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シナリオ詳細

<Genius Game Next>伝承の司教、砂塵の魔王女

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ネクスト、動乱
 『ネクスト』――それは、『Project:IDEA』によって生み出された、『R.O.O』と呼ばれる仮想空間に存在する世界の名前だ。
 ネクスト世界には、現実の混沌世界を模したような国家が存在する。
 例えば、『幻想(レガド・イルシオン)』をモチーフにしたと思われる国家、『伝承(レジェンダリア)』。今、この国は未曽有の危機にさらされようとしていた。
 砂漠の国家、現実の『傭兵(ラサ傭兵商会連合)』をモチーフとした『砂嵐(サンドストーム)』の傭兵たち――実態は、砂漠の無法者、盗賊団の趣が強い――による、伝承西部バルツァーレク領、南部フィッツバルディ領への襲撃が予測されたのだ。
 この情報は、R.O.Oのシステムによって、プレイヤーたるイレギュラーズ達に『大規模イベントの告知』として齎されている。
 ――突如R.O.Oによってもたらされた、『イベントの告知』。それは、練達首脳陣の推論……『Project:IDEA』のバグ修復に至る道として、ネットワークゲームと化したR.O.O内の『クエスト』をクリアすることがそうであるという事を、確信するに値するものであった。
 決戦の時は六月一日。現実世界の練達、そしてイレギュラーズ達に緊張が走る中、しかしネクストの伝承のNPCとて、ただ無為に時を過ごしていたわけではない。
 情報が走れば、仮想の電脳生命たるNPCとて、独自の行動をとり始める。
 そしてNPCたちの行動は、クエストを生じさせ、特異運命座標たるプレイヤーたちに試練として齎されるのである。

 伝承・中央教会。
 現実である幻想のそれとひどくよく似た建物、その応接室に居たのは、イレーヌ・アルエ大司教と名乗る聖職者である。
「お初にお目にかかります、特異運命座標の皆様方。私はイレーヌ。伝承中央教会にて、大司教を務めております」
 浮かべる温和な笑みは、現実のイレーヌと寸分たがわぬ。そして、彼女が清濁併せ呑み、伝承貴族と対等に渡り合っている傑物であるという事も、現実のそれと一致していた。
「できれば、皆様方とはより良い関係を築きたく、正式な一席を設けたい所ですが……申し訳ございません、現状、そのような余裕もありません。噂によってご存じでしょうが、『砂嵐』の賊たちが、伝承領を目指し移動を開始した……という状況にあります」
 イレーヌは、特異運命座標たちの顔を見た。それはすでに、特異運命座標たちも承知する事である。それを表情から読み取ったイレーヌは、頷いて、続ける。
「結論から申し上げますと、伝承の貴族たちは、これに組織だった対応は行わない、と私達は予測しております。これは確かに予測ですが、事実となるでしょう。伝承に住んでいるものであれば、おそらく子供とてそう思うに違いない、といった程度のものです」
 どうやら、貴族連中の腐敗具合は、現実のそれに負けずとも劣らずらしい。まったく、嫌な現実を再現してくれたものだ。
「しかし、私たちも手をこまねいてみているか、と言えばそれは異なります。幸いにして、私たちには、『敬虔な貴族の信徒たちより送られた寄付金』の類があります。これを報酬の元手として、私共にて信頼のおける冒険者や傭兵……そして、特異運命座標の皆様に、協力を仰ぐこととなりました」
 教会がある程度の僧兵のような戦力を持っているとしても、大規模な軍として運用されるほどの規模ではない。故に、外部の者へと手を借りるしかない、と言う事になる。これもまた、現実の教会と状況を同じくするものであった。
「砂嵐とて、その戦力は傭兵団によって様々です。小粒な軍勢相手なら、一般の冒険者や傭兵の形で対処できるでしょう。切り札たる皆様には、相応の相手とぶつかっていただくことになります」
 申し訳ありませんが、とイレーヌは頭を下げた。イレーヌは、特異運命座標たちの評判を聞き、その力を高く買っているのだ。故に、最大戦力は、相手の最大戦力にぶつけたい、と言うのは仕方のない所であろう。
「皆様にむかってほしいのは、バルツァーレク領、『ドルニア』と言う街です。此方では住民たちの避難が行われている所ですが、先ごろからの大雨に見舞われ、一時、避難馬車の出発が遅れてしまっています。未だ雨は降り続いており、やみ次第に避難を再開する予定ですが……おそらくは、敵の襲撃まで間に合わないでしょう」
 そして、とイレーヌは言った。
「ドルニアの町に向かっている敵部隊は、『砂塵の魔王女』と呼ばれる旅人(ウォーカー)、フォウリーが率いる部隊なのです」

●砂塵の魔王女
「それでー? このウザったい雨はいつやむのかなー?」
 バタバタと雨音を立てる天幕に設置されたハンモックに寝転んで、フォウリーは手にした銃を弄んだ。青い顔した盗賊が、おずおずと声をあげる。
「占い師の予測だと、完全に上がるのは6月1日――」
「やだ、そんなにかかるの?」
 がばり、と上体を起こして、かちゃ、とフォウリーが盗賊に、銃口を向けた。ひ、と盗賊が悲鳴をあげる。かち、とフォウリーが引き金を引いた。
 弾は出ない。かち、かち、かち、と引き金を引く。その都度、盗賊が顔をひきつらせた。
「うん、弾丸抜いてあるしね。出ないよ。勿体ないし」
 フォウリーが笑った。はは、と盗賊がひきつった笑いを浮かべる。
「はは、フォウリーさまも人が悪い」
 かち、かち、とフォウリーが引き金を引く。笑った。かちかち、ともう一発ひいた所で、ズドン、と言う音が響いて、盗賊の額に穴が開いた。
「ごめーん、嘘☆ セーフティかけてただけ♪ つまんないこと言えって誰が言った? 私としては今すぐやませてほしいんだけど?」
 捨てといて―、とフォウリーが言う。別の盗賊が震える手で死体を担いで、天幕を出て行った。
「ですが……如何にフォウリーさまと言っても、天気を変えることは」
「んー、出来ない♪ 前の世界ならできたかもだけど、この世界じゃねー。だから今の八つ当たり。ごめんごめーん☆」
 悪びれもせずフォウリーは言うと、先ほど『潰して』通った村の民家にあった、クッキーを齧った。
「こういうのもいいけどさ。私としては、やっぱりケーキとか食べたいわけ。季節のフルーツが乗ったようなあまーいやつ。新鮮で、ふわふわで、やわらかーいスポンジのケーキ。わかる? こういう硬いの食べ飽きたの」
 どうにかなっちゃいそう! と、フォウリーは叫んだ。くるり、と指先で銃を回転させて、近くにいた部下の眉間に照準。
「どうにかなっちゃいそうで……今すぐ君たち一人一人の頭に鉛玉ぶち込んでストレス解消したくなっちゃう☆」
「ひっ……!」
「んー、うそうそ☆ 怖がらないで? 私我慢出来る子ですから。でもね、もし六月一日に雨がやまなくて、この先にある『ドルニア』? とか言う街でケーキが食べられなかったら、私、怒っちゃうかも♪」
 にこりと笑うフォウリーが、その銃をホルスターにしまい込んだ。それからもう一度クッキーを齧って、ハンモックに寝転ぶ。
「六月一日に、雨が上がったらすぐに進軍するから。全員準備しといてね」
 冷や汗をかきながら、部下の盗賊たちがつばを飲み込みつつ、大声で返事をした。

●六月一日
 雨の降りしきる中、特異運命座標たちは秘密裏に、ドルニアの街へと入り込んだ。
 フォウリー一味はちょうど西の街道から街に侵攻を目論んでいるらしい。避難民たちは、雨がやみ次第、東の街道から避難を開始する。奇しくも、正反対の位置に布陣する形。これは偶然か、或いはシステムのイタズラだろうか。
 いずれにせよ、避難民たちがこの街から逃げ去るまで、特異運命座標たちは、この街を守らなければならない。
 様々な思いを胸に、特異運命座標たちは、静かに戦いの時を待ち。
 そして、雨が上がった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 悪逆非道の魔王女、フォウリーの率いる盗賊団から、避難民たちを守りましょう。

●成功条件
 避難民たちが離脱するまで街を防衛する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●状況
 砂嵐の盗賊たち、伝承に攻めたる――。
 R.O.Oの一大イベントして発出された<Genius Game Next>。そのクエストの一環として、特異運命座標の皆様には、伝承大司教、イレーヌ・アルエからの依頼がもたらされました。
 伝承、バルツァーレク領にあるドルニアの街。此処に、『砂塵の魔王女』、フォウリー率いる盗賊たちが、襲撃を目論んでいるとの事です。
 ドルニアの街では、現在住民たちの避難が行われています。しかし、突然の長雨で避難が遅れ、未だ多くの人達が出発を待っている状況です。
 そして来る6月1日。避難が急ピッチで進められる中、フォウリーたちの襲撃が始まります。
 皆さんは、街の西門をクエストスタート地点として、街の外から西門へ向けて襲撃を仕掛けてくる、フォウリーの率いる盗賊たちを撃破し、避難までの時間を稼いでください。
 敵からの襲撃は、時間をおいて2回行われます(前後編の二回戦です)。戦闘間の休息時間中に、体力の回復などを行う事が可能です。教会からは、修道女と神父が一名ずつ派遣されていますので、二人が戦闘によって死亡したりしていなければ、治療をお願いすることが可能です。
 また、この街のサクラメント(ログイン・ポイント)は、クエスト開始と同時に封鎖され、クエスト終了まで機能しません。
 そのため、死亡後ログアウトして、即戦線に復帰する、と言う事は不可能になっています。(クエストが終了すれば、戻ってくることは可能です)。

●登場エネミー
 フォウリー軍、剣士兵 ×前半10・後半15
  剣で武装した盗賊の類です。盗賊ではありますが、同時に傭兵としてのスタイルも確立しているため、剣士としてはそれなりの実力を持ち合わせています。
  前半戦で10名、後半戦で15名と戦います。主に至近~近接レンジの物理攻撃を行ってきます。『出血』系統のBSに注意しましょう。

 フォウリー軍、弓兵 ×前半2・後半5
  弓で武装した盗賊の類です。盗賊ではありますが、同時に傭兵としてのスタイルも確立しているため、それなりの実力を持ちます。
  前半戦で2名、後半戦で5名と戦います。主に中距離~遠距離レンジの物理攻撃を行ってきます。『麻痺』系統のBSに注意。

 フォウリー軍、魔術師兵士 ×前半2・後半5
  魔術を習得した盗賊の類です。やはりこいつらも傭兵として、それなりの実力を持ち合わせます。
  前半戦で2名、後半戦で5名と戦います。主に遠距離~腸炎距離レンジの神秘攻撃を使用。『氷結』系統のBSに注意。

 『砂塵の魔王女』フォウリー(顔見せ) ×前半1
  前半戦で戦う、様子見に来たフォウリーです。システムの後押しを受けているのか、非常に強力なユニットとなっていますが、様子見なので積極的には攻撃してきません。
  フォウリー以外の敵が全滅するか、自身のHPが50%以下になった時点で一度撤退します。
  至近~中距離レンジをカバーする、物理射撃攻撃の使い手。『致命』を持つ攻撃なども使用します。

 『砂塵の魔王女』フォウリー(本気) ×後半1
  後半戦で戦う、本気をだしたフォウリーです。システムの後押しを受けているのか、非常に強力なユニットとなっています。
  前半戦とは違い、積極的に攻撃を仕掛けてきます。攻撃手段などは前半戦と同一。
  倒すことは難しいですが、自身のHPが80%以下になるか、フォウリー以外の敵が全滅した時点で撤退します。

●味方NPC
 『神父』レーヴェン ×1
 『修道女』ユーナ  ×1
   伝承中央教会から派遣されてきた、教会のスタッフです。イレーヌの配下でもあり、『信用できる人たち』になります。
   基本的に、皆さんのサポートを指示されているので、クエスト中は皆さんの近くに居ます。
   どちらも回復の術式を使えますが、直接的な戦闘能力には乏しく、戦闘に巻き込まれるとあっさり死ぬ可能性はあります。
   言う事は聞いてくれますので、上手いこと使ってください。動くインターバルでの傷薬くらいに思うのが吉。

※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • <Genius Game Next>伝承の司教、砂塵の魔王女完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年06月21日 23時35分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ドウ(p3x000172)
物語の娘
花糸撫子(p3x000645)
霞草
ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
プリーモ(p3x002714)
カンタータ
スキャット・セプテット(p3x002941)
切れぬ絆と拭えぬ声音
白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)
闇祓う一陣の風
カロリ(p3x007114)
双ツ星
ライライ(p3x008328)
源 頼々のアバター
コーダ(p3x009240)
狐の尾
シャルロット・デュ・シェーユ(p3x009811)
甘味聖女

リプレイ

●雨上がりの街で
 雨が上がった。
 湿気た空気の臭い。濡れた草の感触。沈む泥の感覚。その全てが、あまりにもリアルに感じられた。
 R.O.O。練達て再現された、ここは仮想空間内世界『ネクスト』。
「雨の当たる感触も、雫の流れる感触も、ゲームの中とは思えないくらい」
 『霞草』花糸撫子(p3x000645)が言った。先ほどまで、降り注ぐ大雨の中、住民たちの避難を手伝っていた。
 特異運命座標たちが布陣しているのは、街の西入り口である。特異運命座標たちが避難を手伝った住民たちは、現在は街の東側より、次々と脱出を行っているはずだ。
 だが、まだ全員が脱出するためには時間が足りない。その上、現在敵が進行中であり、このままでは避難が完了する前に敵がやってくる。人の被害がでるのだ。
「けれど全部偽物……現実ではないのよね。この雨もそうだし、戦う人も、避難する人も……」
 花糸撫子のいう通り――すべては、仮想空間内の出来事だ。現実に存在する者と同じような顔をし、同じように生活しているとはいえ、しかしすべては虚構。データに過ぎない。
「……それでも」
 と、花糸撫子は言った。
 触れ合った人々は、確かに命のように思えた。
 怯える人々。泣いている子供。励まし合う姿。助け合う姿。先ほどまで見ていたそれは、現実のそれと変わりない。
 ならば。
「敵の進軍をそのままにすることも、誰かを傷つけることだってさせないわ」
「現実と同じ感じがして、現実と同じ人たちがいる。きっと、この世界の人達にとっては、この世界が現実、なのかな」
 『双ツ星』カロリ(p3x007114)が言った。
「まるで夢を見ているみたいだけれど……でも、ここはもう一つの現実。僕たちは、現実の身体があるから死んでも、夢から醒める位で済むけど、ここに住む人達は……違うよね」
 事実、その通りだ。NPC、と言ってしまえば味気ないが、彼らには彼らの生活があり、この世界ので命がある。この世界で死ねば、彼らはもう蘇らない。死とは、つまり死なのだ。
「だから、ゲームみたいな世界で、これはクエストだけど、これがゲーム。遊びって、思いたくはない。かな」
 それは、花糸撫子の言葉に同意する言葉だった。命を守るという決意の言葉だった。
「……そうだな。しかし、この街もとんでもない奴に狙われたもんだな。フォウリー。砂塵の魔王女、だったか」
 『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)が、ふむ、と唸りながら言った。
「私も住民(NPC)から噂を聞いた程度だが……率いる傭兵団は、傭兵とは名ばかりの盗賊団……これは、あの国じゃよくあることか。自分本位で、気まぐれで、残酷。平気で人は殺すし、何なら部下だって斬り捨てる。その時の気分でな。……いや、実際ひでえやつだな。イベント用のNPCか? ……現実にいなくてよかったぜ、なぁ?」
「ふぇっ!? そ、そうですわね!」
 『甘味聖女』シャルロット・デュ・シェーユ(p3x009811)が些か慌てた様子で頷いた。それからこほん、と一つ咳払い。
「でも実際……あんな人は『現実には居ない』ですわね。再現度がいまいち」
 くすり、とシャルロットは笑う。はっきりと言ってしまえば、シャルロットはすなわち現実世界の『フォウリー』のアバターである。なので、シャルロットは仮想世界の自分と出会う事になるわけだが、しかし前評判から聞いてみれば、随分と自分とは違うのだな、と思わされる。
 まず――『フォウリー』なら間違いなく、掠奪の類はしない。気まぐれに部下を殺すようなことも。理由は単純で、面白くないからである。『フォウリー』も気まぐれで、小悪魔的な所があるのは自覚しているが、その気性が残虐的な方へと傾くことなどはなかった。
(なんか変な風に再現されてるんだよね……失礼しちゃうなぁ。そう言う子だと思われてるのかな?)
 胸中でふてくされてみるが、しかして再現者の気持ちなどは解らない。共通している所は、スイーツが大好き、と言う所くらいだろうか。
「まぁ、とにかく。心置きなくぶっ飛ばせ……こほん。退治できますわね。何せ悪い魔王女なのですから」
 と言うわけで、思う所は特にない。出会い次第、爆弾でもぶつけてやろうかと言う気分すらある。
「皆様、よろしくお願いいたします」
 と、特異運命座標たちへと告げたのは、伝承中央教会から派遣されてきた、神父のレーヴェンである。彼と、修道女のユーナが、特異運命座標たちの援護のために、この街に派遣されていた。
「こちらこそ。成功の暁には、是非イレーヌ大司教によろしく伝えておいてほしいですね!」
 と、にこにこと笑いながら言うのは、『描く者』スキャット・セプテット(p3x002941)である。
(これは好機だ! イレーヌ大司教様とコネが出来れば宮廷画家の夢への大きな一歩。絶対にしくじる事は許されない……!)
 と、内心欲望をぎらぎらさせつつ。まぁ、イレーヌ、と言うか教会が一つの権力であることに違いはないので、もしかしたらワンチャンあるかもしれないし、ないかもしれない。
 とはいえ、スキャットのやる気が充分以上なのは間違いない。こういう時は、良い結果を残せるものである。
「イレーヌ大司教、ですか。現実世界とそっくりでしたね」
 『アルコ空団“蒼き刃の”』ドウ(p3x000172)が言った。確かに、様々な改変がなされているなか、イレーヌはさほど現実とは印象が変わらない。腹の内はどうなっているのかはわからないが、少なくとも、表面上は真摯な姿勢を崩してはいない。
「……それよりも、現実と同様、あるいはそれ以上にひどくなっているかもしれない、貴族たちの腐敗の方が問題でしょうか。
 確かにここ最近は随分とマシになったとは言え、幻想に訪れたばかりの時は随分と、貴族様の悪行に加担するような依頼も結構出ていましたから、それを基にしたらこんなモノなのかも知れません」
 ドウが嘆息した。となれば、そのような世界で正義を貫くには、どうしても現実同様のものとイレーヌもなってしまうのかもしれない。つくづく大変な事である。
「レーヴェンさん、ユーナさん。戦闘は私達に任せて、安全な所で待機していて」
 花糸撫子が言うのへ、二人は頷いた。
「護衛として、『嵐の聖騎士』をつけよう。戦闘能力はないが、一度くらいは弾避けになるだろう」
 そう言うスキャットの隣には、練達上位式である嵐の聖騎士が静かにたたずんでいた。
「レーヴェンさん、ユーナさん、支援頼りにしてるぜ!
 ……あ、いやゥオッホン! ……お二方、最前線での戦闘は我々にお任せあれ」
 咳払い一つ。ストームナイトが言う。
「貴殿らは戦闘中は身の護りに集中していただきたい。戦闘の間が空いたときの回復、頼りにしている!」
「は、はい! 皆さん、お気をつけて!」
 わたわたとユーナが言う――同時に、草原に、ざぁっ、と風が駆け抜けた感覚がした。ぴり、とした感覚。それが肌の底から、何か危険なものが来たことを感じさせた。
「――さっそくだけれど、下がってて。来たわ」
 花糸撫子に頷いて、二人が街の中、建物の影へと身を隠す。同時に、西方の草原からいくつかの人影が歩いてやってきていた。その総数は、15。皆軽装の傭兵風の姿をしており、その中心に、それらとは不釣り合いな少女の姿がある。
「ファーーーー!!」
 思わずシャルロットが吹き出す。何事か、と仲間達の視線が集中するのへ、こほん、と咳払いしつつ、視線をそらし。
「失礼、むせました」
 とごまかした。シャルロットが見たものは、つまりフォウリーであり、現実の自分の姿である。分かってはいたが、さすがにちょっとびっくりだった。
「あれ?」
 フォウリーが声をあげる。一同は身構えた。
「ねぇ、見てみて! 昔読んだ本の主人公だよ、あれ! 懐かしいなー! そっくりさんかな? なりきり? それともまさか、本人だったりして☆」
 シャルロットを指さして楽し気に笑うその表情は年相応の少女のように見えたが、しかし特異運命座標たちは、彼女の持つ特異な雰囲気を、しっかり感じ取っていた。
「ゲーム……だからか。はっきりと分かるな……あの我儘な王女さまが、この仕事のボスだってのが」
 『狐の尾』コーダ(p3x009240)がゆっくりと言った。その言葉に、仲間達は頷く。
 何か奇妙な……力強さのようなものを、一同は感じていた。まるで、『そうだ』と言うような、強烈な……。
 それが、ゲームで言う所の『ボス』、つまり強敵であるのだということの証左であることに、特異運命座標たちは気づいていた。
「お前がフォウリーだな」
 コーダの言葉に、フォウリーは頷く。
「うん☆ で、貴方達は何? お出迎え? スイーツをあげるから許してください、みたいな?」
「そう見えるか?」
「まっさか! 俺たちはこの街を守りますー、みたいな顔してるように見えるね♪」
 にっこりと笑って――それから、フォウリーは残酷な笑みを見せた。
「馬鹿みたい。死にたいのかな?」
 ゾッとする笑みである。特異運命座標たちの間に緊張が走った――だが、逃げ出すわけにはいかない。
「難敵のようですが……最大戦力、と期待されているからには無様な真似はできませんね」
 『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)が言う。
「砂塵の魔王女、フォウリーさん。一応、聞いておきます。退くつもりは?」
「逆に一応聞いてあげるけど、今すぐ逃げ出すのと、頭撃ち抜かれて死ぬのはどっちが好み?」
「でしょうね……あなたには、ここでお帰りいただきます」
 ハルツフィーナが言うのへ、仲間達は応じるように武器を構えた。
「プリーモさん、回復支援はお願いします」
「分かりました。出し惜しみはしません。全力で支えましょう」
 『カンタータ』プリーモ(p3x002714)が頷く。
「手を抜いて勝てる相手ではなさそうですしね……」
 プリーモの言葉は、仲間達も同じくする思いだ。相手は、強いだろう。恐らく、理不尽に。
「ふん。だが、避難民の時間を稼ぐには……やはり奴らにお帰り願うのが一番わかりやすくて良いな!」
 『源 頼々のアバター』ライライ(p3x008328)が不敵に笑いながら言う。
「全員殴り倒してくれる! ワレの拳を受けてみるがいい……飛ぶぞ!」
 ぐっ、と拳をつきだして、ライライ。
「あはは、面白いね♪ やってみなよ、できるならね☆」
 フォウリーが銃を構える。同時に、傭兵たちも一斉に武器を構えた――。

●衝突・前
 同時、フォウリーが駆けだす。速い! 特異運命座標たちが身構えた瞬間、それは跳躍、上空より銃を構えて迫る。
「どれにしようかな~☆」
「ふん、その程度の速度で誇るな!」
 ライライが跳躍、迎撃にうつる。
「おっけー、君に決めたっ♪」
 ポイントされる銃口。だが、発射されるより早くライライは接敵する! 繰り出される拳がフォウリーにせまるが、フォウリーは銃をかざしてそれを受け止める。
「このまま封殺する! 周りの奴を叩け!」
「承知した! いざ、出陣!」
 ストームナイトの掛け声とともに、特異運命座標たちが一斉に動き出す。目標たるは、周りの傭兵たち。
「遠距離兵が厄介だ! 奴らを優先して叩く!」
 ストームナイトが一気に駆けだした。その姿、まさに嵐のごとく! 薙ぎ払うように振るわれた刃、同時に放たれた衝撃波が、傭兵たちを吹き飛ばした!
「くっ、奴ら、強い……!?」
 傭兵たちが呻くのへ、
「手を抜いたらこっちから撃つからね☆」
 フォウリーの檄が飛ぶ。
「くそ、フォウリー様の機嫌を損ねたら確実に殺されるぞ! まだ奴らを相手にしてた方が生き残れる目がある!」
「我が儘な女だな。美人なんだから、もう少し可愛げがあっても良いと思うぜ」
 コーダは静かに呟くと、第一のスキルを起動する。その身体から放たれる衝撃波の様なエフェクトが周囲を叩き、同時に傭兵たちの注意をコーダへと向けさせた!
「まずはアイツから叩け!」
「来い。防衛戦は得意だ……いや、こう言う場合は『おにーさんと遊ぼうか?』か……?」
 タワーシールドを掲げる。傭兵から振るわれる斬撃を、時に躱し、時にいなし。コーダは傭兵たちの攻撃を次々と捌いていく。
「そちらはお願いね」
 花糸撫子がそう告げる。同時に、『マチネ・ソワレ』を静かに構えた。
「こんにちは、ようこそドルニアへ! 1曲聴いて頂戴な」
 同時に囁くような声が、傭兵たちの耳朶を打った。頭を殴られたような静かな声。同時に、花糸撫子へ、集中する視線。弓兵と魔術兵が同時に視線を向けて、攻撃の態勢に入った。放たれた矢と氷の魔術が、花糸撫子目がけて降り注ぐ。静かにステップを踏んで、降り注ぐ攻撃の中を歌う花糸撫子。
「乱暴ね――ふふ、音楽は静かに聞くものよ。ほら、そう、手を止めて」
 花糸撫子の放つ第三のスキルが、弓兵の一人を貫いた。その衝撃に、弓をとり落とす弓兵。とっさに動けずに固まった弓兵へ、迫るはドウの蒼剣より放たれた斬撃だ。
「まず、ひとつ――」
 蒼の剣閃が飛び、弓兵を切り伏せる。間髪入れず動いたドウが、再びの斬撃。目にも止まらぬ速さで振りぬかれた蒼剣が、もう一人の弓兵を切り裂いた。
「ふたつ!」
「花糸撫子! いったん下がってください、速めに治療します!」
 プリーモの言葉に、花糸撫子は頷いた。後方へとステップ、プリーモの回復術式の射程範囲内に収まる。
「早め早めの回復にしておきたいのですよ、ご協力ください?」
「ええ、助かるわ」
 花糸撫子が笑う。温かな光の様なエフェクトが降り注いで、花糸撫子の傷を少しずつ癒していった。
 一方、弓兵、魔術兵を優先して攻撃していた一行は、早急に光栄を片付けることに成功。前衛剣士たちの掃討にかかる。
 特異運命座標たちの攻撃の勢いはあるが、しかしここで厄介なのはフォウリーである。散発的に繰り広げられる銃撃が、確実に味方の体力を削っていった。その分、プリーモの負担は増すが、ここで手を抜いていてはそこから瓦解しかねない。
「クマさん、クロー」
 どこかのんびりと声をあげたハルツフィーネがその手を振るうと、まるで幻影のように現れた巨大なクマさんの爪が、前方の剣士たちを薙ぎ払った。可愛らしい、ぬいぐるみのような手から伸びた凶悪な爪が、剣士たちの軽鎧を切り裂き、吹き飛ばす。
「自由の蒼で狙い撃つ。さぁ、私の芸術に跪け!」
 スキャットが第一スキルを発動。一直線に伸びる、レーザーめいた蒼のエフェクトが、傭兵たちを一直線に貫いて打ち倒した。
「私達を倒すには、人数が足りていません、ね」
 ハルツフィーネがそう言い、
「倍の数は連れてこないと、私達は突破できないんじゃないかな? 砂塵の魔王女さま?」
 スキャットが挑発するように笑う。フォウリーは鬱陶しそうに舌打ちすると、
「馬鹿にしてる? でも、確かにこいつらは使えない奴だったね」
「なんか本当に、私とは違うんですのねぇ」
 シャルロットが肩をすくめて言った。
「そうねぇ、私はもっと綺麗よ?
 それに、他人をいたぶるのが楽しい、みたいなの。何それ。
 ドンパチやるのは楽しいけど、私はそんな風に思ったことはないわぁ。
 だってなんとも感じないもの、そんなの」
「……何なの、君。なんか……君を見てると、ざわざわするんだよね……!」
 フォウリーが表情を歪めながら言った。あるいはそれは、オリジナルと遭遇したが故のシンパシーのようなものなのかもしれない。そう言った違和感と言うような奇妙な感覚を、シャルロットもまた覚えていた。
「気持ちはわかります。
 ですが、所詮貴女は偽物。ええ、貴女に食わせるケーキはありませんわ!
 代りにこいつを喰らわせて差し上げましょう!」
 と、どこからともなく取り出した聖なる爆弾。シャルロットはそれを力いっぱい放り投げた。それは空中で爆発し、聖なる光をあたりに降り注がせる。その光は聖なるものにやすらぎを与え、悪しき者の心を乱すという。
「くっ……なにそれ! 馬鹿みたい……!」
 苛立たしそうに言うフォウリーに、シャルロットは勝ち誇ったように笑った。
「すなわち、貴女こそ悪! データの海に消えやがれ、ですの!」
「何やってるの! 速く殺す!」
 フォウリーが、残る剣士たちに檄を飛ばす。だが、突撃を敢行した剣士たちを出迎えたのは、カロリの魔剣だった。
「両手でしっかり構えて……身体を持っていかれないように!」
 呟きつつ振るわれた魔剣は、確かに華奢なその身体から繰り出されたとは思えぬほど、鋭く、安定した一撃だった。斬撃に第一スキルを乗せ、剣閃の様なエフェクトが、剣士たちを次々と切り倒す。果たして次の瞬間、立っていたのはカロリだけであった。
「例えここが僕のいる場所じゃなくても、守ると決めたので!」
 カロリが言った。フォウリーは苛立たし気に舌打ち一つ。
「……生きてる奴が居たら撤退。体勢を立て直すよ」
 静かにそう言って、後方へと跳躍。戦闘不能ではあるものの、命は拾っていた傭兵たちと共に、姿を消した。

●幕間
「神父、シスター、治療を頼む!」
 ストームナイトがそう言うのへ、二人が慌てて飛び出してきた。
「では、傷の手当てをしてしまいましょう、ユーナは気分を落ち着かせることのできる結界が貼れます。其方でお休みください」
 神父が言うのへ、
「APの回復、と言うやつですか? 助かります」
 プリーモは頷いて、回復に努める。
「流石に、フォウリーさんは強敵でしたね」
 ハルツフィーネが言った。皆倒れるほどではないが、傷を負っている。
「ふふん、でしょう?」
「どうしてシャルロットさんが得意げに……?」
 胸を張るシャルロットと、小首をかしげるハルツフィーネ。
「おそらく次は、向こうも全力で来るわね」
 花糸撫子が言った。敵も、おそらくは斥候部隊のようなものだったのだろう。ならば、次は全力の部隊でやってくるはずだ。
「神父様、住民の皆さんの避難状況は解りますか?」
 ドウが尋ねるのへ、神父が言う。
「ええ。大多数が脱出を済ませていますが、まだ少数の民が残っています。恐らくは、もうしばらく……申し訳ありませんが、今一度、皆様には耐えていただくこととなると思います」
「なるほど」
 ドウは頷くと、
「では、今治療を終えたら、お二人は残りの便を利用してこの街から脱出してください」
「ええっ! み、皆さんは!?」
 シスターが声をあげるのへ、スキャットが言った。
「残る……とはいっても、次の襲撃を追い返したら、そのまま撤退する予定だ。多分、フォウリーを仕留めることはできないだろう。三度目の襲撃を押さえられるかは、正直解らないけれど、そのころには住民たちが脱出しているなら、こちらもそれ以上戦う理由はない」
「俺たちも、脱出方法は用意しているんだ」
 コーダが言った。クエスト完了後のログアウトのことであるが、しかしそれをこの世界の住民(NPC)である二人に言っても、理解はされないだろう。
「だが、アンタたちを連れて行くことはできないやつでね。だから、今のうちにアンタたちには離脱しておいたほしいんだ。流石に俺たちも、アンタら二人を残して離脱するのは寝ざめが悪い」
「なるほど……分かりました」
 神父が頷く。修道女が慌てた様子を見せる。
「い、いいんですか?」
 それは、職務を放棄するというよりも、特異運命罪票たちが残されてしまう事への、心配の色があった。
「我々は、彼らの指示に従い、信頼を寄せるよう仰せつかっています。その命令がなくとも、彼らの実力は先ほど確認したでしょう?」
「ま、別に無駄に死にたいわけじゃない。後で中央教会で会おうではないか」
 ライライが言うのへ、修道女は頷いた。
「お気をつけて……!」
「はい。お二人も、道中お気を付けて」
 カロリの言葉に、二人は頷いた。治療を終えると、二人は街の東へ向けてかけていく。日は少しずつ傾いていて、しばしの時間が経過したことを理解させた。
「正直……全員無事、は難しいかも」
 カロリが苦笑した。
「フォウリーは強かった……次は本気で来る。ドウ君、抑えを頼める?」
「もとより、そのつもりです」
 ドウは頷いた。
「ですが……長くはもたないかもしれません。あれからは、異様な力のうねりを感じました」
「そこは、私とシャルロットで支えるしかないですね」
 プリーモが言った。
「ええ、見事! 無事に! 回復支援を行ってみせますわ!」
 シャルロットが言うのへ、プリーモが頷く。
「そう言うわけですから、どうぞ大船に乗ったつもりで」
「では、雑兵たちは私が」
 花糸撫子が微笑んだ。
「見事抑えて見せましょう。ふふ、雨上がりの草原、小さなリサイタルと行こかしら?」
「方針は、決まりましたね」
 ハルツフィーネが言った。
「最後の戦いです……頑張りましょう、皆さん」
 その言葉に、仲間達は頷いた。草原の彼方より、再びフォウリーたちがやってくるのが、見えた。

●衝突・後
「私、すごく機嫌が悪いんだ☆」
 そう言って、にっこりと笑うフォウリー。その笑顔は可愛らしいが、しかし寒気を覚えるほどの殺意をが、その瞳からにじみ出ている。
「明らかに、違うな……本気で来るぞ」
 ストームナイトが言うのへ、仲間達は頷く。
「やっと、ケーキが食べられると思ったの。あまーくて、ふかふかの奴ね。それがもう、台無し。私ずーっと待ってたんだよ? あの鬱陶しい雨の中、バカみたいな部下たちと一緒にね……なぁんで、邪魔するかなぁ?」
「お気持ちはわかりますけれど」
 シャルロットが言った。
「スイーツは、正しいお仕事の報酬に頂くものですわよ?」
「奪って食べるものだよ、聖女様?」
 フォウリーが銃のグリップを握りしめた。来る、と理解した瞬間、フォウリーは草原を駆けだしていた。
「速い……さっきよりも、ずっと……!」
 コーダが舌打ちした。慌てて楯を掲げると、空中から降り注ぐ銃弾が、驟雨のごとく楯に打ち付ける。
「全員殺す!」
 フォウリーが叫ぶ。同時、雄たけびを上げて傭兵たちが突撃。引き続き、フォウリーが銃を構える――同時に、蒼い剣閃が、フォウリーを襲った。銃を振り払って剣閃を受け止めるフォウリー。ドウが叫んだ。
「フォウリーさん、部下を引き連れなければケーキも食べられませんか!?」
 駆けだす。
「情けない方なのですね! 砂塵の魔王女の二つ名が泣いていますよ!」
「安っぽい挑発に乗ってあげる、長耳!」
 フォウリーが追った。連続で放たれる銃撃が、ドウのコートに穴をあける。ドウはステップを踏んで方向転換、後ろを振り向いてフォウリーと対峙。
「ちっ!」
 呼気鋭き吐き出して、蒼剣を振るう。剣閃はフォウリーの付近まで飛ぶと、円形状に拡散した。第四スキルのエフェクトである。
「うっざったいっ!」
 フォウリーはアクロバティックに飛びずさって回避、でたらめにトリガを引いて銃弾を乱射。降り注ぐ銃弾を、ドウは蒼剣を振るって打ち落とす。
 手が痺れる。衝撃が身体を駆け抜ける。強い! 一人ではそう長くは抑えきれない!
「プリーモさん、ドウさんに張り付いてくれ! 此方は何とか自力で処理する!」
 スキャットが叫び、第一スキルを発動。蒼の光線が解き放たれ、剣士たちを吹き飛ばす。が、剣士たちはすぐに立ち上がると、再び駆けだした。
「さっきより必死だな……それはそうか……此処で負けたら後がないものな! こっちもだよ!」
 スキャットが再度放つ蒼の光線が、再び剣士たちを薙ぎ払った。
「やれやれ、お互い女難の相だな? 大変な魔王女様に出会ってしまった!」
 一方、先ほどより数を増した弓兵と魔術兵の遠距離攻撃が、特異運命座標たちへと降り注ぐ。
「くっ!」
 コーダが掲げた楯に、次々と矢や氷の槍が着弾する。痺れる腕を放っておきながら、コーダは叫ぶ。
「此方が攻撃を押さえる! とにかく数を減らすんだ!」
「わかったよ!」
 コーダの影から華奢な影が飛び出す。魔剣を携えたカロリが飛び出して、弓兵たちの下へと着地。
「負けないっ! あなた達には!」
 力いっぱい振るわれるカロリの魔剣が、円を描くように、回転するように振るわれた斬撃が、周囲の弓兵を薙ぎ倒す。
「とどめを!」
 カロリが叫び、剣士を斬り捨てていたストームナイトが、腰だめに剣を構える。
「己が欲望を満たすために他者を踏み躙ることをなんとも思わぬどころか、むしろ楽しんでいる……まさに悪逆非道の徒どもよ!
 このストームナイト、絶対に許さん!」
 ストームナイトが、鋭く剣をつきだした。途端、光の剣閃は物理的な力を伴う衝撃波となって、起き上がろうとしていた弓兵をそのまま吹き飛ばす!
「次、魔術兵だ!」
 ストームナイトの叫びに、応じ、仲間達は駆けていく。同時、花糸撫子の囁き声が、剣士たちの耳朶を再び震わせた。
「アンコールをお望み? ええ、ええ、喜んで! 望んでくれるなら、私は何時だって歌うのよ!」
「歌姫気取りが戦場に出てくると!」
 剣士が雄たけびを上げて突撃。花糸撫子にむかって奮われたそれを、音のヴェールが絡めとって威力を殺した。
「これは!?」
「音は変幻自在よ。力じゃ捉えられないわ?」
「そしてこれが、クマさんの魅力です」
 ハルツフィーネが接敵、腕を振るう。ぬいぐるみのクマさんの爪の幻影、それが剣士を殴り飛ばした。がっ、と悲鳴を上げて、剣士が昏倒。
「いきます、がおー」
 と、ハルツフィーネは両手をあげて威嚇のポーズをとった。同時、がおー、と雄たけびをあげるや、それは衝撃波となって剣士たちを打ち倒していく。
「クマさんの魅力に気付いたようです、ね。どんどん近づいてくると良いです」
 二人は背中合わせに立つと、迫る剣士たちを迎え撃つ。
「お二人とも、回復したします!」
 シャルロットがロザリオを握りしめると、清らかな光のエフェクトが二人を包んで、その傷と、悪しき影響を取り除いた。
「私がいる限り、お二人は傷つけさせはしません! ……なんて、物語の聖女様っぽくありませんか?」
 シャルロットがニコリと笑い、再び回復のスキルを発動する。幾重にも織られた清浄なる光のヴェールが、仲間達を包み込む。
 特異運命座標たちが順調に雑魚を潰していく一方、フォウリーを押さえていたドウには限界が近づいていた。
「どうしたの? 口だけじゃない、長耳ちゃん?」
 嬲る様に放たれた銃弾が、ドウの腕を貫いた。力が萎えそうになるのを必死に抑えた。この蒼剣は手放さない。
「もとより……貴方を倒すとは言っていません。ですが、私達は必ず勝ちます」
「そう言うの、負け惜しみって言うの!」
 フォウリーの放つ銃弾が、ドウの胸を貫いた。急速に世界が遠くなる感覚。
「できれば、最後までたっていたかったですが――」
「いや、充分だ、責務は果たした! ありがとう、ここからは、私が引き継ぐ!」
 ストームナイトが叫び、フォウリーを押さえる。自分の役目は完遂した。それを確認しながら、ドウは死亡(ログアウト)し、その身体を光と粒子に変えて消えていく。
「さぁ、私が相手だ、フォウリー!」
「今度は君? でも、誰が来ても一緒だよ!」
 フォウリーが放つ銃弾を、ストームナイトが大盾を構えて受け止める。甲高い音が周囲に響き、しかしストームナイトは踏ん張って耐えると、
「ライライ、右からだ!」
 叫ぶ、跳躍。ストームナイトがフォウリーの左手側から剣戟を放つのへ、
「承知した!」
 ライライが右手側から妖刀による剣戟を重ねる。フォウリーは両手の銃でその剣を受け止める。
「く、うっ……!」
 奔る衝撃にフォウリーが口元を歪めた。が、すぐに銃を振り払って攻撃を捌くと、周囲に出たらめに銃弾を放つ。
「ちいっ!」
 ライライが舌打ちしつつ回避、後方へと跳躍。ストームナイトが大盾に身を隠して、銃弾を受け切る。そのまま突撃。
「貴殿は! ここより私が抑える!」
「暑っ苦しい!」
 フォウリーが叫ぶ。同時、魔剣により最後の魔術師を打ち倒したカロリが、
「残りは、剣士隊だけだよ!」
 叫び、駆けだす。剣士たちの攻撃を耐えていた花糸撫子、そしてハルツフィーネの下に、仲間達による援護攻撃が走った。
「大丈夫ですか!?」
 プリーモが叫び、シャルロット共に回復支援を重ねる。
「プリーモさん、フォウリーの方は大丈夫なの?」
 花糸撫子が言うのへ、プリーモは頷いた。
「こちらの数もあと少しです、配下を散らしすほうが速いです」
「確かに、ですね」
 ハルツフィーネが言った。その横を擦過していく、蒼の光線。スキャットの攻撃が、剣士たちを打ち倒した。
「もうひと頑張りだ! このまま一気に攻め落とすぞ!」
 スキャットの叫びに、仲間達は頷く。
「護る戦いなら任せてくれ。こういう時は……『楽しくなってきた』、だな」
 コーダは再び楯を構えて、敵の攻撃を受け止める。三つの楯を得た特異運命座標たちの進撃が、剣士たちを押し返し始めた。振るわれる蒼の閃光や、囁くような声、クマさんの爪と言った攻撃が次々と剣士たちを打ち倒し、その数を一気に減らしていった。
 一方、フォウリーを抑えていたストームナイトの激闘も続いていた。とはいえ、ここまで連戦続きのストームナイトも、流石に疲労の色が濃く、その楯も大きく傷ついていた。
「死んでよっ!」
 フォウリーが鬱陶しそうに引き金を引く。連続して放たれた銃弾がストームナイトの楯を破壊した。衝撃にのけぞるストームナイト、その鎧の隙間を狙って放たれた銃弾が、ストームナイトの肉体に致命傷を負わせた。
「……ここまでか。だが、私達の勝ちだよ、魔王女殿」
 ストームナイトは不敵に笑い、死亡(ログアウト)。フォウリーが眉をひそめて周囲を見渡した時に、しかし立っているのはフォウリーと、特異運命座標たちだけであった。
「……全滅したって言うの?」
「残念ながら」
 シャルロットが言った。
「さて、私――流石にそこまで馬鹿じゃないですよね? この状況で、まだ暴れるおつもりですの?」
 シャルロットの言葉に、フォウリーは唇をかみしめた。
「寂しくなりましたが……まだやりますか?」
 ハルツフィーネがそう言うのへ、フォウリーは睨みつけた。
「……覚えてなさいよ」
 そう言い残すや、フォウリーは高く跳躍した。一気に特異運命座標たちから距離をとると、そのまま自陣へと駆けだしていく。
「勝った……わね」
 花糸撫子が言う。それに返事をするみたいに、システムからっセージが送られてきた。
 クエストクリア。
 その文字が祝福するように、或いはおどけるように踊って、自分たちが勝ち残ったのであることを、教えてくれた。
「やれやれ……全員無事とはいかなかったが、何とかなったか」
 コーダが言うのへ、
「さておき、すぐさまログアウトしましょう。此処で待っていて、フォウリーに報復に来られたら、流石にもう持ちません」
 プリーモの言葉に、仲間達は頷いた。そのままログアウトし、姿を消していった。
 あとに残ったのは、無人の街だけ。
 雨上がりの何か寂し気な空気だけが、街を包んでいた。

成否

成功

MVP

ドウ(p3x000172)
物語の娘

状態異常

ドウ(p3x000172)[死亡]
物語の娘
白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)[死亡]
闇祓う一陣の風

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 砂塵の魔王女、無事に撃退完了です。

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