シナリオ詳細
<Genius Game Next>武力少年は全てを手玉に
オープニング
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疾走してくる馬の集団。
それらは町中へと入ってくれば、馬から降りて荒れた石畳の上を駆けてくる。
「奪え! ありったけのものを奪いつくせ!」
集団の中で、軽装鎧を纏った男……副小隊長アッシラ隊員へと指示を出し、自らも鉾を手にして己の足で地面を疾走する。その右肩には、サソリの入れ墨が刻まれており、傭兵団『砂蠍』の所属であることが分かる。
「「おう、へへ、奪え奪えええっ!!」」
隊員らはすべからくガラの悪い男ばかりであり、体のどこかに蠍の入れ墨が彫られていた。群れていることもあり、国というバックもある彼らは気を大きくして伝承の地へ踏み入っている。
彼らの目の前には、伝承のスラム街があった。
そこでは、貴族社会から弾き出された者達が身を寄せ合って暮らしている。
「おい、砂嵐が襲ってきやがったぜ!」
「ああ……」
グレン・ロジャースは組織の仲間達とその状況をバラックの中から様子見する。
わかってはいたが、伝承は……国は自分達を助ける気などない。
自分達の身を守るのは自分達だけ。それを再確認しながらも、グレンらは薄ら笑いすら浮かべて戦闘準備を整える。
(いや、こういう時にばかり頼るのも違うか)
改めて、彼は攻め込んできた砂嵐の集団を注視する。
砂嵐は金を出す場所には寛容だ。ただ、実質的には盗賊団の如き活動を国家ぐるみで行っているという。スラム暮らしの自分達では穏便に済ませることは極めて難しいだろう。
さて、この場にいるのは15名ほど。相手も隊を編成して攻め込んでいるものの、思ったより多くはなさそうだ。それなら……。
「「いくぞ!」」
意を決し、飛び出していくスラム街の住民達。若い男女は武器を手にして砂嵐の集団へと攻撃を仕掛けていく。
それを、集団を率いる少年が嘲るように笑う。
「やっぱり仕掛けてきたよ。なんともわかりやすい連中だね」
隊長である旅人の少年、ライナー・ヘットナーは見下すようにスラムの面々を見回しながら、周囲に球体の念力弾を展開して。
「さて、来るかな。イレギュラーズ……」
この状況を楽しむライナーは口元を吊り上げながらも、戦いに身を投じるのである。
●
『Rapid Origin Online』……略称『R.O.O』。
混沌世界の『法則』を研究すべく作られたこの仮想空間は原因不明のエラーにより暴走しており、現状、この地に多数の研究者やテストプレイヤーなどが閉じ込められてしまっている。
彼らはこの空間内でトロフィーとなっていることも多く、ゲームのクリア報酬として解放する事例も多く見られる。
「『R.O.O』における冒険はゲーム内での出来事……それは間違いありません」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)はそう話を切り出す。
ネクストに閉じ込められた人々の救出、そして、ネクストの事情をより把握する為、イレギュラーズはこの仮想空間へと飛び込み、依頼解決を重ねている状況だ。
そして、『R.O.O』から全プレイヤーに出された『イベント開催告知』。
それは、大規模イベント<Genius Game Next>が実施されるという内容だった。
「仮想空間の出来事と見過ごす人もいるかもしれませんが、この世界に捕らわれた人々を多く救出できるチャンスでもあります」
来る6月2日。砂漠の悪漢『砂嵐』が伝承西部バルツァーレク領、南部フィッツバルディ領を襲撃するという。
プレイヤーとして参加するイレギュラーズは、悪逆非道の砂嵐を迎撃し、伝承領の被害を軽減することが求められる。
アクアベルが見つけたイベントとして、スラム街を襲う『砂嵐』所属のライナー隊がある。
スラム街には、NPCとしてグレン・ロジャース(p3p005709)を思わせる人物の姿も確認されているが、彼を含めたスラム街の裏社会所属の若者達がライナー隊とぶつかるとされる。
「ですが、スラム街の若者達が勝つのは極めて難しいでしょう」
相手はこのネクストにおいて狂ったようなデータ付けをされているだけでなく、隊長であるライナーはどうやらバグNPCとなっているらしい。
人づてで聞いている話では、こちらが外の世界から来たプレイヤーであると認識した上で、その介入を待っているようだ。
そのアピールすら、まるで<Genius Game Next>を待っていたかのようである。
『このイベントはネクストの歴史を変え得る重要なイベントです。特別クリア報奨も用意されていますので奮ってご参加下さいませ!』
そんな『R.O.O』の誘い文句も合わせ、きな臭さも感じさせる。
また、西部バルツァーレク領と南部のフィッツバルディ領、一部中央王党派がターゲットになっている点も見逃せない。それらから外れたアーベントロートや中央が応戦する動きが鈍いのも気になる点だ。
「ネクストにおける鉄帝、鋼鉄に動きはありません。今回は純粋に我々だけで対処する必要がありそうです」
ある程度、イベントの告知として事前の情報があるのはありがたいが、それを全て信用していいのかは疑わしいところ。ただ、それを元にして準備を進めるしかなさそうだ。
「リアルな命の危険こそありませんが……、くれぐれもお気をつけてください」
説明を締めくくったアクアベルはこの1件をアバターとなったイレギュラーズへと託し、頭を深々と下げたのだった。
- <Genius Game Next>武力少年は全てを手玉に完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年06月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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アバターとなったイレギュラーズは幻想……いや、ネクストの伝承のスラムへと、足を運ぶ。
「スラム街を守る、ね」
『青の罪火』Siki(p3x000229)は含みを持った言い方をしていたのは無理もない。
「上手くスラムの皆様と共闘できたら良いのですが」
『機械の唄』デイジー・ベル(p3x008384)が辺りを見回すものの、やってきたメンバー達に対してスラム街の人々は態度がよそよそしい
「こっちのグレンさんとは初めましてかな」
『オオカミ少年』じぇい君(p3x001103)はスラム民の中に、知人と同じ姿をした『R.O.O』のNPCの姿を確認する。
スラムの人は助けたいが、相手からすればメンバー達はどこの馬の骨ともわからぬ相手。警戒されるのは当然だ。
「協力を得るには、先ずは信頼を勝ち取らないとね」
そんな中、『ブッ壊し屋』レニー(p3x005709)もまた同じ人物を見つめていて。
(まさかこっちの『俺』までいやがるとはな。ったく、中の人バレが余計怖くなったぜ)
レニーは、前方にいるのがスラム時代の……いや、スラム育ちの自分、グレン・ロジャースで間違いないと考える。
一匹狼を気取っていた自分と違い、ネクストでの彼は仲間とうまくやっているようだが、自分達のようなよそ者等に頼むのが趣味でないのは自分らしいと分析していて。
(だが、あの頃のオレなら……)
現状、彼らは困った状況には間違いない。こうして差し伸べてくる手を疑うかどうかとレニーはしばし思い悩む。
「……俺の顔に似てるヤツとやり合えないのは残念だが、こっちも仕事。手を抜く理由にはならねぇよな?」
その一方で、あちらこちらを見回す『クリムゾン・ドラゴニア』アクセル(p3x007325)はネクストでの自分を見つけられないことに残念がっていて。
(致し方ないわ……。気持ちを切り替えていきましょ、絶対街を守るんだから!)
プレイヤー心理とアバターの態度は大きく異なるようである。
「奪え! ありったけのものを奪いつくせ!」
「「おう」」
さて、砂嵐の襲撃が本格的に始まるとなれば、メンバー達も黙ってはいられない。
「さ、お届けもの時間だよ」
「まぁ、クエストなら是非もなし。クリアに全力を注ぐだけさね」
『調査の一歩』リアナル(p3x002906)が敵へと言い放てば、Sikiも覚悟を決めて敵と対する。
「ふふっ、懐かしいな。君達の顔は前にも見た気がするよ」
その敵は、『聖餐の天使』パルフェタムール(p3x000736)や『シラスのアバター』シラス(p3x004421)にとっては記憶にある敵。
「ったく、ゲームでもスラムと縁が切れねえなあ」
かつて、幻想に砂蠍が攻め入ってきた事件を懐かしみながらも、ネクストでもそれと重なる状況で幻想……伝承のスラムを戦うとは思いもしなかったと考えつつ、シラスは巨大盾を構える。
「今日だってあの日と変わらないぜ、勝つのは俺達だ」
「これも一種の『再演』というものか」
懐かしい光景も、前には出来なかった事も。
パルフェタムールもまた背に生える翼を広げ、存分にこの戦いを愉しむべく砂蠍の一団へと向かっていくのである。
●
攻め来る砂蠍の編成は禍々しい鉾を携えた副隊長アッシラ、そして身軽な装備をした隊員達だ。
「来たね、イレギュラーズ……」
そして、それらを率いるのは、ボール状の念力弾を操る隊長ライナー。バグNPCである彼はこちらの素性を把握しているらしい。
それらに対し、数で劣るスラムの住民だが、敵もさほど多くはないと見て、交戦の覚悟を決めていた。
「「いくぞ!」」
「勝手ながら助太刀させて貰うぜ」
いきなり現れたアバターの一団に、レオンが驚きつつも警戒心を強める。
「何だ、アンタら……?」
こちらへと刃を向けようとするスラムのメンバー達。
ただ、彼らはライナーにとっては自分達を誘き寄せる為の餌とされた可能性も高く、巻き込んだのはこっちの方かもとレニーは考えて。
「まっ、親切の裏を読むのは処世術だろ? 存分に疑って、存分に利用してくれよ」
レニーが語り掛ける間に、他のメンバーが砂蠍へと接敵していて。
「君たちの居場所を、名も知らないやつらに助けられんのは嫌かもしんないけど、ま、大目に見てよねぇ」
スキルによって飛行していたSikiはスラムの人々が見える位置へと飛来し、アクセスファンタズムによって青い炎を吐く。
――この炎は、見た人の不安を拭うともしび。たった一歩を進む、勇気を与える道標。
「共闘はまぁ、嫌なら無理にとは言わないけれどさ」
迫ってくる砂蠍の部隊員へと、Sikiは切りかかりながらもスラム民へと告げる。
「助けに来たんだ。守りに来たんだ。その心だけは、誰にも疑わせなんかしないさ!」
「……勝手にしろ。共闘する気はない」
それでも、グレンはそっけなく言葉を返し、彼らで砂蠍と対する算段を立てていた。
「共闘はしない? 敵対してくれなければ、それだけでも共闘と同じだ」
そこで、リアナルは星詠の翼を羽ばたかせて仲間の後方に位置取り、自己強化をしながらグレン達に言い放つ。
「敵の敵はなんとやら。先ず最初にやるべきは目の前の敵。その後のことは……後で考えればいいだろ」
語り掛けるリアナルは続いて絶望を届けた敵の気力を奪い取ろうとする。
敵対する相手ではないとは理解してくれたスラム民を気に掛けながらも、他メンバーも砂蠍と交戦する。
敵部隊員の数を減らすことが第一。
デイジーが聖杖を振るうと、鋭い波が刃となって敵を傷つけ、赤いものを飛び散らす。
「スラムの皆様。私たちがカタギであれなんであれ、共に戦ったほうがさっさと撃退できる、かもしれませんよ」
攻撃直後、デイジーは優しい言葉でスラム民を諭そうとする。
「余計な施しなんざ……」
言い返そうとしたグレンだが、自ら言葉を止めて部隊員へと切りかかる。
加えて、攻撃対象を合わせたレニーが足元に落ちていた小石に雷を纏わせて蹴りこみ、その敵を感電させていた。
まだ、信頼を勝ち得たとは言い難い状況の上、アクセルは自身の格好が砂蠍メンバーに近しいこともあって、少しスラム民から距離をとる。
とはいえ、スラム民も人を見る目があり、こちらには切りかかってはこない。
(見た目だけで不利になる事は無い……と思いたいところだけど、油断は禁物ね。うぅ……、R.O.Oディルク様……)
この世界の赤犬に想いを馳せて地が出そうになりながらも、アクセルは率先して敵の大将である少年、ライナーを狙う。
「さて……アンタ達がライナーとアッシラ、か? アンタ達には悪ぃが……これも仕事、倒れてもらうぜ」
どことなく赤髪の傭兵王を思わせる紅槍で敵を大きく切り払い、鋭い突きを繰り出す。
ライナーはそれを受けながらもにたりと笑って。
「どうしたんだい、イレギュラーズ」
こちらの力を値踏みするライナーは、自身を中心として念力弾を回転させ、アバター数名を殴りつけてくる。
「お前達の相手はこの僕だ!」
それを見て、じぇい君がシラスと共に前線で身を張る。
なお、彼らに対して、パルフェタムールが「飽食の福音」を施して力を高めてくれていた。
「おおおおおっ!!」
鉾を振りかざして強襲してくる副隊長アッシラと合わせ、雑魚の数がスラム民で対応できる数になるまでじぇい君は率先してその攻撃を率先して引き付ける構えだ。
シラスもシンプルな作戦で戦いに望んでおり、スキルによって反撃態勢を整える。
「俺に攻撃すると怪我するぜ」
突進するシラスは敵の刃や飛び道具によって傷つくが、その衝撃で体から魔法の鱗が飛び散る。
傷つく敵がいれば、すかさずパルフェタムールが横合いから飛ばす薄翼の翼でそいつらを薙ぎ払い、着実に体力を削っていくのである。
●
スラムの戦いは激しさを増す。
さながら盗賊団の如き砂嵐の一団は、相手を倒して物品を奪おうとただ凶器を振るう。
唯一、ライナーだけは違った態度を見せてはいたが……。
「NPCなんて使い捨てじゃないの? お優しいね」
彼は挑発すらして見せるが、すぐさまアクセルに殺意を繰り出されて。
それが赤犬を思わせることもって警戒も見せていた。
「……僕達は敵ではありません。とある依頼でスラムの防衛に来ました。あなた方に危害を加えるつもりはありません」
じぇい君は気にもかけずにそいつの念力弾を抑え、スラム民に呼びかける。
「スラムを守るため、僕達に力を貸してください!」
協力を得られるようじぇい君は頼み続けると、レニーが叫ぶ。
「見せてやるぜ。誰かが困った時に颯爽と駆け付ける、実利なんて関係ねぇ。『ヒーロー』って奴をよ!」
自身の背中を見せつけ、レニーは風を纏わせた超合金製の玩具剣を大きく振り抜き、隊員達を薙ぎ倒す。
レニーだけではない。デイジーもしばらく部隊員目掛けて聖杖から放つスキルで個別に敵の思考を奪い、戦線を乱れさせる。
相手が仲間へと切りかかったならデイジーの思惑通り。スラム民も好機と感じて切りかかることができていた。
「おい、ナガブツ野郎。こっちだ」
「チッ……」
スラム民を狙ったアッシラ。しかし、挑発するアクセルに鉾を突き出したことで、彼女も望むところとそいつの相手にしていた。
(信用してくれなくたっていい、利用してくれたってかまわない。生きててくれたらそれでいいや)
Sikiも敵を同じくするスラム民と疑似的にでも共闘できるはずと考え、彼らが危機に陥ったところをカバーするように攻撃する。
突然、青く発火すれば、さすがに隊員らも怒りを覚えてSikiを狙う。
その隙に、スラム民が背後から切りかかっていく。
「たまには守られる側も、悪くないぜ?」
「…………」
グレンはそんなレニーの態度に何か感じ取っていたようだが、対するレニーは相手が納得していないと捉えて。
「……スラム流に言えばこうか?『アイツらが気に入らねぇからぶっ飛ばす!』……ってな」
大振りで超合金剣を隊員へと叩き付けると、相手は苦悶の表情で崩れ去り、その場から消えていく。
「……このまま、アイツらの相手していればいいんだな?」
そう問いかけるグレンは仲間内で頷き合う。
彼らの愛に期待していたパルフェタムールは敢えて自分から声をかけてはいなかったが、心を開いてくれたと微笑む。
(さて、これで楽しい宴はもっと盛り上がるかな)
後は迅速に敵の数を減らすだけ。思った以上に砂蠍の隊員もしぶといが、パルフェタムールは身を挺してスラム民を助けつつ、硬化させた白翼の翼で敵を斬り倒し、不利を覆す「優勢さ」を演じようとする。
前線は依然として、シラスがじぇい君と共にタンク役として敵を引き付けていて。
「うおおおおおお!!」
ビリビリと来る竜の咆哮。それによってシラスに気付いた砂嵐の隊員が彼へと武器を振るってくる。
咆哮の効果は仲間には一切及ばず、敵のみ広範囲へと作用する。
加えて、必中する上、抵抗力を削いで状態異常を狙うことができる。一層相手の注意を強く引き付ける。
自らに付与する反撃効果で敵にもダメージを与えるシラスだが、自らへと集まるダメージは回復役となるリアナルに頼ることとなる。
余裕があるときは攻撃で敵の気力を削ぎにかかっていたリアナルだが、仲間の危険を察すれば機械羽を輝かせて仲間へと癒しをもたらす。
「助かる、命拾いしたぜ」
ゲーム内であっても、簡単にはくたばれない。リアナルの手当てを受けたシラスはその身を奮い起こすのである。
●
徐々に数を減らす砂蠍の部隊員。
「一気に攻め落とすぞ」
士気を高めるグレンらスラム民へとそれらの討伐を引き継ぎ、イレギュラーズは隊長格の討伐へと移行しようとする。
これまでなんとか耐えて、凌いできたシラス。
仲間の疲弊もかなり高まりつつあるが、勢いに任せて反撃に出るシラスは炎や風の魔法を駆使して攻撃を開始する。
「おい、やるぞ」
「言われるまでもない」
そこで、隊長格2人が個々に動こうとするが、じぇい君がそれを察して。
「させないよ!」
自らの存在を示し、じぇい君はアッシラを止めるのだが、ライナーは不敵に笑って悠々と戦場を駆ける。
そうして、彼が狙うのは、スラム民。
念力弾の一撃は非常に強力で、無策で受ければ極めて危険だ。
「待たせてる間に……終わって……くれるなよ……?」
体で念力弾の殴打を受けたリアナルはスラム民の代わりに倒れ、この場からいなくなってしまう。
回復役だったリアナルが倒れれば、前線で踏ん張っていたシラスもまた苦しい。
大きくこちらのメンバーを鉾で薙ぎ払うアッシラの一撃もあり、シラスもまた力尽きてしまって。
「だが、後は仲間が……」
そのまま、彼もまたその場から姿を消した。
「マジかよ……」
身を張ってスラム民を助けるイレギュラーズのアバターに、グレンも少し戸惑っていた。
一方で、さすがは砂蠍の隊長格。
一転して攻勢を得た彼らはなおもイレギュラーズを手にかけようと獲物を荒々しく振り回す。
アッシラはじぇい君がなんとか抑えてくれているが、Sikiが加勢してこれ以上の被害を食い止めようとする。
「奪わせやしないさ、なにひとつね」
これ以上仲間を倒させまいと、Sikiは至近から魔法剣で長物を獲物とするアッシラの間合いの内側へと入って斬撃を見舞う。
他のメンバーは一斉に脅威と感じたライナーの撃破を目指していた。
「……あの頃とは姿も違うし、覚えてくれてもいないだろうか」
「……? 何のことだい」
パルフェタムールは再開を祝したいとアピールするが、生憎とライナーに大きな反応はない。彼女の外見でそう判断したものと思われるが……。
「けど、君を自由にさせておくと痛い目を見るというのはよく『知ってる』からね」
ぴくりと眉を動かす敵へ、パルフェタムールは集中して断罪の魔法を込めた斬撃を繰り出していく。
「一刻でも早く、倒しませんと」
やはり、ネクストの砂蠍も甘い相手ではない。デイジーは前のめりになって目の前の敵を……ライナーを排除すべく海神の力を得て相手の動きを縛り付けようとする。
「ぐ、くっ……」
なかなか思い通りに相手を制することができなかったデイジーだが、不意にライナーの動きが鈍る。
ここぞと、傷が深まってきていたレニーは超合金剣を握りしめて小さく笑う。
「無尽の復讐者の力、とくと味わえ!」
仲間が倒れている状況もあり、引き下がれないレニーは復讐の若者目掛けて渾身の一撃を叩き込む。
「うああああああっ!!」
これにはさすがにライナーも叫び、念力弾で体を支えて身を起こす。
「よくも、この僕にここまでの怪我を……!」
すました顔をしていたライナーも、全身から血を流せば、激情に駆られていた。
「ははっ! これぐらいでビビるかよ!」
そいつへと、アクセルがとどめを刺すべく、『闘志全開』で闘志を燃やす。
「傭兵ってのは常に死と隣り合わせだ、このぐらいの刺激で丁度いいと思わないか?」
アクセルが繰り出すは無駄を省き、殺傷力を突き詰めた殺意そのもの。
鋭い槍はライナーの胸部を穿ち、その命を奪おうとする。
しかしながら、アクセル自身もただでは済まない。力を使った反動でわずかに怯む彼を、吐血しながらも耐えたライナーが頭上から念力弾を叩き落とす。
「ははっ……だが、もう終わりだ……」
かすれていくアクセルの体。の向こうから、パルフェタムールが飛び込む。
「時に……君達にとってはどうかな。死ぬのは、怖い?」
笑う彼女が問いかけるが、ライナーに答える余裕はもうないようだった。
「安心していいよ。慈悲深い天使の私が看取ってあげるからね」
「…………!!」
振り下ろす白翼の刃が赤く染まる。ライナーは言葉を発することもできずに消え失せてしまったのだった。
それを見たアッシラは素早く残っていた、あるいはかろうじて意識のあった隊員へと目配せして
「これ以上の交戦は無意味だ。引くぞ」
アッシラはSikiやじぇい君から素早く距離をとり、数名の部隊員を連れてこの場から退いていく。
それを認め、デイジーは仲間と追撃はできないことを確認し合い、やむなく武器を収めたのだった。
●
スラム街での戦いを終えて。
「……終わってしまったか」
リアナルは五輪バイクを操縦してリスポーン地点から全力で駆け付けたものの、砂嵐の撃退が終わっていたことに悔しがる。
「うぅ、ディルク様……」
アクセルも藁をもつかむ思いで赤犬についての情報を集めようとしていたが、それが叶わず残念がっていた。
「……世話になったな」
一言、感謝の言葉を口にしたグレンへ、じぇい君が手を差し伸べる。
「一緒に戦ってくれてありがとう。僕はじぇい君。みんなと友達になりたいな」
その手は彼らにとってとても温かいものには違いないが、これまで相当に人の嫌な部分を見ていた彼らはすぐに受け入れることはできないでいて。
「悪かったな、アンタらも仲間を失ったってのに……」
仲間を連れてこの場から去っていくグレン。
しかしながら、気持ちの整理がつけば、彼は差し伸べた手を取ってくれるとレニーは確信するのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPはスラム民の説得を行い、戦線を支えた貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<Genius Game Next>のシナリオをお届けいたします。まさかのジーニアス・ゲイムの再来ですが、ネクストの地ではどんな展開になるでしょうか。
●状況
伝承へと侵攻してきた砂嵐の集団から、スラム街を守っていただきますよう願います。
スラム街の住人は勇者となるアバターの方々には非協力的ですが、砂嵐を優先して排除しようと動く為、戦闘にはなりません。
●敵……砂嵐の集団、『砂蠍』麾下ライナー隊
◎隊長……ライナー・ヘットナー
18歳相当の旅人の少年。どうやらバグらしく、プレイヤー達が外の世界からやってきたイレギュラーズということを把握しております。
バスケットボール程の大きさをした球体の念力弾を、自在に操る能力を持っております。
○副隊長……アッシラ
禍々しい鉾を持つ赤い軽装鎧の人間種男性です。
遠近問わず、素早い動きで攻め立ててきます。
○部隊員……20人
軽装鎧を纏う日に焼けた肌の持つ若い男性達。いずれも人間種。
15名が至近から、5名が中距離からの攻撃を得意としております。
なお、以上の敵は混沌において、拙作『<ジーニアス・ゲイム>盗賊少年は武力で襲い来る』でも登場しております。確認は必須ではありませんが、参考までに。
●NPC
いずれもスラム街の住人達です。
〇グレン・ロジャース
スラムの裏社会に所属しており、彼らと共にスラムを守る為に砂嵐の迎撃に出ておりますが、戦力的に勝利はかなり厳しい状況です。
剣を手に戦う彼はカタギの人間を避けようとする為、プレイヤーであるメンバー達との共闘には後ろ向きです。
〇スラムの住人×15人
グレンと同じく裏社会の組織メンバー。
いずれも20代の男女です。剣やナイフといった動きやすさを重視した近接戦特化のメンバーが10人、ボウガンで武装した遠距離特化のメンバーが5人です。
いずれもグレンさんと同じく、メンバーとの共闘は非協力的です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
それでは、よろしくお願いいたします。
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