開けると、セテマイ教会からふよふよと黒いそれが飛んできて、瓶の中に入り込む。
 これは――いわゆる、人の負の念の類である。それが、下級精霊的なものと融合し、実体を持ったものだ。所詮は淡い負の感情程度のものだが、下級精霊がそれに影響されて、実体と影響力を持ったならば。
「これを媒介にすれば、わたしの負の兵隊ができる……そ、そして!」
 うひひ、と魔女は笑った。
「この教会を襲撃してやるのよ! 毎日のように馬鹿みたいに結婚式をあげる、あの鬱陶しい教会を!」
 魔女が瓶を掲げると、中からあふれたもやもやが、ぼう、と膨れ上がった。それは雲のように膨らんで行って、やがて無数の黒い炎の様な形をとって、墓所に散らばったのである――。
 この日より、教会にむかって黒い炎のような下級精霊が、頻繁に襲撃を仕掛けるようになった。
 加えて、墓地も黒い靄のようなものに封鎖されて入れなくなり、セテマイ教会の関係者たちはほとほと困り果てたのである――。

●魔女の嫉妬
「……そんなに結婚ってしたい?」
 と、 『ぷるぷるぼでぃ』レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)が小首をかしげた。性別不明のスライムであるレライムだ。そう言う感情には疎いのかもしれない。
 天義にあるローレットの支部。そこに集められたローレットのイレギュラーズ達はレライムから仕事の説明を受けていた。
「端的に言うと、天義に居る魔女さんが、結婚式場に嫌がらせをしているみたい。魔女さん、サイア・ネーって言う名前らしいよ。よく酒場で「私が結婚できないなんて間違ってるぅ~」みたいなこと言いながらお酒飲んでたって」
 それで動機やらなんやらがバレてしまうのはなんともはや、と言った話だが、しかしやらかしたことは相応に被害の大きいものである。
「この時期は毎日のように結婚式が行われていて、教会も式ができなくて困ってるんだって。結婚したい人も、困るよね。ああいうのって、人間にとっては一生の思い出なんでしょ?」
 ずず、とコップに入った水をストローですすりながら、レライムが言う。
 たかが結婚式、と言うものもいるかもしれない。されど結婚式である。それを思い出にしたいと言う気持を、決してむげには出来ないだろう。
「だから、その人たちのためにも、教会に併設された墓所にむかって、サイアさんをやっつけて欲しいんだけど」
 そう言って、レライムは小首をかしげた。
「なんか、結界がはられてるらしくてね。中に入るには、ウエディングドレスやタキシード……つまり結婚衣装を着てないとはいれないんだって。なんでだろうね。なんだかんだ言って、やっぱりドレス着たいのかな?」
 人間って複雑だねー、とレライムは小首をかしげた。
「まぁ、結婚衣装は教会が貸してくれるって。各国、それこそカムイグラなんかのデザインの衣装もあるらしいよ。だから好きなの選んでね。自前で持ってるなら着てきてもいいよ。それ以外は、まぁ普通のお仕事かな。お墓に入って、敵を見つけて、やっつけるの」
 そう言って、レライムは、ぽん、と手を叩いた。
「みんななら、きっと解決できる依頼だと思うよ。気を付けて行ってきてねー」
 そう言って、イレギュラーズ達を送り出したのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ジューン・ブライドです!

●成功条件
 魔女、サイア・ネーの撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 連日結婚式が行われる、セテマイ教会――に併設された墓場。そこで負の感情を集めていた魔女、『サイア・ネー』は、集めた負の感情で下級精霊を汚染し、使役することで、教会に嫌がらせを行っています。
 これでは結婚式を行うことができず、教会も、利用者たちも困ってしまいます……と言う所で、皆さんの出番です。この墓所に入り込み、魔女サイアを見つけ出して懲らしめてやってください。
 墓所は結構広いです。大きな石碑のようなものもあり、視界を遮るようなものもあります。ちょっとした迷路のようなものと思ってください。
 壁に値するものは、石造りのお墓や宗教的シンボルなどなので、攻撃すれば破壊できます。どうしようもなくなったら、破壊して一直線に進むのも手です。些か罰当たりですが……。
 ちなみに、この墓所には結界が張り巡らされており、『結婚衣装(ウエディングドレスやタキシード)を着ているものしか入れない』との事です。衣装はセテマイ教会から貸与されますので、好きな結婚衣装(和装から洋装まで、なんでも)を着こんで突入しましょう。ウェディングドレスでバトルだ!
 作戦決行タイミングは夜。内部は整地された墓所になっています。周囲は月明かりが照らすのみで、明かりなどがあると便利かもしれません。

●エネミーデータ
 負の感情の下級精霊 ×たくさん
  魔女サイアによって生み出された、負の感情と融合させられた下級精霊です。燃える黒い火の玉みたいな外見をしています。
  戦闘能力はさほど高くはありませんが、うじゃうじゃわいてきます。
  基本的には、神秘属性の攻撃を行います。軽度の『火炎系列』や『怒り』のBSを付与してくる攻撃も行います。
 
 魔女、サイア ×1
  結婚できないだらしない魔女です……だらしない……そのうえ逆恨みなんて……ダメダメすぎる……。
  下級精霊を使役しています。彼女と遭遇したら、ある程度の敵増援(と言っても負の感情の下級精霊しか来ませんが)を警戒しましょう。
  主に神秘属性の遠距離攻撃を行います。『不吉系列』や『毒系列』のBS、『呪殺』などにご注意を。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 負泳ぐ墓所のジューン・ブライド完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
シラス(p3p004421)
超える者
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
アクア・フィーリス(p3p006784)
妖怪奈落落とし
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
アリア・ネフリティス(p3p009460)
怪力乱心の鬼蜘蛛
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ

●いざ、負泳ぐ墓地へ
「天義にはどうしてヤバい女しかいねぇんだ」
 ぼそり、と『束縛は鋭く痛む』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は呟いた。それは夜の闇に消えて、誰かの耳に入る事はなかった。いや、俺もロクな男じゃねぇしな。胸中で呟くベルナルドは、白い燕尾服を着ている。胸元から覗く裏地は、深いブルー。ジャケットの襟には、旋律をイメージした青い刺繍が施されている。
「しかし、負、ねぇ。ま、こう言う場所にはたまりやすいものか」
 ベルナルドはそう言いながら、胸元のアネモネの花と、前髪をアップにしているカチューシャの位置を直した。
「俺達の衣装は華やかだけど、夜の墓地となるとさすがに気味悪いぜ。夜の教会も、本当なら悪くはないんだろうけどさ」
 フォーマルなタキシードが似合う『竜剣』シラス(p3p004421)が言った。
「流石に、弱いとは言え負の感情を集めただけはあるな。負のオーラっての? 結構肌で感じるよ。……考えて見りゃ、教会って、結婚式もすれば葬式もするんだよな。何方も参列したことがないから、実感がなかった」
「では、わたしの結婚式の暁にはご招待いたしますよ。ええ、旦那様の錬成も順調に進んでいる所ですから」
 と、そう言うのは白無垢姿(これは普段着のようなもので、自前の衣装だ)の『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)だ。ふふん、と満足げに、ちらりと衣装の隙間からみせるのは、旦那様・試作品の数々である。
「お、おう。完成したら是非呼んでくれ……」
 シラスが言うのへ、澄恋は満足げに頷いた。
「しかし、人生で一番幸せなイベントである結婚式、それを開けないようにするなんて……婚活惨敗花嫁としては、婚活惨敗魔女にはすこしの共感を抱きつつ、しっかり説得してやめさせなければ! と強い決意を抱くところです!」
 澄恋が、か弱い拳をぐっ、と握りしめた。
「んー、番なんざ、そんなに欲しいかね。俺にはわからん」
 むむむ、と唸りながら言うのは、『月夜に吠える』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)だ。彼は砂漠の国、ラサ風の衣装に着替えている。装飾の付いたターバンを被り、黄と白を基調にした上着は、清廉さと華やかさを表現している。下半身は獅子のままであるため、背中に当たる部分には、蔵の様な飾り布をかけている。「んだそのふざけた結界は。俺が結婚衣装だぁ……?」と苦虫をかみつぶしたような表情をしていたルナだが、仕事を放棄するつもりはないので、用意され対象に渋々そでを通していた。
「番を欲しがる気持ちを否定するわけじゃないがね。俺にはわからん、ってだけで。それに、他人様を羨んだところで、手に入らねぇもんは手に入らねぇんだがな」
「カカカ、それが人と言うもんじゃよ。愛いではないか?」
 笑う『怪力乱心の鬼蜘蛛』アリア・ネフリティス(p3p009460)。アリアもまた、白無垢を着こんでいる。
「しかし……カッカッカ! よもやこのような齢となって、花嫁衣装を着ることになるとはのぅ! いや、愉快愉快!」
 実に楽し気に、ニンマリと笑うアリア。
「しかし、これで戦えとは酷な事を言うものじゃな? 少々動きづらいわい。お主のように、裾を短くすればよかったかのう?」
 と、アリアが視線を向けたのは、『天色に想い馳せ』隠岐奈 朝顔(p3p008750)だ。洋装の、純白のウェディングドレスは、スカートは短めで、動きやすさを重視したようになっている。
「動きやすさを一番に選びましたから……でも、色々なドレスがあって、選ぶときは、楽しかったです。今度は、また違うドレスも着てみたいです」
 朝顔はそう言って、目を細めた。やはり、ドレスは女の子の憧れである。
「ジューンブライドとか、結婚式とか、わたし、知らなかった……うん? 興味がなかった……かな?」
 そう小首をかしげるのは、『闇と炎』アクア・フィーリス(p3p006784)だ。アクアは黒いウェディングドレスを着ていて、なんだかコスプレみたい、とアリアは思った。
「……ウェディングドレス、動きづらい。スカートがふわふわのひらひらで……動いやすくしたい……」
 と、その裾を掴んで、二つにさこうとするアクアを、
「わ、だ、だめです、アクア君……!」
 と、朝顔は慌てて止めた。
「むぅ」
 アクアが残念そうに唸った。
「でも、お仕事しなくちゃ……今回は、二手に分かれる……だったね?」
「うん。魔女がどこにいるかはわからないからね。墓地も広いみたいだし」
 と、そう言うのは『子供達のお姉ちゃん』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)だ。身を包むのは、正統派な純白のウェディングドレス。だが、背中は大きく開いていて、ミルヴィの健康的な背中をアピールしている。スカートにはスリットが開いていて、動きやすく、同時に足もフリーになる。実に清楚なデザインである。
『……クソ親父は慎みを持て、なんて言ったかもね。それとも意外と照れて褒めてくれたり? ま、どっちにしても、これがアタシなんだい』
 とは、ミルヴィの言である。
「正直しょーもない事件だけど、困ってる人は実際にいるからね。しっかり働こうじゃない」
「……ミルヴィのスカート、動きやすそう……わたしも、やっぱり同じ風にしたい……」
 と、スカートに手をかけて破こうとするアクアを、
「だ、だから、ダメですってば……!」
 と、朝顔が一生懸命止める。それを見て、アリアは、カカカ、と大笑した。

●墓所のエクスプローラー
 ぼお、ぼお、ぼお。と、黒い炎が燃えている。浮遊する、黒い火の玉は、魔女サイアによって召喚、使役された、負の感情を吸収した下級精霊の類だ。
 ぼう、と吐き出される炎を、朝顔は跳躍して回避した。月光に、翻るドレスのすそが白く輝いた。朝顔はそのまま接近すると、手にした刀を鋭く振るった。刹那、刃が周囲を払い、下級精霊たちをまとめて瞬断、消滅させた。
「……っ! 一体一体は、脅威ではありませんが……」
 朝顔の下に、続く炎の二射が迫る。朝顔は再び跳躍して回避。炎が墓石にあたって、小さく爆発した。
 胸中で謝罪の言葉を述べる朝顔。一方、シラスが墓所の石畳を踏みしめ、かつん、と音を立てて飛び込む。下級精霊の眼前迄一気に攻め込むと、魔力を込めたこぶしを打ち込んだ。ぼん、と音を立てて、下級精霊が爆発。
「確かに! 数が多いな……アリア、澄恋!」
「かしこまりました!」
 澄恋が手にした武器を鋭く振るった。広範囲を巻き込むその一撃が、一体、二体と下級精霊を撃ち落とす。
「締めは儂じゃな!」
 アリアがその複腕にて大剣を構え、一気に振り払う。下級精霊はその衝撃に耐え切れず爆散。塵と化して消えていく。
「カカカ、まぁこんなもんじゃな。それにしても、この衣装動きにくいのぉ。少しくらい"あれんじ"してしまっても構わんじゃろ……えい」
 びり、と白無垢のすそを破り、その足をあらわにするアリア。
「まぁ、何と言う事を」
 澄恋が肩を落とす。アリアはカカ、と笑った。
「なぁに、ここは戦場。飾り気より使い勝手じゃ」
 澄恋のドローンとライトが照らす道の先には、入り組んだ石畳と、いくつもの墓石や装飾が並んでいる。広大なこの墓地は、些か複雑な道をしている。
「やれやれ、先は長いか」
 シラスが呟いた。

 一方、別チームの四人も、墓所を進んでいた。すぅ、とルナが周囲の臭いをかぐ。
「負のオーラってので濁ってると思ったが、意外と空気は澄んでるもんだ」
 人の匂い……つまりサイアの痕跡を探りながら、一行は道を進んでいた。
「確かに匂うな……だが、少し迂回しないとな」
 目の前に立ちはだかる墓石を前に、ルナは肩を落とした。一直線に進む、とはいかないのが、この墓所の道だ。
「厄介だな。だが、墓石を破壊して……なんて、罰当たりな真似は避けたい所だ」
 ベルナルドが言う。最悪の場合、墓石や装飾の破壊は許されているが、気持ち的に、それは避けたい所である。
「じゃあ……こっちに進めばいいのかな?」
 アクアがとことこと歩き出す。あたりは暗い。少しばかり、前は見づらくて、
「あいたっ」
 と、墓石に気づかずに、頭をぶつけてしまう。
「ああ、アクア、大丈夫?」
 わたわたと、ミルヴィが駆け寄る。
「……うん」
 額を擦りながら、アクアは言った。
「気をつけろよ。二人とも。これでも一応、心配してるんだ」
 ベルナルドの言葉に、
「ありがと。アタシは大丈夫」
「わたしも……平気」
 二人は頷いた。
「もし苦しくなったら、遠慮くなく言ってくれ。背中で休ませるくらいのことはできる」
 ルナの言葉に、二人は頷く。
「大丈夫……苦しくはないから」
「そうか? 本当に無理すんなよ。ベルナルドも言ってたが、心配はしてるんだ。仲間は守らなければな」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね」
 ミルヴィが笑う――ルナはふと、真顔になった。鼻を鳴らす。
「……待て。人の匂いだ。近いぞ」
「すぐか?」
 ベルナルドが尋ねるのへ、ルナは頷いた。
「ああ。少し走るぞ。ついてこれるか?」
「もちろん!」
 ミルヴィがそう言って、アクアは頷く。一同が、墓所をかける。やがて少し開けた場所にある、大きな鐘のオブジェの下に、黒いウェディングドレスを纏った、長い黒髪の女がいた。

●魔女の涙
「……見つけた! サイアだな!?」
 ルナが声をあげるのへ、サイアはびくり、と肩をすくめた。
「ひ、ひいっ!? な、なに!? カップル!?」
「悪いが、ただの同行者だ。そう言う関係じゃない」
 ベルナルドはそう言うと、静かにミルヴィに目配せをした。ミルヴィが頷く。別チームに預けていたファミリアーを使って、合図。
「サイアってのはアンタだな? アンタがやったことは知ってるよ。
 ――だが、そこまで美しく飾る努力が出来るのに、誰も近寄らないこの場所で燻って勿体ないんじゃねぇか?」
 ベルナルドはゆっくりと、愛情の花束を差し出した。月光を浴びて、花々が美しく輝いた。
「アンタには確かに恋心がある……それを、こんな墓所で使い潰しちまっていいのか?」
「う、う、だ、だけど! わ、わたしの負の力はもう抑えられないわ!」
 少しばかり心を動かされつつも、サイアは下級精霊たちに攻撃の命令を下す。
「やれやれ、聞いちゃくれないか……!」
「惜しかったわね、色男!」
 ミルヴィが駆ける。同時に、サイアは無数の下級精霊を放った。一斉に放たれる、黒い炎。次々と周囲に着弾するそれに、イレギュラーズ達は身構える。爆炎立ち上がる中、ミルヴィは踊る様に、周囲の下級精霊を切り払った。
「アタシだって恋がしたい、愛だって知りたい! アンタはどうしたいの?
 アタシは欲しいんだ、薄ら朧気で遠目に見た記憶ばかりだったけれど暖かい家族、とあの身勝手なまま遠くに往っちまったクソ親父にアタシはもう大丈夫だよ! って安心させたいんだ!」
 ミルヴィは、サイアに向かって叫び、下級精霊を切り払う。サイアが術式を編もうと手をかざしたのを見て、
「アクア、抑えられる!?」
「……うん」
 アクアが手を突き出すと、その足元の影がぐう、とのびた。途端、鋭い爪を持った巨大な影の手が、アクアの影から這い上がり、サイア目がけて解き放たれる! 影の手は、サイアを握りしめた!
「ひ、ひいっ! なにこれ! 何するの!」
「何が憎くてそんなクソみたいな事をしてるか知らないけど!
 てめぇのそういう所だろうが! 自分の都合で人の幸せを邪魔しやがって、殺す!!」
 アクアは叫ぶと、そのままサイアを地に叩き落した。んぎゃん、と悲鳴を上げてサイアが転がるが、何とか立ち上がると、
「精霊たち、やって……!」
 と、下級精霊を呼び出し、一斉射撃を行わせる。ルナは、ベルナルドを背にのせたまま、戦場をかける。
「よお、合わせてサイアに一撃だ!」
「了解だ!」
 ルナから飛び降りたベルナルドが、
「人の恋路を邪魔する女は、鳥に蹴られて地獄に堕ちるぜ?」
 ミスティックガンのトリガを連続でひく。連発される魔力弾が、サイアの足を止めるように石畳に穴を穿つ。
「ひ、ひいっ!」
 サイアが悲鳴をあげるのへ、ルナの速度を乗せた打撃が叩きつけられた! サイアが涙目でフッ飛ばされ、痛みに顔をしかめる。
「せ、精霊たち! おさえなさーい!」
 サイアの涙目の命令に、下級精霊たちが増産され、次々と火炎弾を放つ。
「まったく、数だけは厄介だね!」
 ミルヴィが舌打ちするのへ、返事をするように空色の衝撃波が次々と放たれ、下級精霊たちを撃ちおとしていく!
「お待たせしました……!」
 朝顔が飛び込んでくるのへ続き、残る三名の仲間が戦場へとなだれ込んだ!
「あいつがサイアか! まずアイツの行動を抑える!」
 シラスが下級精霊たちの中を駆け抜け、サイアへと接敵。拳にのせた魔力を叩きつける!
「んぎゃっ! な、なに!? 体が……!」
 思うように動かない体を引きずり、サイアが足を止める。能動的行動を封じられたサイア、下級精霊に指令を出し、自身を守らせようとした瞬間、嵐のような乱撃が下級精霊たちを撃ちのめし、それらが次々と夜の闇に弾けてい消えていった。
「カカ! 少々荒っぽいが許せ! 生憎じゃが手加減は苦手でなぁ!」
 アリアの暴風の如き攻撃だ! それだけでなく、仲間達の反撃が、下級精霊たちを次々と撃ち落としていく。果たして護衛をすべて倒され、丸裸となったサイアが、あわあわと慌てたように座り込んだ。
「やーいやーい結婚できないとぐずる割にはただ酒を飲み出会いを待つだけの受身ダメ女!」
 どん、と澄恋が声をあげた。サイアの意識が澄恋へと集中する。
「な。なによぉ! わたしの気持ちもしらないでぇ……!」
 半泣きで抗議の声をあげるサイア。しかし、その言葉に頭を振ったのは、朝顔だった。
「嫉妬したり、邪魔したいって思う気持ち、私にもわかります。
 ……私にも好きな人がいて。でも、私は自分自身が持てなくて。
 私は選ばれない、想いは報われない、って思ったら。同じことをしてしまうかもしれません」
 でも、と朝顔は頭を振った。
「……だからこそ、最愛の人と結ばれるのは何より尊くて。
 人々は純白のドレスに対し祝福し、魅了されるのだと思うんです!
 結婚は手段であって、目的じゃないんですよ!
 そこを勘違いし、嫉妬し続けるのは貴女が報われません!」
 その、本気の言葉に、サイアは口を継ぐんだ。
「いいですか? 嘆き悲しんでいても何も始まりません
 婚活、合コン、デート……まずは一歩踏み出すのです!
 それができなくて……出会いがないから相手がいない?
 なら、相手を造ればいいのです!」
 と、懐からちらり、と旦那様・試作品を見せる。
「え、なにそれ」
「わたしが造りました!」
 むふー、と得意げに胸を張る澄恋。
「結婚とは、愛とは……自らの力で掴み取るもの!
 その負の感情をエネルギーに立ち上がり、
 今まで見向きもしなかった男を後悔させてやるくらいの良い女になってイケメン捕まえて、
 いつかこのセテマイ教会で永遠の幸せを誓いましょう!」
 にっこりと。澄恋は笑った。
「わ、わたし……」
 サイアは涙ぐんだ。
「結婚、できる……?」
 そう尋ねるサイアへ、少しだけ優しく、ぶっきらぼうにヴェールをかけて、身にブーケを渡したのは、ルナだった。
「精霊使役の腕も悪くねぇ。直接新郎新婦を手にかけねぇあたり、性根も腐っちゃいねぇんだろ。
 本気で欲しいもんがあんなら、もっかいてめぇを磨いてみたらどうだ? あ?」
 その言葉に、サイアの涙腺は決壊した。わんわんと大泣きをする。それはみっともなかったかもしれないが、イレギュラーズ達の言葉が、彼女に届いた証拠でもあった。
 朝焼けが、ゆっくりと墓所を照らそうとしていた。周囲に漂っていた負のオーラは、今はもうない。
「そんなに結婚したいのか?」
 朝焼けに照らされながら、シラスが言う。
「したいぃぃ……キミはまだ若いから、分かんないのよぉ。年齢=彼氏無し期間30手前の女の悲しさがぁ~~~!」
 わんわんと鳴くサイアに、シラスは頭を掻いた。
「あー……幸いまだ被害も小さかったしさ、ちゃんと謝りにいこうぜ。俺ら一緒してやるから。
 大丈夫、これだけの行動力があれば直ぐに結婚できるって、何なら紹介するからさ」
「ほ、ほんとにぃ?」
 ぐずぐずと、サイアが鼻をすする。
「はい。まずは、教会の人に謝って。
 それから、外に出て、恋をして。素敵な人と結ばれてください。
 ……そうすれば、きっと、その嫉妬が報われるくらい、素敵な結婚ができますから」
 朝顔が、ゆっくりと頷いた。その言葉に、えぐえぐと、サイアが泣く。
「そうですね。終わったら一緒に、合コンに行きましょう!
 わたしも素敵な合コンセッティングしますから! 目指せ! 素敵な結婚! です!」
「うわああああん! ありがと澄恋ぢゃあああああんん!」
 と、泣きながら澄恋にすがり着くサイアであった。
 
 かくして、事件は終わりを迎えた。
 サイアであるが、被害がさほど大きくなかったことと、イレギュラーズ達からの口添えもあり、厳重注意で済んだのだという。
 今は、少しだけ前向きに、婚活にいそしんでいるとか、いないとか。
 なんにしても。
 イレギュラーズたちの働きによって、幸せな結婚式が救われたことだけは、確かである。

成否

成功

MVP

星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 サイアなんですが、その後、本当に澄恋さんと合コンに行ったようですが……。
 その結果はたぶん、また別のおはなしなのです。

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