シナリオ詳細
終わる世界に花束を
完了
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オープニング
□世界が滅びるまでのタイムラグ
「わたしが死んだら精いっぱい悼んでね。その時ばかりは、朝が来ても朝日が昇ることすら構わずに、寝る間を惜しんで私のことを考えて。……そしたら、もう一度朝日が昇ったら、ちゃんとわたしのことを忘れてね」
そんな約束をしたから、君が死んだ時、私は朝日が昇るまで君のことを考えて、次に日が昇る前に世界を滅ぼしたのだ。
空っぽで灰色の世界で考える。この世界には何もない。私が、すべて壊してしまった。
どうすればよかったのかは、今でも分からない。
それでも、世界を滅ぼしたことを、後悔することはできなくて。
だって、君を犠牲にして成り立つ世界など愛せない。一人を、君を犠牲にして続く世界が憎い。何より、君をずっと想っていたい。忘れたく、ない。
ただそれだけの理由で世界を滅ぼした私に、君は何を言うんだろうね。
……ああ、でも、うっかりしていた。こんな世界では、君に供える花すらない。そのことが、少しだけ心残りだ。
□夜、境界図書館にて
「滅びゆく世界に行って欲しいんだよね」
境界案内人曰く、そこはもうすぐ滅びる世界だという。混沌より随分小さなその世界は、たった一人の人間によって滅ぼされたらしい。生物は死に絶え、植物すらほとんど存在せず、ただただ文明の残骸が在るだけ。
「世界の最期を見届けて欲しいんだ。向こうの世界では――もう滅びてはいるけれど――好きに過ごしてくれていい。街を見て回ってもいいし、残ってるモノに火を付けたっていい」
どうせ滅びるんだからね、なんでもいいよ。と彼女は笑う。
「そうそう、あっちには世界を滅ぼしたヒトがいるはずだよ。敵対する気はないだろうから、気が向いたら会ってみてもいいかもね」
言いながら、彼女は窓を開ける。花々が夜風に揺れるのが、視界の端に映った。
外を見ながら、境界案内人は思い出したように声を出した。
「あぁ、そうだ。せっかくなら、花でも持って行きなよ」
灰色の世界に色鮮やかな花が供えられていたら、きっと綺麗だからさ。
- 終わる世界に花束を完了
- NM名ヰヨ
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年08月02日 19時05分
- 章数1章
- 総採用数6人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
「静寂、ね」
生き物の気配がないのはあまりにも静かすぎる、とルシアは思う。気を持ち直すように、彼女は世界を滅ぼしたヒトを探す。何もない世界は見通しがいい。目の端に引っ掛かった一際高い瓦礫の上を見れば――いた、人だ。
ルシアが気付いたタイミングで相手もルシアに気が付いたようで、瓦礫から落ちるように、地上へと降りて来る。
「……この世界の人間じゃない、か。こんな所に何の用だ?」
「貴方の話が聞きたいの」
「私の?」
自嘲するように笑うその人に、ルシアは柔らかく言った。
「貴方は大切な人を忘れたくなかったのでしょう? 咎めたりはしないわ。私はただの見届け人――愛する人の想いを、聞かせて?」
沈黙は、そう長くは続かなかった。
「そうだなぁ、彼女は――」
□
「ありがとう。話を聞かせてくれて」
「それはこちらのセリフだ。……ありがとう、彼女の想いを知ろうとしてくれて」
応えるように、歌うように、ゆっくりとルシアが声を出す。
「……あらゆる存在は一度だけ。繰り返すことのない一度きり。それでも、私は貴方達の想いを覚えていてあげられる」
そう言って、ルシアは花を差し出す。
「貴方に相応しい花だと思うの」
灰色の世界に捧げるは白花曼珠沙華。「また合う日まで」「想うはあなた一人」そんな想いが込められた花が、色褪せた世界で揺れる。
今生では悲しい別れだとしても、来世では幸せに――ルシアは、そう願わずにはいられない。
成否
成功
第1章 第2節
「やあ、はじめまして。世界を滅ぼしてしまった大悪人君!」
世界唯一の生き残りに向けての、ルブラットの第一声だった。相手の返答を待たずに、ルブラットは言葉を続ける。
「まったく勿体ないことをしてくれたね。貴方のお陰でこの地にあった如何なる生命も、愛も、情動も、全て朽ち果ててしまった」
ルブラットが喋るのをやめれば、二人の間には沈黙が訪れる。
そして、もう一度静寂を破ったのも、またルブラットであった。
「いや、貴方を責めるためにここに来たわけではない」
「……では、何のために」
言葉を被せるように、ルブラットは言う。
「私の目的はただ一つ。貴方の今の心境を聞きたい」
不審そうな目に、ルブラットの体がからからと揺れる。
「ただの知的好奇心だよ。大量殺戮者の気持ちをゆっくり聞ける機会なんて、なかなか訪れるものではないからな」
「……変な奴」
「しかし、何もないと言うのも味気ない。花束でも対価に……どうかね?」
そう言って、ルブラットが花束を取り出す。野草も人の手が入った花もごちゃ混ぜになったそれは、混沌としているのにどこか統一感を感じる逸品だ。
「……ちょうど、彼女に手向ける花が欲しかったところだ。特に、これなんかはいい」
そう言って、大罪人は花束の中から一本の白百合を引き抜く。
「彼女はこの花のような人だった――」
誰にも裁かれず、誰にも許されない。密やかな罪の告白を知るのは、後にも先にも二人だけである。
成否
成功
第1章 第3節
「あなたが世界を滅ぼした人?」
「そうだ」
灰色の世界では場違いに思えるような、ハッキリとした声が響く。荒廃した世界に降り立ったメリーには、知りたいことがあった。
「あなたはどうやって世界を滅ぼしたの? 魔法? 強い武器でも使った? 扇動して戦争でも起こさせた? それともまさか……拳で?」
やけに真剣な声音で、しかし遠慮のひとつもない質問に、世界を滅ぼした人間は苦笑する。
「君は世界を滅ぼしたいのか?」
「わたしは気に食わない奴を全員ブチ殺したいの。真似できそうなら参考にさせてもらうわ」
傲岸不遜な物言いに、大罪人は今度こそ声をあげて笑った。
「どうせもうすぐ冥土に行く身だ。参考になるかは分からないが、私で良ければ教えよう」
戯けたように言って、彼は世界を陥れた手口を語る。神の加護、狡猾な知略、民衆の扇動、あるいはただの暴力で。穏やかに語られる邪智暴虐に、メリーは目を輝かせた。
□
「まぁ、そんな感じだ」
「なるほどね。それなりに参考になったわ」
話を終えると、用は済んだとばかりにメリーは帰り支度をする。
「あ、そうだ。コレあげるわ」
メリーが差し出したのは赤い花。燃える炎のようなそれは、どこかの世界では彼岸花と呼ばれている。
世界は一度焼け死んだ。燃えた跡地に咲く花としては、悪くない。そう思った罪人が「ありがとう」と口にした時には、メリーはもういなかった。
成否
成功
第1章 第4節
「ここが死に行く世界ですね……」
色の抜けた世界を見て、彼方はぽつりと呟いた。生物の気配のない世界は密やかで、夜のひやりとした空気も相まってある種の神聖な雰囲気すら感じられる。
「では、この終わりゆく世界に向けて私が鎮魂歌を歌いましょう」
ギフトを使っては、あまりにも無粋だ。本来の歌声だけで、できる限りの力で。そう決めた彼方は、前を見据えて息を吸った。
□
ステージは足場の悪い瓦礫の上、スポットライトのひとつもない暗いステージでは声の限りしか届かず、何より観客は存在しない。それでも、彼方は歌う。ギフトなんて使わなくたって、もう存在しないすべての人に届くように! 自身が身につけたステージ技術や舞踏技術は、観客がいないのがもったいないほどに美しい。どうか、この世界で死んでしまったすべての人たちが安心して天国に行けるように、そしてこの世界そのものが静かに終われますように。
「最後に、花を手向けて終わりましょうか」
元の世界から持ち込んだたくさんの花たち。色とりどりのそれらは宙に舞い、灰色の花の雨を降らせる。静かに、それでも華やかな最期を! 冥界に届く歌と花に込められたそんな願いは、終わる世界を優しく包み込む。
成否
成功
第1章 第5節
ルビーは滅んでいく世界を歩いていた。混沌に比べれば随分と小さな世界であったけれども、きっとそこにはたくさんの命があったはずだ。この世界に当たり前のように存在した数多の想い、果てにはその歴史すら世界と共に消えて行く。
彼女は考える。世界のために好きな人が犠牲になる苦しみを。――きっとそれは、色鮮やかな世界がここまで荒廃するに相応しい理由だった。もし私が同じ立場で、スピネルが同じ目に遭ったなら……そう考えてしまう。
同時に、彼はそんなことを望まないこともルビーは分かっていた。そして、そのために他の人を犠牲にしていい訳はないということも。世界と大切な人の間での板挟み。海の底に沈められるような深い苦しみは、想像しただけでも息苦しい。この世界を滅ぼした人はどうだったのだろう。罪のない人を世界ごとすべて破壊し尽くしたその人の苦しみは、どうだったのだろうか。
そんなことを考えていると、ルビーの周りは赤い薔薇の花びらで埋め尽くされていた。灰色の世界は不釣り合いな熱情の赤。愛ゆえの苦しみに反応して、彼女のギフトは花を生む。――愛は免罪符じゃないけれど、この花をせめてもの手向けに。大切な人を想うルビーは、どこへも繋がらない花道を歩いていく。
成否
成功
第1章 第6節
荒廃した世界に、かろんと静謐な音が鳴る。小夜が世界に降り立った音だった。間もなく滅びる世界、けれどもまだ滅んではいない世界。ならば、と小夜はこの世界に来た。
「私は私の為すべきことを為すために、あなたに会いに行きましょう」
□
「……介錯?」
世界を滅ぼしたのはあなた? その問いに肯定で返したその人は、続く言葉に目を見開いた。
「ええ」
小夜は言う。このままでもいずれ貴方は死ぬ、そして死んだ時がこの世界の本当の滅びと言えないかしら。なら私に斬られて死ぬなら真に最後に世界を滅ぼしたのは私という事になるでしょう? と。
苦しみが嫌ならば、あるいは滅ぼした罪を肩代わりさせたいならば。裁きではなく安寧を。その心に救いを。傲慢ではなく、温度もなく、しかしそれは決して薄情な言葉ではない。
一瞬の静寂が訪れた後、その人は首を横に振った。
「いや、いい。遠慮しておく。本当に消え去る時まで、なるべく長く、この世界のことを覚えておきたいから」
「そう」
「ありがとう……優しいんだな、君は」
小夜は短く頷いた。最後の言葉には、何も答えずに。
「なら、これはあなたの大切な方に」
差し出したのは大輪の白百合。人が死んでも、ひとつ世界が終われども、自分の夢が覚めることはない。そうだとしても、その死に救いがありますように。彼女に応えるように、罪人は笑って花を受け取った。
成否
成功
第1章 第7節
人のいない世界で、その唯一の生き残りは目を見開いた。気付けば、灰色だったはずの世界が色鮮やかな花に溢れていたからだ。
滅びる世界の鎮魂に、あるいは今から滅びる彼に、あるいはたった一人で世界の生贄になろうとした彼女に。
贈られた花たちは、うつくしい色を纏って誰かのために生きている。
今になってなお、世界をこんな風にしてしまったことを後悔はしていない。だからこそ、罪のない人々を悼む気持ちはあれど、自分にその資格などあるはずもなく。自分ではない誰かがこの世界を覚えていてくれること、この世界の人々を悼んでくれることに救われたのかもしれない、とその人は思う。
もう、世界は終わる。いつか生まれるかもしれない次の世界が、彼女にとって幸せなものでありますように。
それだけを願って、ただの人間は、目を閉じた。
NMコメント
初めまして、もしくはお久しぶりです。ヰヨです。
○名前も忘れ去られた世界
もう日が昇ることのない世界です。時間は常に夜であり、星々以外に光源はありません。大気中に有害な毒が含まれていますが、イレギュラーズが生存するには問題ない環境でしょう。どこもかしこも破壊し尽くされていますが、残骸から察するに、鉄製の銃火器を製作できる程度の科学技術は存在したようです。
○目標
死に行く世界を見届けること
死に行く世界に花を供えてくること
灰色の世界を見て感傷にふけるのでも、誰にも邪魔されずにデートするのでも、残されたヒトに会いに行くのでも、好きに過ごしていただいて構いません。
花は細かく指定していただければ描写させていただきますが、指定がなければこちらで決めさせていただきます。
○登場人物
・名乗る相手もいないヒト
とある世界を滅ぼしてしまった誰か。好きな人がいました。基本的には温厚な性格で、例えイレギュラーズに攻撃されても無抵抗でしょう。プレイングに記載があった時のみ登場します。
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