PandoraPartyProject

シナリオ詳細

なんともくまったおはなし

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

〇日常を奪いしもの
 その日は驚くほど快晴で、かといって暑すぎることもない。そんな穏やかな一日だった。
 行きかう人の流れ。パン屋の旦那が女将さんにどやされている声。じいさまばあさまたちの、今日何回目かわからない同じ内容の会話。
 今日もいつもと変わらない一日が始まり、終わって行くんだろう。
 そんな当たり前をおれたちは何も感じることなく、ただ浪費していったのだった。
 ソレが、現れるまでは。
 不穏な前振りをしてしまって申し訳ないとは思うが、おれたちの日常に起きた事は紛れもない事実で、それをどうにかする術をおれたちは持っていなかった。
 おれたちの前に現れた侵略者、あるいは略奪者はあっという間におれたちから生活のほとんどを奪っていった。
 どこかの国では『パンのあるところに祖国あり』なんて言葉もあるらしいが、生活の糧が奪われてしまったおれたちの故郷はどうなってしまう?
 いや、やりようは他にもあるかもしれない。あいつらはおれたちから全ては奪っていっていない。
 だからきっと、何か手立てが……。
「あぁ……」
 誰かのため息が聞こえる。そいつの方を見れば、分かりやすく手が震えているのがわかった。
 目の焦点も定まっていない。
「もう、もう我慢できねぇ……俺は、俺はあそこに行く」
 正気か? いや、とうに正気など遠い日常に置いてきてしまっているのだろう。
 そいつを止めるものはいない。それどころが一人、また一人とそいつに続く者すらいる。
 かくいうおれも、いつまで正気でいられるかわからない。
 一度体験したら忘れられず、二度目からは自分から求めるようになり、果てにすべてを捧げるようになる。
 忌々しい侵略者。日常を奪っていた悪魔の名前は――。

〇境界図書館にて
「くま」
 トゥールがその二文字を口にする。あなたたちは何のことかわからず、疑問符を浮かべるだろう。
 その姿が彼には面白く映るのか、いつもの独特な笑い声であなたたちに語り出す。
「だからくま、だよ。混沌の文字で書くなら熊、かな?」
 知らない? と首をかしげる彼だが、まぁ、まともに人生を歩んできた者ならう一度くらいは見たり聞いたりしたことがあろう。
 曰く、その熊が山から人里に降りてきて、町を乗っ取ってしまったらしい。
 確かに食料が足りなくなった熊が人里に降りてくるという話は聞いたことがあるものもいるだろう。しかし、町を丸ごとのっとってしまうほどとは。
「この熊たち、人を魅了する術を無意識に使えるらしくてね。それで人々をいいようにしているみたいだねぃ」
 魅了の術を無意識に周囲にまき散らす害獣。確かに脅威かもしれない。
 ただ、熊たち自身は『わぁ、人間が遊んでくれるうえに食べ物までくれるなんてラッキー』くらいにしか思っていないようだ。
 そして熊たちの術はある種の中毒性があるようで、最初は抵抗していても次第に自分から進んで熊に尽くすようになる。
 まだ踏みとどまっているものの、限界が近い。もし限界を超えてしまったら町の人々は近隣の村を襲うだろう。
 自分たちにとって何よりも大切な熊のために。
「そんなわけで、キミたちにはさくっとこの世界を救ってきてほしいんだよねぇ」
 そんなスナック菓子感覚で。誰かが頭を抱えたが、トゥールは気にしない。
 町を変えてしまった元凶をどうにかするため、あなたたちは出発することになった。 

NMコメント

 ぼくはくま。あくまじゃないよ。
 というわけで熊をどうにかするお話です。
●世界説明
 全ての物や者に魔力が通っている、中世的な街並みの山沿いにある小さな集落です。
 この集落では最近、熊が出没して住民たちはおかしくなってしまっています。

●目標
 このシナリオでは熊を山に返すことを目標に行動していただきます。
 手段は問いません。熊としこたま遊んであげても、周囲の町で食料を買って食べさせてもOKです。
 
●熊について
 知らず知らずのうちに『魅了』の魔術をまき散らす熊です。
 山の食べ物が足りなくなってしまい、仕方なく人里へ降りてきたところで魅了の魔術が大暴走をはじめ、人々を操り始めてしまいました。
 本人(本熊)たちに悪気があるわけではありませんが、このままでは争いの火種になりかねないのでどうにかしなくてはなりません。
 なお、熊たちは私たちが常識で理解している熊よりも人なつこく、もふもふしています。もふもふしています。

  • なんともくまったおはなし完了
  • NM名樹志岐
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年06月21日 21時45分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)
高邁のツバサ
原田 幸村(p3p009848)
あやかし憑き

リプレイ

●ごはんがたべたい!
 蓋を開けてみればそこは凄惨たる様子だった。
 右を向けば熊。左も向いても熊。
 あちこちに水溜りならぬ熊溜りができており、その中心部には住民と思わしき人の手が見える。
 早く助けなくては。原田 幸村(p3p009848)は強く拳を握りしめ、勇猛果敢に熊の方へと向かって……。
「たっ、大変ですの! 幸村さんが堕ちたですの!」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)慌てた様子に他の二人は頭を抱えた。
 なるほど、熊の『魅了』の威力は想像以上のようだ。身を引き締めなくては簡単にやられてしまうだろう。
 一方で彼女は胸を撫で下ろしていた。
 彼女の種族事情を鑑みればその心中は容易に察せれる。
 彼女はそう、……なぜかはわからないがとても『おいしそう』なのだ。
 今回の相手の熊たちは人間は襲わないと聞かされている。
 食い気より遊びたい気持ちが強いようだし、熊たちと思う存分遊んであげることで、この問題は解決できるはずだ。
 はず、だった。
「あれっ?」
 何故。どうして。頭にいくつも疑問符が浮かんではそのままの状態で滞留している。
 その理由は簡単。目の前の熊達がどう好意的に捉えたとしてもノリア自身を『おいしそう』に見ているように感じたからだ。
 彼女の日常にとって特別ではなくなってしまった、彼女へと向けられた感情のベクトルに思い当たる節がありすぎて冷や汗が流れる。
「わっ、わたしは食べ物じゃないですのー!」
 建物に反響して響く彼女の叫びは、人の言葉を理解できない熊達には届かない。
 その場から駆け足で逃げだす彼女を熊達は『遊んでくれるの?』『ごはんが逃げた!』と追いかけまわした。
(ほんとは、あまり傷つけたくはなかったのですが……!)
 簡単な魔法を即座に熊達に放つ。『わたしは、人間は貴方達にとって脅威である』と認識させるために。

●人間と遊びたい!
 一方。こちらは別の熊溜り。
 その上空を悠々と飛び回りながら様子を伺う彼女にとって、それはどう見えるかというと。
「エサ、或いは遊び道具……デスカネ」
 『高邁のツバサ』エステット=ロン=リリエンナ(p3p008270)は、顎に手を当てて何かを考えている。
 実家は人を導く立場の家だったこともあり、そういったことを察知する『眼』は人より優れていると自負していた。
 そんな彼女が導きだした解もまた、彼女の呟きと同じであった。
 食糧。それから遊び道具。
 しかしそれらをいちいち順を追って提供するのは些か骨が折れる。
 ならばそれらをまとめて与えてしまえば万事解決ではなかろうか。
 彼女は“小さい所から有名になるため着実に歩みを進める”のをモットーとしている。
 これは有名になるための第一歩。
「さぁ、貴方たちの願いを叶えるノデス」
 彼女の手にはドングリや山菜といった山の幸が目一杯詰まった籠。どれも本来、熊が山で食べている好物たちだ。
 それを持って上空を舞えば、故郷の懐かしい香りを嗅ぎ付けて熊は天を仰いだ。
 くぐもった『クマ、クマ、クマ』といった声を上げて手を伸ばすが、熊達の短い手は彼女を捕らえられない。
 それが焦れったくて、どこか楽しくて。いつの間にか彼女のまわりには何匹もの熊があつまって来ていた。
 一先ず様子を伺っていた『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は鋭い眼光を相手へと向ける。
(山の食糧不足。最終的にはそちらをどうにかしなくてはならないが……)
 ヒトはヒト、熊は熊に適した環境があり、熊にとってここは不適切だ。
 さしあって目の前の状態をどうにかする必要がある。
 どうにか、とはどうすればいいか? 解は簡単だ。
「さぁかかってこい。私が相手だ」
 ソトから来たケモノの挑発。その行動に熊たちはゆっくりと、今まで戯れていた人間たちから視線をこちらに向ける。
 その目は、新たな獲物を見つけた獣の目をしていた。
 一匹、また一匹とケモノへ向かってくる獣達。
 言わばこれは生存競争なのだ。強ければ生き残り、弱ければ死に絶える。
 両者の視線が交差した瞬間。先に相手へとその手を伸ばしたのは――。

 もふっ

 触れられた手。慈しむように動かされたそれは男性らしいゴツゴツとした感触のなかに柔らかさを併せ持ち、心地よく感じた。
 何が起きたのかわからない熊の目が点のようになっている。
 彼が触れている熊。その周囲に集まる熊達にも驚きが伝播していく。
 『……?』
 ふと、集団の一角にいる熊が足元に違和感を感じて視線を下に向けると、そこには見慣れぬ丸々としたフォルムのふわふわとした生物。
 尖った耳にしなやかに曲がるしっぽ。つり上がった目は潤んでいて、じっと熊を見つめている。
「俺の友人だ。よかったら一緒に遊んでやってくれ」
 高い声で鳴く友人、にゃんたまがコロコロと足元で転がる。
 それを真似て熊達もコロコロと転がったり、撫でられにいったり遊びに興じている。
 いつの間にかノリアの方から逃げてきた熊もこちらへ合流してきて、一大熊溜りが出来上がってた。
「お腹空いた子はこちらに来ればごはんを分けてあげられるでショウ」
 熊の集団の中の比較的小さな個体、――おそらく子供なのだろう――に木の実を渡すとくんくんと匂いを嗅いだ後に一口で食べてしまう。
 それを見た比較的小さな個体達が、自分も自分もとわらわら集まってきた。
「はぁ、はぁ、ひどい目に合いましたの。……あれ?」
 ようやく熊の追走から解放されたノリアが息も絶え絶え合流した彼女は違和感を感じる。
 懐かしい山の恵みを堪能する熊は小さい個体ばかりで、大きい個体は物欲しげにそちらをみるだけで誰一匹としてそれらに見向きもしないのだ。
 もしかして山から降りてきた理由って……?
「なぁ」
 やや確信めいた何かを感じたノリアの背後から声がかかる。
 比較的『魅了』の術を受けなかったこの集落の住人だろう。この地に降り立った最初の頃に見かけた、熊に埋もれた住人よりも理性のある表情をしていた。
「あんた達、俺らを助けに来てくれたのか?」
 肯定の意を返せば待ち望んだ救援に、安心したように息を吐く。
「安心しろ。このあとちゃんと山に返すからな」
 ゲオルグが熊を撫で回しながら精悍な顔付きで住人たちに親指を立てて合図を送る。
 そう、あとで。必ず。
 いまはまだ、このもふもふ脅威をもふもふしてもふもふもふもふもふもふ。
「そ、そうか。なら宜しく頼む」
 こいつ、大丈夫か? そんな住人たちの声は彼には聞こえない。
「熊を山に返すことに反対する人達はわらわが説得シマス」
 このままの状態が続いていたなら、どうなっていたか。
 空腹は人の思考を鈍らせる。説明と同時に人間達のための食糧を配って回れば、きっと自分達の声は届くはずだ。
「ありがとう、本当に……」

●確かな予感
 斯くして(主にゲオルグが)思う存分もふもふを堪能し、人には人の、熊には熊の食事を配って互いが満たされた後にそれぞれが住むべき世界まで帰っていった。
 ところで。
 ノリアは首をかしげている。先ほど感じた違和感の正体を考察しているのだ。
 小さい個体が食べ物を食べる間大きい個体は食べることを拒み、小さい個体が満腹になった頃にようやく食べ始めた。
 もしかして、ひょっとしたら。
「もしかして山から降りてきた理由って、子供にごはんを食べさせるため……?」
 この世界とは長い付き合いになりそうな予感を感じた。

成否

成功

状態異常

なし

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