シナリオ詳細
<Genius Game Next>ウル・イディムの行進
オープニング
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さて。
ここに至った諸君は『Rapid Origin Online』のイベントを恐らくご存じだろう。
それはGenius Game Next――端的に述べると『砂嵐』VS『伝承』の戦争物語である。
先日、R.O.Oの世界の側から一人でにイベントの開催告知が行われたのだ。元々予測していなかったバグにより練達首脳部の手を離れているR.O.Oだが……まさかプレイヤー向けに告知の様な事まで行われるなど唖然とする事態である。
一体この世界はどこへ突き進もうとしているのか。
とはいえ、バグの解決に至るにはもとより『ゲーム』の世界に乗るしかないのだ。
故に大規模イベントたる今回の催しに介入する必然。
かくして砂嵐の侵攻に抗する立場でイレギュラーズ達も参戦する事と相成る訳である。
――だが。
油断するなかれ。砂嵐は現実の混沌世界で言う所のラサを元にされたと思わしき国家。
そこに属するNPC達は強大なる力を宿している。そう、例えば。
「――気に入らねぇな」
「まだ言ってるですかハウザー様? もう何回目ですかその台詞ぅおおほォォ!!?
ちょっと!! 今! 今、爪が僕の頭を掠めたんですけどぉ――!?」
「チッ。もう少しテメェがデカけりゃスイカみてぇにしてやったのによ」
伝承国家付近に布陣している砂嵐側の中核部を担う『凶』傭兵団などもそうだ。
言い争い――ではないが、じゃれる様にしているのはその長たるハウザー・ヤークと、彼の側近中の側近の一人とされる黎 冰星なる人物だ。平然と死の狭間にいるかのような場を作りだす『凶』は、砂嵐の傭兵団の中でも過激派にして武闘派である。
ソレを率いるハウザーが不機嫌な理由は、この争いがいけ好かない優男によって画策されたものだからだ。
先の、砂嵐に『商談』とばかりにやってきた男――クリスチアン・バダンデール。
天才と称されしアーベントロート派の懐刀……仔細は省くがクリスチアンとの会談を経て砂嵐は伝承へと侵攻する事を決定した。主たる狙いは伝承西部のバルツァーレク領と南部のフィッツバルディ領。
「コレ自体は構いやしないぜ? だが――あの野郎は俺たちを『舐めて』やがる」
この侵攻戦は砂嵐にとってもメリットのある話だった。
ある程度の勝算があるというか――だが、利だのなんだのという次元の所でハウザーは思考している訳ではない。というか、なんだ。物凄く単純に言うならば。
「つまり『あの野郎の態度が気に入らない』って事ですよね。なんなら今からでも殺してきましょうか、ぉぉぉおほおお!? 爪! 爪――!! 鼻を掠めてぇるうう――!!」
「フンッ。殺していいなら前来た時にガチでやってんだよ」
「ハハハ、ワンコロにしちゃあ随分冷静気取ってるじゃねぇか。一撃を止められて咄嗟に『冗談』って事にしただけだろぉ?」
「うるせぇぞグレッグ、伝承のゴミ共の前にテメェを片付けてやろうか、ァア?」
だが狂犬たるハウザーと言えどそこまで勝手はしない。
己が傭兵団に属する一人――またたび酒飲みながら余裕面をかましている山猫グレッグを睨みながらも、先述したようにこの戦い自体には砂嵐にもメリットがあるのだ――そうでなくてもクリスチアンには自らを守りうるだけの『暴』も傍にあった。あの男……なんと言ったか? 梅泉という刀使いだったか。
とにかく『気に入らないが、かといって話に乗らない』程でもないのだ。
故に彼はここにいる。
砂嵐全体の長であるディルクも既に賽を振った――ならば。
「オラッ、行くぞ冰星! グレッグ!! またたび酒飲んでんじゃねぇよ殺すぞ!!」
「ひえー! ちょっと待ってくださいよ、僕もまたたび吸ってから、あっなんでもないですすぐ行きまーす!!」
彼らが目指す先は伝承西部バルツァーレク領が一角。
砂嵐の中でも悪名高い武闘派の『凶』が至れば大惨事となろう。
その運命の時は刻一刻と迫っていた――
●
「という訳でですね! 今から街を防衛しないといけないんですよ!!」
一方。その『凶』の到来による防衛戦を依頼されたイレギュラーズ達がいたようだ。
共に至った仲間に語るのはルナ(p3y000016)である。
――奴らが街へと至れば恐らくここは一溜りもない。
防衛を構築しうる兵士たちはいるが、相手は『凶』だ。
砂嵐の中でも特に武に特化した悪名高き山賊団……つまり精鋭中の精鋭。
「その上にハウザーさんもいるなんてやばいですよねホントに……
事前に調べてみたんですけど、やっぱなんか、こう。めちゃめちゃ強いらしいですよ。
ていうか殺意の塊らしいです。ホントこわ……」
その上にハウザー本人まで来ているのだというから厄介だ。
彼に付き従っている側近も傍にはいるらしい……彼も、その側近達も強い事だろう。特にこのバグったR.O.Oの世界では攻撃力なども異常だ。
はたして勝てる見込みがあるかどうか――見当もつかない、が。
しかしやりようが無いわけではない。
戦と言うのは防衛側が有利と言われている。それはなぜか? 援軍が来やすいからだ。
耐えて耐えて、ひたすら耐えていればやがて別方面から軍勢が到来しよう。
実際そういう形で準備が進められているらしい――故に。
「私たちはハウザーさんの本隊に攻撃を仕掛けます!!
つまり時間稼ぎをするって事ですね!
あ、ハウザーさん達を撃破する必要はないですよ! 可能だったらそりゃもちろん撃破したらその時点で敵は撤退するでしょうしそれが最善ですけど……ハウザーさんですからね……」
彼の前に立てば超速度で殺しに掛かってくることだろう。
下手すればすぐに死ぬ事も十二分にあり得る……が。
「けど今回、実は特別なサクラメントがあるんです」
それが防衛すべき街にあるモノだという。
単純に説明すると今回のボスイベント用の特殊なサクラメントで――若干のタイムラグはあるが、比較的すぐに再ログイン出来るらしい。つまりすぐ『死に戻れる』という訳だ。
如何にハウザーが強かろうと何度となく挑めるならば話は別。
命惜しまぬ多少無茶な戦術もこなせる事だろう。
さて――では、あの凶悪面な狼をどう止めたものか。
その時、街に鐘の音が響き渡る。
それは『凶』の襲来を知らせる戦の音。
兵士たちが慌ただしく動き出す中で――イレギュラーズ達も己が刃を研いでいた。
- <Genius Game Next>ウル・イディムの行進Lv:15以上完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年06月21日 23時40分
- 参加人数10/10人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
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国と国の戦いの規模は巨大だ。
百はおろか場合によっては千でも足りないかもしれぬ人の波が動く。
数多の剣撃が鳴り響き、数多の戦意がぶつかり合う――その端で。
「はぁ~~~~うぉ、はぁ~~~~!!! ああっハウザー様……! 憧れのハウザー様がこんなところに! あ、ちょっと無理。ハウザー様と同じ空気吸ってると想像するともう無理無理情緒ぐちゃぐちゃになるデス判定もらっちゃう!!」
『ハイ↑↑テンション』BX16(p3x008546)は別の理由で死にかけていた。生きて!!
ともあれ、ここはハウザー本隊が座す場所のすぐ近くだ。主戦場となっている箇所を迂回し、本陣を突く。ハウザーの様な強力な一個人が戦線に加わらせるわけにはいかないのだからと……そして至ればすぐに本陣だと確認できた。
なにせ現実のハウザーと等しく――『こちら』のハウザーも姿はそのままなのだから。
「……やれやれ。当然ですが見たことがある様な顔が幾つもありますね。
幸いと言うべきか、不運と言うべきか……」
そしてその発見をスムーズにしたのは『人型戦車』WYA7371(p3x007371)だ――
彼女の周囲を捜索する力が奴らの発見を容易にしたのである。ハウザーらは現実に存在している者らとまず同等のデータを有していれば尚更に……しかしだからこそ全く気が重い話でもある。
遠くから見据えただけでも分かる――彼らは、強い。
特にその首魁たるハウザーは。
順調に見つける事が出来たのは幸い。が、今からアレらと戦うのははたして幸いか――?
「あん? んだアイツらは――伝承の別動隊か?」
「そこまでです『凶』首領ハウザー。
ここからはローレットのイレギュラーズがお相手致します」
「よお、そこ行く狼さんよ。ちょいとばっか相手してくれると嬉しいんだが?
ああそれとも――肉でもぶら下げてないとダメだったか?」
だが躊躇っている暇もない。一刻も早く奴らと接触し、足止めせねばならぬのだからと。
早期に発見できた事を武器に『凶』らが迎撃の態勢を整える前に、強襲するように突入する。
ハウザーの懐へ。奴めを縫い留めるが己の役目。己らに課せられた依頼なのだから。
だから――WYA7371の声と共に『死神の過去』ミーナ・シルバー(p3x005003)はまっすぐ向かう。
敵の陣形が整う前に抑えようと、すれば。
「ケッ。威勢の良いこった!
女だろうが知ったこっちゃねぇぞ? 俺の前に立つってんなら――」
覚悟はできてんだろうな?
言った瞬間か、或いは同時とも言っていい程のタイミングで。
振るわれる一閃は高速を超えた――神速。
あらゆるをなぎ倒す『腕の振るい』はただそれだけで万物を凌駕するのだ。貰えば一撃で首がもたげるかもしれぬ剛閃をミーナは鼻先が掠める程度に留める――たった一歩が。踏み込みの見誤りが命を分かつ。
貰う訳にはいかぬ。例え『死に戻り』なる事情が可能と言えど。
刹那の距離を見定めて――皆が動く。
「どいつもこいつも本物じゃねぇ奴ばかり……っても、それでもまさかハウザーとはなぁ」
「だが如何に強者であろうと不死でなければ倒せぬ理由はない……まぁ、かといって易々と倒せるかと言えばそうではないのだろうがな。こちらに死を超越する手段があったとしても」
『赤龍』リュカ・ファブニル(p3x007268)はまるで大滝の様な殺気を垂れ流すハウザーの圧を感じ取りながら――しかし『これ』こそがハウザーなのだと、どこか心の奥底に納得もあるものだ。ラサ出身であるが故にこそ彼らの脅威は身に染みている――
だが『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)と共にまずは目指すは数減らしだ。
構成員共をぶちのめしてやる。ハウザーは足止めしつつ、周囲を削る。
そうせねばならぬ。まずもってハウザーらの方が数の上でも優勢なのだ――『死に戻り』を前提に置いたとしても、敵の総数が減っていないのでは何の意味があろうか。故にリュカは敵を纏めて穿つ撃を放ちつつ。
「我が咆哮を喰らうがいい――」
ヴァリフィルドも同時に『声』を飛ばすものだ。
それは数多を巻き込む、彼に恐怖と畏敬を抱かせる咆哮。
乱戦となれば味方を巻き込むが故に自由にとはいかぬが、それでも先端が開かれたばかりであれば位置の関係上『アリ』だ。敵を引き寄せ己を狙わせ、そうしている内に――他の者の動きも満ちる。
「ただの傭兵であればまだ良かったんですけど、『凶』ともなると……いやはや。楽にはいきませんね。まぁこちらも似たようなものですがッ――!」
「『彼方』では頼もしい味方であったのだがな。なんとも『此方』では敵対する事になろうとは」
故に。『よう(´・ω・`)こそ』ゼロ(p3x001117)と『世界の意思の代行者』グレイシア(p3x000111)も前進す――『凶』は砂嵐の中でも精鋭中の精鋭。それは現実のラサにおける『凶』でも同じだが……だからこそ困ったものだ。
こんな彼らを『足止め』とは。なんとも吐息が零れそうな話である、が。
「傭兵同士、武力介入といきましょう! 偉大なる剣聖のむす、娘? ゼロ、参る!」
それでも成すべきを成すために。
ゼロは己が祖国にいるであろう『剣聖』の名を掲げ――往く。
彼女の周囲に展開された幻影の刃が舞う。付き従うように、彼女を護る様に動く無影の数閃は変幻自在にして予測困難――上下左右三次元の撃にて『凶』らを切り裂くのだ。同時にグレイシアはミーナを援護するように己が『影』を揺らめかせ。
直後に伸びるは束縛の意を持って。その強靭なる身の自由を少しでも奪わんと――
「ケッ! 俺がこの程度で止めれるとでも思ってのかカス共が!!
ぉい冰星、グレッグ!! マタタビキメてねぇで働けオラァ!!」
「ひっー! はいはいはいはい了解ですよッ――!!」
されどハウザーは、己に纏わりつくそんなグレイシアの影を力任せに引き千切る様に。
正に剛力。と同時に、配下の者らに声を飛ばす余裕もある程だ――尻を叩かれるように動きを見せるR.O.Oの冰星ら。数の上で優勢な『凶』にとってみればイレギュラーズの襲撃などさほどの脅威と感じていないのか――?
「それでも無視はさせないけど、ね。ハイドレンジャ――参上!」
されど。そんな冰星の眼前に至るのは『Hide Ranger』Adam(p3x008414)だ。
遠方より至る撃を放ちながら距離を詰めていく――冰星。同じイレギュラーズにしてBX16の現実での姿……にしてR.O.OでのNPCが一人。俊敏たる動きからして既にただ者ではない動きは感じ取っている――が。
「やれるだけやってみるさ。まぁ、死んでも『万が一』があるしね!」
「おっとっとぉ! ハウザー様に怒られるのは勘弁なんですよ、悪いですが――死んでくださいね!」
激突。Adamの一突きと冰星の蹴撃が交差し衝撃を生んで。
「ハアァ!? なん、あの、あそこにいるヤツなんですか僕にソックリな奴じゃないですか!! は、はぁ!? クソ、ざけやがって!! 僕が一番就きたいポジションを易々と手に入れてあの野郎……! ハウザー様の事を一番よくわかってんのは僕なんだからなぁ!!」
「それにしても――やはり完全に敵方なのですね、冰星。
……ただならぬ動きであれば、容赦できる相手ではありませんか」
同時。BX16が、ハウザーの指示で嬉々とした動きを見せる『こちらの冰星』の様子にキレ散らかしながら――口より炎の渦を吐き出し怒りの炎を紡ぐ。それは『凶』の構成員に直撃するとともに……しかし冰星の俊敏さは警戒に値すべきだとWYA7371の目は捉えるものだ。
いやそればかりではない。
『凶』の構成員一人一人もハウザーや冰星程ではないとはいえ動きが機敏だ。
流石は悪名高き『凶』の者――故に。
「貴方の相手は此方ですよ、グレッグ」
WYA7371は全力で敵を粉砕しよう。
あらゆる兵装を全身に抱き。あらゆる火器の照準を殲滅対象へと。
――放つ。
一斉掃射で敵をねじ伏せよう。強大な力は、より強大なる力にて!
「強者たちとの対峙というのは、いつだって腕が鳴るね。ああ、この瞬間にしかこそ味わえない一時があるものだ……尤も此度は現実の殺し合いではないのだけど、ね」
そして『聖餐の天使』パルフェタムール(p3x000736)は如何にここがR.O.O――仮想の空間と言えども『愉しむ』感覚を得る者だ。なにせ眼前には極上の戦士達。如何に殺そうと、殺されようと遺恨生まぬ世界たれば。
「はぁい、ハウザー。意地悪なおねえさんが邪魔しに来たわよぉ」
全霊をもって行こうじゃないかと。
パルフェタムールが支援の福音を宿すのはミーナと『きらめくおねえさん』タント(p3x006204)へと、だ。二度と飢える事のない幸福なる祝福を捧げ、齎される奇跡が彼女らの動きの鋭さが増す――
そうして言の葉を紡ぐは狼へと、だ。
地より湧き上がる雷撃の海が邪魔たる構成員達を波に飲み込んでいく。生じるは平穏なる大海ではなくまるで濁流であり、反応の遅れた者は纏わりつく雷の意志に溺れ沈んで。
その先にいるが雷撃を『叩き割る』大狼だ。
やはり格が違う。圧が異なる。気配からしてもはや絶大――
「フリーにはさせないわよ、ハウザー?」
「はっ――そういうのは酒の席で言ってほしいモンだぜ!!」
激突。轟音。
生死の境目で戦士達は踊る。
そう、三途の川岸に――荒れる水紋が広がったのだ。
●
強襲隊たるイレギュラーズは勢いに乗る形で攻め立てる必要があった。
数の上では不利。R.O.Oのハウザーという能力値が『バグ』っている強個体の存在。
マトモにぶつかりあえばとても押し切る事は難しい所である――その証左として。
「ッ――!! った、く!
七面倒な相手まで用意してくれやがってよ……このイベント様は中々厳しいぜ!!」
会敵より少し。既にミーナの体力は限界間近にあった。
――ハウザーが強すぎる。
初手こそ距離を調整して躱したものの、それ以降の至近となってからは最早抗えぬ程であった。掠めるだけでも肉を抉り飛ばし激痛を齎す。反撃の蜘蛛糸を巡らせその動きを衰えさせんとすれば――全く意に介さぬかのように突っ込んでくる。
幸いなのはハウザーが眼前のミーナを殺そうと優先している事か。
詰まる所足止め自体は成功しているのだ――こんな相手すぐにでも蹴散らせるから、と。
「ほんと、噂通りつぇぇなあんたは。だからこそ、ここは通せねぇんだけど、よ!」
「ハッ! 意気込みだけで勝てるもんかよ――死んどけクソガキッ!!」
ミーナの全霊。構えた武具にてハウザーの攻撃を凌ぎ続け。
されど遂に首筋に放たれる爪の一閃が――ミーナの命を瞬時に奪う。
喉の奥に血反吐が零れる感覚がすると同時に訪れるは死亡の判定。
――当然だがそれは現実世界における『死』と同義ではない。
彼女は幾ばくかのタイムラグと共に、再びサクラメントからログインしてくる事だろう。
「ええ、だから――次は私よハウザー? ねぇ。フリーにはさせないって、言ったでしょ?」
故にその間を埋める様に往くのがタントだ。
光り輝く聖晶の翼が彼女に大空を舞わす力を与え、邪魔立てせんとする『凶』の頭の上を往く。誰にも構ってなどいられるものか。こんな強大な敵を相手にするのは流石にちょっぴり……
怖いけれど。
「誰かがやらなければいけないもの」
そしてその『誰か』とは『己』なのだと。
見据えた先。狼の牙に掛かるまいとする意志と共に――暗雲の未来を切り裂く光で一閃。
それは必ず当たる力を携えたモノだ。削り、煩わしく思わせつつ粘り続ける。
勝利の為に。
「元より手を抜く気などないが、全力で当たらせてもらうぞ」
そしてそれはヴァリフィルドも同様に、だ。
彼の放つ息吹は眼前の敵を飲み込み数多の負を撒き散らす。荒れ狂う奔流として敵を飲み込まんとすればその威力も隔絶していよう――あとはこれを空から打ち出すことが出来ればより良かったのだ、が。『凶』の中に弓を持つ者がいるのと。
(――凄まじい殺気。あれは空にいれば逃れられるモノではなさそうだ)
ハウザーから感じる圧が、恐らく遠方であろうと届かせる一撃があろうとヴァリフィルドの本能に直感させていた。そうでなくても空からは不安定となり、多少目測がズレる事もあろう……乱戦の環境となればヴァリフィルドの撃は撃ちにくい面もあって。
「打ち倒す――ばかりが勝利でもない。
たった一点を抑える『楔』が戦況全体に影響する事もある……
さて。今暫くこちらに付き合ってもらおうか……!」
直後、ミーナが倒れタントの役割となった後の戦況を見据えるのがグレイシアだ。
常に抑えの人員を用意しておく。ハウザーを自由にさせるのが最も危険なのだから。
――故に今は『見』の段階だ。攻撃の癖や動作、反応速度などを意識してグレイシアは見据えている。ハウザーの一閃にはどれ程の威力があり、どれ程の殺意が宿っているのか――少しでも長く『邪魔な存在』として立ち回らねばならぬのだから。
とは言え、それを黙って見ている『凶』でもない。
周囲の面々は数の有利も相まってイレギュラーズの多くへと攻勢を仕掛けている――故にグレイシアは再なる影の操りを用いて敵を薙ぎ、反撃としつつ。
「押し込めぇっ! こんな程度の数に負けたら『凶』の名折れだぞテメェら!」
「そうはさせません――貴方の相手は此方ですよ、グレッグ」
更に圧を加えようと山猫グレッグが声を飛ばせ、ば。
その時グレッグを抑え込む様に急速前進してきたのがWYA7371だ。
掃射を続けつつ制圧するように。躱されればそれでもと右腕の兵装を展開し――大型レーザー・ブレードを形成。回避先を空間諸共切り裂かんとする一撃をもってすれば、木々すらなぎ倒さんとする勢いで。
「チィ、なんだこいつは!? 伝承にこんな連中がいたのか……!?」
「やーいグレッグのマーヌケ!! そんなのに手古摺ってるとかホント駄目駄目でうひゃあ!?」
思わず跳躍して距離を取るグレッグ――を煽り立てる冰星――を、Adamが襲撃した。
イレギュラーズ達の目的は敵の足止め。しかし防戦に回れば押し込まれるのみ。
――故にAdamは常に動くのだ。冰星を抑えるのは、己の役目なのだからと。
「他に余所見するなんて酷いなぁ、今日はここで俺と遊んでよ!」
「平時ならともかくハウザー様の目の前で遊んだら殺されるので――ご期待には添えかねますね!」
言も弄しつつ二人は激突する。
R.O.Oの冰星の速度は、R.O.O特有の世界事情も相まってか尋常ではない速さを携えている。繰り出すナイフは神速が如くであり一撃一撃も鋭く、重い。軽やかなる跳躍は目にも留まらず、瞬時でも気を抜けば――首を取られよう。
(ああ……全く、こんなのを食い止めないといけないなんて、ね。
俺一人でも食い止められたら理想だけど……)
いざと言う時は死に戻りの駆使も必要かと思案するものだ。
それでも『ソレ』を頼りにするのは恐らくまずい。サクラメントからの死に戻りは、即座にこの戦場に舞い戻れる訳ではないのだ――自身が抜けた瞬間は確実にどこかの負担が増えるのだから、可能な限り戦場に踏みとどまれるのが理想で。
「ぐ、ぐぐぐぐぐ……! あ、あの野郎、よく見たら背中側に『凶』の傭兵団の紋章入れてるじゃないですか! かーッ、ペッ!! ほんと、僕がボコボコにしてやりたいですよほんとほんとほんと!! でもそういう訳にもいきませんからね、悪口言うだけで済ませておきましょう! やーいバカアホ間抜け! お前のとーちゃん、でーべそー!(小声」
そんな様子を見ながらBX16は接近してきた『凶』の一人を再度燃やし尽くさんと憤怒の炎を撒き散らすものだ――相変わらずR.O.Oの自分に壮絶な嫉妬をしているBX16である。ていうか悪口って自分にもある意味跳ね返ってくるんじゃ……
とは言え一応彼が向こうの戦況の様子も見ているのは私怨からだけという訳ではない。
ハウザーの実力はよく知っている――故に己が抑えるは不適当だと思っており、そこはミーナやタントに任せる他ない。だがかといって如何なる状況でもハウザーら幹部級を放っておくというのはナシだ。
だからいつでもカバーに入れるように。『凶』構成員に油ぶちまけライター放り投げてムカ着火ファイヤーしながらも観察を怠っていないのである――やだこの放火魔こわい。
「っても、中々難しいな、こりゃあよ! こいつら――全員、大分『やる』ぞ!」
が。炎に焙られようと斬撃を受けようとそれだけで倒れたりしないのが『凶』の本隊だ。
ハウザーや冰星だけではない――その部下たちも随分と実力を持っていると肌で感じているのがリュカである。紙一重で急所に『当てさせてくれぬ』動きを奴らはしてくる。
個体ごとの能力がやはり高いが故か。
まぁやはり連携をそこまで重視していない故か、カバーしつつ、連続的に攻め立ててくるような事が無いのは幸いだが。
「ハッ。さすが『凶』だ! 楽な戦いにはさせてくれねえな!」
それでも楽ではない。これが砂嵐の本隊が一角、『凶』
――故にそれでこそだと彼は口端を釣り上げる。
砂嵐、いや『ラサ』に縁ある者として。彼が不甲斐ない存在ではなかった事に感謝を。
例え魂が異なろうと、信義が異なろうと、世界が異なろうと――
それでも彼らの強さに敬礼を。
「っし。行くぞルナ! ああだが無理はすんなよ、弱った団員を狙ってくれや!」
「むっー! 子ども扱いしてますねリュカさん! 私だってやれるんですから!」
へいへい。と、ルナの頭を乱暴に撫ぜる様に。
共に戦うルナに指示を出しながら――彼は己が武を振るうものだ。
攻撃を受ければ受ける程に彼の撃には力が宿る。この程度で終わるものかと悦が満ちる。
「然り然り然り! 我々の行く末は前にしかないのです!!
撤退は不要。必死即生! 死ぬ気で戦わねば得られるものなし!」
「さあ、存分に殺したり殺されたりしようじゃないか。修羅道こそが、此処にあるのだから」
そしてゼロの斬撃が更に苛烈さを増し、同時にパルフェタムールもまた断罪の意思をもってして敵を穿つ。そうさそうそう! どうせこちらが足止めの部隊だと、なんとなく気が付いているのではないか?
そうだと少なくともゼロは判断し――しかし遅延の為の策を弄する気は毛頭ない。
「戦いは楽しむものですよ!
ええそれに……剣聖の娘が、不甲斐ない戦いを行えますか!」
瞬間。敵陣の中枢へと駆け抜ける様にゼロは跳躍する――回転する斬撃の渦と共に。
それは父たるバルド=レームの剣技が一つ。
多数を払う為に、蹂躙する為が真髄だ――
斯様な戦いをすれば死ぬやもしれぬ。いやきっと死ぬだろう、が。
「さしたる問題でもない」
多くの団員を巻き込む様に撃を放つパルフェタムールも思うものだ。
それで彼らを此処に釘告げにすることが出来るなら安いものだと。
互いに、全力を投じて此処にある。
イレギュラーズ達は苦戦しつつも、それでも崩れぬ様に立ち回っていた――
『凶』の。彼らの刃はいずれも鋭い。
だが何度となく思考してるように『この場に押し留める』ならばやりようはあるのだ。
ハウザーや冰星には殺されぬ様に抑え、他から削り。
そして――
「よくやるもんだが、ここまでだよなぁオイッ!!」
瞬間。ハウザーと相対し続けていたタントの喉笛に――ハウザーの牙が突き立てられる。
業を煮やしたハウザーが強引にでも命を『獲り』にきたのだ。
正に狼の様に。食い破り、止まらぬ出血が周囲に散って……しかし。
「これで勝った――とでも思ったかよ?」
彼方より至る影がある。
「悪いけど、そう単純に諦められねぇんだわ。ここは通さないって言っただろ!」
それは――先程ハウザーの一撃により死した筈のミーナの姿。
地獄より舞い戻った死神が、大狼の眼前に再度食い下がった。
●
「なにぃい!? テメェ、さっき死んだろうがよ!!?」
「心臓まで届いてなかったんじゃねぇかね。まぁもう一度遊んでくれや――
こっちも変わらず本気出していくからよッ!!」
決して折れぬ意志と共にミーナはハウザーの懐へと飛び込んでいく。
死に戻り――今回の戦場における特別なサクラメントから再度ログインしてきた彼女は全力でここまで駆け抜けてきたのだ。一刻も早く此処へと。まるで疾風の如く願いながら――彼女は変わらず斬撃を奴めへと叩き込んでやる。
鮮血を浴びながらも決して退かぬ、紅風の忍者――此処にありと。
「わぁなんですかねコイツら、ゾンビですかゾンビ!?」
「そうではないんだけど、種明かしをしてあげる義理もないな!」
尤も、R.O.Oの住人ははたして理解できるのかとAdamは思いもするが、しかし。蘇った者達を見ても変わらぬ動きの冰星達は流石精鋭と言うべきなのだろうか――
交差する幾重もの撃。Adamは常に動きを読んで、致命たる一撃を受けぬ様に立ち回る。
食いしばって踏みとどまろう。最早体は限界に近く、命の灯は揺らいでいる、が。
「けど……勝てるならなんだってやるさ! 治安を守るのがレンジャーの仕事だし――
防衛戦とかいかにも『ぽい』ので、負ける訳にもいかなんだよね!」
「その通りです。課されたオーダーを果たすのが我々の使命……」
直後。行くのはWYA7371だ。
今回のイレギュラーズの中で随一の速度を誇る彼女から逃げるのは容易くないとばかりにWYA7371はグレッグを追い立てる。執拗に、執拗に。まるで逃げられると思わないで頂きたいと――どこまでもその背を捉えているかのように。
「足止めとはこうやるのですよ、グレッグ」
眼前に割り込んできた『凶』の団員がいれば、ここまでかとWYA7371は――
追加火器を展開した。
それは周囲一帯を纏めて薙ぎ払う砲装群。背に顕現させた無数の火器は既にエネルギー充填を終えていて、いつでも斉射可能だ。水光天の彼方を見据える猛禽の如く。
『狩る』側はこちらなのだと教えてやるように。
「――Fire」
掛け声一つ。共に撃ち抜いた。
「うぜぇ連中だなぁオイ! んならよ――何度でも殺してやらぁ!!」
が。それでも『凶』の戦線が崩れる様子は一切見えなかった。
むしろ『舐めるな』と言わんばかりに、よりその闘志の炎を滾らせているのだ――俺たちは『凶』だぞ。お前ら如きがなんだというのだ。
冰星の、低い姿勢からの蹴りがAdamの喉仏を捉え叩き割り。
ハウザーの一撃が再度ミーナの命を奪わんと剛力一つ。
グレッグら団員も左右から圧し潰すように。
イレギュラーズの自由な動きを縛らんと圧をかけ続けて。
「それでもそちらは『無限』ではないのであれば、はたして限界はどちらが先かな」
――とは言え『凶』の一人を打ち倒すパルフェタムールの言う通り、闘志はあっても体力まで充実しているとは限らないものだ。度重なるイレギュラーズ達の攻撃は如何に精鋭の『凶』と言えど少なくない被害を蓄積させており――また一人、一人と倒せていた。
当然パルフェタムールにも相応の傷はある。
彼らの刃は彼女にも突き立てられている。ハウザー程ではなくても獰猛にして貪欲な『噛み付き』具合だ。
「いいさ。さぁもっと来たまえ。今、この時にしかない肉だぞ――極上の一時だ」
ならばくれてやろう。血肉が欲しいのならば貪るがいい。
――尤も、その傷跡の深さこそが彼女の一撃をより強力にするのだ。
「高くつく美味ではあるけどね」
死が間近に迫ろうとも、その魂には笑みがある。
楽しむ。愉しむ――死線を跨ぐ戦域の中で。
倒れ、朽ち果て。されど戦域に戻り続けるイレギュラーズの戦法が響き始めていた。
確実に『凶』の戦力が削れているのだ。
――重要なのは戦域に戻るまでのタイムラグをどこまで削れるか、だ。もしもイレギュラーズの数が一気に減る様な事があれば如何に死に戻れると言えど、ハウザーらが前線に到達するのを妨害する事は出来まい。
倒れるタイミングは重ならぬ様に注意する必要があり、そして。
「――やれやれ。絵面的に大丈夫なのだろうかな、これは。
利用できるものは何であろうと利用する心算ではあるが……しかし」
『戻る』ことに注意していたヴァリフィルドが用いたのは――ゴリラであった。
騎乗できるゴリラ。凄い勢いで駆け抜けるゴリラ。
ほんの少しでも死に戻りのタイムラグ影響を減らすために考案した手段だ――が。なんともゴリラで戦場に駆けつけるのははたして絵面的に合っているのか合っていないのか、深く考えるとまずい気がしたのでヴァリフィルドは思考を切って、再度息吹を戦場へと。
そうだ、重要なのは『凶』を止める事。
それ以外の事は些事である。
「よぉ、ちっと相手してくれや。歯応えがねぇと生きてる気が――しないんでな!」
例えばリュカがキリンを活用していてもそれは同様だ。
結局これらも馬と変わらぬ! 戦場近くまで辿り着けば、尻を叩いてキリンはサクラメントの方角へと戻すとしよう。上手く戻ってくれれば仲間が使う際にまた役立ってくれるはずだ――
故にリュカはAdamが死してフリーとなった冰星へと斬りかかる様に。
「くぅ! なんなんですか貴方達は何度も何度も!!」
「理由が欲しいのか? んなもん簡単だぜ――お前らにゃ負けたくねえのさ!
なんせ俺は『ラサ』の男だからなぁ! 譲れねぇモノってのがあるのさ!!」
「ラサ……? はぁ!? なんですかそれどこの田舎ですか!!」
『こちらの冰星』は知らなくても。
関係ない。リュカは『ラサ』の男として――無様は晒せぬのだ。
冰星の蹴撃、ナイフの一閃、上下左右からの変幻自在――を。
纏めて叩き潰さんとするが如き一撃にてリュカは迎え撃つ。
周囲の者も巻き込みながら。剛閃穿ちて戦場に穴を!
「グレーッグ!! 逃がしませんよグレッグ!! オラ死ね! ハウザー様に近い奴は死ね! ついでにあの野郎も死ね! 可及的速やかに死ね!! そこは僕のポジションだああああ!!」
「んだ、気がくるってんのかコイツは!?」
「僕は正気だるぉぉぉおおお!!」
同時、また別ベクトルの感情から戦場に瞬くのはBX16だ。
位置の関係からグレッグの抑えに滑り込んだ彼は相変わらずヴァーチャル冰星にセルフ怒りを携えながらも、しかし役目は忘れない。炎を散らして汚物は消毒してご覧に差し上げましょう――!
が、直後。そんなBX16の脇腹に刃が。
槍だ――深々と刺さったソレは明らかなる致命傷で。
「ぐ、ぐふ……! だがまだ、まだですよ……! あの野郎が死ぬ所を見るまで、僕は……!」
負けられないんだ――!!
叫びと共に死に戻る。サクラメントに戻った矢先にいたのは――ゼロで。
「さぁさ乗ってください!! 我々はまだ負けてなどいませんよ……
敗北とは、魂が屈服した時にのみ――刻まれるのですから!!」
彼女は持ち前の能力たる装甲車へと変じる力によって戦場への短期到達を目指していた。
丁度のタイミングで再ログインできたBX16を伴って全速前進。
幾らでも生き返ろう。幾らでも蘇ってみせよう! さぁ、ハウザ――ッ!
「ボクの最大の一撃を受けてみろ!! 死んでもボク達は諦めないぞッ文字通りね!!」
「ホントにしっつけぇ連中だなテメェらはよ!!」
飛び込むゼロ。迎え撃つハウザーの爪は相も変わらず強靭だ。
奴めの放つ一撃は下手をすれば一瞬で死を齎す。
が。それだけ強力であるからこそ、ゼロの放つ力任せの――
そして蓄積された怒りの一閃はより強固となるものだ。
最早幾度ハウザーによってやられた事か。牙を突き立てられ激痛と共に戻った者もいれば、まるでボールの様に頭部を抉り取られ痛みもなく即死した者も――いる。防御に気を使っていてもやはり中々厳しいものだ。
かの者の攻撃力だけ本当に頭一つ抜けているのを感じる。
リュカも、ゼロも、パルフェタムールも、ヴァリフィルドも。
奴が一瞬でもブロックを抜けて自由となれば一気に危機に瀕して。
「だが、そろそろ勝機も見えてきたなッ……!」
それでも馬を用いて戦場へと駆けつけているグレイシアは確かに感じていた。
『凶』団員自体が減っているのだ。幾度にも及ぶイレギュラーズの攻勢によって。
彼らは戻ってこない。イレギュラーズと違って。
ならばあとは『死に戻り』が間に合うように。戦域が一気に崩壊する様な一斉脱落が無い事にだけ気を付けていれば――光明はある。
「どうしたのかね――少し息が挙がっている様に見えるが、ああ流石の『凶』頭領殿と言えど限界かね?」
「あぁ? 俺がこの程度で疲れるとでも思ってんのか、アァ!?」
故にグレイシアは挑発も交えながらハウザーの気を引くものだ。
ミーナやタントなどが戻ってくるまでは己が場を繋ぐのだと……しかしハウザーめ、言では体力の事を示唆したが、体力が尽きる様子は全然見られない。なんだこの化け物は。あれだけ動いてあれだけ殺してまだ有り余っているというのか、闘志も。
「ふふ――いいわよね。やっぱり貴方はそうでなくっちゃ」
同時。グレイシアと同様にウマを用いて戻ってくるは――タントだ。
「世界が異なっても同じなのよねぇ。魂は変わらない、ていう事なのかしら」
「――テメェ何度目だよマジで。また殺されに来やがったのか?」
「ええ。もう飽き飽きだというのなら無視してくれてもいいのよ?」
けれど。
「太陽を無視する事は誰にもできない……でしょうけれどね?」
今日のわたくしは貴方だけを照らす太陽。
他の、切れ端の様な雲が邪魔してこようとも知った事か。
ハウザーだけを真正面から見据え続ける。無視しないし、させる事もない――
「うふふ。わたくしは一途な女だもの」
まるで女神の様な微笑みを携えて。
タントは柔和な笑顔を崩さない。
例え幾度殺められようとも――皆を護りたいという意志は決して変わらないのだ。
現実であろうと、R.O.Oであろうとも。
彼女の煌めきは――仮想空間であるという程度で陰る事など一切ないのだから!
「ハ、ハウザー様!! まずいですよ前線に――伝承軍の援軍が来たらしいです!!」
瞬間。BX16の顔面……全身? を、足場として蹴り飛ばして跳躍してきた冰星の放った言は、本陣ではない前線――における戦場の変化であった。
一進一退の攻防を繰り広げていたのだが、援軍が到来すれば話は別。
恐らく前線は崩壊するだろう。そうなる前、に。
「チッ! こいつらの所為でとんだ時間を喰っちまったぜ……
やむを得ねぇな。撤退だ撤退!! 前線の連中に伝達して来い!!
これ以上は得になんねぇってなぁ!!」
――撤退を即座に決める。
元よりいけ好かない男によって齎された一戦だったのだ……無理に留まってまで戦を続ける理由はない。損がデカいと判断するのならば撤退になんの躊躇いがあろうか。
「イエッサー! それじゃちょっとひとっ走り行ってきま……」
「オラァ!! 待て死ね――!!」
「アイタタタ!! なに!? なにこのボール、このおぉぉぉぉ!!」
直後。隙を見せた冰星に腕ひしぎ十字固めをキメんとしたBX16――
の顔面を冰星はナイフで貫く。
さっきから挑発が多かったがなんだよこのボールはホントに……!
「テメェら――中々ガッツがあるじゃねぇか。
覚えておくぜその顔をよ。伝承に飽きたらウチに来いや」
「考慮だけしておきます」
これ以上は無用とハウザーが踵を返す、前に言を飛ばせばWYA7371は事務的に返答して。
さすれば――退いていく。
やがて前線の部隊も後退し、この辺りの戦場の結果が出る事であろう。
終わったのだ――少なくともこの場におけるイベントは。
「はぁ、はぁ……まさか、ゲームでこんなに文字通り命を張るとは思わなかった……」
「『凶』のNPCがあれほどの実力を持つとはな……他の国のNPCも同様と見るべきなのだろう。やはりこの世界は色々と戦闘力がおかしい事になっているな」
何度死んだか、もう数えてもいないAdamは息を切らして。
ヴァリフィルドは奴らの撤退が確かに行われているか空から眺めていた。
――他の戦域はどうだったろうか。撃退する事が出来たか、それとも。
「ま、ひとまずはサクラメントから戻るとするかね。他の連中も戻ってるだろ」
まぁ全ての確認は一度帰還してからすればよいとリュカは思考し。
己らも戻ろう。
現実の空間へ。己らがいるべき――世界へと。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!
ハウザーさんがハッスルしまくってホントに殺しまくりました。
デスカウントがどうなったのかは――お待ちください。
ありがとうございました!!
※
シナリオ結果を受けて『デスカウント』は個別に増加します。(反映には少々時間が掛かります)
GMコメント
●依頼達成条件
『凶』傭兵団を一定時間足止めする事。
もしくはハウザー・ヤークの撃破。(非常に難度が高いです!!)
●フィールド
伝承西部バルツァーレク領の街の付近です。
街の境界線では『凶』の主力と幻想軍が激しい攻防戦を繰り広げています。
戦況は一進一退と言った所です。
皆さんはここから一歩後方側に離れた『凶』本隊を強襲してもらいます。
ハウザーたちが本格的に攻防戦に参入すると形勢が一気に傾く可能性がありますので、彼らをここに釘付けにしてください。周囲には多少の木々がありますが、極端に戦闘に影響する様な地形や障害物はありません。
●敵戦力
●ハウザー・ヤーク
砂嵐に属する傭兵団『凶』の長たる獣種です。
非常に獰猛にして殺意の塊。彼の爪は異常に鋭く、驚異的な威力を有しています。
はたして勝てるのか不明なステータスを有しています。
が、もし彼を撃破出来たらその時点で『凶』の統制は瓦解するでしょう。
撃破出来たら、ですが!
●黎 冰星
ハウザーの側近中の側近の一人とされる人物です。
ナイフを携え高い俊敏性を有しています。
ハウザーがじゃれても殺されないレベルには本気で強いです。
攻撃と同時に移動する様なスキルを複数所有しています。
●山猫グレッグ
またたび酒が大好きなハウザー配下の一人です。
冰星とはよくまたたび酒を奪い合っている事があるのだとか……
後述する『凶』構成員の枠組みの中では上位の実力を持ちます。
●『凶』構成員×20(グレッグを含む)
ハウザー配下の者達です。『凶』の大部分は現在街を攻撃しています。
ここの20名はハウザーの付近にいる者達です。
いずれもがハウザーに似る獰猛的な連中で、非常に攻撃的。
あまり連携自体は重視していない様に見えますが……かといってそれは弱点と呼べるほどの隙ではないでしょう。あくまでも個人技を重視する者達が多い、という程度です。
●味方戦力
●ルナ(p3y000016)
リリファ・ローレンツのアバターです。でっかい剣を振り回してサポートしますよ!
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●サクラメント
『イベント用(ボス用)の特殊なサクラメント』が存在する為、死に戻れますがタイムラグが多少生じるので注意です。
そして、『ネクスト』において問題なく何事も無かったように復活出来るのはPCだけです。
(つまり、死に戻りが可能となるイベント専用サクラメントです。死亡ごとにデスカウントが累積されます)
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
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