シナリオ詳細
<Genius Game Next>黄昏の名を持つ家
オープニング
●
「すまないな、衛兵ども……そこは『間合い』だ」
超遠距離攻撃のぎりぎりで女を囲うように布陣していた村の守衛たちへ向け、女が静かに言葉を呟いた。
――刹那。
女は身の丈を越える大太刀を抜いていた。
銃を構える守衛たちの身体が、ズレた。
きらきらと輝きながら、データの波に消えた守衛たちに目もくれず、女が一つ溜息を吐いた。
「アンドレア姉様。はしゃぎすぎですよ」
「クルト、そういうお前もはしゃいでいるだろう?」
アンドレア姉様と呼ばれた女が視線を声をかけてきた青年――クルトというらしい人物に向け、視線を下げた。
その先には、柄を真っ二つに断ち割られ、その勢いのまま袈裟切りにされた青年が一人。
「いえ? 全く。村一番の槍上手と聞きましたが……成程確かに『村一番』であったようで。
このレベルでは――まるでつまらないですね」
そう言いながら、クルトは剣を鞘に収めた。
「時期にベリエスらも来るでしょう。それまでどうしますか?」
「そうだな……来る者と拒む者を殺し、降伏する者は――私達は手を出さぬ」
「つまりは、いつもどおりですか」
「そういうことだ」
短くアンドレアが頷いたのを見て、クルトが肩を竦めた。
●
村が、燃えている。血と硝煙と木々の燃え盛る臭いが村の中を包み込んでいた。
悲鳴と怒号が村の中をひしめいて、おぞけが走るような笑い声がそれに答えている。
「――ったく、しけた村じゃねえか」
男が嗤っている。
視線の先には村長らしき初老の男が縛られていた。
嗤った男は、村長らしき人物の前でしゃがみこみ、その眉間に拳銃を突きつけた。
「よぉ、アンタがこの村の村長だな?」
「そ、そうだが?」
「ちぃとばかし、貧乏が過ぎんじゃねえか? くくく、まぁ、ここは主要の街道からぁ離れてるっぺえし……」
「ベリエス様」
「あぁん?」
クルトの呼びかけに男――ベリエスが振り返る。
「戦意を失った村民の多くは従属を誓い、あちらに集めてあります。
いかがなさいますか?」
「はっ、分かってんだろ?」
膝辺りに手を置いて立ち上がったベリエスは身体ごとクルトの方へ向くのと同時、無造作に引き金を弾いた。
放たれた弾丸は真っすぐに村長の額を貫き、ぱたりと後ろから地面に崩れる音がする。
「女は売りに。男は磔にして皆殺しだ。構わねえよな?」
「……了解しました」
目を伏せてクルトが道を開ける。そこをベリエスは悠々と通り過ぎていった。
●
「おのれ、賊山の大将共めが。どこからこのオランジュベネへ攻めてきた!?
いや、今はそんなことはどうでもいい!」
イオニアス・フォン・オランジュベネという伝承貴族が、微かな苛立ちを露わにしながら頭を掻いた。
「おい、今すぐ賊どもが落とした村の付近へ通達を向けろ! いったん避難をするように!」
一人目の部下にそう命じつつ、その視線を次の部下へ。
「状況は!」
「はい、それが……その村から先に抜け出した村長の一人娘の話によれば、村はたった2人に落とされたと」
「なに?」
頭を抱えるようにして、イオニアスがひたい辺りを掴んでぎりぎりと力を入れる。
「いえ、その。先に姿を見せた2人のうちの片方が村一番の腕利きを呼び、もう片方は遠くから警戒態勢を敷く守衛たちを、まとめて斬り伏せたようです」
「なんということだ……僅か2人に討たれたのか!?」
「はい、その後、遅れて姿を見せた男とその部下20人により、村は一気に占拠されてしまいました」
「先ほどの通達を。改めるよう伝えよ! 通達だけではなく、強制的に移住させる!」
「し、しかし、オランジュベネ卿!」
叫んだ部下を、イオニアスが一瞥して抑える。
「その2人組は一瞬で守衛を殺したのであろう! ということは、無駄だ。
そもそも生半可な力で勝てるはずが無い」
ふるふるとイオニアスは頭を振った。
そこへ扉を開いて姿を見せたのは『白竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)であった。
「む……なにようだね?」
じっとベネディクトを見下ろすイオニアスに、ベネディクトも声をかけた。
「何か仕事があったりしませんか?」
「……ちょうどいい。君達になら任せよう。
ちょうど、この町から南東に進むと、小さな村がある。
主要な街道から離れたあまり活気のない村なのだが、今回、その村で砂嵐どもの部下が占拠したという報告が入った。
諸君らにこの村の解放を任せたい」
ベネディクトも目を見開いた。
「くれぐれも気を付けよ。敵は強いらしい」
「分かりました!」
ベネディクトはぴょんと跳ねた。
「すまない、私もこれから忙しくなる。
手勢は厳戒態勢を敷くために割くほかない。構わないか?」
じっとイオニアスが君達を見渡した。
- <Genius Game Next>黄昏の名を持つ家完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年06月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「……血の匂いだ。慣れっこなはずなのに、ゲーム内でまでこんなに生々しいと良い気はしないねぇ」
舞台となるエリアへと姿を見せた『青の罪火』Siki(p3x000229)は、鼻を衝くような血の臭いをかぎ取った。
鮮やかな青と白の装束が、炎の色を映していた。
「人も、物も……世界ですらデータの塊。そう言ってしまえばそれまでなのだけれど。
そう断じるにはあまりにもこの世界は精巧ね……」
惨憺たる光景を目に映して『霞草』花糸撫子(p3x000645)は小さく呟いた。
普段ならば見えない景色――けれどそう多くお目にかかりたいとも思えぬ景色を見て、手を握り締めた。
(……これだけ犠牲が出てるのに、その理由をイベントの一言で済ませてしまうのはどうにも気がすすまないね)
愛刀たる双刃刀を握り、『朝霧に舞う花』レインリリィ(p3x002101)は静かにおもう。
現実には非ざる世界であることは分かっても、それでもここで生きていた人々は自分達とは違う『ネクストを生きている者達』だ。
その命をひどく軽く感じさせられて、それを『イベント』と評されることへは思うところが無いとは言えない。
「これは、酷い有り様ですね……」
町の中の様子を見た『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)のワンドオブダークネスを握り締める手に力が入る。
燃える町の様子は酷く、立ち込めた煙は空に幾重もの塔を建てるのだ。
現実にも劣らぬ凄惨な光景だった。
「雑魚が20にネームドが3、結構な修羅場ね」
クエストの詳細欄に記載された情報を改めて読んで、『カラミティ・クリエイター』ロロン・ホウエン(p3x007992)は静かに呟く。
ふわりと揺らぐ紫色の髪がエフェクトを散らせている。
ネームドのステータスも判明している部分があり、見ればなるほど言うだけの厄介さがありそうでもある。
(とはいえ仕事は仕事、私に今できることをするとしましょう)
じっとクエスト詳細を見つめ続けた。
「確実に、強敵です。でも、負けられませんね。報いは受けて貰います!」
ロロンの言葉にカノンもクエスト詳細を見直して頷いた。
「放置すればもっと多くの被害が出るだろう、それを看過する事は出来ん」
ポメの姿で『白竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)は煙揺らめく村を見てポメ顔を険しくする。
現実に遜色ない刺激が鼻を衝けいて、鼻をしかめた。
「いいですねぇ、ゲームの大型イベントって盛り上がるなぁー!」
町の中の様子を見て対照的に『勧善懲悪超絶美少女姫天使』ひめにゃこ(p3x008456)もテンションを上げている。
「なんだか敵さんはリアルでいた人達らしいですけど、ひめは知らないですね!
強いんだかなんだか知りませんけど、さくっと倒して戦果稼がせて貰いますよ!」
エレキギターを鳴らして、気合十分、天へ腕を突き上げた。
(……強い者を求めるのはわかる。でも、人殺しを愉しむのはわからないな)
何より、と『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)は思う。
「ベリエスって、人殺しが好きなのに【不殺】なんだな」
クエスト詳細に記されたベリエスの攻撃手段には『全ての攻撃に【必殺】と【不殺】がつく』と記されていた。
つまりは確実に相手を倒し、けれど殺さない。そういうことになる。
人々を殺さず鎮めるには最適だが、人殺しを好く敵がそんなつもりがないのは分かり易い。
であるならば――わざわざそんなことをする理由は。
「後で改めて命を焼くのか……地獄だろうな」
だとしたら、敵の人間性の邪悪さは想像しきれぬ。
「……それじゃ、いこうか。最低限でも村の解放だ。生きてる誰かを、守れるように」
「えぇ、NPCだからって見捨てていいはずないものね! 救える限り救いましょう!」
Sikiが言えばそれに撫子が頷く。
「そうだな、既に殺されてしまった者、未来を狂わされてしまった者達の為にも」
ベネディクトは続けるように言って走り出す。
「強いんだかなんだか知りませんけど、さくっと倒して戦果稼がせて貰いますよ!」
ひめにゃこはそんなベネディクトに続くようにして走り出す。
●
町の中に入ってすぐ、それらの姿は見えた。
「なんだあんたら!」
こちらに気づいた1人が声を上げ、近くにいる他の雑兵も同じように視線を向けてくる。
身を低くしてそいつらへと走り抜けたSikiは、長身の剣を横に、ぐるりと身を翻す。
美しき青い炎が輪を描いて駆け抜け、5人の雑兵に傷を入れた。
青い業火がちりつき、5人の雑兵の身体を焼いている。
「もうじき敵の私達が来たことに気づくだろうね」
先手は取れたが、情報のよれば敵の数は20を超える。
Sikiは思いを馳せながら身を起こす。
普段であれば目を開いて戦闘をするアズハは、今回は眼を敢えて閉じていた。
「さて、今ならこの方がいいな」
視界がさほど良くないこの戦場、自らのアクセスファンタズムを考えれば、寧ろ目を閉じている方が都合がいい。
姿勢を低く、そのまま引き金を弾いた。鮮やかに跳ねた銃弾が疾走して1人に炸裂する。
ぐらつくようにして体勢を崩したその盗賊へ、もう1度弾丸が跳ねたかと思うと、そのままぐらりとそいつは倒れ伏した。
「ひめの番ですね! まずはそこの兄さんからですよ!」
跳ぶように間合いを整えたひめにゃこはエレキギターをかき鳴らす。
MODによって調節された音色が響けば、刃と化した音が1人の盗賊の身体を切り刻む。
ぐらりと体勢を崩した男は、そのまま地面へ呻きながら倒れていった。
「続きは私ね」
ロロンが駆け抜ける。
間合いを調節するように動きを変えて、僅かに跳躍。
踏み込みと同時に、大地を揺さぶり――地面を砕いて前へ。
文字通り大地を割る巨牛の如く真っすぐに駆け抜ける。
衝撃と同時に振るう刃が敵を切り刻む。
(ごめんなさい……)
目を閉じたカノンの周囲を魔力が集束していく。
脳裏に浮かぶは満天の空。
星の瞬きが背後に浮かび上がり、無数の弾丸となって今の時点で唯一残る1人を貫いた。
流星に貫かれたその男もまた、あおむけに倒れていく。
「ひとまずはこれで終わり。次を――」
その言葉は最後まで続かない。
視線の先にそいつらは姿を見せる。
(冒険技能を使うまでも分かる……強敵ですね。でも、負けられません!)
一瞬で空気が張り付いた。ピり付く緊張感に杖を握る。
「んだぁ? 8人ぽっちりじゃねえか」
呆れるように声を上げたのは、敵の後ろに姿を見せた1人の男。
その容姿は、クエスト詳細でも見たことがある。
その男は複数の盗賊を従え嗤っている。
「あれがベリエス」
瞬間、レインリリィは駆け抜けた。
集まり続ける敵を無視して、ただベリエスの首のみを目指して。
跳躍と同時、手に握る双刃をぐるりと振るった。
エネルギー刃が伸長して、周囲を巻き込み、ベリエスの近くにいた雑兵を切り裂いていく。
――けれど。
「おぉっと!」
ひどくスローに感じられる動きで、ベリエスがその身体を変な方向に折ってしまえば、攻撃は当たらなかった。
「まずはてめぇからだ」
嘲りの籠った笑みでベリエスが引き金を弾く。
真っすぐに撃ちだされた弾丸がレインリリィの身体に傷を生む。
「キミの相手はボクだ。これ以上悪趣味な真似はさせない!」
傷に構わずレインリリィは静かに敵を見た。
「血気盛んなことだ」
感情を示さぬ女の声がした。
横――建物の上にいつも何か立っていた女が、そのままふらりと飛び降りてくる。
「事前の情報にあった長刀使いとは、そちらか」
女――アンドレアの前へベネディクトは躍り出た。
「俺の名前はベネディクト・ファブニル。
話は聞いた、どうやら相当の手練れであると。
俺と手合わせ願いたい」
「――ふむ、願われては仕方ないな」
感情の読めぬままに、女――アンドレアが大太刀を抜いた。
ドゥと旋風が爆ぜ、気付けば身体が後ろへすっ飛んでいた。
対するように、ベネディクトは体を起こすと共に疾走。
口に咥えた太刀を横薙ぎに斬り開く。連続するように、身を躍らせながら斬撃を叩き込めば、激しい金属の音が鳴り響く。
強烈な斬撃に、アンドレアの口に微かなほころびが見えた気がした。
「ベリエス様、あまり先に行くと敵の術中ですよ」
双剣を軽く握りながら、ベリエスへ声をかける青年が姿を見せる。
「クルトさんね! ねえ、私の歌を聞いてちょうだいな!」
「おや、どこかで会った事がありますか?」
撫子の言葉に反応するように、青年が視線をそちらに向ける。
美しき音色は全身を揺さぶるように響き渡り、クルトの身体に浸透する。
花精霊の加護を受けて紡がれた優しき詩に魅了されたように、クルトの眼は撫子を射抜いていた。
「――なるほど」
身動きが取れないであろうに、敵の表情がつり上がって見えた。
●
「なぜ、人を殺すことを好む!」
間合いを整え、レインリリィは敵へと問うた。
「あぁん?」
片眉を上げたベリエスが愉快気に笑む。
「――そりゃあ、気持ちいいからだろ。生きてる人間が鳴く声がよ。
追い詰められて、自分の身体を差し出してでも――って女をひん剥いて、その身体を刻んでいくのがよ。
ついさっきまでデカい口きいてた男が、本気で追い詰められて泣きながら命乞いするのを聞きながら死なない程度にぶち抜きながら殺すのが。
心底気持ちいいんじゃねえか!」
「……そうか。虫唾が走るけどそれを聞いて少し安心したよ」
武器を握る手に力が入る。
「戦争ってのはお互いに引けない理由があるものだから、
部外者が自分の都合で一方に味方してしまうのも、実のところ気が引けていたんだ。
――でも」
双刃剣の刃を片方に収束させ、静かに構えを取る。
「キミみたいな悪趣味な奴を倒すだけなら、遠慮は必要ないな!」
籠められた魔力に呼応するように、剣身が紅く染まる。
構えて、真っすぐに振り抜いた。
横薙ぎの紅のエフェクトが迸る。
「はっ――その口が命乞いを出すまであとどれくらいだろうなぁ!」
敵の引き金が火を噴いた。
「何故だ? 何故、それほどの力がありながら村を襲った。
依頼だからか?」
鍔迫り合いの状態でベネディクトはアンドレアへと問うた。
「あぁ、そうだが」
返ってきた言葉はどことなく簡素で、人の意思を感じさせない。
弾かれた刀を構えなおして、走る。
竜が尾で振るいにかけるように振るわれた斬撃がアンドレアの身体を強かに撃つ。
着地と同時、往復するようにもう一度斬りつけて傷を刻む。
「本当にそれだけなのか?」
連撃の果て、元の位置に戻るベネディクトの問いに、アンドレアは何も答えない。
「ほかに理由があるとすれば――いや、無いな。
もうその手の迷いは断ち切った」
――いや、静かにそうとだけ答えた。
「どうか、私の歌に付き合ってくださらない?」
近づいてきていたクルトから離れる前、撫子はそう問いかけた。
「愛おしきまでの美しい声。満足するまでお答えしましょう」
遠くまで離れながら、撫子は再び歌う。美しき音色を受けるクルトが眼を閉じていた。
「ええ、やはり美しいお声だ。では――そろそろ私の剣も受けていただきますか?」
不意にクルトが至近してくる。連撃が撫子の身体を打った。
敵を封じるには、自らが先手を取る必要がある。
花の加護が本気を出して吹き荒れ、クルトにその分の傷を叩き込んでいく。
傷は深い。それでもまだやれることはある。
攻め手には確かに欠くけれど、早々易々と倒れる気はない。
体を起こす撫子の目の前、影が割り込んだ。
「へいへい兄さん! 今度はひめが相手ですよ! ひめは姫なんで手加減してくださいね☆」
連撃をその身に刻まれながら、ひめにゃこはクルトに対して声を上げた。
「新手ですか……なるほど」
ひめにゃこがエレキギターを構えたのに合わせるように、クルトが剣を構えた。
「――叶うなら、賊の討伐で出会いたくは無かったな」
致命傷と呼ぶに近い傷は多く、次の応酬で自分が力尽きることは殆ど理解できた。
踏み込むと同時に、爆ぜるようにベネディクトはアンドレアへと剣を突き立てた。
それはあたかも竜が爪の如く。
三度にわたる凄絶なる斬撃はアンドレアの身体を深く刻む。
それがアンドレアの身体に大きな傷を生めば、じっとりと滲む三本傷に彼女が笑む。
「ふ、見事だ。ここまで深い傷を受けたのは久々だぞ。
『次に会う時はもっと楽しめるな』」
初めて感情らしい感情を読み取れた――だがそれ以上に。
(――なに? それは……!)
強かな斬撃がベネディクトの身体を断ち割る、その寸前の言葉が耳についた。
「手加減してって言ってるじゃないですか、もー」
怒りをあらわにするひめにゃこの傷は増えつつある。
撫子の代わりに立ちふさがって以降、クルトの剣はずっとひめにゃこが受けていた。
苛烈な太刀筋に、傷は確かに増えていきつつある。
(でも、ひめが受けている間は撫子さんは受けないでいいわけですし、
ここはひめの評価をあげておくべきですね!)
振り抜かれたクルトの剣をエレキギター受けながら、ひめにゃこは思うのだった。
「クルト――私はここで帰らせてもらうぞ。
久しぶりにはしゃぎすぎた」
撫子はそんな声を聴いて視線をそちらに向けた。
「――!」
深い傷跡を見せる女の前には、要るはずの人物がいない。
「それは良かったですね。私はもう少しだけ楽しみたいのですが」
「――っ!」
撫子の前にクルトの身体があった。
ひめにゃこの前から一度後退して跳びこんできたのだろう。
深めに踏み込んだクルトの双剣の片方が身体を刻む。
それでも、返すように撫子を守る加護が反撃の刃を齎して、クルトの身体に傷を刻んでいく。
「その美しいお声を潰してしまうのはもったいないですね」
「……ねえ、あなたはどうして人を殺すの? 戦いたいから?
それとも……内心ではやっぱり楽しいのかしら」
殆ど致命傷に近い状況で間合いを開けながら、撫子は問いかけた。
気を少しでも引くために。
「――仕事の邪魔になるなら殺すのも止む無しでしょう。
それに、剣を抜くのです。『抜いた以上は死ぬまで刃をおさめることなどできません。』
結果として、相手を殺しているだけです」
それでも、と、クルトが言葉を一度止めた。
「――それでも、殺し合いを楽しいと思える相手であれば、楽しいのは事実ですが」
理解が出来ない考え方であった。
「これ以上やると、その美しい声を潰してしまう。
戦場でなければ、ずっと聞いていたいお声でした――さようなら、花のお嬢さん。
『次はより長くお聞かせくださいね』――あなた達はそうなのですよね?」
微かな衝撃。クルトの腕が動いていた。視線を下げれば、心臓辺りへ剣が突き立っていた。
●
高い運――それは確かに強力なアドバンテージだった。
だがそれはあくまで連撃を受けない限りは、だ。
受ける手数が増えればその手のものはやがて意味がなくなっていく。
「てめえ、どうしてそこまでする?」
ベリエスの表情に苛立ちが浮かんでいた。
「ボクが人を助けると決めたから――」
双刃を分けて、二刀流へ変えて、レインリリィは立ち上がる。
対人能力に秀でたネームドという事もあって、受ける傷は多い。
踏み込むと同時、斬撃を刻み付ける。
紅の双刃は鮮やかにエフェクトを散らして近くにいた雑兵ごと刻み続けていく。
その身体に傷が増えている。
最初こそ戦いは敵の優位に回っていた。
「――ふざけた理由しやがって。これでしまいだ――」
縫い付けられたように真っすぐな弾丸が、レインリリィの心臓を撃ち抜いた。
「炎は怒りの体現だと誰かが言っていた。……君はそうでもなさそうだね」
走り抜けたSikiはベリエスの前へ立つや、尾を引くような青い炎の軌跡を紡ぎ剣を振るう。
回避に失敗したベリエスが銃を構えて防がんとしてくる。
烈しいつばぜり合いが鳴り響く。
同時、浸透した青い炎が競り合いを抜けてベリエスの身体を焼き付いた。
「ねぇ、君の炎と私の炎。どちらが熱いのか教えてくれるかい?
――見れば分かるけどね」
呻きながら、ベリエスが後退する。
続けるように引き金を弾いたアズハの銃弾が走り抜けた。
真っすぐに走り抜けた銃弾はベリエスの足元を撃ち抜き、その身体が大きくぐらりと揺らいだ。
それを見た瞬間、アズハの銃弾はもう一つ飛翔した。
真っすぐに撃ちだされる銃弾は敵の身体を縫い付ける必殺の弾丸。
凶弾の食い込んだ場所から血が流れ出ていく。
(なるべく殺さずに捕らえてほしいって話だったわね……)
踏み込みと同時、ロロンは駆け抜ける。
勢いに任せた突進にベリエスの身体が揺らぐのを見ながら、残した剣に冷気が浸透していく。
軽めの踏み込みと同時、ロロンはそれを思いっきりベリエスへと叩き込んだ。
白き群狼の如き連撃の牙が突き立ち、強かにベリエスの身体に傷を残す。
カノンは杖を掲げた。
美しく鮮やかに描かれる魔方陣が、雷鳴を帯びる。
星々を隠し、夜空を彩る鮮烈なる雷霆が真っすぐに打ち下ろされていく。
ベリエスの近くにいた雑兵を中心とする雷撃が、広範囲を2度にわたり撃ち抜き、しびれを齎した。
ぽつり、ぽつりと敵兵が倒れていく。
引き金を握った敵の動きが停止する。
その瞬間、アズハは引き金を弾いた。
「今度こそ――終わりだ」
真っすぐに放たれる弾丸は2発。必殺を期す弾丸は真っすぐにベリエスを縫い付ける。
続けるように、Sikiは剣を握る。
殺す気で振り抜かれた斬撃は隙だらけのベリエスの身体へと炸裂する。
がら空きの胴部に深い傷跡を生みだした。
青い炎の散り付くその身体に、痛撃は深く。
呻く敵の眼がSikiを見る。
「その様子、そろそろ限界かしら」
握りしめた妖刀に冷気を集め、ロロンは斬撃を叩きつける。
冷気は軌跡を描いて美しくベリエスの傷跡を凍てつかせていく。
防ぐ余力もないのか、連続する一撃にベリエスは呻くばかり。
「――終わりです!」
カノンは残る魔力をかき集めて魔術を起こす。
空に星が煌き、魔方陣を描き出す。
空より堕ちる魔弾の星がベリエスに吸い込まれるように撃ち込まれていく。
それが晴れる頃、その姿は地面に突っ伏していた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
MVPはベリエスを抑え続けたあなたへ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
ROOです。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
●オーダー
【1】村の解放
【2】『焼葬』ベリエス、『双剣』クルト、『長刀』アンドレア、何れかの捕縛
【2】は努力目標とします。
●フィールドデータ
焼け落ちた村落の中です。
各地が燃え盛り、田畑は荒れ果て、血と硝煙の臭いが充満しています。
住宅が点在しています。
●エネミーデータ
・『焼葬』ベリエス
残忍で冷徹、人を殺すことを享楽的に好む邪性の塊です。
襲ったところは全てや忌葬り去る残忍な人物で、今回も既に焼き討ち済みです。
対人戦闘能力に秀でており、基本スペックが総じて高く、反応とCTがその中でも群を抜いています。
【火炎】系列、【麻痺】系列のBSと【スプラッシュ】があります。また全ての攻撃に【必殺】と【不殺】がつきます。
射程は中距離~超遠距離、一部に【貫通】レンジがあります。
・『双剣』クルト
二つ名の通り、双剣を握る青年の傭兵です。アンドレアとは実の姉弟です。
非常にストイックかつ冷淡な性格です。
現実では自らを斬り伏せたことによる痛みで『原罪の呼び声』を振り払うなど
(比較的)武人的なストイックさを持っていましたが、あちらに比べて容赦なさが増しており、
ベリエスほど好き好んで残虐行為を行なわないものの必要とあらば人殺しを躊躇しない人物です。
命中、物攻、EXAが高く、【氷結】系列のBS、【追撃】【カウンター】【反】を有します。
また、パッシヴで【覇道の精神】を有します。
射程は至~中距離です。単体、中扇、自域、近列レンジがあります。
・『長刀』アンドレア
二つ名の通り身の丈を超すほどの大太刀を持つ女性の傭兵です。
豪胆かつ極端に理性的な性格です。
現実では先に殺されたクルトの仇討ちの名目でイレギュラーズと会敵し、最後には強敵と戦い死ぬことを喜んでましたが、
こちらはその片鱗さえ見せず、一種の求道者じみた存在感があります。
非常に高い抵抗力と物攻を有し、【飛】【ブレイク】【復讐】を有します。
また、パッシヴで【覇道の精神】を有します。
射程は至近から超遠距離、単体、貫通、超遠扇、中範レンジがあります。
・ベリエス盗賊団×20
雑兵です。刀剣類や重火器、弓などを握る盗賊共です。
特出する能力値もなく、強いわけもないエネミーです。ぶっちゃけ雑魚どもです。
問題は数が少々多い事です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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