PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Liar Break>ウィル・オー・ザ・ウィスプの帰り道

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鳥使い
 怯える少年に彼は言った。
「さあ、みんなを呼んでおいで」



 国王フォルデルマン三世が動いた。
 黒い噂の絶えない幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』は絶対的庇護者を失ったのだ。
 サーカスの国内追放が決まったが、ローレットはそれを許さない。
 彼らは貴族達と共同戦線を張って包囲網を敷いた。
「捕まれば死ぬかな、死ぬよね」
 『シルク・ド・マントゥール』鳥使いのピピンは呟いた。
 彼の周囲を忙しなく飛び回っていた鳥たちが光る眼を彼に向けた。
「種をまこう、種を。少しでも傷を残そう、傷を」
 ぶつぶつ言いながら彼は大きく頑丈な鳥籠をたくさん積み込んだ馬車を走らせた。
 しばらく走ると、小さな町が見えて来た。
「ここでいいか、いいだろう」
 夕暮れの町の外れ。
 公演の合間、彼がこっそりと訪れて散策していた町。
「こんな時にここへ来るとは思わなかった、いや思っていたから来ていた?」
 この町のどこに何があるか、彼はある程度知っている。
 小さな町、けれども、ローレットの者たちが包囲網を敷くならばきっと近くまで来るだろう町。
 ──どこに彼に興味を持つ者が集まるかも。
 男は馬車から降りると、鳥籠を開いてたくさんの鳥たちを出した。
 全てが全長一メートル、翼を広げれば二メートル半ばの色鮮やかな巨大な鳥たちだ。
「さあ、鳥たちの遊戯を観て行くかい、観ていくよね」
 旋回する鳥たちの下でピピンは話しかけた。
 物陰からそれを観ていた子供たちは目を輝かせた。
「そうだなあ、お友だちがいると嬉しいね、嬉しいな」
 ピピンの言葉に子供たちは走り出してあっという間に七人になった。
「どれどれ、どれも不思議な鳥たち。ピピンの鳥のサーカスへようこそ」
「……サーカス?」
 一番年上の子供が首を傾げた。
 そう言えば、大人たちはサーカスがどうとか騒いでいたはず……。
「ん? サーカスを知っているの、知っているんだね?」
 ピピンは穏やかな顔に笑みを浮かべた。
「君に決めよう、君に決めた」
 突風が襲い掛かった。
 大きな影が彼の友達を攫って行く。
「……あ、あっ!」
 言葉を失って、怪鳥たちが町の子供たちを攫って行く様を見上げた。
「サーカスについていってはいけない、行けないよ」
 ピピンは言った。
「知らなかった、知ってたよね」
 少年は思い出した。
 ──そうだ、国王様からお触れが出たんだ。
「さあ、みんなを呼んでおいで。北の街道で待っているって、待っているよ」



●北の街道
 町の北に伸びた街道は背の低いがっしりとした街路樹が等間隔に並んでいた。
 背の高さは大人の男性ほど。
 短く太い枝は両端から互いに空へと手を伸ばしていた。
 すでに陽は沈んでいた。
 イレギュラーズたちが街道に近づくと街路樹にぽつぽつと光が灯った。
 ……ガシャンと鉄が鳴る。
「ローレットの皆様、こんにちは、こんばんはかな」
 街路樹の奥に立ったピピンはアサルトライフルを抱えて頭を下げた。
 一羽の怪鳥が街路樹にとまった。恐らく偵察していたのだ。
 街路樹には一本ごとに大きな鳥籠が掛けられていた。
 怪鳥たちの鳥籠であろう、それは大きく扉が開け放たれ……中には町の子供たちが縮こまっていた。
「たすけ……て……」
 ガシャン、ガシャンと怪鳥たちが鳥籠を揺らす。
 光は……街道を照らす光の正体は街路樹の根元に点けられた小さな炎だった。
 クァ、と一羽の怪鳥が小さな炎を吐く。
 ピピンは朗々とした声で名乗った。
「鳥使いピピン先生の仲間たちをご紹介!
 赤い鳥は火吹き鳥のスニーズ、くしゃみの代わりに炎を吐くのでもう大変!
 青い鳥のハッピーは人間が大好きの人懐っこいやつ。
 黒鳥のアングリーは怒りんぼ、ちょっとでも構うとガブリといかれますぞ!
 白くて美しいスリーピーはいつもお眠な美人さん。でも、美人には棘がある。見とれ過ぎにはご注意を!
 黄色く元気なシリーはおとぼけさん。うっかり子供を傷つけないようご注意です。
 さあ、最後です! 茶色のシャイは恥ずかしがりや。出て来なくてもご容赦を!」
 四羽の怪鳥が枝を揺らして飛び立った。
 鳥籠から子供たちの力ない悲鳴があがる。
「さあ、お時間です! ローレットの皆様は囚われたこの子供たちを無事救うことができるのか!?
 ショーを始めましょう、始めるよね?」

GMコメント

●目的:鳥使いピピンを倒せ


●ステージ:
幅2mの街道(地面は踏み固められた土)
街路樹は道の両脇に二m程度の間隔で植えられている
鳥籠が釣り下がっている木は6本(両脇互い違い、1本ずつ何もかかっていない木を挟む)
到着時点では怪鳥シリーがPC達の到着を知らせているので奇襲は不可能

□  ■  □  ■  □  ■

                ピ

■  □  ■  □  ■  □

-------------------
■:鳥籠付き街路樹
□:ただの街路樹
ピ:ピピン
※各鳥籠は数kg程だが中に10kg~15kgの子供が入っている
※鳥籠はしっかり枝にかけられているがドアは開いている
※鳥籠の中の子供たちは怯え混乱していて何らかの働きかけが無い限り動けない
※炎はすべての木の根元に点いているが、全焼するまではかなり時間がある


●敵
・鳥使いのピピン
外見:ラウンド髭を生やした四十代の穏やかなフロックコートを着たサーカス団員の男性
魔種の影響を強く受けた飛行種(スカイウェザー)
一見まともで話すこともできるが完全に正気を失っていて会話での解決は不可能
六羽の怪鳥を操る
銃撃を得意とする

(以下、PL情報含む)
鳥たちは共通して以下の特徴を持つ
・全長1m程度,翼開長:2.5m程度,飛ぶスピードは時速350km
・知能:動物の中ではかなり高め
・翼を広げた全長一メートル程度
・剣に近い切れ味の、出し入れできる非常に鋭い爪
・人間大人一人を抱えて飛べる程度の筋力
・肉食
・炎・雷等野生生物が恐れるモノを恐れない
・ピピンが攻撃を受けた場合、近場の鳥が襲撃者を襲う
・ピピンが死ぬと鳥たちはどこかへ飛んでいく

鳥の名前と特徴※()内は主な羽色
・スニーズ(赤):炎を吐く鳥。よく見ればその羽根は羽毛に似せた鱗である
・ハッピー(青):3ターンに一度、高所からスピードの乗った地面すれすれの低空飛行でPC全員をまとめて薙ぎ倒そうとする
   1ターン目にまず全員に対して行い、回避は命中判定vs回避(PC)で行う
   ただし、隠れている者、高所に居る者は含まない
・アングリー(黒):狂暴な噛み付きを二回連続で同一ターゲットに行う
・スリーピー(白):攻撃相手にBS恍惚を与える
・シリー(黄):木に止まって静観、籠を外そうとすると「籠の中の者に対して」襲う
・シャイ(茶):隠れており1ターンの終わりに
   隠れているPC・そのターンの回復役・反応値が一番低い者(優先度は記載順)へ
   背後から奇襲を試みる(判定は双方の特殊抵抗値で行う)
※判定はルール通りダイスロールです
※シリー・シャイ以外はステージ内を飛び回っている



●子供たち
・攫われた子供たち(6人)
 四~五歳、弱っている
 傍でPCが励ませば気力を取り戻し動けるかもしれない
 男:ニケ、ロブ、バート、ミッキー
 女:キャス、アリー
・グレン:男・六歳、町に残されてローレットに報告した



宜しくお願い致します!

  • <Liar Break>ウィル・オー・ザ・ウィスプの帰り道完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月30日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)
咎狼の牙
六車・焔珠(p3p002320)
祈祷鬼姫
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
竜胆 碧(p3p004580)
叛逆の風
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
フォリアス・アルヴァール(p3p005006)
彷徨う焔
ディジュラーク・アーテル(p3p005125)
いつも鳥と一緒

リプレイ


●黄泉への道
 闇の中に点々と灯が並ぶ。
 伝説の鬼火のそれとは違い、それは赤く焦げ臭いにおいを発しながら街路樹に吊るされた巨大な鳥籠を照らしている。
 燃える街路樹を目にした八人のイレギュラーズたちは顔色を変えた。
 ──鳥使いピピンと仲間たち……赤い火鳥はスニーズ、青いハッピーは人懐こい、怒りんぼのアングリーは黒。時を止める白いスリーピー、子供に厳しい黄色のシリーに茶色のシャイ──。
「あれがあの子の言っていた『鳥』なのか?」
 『彷徨う焔』フォリアス・アルヴァール(p3p005006)は、ローレットに助けを求めた少年、グレンから聞いた怪鳥たちの名前を思い起こす。詩にリズミカルに並べられた鳥の色は、なるほど、街道に見えるそれと一致している。
 鳥と言うには、かなり巨大ではあるが。
 「大きいと聞いてはいたが、これほどとは……予想外だったな」
 『望を喰らう者』天之空・ミーナ(p3p005003)は表情を引き締めた。
「詩の通りなら、ただの鳥ではないでしょう」
 警戒を促す『咎狗の牙』リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)。
「さて。あれらの鳥が飛び回る中で子供を救わねばならない、か。ふむ、なかなか難しいことだね。……だが、今回ばかりはためらう事などできないね。子供は宝、巻き込むのは許されざる事だ」
 フォリアスは得物の改良型重装火器を掴んで足を止めた。
 意図を察した仲間たちはそれぞれ短く打ち合わせるとフォリアスを置いて、それぞれの行く先へと進む。
「──鬼火に、子供たちを連れて行かせません……」
 最後に『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)は悲しげな赤い瞳に決意を浮かべ、白い小さな翼をはためかせた。その身体が浮き上がる。


 ミーナとリュグナート、『叛逆の風』竜胆 碧(p3p004580)は街路樹の並ぶ街道へ足を踏み入れた。
 ガシャンと鳥籠が揺れて、子供たちのすすり泣きと煙にむせる力ない咳があちこちから聞こえる。
「ショーを始めましょう、始めるよね?」
 ピピンの口上をばっさりと切り捨てたのは碧だ。
「……始めませんよ。えぇ。──少年少女達、我々を信じて待っていてください」
 ──自分たちが、助ける。
 強い口調で言い切る碧。
 子供たちのすすり泣きが一瞬、止まった。
 惨状に首を振って、ミーナが進み出た。
「狂っちまった外道は救いようがねぇなぁ。……きっちり、引導渡してやるよ。死神として、な」
 硬い土を蹴って、ピピンへの距離を詰めるミーナ。
 悲鳴のような声が暗闇に響いた。
 飛び上がった巨大な青い鳥ハッピーが猛スピードで滑空、地表すれすれをイレギュラーズたち目がけて直進してくる。
「なっ!?」
 筋肉質な翼がイレギュラーズたちを次々と弾き飛ばす。
 絶魔剣『碧』を大地に叩き付ける碧。しかし、歪んだ大地をものともせず、怪鳥は碧をなぎ倒した。
「やれやれ……、うちの鷹でももう少し躾がいいんだがね」
 突っ込んできたハッピーの衝撃に息を詰まらせながらミーナは怪鳥の力強い翼をがっちりと掴む。だが、勢いに押されて振り払われてしまう。
「……惜しかったな」
 地面に叩き付けられたミーナは跳ねるように身を起こして顔の土埃を拭う。
 ギャア、という新たな鳥の声が聞こえたからだ。
 警戒して武器を構えたのは他の二人も同じだ。
 ピピンの元へ走るミーナ、碧。その二人を守るように同じく走るリュグナート。
「お次に登場、スニーズ、アングリー、スリーピー! ウィル・オー・ウィスプが誘う黄泉の道へようこそ、いらっしゃい──ふふ、ふふふはは!」
 リュグナートは毒づく。
「ウィル・オー・ウィスプ、松明持ちのウィリアム……霊魂じみた篝火ですね、忌々しい火でありますが、なれば貴方の喪われた正気がウィリアム、といったところでしょうか」
 炎の塊を吐くスニーズと対峙しながらもリュグナートは鳥使いを睨んだ。
「ならば、貴方が逝くべきは煉獄、その旅路へと送り出しましょう」
 一方、ミーナを弾き飛ばしたハッピーはそのままフォリアスを目がけて矢のように飛ぶ。スピードを乗せたそれが来るのに気付いたフォリアスは身構える。
(一撃ぐらいなら大丈夫だろうと思いたい、が──!)
 衝撃。歯を食いしばるフォリアス。
「鳥目にしちゃ、随分目がいいんだな」
 再び空へと舞い上がる怪鳥を目で追いながら、スナイパーアイを使って彼は地上からスナイパーズ・ワンで狙いをつけた。
「愚者火は鳥たちへの灯火か。彷徨う焔と呼ばれるこの身で、愚者火の暴走を見過ごすわけにはいかないだろう」
 自らを彷徨う焔(ウィル・オ・ウィスプ)と名乗る、ぼろぼろのコートを羽織った大男はターゲットに狙いをつけ──その手から放たれた一撃が夜空を真っ直ぐに切り裂く。
 手応えはあった。
 一瞬落下しかけた怪鳥は、それでも再び両翼を動かし空を昇っていく。


 ハッピーと戦うその裏で、街路樹の陰に潜みひっそりと進む者たちが居た。
 『いつも鳥と一緒』ディジュラーク・アーテル(p3p005125)と『桜火旋風』六車・焔珠(p3p002320)、そして『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)だ。
「怪鳥達は進んでピピンに従っているのだろうか?」
 ぽつりとディジュラークは呟いた。彼が無意識に触れた鳥のチェーンアクセサリーから幻の鳥が現れて、親しみを込めて彼の黒髪を嘴でくすぐった。
「……考えても詮無い事よ」
 彼に気遣った焔珠に気付き、ディジュラークはゆっくりと首を横に振った。
「大丈夫、わかっているよ。もちろん、僕も子供たちは皆助けるつもりだよ」
 三人は燃える街路樹に近づく。そして、木の後ろからそっと声をかけた。
「……あっ」
 気付いた少年が思わず声を上げる。
 声に反応した黄色の巨鳥シリーがピクっと首をこちらへ動かした。
 しっ! とディジュラークが唇に指をあて鳥籠の少年に沈黙を促した。
「大丈夫かい? ……この小さな炎より今は外の世界の方が危険みたいだね」
 みずみずしい生木に放たれた炎はすぐに燃え上がる心配は無さそうだったし、ディジュラークたちは自分たちの戦いに子供たちを巻き込みたくはなかった。無理に木から降ろして戦場へ引き出すより、皮肉なことだが今は鳥籠で身を縮こませているのが一番安全なのではと判断したのだ。
「……」
 仲間たちの後ろで木々に小さく語り掛けていたルフナの表情が曇る。
「必ず助けるから、終わるまでそこで待っていて」
 ディジュラークの言葉にこくんと頷きかけた少年の──その大きな目が恐怖に彩られる。
「あっ──あああ!」
 少年の悲鳴と共に頭上から激しい羽ばたきの音がした。
 ルフナがそれにいち早く気付いて叫ぶ。
「君、上を見て──!」
 いつからそこに居たのか、鋭い爪をギラつかせて大きな口を開けた茶色の鳥の鋭い爪がディジュラークを狙う。
 気付いたディジュラークが腕で顔を覆うより早く、焔珠が鳥に向かって掴みかかった。
「つうっ!」
「焔珠さん──!」
「今、捕まえるわ! また襲われると面倒だもの!」
 飛び出した焔珠が捕まえたシャイを無理矢理地面へと叩き付けて抑え込む。
「……木々もさ、生きてるんだよね。苦しがってるんだよ。無駄に彼らに炎を点ける意味なんてないんじゃないの」
 同じく仲間を庇おうと飛び出したルフナが怒りに燃える目でマリオネットダンスをシャイに仕掛ける。
 無数の見えない糸に囚われた鳥は暴れながらも空に飛び上がろうとする。
 街道の入り口で仲間たちの周辺を警戒していたフォリアスもそれに気付く。
「茶色のシャイ(恥ずかしがり)か──恥ずかしがりなのはいいが、背後から現れるのはいただけないね。それはストーカーというのだよ」
 フォリアスは距離を測った。
 連打を叩き込む焔珠を振りほどいて浮き上がるシャイ。しかし、ルフナの拘束が自由な動きを阻害する。
 機を逃さず、フォリアスの集中した精密射撃が軽やかに距離を飛び越えシャイを貫く。落下したシャイを焔珠の追撃が討ち取る。
 怪鳥の濁った叫びが暗闇に響いた。
 その声でピピンが隠れていたディジュラークたちに気付いた。
「おやおや? お客様だ、お客様か? タダ見はお断り、お断りですよ!」
 ルフナが語気を強めた。
「サーカスの目的とか知らないし、知る気もないけどさ。楽しませるべき観客も呼ばずに自分たちが楽しんでるだけじゃんか。バッカみたい。付き合う気は無いよ、さっさと帰ろう」
 鳥籠の子供たちが縋るようにルフナを見た。
「ふははっ、帰れないよ、帰らない」
 可笑しそうに笑うピピン。
「焔珠様っ……アーテル様、お願いします」
 上空から焔珠の怪我に気付き、駆け寄ろうとしたマナ。
「こっちは任せて」
 回復魔法を使うディジュラークへ頷き、マナは負傷したフォリアスの方へ向かう。


 ミーナ、碧がピピンを攻撃する。リュグナートが壁となり仲間を守りながら立ち回ったが、ピピンへ攻撃をするとどこともなく怪鳥たちが攻撃者を襲い、庇い切れない。
 スリーピーの攻撃を受けた碧が痛みを堪えて、また一歩踏み込む。
「我の拳が届く限り、その翼を削ぎ落とすであります!」
 音を鳴らした一撃がピピンの身体を捉える。同胞の名を呼ぶピピン。
「アングリー!」
 碧は苦痛の声を上げた。肩口に焼ける痛み、抉るようにもう一度。深く。
 リュグナートが気付いたが遅かった。
 彼もまたスニーズとやりあって居たのだ。
 崩れ落ちる碧の足が踏みとどまる。激痛に手放しかけた意識が強い力で引き戻される……パンドラだ。
「我は、負け、ない、のであります!」
 拳が黒い巨大な鳥を振り払い、叩き落す。
 地響きと砂埃の中、戦士の眼差しで碧は敵を見据えた。


「青い鳥は……」
 飛び上がったハッピーはまだ降りて来ない。
 緊張に堪えきれず、鳥籠の子供たちがめそめそと泣き始めた。
 空を警戒しながらミーナは籠の中の子供たちに檄を飛ばす。
「私達を信じろ! 心をしっかり持つんだ! 絶対、助けてやる!」
 鼓吹するミーナの瞳に暗闇を落下してくる青い鳥の影が映った。
「大丈夫、助けるからな!」
 ミーナに一直線に落ちてくるハッピー。彼女はそれに向けて飛翔斬を放つ。
「おねえちゃん!」
 籠の中の少女が叫ぶ。
 フォリアスの攻撃を受けた青い鳥は傷ついた全身を弾丸と変えてそこに飛び込む。
 耳障りな絶叫。
 滑落する青い鳥。
 肩で息をするミーナの後ろで少女が鳥籠を飛び出そうとした。
 それをどう判断したのか、今までじっと動かなかったシリーが黄色い翼を大きく動かして鳥籠目がけて真っ直ぐに飛び込んで来た。
 背後での出来事にミーナは気付かない。
 籠の少女は大きく目を見開いて鋭い嘴を凝視したまま声も出せずに動けない。
「駄目!」
 シリーの前に飛び出す焔珠。叫ぶ少女に対し焔珠は無理に笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。私は頑丈だもの!」
(それにこの体……まだ鈍いけど、ちょっとだけ昔に戻ったみたいで楽しいわね!)
 焔珠が掴む前にシリーはまた飛び上がる。
 それを追おうとした焔珠はふらりとよろめく。
(いけない、ちょっと……)
 何か言おうとした焔珠を優しい力が包む。
「六車様、ご立派なのです」
 マナのハイ・ヒールだ。
 駆け寄ってマナは籠の少女に語り掛けた。
「諦めないでいただきたいのです。私たちも精一杯頑張りますので」
 戦場の片隅で、ディジュラークは悲しげに俯いた。
「……そう」
 和解、もしくは降伏を望んだ彼の問いかけをハッピーは拒絶したのだ。
 視線で問うルフナへディジュラークは言った。
「……彼の返答は残念なものだったけど、僕、ピピンは許せないな。だって、ねぇ。悲しすぎるじゃないか。救ってあげなきゃ、鳥も子供も。……あいつをさっさと殺してさ」
 ディジュラークは青色の怪鳥をそっと道端へと寝かせ、心配そうにこちらを見る子供に大丈夫だと頷いて見せた。
(愛着も湧いてきた、やっと落ち着けそうなこの国に、傷も火種も残させてはいけない)
 ディジュラークは決意と怒りを込めてピピンをねめつけた。


 ハッピーとシャイを失ったピピンたちは、徐々に攻めから守りへそこから反撃する形へと変わって行った。
 ピピンを襲えば、怪鳥たちが反撃する。
 しかし、その怪鳥もすでにシャイとハッピー、アングリーは失われている。
 一方、イレギュラーズたちは何度か危ない場面はあったものの、パンドラとマナやディジュラークの回復により未だ誰一人倒れていない。
「あら、追いかけっこはお終いかしら?」
 焔珠は嘯く。
「子供を怖がらせたのは血で払ってもらうとして、泣いても笑っても、これが最後の舞台ね。悔いなくかかってくると良いわ! 勿論泣くのは貴方で、笑うのは私達よ!」
 状況か疲れか、それとも蓄積したダメージか。ピピンの顔にはもう笑顔は浮かんでいなかった。
 ぎりぎりで構えたフォリスが慎重にピピンを狙う。遠距離で敵を狙うフォリスを邪魔する鳥はもういない。
「君は三つの間違いを犯した。一つは銃使いが隠れもしない事。二つ目に私達を敵に回した事。──そして三つ目、子供に手を出した事、これが最も重大な間違いだ! 地獄に落ちよ!」
 フォリアスの攻撃がピピンを撃ち抜いた。
「ぐ、ぐああっ! 終わりだ、終わらない!」
 身体を仰け反らせる鳥使いの足をソーンバインドの魔性の茨が絡めとる。
「!?」
「囚われる気分も味わってみるといいんじゃないの?」
 そう言ったのはルフナだ。敵を焼かんとするスニーズ。
 ピピンへ奇襲攻撃を仕掛けるミーナを、スリーピーが恍惚状態へと誘う。
「しっかり!」
 毒撃でスリーピーを追い払いながら、ミーナの頬を叩くルフナ。
 一方、リュグナートはノーギルティを軸に次々と技を繰り出し、ピピンを追い詰めていた。
 慈悲を帯びた一撃に反撃するように滑り込んだスリーピー。
(罪深き者を無辜の技で制する……皮肉めいていますが──)
 しかし、それはあながち間違いではない気がした。
 リュグナートのリッターブリッツがスリーピーごとピピンまで貫く。
 喧嘩殺法と拳を叩き込んでいた碧が、そこへトドメとばかりに碧嵐舞を繰り出した。
「我が刃は正義に非ず、されど人の為にあるでありますよ! 鳥使い、終劇であります!」
 連撃が鳥使いの身体を抉る。
 吹き飛ばされたピピンが地面を滑り、そして倒れたまま声高らかに宣言した。
「ああ、ああ……終わるのか、いや、終わらない……舞台は──」
 ふつりとその声は途切れた。
 叫び声の余韻を残して、ピピンは絶命した。



●終幕
 ピピンの死に気付いたスニーズとシリーは空に舞い上がった。
 巨大な羽が生み出す風で木々の枝と鳥籠が揺れた。
「──あ」
 咄嗟にディジュラークは鳥たちに声をかけた。
 ──静かに暮らしたいのならば、もう二度と人を襲わないように。
 彼はそう伝えたかった。
 ピピンの上空をぐるりと回って飛び去る鳥たちはそれぞれ一声鳴いて闇の中に消えて行った。
「……そう」
「彼らは、なんて?」
 哀しげな顔でそれを見送るディジュラークへ、焔珠が尋ねる。
「彼らの答えは、怒りと悲しみ。でも、なぜだろう。安堵もしていたよ。僕は彼らを──少しは救えたのだろうか」
「安堵、なのですか……」
 マナが悲しそうに街道の端に丸まるハッピーたちの骸を見つめた。
 狂気に侵される前の鳥使いと鳥の間にはまた別の思い出や絆もあったのだろうか。
 尋ねたくとも鳥使いはもう動かない。
 大半の鳥はここで共に眠り、残った鳥たちは飛び去った。
「狂気、ですか」
 倒れたピピンを一瞥したリュグナートは呟いた。


 剣を振るって斬り落とせる枝は斬り落としてから碧が頭上へ叫んだ。
「我、準備完了、飛び降りるであります!」
 その声に合わせて鳥籠を蹴って飛び降りる少年。それをしっかりと受け止める碧。
「大丈夫、掴まってください」
 伸ばしたリュグナートの逞しい腕を両手で必死に掴んだ子供が鳥籠から出る。彼は怯えた子供を慎重に地面まで下ろすと、それから、燃えさかる街路樹のうち何本かを両手斧で斬り倒した。
「これでいいですか」
 リュグナートが問うとルフナは無言で頷いた。、
「……騒いで悪かった。おやすみ、だよ」
 不機嫌そうな顔でルフナが倒された木々の表皮を撫でる。焦げてカサカサになったそれらは年を取りすぎて根元の消火だけでは済まなかったのだ。
「こっちは全員寝たよ」
 ミーナが小声で伝えると、幼い子供の頭を撫でていたマナもこくんと頷いた。
 助け出された子供たちは、ピピンの馬車から持ち出した薄い布を敷いた柔らかな草の上ですやすやと眠っている。
 消火と後始末が終わるとイレギュラーズたちも子供たちの傍に腰を下ろした。
 地平線に光が滲む。
 荒れ果てた街道は静かで凄惨な状態だったが、残った木々と空の鳥籠に付いた夜露が暁光を弾いてきらめいた。
「これで帰れそうだな」
 そう言ったフォリアスがふと破顔した。
「……えっ、あ……ああっ」
 笑ったフォリアスの顔を見て、そして自分の汚れた指に視線を落としたマナが頬を押えた。
 朝日の中で、イレギュラーズたちは煤けたお互いの顔に気付いて思わず小さく笑う。
 酷い事件だった。けれども、彼らは狂気と怪鳥から子供たちを救い、街道を守ることができた。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございます。
怪鳥たちとの戦いは激しいものでした。
しかし、その結果、狂化したサーカスの鳥使いは死に、子供たちは無事取り返すことができました。
お疲れさまでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM