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シナリオ詳細

<Genius Game Next>幼き戦士、砂草の強襲戦

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砂嵐の侵攻
 R.O.O内、ネクスト世界――。
 『Project:IDEA』によって生み出された仮想世界。創造主である練達首脳陣の制御を離れ、バグを生じつつ脈動を続けるこの世界にて、今、一つの歴史の転換点が訪れようとしている。
 ならず者国家、砂嵐の大部隊が、伝承へと秘密裏に侵攻を開始した。
 この一大イベントを、R.O.Oシステムは『<Genius Game Next>大規模イベント』と称し、プレイヤーたちへのイベント(たたかい)への参加を促したのである。
 ……システムからの『イベントへの招待』ともとれる通知。これをネットワーク・ゲームとしてみれば、運営からの当たり前の通知であろう。
 だが、これがゲームであるならば、これを『運営しているもの』とは誰なのか? そして、このゲームとは、何者かによって『運営されている』と言う事なのか。
 新たな謎をはらみつつ、しかし練達首脳陣、そしてローレットの選択は、『このイベントに乗る事』であった。システムから明示されたのであれば、これは明らかな『誘い道』である。であるならば、敵の思惑がいずれにあるにせよ、この道に進むことが、バグの元凶への到達に近づくと判断したのだ。
 何より……。
 仮想世界に生きるものとは言え、そこには確かな生命の意思が感じられた。それを不条理に奪われる光景を黙ってみていることなどは、きっとできないであろうから。

 砂嵐より伝承へ向けての道すがら。砂漠と草原の交わる場所にて、大規模な兵站部隊の姿がある。その中に、幼いラダ・ジグリの姿があった。ラダは砂漠と草原のあいのこの風を感じながら、静かにその長耳を、風の音にさらしていた。
「ラダ。此処にいたのですね」
 ラダに声をかけたのは、傭兵集団『レナヴィスカ』の団長である、イルナス・フィンナである。
「砂漠の風とは違い、草原の風は水けを含んでいます。風邪などをひかないように」
「イルナス様、生意気を言うようですが、私を子ども扱いするのはおやめください」
 その赤茶の瞳を些か不服気にひそめながら、ラダは言う。
「今回の遠征も、私を本陣に残すばかり……分かっています。おばあ様の手前、それは出来ないと」
「ラダ、いくつか誤解があります」
 イルナスは頭を振ってみせた。
「まず、これは私達レナヴィスカの立派な任務の一つです。
 たしかに、此度の戦いは遠征。となれば、真っ先に敵の領土へ進軍するのが戦場の花。
 しかしそれを行うのは、我々レナヴィスカではありません。
 今回の我々の任務は、前線に向かったもの達への後方支援任務。
 それに、本陣の護衛は、立派な任務の一つです。本陣を落とされれば、すなわち私たちは退却の憂き目にあいます。
 最悪の場合、退路を断たれて挟み撃ちとなる可能性とてあるのですよ」
 イルナスの言葉に、しかしラダの不信はぬぐえなかった。ラダは聡明な少女であったが、しかし今だ齢12。些かの無根拠な自信が、その心のうちに染み出る年頃である。
「私は過酷な訓練を受けてきました。死にそうな目に遭いましたが、レナヴィスカの戦士としての試練も通過しているはずです」
「だからと言って、すぐに最前線に行くわけではありません。
 ラダ、私はあなただけでなく、私についてくるすべての同胞たちの命を預かる身です。
 その私の判断が信用できないと?」
 ラダは押し黙る。イルナスの言葉は全くの事実だ。イルナスの判断は正しい。しかし、無邪気な克己心がそこにある。
 ラダは、自身が傭兵団に所属し、生き続けることで、かろうじて家族である『ジグリ商会』が、他の傭兵団に襲われずにかろうじて糊口をしのげている事実を、言葉としては理解しつつも、現実的に理解していなかった。自分が傭兵団にて金を稼ぎ、もっと楽をさせてやれれば、と言う思いが、ラダを危険な道に突き進ませようとしていた。
「しかし……私とて戦士です」
 ラダのかろうじての反論は、そんな言葉に過ぎなかった。そしてそれは、イルナスにとっては容易に噤ませることのできる、子供の言い訳に過ぎなかった。
「あなたが戦士であるが故に、重要拠点の守護を任せているのです。
 この言葉の意味が解らないほど、あなたが愚かな子だとは思っていません。
 ……ラダ、あなたはまだ幼い。これからも、もっと学ぶことがあるはずです。
 私も、あなたの成長を楽しみにしています。その姿を私に、ニーヴァ老に見せるためにも。
 今はその気持ちを胸にしまっておきなさい」
「……分かりました」
 打ち負かされたラダは、しかしその胸に燃えくすぶる炎を抱いたまま、本陣の守備へと戻る。
 その後ろ姿を、イルナスは静かに見送っていた。

●兵站部隊強襲
「伝承中央大教会に雇われた冒険者が、砂嵐の後方支援を行う部隊を発見した。これにより、クエストとして『兵站部隊強襲作戦』が発生したようだな」
 『理想の』クロエ(p3y000162)は、インターフェースを確認しながら、そう言った。
 砂嵐による、伝承襲撃イベント『<Genius Game Next>』。そのイベントへの参加を決めた特異運命座標たちの下に、イベントに属するクエストの発生が告げられたのは、つい先ごろの事だ。
「これはハード難易度のクエストと言う事になっているな。伝承に攻め込む砂嵐の軍勢、その後方に侵入し、展開した兵站部隊へ打撃を与え、兵站面から敵へのダメージを狙う、と言う事のようだ」
 いわば敵本陣への奇襲作戦だ。現実的に考えれば難しい作戦だが、本陣付近のサクラメント(ログイン・ポイント)を利用してログインし、そこから移動をすれば、敵に気づかれずに本陣へと強襲できる、というプランのようである。
「兵站部隊を守っているのは、傭兵部隊『レナヴィスカ』だ。現実のラサでは、あのディルクの副官ともいわれている女傑、『イルナス・フィンナ』が率いる強力な部隊だ。恐らく、その強さは、ネクスト世界でも変わりないとみて間違いないだろう」
 つまり、とクロエは言うと、
「これはチャンスであると同時に、非常に難しい任務であるという事だ。もちろん、我々プレイヤーキャラは、究極、現実で死ぬことはないが……この強力な布陣を捌きつつ、部隊が保持している『補給物資』を破壊する必要がある」
 決して楽な任務ではない、と言うわけだ。なお、『補給物資』ターゲットの破壊方法は、プレイヤーがセットしている攻撃スキルを用いることで、ダメージを蓄積させ、破壊できるのだという。
「この部隊にダメージを与えられれば、前線にて襲撃を行っている部隊の、早期の撤退も見込めるかもしれない。難しいクエストだが、どうか頑張ってほしい」
 そう言って、クロエは特異運命座標たちを送り出した――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 敵兵站部隊を強襲し、物資にダメージを与えてください。

●成功条件
 五つ全ての『補給物資』を破壊する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●状況
 砂嵐による、伝承襲撃イベントが発生しました。
 特異運命座標(プレイヤー)の皆さんは、このイベントに参加、イベントに属するクエストを攻略し、イベントの攻略を目指します。
 皆さんが受注したクエストは、『砂嵐後方支援兵站部隊への強襲作戦』。文字通り、後方に展開した本陣へ強襲し、部隊が守る5つの『補給物資』をすべて破壊します。
 クエストのクリア条件は補給物資の破壊のため、駐屯しているレナヴィスカの隊員たちを全滅させる必要はありません。と言うか、全滅はおそらく無理だと思われます。
 適度に敵を捌きつつ、補給物資を破壊し、離脱するのが今回のクエストです。
 クエスト開始タイミングは昼。日は高く、周囲は草原と砂地が入り混じったような場所で、特に行動にペナルティなどは発生しません。
 なお、クエスト開始時点で、おおむね以下のような敵味方配置になっています。

 物資 敵 物資
 敵     敵
物資  物資  物資
 敵  敵  敵


    味方

●登場エネミー
 レナヴィスカ隊員 ×???
  レナヴィスカの傭兵たちです。主に弓による攻撃を得手としたアーチャーにより構成されています。
  基本的に中~遠距離での戦いを好みます。近距離での戦いができないわけではありませんが、性能はガクンと落ちます。
  命中と素早さは高いですが、HPや防技などの耐久面はやや低めです。
  『毒』系統のBSや、『麻痺』系統のBSにご注意ください。

 ラダ・ジグリ ×1
  レナヴィスカ所属の傭兵。12歳の幻想種の弓手です。
  システム上、ボスフラグを設定されているのか、非常に強力なスナイパーとして立ち回ります。
  倒せない相手ではないですが、万が一彼女が死亡したとなれば、イルナスは黙って居ないでしょう。
  主に超~遠距離での攻撃を行いますが、例えば以下のようなスキルも持ち合わせています。

  スキル:キャリバン -TYPE・R.O.O
   鋭く食らいつく一筋の矢。それは人食いの牙。
   物超単、命中+???、【ブレイク】【致命】【反動???】
  スキル:シビュラ -TYPE・R.O.O
   気まぐれな籤のような矢の一撃。当たるは何処か。
   物超単、FB+???、【連】【AP吸収???】

 イルナス・フィンナ ×1
  レナヴィスカ団長。現実世界ではディルクの副官、と言われるほどの実力者であり、それはこのR.O.O内世界ネクストでも同じです。
  冷静沈着なアーチャーであり、ボスフラグを設定されているのか、超強力なシューターとして立ち回ります。
  倒すのであれば……いいえ、倒そうとは考えない方がいいです。くれぐれも、クエストの成功条件を忘れないでください。
  なお、これだけ強くても、本クエスト中は全力で戦ってはいません。
  ……が、仮に……例えば、イルナスが特に目をかけている仲間が死んだりしたら、きっと皆さんを生かして帰すことはないでしょう。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • <Genius Game Next>幼き戦士、砂草の強襲戦完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年06月21日 23時35分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

すあま(p3x000271)
きうりキラー
神様(p3x000808)
R.O.Oの
ハウメア(p3x001981)
恋焔
天魔殿ノロウ(p3x002087)
無法
アルス(p3x007360)
合成獣
セフィーロ(p3x007625)
Fascinator
リュティス(p3x007926)
黒狼の従者
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス
コーダ(p3x009240)
狐の尾
星芒玉兎(p3x009838)
月光

リプレイ

●補給部隊
 空は晴れている。太陽は照らす。されど砂漠のそれとは違って、含む風には湿度が宿る。
 それが何だかくすぐったくて、ラダ・ジグリは鼻をこすった。補給物品を詰め込んだ、箱の上に座って、遠くを見る。
 ――砂嵐(サンドストーム)国の『傭兵』部隊連合。連合軍の様相を呈しているものの、実体は利益のあった傭兵団が獲物をたまたま隣に立っているようなものであったが、しかし砂嵐の傭兵たちとはそれだけで十分に脅威となる強さと悪辣さを備えていた。
 はるか前方、伝承の国の方を見やる。あの先では、傭兵たちがしのぎを削り、敵と戦っているのだろう。幼いラダには、彼らの行う掠奪の本質をまだ実感していなかったから、純粋な憧れと共に、その先を見ていた。
「私だって、充分に戦えるはずだ」
 ラダとて、プライドのようなものがある。それが今は、どれだけ幼く、向こう見ずであってもだ……今はその全能感のようなものが、彼女の頬を膨らませている。
「ラダ、ふてくされているのね」
 そう言って足元から声をかけたのは、同じ隊に所属しているハーモニア、レンドだ。ラダより少し大人で、ラダより少し先にレナヴィスカに入隊した。
「レンドか。イルナス様に子守を押し付けられたな?」
「もう、ほんとにふてくされないでよ。でも、イルナス様に様子を見てくるように言われたのはホント」
「皆過保護だ」
 ぷぅ、と頬を膨らませる。
「家族には優しくなって当然じゃない?」
「家族か? なら、私はレンドのお姉ちゃんだよ。レンドは少し、ドジだから」
「言うわね」
 レンドはくすくすと笑った。
「そんなに戦いたい? ラダ?」
「私は戦士だ。戦士として稼ぎ、家族に楽をさせたい。家族って言うのは、ジグリの家もそうだし、レナヴィスカもそうだ」
「私は戦いたくないなぁ」
 ラダは笑った。
「レンドはドジだから、戦いに入ったらきっと死んでしまうよ。だから、レンドは私が守る」
「ホント生意気」
 レンドは本当に、楽しそうに笑った。
「降りてきて。見張りの交代の時間よ」
「分かった。でも、こんな所に敵なんて来ないよ。だから私はここに配置されたんだ」
 自嘲するようにそう言うラダが、補給物資の箱から飛び降りた。それを狙っていたかのように、火のついた瓶のようなものが投げ込まれた。
 あっ、とラダが思った瞬間、レンドに抱きすくめられていた。刹那、爆発した炎が補給物資を焼き始めていた。

 その少し前。
 砂漠の放棄遺跡に存在する、放棄されたサクラメントに、特異運命座標たちはログインしていた。ボロボロのサクラメントは未だ正常に機能を稼働させていて、この放棄サクラメントが今回の作戦のかなめでもあった。
「なるほど。こうも容易く近づけるとなれば、敵にとってみれば青天の霹靂でしょうね」
 静かにそう言うのは、『黒狼の従者』リュティス(p3x007926)である。優雅にメイドドレスのすそと、長い髪を、草原の風にたなびかせている。
「こういった設備を使えるのが我々だけとは僥倖です。これも、プレイヤー特権、でしょうか」
「まぁ、NPCがこれ使って攻めてきたら、それこそマジのクソゲーだしね☆」
 『合成獣』アルス(p3x007360)がウィンクなどを決めつつ言う。
「便利だけど、クエスト中はこれ封鎖されちゃうはずだよ。他の戦場だとクエスト中でも使える奴があるらしいけど、これはダメな奴。だから、安心して死んで来い! とはいかないねー♪」
 アルスの言う通りだ。サクラメントの助けは、あくまで戦場に近づくまで。そこから先は、すべて特異運命座標たちのプレイヤー・スキルにかかっている。
 全員がログインしたのを確認したように、派手なファンファーレと共に『クエスト開始』とインターフェースに文字が躍った。同時に、サクラメントが封鎖される。
 それを確認して、一行は進軍を開始した。ご丁寧な事に、行き先はマップに矢印で記載されていて、迷うようなことはない。
「けど、相手はイルナス・フィンナとレナヴィスカかぁ。現実だったら、あんまり相対したくない手合いだよ、本当に」
 『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)が、むむ、と唸りながら言う。イルナス、そしてレナヴィスカの高名は、現実世界でも鳴り響いている。仮想世界に再現された存在とは言え、いや、再現であるからこそ、恐ろしい相手であると言えるだろう。
「まぁ、現実でイルナスと戦う状況ってのも解らないけど。
 それでも、引き受けたからには全力で成し遂げて見せるよ。
 私達がこのクエストを達成することで、このイベントを、戦いを、
 少しでもいい方向終わらせることが出来るかもしれないって言うならねっ!」
 ぐっ、とこぶしを握り締めて決意を表すネイコ。仲間達も、想いを同じくするところだ。
「レナヴィスカのイルナス様。ええ、勿論存じておりますわ。高名なお方ですから」
 『月光』星芒玉兎(p3x009838)が言った。
「現実でもいずれお会いしたいですわね。
 勿論その時は、このような形ではなく」
 今回は、そのイルナス率いる部隊が相手だ。敵対するとなれば、これほど恐ろしい部隊もそうは無いだろう。
「ま、殺しじゃねぇのがちと不満だが? せっかくのデカい戦争だ、報酬には期待させてもらうぜ?」
 『無法』天魔殿ノロウ(p3x002087)がにぃ、と笑いながら言う。
「とにかく今回は殺しはご法度……特にラダはな。イルナスを刺激したら、勝てるもんも勝てなくなる。少しやりづれぇけど、ま、任せてくれよ」
「頼もしいですね」
 ハウメア(p3x001981)がくすりと笑う。
「行軍において兵站は、継戦能力にも士気にもつながる要素です。
 つまり、ここで敵の兵站を潰して補給路を断てるかどうかが戦況を大きく左右します。
 敵の守備部隊は強力ですが、失敗する訳にはいきませんね」
「そうだな。相手の補給物資を破壊するやり方は、昔よくやったもんだ。
 遠征による戦場なら、これほど効果的なものもないからな」
 『狐の尾』コーダ(p3x009240)が言った。
「速やかに作戦を完了して、賊どもにはお帰り願うとしようじゃないか」
「所で、今回ごはんをダメにしてしまったら、帰り道に伝承の地を掠奪じゃー、ってならない?」
 『CATLUTONNY』すあま(p3x000271)が、はーい、と手をあげながら、言った。
「ごはんがなくなれば、お腹が減る。お腹が減っては食べねばならぬよ」
「それは、大丈夫だろう」
 『R.O.Oの』神様(p3x000808)が言った。
「もとより、今回は敵も電撃作戦。
 長期間の作戦は念頭に無いだろう。
 補給線が潰されれば即撤退する。
 だから、気にしないで良いぞ」
「なるほどなー」
 すあまがこくこくと頷く。神様はうむ、と頷くと、それから前方を見た。
「宿営地だ。身をひそめよ。
 アレが――」
 神様が視線をやった。その先には、数名の傭兵たちがあちこちに居て、右端の補給物資の箱の上には、一人のハーモニアの少女が座っている。足元の傭兵と、何やら話している様だ。その少女には、何か懐かしさの様な、既視感のようなものを覚える。
「……見たらわかる。
 風が吹けば桶屋が儲かり、翡翠が引きこもればラダの耳は長くなる。
 傭兵な理由はなんとなく分かるけど、種族も変わったりするんだねー。不思議な世界だ」
 すあまが言う。少女は、ラダ・ジグリだ。今回の、『敵』の一人。
「イルナスの姿は見えないわね。いいえ、ことが起こればすぐに飛んでくるのでしょうけれど」
 『Fascinator』セフィーロ(p3x007625)が眉をひそめた。
「嫌なバグね。現実と似てるだけ、余計やりづらいんだから。本当に」
「遠慮はしないでいいぞ、と飼い主(ラダ)ならいうだろう」
 すあまが言うのへ、セフィーロは笑った。
「だけど……ううん、飼い主さんにありがと、って」
 セフィーロはそう言うと、第四スキルを起動した。同時に、手に現れるモロトフ・カクテル――つまり、火炎瓶である。
「ラダがどいたら、攻撃開始。一丸となって動く。極力殺しはなし。此方も電撃戦、速やかに物資を破壊して、速やかに撤退。良いわね?」
 セフィーロの言葉に、仲間達は頷いた。
「周辺に敵は潜んでいません。完全に奇襲に移行できます」
 リュティスの言葉に、セフィーロは頷いた。
 ラダが、補給物資から飛び降りる。セフィーロは、
「このモロトフは私の奢りよ。
 遠慮せずグイっと行きなさい――今!」
 叫び、モロトフカクテルを放り投げる。それは放物線を描いてラダが飛び降りたばかりの補給物資に直撃した。瓶が割れ、中の燃料がまき散らされる。炎を纏ったそれが補給物資を焼いて、場違いにも、なんだかおいしそうな焦げた臭いをあげた。

●攻撃・始
「突撃するわ! コーダ、アルス、前に出てタンク! 残りはこちらの意図を悟られない程度に攻撃開始!」
「おっけー☆ がんばろーね、コーダ君?」
「問題ない。守るための戦いなら、得手とするところだ」
 二人を前面に、一行が進撃を開始する。突然の攻撃に浮足立ったように見えたレナヴィスカたちであったが、すぐさま反撃に転ずる。
「反応が速い……やはりいますね、イルナス!」
 ハウメアが声をあげ、手にした弓の弦を引いた。とたん、そこへ紫焔の矢が現れ、ハウメアはぎり、とそれを引き絞る。
「前には出ないで、範囲攻撃で撃ちます!」
 ハウメアが解き放つ、紫焔の矢。それは空中に飛び上がったとみるや、すぐさま地へと雨あられのごとく降り注ぐ。レナヴィスカ隊員たちが悲鳴を上げて、降り注ぐ毒との焔の矢から逃げ惑う。
「怯まないで。総員、隊列を組んで反撃を開始。相手は寡兵、有利はこちらにあります!」
 声が響いた。凛としたその女性の声は、間違いない、イルナスの声だ。
「イルナスさん……いるなら、最前線に出てくるよね? 部下を見捨てられないのが貴女だ」
 ネイコが言う。果たして、ゆっくりと前線に現れたのは、ハーモニアの弓手、イルナスだ。彼女が現れただけで、傭兵たちが統制を取り戻していくのが分かる。
「来た! 辛くなるよ!
 こっちも隊列を崩さないで! 一つの群れとなって、一匹の獣となって、私達で兵站部隊を、物資を食い破っていくよ!」
 ネイコの言葉に、ノロウが頷く。
「任せろ! 奴らは弓手だ、懐に入っちまえば本領は発揮できねぇ!」
 総員、一丸となって突撃。接近に気づいた弓手たちが大型のナイフを抜き放つが、やはり弓に比べて近接戦闘はおぼつかない。
 振るわれたナイフを、ノロウ短剣で振り払った。そのままこちらも短剣を振りかぶり、喉元目がけ、
「とった……いや、メンドクセェ、殺しはなしだったな!」
 代りに暗器を放り投げた。放たれた暗器が、前面に居た傭兵たちに突き刺さり、大きな血管を損傷、失血させる。
「あんまり加減は出来ねぇんでな、死にたくなければ今ので下がれ! それでも来るなら……知らねぇぞ、オレは!」
「レンド!」
 腕を負傷した傭兵にむかって、ラダが叫んだ。
「貴様等……下がれぇっ!」
 ぎり、と弓ひくラダ。放たれた矢が、ノロウの心臓を狙う。ノロウはとっさに短剣を振るって、矢を払い落した。
「正確ぅ! ガキのくせに腕はいいみたいだな!」
「貴様だって、私と大して変わらないだろう!?」
「見た目は……な。アルス! お友達だ、ファンにしてこいよ!」
「やっほ~、美少女合成獣のアルスちゃんだよ☆彡」
 飛び込んできたアルスが、挑発の毒液をまき散らす。その時にはすでにノロウの姿はなく、ラダは毒液にの香りにむせ返った。
「可愛い子発見っ。ねぇ、アルスちゃんとアソボウヨ……」
「くっ……なんなんだ……モンスターか!?」
「ひっどーい! 美少女合成獣のアルスちゃんだってばぁ!」
 アルスがラダに接敵、眼前に顔を近づけて、べぇ、と舌を出しみせる。
「ラダちゃんが一番弱そうだよね? 食べちゃうよぉ?」
「馬鹿にして……! 私はレナヴィスカの戦士だ!」
 接近したアルスにむかって、護身用のナイフを振りかざす。アルスはからかうようなステップ、ナイフの一撃を回避してみせる。
「そうそう、アルスちゃんだけを見ててね……!」
 ぺろり、とアルスは唇を舐めた。

 物資への攻撃を優先し、特異運命座標たちは傭兵たちへの攻撃を同時に続ける。物資へは、毒物や火炎などによる継続的なダメージを与え、そちらへの対処に傭兵を割かせることで、こちらへの対応力を減らしていた。果たしてその目論見は充分に効力を発揮し、傭兵たちはあちこちへと対応する羽目になり、団結力を削られていたのである。
「既に奇襲だ このまま粉砕する」
 神様の放つ第三の奇跡。それはダウンバーストのような超下降気流を産み、周囲のものを、人、物資問わずに吹き飛ばした。吹き飛ばされた物資が、別の物資に接触し、がらり、と崩れる。
「戦地に安全な場所等絶無」
 引き続き神様は第一の奇跡を起こす。神の祈りは苛烈なる熱を産み、それが爆発せんばかりの奔流となるや、物資を炎上せしめた。先ほどの火炎瓶を含めて燃え盛る炎が、物資を次々と燃やしていく。
「敵の狙いは補給物資ですか……ですが、これではまるで決死隊ではないですか……!」
 ぎり、とイルナスが奥歯を噛んだ。補給物資を、特異運命座標10名で破壊せしめることは可能だろう。だが、退却のことは考えているのか? ここは伝承より遠く離れた地。たったあれだけの人数で、戻りくる砂嵐の軍と出会わずに逃げおおせるとでも?
 イルナスは多少の罪悪感と同情を覚えたが、しかし敵もまた非情な作戦を行うほどに追い込まれているのだと理解した。それ故に、積極的な掃討、詰まる所本気での攻撃を躊躇させることとなる。
 もちろん、これには特異運命座標たちが『ログアウト』と言う安全な帰投手段を持っていることを知らないが故の思考である。そして『ログイン』と言う移動手段を持っていることを知らないが故に、レナヴィスカは奇襲の憂き目にあっているのだが。
「決死の覚悟で来る敵です! 油断はしない! どうせ袋のネズミです、追い払うだけでいい!」
「残念ですが、私達は死ぬつもりもなければ、袋のネズミでもありません」
 リュティスがそう言って、ライフルを構える。トリガを引く。連続する発射音と共に放たれた銃弾が、イルナスの弓を叩いた。衝撃が、イルナスの手を痺れさせる。
「狙撃手ですか……ですが!」
 イルナスは痺れる手を無理矢理使い、弓によるカウンタースナイプを敢行する。放たれた矢が、僅かにリュティスのこめかみをかすめて飛来した。
「……痺れさせて居なかったら直撃かもしれませんね。やはりイルナス、恐ろしい相手です」
 リュティスはメイドドレスのすそを翻すと、疾走。でたらめにライフルでけん制射を放ちながら、炎上する補給物資の影に隠れる。それを追うように、数発の矢が地に突き刺さった。
「コーダ様、抑えられますか?」
「任せろ。だが、長くはもたんかもしれんぞ」
 コーダが正直に言った。イルナスは強い。その実力を隠していたとしても。
「今まさに、三つ目の物資が焼け落ちようとしています。このまま東側から奥地にむかい、残る二つの物資を破壊します。その時間さえ稼いでいただければ」
「後先を考えないのは、わたくしの美的感覚に照らしてみれば好みではありませんが」
 星芒玉兎が言った。
「しかしそうもいっていられませんね。今は、多少無理をしてでも、物資を破壊するべきです……イルナス様は、わたくしたちを決死隊と呼んだ? ええ、いいでしょう。決死隊の真似事をして見せましょう」
「究極……物資を破壊さえすればクエストはクリアだ。全滅しても構わない、か」
 コーダが言った。
「ええ。先ほど申し上げました通り、好みではありませんが」
「全く、好みではありませんね」
 リュティスが言う。
「ですが……今は先のことを無視しましょうか。コーダ様、イルナス様の抑えを。星芒玉兎様、突破を。さぁ、皆様、参りましょう」
 リュティスの言葉に、仲間達は頷いた。

●幕間
 戦いだ。戦いだ。戦いだ。
 それは望んだことのはずだった。望んだもののはずだった。
 だが目の前の……これはなんだ?
 仲間が次々と倒れていく。
 守るべき物資が破壊されていく。
 怖い。
 何かがじわじわと破壊されていく。
 怖い。
 何かがじわじわと私の身体をかけ登っていく。
 それは――無鉄砲な子供が、この時、真に理解した、戦いの恐怖だった。
 死にそうな目になら、何度もあった。
 レナヴィスカ入隊試験でだって、死にそうな目に遭った。
 死にそうな目に遭った、だけだ。
 本当に、真実、死を実感した事なんて、無い。
 足を踏み出せば、死に墜ちる。
 喉元を晒せば、死神が頸を絞めるだろう。
 怖い。
 怖くない。私は戦士だ。
 怖い。
 怖くない! 怖くない!
 ラダはこの時、初めて、自身が本当に何から守られていたのかを実感した。
 レンドは無事だろうか。酷い出血だった。死ぬかもしれない。死ぬ。そう、死と言うもの。死のやり取りをすると言うもの。そう言ったものを、自分は真に、体感したことはなかった。
 だが、ラダは勇敢さも持ち合わせていた。その恐怖に蓋をした。弓を引き絞る。ナイフを振るう。戦う、戦う。
 ある種ハイな状態であったかもしれない。それに、システムから与えられたボスと言う役割が、ラダに普段以上の力を与えてもいた。
 だから、ラダは戦い続けることができた……それは、幸かだったか不幸だったか。今の彼女には、まだわからない。

●攻撃・終
 残る補給物資は二つ――。煽情の東側から後方へと回り込んだイレギュラーズ達は、傭兵たちを押し込みながら進軍を続ける。
「……己が身を盾にさせれば、被害は防げよう。
 しかし、それを行わぬのは、指揮官の優しさか。甘さか」
 神様が呟きつつ、第一の奇跡を再現する。降り注ぐ焔が補給物資を焼き、中の物資を破損させていく。
「もう一発よ! 死にたくなかったら避けなさい!」
 セフィーロが火炎瓶を放り投げる。飛散する油が補給物資に火をつけた。
「これ以上はやらせない! あの女を集中砲火!」
 傭兵たちが弓を番え、矢を放つ。セフィーロはステップを繰り返して回避しつつ、
「今日はお遊びする暇はないからね。
 邪魔をするなら遠慮はしないわ?」
 一気に接敵し、第一のスキルを発動。妖刀に雷が迸り、雷撃のエフェクトが傭兵を切り裂く。
「運が良ければ死にはしないわ……!」
 倒れ伏した傭兵をしり目に、セフィーロが敵陣に斬り込む。同時に飛び出したネイコが、傭兵の持っていたナイフを叩き落した。
「ここまでだよ、眠っていて!」
 ネイコが振るう刃が、第三スキルの効果を乗せて、傭兵たちにたたきつけられた。打ち据えられた傭兵たちが、次々と意識を失って倒れていく。
「結構倒したはずだけど……さすが拠点、まだまだ敵が出てくるね」
 ネイコが苦笑した。敵はある程度の統率を残したまま、次々と増援を繰り出してくる。イルナスがいる限り、敵の士気は挫けないだろう。とはいえ、今の戦力でイルナスを討伐できるとは思えない。
「悔しいけれど、とにかく進むしかないんだ。
 行くよ、皆! もうすぐ光明が見えるはず!」
 ネイコの言葉に、仲間達は最後の進撃を続ける。あらわわれる傭兵たち、放たれる矢が、仲間達の身体を傷つけていく。
「追い詰められてはいる だが、命を奪う心算は無い」
 神様の第三の奇跡が降り注ぐ。命奪わずとも倒れた傭兵たち、その後から再び増援がやってくる。キリがない。
 目立つセフィーロに攻撃が集中され、次第にその身体から活力が抜けていくのが分かった。
「くっ……もう一歩……!」
 セフィーロが最後の補給物資に向けて、火炎瓶を放り投げる――同時、駆けよってきた傭兵によるナイフの一撃が、その腹部に深々と突き刺さった。
「く……ふっ……」
 口元から血を流しながら、その身体が光の粒子に包まれていく。
「セフィーロ様……!」
 星芒玉兎が、ナイフを抜いて襲い掛かってきた傭兵をアッパーで殴り飛ばした。意識を失い倒れる傭兵をしり目に、星芒玉兎がセフィーロへと駆け寄る。
「……ご無事ですか……ああ……!」
 セフィーロは口元から血を流しつつも、にっこりと笑った。
「わたしの役目はこれでお終い……ごめん、後、任せる」
 セフィーロが言いながら、死亡(ログアウト)。星芒玉兎は消えゆく粒子を留めるように握りしめるが、それを止めることはできない。
「やはり、この様な戦い方は好みではありません……が」
 すう、と目を細める星芒玉兎。その眼は、まるで冷徹なる氷のようにも見えた。
「袖振り合うも他生の縁。此度のわたくしの仲間を傷つけたのでしたら。ええ、貴方のその罪、わたくしの奥義をもってして、すべて蒼の光に沈めましょう」
 ゆるりと振るわれる腕。そこから放たれた蒼の光が、傭兵たちを、そして物資を飲み込んでいった。

 一方、ラダがアルスへと追いすがる。振るわれる護身用のナイフは、自身の戦闘スタイルと会わぬこともあり、アルスに大ダメージを与えることはない。
「くっ……子供を撫でるような攻撃を!」
「だってあなた、子供でしょ☆ 怖いんじゃない?」
「黙れ! 私は戦士だ……っ!」
「戦士なら、引き際も心得ているものだよ、ラダ」
 どこか優しいような声が聞こえた。飛び込んできたすあまが、猫爪……(爪は引っ込めて傷つけないように……)の一撃を喰らわせる。すでに幾度となく攻撃に巻き込まれ、傷ついていたラダに、その一撃は重く叩きつけられた。
「ううっ……!?」
 ラダが呻く。すあまと視線が合った。なにか、ざわざわとした感覚が、二人を襲った。鏡を見ているような、その鏡の中から自分が出てきて、目の前に立っているような感覚。姿はまるで違うのに……。
「あなたは、一体……!?」
「わたしはすあまだよ」
 すあまはなにか、懐かしそうな笑顔を向けてから、
「アルスちゃん、多分ここはもう大丈夫。皆の所へ行ってあげて」
「はーい☆ 頑張ってね☆ミ」
 アルスが距離をとるのへ、ラダが手を伸ばした。しかし、もはや体は動かない。限界が来ていた。
「まさか、くっ、殺せ、とか言わないよね? ラダはそう言うキャラじゃないけど、もしかしてそっちはそう言うキャラ?」
「何を言っているんだ……?」
 困惑する様子のラダに、すあまはにっこりと笑ってみせた。
「ラダは強い子だよ。いや、今あんまり強くなられても困るんだけど、ラダはラダだから、きっと強くて優しくなれるよ。だから、頑張り過ぎないでね」
「は……?」
 ラダが声をあげるのへ、すあまは、
「ばいばい」
 と手を振ってすあまがかけていく。ラダは追おうとした。だが、身体に力が入らなかった。
「殺されなかった……見逃されたのか……?」
 ラダはその場にへたり込んだ。くそ、と悪態が口をついた。

「ラダは殺されなかった……?」
 イルナスが呟き、矢を放つ。放たれた矢を、コーダの楯が受け止めた。やりづらい、と思った。まるで極力、死人を出さぬように行動しているように思えた。
 それは優しさか、否か。或いは……というよりおそらくは、こちらの性質を理解し、被害が甚大にならなければ深追いしないであろうことを見抜いているのだろう。
 となれば……やはり、恐ろしいものを相手にしているように、イルナスには思えた。少なくとも、こちらの気性を熟知されているように思えた。
「なんなのですか……まるで、既知の友人を相手にしているような感覚は……!?」
 困惑が、さらにイルナスから戦う力を失わせていた。ばらまかれた毒が、炎が、補給物資を次々と破壊してなお、イルナスは全力を出すことを躊躇していた。
「イルナスさん……せめて足止めだけでも!」
 ハウメアの放つ必殺の矢が、イルナスに迫る。イルナスは飛びずさって回避。
「つくづく、いい腕のスナイパーがいるものですね。貴方の腕なら、レナヴィスカに欲しいほどですが……」
「お褒めにあずかり光栄です。ですが、砂嵐に属する予定は今のところありませんので」
 ハウメアが再び必殺の矢を放つ。カウンター、イルナスはそれを撃ち落とす形で矢を放ち、中途で二つの矢が衝突して破裂する。
「お見事です、レナヴィスカ、イルナス……!」
「あなたの腕が見事だからこそ、こちらも対応ができると言うものですよ」
 一流の弓手同士の戦い。しかしてやはり、ここはイルナスに少々の分があった。応酬する矢がついにハウメアの胸を貫き、痛みがハウメアの身体をかける。
「やはり、まだ届きませんか……」
「惜しい、あなたほどの腕を持って、何故このような決死隊などに……!」
「いいえ、私はここでは死にませんよ……それに、私の役目は充分に果たせました。あなたを私にくぎ付けにできた。それでいいのです」
 ハウメアが光の粒子に包まれて死亡(ログアウト)する。途端、ひときわ大きな音が響いて、最後の物資が爆発炎上した。
「しまった……いいえ、相手の方が一枚上手とみるべきですね……!」
 イルナスが唇をかむ。この時、イルナスは気づかなかったが、特異運命座標たちの視界には、派手なエフェクトと共に『クエストクリア』の文字が躍っていた。こうなれば、もはやここに用はない。
「撤退します――」
「させるとお思いですか?」
 リュティスの言葉に、イルナスが叫んだ。同時、一斉に照準される無数の弓が、特異運命座標たちを狙う。
「投降なさい。命まではとりません。ですが、抵抗するのであれば、もはや容赦をするつもりはありませんよ」
「……!」
 リュティスは歯嚙みをした。正直な話、ここで全員一斉に自害をして死亡(ログアウト)しても差し支えはない。が、ここまで来たのである。仲間とともに無事に帰りたいのが本音だ。
「我々に勝利は無いが 敗北も無い 解るか」
 神様の言葉に、イルナスは言う。
「ええ、此度の作戦はあなた方が上手……ですが、黙って帰すわけにはいかないのも事実です」
「はっ、面白いじゃねぇか。おまけのクエスト、撤退戦の始まりだ。しんがりはオレが持つ。とっとと退きな」
 ノロウが短刀を構えて、ゆっくりと前に出た。
「何の因縁も思うところもありゃしねぇが、これが戦場ってもんだろう」
 コーダが楯を構えて、ゆっくりと前に出る。
 二人とも、相応に傷を負っていた。万全の状態とはいいがたい。
「別に、悲壮な決意で残ってやるわけじゃないさ」
 ノロウが言う。
「万一勝てたら面白そーだからって本音。ほら、ゲームだしな?」
「そう言うわけであるから、さっさと退きな」
 コーダが続いた。
 その意思は、硬いように思えた。だから、仲間達は、静かに頷いた。
「サクラメントで会おうね!」
 ネイコの叫びに、二人は頷いた。同時、仲間達が駆けだす。
「逃がさないで!」
 イルナスが叫んだ。同時に、ノロウがイルナスへと斬り込む。一閃。振るわれた短刀は、イルナスが抜き放った短刀によって受け止められる。
「余所見すんなよ。オレと遊ぼーぜぇ?」
 ぎり、と短刀同士がつばぜり合いを行う。
「近接もいける口か。滅茶苦茶だぜ。ゲームバランスどうなってんの?」
「訳の分からないことを言いますね……」
 イルナスはがノロウを蹴り上げ、一瞬のスキをついて短刀を振るう。が、刹那、飛び込んできたコーダが、楯を構えて突撃。イルナスを推し飛ばす。
「くっ……」
 イルナスは跳躍して勢いを殺した。そのまま着地すると、弓を番える。
「ええ、いいでしょう。ではここよりは、全力のイルナス・フィンナがお相手いたします」
 ぞわり、と駆け上る寒気。それが、目の前の女から放たれた敵意であると気づいたとき、ノロウも、コーダも、苦笑せざるを得なかった。
「あーあ、こりゃホントクソゲーだわ。ワンチャンあるか、これ?」
「さぁて。だが、こういう時はこういうものだそうだ……『さぁ、楽しくなってきた』と」
 二人は不敵に笑うと、己の武器を構えてイルナスに突撃する。
 迎え撃つは、レナヴィスカ団長、真なるイルナス・フィンナ!

●そして
「あ~~~、疲れた! アルスちゃん、もう限界!」
 ぺたり、と遺跡の床に、アルスは座り込んだ。
 放棄サクラメントの存在する遺跡である。命からがら、と言った様子で逃げだしてきた特異運命座標たち。さらに深い傷を負いながらも、何とか撤退することに成功した。
「お二人は……戻って来ませんね」
 リュティスが言う。コーダ、ノロウ。二人が戻ってくる気配はない。
「あれは……逃げている途中でも分かったよ。あれを相手にしなくて、本当に良かったと思う」
 すあまが正直な感想を述べた。逃げながらでも分かった、真なるイルナス・フィンナの戦意。相対しただけで心くじけそうになるほど、それは見た目に似合わず苛烈なものであった。
「生きた心地がしなかったよ。ずーっと、身体に銃口を突きつけられてるような感覚だった……うう、アレがイルナスさんの本気かぁ」
 ネイコが、自身の身体を抱きしめるようにしながら言った。もしも、作戦中にあれと戦う事になっていたら……敗北は必至だったに違いない。
「しかし……クエストは成功と言うわけですわね。些か、心残りのあるものではありましたが」
 星芒玉兎が言う。被害は出てしまったが、クエスト自体は成功したのだ。これにより、現在の戦況にも、何らかの、良い影響が出るだろう。
「作戦は成功である。 だが 死亡(ログアウト)した仲間達は――」
 神様がそう言ったその時、サクラメントが反応を示した。同時、4つの影が、サクラメントの下に召喚(ログイン)する。
「ログインできた……と言う事は、クエストは成功したのね?」
 セフィーロが言うのへ、ハウメアが続く。
「良かった……イルナスさんは強敵でしたから、少しだけ、心配していました……もちろん、勝利を信じてはいましたよ?」
 ハウメアが、胸をなでおろしながら、言った。
「あーくそ、何だアイツ! クソゲーじゃねぇか!」
 不服気に言う、ノロウ。
「距離とったら撃たれる、接近したら斬られる。滅茶苦茶だぜアレ! ゲームバランスマジでどうなってんだ?」
「恐ろしく強かったよ。それこそ、鬼神のようだった」
 コーダが苦笑した。どうやらあの後、返り討ちになったらしい。それはそうだろう。10人でかかっても勝てるかどうかわからないような相手だ。
「だが、健闘した……方だと思うぞ? 結構時間は稼げた」
「ま、そうだな。此処で無事に帰ってるなら、そこそこスコアは稼げたんだろうよ」
「そうですね。ありがとうございます、皆様」
 リュティスがそう言って、一礼をした。
「はぁ、疲れた。でも、作戦が成功したのなら、心地よい疲れだわ」
 セフィーロの言葉に、ハウメアが頷いた。
「ええ。すこし、休んでからログアウトしましょうか」
「うん。ホント疲れたよー」
 すあまが苦笑して頷いた。

 草原の風が、特異運命座標たちの肌を撫でた。
 水けを帯びた風が、虚構とは言え、死闘を繰り広げた後の火照った身体に心地よく、遺跡は静かに、勝者たちの健闘をたたえていた。

成否

成功

MVP

セフィーロ(p3x007625)
Fascinator

状態異常

ハウメア(p3x001981)[死亡]
恋焔
天魔殿ノロウ(p3x002087)[死亡]
無法
セフィーロ(p3x007625)[死亡]
Fascinator
コーダ(p3x009240)[死亡]
狐の尾

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 敵の補給物品の破壊に成功。
 これにより、砂嵐陣営にダメージを与えることに成功しました。

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